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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 二人して病院に辿り付くとすぐに、御堂が収容されている集中治療室の方へと
走って向かっていた。
 同じ容姿をした、立派な体躯をした青年二人が連れ立って駆けていく様子はかなり
人目を引いたらしく、すれ違う人が皆…振り返っていく。
 だが、今の眼鏡と克哉にはそれを気にする余裕など一欠けらもなかった。

 そして、目的の部屋に辿り付く頃には二人して…大きく息を切らせていた。
 鼓動もまた、荒い呼吸に連動するように激しく脈打っていく。

 バクバクバクバク…!

 しっかりと閉ざされた扉の上部に設置されている「集中治療室」のプレートが点滅しているのを
見て…これが紛れもない現実である事を突きつけられていく。
 まだ、御堂の家族は駆けつけて来ていないらしく…その部屋の前に佇むのは彼ら二人だけだった。
 先程の地震のせいだろうか。
 病院全体は今夜は忙しなく、落ち着きのない空気で満たされている。
 慌しい様子で駆けていく看護婦達。
 ストレッチャーと呼ばれる車輪付きの寝台に横たえられて運ばれていく患者達。
 そして家族を見送って、途方に暮れた顔をしている人々…先程の地震によって通常よりも
遥かに多くの怪我人が運び込まれ続けているのは見て取れた。
 
(まるで…夢、みたいだ…。それくらいに、現実感がない…)

 眼鏡の方は扉の前で無言のまま立ち尽くしていた。
 その表情に…まったく、感情らしきものは見えない。
 硬質過ぎて、まるで凍り付いてしまったかのようだ…それを見て、克哉は強い違和感を
覚えていった。

 身体はこれだけ、小刻みに震え続けている癖に…顔だけは平静そのものだなんて…
酷くミスマッチな印象を与えていく。
 彼は、ここにたどり着いてから一言も言葉を発していない。
 顔色一つ、変わっていない。
 その癖…肩と指先は酷く震えているのだ。

(それだけ…『俺』にとって、御堂さんがここに運び込まれた事はショックだったって…
事なんだろうけど、何故だろう…。酷く、引っ掛かる…)

 タクシーに乗っていた時もそうだ。
 眼鏡の方は震えているだけで…涙一つ、零す気配がない。
 いや…それ以前からも、コイツはそんな感じではなかったか?
 本来ならば泣いたり、取り乱したり…冷静さを失うのが当然の状況でも、いつだって…
この男は感情を乱れさせる事は滅多になかった。
 それは自分にない、コイツの方だけが持っている強さだと…ずっと思っていた。
 だが…その様子を見て、一つの疑念が克哉の中に生まれてくる。

(もしかして…コイツは、泣けないんじゃないのか…? 素直に泣き叫んだり、
怒ったり…自分の感情をストレートに出せないんじゃないのか…?)

 瞳はこれだけ大きく揺れているのに、潤いを讃えて今にも雫が零れそうな
くらいにキラキラと輝いているのに…顔は殆ど歪められていない。
 そんなアンバランスな表情が、酷く克哉には危うく思えた。
 だから見ていられなくて…相手の方に手をそっと伸ばしていくと…。

「触れるなっ!」

 激しい拒絶が、返って来た。
 その態度は今まで見た事がないくらいに険しくて…語調も強くて。
 克哉は相手のその反応に、大きくショックを受けていった。

「…お前の気持ちは有難いが、今の俺は…少し不安定だ。…変に手を伸ばされたり、温もりを
与えられたら…俺は、こんな状況でも…お前に縋ってしまいそうになる。だから…触るな…!」

 それはピシャリ、とこちらを拒絶する態度だった。
 タクシーの中では…まだ、優しい言葉を掛けるくらいは許されていた。
 だが…この部屋の前にたどり着いて、現実を突きつけられてからは…そんな希望的観測
だけでは彼の心を癒す事は無理になってしまったのだろう。
 今、最愛の恋人がこの扉の奥で…生死の境を彷徨っている。
 その状況下でどうして…もう一人の自分とは言え、他の人間に縋る事など出来ようか。
 眼鏡の瞳は…如実にそれを訴えていた。

 今にも泣きそうな顔をしている癖に、涙一つ零せない不器用な男。
 そういう奴だと知っていた。だから少しでも助けになりたくて自分は彼の傍に来た。
 だが…この態度と言葉で、自分の無力感を克哉ははっきりと突きつけられていた。
 所詮、こちらの気持ちなど独りよがりに過ぎなかったのだろうか?
 コイツにとっては迷惑でしかなかったのだろうか…?
 そこまで考えた時に、克哉の方も大きく項垂れて…まともに彼の顔を見返すことさえも
出来なくなってしまった。

「…判った。お前がそう言うなら…オレは、他の処に行くよ…」

 傍にいても、邪魔扱いされるだけなら…姿を消した方がマシだと思った。
 そうして眼鏡から背を向けて克哉が踵を返そうとした矢先に、いきなり口元を何かの布地で
覆われていった。

「っ…!」

 克哉は声にならない叫びを漏らした。
 ジタバタと暴れて、その布を外そうと試みていくが…瞬く間に意識が遠くなっていく。

(これは一体…? 何故、こんな…)

 突然の事態に、頭が回らなくなる。
 眼鏡の方を確認したくても、首一つ曲げる事すら瞬く間に困難になっていった。

(意識が…遠く、なって…)

 声、一つ漏らせない状況下にいきなり追いやられて…克哉は混乱していく。
 息が苦しくなっていく。身体に力が入らなくなっていく。
 同時に、鼻に突くのは…あの鮮烈な甘酸っぱい香りだった。

(この、香りは…)

 それ以上は、考えられなかった。
 意識は完全に闇の中に落ち…ドサリ、とその場に崩れ落ちていく。
 今の克哉には指先一本すら自由にする事が出来ない状況だった。
 遠くなる意識の中…この言葉だけは、くっきりと聞き取れた。

―良くお眠りなさい…。深い眠りの中へ…

 歌うような滑らかな口調で、告げられていく。
 それが誰のものであったかすらも…克哉はもう判断出来ない。
 そして彼は、浚われていく。

 …どこまでもどこまでも、深い闇の中へと…緩やかに誘われていった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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