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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―生涯でただ一度でも本気で人を愛し、愛されたのならば
 どのような結果になろうともその生は幸せなのではないだろうか。
 その愛が報われることがなくても
 相手に他に愛する人間がいて、自分が恋人という立場になれないとしても
 心から相手を愛し、せめて想うことだけでも許されたのならば

 …その宝物のような想いを抱いて悔いなく生きていける気がする
 人は恋をして、狂うような想いに身を焦がして過ちを犯した末に
 ようやく『愛』を見つけ出せることが出来るのだから
 相手を手に入れなくても、最後に得るものを見つけられたのならば
 それは…『恋愛』という。
 最後に散ってしまう、儚いものであったもしても…

 ―お前は一体、どこにいる?
  最後に言いたい事だけ言って消えやがって
  あんなに強い想いをぶつけられて、こちらからは何を言う暇すらも
与えられず、昇華出来ない気持ちはどうすれば良いんだ?
 せめて…存在だけでも示せ。俺の中にお前がいるというのならば…
一言だけでも、何か言ってみろ。
 本当にお前が消えてしまったのならば…言いたい一言も言えないままだ。
 お前が最後に告げたように、「ありがとう」と言うことすら出来なかった。
 この俺の…気持ちは、どこに向ければ良いと言うんだろうか…
 なあ、『オレ』…?

 行き場のない気持ちを抱えながら、佐伯克哉は実に多忙な日々を過ごしていた。
 御堂が運び込まれてから一週間。
 ようやく彼の容態も安定し、意識が回復したと聞かされた。
 恋人としては付きっ切りで彼の傍にいてやりたい…という気持ちはずっと抱いていたが
共同経営の会社内において、御堂がこなしていた仕事の穴を埋める為に克哉は
いつも以上に働きづめになっていた。
 その為、面会が許可されている時間内に訪ねる事はほぼ不可能な状態になり
いつも非常口からこっそりと入って、恋人の寝顔だけを見つめる毎日を送っていた。

 六日間、働きづめで午前中は休息の為の睡眠で潰れてしまっていた。
 肌寒い日の、日曜の昼下がり。
 佐伯克哉は緊張した面持ちで…恋人が収容されている病室の前に立っていた。

(起きている御堂と話すのは…十日ぶりくらいになるかもな…)

 結局、もう一人の自分が転がり込んで来た日から今日まで…御堂とはロクに
会話をする機会すら持てなかった。
 揺らがない、揺るがすつもりがなかった想いも…もう一人の自分が言いたい事を
言って消えてくれたおかげで…最後の方だけは少し引き寄せられてしまった。
 その事実が…彼を大きく悩ませて、この扉を開けるのに躊躇させてしまっていた。

「ちっ…俺らしくないな。何をこんな事で迷っているんだ…」

 苦々しく思いながら舌打ちして、そのまま個室の扉を開いていった。
 4畳くらいの大きさの室内には、部屋の奥にベッド一台とTVが背面に設置された
サイドテーブル兼クローゼット、そしてベッドの上にスライドさせて使用出来る
白いプラスチック製の机が設営されていた。
 集中治療室から、個室への移動は…御堂本人が希望した結果だという。
 大部屋だと落ち着かないし…隣人に対しての配慮もしないといけないから、多少
割高になっても個室が良いと御堂が言っていたと…期間中、何度も見舞いに訪れて
自分にメールで状態を報告してくれた本多が教えてくれた。

「御堂…起きているか?」

 そう尋ねながら、室内の様子を伺っていった。
 ベッドの方に視線を向ければ、半身を起こして台の上に文庫本を乗せて、ゆったりとした
速度で読書に勤しんでいる御堂の姿があった。

「あぁ…君か。今、退屈だったので…本でも読んで暇つぶしをしていた処だ。…君の顔を
こうして見るのも久しぶりだな。元気…だったのか?」

「嗚呼、どうにか会社の方の仕事を一人でこなせるくらいのコンディションは保つように
している。だが精神的には…あんたの事がこの一週間は気がかりでしょうがなくて…
お世辞にも安定しているとは言えなかったけどな…」

 その一言に、御堂は少しだけ目を瞠っていく。
 信じられない言葉を聞いた、と言いたげな表情だった。

「…もしかして、君が私の事で不安定になっていたと言いたいのか…?」

「あぁ、そういっているつもりだがな。…何をそんなに驚いている?」

「いや…君の片腕としてこの一年、傍にいたつもりだが…そんなに率直に心配
しているとか、そういう事を聞かれた試しがなかったからな…少し驚いただけだ」

 コホン、と咳払いを一つしながら…御堂は微笑んでみせた。
 そのリアクションを見て、もう一人の自分が言っていた言葉の数々を嫌でも
思い出してしまった。

(もう少し素直になれ、か…。どれだけ想っていても口に出さなければ御堂には
決して伝わらない。最初聞いた時は…あんな土壇場に言うのがそれか、と反発
しただけだが…確かに、その通りだったのかもな…)

 指摘されるまで特に意識をした事はなかったが、確かに自分は誰に対しても
素直に言葉を伝えたことはなかったのかも知れない。
 あいつが想いを告げるよりも優先して、こちらに必死になって伝えたメッセージを
思い返しながらつい、苦笑してしまった。
 
「…あんたは、俺にとって大事な人間だからな。心配するのは…当然の
ことだろう?」

「…っ!」

 いつになく、ストレートな一言をぶつけられて…あっという間に御堂の顔が
真っ赤に染まっていく。
 その変化の具合はあまりに急激で、眼鏡は一瞬…どうしていいのか判らなく
なってしまった。

「き、君は…もしかして悪いものでも、食べたのかっ! そんなに優しい言葉を
いきなり掛けるようになるなんて…おかしい、ぞ…!」

(そんなに俺は…コイツに向かって、ロクでもない言葉しかぶつけて来なかった
んだろうか…?)

 御堂を失うかも知れない。
 その一件が、本当に身に沁みたからこそ…アイツの忠告を素直に受け取って普段の
皮肉っぽい言い回しを止めているだけなのだがこの反応の違いはなんだというのだ。
 相手の動揺している姿を見ている内に、非常に意地悪な気持ちが浮かんでくる。
 ふいに…邪魔な白い机をスライドさせてベッドの向こうに追いやっていくと…相手の元に
歩み寄り、ベッドに乗り上げて御堂の耳元に唇を寄せて、甘い声音で囁いていった。

―愛しているぞ、孝典

 滅多に言わない、愛の言葉を呟いていくと…その瞬間、御堂の身体が大きく
克哉を突き飛ばし始めた。
 その両手はフルフルと震えて…ついでに涙目になりながら、耳の辺りを押さえつけて
眼鏡を睨み上げていった。

「き、君という男は…! 普段言われ慣れていない言葉をいきなり言われても…こっちは
心構えがまったく出来ないだろうが…! 本当にいきなり、どうしてしまったんだ!」

 どう表現すれば判らないが、今…目の前にいる克哉はどこかが違って見えた。
 姿形は、紛れもなく彼なのに自分を無理矢理犯した時の彼とはあまりに違いすぎて…
表情、仕草…そして、言動の内容。
 全てが、自分が良く知っている彼とは微妙に異なっていた。

「…そんなに、いつもと…違うか?」

「う、む…。かなり、な…。どう説明すれば良いのか判らないが…君がいつも内包していた
危うさや、暗いものが払拭されて…そう、だな。どう言えば判らないが…凄く、今の君は
優しい顔を浮かべている…気が、する。そう、眼鏡を外して髪を下ろした時の君みたいにな…」

「なっ…?」

 髪を下ろして眼鏡を外している状態、それはもう一人の自分が出ている時の事だ。
 御堂は真っ直ぐにこちらを見つめながら…そっと眼鏡の頬に手を這わせていく。
 存在を確認するように、慈しむように…穏やかな表情を浮かべながら、その頬の稜線を
静かに辿っていく。

「…正直、ここ2~3ヶ月の君の傍にいるのは…息が詰まった。同時に、怖かった。
何か張り詰めたものを感じるのに…幾ら促しても何も言ってくれなくて。何を望んでいるのか、
考えているのか判らない状態が続いたからこそ、私の方も身動きが取れなかったのに
いざ行動したら…こちらの意思などお構いなしに犯される始末だったしな…」

「怒っているか…御堂…?」

「最初は、な。もう君の顔も見たくないとすら思った。だが…何日が時間が経って、君が
いきなり私の事を『御堂さん』と呼んだ時、凄く君が遠く感じられた。
 他人行事になられた直後に…例の事故にあって、もしかしたら君と二度と会えないまま
逝くかも知れない…。そう思ったら、全てがどうでも良くなってしまった。
 死が間近に迫った時、思ったのはただ…君に会いたい。その一心だけだった。
自分でも…いまだに、信じられないがな…」

 苦笑いを浮かべながら、御堂が答えていく。
 そっと相手の髪を優しく梳きながら…とても優しい眼差しでこちらを見つめてくれていた。
 その瞳に半ば吸い込まれていきながら、頬にそっと口付けていく。
 …こんな甘ったるいやり取り、そういえば…初めてやったかも知れなかった。

「…あんたこそ、珍しいじゃないか…。そんなに率直に自分の気持ちを…俺に
語ってくれるなんて。俺も今回の一件で…自分が素直じゃないって気づかされた訳だが
あんたも大概、意地っ張りだからな。そのおかげか…凄く可愛らしく感じられる…」

 クスクスと笑いながら、互いの視線がぶつかりあう。
 克哉はそのまま、そっと優しく唇を重ね合っていった。
 愛しい、という気持ちがジンワリと広がっていく。
 嗚呼…この暖かな気持ちは一体、何だというのだろうか。
 何十回も、何百回もすでに御堂を抱いているにも関わらず…こんな小さなキス一つで
ここまで幸せな気持ちになった事など過去になかった。
 相手も同じだったらしい。
 お互いに顔を離して、そっと瞳を覗き込みあうと…いつになく戸惑ったような、
困っているようなそんな表情を浮かべていた。

「…私は君よりも、7歳も年上の男だぞ。可愛いといわれるのは…やはり心外だ。
撤回して貰いたい…」

「…俺は本心から、そういっているだけだ。それに事実を口にしているだけだ。
キスだけでそんなに顔を真っ赤にさせているあんたは…悩殺レベルで、可愛らしくて
堪らない。…あんたの怪我と体調の件さえなかったら、このまま押し倒したいくらいにな…」

「うわっ! 克哉…待てっ! ここは病院だぞ…!」

 いきなり、恋人の唇が首筋に降りてくるのを自覚すると、あっという間に耳まで赤くして
克哉の身体を押しのけようと足掻いていった。
 だが…そんな反応を楽しげに見守りながら、クスクスと克哉は笑っていく。

「…心配するな。あんたに、痕を残したいだけだ…。あんたは、俺のものだと…そう
示す証をな…刻ませてもらいたい…」

「あっ…」

 痕を刻むだけ、と聞いて少しだけ御堂の抵抗が緩んでいく。
 その隙を狙って、御堂が身に纏っているパジャマを軽く肌蹴させて首筋から鎖骨…
そして胸板全体から、胸の中心へと赤い痕を、まるで花びらが舞うように刻み込んでいく。
 そして心臓の部位に、そっと顔を埋めていくと…ほっとしたように眼鏡は呟いていった。

―嗚呼、あんたの生命の鼓動(おと)が聞こえるな…

 心から、この人が生きてくれている。
 その事に感謝しながら、呟いていく。
 あのまま…御堂を喪ったら、きっと自分は耐え切れなかった。
 正気でなどいられなかっただろう。
 御堂が生きている事実。
 そしてその命を救う決断をしてくれたもう一人の自分の事を思い出したその瞬間…。
 瞳にうっすらと、涙が浮かび始めていった。

 それは…御堂が生きていてくれた事を感謝する喜びと。
 もう一人の自分と二度と会えない悲しみ。
 その二つの強い感情が…彼の心を大きく揺さぶり、涙腺までも動かしていった。
 それが、自分でも信じられなかった。

(人前で…泣きそうになるなんて、みっともない以外の何物でもない…!)

 慌てて相手の胸元から顔を上げようと思ったが、いつの間にか御堂にしっかりと
両腕に包み込まれるように抱き締められる格好になってしまっていたので…身動きが
取れなかった。
 相手のリズムが聞こえる。
 それはこの人が生きていてくれている証そのものだ。
 眼鏡的には、絶体絶命の状況に等しかった。
 御堂の前では、醜態を晒したくないという意識が強い彼にとっては…涙など決して
見せられる代物ではなかった。
 その高すぎるプライドが邪魔をして…慌てて離れようと試みたが、御堂の強い腕が
それを阻んでいった。

(これじゃあ…俺を放せ、とは言い辛いな…)

 逡巡しながら、どうにか涙を堪えようとしていく。
 だがどうしても…もう一人の自分の事を思い出すと、泣きそうだった。
 あいつに何も言えなかった。
 感謝の言葉くらい、言わせてくれれば良かったのに…あいつは自分を犠牲にしてでも
御堂を生かす道を選択して、そして目の前で消えていった。
 『ありがとう』その一言だけでも言えたなら…こんなに自分は悔やまないで済んだのに!

「克哉…」

 あやすように、優しく御堂は…眼鏡の項や、頭を撫ぜていった。
 こんなに暖かくて優しい雰囲気になった事など、過去に滅多にない。
 それは安らぎと言われる時間。
 あまりに労わられすぎると、余計に…涙腺が制御を失ってしまいそうだった。

(止めろ、もう…これ以上あんたに優しくされたら、俺は泣かないでいる
自信なんてない…!)

 強すぎる意地が邪魔をして、その慈愛に満ちた腕の中から逃れようとした。
 だが…その瞬間、『オレ』の言った言葉を思い出していく。

―ねえ、オレ。御堂さんに対してもっと泣いたり、怒ったりそういう姿をちゃんと
見せて良いんだよ? 今オレとしたように、声を荒げて本気で言い合ったりそういう
事が出来るようになっていけばもう、お前の中の獣や憎しみが暴走する事はないと
思うから。だから、どうか幸せになって、な

 御堂と出会ってから、二年と数ヶ月。
 一度でも…自分は彼の前で泣いた事はあっただろうか?
 そんな弱みをただの一度でも見せた試しがあったのだろうか?
 あいつの言葉を思い出して、その考えに思い至っていく。
 それが…彼から、御堂の腕から逃れようとする意地をそっと打ち砕いていった。
 そして、初めて泣いていく。
 愛しい人間の、その腕の中で…。

「…っ! 克哉、もしかして…泣いて、いるのか…?」

 相手の顔は、見えなかった。
 だが…濡れている感触で、彼が今…どんな状態なのかを理解していく。
 決して、克哉は顔を上げなかった。
 その事実から、御堂は察して…それ以上、言葉では詮索せずに…静かに
彼を抱き締めるのみだった。
 そして眼鏡は呟く。
 心からの一言を…。

―あんたが、生きていてくれて本当に良かった。

 あの事故で、永遠に失われてしまっていたかも知れない。
 そう考えたらこうして生きていてくれている事、それ自体が凄く嬉しくて仕方なくて。
 感謝の涙で、男は瞳を濡らしていった。
 御堂は…意地悪で傲慢で、滅多に本心など口にしてくれない困った恋人が…
初めて、こんな一言を言ってくれたのが嬉しくて仕方がなかった。

―あぁ、私も…君にもう一度、会えて本当に良かった。今生の別れが…あんなに
すれ違ったままの状態にならなくて、良かった…。

 お互いに知らぬ間に、涙を浮かべていた。
 それを見せたくなくて、克哉は御堂の胸に…。
 御堂は相手の肩に自分の顔を浮かべていくと…泣き顔は決して見せないように
しながら、再会の嬉し涙を静かに零していった。

「君が私を呼んでくれて、本当に良かった。…もう死ぬかも知れない、と。
そう覚悟した時にとても綺麗な光を見たんだ。それを見ながら…切実な君の祈りの
声を聞いたんだ。生きてくれ、と…まだ貴方は逝くのは早いんだ!戻って来てくれ…と。
君の呼んでいる声を何度も、聞いた。意識を失っている間な…」

「そう、か…俺は祈り続けていたからな。あんたが助かってくれる事を…」

 だが、恐らくその声は自分だけではない。
 きっと『オレ』のものも重なっていた筈だ。
 二人の克哉が、この世で一番…御堂の生存を望んでいた。
 だからこの人を失わないで済んだ。
 けれどその引き換えにもう一人の自分を失ってしまった。
 その事実が…眼鏡の胸の中をぽっかりと、大きな空洞を空けてしまっていた。

―克哉、私を呼んでくれて…必要としてくれて、ありがとう。

 自分を陵辱した一件の怒りよりも、遥かにその喜びの方が大きかった。
 だから…自然と、わだかまりは流れてしまっていた。
 そう言われた瞬間…はっとなって、顔を上げてしまっていた。
 お互いに涙に濡れた顔を晒していく。
 だが…もう、そんな事で幻滅したり相手に呆れたりすることなど…最早ありえなかった。

―孝典、あんたも…生きていてくれて、ありがとう。あんたがここにいてくれる事が
俺にとっては…何よりも、嬉しいんだ

 こんな言葉、今までだったら言えなかった。
 だが…この喜びの前ならば、幾らでも素直になれる気がした。
 気恥ずかしさはあった。
 だがそれ以上に胸が満ちて、幸福でいっぱいになって…自分の心中の奥深い処に
宿っていた憎しみが、それで洗い流されていくような感覚を覚えた。
 
―あぁ、お前が言いたかった事はこれだったんだな…。

 素直になる事で、こんなに気持ちが楽になれるなんて知らなかった。
 意地を張るばかりで、そんな風にしか彼は生きられなかった。
 だが…命を懸けてまでもう一人の自分はその事を伝えてくれた。
 今、この瞬間が死んでも惜しくないくらいの幸福感を覚えているからこそ…彼が言った
言葉の重みをようやく…眼鏡は理解していった。

 お互いに、幸せな笑みを浮かべていく。
 眩暈がしそうなくらいに…愛しくて、幸せで。
 再び…二人の唇は小さく、重なり合っていった。

 もう…あいつにこちらの想いが届くことがないのならば。
 『オレ』が願った通り、生涯この人を自分は愛し抜こうと静かに誓った。
 優しく労わって、大切にして。
 もう二度とあんな暗い衝動に突き動かされないように。
 自分を見失わないように戒めたその瞬間、一つの声が響いていった。

―それで良いんだよ。幸せにね…『俺』…

 微かな、か細い一言だった。
 だが…確かに聞こえた。
 間違えようがない…これは、あいつの…

(あぁ、お前は…俺の中に…いるんだな…)

 それを確信した瞬間、彼は嬉しかった。
 腕の中には最愛の人。
 そして…心の中には自分の半身が確かに其処にいてくれている。
 その事を確信して、心からの笑みを眼鏡は浮かべていった。

―あぁ、幸せになってやる。だから…お前はそこで、見ていろ…

 お前が自分を犠牲にしてでも、守ろうとしてくれた愛を…何が何でも守ろう。
 この手を決して離さないように。
 ずっとこれから先も共に歩んで行けるように…。
 強く願いながら、眼鏡はそっと腕の中の愛しい人を抱き締め続けていく。
 その幸福に包まれたその時…。

 ―それで良いんだよ

 優しい声音で、もう一人の自分が…こちらの決意をそっと肯定しながら
笑ってくれているのを、感じて…眼鏡もそっと微笑んでいったのだった―
 



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はじめまして´∀`*
はじめまして!香奈と申します。
実はちょくちょくお邪魔して
素敵な小説を読ませて頂いていたのですが、
なかなか勇気が出ずコメント出来ないで
いました・・・(ノ)ω・`)←
しかし今回あまりにも小説に
感動して感動して!!
コメントしないでいられなくなりました!
星屑の祈り、すごく良かったです(´;ω;`)
私はノマ大好きーなんですが・・・
克哉が可愛くて切なくて・・・
泣いてしまいました(´;ω;`)

こんな素敵な小説を書ける
幸緒様、尊敬します(^ω^)!
これからも頑張ってくださいっ!
では、失礼しました。


香奈 2009/02/04(Wed)17:57:31 編集
星屑の感想ありがとうございます!
こんにちは、コメントの返事遅れてしまってすみませんでした! 
 初めての書き込み、どうもありがとうございました! 随分前の作品ですが、「星屑の祈り」を気に入って頂けたようで…こちらとしても嬉しいです(^^)
 星屑は、ノマの想いが非常に切ないお話でございますが…実は書いてて、私も何度か涙ぐんでしまいました。
 星屑~は克克の悲恋に当たる話ですが、実らなくても好きな人の為に何か出来ることがあるのは幸せなんだよ、それでも…相手のことを想ってやれる限りのことをやるのが愛なんじゃないかな~という…そういう考えから書いた話です。
 香奈さんの心の中に、それで何か残ったのなら書いた甲斐がありました。
 そして感想、どうもありがとうございました。非常に励みになりましたよ。
 コメント、こちらこそ感謝します! それでは失礼しますね!
香坂 幸緒 2009/02/10(Tue)00:55:32 編集
克哉大好き
はじめまして、初コメントします。にゃんちゅです。このお話すごく感動しました。
報われない恋ってすごくつらいのをわかるので克哉に涙してしまいました。ってゆうか大泣きしています。自分と克哉がなにかしら似ているところがあるので、涙がボロボロでてとまらなくなってしまいました。ありがとうございます
にゃんちゅ 2009/03/15(Sun)08:32:38 編集
感想ありがとうございます(ペコリ)
 にゃんちゅさん、こんにちは!
 返信の方遅くなってしまってすみません。けれど一言、感想残して下さってありがとうございます!
 星屑の祈りは、「報われない恋」とか片思いの辛さを主軸にした話なので、恐らく同じような思いを抱いたことある方には…共感出来る何かがあると思います。
(私自身にも何度かありましたし…)
 そうやって書き終わってから結構経過してからも一言頂けると、書いて良かったな~としみじみ思います。
 こちらこそ、そういって下さってありがとうございました~嬉しいです(^^)
香坂 2009/03/24(Tue)21:15:06 編集
無題
泣きました・・・
克哉のやさしさがホント・・・
2人に幸せになってもらいたいです
みやび 2009/08/14(Fri)22:56:30 編集
感想ありがとうございます
 みやびさんこんにちは、初めまして。
 レスの方、非常に遅くなってしまってすみません。けれど感想の方、どうもありがとうございますv
 夜街遊戯も、星屑の祈りも克克ものですが…そちらの心を少しでも揺さぶることが出来たなら幸いでございます。
 夜街は、眼鏡が本気で克哉に対して怒る処と…さりげない優しさを示すシーンを…星屑は片思いでも、精一杯相手に尽くすことが出来れば実らなくても幸せでしょう? というのをテーマに書いた話です。
 何となく不器用な想いの伝え方かも知れないですけどね。
 私はこんな風にさりげなく相手を気遣う克克が好きですからつい書いてしまいましたが…完結して時間が経ってからもこうしてコメントを頂けると非常に励みになります。
 本当にありがとうございました。
 良ければまた気軽に来てやって下さいませ~。
香坂@管理人 2009/09/10(Thu)22:45:05 編集
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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