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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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-まだ、判らなくてもしょうがないですよ。本多君は若いんですから

 昼休み、医務室で寝ていた最中…訪ねてきた片桐につい、自分の心中を

打ち明けた時、そう言われてしまった。
 その一言に確かに、自分よりも長い人生を生きて来たという重みも感じ
させられたけど、やはり…まだ自分は若輩者、未熟者と言われた気がして
知らない内にムっとした顔を浮かべてしまっていた。

「あっ…すみません! もしかして気を悪くしてしまいましたか…!
そんな事言う僕も…そんなに沢山の恋愛経験がある訳じゃないです!
ただ、色んな人の恋愛の相談とかを聞いている内に…そう、思うように
なったというだけですから…!」

「相手にとって一番良い行動を取るように考える事が、ですか?」

「…はい。上手く行く恋愛って…その視点があるなって。ふと気づいたんですよ。
人って皆…恋をすると浮かれて、悪い言い方をすれば…自分本位に
なっちゃいますから。。

相手を好きになればなるだけ、要求が多くなって…脅したり泣いたり、
宥めすかしたり
して…相手を操作しようとする人っているでしょう。
思い通りにしたいって欲求に駆られてしまいましてね…。

けど、その通りにしちゃう人って…最初は上手く行っても、長く付き合っている内に
相手は辛くなっちゃうみたいで…長続きをしないパターンばかりなんですよ。
 逆に相手の都合を考えたり、自分の考えを押し付けて思い通りにしようとしない
人は…一人の相手と長続きするし、恋が実らなかったとしてもその相手と良い
関係でいられる。何となくそんな風に人の話を聞いて感じたんですよ…」

「はあ、成程。確かに片桐さんなら…色んな人が、相談したくなりますよね」

 片桐は上司としては頼りにならないタイプかも知れない。
 けれど美味しいお茶を淹れてくれたり、絶対に八つ当たりや理不尽な真似はしない
人として信頼出来る暖かさのようなものがあるのだ。
 恐らく、今までもこの人は今の本多のように弱っている人間を放って
おけなかったに
違いない。
だから片桐自身に恋愛経験は無くても、話を聞く事によって…幾つかの

ケースを聞いて知っているのだろう。
 だから、その言葉は実感が篭っていた。

「…相手の都合を考えたり、自分の考えを思い通りにしないで…接する、か…」

 その言葉は妙に、自分にとっては耳が痛いものがあった。
 本多は自分の信念、考えをしっかりと持っているタイプだ。
 良く言えば芯がしっかりしている。
 悪く言えば、自分の考えを滅多な事では変えない頑固者だという事だ。
 弱っているせいだろうか。
 今の片桐の言葉は本多にとって凄く身に沁みるものがあった。

(…もし、体調不良で倒れてなかったら…俺は今朝、克哉に…御堂と何て
二度と会うな! って突きつけてしまっていたかも知れないな…)

 今朝、あの銭形衣装が自分のディスクの上に置いてなかったら。
 こちらの顔を見て克哉が笑い出して、思いがけずに朗らかな顔を見る
機会がなかったら…きっと自分は顔を合わすなり、そう言ってしまって
いただろう。
 昨晩のあの映像が本当にあった事なのか、本多には正直判らない。
 けれど事実だったら許せないと思った。
 だが今朝の克哉は幸せそうだった。
 …酷いことしかされてない男に、再び会いたいと思ったり…その翌日に
あんな風に笑っていられるんだろうか?

「…それに、今…その子が相手と一緒にいて笑っているという事は…
今はその人の傍にいて幸せだという事じゃないでしょうか?
 …確かに本多君からしたら、その相手に好きな相手が酷い目に遭わされたと
知ったら心穏やかにはいられないと思います。
 けれど…酷いことをし続ける相手と一緒にいて幸せそうに笑っている事は
在り得ないと思うんです。
 人間だって動物だって、愛情や好意なく…酷い仕打ちをし続けていたら
絶対に懐くことはありませんから…」

 ―その言葉は、本多自身が思っている事とほぼ一緒の見解だった。
 
「そう、っす…よね…」

 力なく、本多は呟いていく。
 それを事実だと認めるのは…克哉に対しての恋心を自覚した直後なので
とても辛いものがあった。
 だが、恐らく…それが答えなのだ。
 あの映像は本当だったかも知れない。
 実際に御堂に過去にあんな風に、八課のことを人質にされて酷い事をされた
過去があるのかも知れない。
 けど、それだけだったら…克哉はきっと、御堂にあんな風に会いたいと
望むことはなかっただろう。
 あんな風に嬉しそうな、朗らかな顔をする事は…なかっただろう。

(…何か、切ないよな。あいつの事を特別に想っていた事を自覚した直後に…
失恋っていうのは…)

 自分がどうして、克哉が気になっていたか。
 放って置けなくて関わり続けていたのか。
 その理由はどんな類の感情とは言え、自分が克哉を好きだったからだ。
 けれどこれだけ長い時間一緒に過ごしても自分達は意識しあう事はなかった。
 「同僚」や「親友」として…過ごしていた。
 …本多自身だって、ずっとこの感情が恋心に近いものであった事を自覚せずに
大学時代から一緒にいたのだ。
 それを諦めるのは…辛い。気づいたら本多の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

―けれど、多分…克哉が求めているのは御堂の方なのだ。

 アイツが消えた時から、克哉はいつも寂しそうだった。
 屋上で気になって話を聞こうとしたらポロポロと泣き出してしまうくらい…
不安定になっていた。
 例のワインバーで食事を食べている間も、背中向きだったので確証は持てないが
傍から見てとても楽しそうに見えた。
 けれど、それが偽ざる事実なのだ…。

「…その相手が求めているのは、俺じゃなくて…その相手、何ですよね。
認めたくなかったけれど…それが、事実…なんだよ、な…」

 本当は誰かの前で涙を流すなんてみっともない真似、したくなかった。
 けれど昨日からショックで…本多の心は荒れ狂っていて…その暴れる心が
冷却水を求めるように…涙を零させていた。
 悲しいとか、ショックだからではない。
 本能的に…今、このやり場のない感情を発散させる為に無意識に…身体が
涙を零すことを要求しているのだ。
 怒りも、悲しみも…ある程度泣くことによって発散して人は落ち着きを取り戻せる。
 だから今の彼は無意識にそれを求めて…涙を零し続けていたのだ。

「…本多君は本当に、その子が好きだったんですね…」

 思いがけず、片桐がそっと本多の頭を撫ぜてくれていた。
 こんな振る舞いを成人になってからされたのがこれが初めてだ。
 …本多は人一倍、人に弱みを見せることが苦手なタイプだった。
 だからこそ…最初は、こんな振る舞いを受けるのに戸惑いがあった。
 けれど今の弱りきった心と身体には、その手は優しすぎて…跳ね除ける事が
出来ないでいた。

「…片桐さん、みっともないですから…止めて、下さいよ…」

「…気にしなくて良いですよ。どんな人だって…弱ってしまう事はあるでしょうから…。
僕だって、君よりもうんと年上ですが…クヨクヨしてしまったり、迷ったりして…
誰かに優しくして欲しい時ってありますから…」

「…そう、なんすけど…やっぱり…」

 抵抗はあった。
 けれど、大人しく片桐の手に撫ぜられ続けていた。
 まともに眠れないぐらいに悩み続けて、心が疲弊しきっている時は…誰かの
手の温もりというのは凄く暖かく感じられてしまったのだ。

「…何か、ヤバイ…かも…」

 本多は高校を出て以来、こんな風に誰かに弱みを晒す事はなかった。
 いつだって一人で抱え込んで、処理し続けた。
 いい年した男が、他人に助けを求めたり当てにするなんてみっともないし…
格好悪いと思っていたから。
 だが、それは逆に…彼がこうなるまで、今までの人生で弱った事が殆ど
なかったからに過ぎない。
 どんな人間でも、気力や努力と言った精神面だけでは立ち上がることが
出来なくなる時がある。

「…みっともないとか、格好悪いとか思わないで…本当に辛い時は泣いて
良いんですし…素直に感情を出して良いんです。
 …時々、正直にならないと…参ってしまいますから。今は気にしないで…
思いっきり、泣いて良いんですよ。僕で良ければ傍にいますから…」

 そうして、子供をあやすみたいな手つきで…慈しむように、片桐は
本多の傍に居続けた。
 こんな姿を、この上司に晒す日が来るなんて本多は考えた事もなかった。
 けれど…泣くことによって、荒れ果てた心が…潤っていくのを感じた。
 少しずつ、余裕が出てくる。
 そうする事で…本多は、現状を少しずつ受け入れ始めていく。

(克哉…お前にとっては、御堂の傍にいる事が一番なんだな…)

 認めたくなかった悔しい現実を、受け止め始めていく。
 本当に克哉が笑っていてくれる為に必要な事は何なのか…それでやっと
考えられるようになっていた。

(俺が何をしたら…お前の笑顔を、守れるんだろう…)

 初めて、所有欲とか独占欲とか離れて…惚れた相手に対して、そういう事を
考え始めた。
 諦めるのは辛かった。どんな形でも自分にとっては克哉は大事な人間で
それをあんな陰険な男に取られてしまうのは悔しかったけれど…。
 さっきまでと違って、頭ごなしに御堂を否定する感情は消えうせていた。

 本多は、それでも泣いている姿を見せたくなくて…顔を伏せてベッドの上に
横たわっていたけれど…それでも飽く事なく、片桐は傍に居続けた。
 片桐がこちらを心から案じてくれているのが判る。
 それが…判ったからこそ、本多は少しだけ心に余裕が出来た。

 時に人は迷う時がある。
 辛くて泣いてしまいそうに葛藤する時がある。
 けれどそんな人間を励ますのは…そんな大した事はしなくて良い。
 ただ黙って傍にいる事と、相手の話を聞く事だけ。
 それをしてくれる相手がいるだけで、人は救われるものなのだ。

 ―この日、初めて本多憲二は…弱さを知った。
  労わられる事で救われる気持ちを理解出来た。

 それはいつも己を鼓舞して、心を強く持っていたが為に人の弱さを判り切れて
いなかった彼にとっては、貴重な体験となったのだった―
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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