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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―たった今、氷漬けになっている眼鏡を掛けた佐伯克哉の夢を見た

 それはただの夢や幻想で片づけてしまうには酷い臨場感がありすぎて。
 今見た場面のせいで、心臓は激しく早鐘を打って…御堂はベッドの上で
大量の寝汗を掻いていた。
 そして、すぐ間近には克哉の顔が存在していて…ハっと息を呑んでいく。
 慈しむような柔らかい表情を浮かべている彼を見て、御堂は瞠目しながら
相手を凝視していった。
 そっとこちらの汗を優しく拭っていきながら、克哉が問いかけていく。

「…御堂さん。凄くうなされていたみたいですけど、大丈夫ですか…?」

「あ…あぁ、一応…な」

 そう言いながらも、御堂はベッドに仰向けになったままで激しく胸を
上下させていた。
 克哉が眠っている御堂にそっとキスをして、少ししたぐらいから急に
御堂は激しくうなされ始めたのだ。
 克哉はオロオロしながらそれを見守って…切なげに瞳を細めていった。

「…冷たい水でも、持って来ましょうか?」

「…あぁ」

 相手の献身そうな態度に、つい頷いてしまったが…見れば見るだけ、
今の佐伯克哉は別人のようだった。
 眼鏡を掛けていないだけで、これだけ別人のように人はなってしまう
ものだろうか?
 心底、疑問に思いながら…彼が水を取りに冷蔵庫の前まで向かっている
間、辺りを見渡していく。
 赤い部屋は、窓もベルベッドのような赤いカーテンで覆われているので
正確な時刻は判らなかった。
 だが、僅かにその隙間から光が漏れているのを見る限りでは…朝に
なっている事だけは確かだった。

(本当に、今…目の前にいる彼は、佐伯克哉なのか…?)

 部屋の隅にひっそりと置かれていた小型の冷蔵庫からミネラルウォーターを
取り出してグラスに注いでいる姿を何気なく眺めている。
 彼の身体に刻まれている痕跡の数々は、昨日…自分が感情のままに
抱いた時につけたものだ。
 
―あの佐伯克哉を自分が、抱いた…

 その事実が、未だに御堂には信じられなかった。
 昨晩はあまりの展開に頭が混乱してしまって…感情が昂ぶって、頭に
血が昇っていた。
 だから、相手の言葉に乗って衝動のままにその身体を貪ってしまったが
今となってはそれは現実のことだったのかと疑いたくなる程だった。

 自分を監禁して、陵辱し続けた男。

 彼はいつだって支配的で、傲慢で…間違っても自分が組み敷けるような
相手ではなかった。
 どれだけ抵抗したって、無理矢理犯され続けた。
 本気で噛み付いたり、暴れようとしてもその力関係は覆されることは
かつては一度もなかった。
 そんな男が、自分を好きにしろと良い…こちらに抱かれる事を許容した。
 その事実を、御堂自身も信じきれないでいた。

「御堂さん…どうぞ、冷たい水です…」

「…あぁ、ありがとう」

 逡巡している間に、克哉は冷たい水に満たされたグラスを持って
御堂の前に立って…それを手渡していった。
 素直に受け取って、冷たい水を喉に流し込んでいくと…キリリと冷えた
感覚が、意識と思考を覚醒させていった。
 ベッドの傍らにグラスを置いていくと…二人は暫し、見つめあう。
 互いに言葉もなく…真摯な眼差しをぶつけあった。

―そのまま重い沈黙が落ちていった

 お互いに何を話せば良いのか、判らない。
 何から口に上らせれば良いのか判断がつかない。
 そんな時間が二人の間に広がっていく。
 そして…顔を見つめれば見つめるだけ、余計に御堂の中で混乱が
酷くなっていく。

(これは…本当に、私が会いたいと願っていた佐伯克哉なのか…?)

 顔を合わせれば合わせるだけ、御堂の中で違和感が広まっていく。
 そういえばベッドインする寸前に、彼が言っていた。

 ―俺が二重人格だと言ったら、貴方は信じますか?

 そう、間違いなく彼は口にした。
 最初はそんな事を言った彼を頭から否定していたが…接すれば接する
だけ、それ以外の理由しか納得がいかないような気がした。
 御堂の脳裏に、自分を切なげな瞳で見つめながら雑踏の中で
遠くなっていく佐伯克哉の姿が喚起されていく。

 あの切なく、射抜くような強い眼差し。
 彼のその瞳に、気づかない間にこちらの心は引き寄せられて
しまっていた。
 だが…目の前の彼には、その輝きはない。
 慈しむような瞳であるけれど…瞳の輝きがまったく違っている。
 自分が逢いたいと焦がれたのは…あの双眸を真っ直ぐに向けられた
からだ。なのに、目の前の克哉にはそれがまったくなかった。

(あの…荒唐無稽と最初は笑っていた話は、本当の事なのか…?)

 そう疑念が生まれた瞬間、フっと視線を逸らして…克哉は
そのまま御堂の横になっているベッドの傍らへと腰掛けていった。

「…身体の調子は、如何ですか?」

「…その言葉は、そっくり君に返させて貰おう。昨晩は…かなり手荒に
君を抱いた。その負担は半端ではないだろう…。それなのに、身体を
動かせるとは大したものだな…」

「…正直言うと、少し身体を動かすのは辛い部分があります。が…
出血した訳でもないので…」

 苦笑しながら答えていく克哉の表情は弱々しい。
 つい…御堂は、見ていられない気分になって相手の肩に腕を
回して自分の方に引き寄せていった。

「なっ…!」

 その仕草に、克哉も驚いたのか…声を漏らしていく。
 御堂自身も、正直…自分で驚いてしまっていた。
 何故、こんな真似をしたのか自分でも説明がつかない。
 けれど…今にも倒れそうなのに、気を遣わせまいと…気丈に微笑む
顔を見て…何故か放っておけない気分になったのだ。

「どうして…?」

 克哉は困惑している。
 御堂も、戸惑いを隠せなかった。
 自分が必死に求めている眼鏡を掛けた彼とはまったく違う存在。
 なのに…今にも、彼は消え入りそうで…儚く掻き消えてしまいそうな
そんな印象を今、感じて…つい、知らずに手を伸ばしてしまっていた。

「どうして、オレに…こんな真似をするんですか? 御堂さん…?」

 唐突に引き寄せられた御堂の腕の中は暖かくて…つい、気が
緩んで涙さえ浮かびそうになってしまう。
 好きだと自覚した相手に、気まぐれでもこんな優しさを与えられたら
どうしたって…胸が大きくざわめいてしまうのに。
 この人の為に、絶対にもう一人の自分を呼び覚ますのだと決意した
ばかりなのに…早くもグラついてしまう自分が情けなかった。

「…何故か今の君を見ていると、見ていられないような気分になった。
…私にも、理由は判らない…」

 御堂自身も、困ったように苦笑していく。
 けれど…埋めた相手の胸の中は暖かくて、鼓動が静かに伝わってくる。

―トクン、トクン…

 一定のリズムで刻まれたその音に、何故か安らぎを感じていく。
 そっと目を伏せながら…克哉は静かに聞き入っていった。
 御堂の手がぎこちなくこちらの髪を梳いていく。
 不意に訪れた、あまりに優しい一時。

「…あんまり、優しくしないで…下さい…」

 さっき誓った決心すら、それだけの事で揺らいでしまいそうになる。
 御堂にとっては気まぐれに与えた、優しさだったのかも知れない。
 けれど…それだけでも、幸せで幸せで…胸が詰まりそうになる。
 知らぬ間に涙が零れて、頬を伝っていく。

(昨日から…泣き過ぎだよな…オレは…)

 自分でもそうツッコミを入れたくなるぐらい、涙を流してばかりいる。
 なのに…止めたくても、克哉の意思に反して…透明な雫は零れ続けて
相手の裸の胸元を濡らし続けていった。

「…君は、泣いているのか…?」

「………」

 何も、答えられなかった。
 顔を俯かせながら…ただ、沈黙を落としていった。
 お互いに何を言えば、判らなかった。
 何から聞けば良いのか、話し合えば良いのか判らない。
 一緒にいればいるだけ…御堂の中で混乱が広がっていく。

「…日を改めて、また私に会って貰えるか…?」

「えっ…?」

 唐突に呟かれた言葉に驚いて、克哉は顔を上げていく。
 昨夜と打って変わって、御堂の表情はどこか柔らかいものに
なっていた。
 それに虚を突かれる形になり、克哉は呆然としていく。

「…貴方は、何を…言って…?」

 自分は、この人が求めている佐伯克哉とは違うのに。
 なのにどうして…また、会いたいなどと言うのだろうか?
 抱いて、充分にその事実は伝わった筈なのに…?

「…君は、昨晩から何度も私に自分の事を諦めろ、と言った。
だが…私はどうしても、諦められないんだ…」

「それは、もう一人の『俺』と会いたいから…ですか…」

「…あぁ、そうだ」

 少し間を置いてから、はっきりと…御堂は答えていった。
 それにズキン、と胸が痛む想いがした。
 だが、それでも克哉は御堂から目を逸らさなかった。
 真っ直ぐに相手の紫紺の瞳を見つめて…言葉を紡ぎ続けていく。

「…君が、私と会いたいと願っている人格と違うという話は…正直、そんな
事が実際にあるとは認めたくないが、それ以外に納得がいかないからな。
だから信じよう。だが…彼の口から、はっきりと結論を聞くまでは…
私は決して諦めたくない」

「…そう、ですか…」

「だから連絡先を教えてくれ。また…誘いを掛ける」

「判り、ました…」

 克哉がコクン、と頷いた瞬間…急に首元に顔を埋められて、凍りつくような
言葉で囁かれた。

―それまで、決して他の人間を抱いたり…抱かれたりするなよ

 ゾクン!

 その冷たい一言を聞いた瞬間、背筋が凍りつくような感覚を覚えていった。
 次の瞬間、強く吸い上げられて…再び、赤い痕を刻み込まれていく。

「あぅ…!」

 堪えきれずに、克哉が呻く。
 そして…その瞳を見た。
 本気で、怒りを覚えているのが一目で判る眼差しだった。

「…別の人格でも何でも、私は君と言う存在が…他の人間と肌を重ねて
いるのは不愉快だ。だから、次に会う日まで…決して、私以外の人間に
抱かれるような真似はするな。良いな」

「御堂、さん…貴方は、何を言って…?」

 克哉は、今…御堂が言った言葉が信じられずに唇を震わせていた。
 だが、目の前の男の眼は真剣だった。
 戯れや偽りでそんな事を言ったのではないと一目で判ってしまって…
克哉の中に大きな混乱の波が生まれ始めていく。

「良いな、と問いかけているんだ! 返事は…?」

「はい! オレは…貴方以外には抱かれません! 約束…します!」

 相手の剣幕に押されて、克哉は弾かれるように答えていってしまう。
 自分でも、こんな事を言うのは可笑しいと思った。
 だが…それが、紛れもない御堂の本心だったのだ。

―どちらの佐伯克哉でも、他の人間と寝るような真似をされたら…
自分は嫉妬で気が狂いそうになると…!

 衝動のままに克哉を抱いた時も、その想いが胸に渦巻き続けていた。
 
「それで良い…」

 そうして、噛み付くように唇を奪われていった。
 その腕の強さと…口付けの熱さに、克哉は眩暈すら感じていく。
 
―心が大きく、揺れていくのが判る。

 この人に惹かれて、どうしようもなくなっていく。
 これ以上好きになったら…決心が鈍ってしまいそうなのに、
御堂の腕の中も、口付けも熱くて…再び身体の奥に熱が灯って
いくのが判った。

「御堂、さん…」

 切なげにこの人の名前を静かに呼んでいく。
 そんな克哉を…御堂は強く抱き締めて…自分の腕の中に閉じ込めた。

―この人はもう一人の自分が愛して止まない存在

  諦めなくてはならないのに…こんなキスをされたら、忘れられなくなって
しまう。…そんなの、ダメなのに…!

 涙を零しながら、克哉はそれでも…その口付けを享受していく。
 そんな彼を…御堂は切ない顔を浮かべながら抱き締め続ける。

 その雫は、もう一人の自分と同じ人を好きになってしまった…克哉の
葛藤の結晶でもあった。
 ポタリ、ポタリ…とシーツの上に涙が落ちていく。

 そして二人はそのまま…暫く、無言のまま抱き合い続け…チェックアウトの
時間を迎える直前に、連絡先を交換して…その日は一度、互いに別れて
帰路についていったのだった―
 

 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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