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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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リセット17
 
あれから一週間近くが経過していた。
日にちが過ぎれば過ぎるだけ、先週の週末に…あのような出来事が起こった
のが夢だったのではないかと疑いたくなる事が多々あった。
 御堂は、連日のように魘されていた。
 眠れなくなった訳じゃない。
 ただ、一度…別人のようになった佐伯克哉を抱いたことによって、余計に
彼の事ばかり考えるようになって…夢を見るようになっただけだ。
 
 自分を陵辱していた残虐な彼。
 真っ青になった自分を部屋まで運んでくれた時。
 自分を解放し、告白を残して去っていった後姿。
 そして…例の駅のホームで悲しそうな目をしながら自分を見守っていた姿―
 
 同じ人間の癖に、眼鏡掛けている状態でも色んな顔を見せていた癖に…
眼鏡を外したらまた別人のようになるなんて、あの男は本当に幾つの顔を
持っているのだろう…と思う。
 
(どれが君の…本当の姿なんだ…?)
 
 自室のベッドの上で、半分現と夢の世界を交互に彷徨いながら…
御堂はただ、考えていく。
 寝酒にワインを煽ったので、サイドボードの上には…一本のワインと、
グラスが
置かれていた。
 部屋の明かりはすでに完全に落とされて、窓の外からは仄かな
月明かりだけが
差し込んできている。
 
―ワインを一本、空けた程度では眠れそうにない自分が恨めしかった
 
 あの程度の酔いでは、到底安眠は遠そうだった。
 疲れているから、最初の方は熟睡していた筈だ。
 だが…明け方、微かに空が朱に染まる頃…その鮮やかな赤に
導かれるように
ゆっくりと御堂はその記憶を取り戻していく。
 
―佐伯克哉に関する、忌まわしい記憶の数々を…
 
(思い出したくなんて、ないのに…!)
 
 同じような行為を、彼自身にした事によって…あの日から
連日、御堂の
中には忌まわしい記憶の扉が開かれてしまっていた。
 かつて、彼にされた悪夢の行為の数々を…繰り返し繰り返し、
夢の中に見続ける。
 自分がどんな事を佐伯克哉という男にされていたのか。
 どれだけその行為によって、自分はボロボロになっていたのかが
まざまざと思い出されていく。
 それはかなり、御堂自身の心を苛んでいた。
 
―止めろ、もう止めてくれぇ!
 
 以前のマンションの壁に拘束具をつけられて縛り付けられた
時の事が
脳裏に蘇り続ける。
 排泄も食事も、相手に世話されなければこなせない日々。
 獣のように裸のまま、一日を過ごさせられていた屈辱。
 そして…こちらの意思とは関係なく、連日のように弄られ、追い詰められ…
犯され続けた。
 
―嫌だと言っている割には、あんたの身体はいつだって…俺を求めて、快楽に
震えてばかりいるみたいだがな…?
 
―そんな、事はない! 私は、嫌だと…! うっ…はっ…あぁー!
 
 帰宅すると、あいつはいつだって強引に口付けていきながら…こちらを
容赦なく組み敷いて、抱いていた。
 熱い塊が容赦なく…自分の中に押し入ってくる生々しい記憶が再生される。
 それがこちらの官能を無理矢理引き出し、奇妙な疼きと熱を孕みながら…
いつだって御堂の意思と関係なく、快楽を与えられ続けた。

 あの男が自分を抱き、互いが混じり合う粘質の厭らしい水音を…
そして熱く乱れた吐息を、内部に収められたペニスの熱さをいつだって
忘れたことはなかった。
 下手をすればどこを触れられても感じてしまう…そのレベルにまで
達してしまっていたように思う。
 こちらがどれだけ拒絶しても、何度も何度も貪られた。
 あの男の形を、こちらが気づけばはっきりと思い出せるぐらいに
その痕跡を刻み付けられていった。
 
 
―その割には、御堂さんの此処はいつだって…俺を求めて、吸い付いて
来ている
じゃないですか…?
 
―そんな事は、ない…! こんな、の…私は、まったく…望んで、ないのに…!
 
―また、嘘を言って…
 
―嘘、じゃない…! うっ…あぁ―!
 
 苦しい、苦しい、苦しい!
 
 思い出す度に胸が掻き乱される、消し去りたいぐらいに忌まわしい過去。
 あんな酷い事をされた。
 今まで必死に働いて築き上げた全ての物を壊されて、奪いつくされて…
自分が思い描いていた未来予想図はメチャクチャにされた。
 
―なのに、どうして…こんなに君は私の中に居ついてしまったんだ…?
 
 何故、あんな男にそれでも自分は恋をしてしまったのだ?
 誰かに見られていると…そう気づいて、足を止めて…克哉が、自分を遠くから
眺めている事に気づいてしまった日から日毎に増していく想い。
 再会しなければ、気づかなかった。
 目を逸らしたまま…自覚せずに済んだのかも知れない。
 
 けれど…あの切ない表情を浮かべたあの男を見てしまった日から…御堂の
佐伯克哉に関しての感情は知らない間に変質し、彼を突き動かす原動力に
なっていた。
 そして、あの頃から…時折、優しいような哀しいような…そんな口調で
ただ、自分の名前を呼び続ける時があった。
 
―御堂
 
 けれど、そうだ…あの酷く扱われた日々の中で…あの告白を裏付ける
出来事が、辛うじてあった気がする。
 その記憶を思い出し、御堂はハっとなっていく。
 彼との出来事は、全てが嫌な事ばかりでは決してなかったのだ。
 そして…彼の脳裏に、その日の出来事が一気に広がっていった。
 
 …それも、今朝のような明け方だった。
 散々に淫具を使って弄られて…意識を手放してしまった日の明け方。
 肌寒くてつい、意識を覚醒させてしまった時…自分の目の前には、あの男が
跪いて存在していた。
 また、何かされるんじゃないか…と身構えてしまい、御堂は決して瞳を
開かないようにしていた。
 
 その時の彼の顔を見た訳じゃなかったが…何となく普段と違うような
気がしていた。
 そして男は…こちらの頬を、どこまでも優しく撫ぜながら…もう一度だけ
自分の名前を呼んでいった。
 
―御堂…
 
 その響きは思いがけない程優しくて。
 御堂の脳裏に深く刻み付けられる程だった。
 慈しむように、どこまでも穏やかな手つきで…髪や首筋の辺りも静かに
撫ぜられて…ただ、目を瞑りながら驚いていたような記憶がある。
 
(どうして…こんな風に、私に触れてくる…?)
 
 今まで、この男に優しく扱われた覚えなんてまったくなかったから…
逆にその日の出来事は、御堂の中で鮮明に刻まれてしまっていた。
 あの日の克哉が、そんな風に自分を呼びながら…どんな顔をしていたか、
今となっては…見ておけば良かったと思う部分がある。
 あの日の彼もまた…遠くから、自分を眺めていた時のような…悲しくて
切ない表情をしていたのか、凄く気になった。

 十数分程…こちらが眠っていると思い込んでいるせいで、克哉は
穏やかなその仕草をし続けていた。
 いつも酷い事をし続けている癖に、何故その日に限って…彼は気まぐれの
ようにそんな優しさを見せたのか…?
 そんな事ばかり考えている自分を苦笑したくなった。
 
―考えているのは、眼鏡を掛けた方の佐伯克哉の事ばかりだった…
 
 御堂が逢いたいと焦がれるのは、自分に酷いことをしていた彼の方。
 それを…その夢を見て、嫌でも気づかされてしまった。
 だから、どれだけ激しく抱いても…彼の心は、決して満たされなかった。
 その行為では、ダメなのだ。
 
(気づきたくなかったな…)
 
 ぼんやりと、明け方の空を薄目で眺めていきながら苦笑していく。
 嗚呼、やっと気づけた。
 自分が本当に望んでいたのは…求めていたのは…。
 
―君に優しく、抱かれる事だ…
 
 目を瞑りながら、優しく触れてくれた時のような手つきで。
 あの切なくも熱い眼差しを浮かべた彼に…御堂は、抱かれたかった。
 あんな酷い記憶ばかりじゃなく、凄惨な記憶を刻みつけた相手だからこそ…
その手で、上書きして欲しかった。
 
―自分の中に思い出される記憶が、陰惨なものじゃなくなるぐらい…熱く。
 
 そんな事を考えている自分に、呆れてしまっていた。
 窓の外に広がる朝日は…とても美しかった。
 それに少しだけ、御堂は救われるような気持ちになった。

「…どれだけ悲惨な夜でも、必ず夜明けは訪れる、か…」

 そう、誰にだって辛い出来事が起こって絶望に染まる時はある。
 けれど…一年前は監禁と陵辱の果てに一度は人格が崩壊寸前にまで
追い込まれた御堂自身とて、今はこうやって普通に生活を営んでいる。
 朝は、人の心の闇をほんの一時でも晴らしてくれる。

―その鮮やかで美しい光で、照らし出す事によって―

 窓の向こうに、荘厳な赤と橙が煌き…美しいグラデーションを生み出して
入る光景を見て、心に少しだけ光が差すようであった。
 こんな日常に垣間見える…そんな『美』が、人の心に光を指して…慰めていく。
 そんな恩寵を思いがけず与えられた事によって、御堂は…己の心に
正直になる事にした。

「…自分の気持ちに、正直になろう…」

 もう、目を背けていられない。
 抱いた日から一週間、文字通り寝ても冷めても…考えるのは佐伯克哉の
事ばかりだった。
 離れたって忘れられない。
 踏ん切りをつける事も、想いを捨てる事も出来ず堂々巡りならば…どんな
形でも答えを出す為には、自分は彼に会う必要があるのだ―

「…今の君は、私が恋焦がれて逢いたい方の君じゃない。その話が
事実だったとしても…それでも、私は…逢いたい、んだ…」

 どちらの佐伯克哉でも、会いたい。
 特に…自分の心にその存在を灼きつけていった眼鏡を掛けた方の彼に。
 その情熱は御堂自身を激しく突き動かしていく。
 先週、強姦のように抱いた後…強引に克哉と携帯電話の番号とメルアドを
交換しておいた。
 そのメルアドに短くメールをしながら、御堂は溜息を突いていった。

『今週の週末、君に逢いたい。都合がつくのなら逢って欲しい』

 それは御堂らしい、簡潔極まりない文章。
 けれど何より、その真意をはっきりと告げている文面だった。
 そして…その夜、克哉から返信が来た。

―判りました。場所や時間の指定はそちらさえ良ければお願いします。

 克哉から返された文面もまた、素っ気のないものだった。
 だが…返信があった事に安堵を覚えたのも事実だった。
 そして、そのまま御堂は…都内でも有名なホテル名と時間をメールに記して
送信していく。

―そして彼らは再び、邂逅していく。

 互いにお互いを求めながら、そして同時に深い葛藤を抱えながら。
 惹かれあいながらも、同時に反発する心を抱いて…。
 そして御堂が指定した日時を心待ちにしていく。
 
―こんなに誰かと約束しただけで、心がざわめく事など…今までの人生に
なかったように感じられた―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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