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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―その広大な樹海は、子供の姿をした佐伯克哉の精神が
生み出した複雑な想いそのものだった

 克哉と眼鏡の目の前には、鬱蒼とした木々が樹立して存在していた。
 余りにも多くの葉が折り重なっていて、その奥には光など殆ど差しそうに
ない雰囲気の樹海を目の前にして…眼鏡は眉を顰めていった。

「…お前、本当にこんな場所に入って行こうというのか…?」

「うん。だって…きっとあの子はここにいる筈だからね」

 きっぱりと言い切りながら、克哉は眼鏡の手を強引に引いていきながら
ズンズンと前に進んでいく。
 現実にいた頃は泣いてばかりだった筈なのに、何だって今自分の目の前に
いるコイツはこんなに強気でいるのか本気で不思議でしょうがなかった。

(何なんだこの変わりようは…?)

 御堂の前では、泣いてばかりいた。
 その想いを自覚しながら…殊勝な気持ちばかり抱いていたのを内側から
感じて知っている。
 愛しい人間に関する記憶だけは、氷の中にいた時でも時折感じる事は
出来たからだ。
 …だが、こいつと人格が切り替わってからの一週間。
 もう一人の自分が何を想い、考えていたのか眼鏡の方は全てを
知っている訳ではない。
 だから、接すれば接するだけ疑問は大きく膨らんでいく。
 
―こいつがここまで、強気であの子供を捜す理由は何故か…と。

 眼鏡が逡巡している間に、克哉はがむしゃらに森の中を突き進んでいった。
 しかし奥に進めば進むほど、光は殆ど差さなくなり…視界が徐々に
効かなくなる。
 元々、太陽など望むべくもない世界だが…光が差さない深い森の中を
地図も方位磁石もない状態で進むというのは現実ではまさに自殺行為以外の
何物でもない愚行だ。
 
「おい! どんどん…暗くなっているぞ! お前方向が判って進んでいるのか?」

「ううん、全然判らないよ」

「何っ…!」

 あまりにケロリ、と言い放たれてしまったので…眼鏡の方が本気で驚く
番になった。

「…オレには、あの子が本気で隠れてしまったら探知する事がし辛い。オレと
あの子は…遠い存在だからね。けど、お前とあの子は確かに繋がりあって
いる。探し出したかったら…お前を連れた状態で、あの子が隠れている場所
まで辿りつく以外に方法はないよ。だから進んでいる」

「…お前、ここで遭難して二度と戻れなかったという不安はないのか。聞けば
聞くだけ…聞いているこっちが心配になってくるぞ…」

「絶対に戻るよ。オレ達が揃って遭難したら…御堂さんが絶対に悲しむから。
それなら…絶対にどれだけ時間が掛かっても…オレ達にはあの子を探し出して
全ての悲しみの元を断つしか道はないんだから。逆にお前に聞くけれど
…竦んで、立ち止まって…それで何になるっていうんだ?」

 真っ直ぐに…こちらを見据えていきながら克哉が問いかけていく。
 もう一人の自分の瞳に、余りに迷いがなかったので逆に眼鏡の方が
言葉に詰まる結果になった。
 そうだ…御堂と自分は、やっと再会出来た。心を通わせて…ようやく
肌を重ねることが出来た。
 それなのに…何を弱気になっていたのだろうか…と歯噛みしたい
気持ちに陥った。

「…そうだな。ここまで来れば毒を食らわば皿まで…だな。判った…かなり
不安要素があるが、今はお前にトコトン付き合ってやる…。俺は絶対に
御堂の元に帰らなければならないからな…」

「…ん、ありがとうな。オレ…」

 そう微笑んだ克哉の表情が思いがけず優しいものだったので、眼鏡は
少しだけ眼を奪われていった。

(って…何、コイツに眼を奪われているんだ…。コイツと俺は基本的に
同じ顔をしている筈だろう…?)

 眼鏡は口元を覆いながら、自分で突っ込みを入れていった。
 するとこちらがそっぽを向いている間に、克哉は予想もつかない
行動をし始めていった。

「とは言いつつも…明かりもなく、こんな深い森の中を進んでいくのは…
不安でしょうがないよね。…えい!」

 そう克哉が掛け声を出していくと同時に…彼の手の中に、一つのカンテラが
生まれていった。
 あまりに非現実な光景に、眼鏡は驚愕に眼を見開いていった。

「なっ…!」

「…あは、一応…ここはオレ達の世界でもあるから…気合入れればこれくらいの
物は作れるみたいだよ。…この樹海みたいな大きなものは、ちょっと厳しそう
だけどね…」

「…そういえば、ここは現実じゃなくて…俺たちの世界でもあったな。なら…
こういう物も作れるのか…?」

 ふと、好奇心を抱いて…眼鏡ももう一人の自分に習って念じていくと…
次の瞬間、手の中にとんでもないものが生まれていった。

「…っ! って何を作っているんだお前は!」

 それを見て克哉は顔を真っ赤にしながら叫んでいく。
 眼鏡が手の中に生み出したもの…それは乗馬鞭と、荒縄だった。
 そういえばこの男の元々の性癖は…相当に難有りだった事実を思い出し
克哉はかなり頭痛を覚えていく。

「…あのクソガキをお仕置きする為には良いかなと思ってやって
みただけの話だが、何か文句あるのか…?」

「大有りだよ! そんなものを持って現れたらあの子が怯えるだろうが!
これは没収するよ!」

 といって克哉は鞭と荒縄を、眼鏡の手からひったくるように奪っていくと
全力でそれを木々の向こうに放り投げていった。

「貴様! 人の渾身の力作に何をする!」

「こんな物を渾身の力を込めて作るなっ! ほんっとお前…信じられない!」

 何で自分たちは、こんな低レベルな事で言い争いをしなくてはいけない
のだろうか…と半ば頭の片隅で思いながらも、克哉はもう一人の自分を
睨み付けていく。

「…何だその眼は…そんなに反抗的な態度を取るっていうのなら…
お前に思い知らせてやっても良いんだぞ…?」

「へえ、やれるものならやってみたら? もうそういう酷いことはしない
筈じゃなかったっけ…『俺』…?」

「…御堂の人格を崩壊させるような行為は二度としないという意味だ。
…元々の俺は、相手を啼かせたり…苛め抜くのを好む性癖だからな…。
心配するな、加減はしてやる…」

 相手の物言いを聞いて、克哉は楽しそうに笑っていった。

「…はは、やっとお前らしくなったな。…それで良いんだよ。ま…
お前に此処で苛め抜かれるのは勘弁願いたいけどね…」

 その発言を聞いて、眼鏡は怪訝そうな顔を浮かべていく。

「…どういう意味だ?」

「…お前、御堂さんを想う余り…自分のそういう性癖まで否定しながら
ずっと生きていただろう? だから弱っていってしまった。
…確かにあんな風に、相手の人格を崩壊させる寸前までいたぶるような
そんな真似は二度としちゃいけないけれど…だからと言って、お前のその
嗜虐的な性癖が消える訳じゃない。折り合いをつけながら…それを出して
生きていったって良いんじゃないかな…と言いたいだけだよ」

 そう告げる克哉の表情は、達観したものだった。
 それを聞いて…眼鏡は、違和感を覚えていく。

―こいつも、御堂を想っている筈じゃないのか…?

 しかし今の言い方は、『眼鏡』が現実に戻ることを前提にした言い方の
ような気がしてならなかった。
 けれど…好きな相手がいながら、ここまで潔く…自分が生きる事を
諦められるものだろうか?
 眼鏡にはそれが理解出来ない。
 だから不機嫌そうな声を出しながら、逆に問いかけていく。

「…何だかさっきからお前の発言を聞いているとイライラしてくる。…そうだ、
ずっと疑問で仕方なかった。…お前も、御堂を想っている筈だろう…?
それなのに、どうして…そんなに全てをあっさりと諦められるんだ?
人の性癖を理解して認めるのも良いが…どうして、そう…達観したような
そんな顔をお前はしていられるんだ…?」

 この世界に来てから、展開が速すぎて…頭と心がまったくついていって
いなかったが…ようやく眼鏡は自分のペースを取り戻して、ずっと不思議で
仕方なかった事を尋ねていく。
 それに対して…克哉はどこか儚い表情を浮かべながら、そっと眼鏡を
見つめていった。

―それはどこまでも澄んだ宝石のようなアイスブルーの双眸

 その瞳に、一瞬…意識が捕らえられていく。
 深い樹林の中で二人はようやくお互いと向き合い…対峙していく。
 
―森の奥では小さい克哉の鳴き声が、微かに聞こえ続けていた―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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