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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―暫くの睨み合いの後、克哉はポツリ…と呟いた
 
「全てに達観している訳じゃない。心のどこかでは…怖いと思う
気持ちはあるさ。
けれど…オレだって一度、お前と同じように逃げているんだ。
それで…お前と
御堂さんの間に横恋慕して、割り込むような真似は
筋が通らないだろう…。
そう思っているだけの話だよ…」
 
 深く俯きながら、克哉が答えていく。
 それを聞いて…眼鏡は言っている意味が判らない、という風な顔をした。
 ただ、彼は耳を傾けてくれているのだけは見ていれば充分に判る。
 だから克哉は言葉を続けていった。
 
「…あの眼鏡を最初、Mr.Rから受け取って…お前が御堂さんを陵辱して
その場面をビデオ撮影して脅すなんて真似をした時から、オレは相当に悩み
続けていた。本当にそんな酷いことを眼鏡を掛けている間に自分がしてしまった
のか…認めたくなかった。だからその苦痛から逃れる為に…オレは自らの意思で
眼鏡を掛け続ける事を選んで…そして、オレはお前の中に閉じ込められ
てしまった…」
 
「…そうだ。お前が眼鏡を掛けるという選択をしなかったら…確かに俺は
この一年間、現実で生きることはなかっただろう。…あの眼鏡を手にするまでの
肉体の所有権は確かにお前にあったんだからな…」
 
 克哉の言葉に、眼鏡もそっと頷いていく。
 そして彼は…更に己の気持ちを吐露していく。
 ずっと…もう一人の自分に対して、克哉は言いたい事…伝えておきたい事は
溢れんばかりにあった。
 恐らく…この機会を逃せば、きっと言う機会を逸する。
 こうやって向かい合いながら言葉を交わせるなんて事は二度とないかも
知れない。
 そう思えば…言い難い事も口に出せるような気がした。
 
「そうだね。だから…オレは自分で、自分が生きる事を放棄したようなものだよ。
…その後に、御堂さんへの想いをお前は自覚して…緩やかに変化を遂げた。
あの人を解放することを選んでからのお前は…少しだけ、変わった。
 だから拒絶する気持ちが薄れて…オレの意識はゆっくりと浮上して…
内側から
お前をこの一年、見届けていた…。
そうしたら、お前の想いが緩やかに…流れ込んで
オレもいつしか、あの人を想うようになってしまっていた…」

 静かな声で、ようやく…もう一人の自分に対して言葉を紡いでいく。
 
「…そうか、それで…お前は、御堂を…」

 眼鏡もやっと、合点がいった。
 自分に肉体の所有権が移る前、克哉の方は御堂と接した事は殆ど
ない筈だった。
 それは信じられない程少なく、片手で数えられる程しか接点がない。
 なのに…どうして、彼が自分と同じように御堂を想うようになったのか…
一週間前に切り替わって…内側から克哉を見守るようになってから
ずっと抱き続けていた疑問だったのだ。

「そう…多分、お前を拒絶していた時よりも…オレ達を隔てる境界線が
今は曖昧になってしまっているんだと思う。だから…お前の中の強い
想いだけは静かにこちらに流れ続けて来た。
 それで…オレはあの人を好きになってしまった。それが…お前の問いかけ
に対する、こちらからの回答だよ…」

「…お前は、本当にそれで良いのか…?」

 相手の考えを聞いて、納得した。
 けれど…それでも眼鏡は問いかける。
 …恐らく、自分だったらこんなに素直に受け入れたりは出来ないからだ。
 眼鏡は…今は本気で愛する人がいる。
 だから何が何でも、消えたくないと思った。

 彼は万能だった。何でもこなす事が出来た。
 人の心を読み取って操作するのも、その気にさせてこちらに奉仕させる
のも簡単に出来る事だった。
 だが、御堂だけはどれだけ手を尽くしても…追い詰めても、何をしても
手に入らない…何よりも焦がれたものだった。
 一度は手放して、相手のその後の為に断腸の思いで諦めた想い。
 それが奇跡的に叶って、両思いになったのだ。
 そうなった以上…彼は誰と争おうと今は引く気などなかった。
 例え…自分を敵に回す事になっても―

「…今のお前は、何が何でも生きたい…と強い想いを抱いている。
そしてオレには…それが良く判っているから。それに…あの人は
オレを抱いている時、背面から泣きながら抱いた。けれど…お前に
抱かれている時は、正面を向きながら本当に…嬉しそうに、笑って
いただろう。それが…何よりの答えだろ…?」

 たった一度だけのセックスの記憶を思い出して、克哉の頬に…ツウっと
涙が伝っていった。
 それは見ているだけで…心が引き絞られるような切ない顔。
 透明な雫が宝石のように、キラキラと輝いて…静かに落ちる。
 不覚にもその様子に…眼鏡は一瞬、眼を奪われていった。
 もう、何も言い返せなかった…。

「…それでも、オレもあの人を愛している…。だから…あの人に
とって一番幸せになる事をしたい。それが…お前にこの身体を
譲る事なら、オレはいつだって自分の生など差し出すよ。
 あの人が愛して止まないのは…お前の方、何だからなっ!」

 初めて、克哉は声を荒げていく。
 静かだった涙が、激情に揺さぶられて滂沱のものと変わっていく。
 そして力強く言った。

「愛しているから…! あの人にオレは誰よりも幸せになって
貰いたいんだ! だから…その手をどうか…離さないでくれ『俺』…!」

 ゆっくりと眼鏡の方に間合いを詰めながら、その両肩をしっかりと
掴んで、睨み付けるかのようにこちらの瞳を覗き込んでくる。
 それは紛れも無い彼の本心、そして想い。
 涙で濡れた双眸は…ハっと息を呑むぐらいに迫力があった。
 やっと…もう一人の自分の事が判ったような、そんな気分になった。

「あぁ…判った…」

 もう、それ以上…何を言ってやれると言うのだろうか…?
 コイツの事を弱くて優柔不断で、どうしようもない奴だと思って
バカにしていた。
 だから…同じ肉体を共有していながら…眼鏡の方から、克哉の想いは
決して見えなかったし、伝わってくる事もなかった。
 …見下していたから、今まで見えなかったのだ。
 ここまでの熱い思いを、強い願いを…だからこそ、もう一人の自分は…
自分が生み出したあの厚い氷すらも打ち砕いて、眼鏡を解放するに
至ったのだ。

―傷つきたくなくて、御堂を傷つけたくなくて築き上げたあの氷が
ある限り…決して御堂と自分が幸せになる事がないと彼は判っていたから…
 
「…お前は、どうしようもないバカだな…」

 そう呟きながら、眼鏡はそっともう一人の自分を抱きしめていく。
 …その表情はどこか、優しかった。

「そうだね、自分でもちょっと思うよ…」

「ちょっと、なのか…? それに「大」の字がついてもおかしくない
レベルのバカっぷりだと思うがな…?」

「おい…! それは幾らなんでも酷すぎるってば…!」

 相手の肩に、顔を埋めるような体制で抱きしめたから…お互いに
顔を見ることは適わなかった。
 けれど…何となく、触れ合っている感覚から充分に判った。
 …ようやく、彼らはお互いを理解した。受け入れ始めた。
 だから…こうやって触れ合っているのは、心地よかった。

「あったかい…不思議だね。心だけの世界でも…こうして、お前に
抱きしめられるとこんな風に体温を感じられるって…」

「そうだな。どこまで現実と同じような感覚があるんだろうな…
この世界は…」

 小さな子供の自分が生み出した、全てを阻むような深い森の奥で…
二人はようやく、お互いを受け入れ始めていく。
 眼鏡の手がそっと、あやすような手つきで…相手の背中を抱きしめていく。
 自分がこんな仕草をするようになるなんて、と思ったが…重なり合っている
部分から、相手の感情が伝わる。
 
(あぁ、そうか…少しずつ、こいつの心が…俺の中に流れ込み始めて
いるのか…?)

 かつて、御堂をいたぶっていた頃の自分はもっと冴え渡るような心を
持っていた。
 それは澄みすぎていて、他者の痛みを理解出来ない絶対的な冷たさを
同時に孕んでいた。
 あの氷は、それ以前までの自分の心の象徴だったのかも知れない。
 冷たすぎて、恐らく自分はどんな人間の想いすらも受け入れなかった。
 傍にいた人間の殆どを退けて、そして傷つけていった。
 けれど…今は、ゆっくりと…氷が溶けていくようだった。
 もう一人の自分はお人よしと言えるぐらいのバカで…暖かかった。
 その温もりが…眼鏡の心を溶かして…ゆるやかに氷のようだったものを
どこか温かみのある水へと変えていく。

 氷では、命を育むことは出来ない。
 水だからこそ、この世の全てのものは生きる事が出来る。
 冷たすぎる心は自分自身も、大切な人も傷つける。
 それをようやく…この瞬間、眼鏡は理解していったのだ…。

―ここにとっくの昔に、自分の味方はいたのだ…

 やっと、その事実を知る事が出来た。
 暫く…そのまま二人で抱き合っていった。
 …その顔はお互いに優しく、自然に笑い合っていくと…ふいに
激震が二人を襲っていった。

「何だっ…!」

「うわわっ!」

 弾かれたように、二人は身体を離して…倒れそうになる肉体を、
その辺にある枝を掴んで支えていくと、更に揺れは酷くなっていった。

―お前達だけ…酷いよっ! オレにだけ…オレにだけ、こんな痛い
記憶を押し付けて…自分達だけ、苦痛から逃れて! 
 お前達が、憎い! 何も知らない顔をして…何も背負わないで…!
お前達何て…消えてしまえっ!!

 それは鼓膜を破るのではないかと思えるぐらいの物凄い大きな
音量で樹海全体に広がっていった。
 その嘆きに、憎悪に応えるように…木々の色が一気にどす黒く
代わり…一瞬にして深い緑を称えていた場所は黒い森へと
変わっていった。

「くっ…! 何だ、立って…いられない…!」

「這ってでも、良い…! どうにか…進んで、くれ…『俺』…!
多分、こんなにはっきりと声が聞こえる以上…あの子はきっと
そう遠くない所にいる筈だから…!」

「うわっ…くっ…判った。しかし…無様な、格好だな…」

 二人とも、激震を繰り返す森の中で…地面に這うような
格好で進み続けていく。
 揺れる枝や葉に、二人の衣服や肌は細かく傷つけられていく。
 それでも…二人は、土で身体が汚れても…ゆっくりとにじり寄るように
先に進んでいった。

―どれくらいの時間、そうやって進み続けたのだろうか…?

 ようやく視界が開けて、黒い森を抜けていく。
 その眼前に広がるのは…おどろおどろしい雰囲気を纏っていて
醜悪な外見をした一本の大樹だった―
 
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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