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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―本多の前に置かれたのは、真っ黒な色をしたスープを湛えている
大盛りのラーメン丼だった。
 普通の二倍ぐらいのサイズがある上に、漆黒の液体からは殆ど
湯気が出ていない。
 何で喫茶店に来ているのにラーメンをいきなり出されるのか脈絡が
判らなくて克哉と本多はお互いに目を白黒させながら困惑していくと。

「お、おい…これ、何だよ! どうしてラーメンなんて…!」

「あ~…今、店のメニュー用に使う食材、どれも切れ掛かっていて買い出しに
行かないと危険な状態なんだよ。でも、克哉さんがいる時に他の客が
来たからって外に出たくなんかないし。だから…まあ、俺がラーメン用に
確保してある材料なら使っても平気かなって思って特別に作ったんだよ。
ラーメン、あんた嫌いなの?」

「いや、普通に好きだが…けど、この真っ黒のスープなんだよ! こんな不気味な
モン…今まで見た事ないぜ!」

「あ~それね、ラードを特殊な方法で味付けして香ばしく焦がした奴を海鮮系を
ベースにしたスープと合わせて作った奴。油膜で蓋をする事で…熱が逃げにくく
なって熱々のまま最後まで食べれるって奴なんだ。俺…色んなラーメン屋を
食べ歩くのが趣味でさ。で、気に入った店のは再現出来るように色々試行錯誤を
繰り返しているって訳。それは試作品のほぼ完成バージョン。都内じゃなかなか
食べれない代物だから、心して味わってくれる?」

「へえ…太一にそんな趣味があった事も、この黒いスープも初めて
知ったよ。…こんなラーメンってあったんだね。ねえ、本多…一口
食べてみても良い?」

「お、おう…良いぜ。幾らでも食えよ!」

 興味深そうに克哉が丼を覗き込んでいくと、ちょっとだけその端整な顔が
こちらに寄せられる感じになって少しドキマギしてしまう。
 その瞬間、太一がムっとしたような表情をして制していった。

「ちょっと待ったー! 克哉さんはこっちを食べてよ! そのラーメンも確かに
俺の自信作だけど、結構味濃い目だから…まずこの試作品の方を絶対に
先に試して欲しいんだ!」

 そうして、太一は空かさず克哉の分として確保してあったサンドイッチの皿を
カウンターの影から取り出して目の前に置いていった。
 それは一見すると普通の卵を使用した何の変哲もないサンドイッチにしか
見えない。
 だが…克哉は薄切りのパンに挟まっている卵ペーストの中に、卵以外の
具材が入っているのを目ざとく気づいていく。

「うわ…これ、太一が作ったんだ。何かとても美味しそうだね…。で、これ…
卵の所に、何か細かくカットした物が挟まっているのかな?」

「さっすが克哉さん! ご名答だよ! それね…うちの定番の卵ペーストに
俺が自分で作った自家製のピクルスを混ぜ込んであるんだ。外国だと
そういう卵サンドがあるってこないだ知ってさ、それで自分なりに試行錯誤して
美味しい! と思った物が出来たから…是非克哉さんにも食べて貰いたくてさ。
さ、早く試してみて!」

 そうしてワンコさながら、非常に明るい笑顔を浮かべていきながら太一は
克哉に熱烈にサンドイッチを薦めていく。
 太一の目線は真っ直ぐに克哉だけに注がれていて、完全に本多は
アウトオブ眼中に等しかった。

(…何かここまで完璧にいないものとして扱われて話を進められていくと
ある意味…恋敵ながら、天晴れとしか言えなくなるぜ…)

 しかも本多の前に出されたのは二人前は余裕であるラーメンである。
 早く食べないことには伸びてしまって…どんどん増量体制に入る上に
まずくなる代物だ。
 …物凄い文句を言いたい心境だったが、太一の作ったラーメンは確かに美味しく
これの麺を悪戯に伸びさせて味を落とすのは勿体無い出来だった。
 こちらの口を封じる為にラーメンをチョイスしたのなら…相手の企みは
見事に成功していると言える。
 …二人が話している最中、本多が麺を啜っているズズズズ~という音だけが
喫茶店中にBGMのように響き渡っていた。

「うん…じゃあ食べさせて貰うな。頂きま~す」

 そうしてサンドイッチを前に手を合わせていくと…克哉は太一が作った
サンドイッチを口に運んでいった。
 暫くモグモグと口を動かして咀嚼していき、ゴクンと飲み込んでいくと…
花も綻ぶような笑顔を浮かべていった。

「…克哉さん、どうかな…?」

「うん…これ、とても美味しいよ。ここの卵サンドの味ってオレ好みで前から
凄い気に入っていたけど…それに丁度良く浸かっているピクルスが混じった
事によって味にアクセントが出て、良い塩梅に調和している。
 少し黒胡椒が効いているペーストとの相性も抜群だと思う。これならすぐに
新メニューに出しても大丈夫なレベルだと思うよ」

「やった! やっぱり克哉さんってこういうのの説明とかすっごい上手いよね。
前からたま~に俺が趣味で買っているコンビニの新商品とかも一緒に
飲んでもらったりすると…克哉さんの味の表現、的確だなっていつも
思っているし。営業やっているからかな~」

「そ、そんな事ないよ。率直に味の感想と分析をしただけで…」

「またまた。克哉さん、自分の能力低く見すぎ。克哉さんの感想を
聞きたいって思ったからこそ…今日、誘ったんだしさ。けど、克哉さんが
そうやって気に入って貰えたなら自信持てるな! 早速おや…いや、マスターに
提案を持ちかけてみようっと」

 …すっかり本多置き去りにした状態で二人で盛り上がっていて少し
寂しささえ覚えていった。
 ジト…とした目で克哉と太一のやり取りを見守っていたが、これだけの
時間が掛かっても…このラーメンはいつまで経っても温度が下がらないので
早くは食べられなかった。

(何か克哉の説明を聞いていると、向こうも凄い旨そうだな…しっかしこの
ラーメン、いつまで経っても冷めないから…凄い食うのに時間が掛かるぜ…)

 箸とレンゲをそれぞれ左右の手に持って食べ進めていくが…湯気が出ない
真っ黒なラーメンスープは思いの他、手強かった。
 何せ常に火傷しそうなぐらいに熱いので冷ましてから食べないと…口の皮が
ベロベロになりそうなので…絶対に早く食べれないのだ。
 …ここまで見越した上で、このラーメンを出して来たのというのならあいつは
物凄い策士か、性格が悪いかのどちらかだとつくづく思った。
 だが完食しないで残して切り上げるのも何か悔しい気がしたので…本多は
黙々とただ、食べ続けていた。

「…けど、このピクルスは美味しいね。単体で出しても充分にメニューに
なる価値があると思うよ。そう考えると太一って料理上手いよね」

「まあ、ね。克哉さんに美味しい物を食べて貰いたいからね。最近は特に
努力するようにしているよ」

「えっ…?」
 
 そんな発言を、はにかむような笑顔を浮かべながら太一は平然と伝えて来た。
 克哉もその言葉の意図を少しして察したのか、少し恥ずかしそうに頬を染めていた。
 …この瞬間、自分が箸をへし折らないで済んだのは奇跡だと、本多はつくづく
思い知った気がした。

(このガキ…! 俺が目の前にいるのに、堂々と克哉を口説きに掛かるなんざ…
良い度胸しているじゃねえか…!)

 本多は思いっきり額に青筋を浮かべながら肩を大きく震わせていく。
 だが、二人の間に流れている良い雰囲気をこれ以上黙って見守ってなんか
いられなかった。

(火傷ぐらいなんだ…! 目の前で他の男に克哉が口説かれているのをこれ以上
黙って見続けるぐらいなら俺も男だ…! 覚悟を決めて…!)

 そうしてフーフーと冷ます行程をギリギリまで削り、かなり熱い状態のまま
黒いラーメンの液と麺を胃に流し込み続けた。
 たまに涙が出そうになるくらい熱いものが口の中と食堂を通り抜けていくが
今は気にしない事にした。
 あんまり辛い時は冷たい水を流し込んで瞬間的に冷やしていきながらペースアップを
してラーメンを啜り、そして…。

「よっしゃあ!! ラスト…!」

 太一と克哉が二人で言葉もなく見詰め合っている最中、本多は盛大な
声を上げながら特大ラーメンドンブリを持ち上げて、そのスープを飲み干し
始めていった。
 これには二人もかなり驚いたらしい。
 本多の剣幕に呆気に取られたような表情を浮かべながらつい見入ってしまうと
ドン! と大きな音を立ててカウンターの上に器を置いていった。

「よっしゃあ…完食!」

 多少口の中がヒリヒリして痛かったが、そんなのは克哉への愛への前では
気にする事ではなかった。
 この瞬間、達成感の為…確かに本多は無駄に輝いていたのだった。

「わっ! 本多…あの量のラーメンをこの短時間で食べ終わったの?
大学時代から思っていたけど…つくづく、本多って大食漢だよね。
…流石大食い大会に出るだけの事はあるよ」

 克哉が心からの賞賛を込めながら、そう呟いていくと…その瞬間、
太一の目がキラリと不穏に輝いたような…そんな気がした―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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