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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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3月23日より再開しました。現在の連載物のメインは
この話になります。
 克克で、歓楽街を舞台にしたお話です。
 良ければ読んでやって下さいませ。

   夜街遊戯(克克)                 5           10 
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本当に人というのは面白いものですね
 手を伸ばせばすぐ其処に届く距離に、望むものがある時でも
 小さな意地やプライドが邪魔をして見落としてしまう
 光と影、対なる存在であるあの方同士もあまりに近すぎるが故に
見えなくなっている部分があるご様子
 まあ、簡単に得られないからこそ幸福は貴重で価値があるものなのでしょう
 ククッ、貴方という素材は私を心底楽しませてくれますね
 さて、夜の街を舞台にしたお二人の恋模様はどのように転がるのでしょうか

 克哉が歓楽街のホテルで、最後にもう一人の自分と会った日から
一か月が過ぎたある夜。
 自尊心が強い性格をした方の佐伯克哉の意識が出た状態で彼は
クラブRの扉を潜っていった。
 赤い天幕と蟲惑的な匂いに包みこまれた非日常な空間。
 その奇妙なクラブの店主たる男は自分の与えた眼鏡の力もなく
『彼』の方の意識が表に出ていたことを酷く喜び、そして歓迎していった。

こんばんは、我が主。貴方様が私の手引きもなく、こうして現われて
下さるとは至極光栄の至りでございます

相変わらず大袈裟な男だな。普通に出迎えてくれれば良い。そこまで
お前に畏まって応対されると何か裏がありそうで、落ち着かないな

「おやおや、随分な謂われようですね。私は心から貴方様の来訪を
喜び、歓迎していますのに。今宵はどのような要件で、当店を
訪れたのでしょうか?」

ここで一杯、何かを飲ませて貰おうか。適当に肴になりそうなものでも
一緒に持って来い
 
「了解しました奥の部屋のソファにお座りになってお待ち下さい

 そうして男は彼を店の奥に消えていくと、スウっと幻のようにその姿を
掻き消していく。
 あの男がそれぐらいのことをやった処で、彼にとっては慣れたものだ。
 別段驚きもせずに言われた通りに、赤い天幕と豪奢なベルベッドのソファが
置かれた部屋へと足を向けていく。
 
ここは、初めて克哉を犯した場所でもあった

 その時の記憶と自分が何を想って、相手を犯したかを思い出した時
今との心情の違いにイラっとして苦い溜息を突いていく。
 無意識の内に眼鏡を押し上げる仕草をしていくが其処に慣れた感触が
ないことに気づいて、ハっとなっていく。

(何故俺はこんな処に来てしまったんだ。しかも、あいつの意識を
押し出して眼鏡も掛けていないのに

 無意識の内に、眼鏡を求めていた。
 そう思った瞬間目の前の机の上に、あの銀縁眼鏡が現われていく。
 長年、意識の奥底に眠っていた自分が目覚めるキッカケとなったアイテム。
 
これを掛ければ、何か変わるのか? あんな、俺らしくないことをやって
しまったのを打ち消せる、のか

 一か月前、戯れのつもりで夜の街にもう一人の自分を誘いコスチューム
プレイを堪能する筈だった。
 しかしどこで歯車が狂ったのか気弱な方のあいつは、演技の最中に
迫真の様子で、こちらに告白して来た。
 それに、気づけば引きずられるように自分は言ってしまった。

『好きだ

 という一言を。
 その後、気が狂ったようにあいつを貪り続けた。
 今までに何度も抱いて来た筈なのに、それらの全てが霞んでしまうぐらいの
強烈な悦楽だった。
 正気を失ってしまうかと思うぐらい、全身が焼かれてしまうのではないかと疑い
たくなる程の濃厚な一時で、まるで熱に浮かされたようだった。
 しかし全てが終わって、欲望の全てを吐きだした後その一時を
認めたくないという心理が彼は働いてしまった。
 自分が、あいつごときに本気になるなど自尊心が極めて高い彼にとっては
容易に認められることではなかった。

(単なる気の迷いだ

 あの日から、あいつの内側でずっとそう想って、眠り続けた。
 信じたくなかった。
 完全に遊びのつもりで接していた相手に、いつの間にか本気になっていたなど。
 その事実を直視したくなくて、一か月彼は表に出ることはなかった。
 けれど克哉と自分は、言わば表裏一体。
 一つの身体を共有している間柄だ。だからどれだけ目を逸らしていても
シャットダウンするように心掛けても、あいつ側の感情が何かの拍子に
流れて来てこちらの心を揺さぶるのだ。
 だから、もうそれ以上見たくないし、流れて来て欲しくないと思った瞬間に
彼はこうして、久しぶりに肉体の主導権を握っていた。
 ただ、どこに行けば良いのか迷っていたら目の前にこの奇妙な店の
扉が開かれ、誘われるように足を向けた。
 そういった事情で今夜、ここに訪れたのだ。 
 グルグルと頭の中で色んな感情が渦巻いてしまって不快だった。
 それを振り払うために机の上の眼鏡に手を伸ばして、それを掛けていく。
 その瞬間に頭がクリアになって、少しだけ気持が晴れていった。
 
まったく、俺らしくない

 苦り切った様子で呟いていくとようやくここの主でもある男が
酒を持って現れた。
 精巧な細工が施された金属製のお盆の上には、二つの小さな
クリスタルガラスで作られたグラスが置かれていた。
 片方は透明で、片方は翡翠を思わせるような色合いだ。
 独特の臭気が、軽く鼻孔を突いていく。

お酒をお持ちしました」

「あぁ御苦労だった」

 そうして、すぐ傍の机にグラスを二つ、置かれていく。
 緑色をした方は、強烈なハーブというか草の臭いを感じたので
透明な方を手に取っていくと、こちらも口元に充てると物凄い
嫌な予感がしていった。

おや、どうされたんですか? 煽らないんですか?」

念の為聞くが、これは一体何の酒だ?」

私が愛飲しておりますスピリタスですが何か?」

 その一言を聞いた瞬間、眼鏡は相手に目にも止まらぬ速さで
グラスを投げつけていった。

 ビュン!

 その動きはまさに高速のごとき。
 しかしそれ程キレのある攻撃を、あっさりとかわすMrRもまた
並の人間ではなかった!

「な、何をなされるのでしょうか?」

アルコール度96%もある物を、ごく当たり前のように出すな
お前は俺を殺す気か!」

 この男が非常識というか、普通の人間じゃないことは初めて会った日から
とっくの昔に気づいていたがここまでとは思わなかった。
 スピリタスは世界最大のアルコール度数を誇る酒で、70回以上の蒸留
作業の果てに完成した強烈な代物だ。
 当然、飲む様に作られたものではなく狩人が数滴、水に垂らして飲んだり
傷口を消毒したり、果実酒に漬け込む用だったりそういう用途で作られて
いるものなので、希釈して飲むのが基本の酒である。
 ごく一部のカクテルでも使用されているが、あまりに度数が高いのでやはり
少量しか用いらないようにするのが一種のルールとして設けられている酒である。
 それを原液のままグラス一杯煽れば、どれだけの酒好きとて平気では
いられないだろう。
 
「そうですか? 何もかもを忘れるにはとても良い酒だと思いますけどね

お前みたいな人外と一緒にしないで貰おうか。こちらのは何だ?」

「それも私のお気に入りの一品ですアブサンと言って

 ガシャン!!

 今度は銘柄を聞くと同時に、思いっきり床に叩きつけてやった。
 アブサンは薬草リキュールの一種であり70%のアルコール度数を誇る
強力な酒だ。
 しかしスピリタスに比べれば若干低く感じられるが、これは原料にしている
ニガヨモギに幻覚作用と強い中毒性があると言われて、数多くの画家や音楽家を
廃人へと追い込んだ魔の酒と言われている。
 その危険性の高さ故に、19世紀末から近年に至るまで製造禁止にまで
追いやられたいわくつきの酒である。
 カクテルや、砂糖等を入れて飲むのがスタンダードな酒である為この量を
慣れていない人間が一気飲みしたら、まず確実に潰れること間違いない酒であった。

「嗚呼最上品を用意させて頂きましたのに

もう少し、普通の人間が飲めるような酒を用意しろ。こんなのを一気に
煽って平気でいられるのはお前ぐらいだってことぐらい自覚しろ!」

貴方様なら蒸留酒の類を好んで飲まれているみたいですし、大丈夫だと
判断して持って来たんですが。判りました、当店秘蔵のとっておきの蒸留酒を
これから用意させて頂きますね

最初からそうすれば良かったんだ。早くして貰おうか

「御意、それではまた少々お待ち下さいませ

 そうして男は恭しく頭を下げていくと、彼の視界から消えていった。
 まったく酒でも飲んで、このモヤモヤした感情を発散させようとしたのに
とんでもない物を用意されてしまったものだった。
 
まったく、役に立たない男だ

 イライラしながら、ふとソファに肘を突いて凭れかかっていくと脳裏にここで
もう一人の自分を抱いた時のことが蘇る。
 あの時点で、自分が抱いていたのは間違っても、今のような甘ったるい
代物ではなかった。

瞼の上で、あの日の克哉の媚態が鮮明に蘇る

 猿ぐつわをされて、大きく開脚させられた状態で自分に抱かれて乱れていく
その姿をたっぷりと楽しみながら、犯した。
 その具合が予想以上に楽しめたのでそれから何度も抱いている内に、
それなりに気に入っていた。
 なのにまさか、こんな想いを抱くなど信じたくなかったのだ。

「くそ早く、酒の一杯でも持って来い余計なことばかり、思い浮かんでくる!」

 今までが完全に遊びだったと、戯れだったという想いがあるからプライドが
邪魔をして、彼は自分の本心を簡単に認められなかった。
 あんな風に、自分も好きだと言ってしまった瞬間相手に負けてしまったような
そんな気がして、悔しかった。
 だから顔を合わすことも出来ずに、一か月という時間が流れてしまったのに
目を逸らしても、イライラやモヤモヤした感情は決して治まるどころか、日々強まって
いくようだった。

俺があいつごときに本気になるなど認めたく、ない

 心の中でそう叫んだ瞬間、再び部屋の中にMrRが足を踏み入れていった。

「お待たせしました。ザ、マッカランの55年ものです

 今度は、ようやくまともなウィスキーを持ってきたらしく克哉は満足そうに
微笑んでいった。
 マッカランとは、数あるウィスキーの中でも有名かつ、特上な品質を誇る
銘柄である。
 しかも55年も熟成させたものと言ったら、一本で百万ぐらいの値段がしても
おかしくはない。
 特上の酒が飲めること自体は満足だが、もう一人の自分の貯蓄状況を
知っているだけに、少し迷ってしまった。

この一本分で、あいつのなけなしの貯金など全て吹き飛びそうだな

 確かにこの一杯なら、特上の夢に浸れそうではなる。
 しかし値段を察してしまうと妙に冷めてしまうというか冷静に計算を
して酔いしれることを阻んでしまっていた。
 何たってこの男はこう、ろくでもない酒ばかりをチョイスするのだろうかと
真剣に恨みたい心境になった。
 しかし払い切れる自信がないから、という理由で出された酒を断ることなど
彼にとっては屈辱以外の何物でもない。
 暫し、言葉を失って固まっていくと

お値段なら心配されなくて大丈夫ですよ。この一杯も今夜の当店の
使用料も、私からの奢りです。貴方なら大歓迎ですからお代は要りません。
それに、実に愉快なショーを間近で観賞させて頂いておりますしね

ショーとは何のことだ?」

もう一人の克哉さんと、貴方の恋愛劇ですよ。実に予想外の展開ばかり
迎えているので、愉しませて頂いております

 ニッコリと笑いながら、そんな事をのたまったので本気で殴りつけて
やろうかと思った。だがどうにかその衝動を堪えていく。
 代わりに腹いせに、その極上の酒で満たされたグラスを思いっきり煽って
喉に流し込んでいく。
 その瞬間に馥郁(ふくいく)たる香りが鼻腔いっぱいに広がる。
 甘みのある独特のオーク香と良い微かに残るスモーキーな余韻と良い
今までの人生で飲んできた酒の中でも突き出ている一品だった。

(こんな良い酒ならもっと機嫌が良い時に存分に味わいたかったものだな

 それだけが少し残念だったが、しかしその一杯が随分と心の中に
溜まっていた澱を流し出してくれたのは確かだった。
 対価もなくこんな酒を支払われるのは落ち着かないが、自分たちの全てを
眺めて楽しんでいるというのなら話は別だ。
 逆にこれぐらいのものを振る舞われるぐらいでなければ割が合わない。

なのに、それでも克哉の残像は頭の中から消えてくれなかった

 それを振り払うように、もう一杯振る舞われた酒を一気に煽っていく。
 極上の酒に誘われて、彼はまどろみに浸っていった。。
 泥のように深い眠りへ、その全てを追い払うぐらいの深淵へと堕ちていく。
 本から蒸留酒の類を好む性質なので、少しぐらい煽った程度では
普段の彼ならばすぐに酔いつぶれるはなかったが
空腹の状態でまったく薄めずに立て続けに二杯飲めば
急速に良いが回ってもおかしくなかった。

お前を、好きだなんて冗談じゃ、ない

 そう、悔し紛れに呟いた瞬間頭の中に泣きそうな克哉の表情が
浮かんで、ズキンと痛んだ。
彼がその事実を認めたくないのは、本気でこちらを想っていた相手を…
こちらは遊び程度にしか想っていなかった苦さも含まれている。
チクチクと胸を刺す罪悪感が、彼の心を頑なにしてしまっていた。
事実を認めてしまえば、この痛みと向き合う事になる。
それは…親友とのすれ違いの一件で、長年眠る事を選んでしまった彼から
すれば容易に認められない事実。
 まだ、痛みも苦みも含めた上で全てを受け入れるという処まで…達観出来ていない
彼にとっては、小さなプライドが邪魔をして…素直に受容出来なかったのだ。
 けれどそれでも、泣きそうな顔で…あの夜、克哉が絶叫した一言が蘇る。
 
―もう、遊びは嫌だぁぁー!

どれだけ忘れようとしても、拭おうとしてもあの日の切実なその叫びが
頭から消えない。
その一言は、眼鏡の心を強く引き裂いた。だから奥底に眠っていた
想いを引き出すと同時に
彼の心を酷く打ちのめしてしまったのだ。
どうでも良い人間であったなら、流せた事。しかし…好きだと、想っていた
人間をそこまで
自分の振る舞いで追い詰めてしまった事実は、無意識の領域では…
彼にとっては深い傷に
なってしまっていたのだ。
 
―お前が、好きだよ…
 
エンドレスのように、頭の中で再生されるもう一人の自分の想い。
泣きそうな顔で、何度も何度もこちらに流れてくる真剣な気持ちが…余計に、こちらに
苦しみを与えてしまっていた。
 
―黙っていて、くれ…! もう、判ったから…これ以上、繰り返さないでくれ…!
 
拒絶する言葉を吐いた瞬間、脳裏の克哉はツウ…と涙を一筋流していった。
その瞬間、今までの非にならないぐらいの突き刺すような胸の痛みが走り抜ける。
 
しかし撤回したくてももう酒のおかげで、頭の芯が痺れ切ってしまって
弁明の言葉すら思い浮かんで来ない。
 そうして彼の意識が完全に落ちていくと

本当に、どのような結末を辿るのか愉しみに拝見させて頂きますよ
我が主よ

 黒衣の男が愉快そうにほくそ笑んでいるのが腹立たしかったが
そのまま彼の意識は完全に閉ざされていく。

そうして、その場にはそんな彼を愉しげに眺める一人の男だけが
そっと佇んでいたのだった
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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