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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 本日はちょいと休みます。
 後、通販について…希望する方、いらっしゃいますか?
 もしいるようなら、来週から一週間から十日に掛けての期間
承ろうと思っているんですが、どうでしょうか?

 とりあえず現在、二か月じっくりと考えて…自分の
やりたいことの一番と二番が見つかって、じみ~ちに
水面下で動いております。
 …現在、色々と結果待ちの状態です。
 もうちょい道筋がはっきりと見えて来たら、大まかにだけ
この場でお伝えすると思います。

 …一つだけ言えることは、4月のただ迷って悩んでいた時よりは
前に進んではおります。
 今の時点で言えるのはそれだけです。
 自分がやりたいと思っている一番が見つかって、二番目に
何が胸の中にあったのが…見えて来ただけ前進しています。
 今、言えるのはそれだけです。それでは今夜はこの辺で…。

 一人でも希望者いれば、また通販取り扱いますので宜しくです(ペコリ)
PR
※お待たせしました。
 6月25日から新連載です。
 今回のCPは御堂×克哉となります。
 テーマは酒、(「BAR」&カクテル)です。
 鬼畜眼鏡Rで、太一×克哉ルートで克哉が軌道が乗るまでアメリカで
BARで働いていたという設定を見て、御堂×克哉でもカクテルやバーを
絡めた話が見たいな~という動機で生まれた話です。
  その点をご了承で、お付き合いして頂ければ幸いです。

 秘められた想い             

後、今回の連載の作中に使用されているミュージックのリンク。
どんな曲なのか知りたい方はどうぞ~。

 『A列車で行こう』
 『いつか王子様が』
 JAZZソング集 1. Fly Me To The Moon/フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
          2. The Girl From Ipanema/イパネマの娘
          3. Over The Rainbow/虹の彼方に
          4. Night And Day/夜も昼も
          5. When You Wish Upon A Star/星に願いを

 ―最後に聞こえた「星に願いを」は、この場でそのメロディに耳を
傾けている人間全てを眠りに誘っていきそうなぐらいに優しく
穏やかなメロディにアレンジされていた

 しっとりとしていて…まるで母親が子供を寝かしつける時に
歌う子守唄のような優しさを感じて…克哉は机に突っ伏したまま…
ようやく音楽を聴く方に集中していく。
 たった今、克哉が放った精は殆どが御堂の掌に収められたおかげで
下着やズボンの類は汚さずに済んでいた。
 濡れていない方の手で、御堂はさりげなくこちらの衣服を整えてくれた。
 だからもう懸念することは何もないのだが…それでも、まだ死ぬほど
恥ずかしいという気持ちが抜けない。

(こ、こんな場所で…あんな風にされるなんて、想像しても
いなかった…孝典さんって、本当に…酷い…)

 この人が意地悪というか、嗜虐心が強い性質である事はすでに
恋人関係になって身を持って知っている訳だが…まさか、こんな場所でまで
こちらに仕掛けて来るなんて予想もしていなかった。
 隣の席に座っていた客にも何か悟られてしまったかもだし…頭の中は
グチャグチャでまともに考えられない。
 乱れた呼吸の方はどうにか机に顔を伏せている間に整ったが、まだ
鼓動の方は収まっていない。
 今だに荒々しく脈動を繰り返して、ドクドクと言っていた。
 静かに流れる「星に願い」のメロディ。
 それがこちらの昂ぶった精神を多少は宥めてくれている。
 だが、平素の状態でならそのまま眠りに誘われてしまいそうな旋律も
あんな事をされた直後では無理だ。
 気持ちは未だに乱れ続けて、御堂の方をまともに見れない。

(…どうしよう、まだ孝典さんの顔を見るのが恥ずかしい…)

 そう思って、顔を逸らして周囲を眺めていくと…ぎょっとなった。

「へっ…?」

 先程、もしかして感づかれてしまったのでは…と懸念した
隣の席の若い男性が思いっきり船を漕いでいたのだ。
 ぎょっとなって周囲を眺めていくと…あまりに優しく、ゆったりとした
旋律の為か…他の客の目もトロン、となり始めている。
 そして一番驚いたのが…。

(孝典さんまで、船を漕いでいる…!?)

 これには克哉も相当に驚いていく。
 …この人がこんな人目につく場所で、うっかり居眠りをするなんて
初めて遭遇したので、思わず我が目を疑ってしまった。
 …まあ、日頃睡眠を削って激務をこなしている身だ。
 こんな優しいメロディをずっと聞いていたら…思わず気が緩んでしまうのも
仕方ないかも知れない。
 信じられないものを見た、とばかりに克哉が数十秒程…凝視していくと
その視線に気づいたのか慌てて御堂が瞼を開いていく。

「はっ…?」

「…お疲れなんですね、孝典さん…」

 短い間だけ自分の前に晒された…愛しい人の無防備な寝顔は
克哉に少しだけ気持ちの余裕を取り戻させてくれた。

「…む、気づかぬ間に眠ってしまったか…」

 そういって御堂は罰の悪そうに苦笑していく。
 そして照れ隠しに、小さくコホン…と咳ばらいをしていくと…御堂は
その場から立ち上がっていった。

「…顔と手を洗って、目を覚ましてくる。君は少し待っていてくれ…」

「はい…ごゆっくり。けど、もうじきコンサートは終わってしまいそうですよ…?」

「…それまでには戻ってくる」

 そうぶっきらぼうに言い捨てて、御堂は静かに立ち上がり…店の入り口の
方にあるトイレの方まで歩いて向かっていく。
 克哉はその様子をクスクスと笑いながら見送っていくと…ふいに…
ピアニストは鍵盤の高い処から低い方へ指を華麗に滑らせて…
フィニッシュを決めていく。
 演奏が止むと同時に、溢れんばかりの拍手が湧き上がる。
 その頃には若いピアニストの全身は汗だくになっていて…まるで
長時間全力疾走を終えた後のような状態になっていた。
 隣に座っていた若い男性が、演奏が終わると同時に舞台の方へと
向かっていって親しげに語り掛けていく。
 多くの聴衆が、演奏をしていた三人…特に一番華がある若いピアニストの
方へと群がっているのを見て、克哉は少し心配になっていく。

(御堂さん、今夜はあの人に話を持ちかけたりするのかな…?)

 彼はあくまで、これから御堂が手がけることになるビオレードの
CMソングを作るアーティストの候補の一人だ。
 今夜は彼の実力を測る為に下見の目的でやってきた訳だが…
一体御堂は今夜、この後どう動くつもりなのか…克哉には読めなかった。
 あまり詳細は克哉に語ってくれてはいないが御堂が候補に入れている
アーティストの数は十人近くは現時点でいた筈だ。

(…それとも今夜みたいな視察を、これから何度もするつもりなのかな…。
お忍びみたいな形で…)

 そう思うと、カッっと頬が熱くなる想いがした。
 …まさか、コンサートの最中にあんな真似を…まさか達せられる
処まで追い上げられるなんて予想もしていなかっただけに未だに
恥ずかしくて仕方なかった。
 自分の方からピアニストに声を掛けて引き留めた方がいいのか、
もしくは…このまま今夜は聴衆に徹して大人しくしていた方が最良なのか
判断が付きかねていった。
 御堂が戻って来るまで、葛藤しながら…舞台の周辺を観察していくと
ピアニストは何か楽しそうに笑っていきながら、隣の席の男性と肩を
組んで…手をバイバイ、とするように振っている。

「…もしかして、どっか移動しようとしているのか…?」

「お、お客様…どうなされましたか?」

 そう思ってガタっと音を立てて席を立ち上がろうとした瞬間…
いつの間にか近くに立っていたボーイが心配そうに声を掛けていく。

「あっ…はい。な、何でもありません…」

「お客様、今夜のコンサートも無事終わりましたし…そろそろ当店は
カクテルの方はラスト・オーダーの時間です。何かご注文等は
ありますか?」

「えっ? カクテルはラスト・オーダーって…どういう意味ですか?」

「…普段なら当店は午後二時ぐらいまで営業しているんですが、
カクテルを作れる係の者に急用が出来たらしくて…本日は二十四時まで
しかおりません。ですから…本日は今がカクテルに関しては
ラスト・オーダーとなってしまいます。ご了承下さいませ…」

「そ、そうなんですか…どうしよう…」

 だが、御堂はあれから五分程度が経過したが…まだ戻ってくる
気配はない。
 もしかしたらトイレに行く間…海外の支社の人間と電話かメールで
打ち合わせでもしているかも知れなかった。
 ビオレードの企画が動き始めてから、時差のある向こうの支社と連絡をする為に
夜半に連絡を取る姿は決して珍しいものではなかった。

(俺はウィスキーで良いとして…孝典さんは何を注文しようか…?)

 御堂はワインを愛飲している。
 オーソドックスに言えば、赤ワインのそれなりに良い銘柄の品を頼むのが
セオリーなのは判っていた。
 けれど…今夜、このバーに来て…御堂は初めてカクテルに深い関心を
寄せてくれた。
 実際に作るのが趣味である克哉は、意外に深くカクテルの知識を
持っている。
 …赤ワインや白ワインを、馴染みのワインバーで飲むのに不満を覚えている
訳ではない。
 だが、愛しているあの人に…少しだけでも、自分が興味持っているものを知って
貰いたいと…そんな欲求が静かに湧き上がってくる。
 克哉があれこれと考えていると、30代初めぐらいの年頃のボーイは柔らかく
微笑みながら、こう告げてくれた。

「…まだお考えのようですから、一回りして参ります。その頃までに…
ラスト・オーダーの品を考えておいて下さいませ」

「あ、はい…わざわざありがとうございます」

 相手からのさりげない気遣いを感じて、克哉は礼を告げていきながら…
必死に思考を張り巡らせていく。

(カクテルって…使ってある酒とか、名前とかに色んな意味とか語源があって…
意外に奥深いんだよな。それに…オレばかり、孝典さんに翻弄されて良いように
されるのも何か悔しいし…。せめて、御堂さんがアッというようなそんなインパクトが
ありそうなものが…何かあったかな…?)

 そう、例えば…カクテルを使って…今の自分の気持ちを伝えるというのも
悪くないかも知れない。
 もしくは、秘められた意味がある品を注文して…さりげなく普段伝えられないでいる
自分の想いを示すのはどうだろうか?
 御堂が目の前にいない分、克哉の思考は大胆になり始めている。
 そう、自分ばかりが御堂に一方的に翻弄されてしまうなんて…フェアではない。
 …其処まで考え始めていくと、目の端で…ピアニストと若い男が店の外に向かって
行く姿もいつの間にか気にならなくなっていた。
 御堂の意識を逸らす者は、他はいらない。
 …あの人の心をくすぐれるような、刺激出来るような品は何か…ただそれだけを
必死に考え始めていった。

(そうだ、これが良い…!)

 そして記憶を探っている内に、一つのカクテルを思い浮かんでいく。
 その奥に隠された意味、それは恐らく…自分が伝えられないでいる想いを
彼に示すのに相応しいと…確信していった。
 その直後にさっきのボーイが声を掛けてくる。

「そろそろ…お決まりになりましたか?」

「えぇ…決まりました」

 そうして、克哉は愉快そうに微笑みながら…一つのカクテルの名前を
口にしていった。

―そして御堂が、海外支社とのやりとりを終えてテーブルに戻って来た頃には…
彼らのテーブルの上には、澄んだ青紫色の液体の入ったカクテルグラスが
二つ…静かに置かれて、その傍で…克哉が優艶に微笑んで待っていたのだった―

 
※お待たせしました。
 6月25日から新連載です。
 今回のCPは御堂×克哉となります。
 テーマは酒、(「BAR」&カクテル)です。
 鬼畜眼鏡Rで、太一×克哉ルートで克哉が軌道が乗るまでアメリカで
BARで働いていたという設定を見て、御堂×克哉でもカクテルやバーを
絡めた話が見たいな~という動機で生まれた話です。
  その点をご了承で、お付き合いして頂ければ幸いです。

 秘められた想い         

後、今回の連載の作中に使用されているミュージックのリンク。
どんな曲なのか知りたい方はどうぞ~。

 『A列車で行こう』
 『いつか王子様が』
 JAZZソング集 1. Fly Me To The Moon/フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
          2. The Girl From Ipanema/イパネマの娘
          3. Over The Rainbow/虹の彼方に
          4. Night And Day/夜も昼も
          5. When You Wish Upon A Star/星に願いを


―コンサートの終盤に差し掛かった頃、店内にはNight and dayの
しっとりとしていながら、軽快な旋律が響き渡っていった

 その場にいた聴衆の誰もが、舞台の上のピアニストが巧みな技巧で奏でる
メロディに聞き入っている。
 克哉とて、御堂にこんなチョッカイを掛けられてさえいなければ…
その美しいピアノの旋律に耳を傾けてうっとりしていた事だろう。
 だが、こんな異常な状況では…音楽に耳を住ませている場合ではない。

 ―クチャリ…

 布製のナプキンの下で、自分の勃ち上がった性器を直接触れられ…
糸を引かせている音に気づかされる。
 すでに克哉は耳まで赤くして、口元を覆ってその感覚に耐えている。
 自分自身の鼓動や、呼吸の音ですら過敏になっているせいか酷く
大きく聞こえて感じられる。

「や、め…て…孝典、さん…」

 今夜は視察の為に、このバーに来たという意識があったから…
決して下の名前を呼ばないようにしていた。
 だが…その線引きも脆くも崩れて、つい相手をそう呼んでしまう。

「…あまり大きな声を出すなよ。君の…乱れている顔を他の奴に
見せたくはないから、な…?」

「そ、んなの…」

 無理だ、と思った。
 こんな場所でこの人に淫らに触れられて…ビクビクと背筋が震えて
おかしくなりそうなのに。
 これが二人きりの場所だったら、この人に全力で縋りついて乱れ狂いたい。
 それだけの欲情が身体の奥から生まれている。
 御堂の指先が、こちらの幹の部分に絡まって、指の腹で敏感な
鈴口を丹念に擦りあげているのを感じ取って…息が詰まりそうな
快感を覚えていった。

「あっ…ぁ…!」

 高い声が漏れそうになるのを、咄嗟に指を噛んで堪えていく。
 止めて欲しくて、必死になって頭を振り続ける。
 それでも…御堂の手は更に淫靡さを増して…こちらを攻め立てる。
 脊髄から、熱い塊が生まれていくような疼きを覚えて…それが
怖くなって克哉は瞳を軽く潤ませていく。
 其れは生理的なものであったけれど…相手はこちらの涙に
気づいていくと…嗜虐的な笑みを刻んでいった。
 きっと相手は気づいている、手を握っていた時から…こちらが
感じ切って、期待をしてしまっている事を。
 御堂の瞳が、鋭く輝く。
 情欲に濡れて…普段よりも甘く、そして澄んで輝いているその双眸に
全ての意識が奪われそうになってしまう。


「見ない、でぇ…」

 消え入りそうな声で懇願するが、叶えられることはない。
 むしろ…こちらの快楽を一層煽るように…強気に微笑みながら
巧みに手を蠢かしていく。

「ダメだ…もっと、私に、見せろ…」

「はっ…ぁ…」

 お互いにしか聞こえない微かな声音で…言葉を交わし合う。
 殆どの客はピアノの音に聞き入って、自分たちのこの秘め事のような
やり取りには気づかないだろう。
 それが余計に興奮を生み、克哉の心を波立たせていく。

「た、か、のり…さん、もう…」

 御堂の手の中で、克哉のペニスはすでにはち切れんばかりに
なっている。
 先端からは先走りの汁が滲み、正気など木っ端みじんに砕けて
しまいそうだ。

「あぁ、イクと良い…私の手で、受け止めて…やる…」

「あっ…は…っ…!」

 耳元でそんな際どい事を囁かれたら、何も文句を言えなくなる。
 それにもう…この押し寄せる強烈な感覚に抗うことすらも
出来なくなった。
 それでも、コンサートの邪魔をする訳にはいかない。

(大きな声を漏らして、邪魔するようなことだけは…しちゃ、
いけない…!)

 それだけは最後の理性として働かせて、自分の指先をさっきよりも
一層強く噛み締めていった。
 おかしくなる一歩手前まで、愛しい人に追い詰められてしまっている。
 
「っ!!」

 そして息を詰めて、頭が真っ白になる感覚に耐えていった。
 半ば酸欠になり掛けて…眩暈を感じていった。
 そのまま、軽くテーブルに手を突いて突っ伏しそうになる。

(ダメ、だ…もう…こんな、所で…何て、頭の中…グチャグチャ、だ…)

 恥ずかしさといたたまれなさで、克哉は御堂の方をまともに見て
いられなくなって…慌てて周囲に目を逸らしてしまった。
 その瞬間、隣の席に座っていた男性が…怪訝そうな、かつ…先程の
御堂と似たような色合いの眼差しを浮かべていて…サーと青ざめて
いく思いがした。
 コンサート開催のギリギリに飛び込んできた若い男だった。

(も、しかして…気づかれて、いる…? 御堂さんに、今…オレが
何をされた、を…?)

 そう思うと、本気で神経が焼き切れてしまいそうだった。
 時間にすれば、十分前後だったが…酷く濃密な時間を過ごした分、
余計に他の誰かに気づかれてしまった事実に羞恥を覚えていく。
 だが相手はこちらと一瞬だけ目が合うと、さりげなく視線を逸らして
知らぬふりをしてくれたのが救いだった。

(よ、良かった…騒がれなくて…本当に…)

 それで少しだけ安堵したが、呼吸は未だ荒くて…身体に満足に
力が入らない。
 克哉がくったりとテーブルの上に突っ伏していると…そうして
コンサートのラストを締めくくる、まるで子守唄のように穏やかな雰囲気に
アレンジされた「星に願いを」が静かに流れ始めていったのだった―

※お待たせしました。
 6月25日から新連載です。
 今回のCPは御堂×克哉となります。
 テーマは酒、(「BAR」&カクテル)です。
 鬼畜眼鏡Rで、太一×克哉ルートで克哉が軌道が乗るまでアメリカで
BARで働いていたという設定を見て、御堂×克哉でもカクテルやバーを
絡めた話が見たいな~という動機で生まれた話です。
  その点をご了承で、お付き合いして頂ければ幸いです。

 秘められた想い      

後、今回の連載の作中に使用されているミュージックのリンク。
どんな曲なのか知りたい方はどうぞ~。

 『A列車で行こう』
 『いつか王子様が』
 JAZZソング集 1. Fly Me To The Moon/フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
          2. The Girl From Ipanema/イパネマの娘
          3. Over The Rainbow/虹の彼方に
          4. Night And Day/夜も昼も
          5. When You Wish Upon A Star/星に願いを

 

 ―ピアニストの指先から奏でられるFly me to the moonのメロディは
克哉が知っているものよりも若干アップテンポだった

 だが、柔らかいメロディラインは聴いている内に…心を穏やかにして
聴く者を静かに魅了していった。
 …ピアノの澄んだ音が、日頃ストレスに晒された心身を優しく
解していってくれているのが判る。
 
(ピアノの音に癒し効果があるっていうのは…本当だな。
凄く寛いだ気分になってくる…)

 恐らくテーブルの下で御堂に手を繋がれていなければもっと
リラックスした状態で聞くことが出来ただろう。
 だが…相変わらず御堂の指先はこちらにしっかりと絡んで
離れる気配を見せなかった。
 その間、自分の心臓が何度も大きく高鳴っていくのが判る。

「…御堂、さん…」

 克哉は蚊の鳴くような小さな声で、恋人に向かって呼びかけていく。
 だが…控え目な照明しかない室内で、彼は…悠然とこちらを見つめながら
微笑みかけてくるのみだった。
 無言でこちらの手を握り締め、力を込めてくる。
 たったそれだけの事に…心臓が壊れそうなぐらいに暴れ続けていった。
 いつの間にかリクエストの一曲目の音楽は終わっていた。
 次に流れたのはイパネマの娘、という曲だった。
 
 その頃に先程注文したカーディナルがそっとテーブルの方に運ばれてくる。
 赤ワインをベースにしたカクテルは、赤く澄んだ色合いをしていて…
照明が落とされている状態では、赤い血を想わせた。

(…ワインって、そういえばキリストの血って概念もあるって聞いたことがあるな…)

 暗い中で、赤ワインの色を見れば…確かにそう納得出来てしまう。

「…これがカーディナル、か…。見た目は悪くなさそうだな…」

「えぇ、きっと貴方が気に入る味だと思いますから…ぜひ、飲んでみて下さい」

「うむ…」

 そういって優雅な仕草で、御堂はそっとカクテルに口をつけていった。
 その間ですら、テーブルの下の甘い拘束は解かれることはない。
 一挙一足の全てが洗練されていて…目を奪われてしまう。
 立ち振る舞いや小さな仕草、全ての要素が克哉の心を深く捉えていく。
 
(こんな格好良い人と…オレって良く両想いになれたよな…)

 今でも、夢の中の出来事ではないかと疑いたくなる時がある。
 けれど…しっかりと指と指を絡めているように、繋がれている手の感触は
紛れもなく現実で。

「…悪くない味だ。流石…君が薦めるだけはある…」

「…本当ですか?」

「あぁ、私の好みを良く理解してくれていると…実感出来る。確かに
これなら…私が違和感なく口に出来そうなカクテルだな。
ベースが赤ワインである分、非常に馴染みやすい味わいだ…」

「よ、良かった…。オレの一方的な独りよがりにならなくて…」
 
 御堂の穏やかそうな笑みを見て、克哉が安堵の表情を浮かべていく。
 それを見て、男は愉快そうな顔をしてみせた。

「…まったく君は…相変わらずそういう処は気弱なんだな…」

「す、すみません…」

「…別に謝らなくて良い。だが、褒め言葉は素直に受け取って貰った方が
こちらも嬉しい。だから…謝罪はなしだ」

「は、はい…!」

 背筋をまっすぐに正して行きながら克哉が答えていくと…
御堂は軽く吹き出していった。

「…ククッ! 君は本当に可愛いな…」

 そうして、再び繋いだ手を淫靡に蠢かし続けていく。
 ただ指と指の間をやんわりとくすぐられているだけなのに…その度に
背筋がゾクゾクして、体中の力が抜けていくようだった。

「…はぁ…っ…」

 こんな、手を愛撫されているだけで悩ましい声を出す羽目に
なるなんて…想像もしていなかっただけに困惑を隠せなかった。
 御堂はもう片方の手でグラスを持ち、こちらを真っ直ぐに見据えて
いきながら…酒を飲み進めている。
 まるでこちらが動揺して、乱れ始めている姿を肴にして酒を
飲まれているような…そんな感じだった。
 きっと御堂は今、こちらを掌で弄んでいる事を心底楽しんでいるに
違いないだろう。
 そう思うとつい、潤み始めた瞳で睨みつけたくなってしまうが…ジワジワっと
手を繋いでいるだけで追い上げられて、甘い快楽の涙を浮かべて
しまっている自分の視線など、きっと面白がられるだけだろう。
 しかも厄介なことに、身体は更に深い快楽を求め始めている。
 スーツの下で、胸の突起とペニスが隆起し始めていき…身体を
少し揺らしていく度に、また煽られていってしまう。

(こんなの、一種の拷問だ…)

 この人に身体の一部が触れているだけで欲しくなって、欲望に
スイッチが入ってしまうというのに…この場では隠れて手を繋ぐ以上の行為を
絶対にする訳にはいかない。
 それが克哉にとっては辛くて仕方がなかった。
 ただ、愛しい人に手だけを握られる。
 きっと二人きりの時にされたならば…それは幸福に結びつくことでも
胸の奥に灯る欲望を発散出来ないならば、それは甘い責苦にもなりうる。
 指の股を、愛撫するように握る手に強弱をつけられてしまい…もう、
涙になり掛けていく。
 手だけしか、触れ合っていない。後は御堂の眼差しだけが注がれて
いるだけだ。

 たったそれだけで…こんな風に一方的に自分だけが乱されてしまうのは
心底、恥ずかしかった。
 音楽は三曲目がアッという間に過ぎて…御堂がリクエストしたもう一曲に
演奏が入っていく。
 だが、最早克哉の耳にはまったく届かない状態だった。

「御堂、さん…もう、止めて…下さい…」

「おや、もっと…じゃないのか? 君の此処は…随分と反応している
みたいだが…?」

「っ…!」

 克哉はキュっと唇を噛み締めていく。
 手の拘束はそっと解かれていった。
 だが…代わりに御堂の手は、こちらの下肢に絡まっている。
 勃起し掛けていたペニスをスーツズボンの上から握り込まれて…
ゴク、と息を呑んでいく。
 間接的とは言え、欲しい場所に刺激を与えられて急速に情欲が
高まっていく。

「あっ…っ…」

「…声を、出すなよ…? あまり大きな声を出すと…コンサートの
邪魔になる…」

「そ、そんなの…」

「…私は君の望みを叶えてやっているだけだぞ…ほら…」

「っ…!」

 手なれた仕草で、スーツズボンのフロント部分を寛げられて…ペニスを
引きずり出されていく。
 そして、パっと見…すぐに克哉が何をされているのか判りにくくする為に
カモフラージュに、テーブルの上に置かれていた白いナプキンを下肢に
被せられていった。

「…声を、極力出さないようにするんだぞ…?」

 耳元に唇を寄せられて、非常な命令が下されていく。
 克哉はそれを拒むことも、首を縦に振ることも出来ないどっちつかずの
状態のまま…御堂の手管に、翻弄される羽目となっていったのだった―

 

 



 本日分の連載は、夜掲載になります。
 付け焼刃でも、少しでも知識を仕入れてこのシリーズは
書きたいのでもうちょい時間下さいませ。

 夜に、この記事と入れ違いで連載をアップしますです。
 もう少しお待ちを~。
 昨日はイベントに参加された方々、お疲れ様でした!
 …今回、鬼畜眼鏡でスペース取って、初めて長時間
自分で座って守っておりました。
 …お前、それだけ普段座っていないんだよ! って突っ込まれそうですが…
いや、だって緊張したり…テンション高くなっているから余計なことを
突っ走るのが怖くて今まで友人とかに任せてばかりだったので(苦笑)
 …根っこは小心者です、チキンです。
 後は売り子やるのマジで慣れていないので未だに緊張するんです。ヒー!

 …という感じでやっておりましたが、本を買って下さった方…
そして声を掛けて構って下さった方、ありがとうございます。
 はっきりいうとキテレツ、というか香坂ははっきりいうと変人ですが
一言でも「サイト見ています」とか、「いつも読んでいます」と言って
頂けると非常に励みになります。
 来て下さった方、ありがとうございました!!

 以下は、当日…ある程度の時間、こちらを構って
下さった方々に向けての私信です。
 心辺りのある方は、つづきはこちらをクリックして
みてやって下さいませ。

(メッセージはその方と顔を合わせた時間帯順に掲載させて
頂いております。あしからず)
※お待たせしました。
 6月25日から新連載です。
 今回のCPは御堂×克哉となります。
 テーマは酒、(「BAR」&カクテル)です。
 鬼畜眼鏡Rで、太一×克哉ルートで克哉が軌道が乗るまでアメリカで
BARで働いていたという設定を見て、御堂×克哉でもカクテルやバーを
絡めた話が見たいな~という動機で生まれた話です。
  その点をご了承で、お付き合いして頂ければ幸いです。

 秘められた想い    

後、今回の連載の作中に使用されているミュージックのリンク。
どんな曲なのか知りたい方はどうぞ~。

 『A列車で行こう』
 『いつか王子様が』

 ―次の演奏と演奏を繋ぐ音楽は、『いつか王子様が』を
柔らかくスローテンポにアレンジされたものだった。

 前半の演奏と、後半の演奏を繋ぐ小休止の間は…先程までは
ピアニストが紡ぎ出す音楽に耳を傾ける方に集中していた観客が
ひそやかな声とは言え、談笑を楽しみ始めていた。
 カウンターに立っていたバーのマスターや、ボーイ達も目まぐるしく
動き続けている。
 再び後半の演奏が始まれば、大きく動くことが出来なくなるからだ。
 前半の三十分の内に大抵の客は一杯の飲み物を片づけてしまって
いるらしく追加のドリンクをオーダーしていた。
 …克哉は御堂に手を握られている間、その恥ずかしさを少しでも
紛らわそうと、そんなジャズバーの店内の様子に目を向けていく。

(…御堂さんの指が絡んで、どうしても意識してしまう…)

 こういう時、この人にたっぷりと調教されてしまった自分の
淫らな肉体が恨めしくなった。
 …この人から与えられるものならば、どれだけささいなもので
あっても過敏に反応してしまう。
 こちらの指の股を、くすぐるように手を絡まされた状態で握られて
しまって…其処だけ、神経が鋭敏になっているようだった。

「…御堂さん、手を…離して、下さい…」

「駄目だ…」

「…ここはバーの中です。誰かに見られたら…」

「もうじきコンサートが始まれば照明も落とされる筈だ。…問題はない」

 傲岸不遜に微笑みながら、御堂は小声で言い切っていく。
 元来押しが弱い性格の克哉には、その傲慢なまでの自信が時々
羨ましくなる。
 けれどこのまま…御堂に手を繋がれた状態で、指先の性感帯を
責められ続けたらそれだけで勃起をしてしまいそうだった。
 …こんな処で自分だけが盛り上がる訳にはいかない。
 
(…しかも店の中でテーブルの下で手を握られて…オレだけ勃起するって…
どれだけもの欲しげな反応なんだよ…それって…)
 
 想像しただけ居たたまれなくなって、この場から消えたくなって
しまいたくなった。
 けれど御堂からの緩やかで甘い拘束は止められる気配はない。
 克哉の顔は…すでに耳まで赤くなって、心臓が忙しく脈動を
繰り返していた。
 すでに自分でも半分ぐらいまで性器が勃ち上がり掛けているのを
自覚して…泣きべそを掻きたくなった。
 混乱しつつある頭で、それでもこの状況を打破する為に…
克哉は苦し紛れにある一点を指摘していった。

「御堂、さん…。そろそろ一杯ぐらい…何か頼まないと喉が
乾きますよ…?」

 そう、御堂はこの店に入ってからまだ水しか口にしていなかった。
 一敗目のグラスの水も…すでに空になりつつある。

「…そうだな。一杯ぐらいは確かに酒を頼んだ方が良いな…。
克哉、君のオススメのカクテルはあるか…?」

「…御堂さんは確か赤ワインが好きでしたよね? 次は白ワインを好まれて、
行きつけの店では良く飲んでらっしゃいますよね?」

「あぁ、そうだ。この店でも何種類かイタリアワインがあるようだが…
あまり飲み慣れていない銘柄だから、ピンと来なくてな…」

「…赤ワインを飲みたい気分ならカーディナル、白ワイン寄りのを
味わいたい気分ならキール・ロワイヤルをお薦めします。
この二つのカクテルは確か…赤ワインと、白ワインがそれぞれベースになって
いますから御堂さんでも違和感なく飲めると思います…」

「ほう、君は…カクテルに詳しいのか?」

 克哉がスラスラとカクテルをこちらに薦める姿を見て…御堂は軽く
驚愕を覚えていったらしい。
 軽く目を見開きながら、恋人の方を見やっていった。

「えぇ、趣味で昔…自分で作ったりしていました。ここ最近はご無沙汰に
なっていましたけれど。けど…この二つは、もし御堂さんがカクテルを
飲まれる機会があったら薦めてみようって…そう決めていましたので…」

「そうか、なら…カーディナルの方を頼んでみよう。キール・ロワイヤルの
方が気が効いた高級レストランならメニューに置いてあるし…飲んだ
事もあるからな…」

「…そうですね。せっかくいつもと違う場所に来ているんですから…
新しい味に挑戦してみるのも良いと思いますよ…」

 会話している間に、御堂の意識もそっちに向いていったらしい。
 手は離される事はなかったが…こちらを煽るような挑発的な蠢き方を
しなくなっただけ…克哉の精神衛生上、大変ありがたかった。

「それでは…頼んでみようか」

 そうして御堂は片手を上げて、ボーイにオーダーを告げている間…
こちらの手をテーブルの下では変わらず握りしめていて…胸が
ドキドキしていた。

(どうか、気づかれませんように…)

 その事にばかりヒヤヒヤしてしまって…克哉は気が気じゃなかった。
 なのに相変わらず、御堂はポーカーフェイスを貫いていて…平然とした
態度をとり続けている。
 その肝の太さに心から感嘆を覚えていく。
 ようやくボーイが目の前から遠ざかっていくとそれだけでジワっと背中に
冷や汗が伝っていった。

「…緊張したか?」

「…当然、です…。どうして、こんな…」

 今、克哉が緊張していたおかげで掌はしっとりと濡れてしまっている。
 それでも意地悪な恋人は、手を離してくれる気配はなかった。
 今の間に、リクエストは完全にとり終わったらしい。
 舞台上ではトリオが三人揃っていて、演奏を開始しようと身構えて
いるのが目に入っていった。
 再び、スポットライトが舞台の上だけに灯されて…周囲の光は
控え目な状態になっていく。

「再び、演奏が始まるみたいだな…」

「…はい…」

 そうして、再び沈黙が落ちていくと…嫌でも、相手の掌の温もりと
感触を意識せざるを得なくなってしまう。
 後半のコンサートの開始に、ピアニストが滑るような指使いで奏でた
最初の曲は…御堂がリクエストした「Fly Me To The  Moon」の
柔らかなメロディラインだった―


 とりあえず朝からカタカタ~と、無料配布用の原稿を
打ち込んで…必要事項調べていきながら、やっと27日の
15時前後に本文打ち終わりました。

 これからチョイと製本用に編集したり…URLにアップして
三月に通販して下さった方に配信して参ります。
 …出来れば次の通販作業に入る前までには、宣言した事を
守りたいですからね(苦笑)

 とりあえず今回の無料配布の内容は…現在連載中の
「秘められた想い」を書く上で調べたことを再利用して作った
内容になっております。
 …今回の話書く上で、200~300種類ぐらい…これだ! とピンと
来るカクテルを探し続けたのですが…話の組み立て上、その一つ
さえあればOKになってしまったので…その次候補だったカクテルを
用いて…もう一本、大人な雰囲気の御堂×克哉を書きたい。
 そんな動機で仕上げたものです。

 そういった事情で、舞台とか時間軸はまったく異なりますが少しだけ
共通しているものがある仕上がりとなっております。
 明日、良ければ手に取ってやって下さいませ。
 余裕あったら、夜に連載の続きも書かせて頂きますね。
 それでは一旦、これにて失礼しま~す!

 追記  27日、17時現在…三月にこちらの通販を申し込んで
下さった方全員にお礼SSのURLつきのメールを送信させて
頂きました。(約一名、H〇〇a様のみ戻ってきてしまいました。
再度連絡可能なアドレスを拍手ででも送って下されば再送信します)
 三月に通販を申し込まれた、心辺りのある方は確認して
頂ければ幸いです。ではでは!
※お待たせしました。
 6月25日から新連載です。
 今回のCPは御堂×克哉となります。
 テーマは酒、(「BAR」&カクテル)です。
 鬼畜眼鏡Rで、太一×克哉ルートで克哉が軌道が乗るまでアメリカで
BARで働いていたという設定を見て、御堂×克哉でもカクテルやバーを
絡めた話が見たいな~という動機で生まれた話です。
  その点をご了承で、お付き合いして頂ければ幸いです。

 秘められた想い  

 
 ―三人の男が舞台の上に立ち、ベーシストの合図が聞こえると
同時にポローンと、ピアノの音が店内に響き渡っていった

 それと同時にゆったりとしたテンポでジャムセッションが
開始されてく。
 ピアニストの指先から奏でられるのはしっとりとした雨の夜を連想
させるようなスローテンポの曲調だった。

「…ほう、なかなか悪くないな…」

「えぇ、綺麗な旋律ですね…」

 特に今の御堂は、新商品のCM曲を求めて「水」や「雨」を
連想させるような曲を、克哉が驚くぐらいの量を聴いている。
 曲のジャンルも多岐に渡っている。
 自分が全力で手掛ける新商品の売れ行きを大きく左右するであろう
『ベスト』の一曲を求める御堂の姿は貪欲すぎるぐらいだ。
 だが、それだけ細部においても人任せにしないで拘り続ける
御堂の姿に、克哉は感嘆を覚えているのも事実だった。
 演奏が本格的になっていくと、二人は完全に口を噤んでいく。
 ピアニストが奏でるメロディに集中する為だ。

(何ていうんだろ…しっとりとしている雨の夜…そんなイメージだな…)

 奏でられるメロディだけで、しっかりとその場面が頭の中に
鮮明に思い描かれていくようだった。
 そっと目を閉じてその音楽に聞き入っていくと…次第に店舗が
変わっていく。
 ドラムのフィルの音が変化していくと同時に…いきなり雰囲気が
大きく変化していく。
 ピアノの音楽が一旦止まり、ベースとドラムのソロの演奏だけが
始まっていく。
 トリオを構成している二つの楽器から生まれる音が、徐々にテンポアップ
していくと…ふいに鍵盤の高い位置から低い位置へと指先を流れるように
滑らせて…ジャーンという和音が高らかに響き渡った。

「わぁ…」

 その音調の切り替えの仕方は鮮やかで、店内にいた人間の口から
感嘆の声が漏れていった。
 次に聞こえて来たのは夏を思わせるようなきらびやかで華やかな、
踊るようなテンポの一曲だった。
 克哉は今までの人生で、ジャズなど殆ど聞いた経験がない。
 BARなどに行った時、店内のBGMとして有名な曲なら耳にしている
だろうが…曲名を詳しく言える程、接している訳ではなかった。
 だがピアノ、ベース、ドラムの三つの楽器から生み出されていくメロディは
アドリブが酷く聴いていて…聴衆の心を酷く踊らせていった。
 アップテンポのメロディがそのまま20分前後続き、その間は誰もが
聴き入っていて…チラっと周囲を見回しても聴く方に意識を集中させている。
 誰も余計な口を利かずに、彼らが紡ぎ出す心地よい音を楽しんでいた。

(…聴いていると、自然と身体が動きだすような凄い陽気な感じだ。
ウキウキしてくるみたいだ…)

 克哉自身は曲名を知らなかったが、紡がれているのはジャズやクラッシクの
定番でもある「A列車で行こう」を、かなりアドリブされて明るい曲調に
されているものだった。
 曲が切り替わったままの盛り上がりを残したまま…そのテンションの高さを
残して、ピアニストが全身に汗を浮かべながら必死にメロディを生み出していく。
 それに圧巻されながら、その場にいた誰もがその音の虜となる。
 そして唐突に曲が終わると同時に、割れんばかりの拍手がその場に
響き渡っていった。
 詳しくその音楽のジャンルに知識が持たないものでも、力がある演奏は
聴くものの心を大きく揺さぶっていく。
 今夜のコンサートには確かにそれだけのものがあった。

「…悪くない演奏だったな。聴いてて楽しめた…」

「えぇ、オレ…初めてジャズの生演奏なんて聴きましたけど凄い
迫力でした…。聴いてて、何かワクワクしてきたっていうか…」

「あぁ、軽い視察のつもりで来たが…思いの外、良いものを聞くことが
出来たな…。君がそんなに楽しんでくれたなら、誘った甲斐があった…」

「えっ…?」

 さっきまで、御堂は仕事モードの顔を浮かべていた。
 だが…ふいに笑みが浮かび、自分の恋人としての表情が滲み始めて
いくと同時に…克哉の胸は小さく高鳴っていった。

(…そんな顔を、いきなり浮かべるなんて…反則です。孝典さん…)

 ここは店内で他の客の目もあるというのに…思わず顔が赤く
染まってしまう。
 この時ばかりは店内の照明が控えめになっていることを心から
感謝していった。
 コンサートは一旦、一区切りがついたらしく…ベーシストを残してドラムと
ピアニストの二人は舞台から降りているようだった。
 僅かな小休止の時間、店の人間の何人かが回って…客に今夜の
リクエスト曲を聴いて回っているようだった。
 克哉が頬を染めて戸惑っている間に、彼らのテーブルにも店の人間が
次に聴きたい曲を尋ねてくる。
 だが、今までジャズに馴染みがなかったせいか…そう尋ねられてもとっさに
思い浮かばない。
 すると、御堂が小さく呟いていった。

「…Fly Me To The MoonかNight And dayを…」

 御堂が曲のリクエストを告げていくと、ボーイらしき男性は
「畏まりました」と小さく告げて一礼をして去っていった。

「…御堂さん、ジャズにも詳しかったんですね…」

 克哉が感心したように告げていくと、御堂は肩を竦めながら答えていく。

「…いや、私もそんなに詳しくはない。辛うじて…ジャズの曲だったと
覚えていた二曲を口に出しただけだ」

「けど、オレはまったく考えつきもしませんでしたから…」

 何となく今夜の気分は、初めて御堂にワインバーに連れていって
貰った時の心境に似ている気がした。
 普段、馴染みのない…自分の知らない世界へと足を踏み入れたことによる
不安と、ドキドキ感。
 だが、御堂の気まぐれで…今では良く顔出すようになったワインバーに
招かれた時と違い…今の自分と彼との間には確かな信頼感がある。
 知らない場でも何でも、この人と一緒にいるなら安心できると…そういう
頼もしい空気を纏ってくれている尊敬する上司であり、恋人でもある相手を
そっと見つめていきながら…克哉は嬉しそうに瞳を細めていった。

「…まったく、君は大したことでなくてもそうやって素直に驚いたり
感嘆出来るのだな…」

「えっ…そんな、事は…」

 御堂の眇められた目がとても優しくて、少し気恥ずかしくなって
相手から目を逸らしていく。
 その瞬間…予想もしていなかった展開になった。

「…あっ…」

 小さく、小声で呟いてしまう。
 木製の丸型のテーブルの下で…静かに御堂から指先を絡め取るように
手を繋がれていってしまう。
 驚きで克哉は言葉を失っていくが…こちらの戸惑いなどお構いなしとばかりに
手全体を愛撫されるように、しっかりと握られてしまって背筋に甘い快感が
走っていく。

「…ん、はぁ…」

 恋人関係になってからこの人に何度も抱かれた。
 時には甘く、激しく…様々な顔をベッドの上で見せられてきたおかげで…
今では克哉の身体は、こんな些細な事にすら過敏に反応するようになっていた。
 まだコンサートは終わっていないにも関わらず、こんな風に手を繋がれて
しまったら意識するなという方が無理だ。

「…お願い、です…御堂さん…その…」

「…克哉、手を繋いでいるだけで…何故そんなに拒むんだ…?」

「あっ…それ、は…」

 御堂に耳元で、囁きを落とされて…それでも背筋がゾクっとなっていく。
 こんな感覚、性質が悪過ぎて抗えない。
 心臓がバクバクと大きく音が立っているのを自覚しながら…克哉が
困惑している間にリクエストを聴き終わったらしい。
 いつの間にか全員が舞台上に戻っていて、演奏が再会されていた。

(どうしよう、こんな…)

 ただ手をしっかりと御堂に握られているだけ。
 なのに…自分の鼓動が破裂せんばかりになっているのを自覚しながら
克哉は、ピアノの音に耳を傾けて…絡んでいる指先から必死に意識を
逸らそうとしていったのだった―

 
 

 
 ※お待たせしました。
 6月25日から新連載を開始します。
 今回のCPは御堂×克哉となります。
 テーマは酒、(「BAR」&カクテル)です。
 鬼畜眼鏡Rで、太一×克哉ルートで克哉が軌道が乗るまでアメリカで
BARで働いていたという設定を見て、御堂×克哉でもカクテルやバーを
絡めた話が見たいな~という動機で生まれた話です。
 香坂自身が下戸に限りなく近いので、(アルコール度が低いカクテル1~2杯
飲むのが精いっぱい)出てくるカクテルの味の描写及び知識は調べたもので
補っております。
 その点をご了承で、お付き合いして頂ければ幸いです。


―それは御堂と克哉がMGNで一緒に働くようになって半年程が経過した
秋の初めの夜だった
                          
 二人はその夜、年季の入った雑居ビルの中にひっそりと紛れて
存在しているジャズバーに足を踏み入れていった。
 最近、御堂が注目している若いピアニストがこの店で専属で曲を
弾いていると聞いて…克哉が詳しく調べて…今夜、下調べの為にこうして
二人で訪れたのだ。
 まだ二十半ばのそのピアニストが以前手がけた曲を最近聞いた御堂は…
彼が手がける曲は、自分が手掛ける新商品のCMに使いたい
メロディのイメージに近い…と関心を持ったからだ。
 現時点ではあくまで候補の一人に過ぎないが、判断材料の
一つとして視野に入れておきたい。
 そういう意図で今夜の下見は決定され、恋人としてではなく…
仕事上の彼の右腕として克哉はこの場に身を置いていた。

 真剣そうな御堂の横顔を見て、克哉も緊張を高めている。
 プロトファイバーが大成功を収めてから、MGN内での御堂の評価は
随分と高くなって…次に彼の企画する商品にも注目が寄せられている。
 そのプレッシャーに負けることなく、精力的に仕事をこなし…
自分の思い描いているプランを実現させる為なら、貪欲に各地を飛び回る
御堂の姿は、恋人としてだけじゃなく…共に仕事をしている上司としても
尊敬していた。
 
(カクテルとかは結構好きだから、普通のバーはともかく…ジャズバーには…
初めて来たな。しかも御堂さんと…こうして一緒に訪れる日が来るなんて…
想像してもいなかった…)

 克哉自身はウィスキーやブランデーなどの蒸留酒、及びカクテルの類を
好む性質なので…御堂と付き合う以前は、良く一人でバーに飲みに行ったり
していた。
 だが、この人は何よりワインを愛好しているから…最近は飲むと
すればそればかりで…その他のアルコールは殆ど口にしていなかった。
 久しぶりに飲んだラフロイグは、藻のような…海藻のような独特の
風味がある。
 かつては頻繁に飲んでいたウィスキーも、ワインに飲む事に慣れてから
改めて喉に流し込むと趣きが深い。
 やはり、場の雰囲気というのがあるのだろう。
 シャレたレストランや、清潔さと整頓さが行き届いたようなバーなどでは
ワインは良く似合うが…このどこか古めかしさが漂う店内では
蒸留酒やカクテルを飲む方がしっくりと来る。
 チラリ、と御堂を見つめてみると…やはり、もうじき始まるコンサートの
方に意識を集中しているのが見て取れた。

―コンサートが終わるまで、私はアルコールを注文する
つもりはない。だが、それだと向こうとて商売だからな。
君の方は…好きなのを一杯頼んでおいてくれ…

 その告げられたので、御堂が何も注文していないのに
飲むのは気が引けたが…克哉だけ先にオーダーする
形となっていた。
 今回はそのピアニストの、実際のピアノの腕前はどれくらいかを
知る為にこうして…二人はお忍びで来ているのだ。
 確かに酒に酔っていては正しい判断が下せなくなる可能性が
あるから…聴き終わるまで飲まない、と毅然と言い切る姿に…
相手の真剣さを克哉は感じ取っていた。
 御堂の中にある、次の企画商品のイメージはすでに克哉は詳しく
聴かされている。

 そして御堂が現在考えているのは…天然素材で作られた淡彩飲料、
その透明な曲のイメージを若手の無名の人間に任せるか、否か。
 現在の進行状況から見れば…来年の春頃にはほぼ製品も完成をして、実際に
流通に乗せるかどうか詳しく打ち合わせをしたり、検討する時期に入るだろう。 
 CMとして放送する際、使用するタイアップ曲の準備は…早めに準備
するに越したことはない。
 …そして、御堂の候補のアーティストの中に…今夜演奏する
ピアニストも入っている。
 そう思うと、少し緊張してしまった。

(…そう考えるとちょっと緊張してしまうよな。…御堂さんはきっと、オレを
信頼してこうして同行させてくれたんだろうけど…果たしてオレが
その判断の役に本当に立てるんだろうか…)

 すでに本日の仕事も終わり、今はアフターファイブの時間帯。
 こうして二人きりで週末の夜を過ごしているのならば、甘い時間を
とうに過ごしていてもおかしくないのだ。
 だから…視察の為に今夜はこの店を訪れたのだというのに
酷く緊張してしまっていた。
 御堂と克哉が座っている席は、小さな舞台のすぐ手前。
 これから今夜、この店内で開かれるコンサートを見るには
特等席に近い位置にあった。
 店内の照明はすでに落とされ、落ち着いたBGMがゆったりと
流されている。
 老若男女、様々な年代の客が…これから開かれるジャズの
コンサートを楽しむために酒を飲みながらその時を待ち構えている。

(良い雰囲気の店だな…)

 克哉はそう思いながら、自分の手に持っているグラスを眺めていく。
 御堂は…何かを検分するように、鋭い眼差しを浮かべながら舞台の
上に立つ若いピアニストを見つめている。
 今夜の演奏はトリオ編成らしく、ピアノを中心に二人の
中年の男性がそれぞれベースとドラムを担当していた。

 …残り二人の年齢に比べて、ピアニストの年齢が圧倒的に
若いせいか…酷く目を引いていく。
 外見的に目を奪われる程の美貌、という訳ではないが
整った風貌と、しなやかな体型だった。
 指先の細さは本当に同じ男の指かと疑う程だった。
 いっそ、御堂が注目しているこの男性がもう少し年を取っているか
またはあまり美形な方ではなければ、こんなにヤキモキした
気持ちを覚えなくて済んだのだろうか…と漠然と感じた。
 コンサートが終わるまでは、幾ら週末の夜と言っても…
今夜は仕事の延長だ。
 それなのに、余計なことばかり考えて心がモヤモヤしている
自分が凄く情けなく感じていった。

(…完全に仕事モードに入っているな。御堂さん…目が本当に…
真剣で、食い入るように眺めている…)

 本来なら、今…こんな事を考えるのは不謹慎かも知れないが
御堂が鋭く食い入るような眼差しを自分以外の誰かに向けていることに
チリリ、と胸が疼いていった。
 あくまで仕事で来ているのだから…と言い聞かせても、嫉妬めいた
感情が湧き上がる自分自身に少し苛立ちが募る。
 だから邪魔をしないように、密かに息を潜めて…コンサートの開催を
待ち構えていく。
 開催が近づくにつれて、店内の照明は徐々に落とされ…舞台の
上だけがそっと淡い光に照らし出されていく。
 トリオを編成する三人が、それぞれ持ち場についていく。
 もうじきコンサートの幕が開けることを伝えていく独特の
緊張感が店内中に広がっていくと…。

 バッタン! 

 これから音楽が始まろうと観客全員が身構えたその瞬間、
入口の方から盛大な扉を開閉する音が聞こえていった。
 そして二十二時丁度を迎えて、一人の若い男性客が息を切って
店の中に滑り込んでくる。
 そして彼が、舞台から離れた席にそっと座っていった瞬間…
最初のピアノの旋律がその場に鳴り響いていった。
 それと同時に、鮮明に舞台上はスポットライトが灯り…そして静かに
ジャズのコンサートは開催されていった―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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