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御堂はただ、考えていく。
グラスが
月明かりだけが差し込んできている。
導かれるようにゆっくりと御堂はその記憶を取り戻していく。
連日、御堂の中には忌まわしい記憶の扉が開かれてしまっていた。
かつて、彼にされた悪夢の行為の数々を…繰り返し繰り返し、
夢の中に見続ける。
自分がどんな事を佐伯克哉という男にされていたのか。
どれだけその行為によって、自分はボロボロになっていたのかが
まざまざと思い出されていく。
それはかなり、御堂自身の心を苛んでいた。
時の事が脳裏に蘇り続ける。
あの男が自分を抱き、互いが混じり合う粘質の厭らしい水音を…
そして熱く乱れた吐息を、内部に収められたペニスの熱さをいつだって
忘れたことはなかった。
下手をすればどこを触れられても感じてしまう…そのレベルにまで
達してしまっていたように思う。
こちらがどれだけ拒絶しても、何度も何度も貪られた。
あの男の形を、こちらが気づけばはっきりと思い出せるぐらいに
その痕跡を刻み付けられていった。
来ているじゃないですか…?
そして、あの頃から…時折、優しいような哀しいような…そんな口調で
ただ、自分の名前を呼び続ける時があった。
彼との出来事は、全てが嫌な事ばかりでは決してなかったのだ。
十数分程…こちらが眠っていると思い込んでいるせいで、克哉は
穏やかなその仕草をし続けていた。
いつも酷い事をし続けている癖に、何故その日に限って…彼は気まぐれの
ようにそんな優しさを見せたのか…?
それに少しだけ、御堂は救われるような気持ちになった。
「…どれだけ悲惨な夜でも、必ず夜明けは訪れる、か…」
そう、誰にだって辛い出来事が起こって絶望に染まる時はある。
けれど…一年前は監禁と陵辱の果てに一度は人格が崩壊寸前にまで
朝は、人の心の闇をほんの一時でも晴らしてくれる。
―その鮮やかで美しい光で、照らし出す事によって―
窓の向こうに、荘厳な赤と橙が煌き…美しいグラデーションを生み出して
入る光景を見て、心に少しだけ光が差すようであった。
こんな日常に垣間見える…そんな『美』が、人の心に光を指して…慰めていく。
そんな恩寵を思いがけず与えられた事によって、御堂は…己の心に
正直になる事にした。
「…自分の気持ちに、正直になろう…」
もう、目を背けていられない。
抱いた日から一週間、文字通り寝ても冷めても…考えるのは佐伯克哉の
事ばかりだった。
離れたって忘れられない。
踏ん切りをつける事も、想いを捨てる事も出来ず堂々巡りならば…どんな
形でも答えを出す為には、自分は彼に会う必要があるのだ―
「…今の君は、私が恋焦がれて逢いたい方の君じゃない。その話が
事実だったとしても…それでも、私は…逢いたい、んだ…」
どちらの佐伯克哉でも、会いたい。
特に…自分の心にその存在を灼きつけていった眼鏡を掛けた方の彼に。
その情熱は御堂自身を激しく突き動かしていく。
先週、強姦のように抱いた後…強引に克哉と携帯電話の番号とメルアドを
交換しておいた。
そのメルアドに短くメールをしながら、御堂は溜息を突いていった。
『今週の週末、君に逢いたい。都合がつくのなら逢って欲しい』
それは御堂らしい、簡潔極まりない文章。
けれど何より、その真意をはっきりと告げている文面だった。
そして…その夜、克哉から返信が来た。
―判りました。場所や時間の指定はそちらさえ良ければお願いします。
克哉から返された文面もまた、素っ気のないものだった。
だが…返信があった事に安堵を覚えたのも事実だった。
そして、そのまま御堂は…都内でも有名なホテル名と時間をメールに記して
送信していく。
―そして彼らは再び、邂逅していく。
互いにお互いを求めながら、そして同時に深い葛藤を抱えながら。
惹かれあいながらも、同時に反発する心を抱いて…。
そして御堂が指定した日時を心待ちにしていく。
―こんなに誰かと約束しただけで、心がざわめく事など…今までの人生に
なかったように感じられた―
眼鏡×御堂編の方をアップさせて頂きます。
…え~と、絵チャに行って絵師様六人、文章書き五人な状況だった為に
もう一本私が書きます…と言ったので後日、ひょっこり某所で書いてアップして
いるかも知れませんが宜しく(汗)
という訳でもう一本、眼鏡×御堂の方は書き上げます。
…リセットの続きは一先ず、明日から開始しますのでご了承下され。
無謀なことばかりやっている管理人ですみません。はい…(汗)
興味ある方だけ「続きを…」をクリックしてお読みくださいませv
以下に記してあります(ペコリ)
え~と予告していた、御堂さんの誕生祝ネタ…28日に御堂×克哉編を。
29日に眼鏡×御堂編をアップと言っていましたけれど…諸事情により
翌日30日の方に掲載させて頂きます。
代わりに27日のキャラソンを語ろう! チャットの中で書き上げた克克ものを
掲載しておきます。
…絵茶行く度に、何か一本は書いているような気がする…あたい。
今日、御堂さんの誕生日当日なのですが某チャット様で最後にどうしても
皆様と一緒にカウントダウンしたかったので(汗)
明日には誕生祝SS 眼鏡×御堂編掲載させて頂きます。
一応、お題チャットで絵師様の絵に合わせて誕生日Hネタ書く事になったものですが…
そのサイト様の投稿所の方に掲載してから、ここでもという形にしたいと思ったので…
こうさせてさせて頂きました。
ご了承ください。
興味ある方だけ、続きを…をクリックしてお読み下さい。
キャラソンのミニドラマ後の克克…という妄想ネタです。
…勢いで書き上げました。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
※28日より少し日付越えてしまいましたが、08年度の御堂さん
お祝いSS第一弾投下します!
本日は御克バージョンでございます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いですv
もうじき日付が変わり、愛しい人の誕生日を迎える間際。
御堂のマンション内にて、二人はベッドの上で恋人らしい甘く情熱的な
一時を過ごしていた。
ただ、今夜に限っては照明は煌々と照らされており…互いの裸身を余す
処なく晒していく。
真っ白いベッドシーツの上に、180センチを越す立派な体躯の男が二人で
絡み合っている姿は、圧巻だった。
散々深いキスを繰り返し、愛撫を施されたことによって克哉の身体には
すでに欲望の火が灯り…耳まで真っ赤に上気させながら、荒い呼吸を
繰り返している。
そうしている間にも、再び深いキスを施されながら…臀部に両手を
回されて激しく揉みしだかれていく。
衣服はすでに完全に剥ぎ取られて、二人を阻むものは何も無い。
暫く御堂が、克哉の身体をシーツの上に押さえつけるような体制を取っていたが
耳元で甘く要求内容を囁き、さりげなく…御堂の方がベッドの上に仰向けになる
格好を取っていくと…克哉の顔が一層、朱に染まっていった。
「ん…はっ…御堂、さん…そん、な…事…」
「…今夜は、私を存分に楽しませてくれると…そう約束してくれたのでは…なかったか?
克哉…早く、私の上に…乗れ。夜は…短い、からな…」
「は、はい…」
羞恥に震えながら、御堂の下半身の上に乗り上げて…モジモジしている姿は
破壊的に可愛らしかった。
克哉の胸元の突起や、ペニスが赤く色づき…いやらしく染まっている処などが
目に入ったら、それだけでこちらも興奮して生唾を飲んでしまいそうな勢いだった。
(…君は、自分のそういう姿がどれだけこちらの心を煽るか…まったく自覚が
ないんだろうな…)
克哉は目を何度も瞬かせながら、オズオズと御堂の身体の上に跨っていく。
明かりが灯って、全てが晒される状況ではこのような大胆な振る舞いをするのは
恐らく物凄く恥ずかしいのだろう。
そっと御堂の剛直の上に臀部の谷間を落としていくが…騎乗位にそんなに慣れて
いる訳でない克哉は、一発で入れる事が出来なかったようだ。
熱い先端が蕾の周辺に辺り、ビクリと身体を跳ねさせていく。
「あっ…」
「…克哉、それでは…私のモノが君の中に収まらないだろう…? これから、どうすれば
良いのか…ちゃんと判るのか…?」
「あ、はい…頑張り、ます…」
恥じらいながらも、必死にこちらを悦ばせる為に尽くす姿は見ていて相当に
クるものがあった。
御堂が見守る中、愛しい恋人はローションを手に取り、己の掌と御堂のペニスに
たっぷりとそれを落としていった。
その準備を施してからまず自分の手を克哉の手が恐る恐る御堂のペニスに
添えられていくと…それを軽く握り込んで、己の内部に導こうとしていく。
もう一方の手を御堂の腹部に添えて、身体を支えていきながら…それをゆっくりと
蕾の入り口に宛がい…。
「う、あっ…」
実に悩ましい声を漏らしていきながら、腰を一気に落としていった。
ローションでたっぷりと濡らしてあったせいか…挿入自体は実に滑らかにいって
あっという間に際奥まで克哉を穿つ形になっていた。
早くも物欲しげに…ヒクヒクと克哉の内部が震えているのが判る。
「…君の中は、相変わらずいやらしい…みたい、だな…。まだ、挿れた…
ばかりだと、言うのに…こんなにキツく私のを食み始めている…」
「やっ…んんっ…御堂、さん…言わない、で…!」
克哉は必死に頭を振っていきながら、訴えていく。
ほんのりと目元に涙を滲ませながら…目をギュっと瞑っている姿が
妙にいじらしくて可愛く感じられる。
「ほら、克哉…今夜は、ただ私の上に乗って…腰を振る、だけでは…
なかった筈だ。…私にとって忘れられない一夜になるぐらいに…君が
愉しませてくれる、と。そういう約束…だった筈だ…」
「わ、かって…います…」
「なら、早く…この体制で…自分を慰めて、みろ。私の上で…どこまでも
淫らに乱れる…君の姿を、存分に堪能したい…」
熱っぽい口調でそう告げると、克哉はフル…と頭を震わせながら
小さく頷いていった。
「…はい、貴方の…望む通り、に…」
そうして、たどたどしい手つきながら…克哉は己の性器に静かに
手を伸ばしていく。
御堂の身体の上に乗った状態で、腹に付きそうなぐらいに硬く張り詰めた
ペニスの先端からは大量の先走りが早くも滲み始めている。
その様は酷く卑猥で…扇情的だった。
「あぁ…凄く淫らな光景だな…」
「…言わない、で…下さい…」
「…いいや、口にさせて貰おう…。今の君の姿は凄く色っぽくて…魅力的だ…」
「やっ…孝典、さん…」
そう言いながら、合間に克哉の太股や膝頭の辺りをやんわりと撫ぜ上げて
いきながら…悪戯を仕掛けてくる。
恥ずかしくて、このまま憤死してしまいそうな勢いだった。
だが…この行為が、今夜…「誕生日プレゼントは何が良いですか」というこちらの
問いに対しての回答だった為に、克哉に拒否することは出来なかった。
―御堂さんに喜んで貰いたいから…
そんな献身的な想いを胸にしながら、羞恥を堪えながら…必死に己の
性器を扱きに掛かっていく。
指が敏感な所を擦り上げて、快楽を引き出していく度に受け入れている箇所が
キュンキュンと激しく収縮を繰り返しているのが自分でも判る。
(恥ずかしくて…本気で、死んでしまいそうだ…)
チラリ、とそんな事を考えながら御堂の方を見遣っていくと…熱く獰猛な視線を
こちらに真っ直ぐ向けて来ているのに気づいてしまった。
その眼差しが余計に、こちらの心をどうしようもなく煽っていく。
背筋にゾクゾク~という、肌が粟立つような快感が走り抜けていった。
―愛しい人に、もっとも自分の浅ましくて淫らな姿を見られている
そんな状態に、克哉の身体は確かに期待に震えて…一層、熱くなって
しまっていた。
手を動かす度に、粘質の水音がグチャグチャ…と静かな室内に響き渡っていく。
それが余計に、克哉の神経を焼いて…頭の芯を痺れさせていった。
「あっ…はっ…んんっ…!」
そんな行為を繰り返している内に、声が抑えきれなくなって…ついに
大きな嬌声を漏らし始めていった。
「それで、良い…。君は、どこまでも私を深く…感じて、乱れていれば…」
「はっ…くっ…孝、典さぁ…ん…! や、これ…以上は…」
「する、んだ…決して、手を止めるんじゃないぞ…?」
克哉がこのままではおかしくなる、気が狂ってしまうと…そう危惧を覚えて
頭を振って懇願しようとすると、それを強気な笑みを刻みながら阻んでいく。
こんな処で、決して許してなどやらない。
もっと自分の上で乱れて、狂えば良い。
そう伝えるように…克哉の腰に両手を添えて、激しく…その内部を下から
突き上げ始めていった。
「あっ…はっ…! やっ…御堂、さん…! そんな、事…!」
「手は、止めるな…! もっと、もっと…私の上で、乱れるんだ…!」
「あ…んっ…はい! 判り、ました…!」
恋人からの甘く拷問にも近い命令に必死に答えながら…克哉は己の
手で、性器を必死に扱いて…どんどん、乱れ続けていく。
それはまるで…蕾が綻んで大輪の華が咲き誇っていく様のようだ。
自分の身の上でいやらしく覚醒していく愛しい恋人の姿に…満足そうな
笑みを刻んでいきながら、御堂は激しく突き上げ続けていった。
グチャグチュ…! グプ!
空気が混ざり、互いが繋がり合っている事を示す水音が聞こえてくる。
それが双方の欲望を更に深いものへと掻き立てていく。
二人の肉体がぶつかり合い、ただ夢中で貪りあう姿は…獣じみているが
もっとも己の欲求に正直になった証でもあった。
「んあっ…! 孝、典さぁ…ん! もう…!」
切羽詰った声で、克哉が訴えていくと同時に…御堂のモノもまた、熱く激しく
内部で脈動し…限界が近い事を訴えていった。
「克、哉…!」
御堂もまた、余裕のない声音で恋人の名を呼び…そのまま、相手の中で
熱い欲望を解放していった。
ビクビクビク…と両者の身体が激しく痙攣し、恋人の熱い樹液を際奥で
受け止めていく。
「あっ…はっ…孝典、さん…」
「克夜…」
快楽の余韻に浸ってお互いに熱っぽい眼差しで相手を見つめていくと…
視線が確かに絡まりあった。
そのまま…克哉は身体を引き倒して、御堂の唇に小さくキスを落としていく。
何度も啄ばむような、慈しみをこめた口付けを繰り返していくと…そのタイミングで
丁度、日付が変わった事を告げるアラームが携帯から鳴り響いていく。
そのメロディは…『ハッピーバースディー』
愛しい人の生誕を祝う曲が流れる中で…小さく、克哉は告げていく。
―孝典さん、お誕生日…おめでとうございます…
優しくその頬を撫ぜながら、克哉は静かに告げていく。
そんな恋人の髪を優しく梳きながら御堂もまた…至福の感情を
覚えながら声の振動が唇に伝わる距離で…そっと囁き返していった。
―今年は、こんなに可愛い恋人に祝って貰えて…私は幸せ者、だな…
と満足げに微笑みながら、そっと克哉の身体を腕の中に改めて
閉じ込めていったのだった―
―たった今、氷漬けになっている眼鏡を掛けた佐伯克哉の夢を見た
それはただの夢や幻想で片づけてしまうには酷い臨場感がありすぎて。
今見た場面のせいで、心臓は激しく早鐘を打って…御堂はベッドの上で
大量の寝汗を掻いていた。
そして、すぐ間近には克哉の顔が存在していて…ハっと息を呑んでいく。
慈しむような柔らかい表情を浮かべている彼を見て、御堂は瞠目しながら
相手を凝視していった。
そっとこちらの汗を優しく拭っていきながら、克哉が問いかけていく。
「…御堂さん。凄くうなされていたみたいですけど、大丈夫ですか…?」
「あ…あぁ、一応…な」
そう言いながらも、御堂はベッドに仰向けになったままで激しく胸を
上下させていた。
克哉が眠っている御堂にそっとキスをして、少ししたぐらいから急に
御堂は激しくうなされ始めたのだ。
克哉はオロオロしながらそれを見守って…切なげに瞳を細めていった。
「…冷たい水でも、持って来ましょうか?」
「…あぁ」
相手の献身そうな態度に、つい頷いてしまったが…見れば見るだけ、
今の佐伯克哉は別人のようだった。
眼鏡を掛けていないだけで、これだけ別人のように人はなってしまう
ものだろうか?
心底、疑問に思いながら…彼が水を取りに冷蔵庫の前まで向かっている
間、辺りを見渡していく。
赤い部屋は、窓もベルベッドのような赤いカーテンで覆われているので
正確な時刻は判らなかった。
だが、僅かにその隙間から光が漏れているのを見る限りでは…朝に
なっている事だけは確かだった。
(本当に、今…目の前にいる彼は、佐伯克哉なのか…?)
部屋の隅にひっそりと置かれていた小型の冷蔵庫からミネラルウォーターを
取り出してグラスに注いでいる姿を何気なく眺めている。
彼の身体に刻まれている痕跡の数々は、昨日…自分が感情のままに
抱いた時につけたものだ。
―あの佐伯克哉を自分が、抱いた…
その事実が、未だに御堂には信じられなかった。
昨晩はあまりの展開に頭が混乱してしまって…感情が昂ぶって、頭に
血が昇っていた。
だから、相手の言葉に乗って衝動のままにその身体を貪ってしまったが
今となってはそれは現実のことだったのかと疑いたくなる程だった。
自分を監禁して、陵辱し続けた男。
彼はいつだって支配的で、傲慢で…間違っても自分が組み敷けるような
相手ではなかった。
どれだけ抵抗したって、無理矢理犯され続けた。
本気で噛み付いたり、暴れようとしてもその力関係は覆されることは
かつては一度もなかった。
そんな男が、自分を好きにしろと良い…こちらに抱かれる事を許容した。
その事実を、御堂自身も信じきれないでいた。
「御堂さん…どうぞ、冷たい水です…」
「…あぁ、ありがとう」
逡巡している間に、克哉は冷たい水に満たされたグラスを持って
御堂の前に立って…それを手渡していった。
素直に受け取って、冷たい水を喉に流し込んでいくと…キリリと冷えた
感覚が、意識と思考を覚醒させていった。
ベッドの傍らにグラスを置いていくと…二人は暫し、見つめあう。
互いに言葉もなく…真摯な眼差しをぶつけあった。
―そのまま重い沈黙が落ちていった
お互いに何を話せば良いのか、判らない。
何から口に上らせれば良いのか判断がつかない。
そんな時間が二人の間に広がっていく。
そして…顔を見つめれば見つめるだけ、余計に御堂の中で混乱が
酷くなっていく。
(これは…本当に、私が会いたいと願っていた佐伯克哉なのか…?)
顔を合わせれば合わせるだけ、御堂の中で違和感が広まっていく。
そういえばベッドインする寸前に、彼が言っていた。
―俺が二重人格だと言ったら、貴方は信じますか?
そう、間違いなく彼は口にした。
最初はそんな事を言った彼を頭から否定していたが…接すれば接する
だけ、それ以外の理由しか納得がいかないような気がした。
御堂の脳裏に、自分を切なげな瞳で見つめながら雑踏の中で
遠くなっていく佐伯克哉の姿が喚起されていく。
あの切なく、射抜くような強い眼差し。
彼のその瞳に、気づかない間にこちらの心は引き寄せられて
しまっていた。
だが…目の前の彼には、その輝きはない。
慈しむような瞳であるけれど…瞳の輝きがまったく違っている。
自分が逢いたいと焦がれたのは…あの双眸を真っ直ぐに向けられた
からだ。なのに、目の前の克哉にはそれがまったくなかった。
(あの…荒唐無稽と最初は笑っていた話は、本当の事なのか…?)
そう疑念が生まれた瞬間、フっと視線を逸らして…克哉は
そのまま御堂の横になっているベッドの傍らへと腰掛けていった。
「…身体の調子は、如何ですか?」
「…その言葉は、そっくり君に返させて貰おう。昨晩は…かなり手荒に
君を抱いた。その負担は半端ではないだろう…。それなのに、身体を
動かせるとは大したものだな…」
「…正直言うと、少し身体を動かすのは辛い部分があります。が…
出血した訳でもないので…」
苦笑しながら答えていく克哉の表情は弱々しい。
つい…御堂は、見ていられない気分になって相手の肩に腕を
回して自分の方に引き寄せていった。
「なっ…!」
その仕草に、克哉も驚いたのか…声を漏らしていく。
御堂自身も、正直…自分で驚いてしまっていた。
何故、こんな真似をしたのか自分でも説明がつかない。
けれど…今にも倒れそうなのに、気を遣わせまいと…気丈に微笑む
顔を見て…何故か放っておけない気分になったのだ。
「どうして…?」
克哉は困惑している。
御堂も、戸惑いを隠せなかった。
自分が必死に求めている眼鏡を掛けた彼とはまったく違う存在。
なのに…今にも、彼は消え入りそうで…儚く掻き消えてしまいそうな
そんな印象を今、感じて…つい、知らずに手を伸ばしてしまっていた。
「どうして、オレに…こんな真似をするんですか? 御堂さん…?」
唐突に引き寄せられた御堂の腕の中は暖かくて…つい、気が
緩んで涙さえ浮かびそうになってしまう。
好きだと自覚した相手に、気まぐれでもこんな優しさを与えられたら
どうしたって…胸が大きくざわめいてしまうのに。
この人の為に、絶対にもう一人の自分を呼び覚ますのだと決意した
ばかりなのに…早くもグラついてしまう自分が情けなかった。
「…何故か今の君を見ていると、見ていられないような気分になった。
…私にも、理由は判らない…」
御堂自身も、困ったように苦笑していく。
けれど…埋めた相手の胸の中は暖かくて、鼓動が静かに伝わってくる。
―トクン、トクン…
一定のリズムで刻まれたその音に、何故か安らぎを感じていく。
そっと目を伏せながら…克哉は静かに聞き入っていった。
御堂の手がぎこちなくこちらの髪を梳いていく。
不意に訪れた、あまりに優しい一時。
「…あんまり、優しくしないで…下さい…」
さっき誓った決心すら、それだけの事で揺らいでしまいそうになる。
御堂にとっては気まぐれに与えた、優しさだったのかも知れない。
けれど…それだけでも、幸せで幸せで…胸が詰まりそうになる。
知らぬ間に涙が零れて、頬を伝っていく。
(昨日から…泣き過ぎだよな…オレは…)
自分でもそうツッコミを入れたくなるぐらい、涙を流してばかりいる。
なのに…止めたくても、克哉の意思に反して…透明な雫は零れ続けて
相手の裸の胸元を濡らし続けていった。
「…君は、泣いているのか…?」
「………」
何も、答えられなかった。
顔を俯かせながら…ただ、沈黙を落としていった。
お互いに何を言えば、判らなかった。
何から聞けば良いのか、話し合えば良いのか判らない。
一緒にいればいるだけ…御堂の中で混乱が広がっていく。
「…日を改めて、また私に会って貰えるか…?」
「えっ…?」
唐突に呟かれた言葉に驚いて、克哉は顔を上げていく。
昨夜と打って変わって、御堂の表情はどこか柔らかいものに
なっていた。
それに虚を突かれる形になり、克哉は呆然としていく。
「…貴方は、何を…言って…?」
自分は、この人が求めている佐伯克哉とは違うのに。
なのにどうして…また、会いたいなどと言うのだろうか?
抱いて、充分にその事実は伝わった筈なのに…?
「…君は、昨晩から何度も私に自分の事を諦めろ、と言った。
だが…私はどうしても、諦められないんだ…」
「それは、もう一人の『俺』と会いたいから…ですか…」
「…あぁ、そうだ」
少し間を置いてから、はっきりと…御堂は答えていった。
それにズキン、と胸が痛む想いがした。
だが、それでも克哉は御堂から目を逸らさなかった。
真っ直ぐに相手の紫紺の瞳を見つめて…言葉を紡ぎ続けていく。
「…君が、私と会いたいと願っている人格と違うという話は…正直、そんな
事が実際にあるとは認めたくないが、それ以外に納得がいかないからな。
だから信じよう。だが…彼の口から、はっきりと結論を聞くまでは…
私は決して諦めたくない」
「…そう、ですか…」
「だから連絡先を教えてくれ。また…誘いを掛ける」
「判り、ました…」
克哉がコクン、と頷いた瞬間…急に首元に顔を埋められて、凍りつくような
言葉で囁かれた。
―それまで、決して他の人間を抱いたり…抱かれたりするなよ
ゾクン!
その冷たい一言を聞いた瞬間、背筋が凍りつくような感覚を覚えていった。
次の瞬間、強く吸い上げられて…再び、赤い痕を刻み込まれていく。
「あぅ…!」
堪えきれずに、克哉が呻く。
そして…その瞳を見た。
本気で、怒りを覚えているのが一目で判る眼差しだった。
「…別の人格でも何でも、私は君と言う存在が…他の人間と肌を重ねて
いるのは不愉快だ。だから、次に会う日まで…決して、私以外の人間に
抱かれるような真似はするな。良いな」
「御堂、さん…貴方は、何を言って…?」
克哉は、今…御堂が言った言葉が信じられずに唇を震わせていた。
だが、目の前の男の眼は真剣だった。
戯れや偽りでそんな事を言ったのではないと一目で判ってしまって…
克哉の中に大きな混乱の波が生まれ始めていく。
「良いな、と問いかけているんだ! 返事は…?」
「はい! オレは…貴方以外には抱かれません! 約束…します!」
相手の剣幕に押されて、克哉は弾かれるように答えていってしまう。
自分でも、こんな事を言うのは可笑しいと思った。
だが…それが、紛れもない御堂の本心だったのだ。
―どちらの佐伯克哉でも、他の人間と寝るような真似をされたら…
自分は嫉妬で気が狂いそうになると…!
衝動のままに克哉を抱いた時も、その想いが胸に渦巻き続けていた。
「それで良い…」
そうして、噛み付くように唇を奪われていった。
その腕の強さと…口付けの熱さに、克哉は眩暈すら感じていく。
―心が大きく、揺れていくのが判る。
この人に惹かれて、どうしようもなくなっていく。
これ以上好きになったら…決心が鈍ってしまいそうなのに、
御堂の腕の中も、口付けも熱くて…再び身体の奥に熱が灯って
いくのが判った。
「御堂、さん…」
切なげにこの人の名前を静かに呼んでいく。
そんな克哉を…御堂は強く抱き締めて…自分の腕の中に閉じ込めた。
―この人はもう一人の自分が愛して止まない存在
諦めなくてはならないのに…こんなキスをされたら、忘れられなくなって
しまう。…そんなの、ダメなのに…!
涙を零しながら、克哉はそれでも…その口付けを享受していく。
そんな彼を…御堂は切ない顔を浮かべながら抱き締め続ける。
その雫は、もう一人の自分と同じ人を好きになってしまった…克哉の
葛藤の結晶でもあった。
ポタリ、ポタリ…とシーツの上に涙が落ちていく。
そして二人はそのまま…暫く、無言のまま抱き合い続け…チェックアウトの
時間を迎える直前に、連絡先を交換して…その日は一度、互いに別れて
帰路についていったのだった―
夜に執筆しております。
…んで、長くなりそうなので27日の日付越えます。
深夜ニ時くらいまでにはアップ出来るように頑張ります…。
ご了承下さいませ(ペコリ)
とりあえず9月29日、御堂さんバースディーが近いのに非常に
御堂さんにとって酷な連載ものを取り扱っていてすみません(汗)
んで、とりあえず現在掲載中のリセットはここから何話か
非常に暗い展開に突入します。
…ですが、せっかくの御堂さんの誕生日なので28&29日は
それぞれ御克、メガミドの短編を一話ずつ掲載してお祝いさせて
頂きます。
来週もどこかに克克新婚ネタ一本(実は来週分は通勤中に内職して
もう完成間近…)を掲載するので、リセットの進みは来週は穏やかな
ものになります。
リセットは全部で25~30話程度、十月の中旬くらいを目処に
完結させる予定です。
恐らく、これから展開が暫くしんどいものになっていきますが…
ラストにはどんな形でも彼らに『救い』を用意するつもりでいます。
そのラストに辿り着くまで、毎日読み進めていくか…それとも
完結した後に纏めて読むかは、読み手様の好きになさって下さい。
付き合っても良いと思って下さったなら、どうか最後までお見届け
して下さいませ。
当面、28日は御克を…29日はメガミドで一本短編を仕上げて誕生日の
お祝いをします。
リセットは二日連続で休む形となります。
お知らせでした~(ペコリ)
追記
ちなみに掲載作品の中でセーラーロイド、第二話から止まって
おりますが…一応理由あります。
ん~とね、セーラームーンって登場人物多いでしょ?
それに対して…キチメガ、参加している人数が凄い少ないんですよ。
んで、攻略対象キャラ&佐伯克哉ズ&Mr.Rをメインに当てはめていくと…。
敵役に回せるキャラが殆どいない!
…という壁にぶち当たりまして。
頭の中に全八話構想で大まかには出来上がっているんですが、
敵役が二人ばかり足りないんですよ。現在の状態だと…。
それで三話が掲載出来ず、止まっています。
という訳で鬼畜眼鏡のファンディスクが出て登場人物が増えたら
それを組み込んで何人か敵役に回して、続き書こうと考えています。
ファンディスク出るまで続き待ってやって下さい。
本多がメインの話だと松浦にすりゃ良いけど、現段階だと片桐さんが
主役の話だと敵役が権藤さんしか存在しないじゃん! みたいな
状態になっているので…(る~るる~)
川出さんや藤田を絡ませるのも何か違うと思うしね…(汗)
マスターはタキシードマスターとして参加しているし。
あ、ちなみにラスボスと最終的な結末は決まっています。
ラスボスは…××です。
ちなみに現段階の構想。
三話 片桐さん編
四話 本多編
五話 太一編
六話 決別&過去解明編
七話 真相解明編
八話 最終話(決着編)
という感じです。
私もこれ完結させなきゃな~と思いつつ、どうせ書くなら面白い物を
書きたいと思って待機状態です。
…ファンディスクが発売した後に、必ず書きます。
セーラーロイドに関して、続きは? という問いを過去に何件か受けているので
この場を借りて答えさせて頂きました(ペコ)
―克哉に見守られながら御堂は夢を見ていた。
夢の中で御堂は、暗いモヤの中に包まれていた。
周囲は薄暗く、どこに何があるのかもロクに判らない。
暗中模索、とはまさにこんな状況のことを言うのだろう。
どこを見渡しても、何も見えない。
どの方向を振り向いても目標となりそうな物が存在しない。
それでも、心の中に求める人物を…必死になって彼は
探し続けていく。
『佐伯…どこにいるんだ?』
小さく呟きながら、ゆっくりと進んでいく。
こんな闇の中で一人で進むのは心細い。
けれど…遅くはあるが、御堂は立ち止まったりはせずに…
彼は進んでいく。
人生に立ち止まっている暇などないと思う。
迷って、悩んで…苦しんで、それで停滞をしても時間の無駄に
しかならない。
それは御堂の考えであり、信念だった。
―こんな処で不安だからとジッとしていて何になる?
不安だからこそ、足を止めてはダメなのだ。
進んでいけば…何かが見つかる可能性がある。
行動さえすれば、状況を変える糸口を掴めるかも知れない。
その可能性がある限り、御堂はあの男を求めることを止めたりは
しないだろう。
例え、彼自身がもう自分が追いかけて来る事を望んでいないと
知っても…。
「私は、それでも…『君』とキチンと一度話すまでは、諦めはしない…」
苦しげな表情を浮かべながら、力強く口にして…それでも
御堂は進んでいった。
辺りは幾ら進んでも、薄暗いままで…やはり何も存在しない。
こんな不毛な夢をどうして自分は見ているのだろうかと思った。
建物も、人影も生き物の気配や植物や地面の感触すらも
存在しない。
今、足を付いている場所とてフワフワと頼りない感触で、地面という
感じすらしない。
こんな場所は夢の中ぐらいしかないと思った。
だから今の彼は、ここが自分の夢の中だという自覚があった。
「まったく…夢を見る事自体、久しぶりだというのに…何だってこんなに
意味の無い夢を見るんだ…?」
御堂は普段の睡眠時間は4~5時間程度で、日中にこなしている激務のせいで
大抵眠りが深く、夢など見る余地がない。
不眠症など、精神的に弱い人間が掛かる病だと思っている。
己の果たす事、やらなければいけない事を見据えている人間はそんな
甘ったれな病気に掛かっている暇などないという考えもある。
そういう精神の持ち主であるせいで…夢など普段はまったく寄せ付けないの
だが、一つ例外があるとすれば…佐伯克哉に関する夢だけだった。
御堂が唯一、ここ一年以内に見ていたのは彼に関わった時にされた
悪夢の行為の数々。
それと去り際の切ない瞳と、あの告白の日の記憶だけだった。
しかし…今の御堂には、そんな判断材料はない。
だから、また無駄と思いつつも進んでいった。
どれぐらい進んだのか判らない。
永遠に続きそうなぐらいに永い道のり。
何も見つからない事に、いい加減焦れて来てしまった。
「…いつまで経っても何も見つからないとはな…! 何だってこんな
夢を見ているんだ…! どうせなら、夢の中ぐらいまともに出て来い!
夢の中まで君は私から逃げ続けるつもりなのかっ!」
本気の怒りを込めながら。
本心からの言葉を叫んでいった。
その瞬間、何もなかった闇の中に…鮮烈な光が生まれ、予想も
つかなかった光景を御堂に見せていく。
「っ…!」
その時、御堂は見た。
雁字搦めに鎖で縛られながら氷の中に閉じ込められている眼鏡を
掛けた佐伯克哉の姿を。
「何だこれは…!」
そしてその腕には、小学生くらいの子供をしっかりと抱き締めて
二人で氷漬けの姿になっている。
まるで…氷の中に何かを封じ込めているような、そんな異様な光景に
御堂は愕然としていく。
この情景は…一体何だというのか。
―これが今の俺の状況だ。だから…諦めて、くれ…。
フイに、声が聞こえた。
それは追い求めていた男の声。
「佐伯…っ!?」
―この腕の中の子供は、残酷な俺の心。あんたを追い求めて、傷つけて
ボロボロにしようとするぐらい犯そうと…そんな衝動を持った俺の心の象徴。
こんな奴を野放しにして、もう一度あんたを傷つけてしまうことは耐えられ
なかった。だから…俺は…
「ちょっと…待て、君は、何を言っているんだ…?」
―俺はここに、コイツごと俺を封じた。だから弱いオレが…表に出ている。
だから、諦めてくれ…。それが、あんたを守る一番良い方法だから…
切なげに、悲しげな声で…眼鏡は御堂に告げていく。
その瞬間、その夢が遠くなり…氷漬けになった眼鏡の姿すらも
遠いものへと変わっていく。
「待て! 私はまだ…君に、何も…!」
必死になって手を伸ばしていく。
だが、彼の姿はまたどんどんと遠くなってしまう。
「行くな! 私は…君を…君を…!」
彼の目は悲しげに伏せられたまま。
こちらを決して見ようとしない。
それでも御堂は必死になって叫んでいく。
「君を…好き、なんだ…! だから諦めるのなんて…絶対に嫌だ!」
はっきりと、その言葉を告げていく。
眼鏡は最後に一言…答えていった。
―ありがとう。あんたにそう言って貰えて…俺は、幸せ者だな…。
だからこそ、もう傷つけたくないんだ。さよなら…
そして、強引に夢から御堂は連れ戻される。
光が周囲に満ちて、強引に意識が夢から浮上していった。
そんな御堂の髪を、愛しげに撫ぜ擦る手があった。
「御堂、さん…」
悲しげな表情を浮かべながら、眼鏡を掛けていない彼の方と
目があった。
その瞳には…深い哀切の色が滲んでいる。
「…君、は…?」
混乱し、激しく喘ぎながら…御堂は小さく呟いていく。
そんな彼に向かって、どこまでも儚く…克哉は微笑んでいったのだった―
本日も克哉は、もうじき帰って来る眼鏡の為に…夕食を作ろうと
台所に立っていた。
白いYシャツに青いジーンズに緑のエプロンを纏っているだけの
姿だったが、今では立派に新妻らしい雰囲気を醸すようになってきた。
出来るだけ暖かい状態で食べて貰おうと午後七時前後に合わせて
完成するようにしていたのだが、その日は…午後六時を少し過ぎた
ぐらいの時間で玄関のドアが開いたので少し驚いてしまった。
「今、帰ったぞ」
「あ、うん。おかえり…。けど今日はいつもよりも帰って来る時間が
随分と早いね…」
「…本日、やるべき事がまだあったならいつもの時間まで残って
仕事をしていたが…今日は日中にあらかた片づけてしまったからな。
時間の無駄だから帰って来た」
「あ、そうなんだ。…確かにやる事がないなら、残業しても仕方ないしね…」
強引な挙式後から、もう一人の自分が克哉の代わりにキクチ・マーケーティングに
勤務することになったのだが…話を聞く限りではバリバリと働いて今では営業
第八課は社内でも花形の部署になっているらしかった。
そこら辺は流石、有能なもう一人の自分というか…克哉としてはそういう話を聞くと
誇らしい気分になるのだが、気恥ずかしくて面向かって褒めた事はなかった。
大抵彼は定時より30分から一時間前後残って、翌日の準備を完璧に
こなしてから退社する。
だから規則正しく、19時ぴったりには帰って来ていたのだが…。
(まあ、確かにそういう日もあるよな…)
そう納得していきながら、再びキッチンに意識を戻して夕食作成作業に
戻ろうとしていった。
今夜のメインであるシチューの作成にそろそろ掛からないと、19時まで
には間に合わない。
すでに材料の下ごしらえは出来ている。
鶏肉とニンジン、タマネギ、ジャガイモなどの野菜は一口大に切って炒めた
後にコンソメを入れて煮込んである。
それにこれからホワイトソースを自家製で作って、合わせれば美味しい
シチューが完成する筈…だった。
「あ、もうちょっと待ってて…今から急いで夕食の準備をするから」
「別に急がなくて良いぞ。いつもの時間帯でな」
「ありがとう。…その言葉に甘えさせて貰うね」
ニッコリと笑いながら、克哉は小鍋にバターを落として…熱しに
掛かっていく。
そしてバターが溶けていくと同時に振るいに掛けながら小麦粉を
入れて、牛乳を少しずつ入れて延ばしていく。
これを7~8回繰り返して、塩、胡椒などを入れて味を整えて下準備した
材料に混ぜ合わせて10~20分ほど煮れば完成する筈、だった。
「よし…ここがシチューの要だな」
ホワイトルーは焦げやすく、注意しないとすぐに焦げた色がルーに
ついてしまう。
だから出来る限り丁寧に手早くやらないといけなかった。
ルー作りに意識を集中し、その動作を3~4回行った時点で…すぐ
傍らで克哉の動作を見守っていた眼鏡がいきなり、背後に立って…
背後から抱き締めて来た。
「うわっ…! 俺っ…?」
「…今日、早く帰って来たのは気まぐれだったが悪くなかったな。
必死になって俺の為に夕食を作っている姿は…なかなか色っぽくて
そそるぞ?」
「な、何言っているんだよ! そそるとかそそらないとか…そういう
問題じゃないだろっ! 今、ルー作りしているんだからこんな時に
チョッカイ掛けてくるなよ!」
必死になって克哉が訴えていくが、眼鏡の方はどこ吹く風と言った
風であった。
そうしている間に…男の手は克哉の前面部に伸びて来て、胸と
腹部の辺りを彷徨い始めていく。
「うわっ…! ちょっと待ってってば! 今、オレ…火を使っている
んだから、危ないってば…!」
克哉は相手をとっさに振り払おうとしたが、小鍋に火を使っている
状態で迂闊に動いたら、相手も傷つけてしまうかも知れない。
そう思って、抵抗を出来なかった。
「…意識を集中すれば、それぐらいはどうにかなるだろう…? お前の
俺への愛情が確認出来る瞬間だな…今は…?」
クク、と喉の奥で笑いながら…いきなり胸の突起を両手で摘まれて、
ビクリ…と身体が震えていった。
「わっ…! やだっ…! 本気でこんな時にオレに触るな~! バカ~!」
こんな状況でルー作りになんて集中出来る訳がない!
そう思って必死になって叫んでいくが、そんな姿も眼鏡の嗜虐心を
刺激していくだけだった。
そうしている間に眼鏡の手は執拗さを増して、更に大胆になっていく。
片手を克哉の下肢に延ばして、直接握り込んで来る。
「ひゃっ…!」
もうそんな事をされたら、ルー作りに集中出来る訳がない。
相手の方を振り返ろうとした瞬間、背後から唇を塞がれていった。
「んっ…うっ…!」
強引な舌先が克哉の口腔を強引に犯し、グチャグチャと淫靡な水音を
脳裏に響かせていく。
そうしている間に…ルーから、焦げた匂いが…。
「…焦げたな」
唇を解放された瞬間、眼鏡がボソリと呟いていくと…克哉はつい眼鏡を
思いっきり突き飛ばしながら叫んでいった。
「あぁぁぁっ~! 人がせっかく作っていたのにぃ~!」
「修行が足らないな。これしきのことで集中出来なくなるとは…」
そう眼鏡がのたまった瞬間、克哉の右ストレートが炸裂していった。
ドカッ!
その瞬間、眼鏡のみぞおちに思いっきり克哉の拳がめり込んでいった。
珍しく、克哉の攻撃がクリーンヒットした状態だった。
「ぐはっ!」
「…本気で、お前は~! 一体何考えているんだよ! 材料が無駄に
なったじゃないか!」
「…お前がそんなに魅力的だから悪い。台所でエプロンしていて動き回って
いる姿を見たら、何もしないでいられる訳がないだろう?」
「どうせ夜にオレに絶対にチョッカイ掛けてくるんだから、その間ぐらい
大人しくしておけよ! もう…本当に、バカッ!」
そう言いながらうっすらと涙を浮かべている姿はかなりの色気が
漂っているのだが…そんな事をまともに口にしたら、もう一撃ぐらい
確実に喰らいそうな気配であった。
(そういう姿も非常にそそるんだがな…)
本音言うとこのままキッチンで押し倒して犯してやろうと思ったが…
そうすれば今夜はまともな夕食を喰いっぱぐれる恐れがある。
何だかんだ言いつつ、帰宅後に暖かい克哉の手料理を食べるのは
眼鏡のささやかな幸せな瞬間でもある訳で。
その瞬間、克哉はこちらに対して最大の殺し文句を言ってきた。
「…あんまり邪魔されると、その…お前にあったかくて、美味しい内に…
ご飯、食べて貰えなくなるから…」
頬を赤く染めながら、そんな言葉を弱々しく呟かれたら…これ以上
邪魔をするのが忍びなくなってしまう。
今度は、眼鏡が降参をする番だった。
「…仕方ないな。俺も…お前の料理を暖かいうちに食べたい。だから…
これ以上のチョッカイは、止めておいてやる…」
「…そうしてくれると、助かる。…その間、シャワーでも浴びていて。
その間に、用意しておくから…」
そう言いながら、克哉が再びホワイトルー作りに取り掛かろうとした瞬間、
背後から、頬に小さくキスを落とされて囁かれていった。
―あぁ、お前の今夜の料理…とても楽しみにしているぞ。俺の可愛い…
奥さんのな…?
そう告げられて、耳朶にもキスを落とされた瞬間…克哉の顔が火が
灯ったように真っ赤に染め上げられていく。
「ば、バカ…! お前って本当に、信じられないっ!」
克哉が反撃をしようとした時にはヒラリと眼鏡の姿は離れて、
バスルームの方へと向かってしまっていた。
その背中を見送りながら、克哉は小さくぼやいていく。
「…もう、本当にあいつは…どこまで、オレを驚かせて…振り回して
いけば気が済むんだろう…」
困ったように微笑みながらも、克哉は目の前の事に改めて取り掛かり
始めていく。
―今夜、あいつに美味しいシチューを食べて喜んで貰いたいから
そう気持ちを込めながら、再び夕食作りに取り掛かっていく。
その克哉の姿は…少し楽しげで、嬉しそうでもあった―
続けていた。
何度も、何度も背後から顔を見ない状態で際奥を貫かれ続けて…
体中には彼が残した赤い痕と情事の名残が刻み込まれている。
目覚めていくと…そのすぐ隣には、御堂がどこか苦しそうな表情を
浮かべながら眠っていた。
赤い内装で纏められたホテルの一室。
周りには大量の大人の玩具やSM道具が並んでいるような異様な
室内で…こうして、二人で連れ添って眠っていたのが何か可笑しかった。
目覚めて少ししてから、身体の奥にはまだ残滓が残されたままであったが
肌が案外さっぽりとしている事に気づいていく。
確かめるように自分の腕を軽く撫ぜていくと、サラリとした感覚だった。
行為の最中、あれだけ汗を掻いていたのなら普通ならベタついている筈だ。
ふと気づいた事があって、克哉は力なく呟いていく。
昨晩の自分達の狂乱ぶりを思い出し、頬を朱に染めていく。
結局御堂は、自分を背後から朝まで穿ち続けた。
顔を合わせて抱き合う事も、口付けもせず…その癖、時折自分の肌の上に
涙を何度も落としていきながら…御堂は、克哉を抱いていた。
その記憶を思い出し、克哉はキュっと唇を引き絞っていく。
「御堂さん…貴方は、本当は…『俺』に会いたかったのに…」
隣で眠る御堂は、疲れているのか深い眠りに入っていた。
だから少しぐらい克哉が身じろぎをしたり、手を伸ばしてもまったく
目覚める気配はなかった。
その頬を、髪を確認するように辿りながら…克哉自身も気づかない内に
そっと涙を零していた。
―どうして、二人は両想いなのに…抱き合ったのはあいつではなくて、
オレの方だったのだろう…。
行為の最中に何度も、何度も自分の肌の上に涙を感じた。
首筋から肩口に掛けて痛いぐらいに吸い付かれたのは、もう一人の自分に
対してどれだけ強く御堂が執着をしているかの証のようなものだった。
同じ肉体を自分達は共有している。
けれど…それは自分が受けて良いものじゃなかった筈なのに…どうして。
―ここにいるのが、オレなのだろう…。
半分だけベッドの上で身体を起こしていきながら、飽く事なく御堂の
髪を梳き続けていく。
普段は一部の隙もなく整えられた髪型は、今は少しだけ乱れていた。
あれだけ激しいセックスをしたら当然の結果なのだが…何故かそれが
少しだけ愛しく感じられた。
その感情に気づいて、克哉はハっとなっていく。
―愛しい? オレはこの人が…?
唇を震わせながら、たった今気づいた己の気持ちに…愕然となっていく。
最初は自分でもびっくりした。
しかしすぐに…納得していった。
―あぁ、そうか。オレ達は同じ人間だから…同じ身体を共有している
存在だから、影響を受けても仕方ないんだ…。
自分は、彼が消える直前までどれだけ強くもう一人の自分が
御堂を想っていたを知っている。
この人の強靭な精神力、誇りの高さ、凛とした処…『俺』の方は
御堂という存在に強く心惹かれ、焦がれていた。
そして自分は…それを間近で見ていたから。
その熱い心に触れて、影響を受けてしまっていたから。
―だから気づかない内に、自分もこの人に惹かれてしまっていたのだ…。
己のその感情に気づいて、静かに頬に涙を伝らせながら…
克哉は力なく呟いていった。
指先は、小さく震え続けていた。
「…オレ、バカみたいだな…。あいつがあれだけ、この人の事を好きだって…
想っているって知っているのに…同じ人を、好きになってしまうなんて…。
そんなの、許される訳がないのに…」
両想いの二人の間に、自分はいわば割り込んでいるような存在。
それが…この人を想うなんて許される訳がないのに。
どうして、たった一度抱かれただけでこんなに…痛いぐらいの気持ちが
湧いて来るのだろう。
どう、して…。
「御堂さん…御免、なさい…。けど、今だけでも良いんです…。オレの方が、
傍にいる事を…許して、下さい…」
か細く、消え入りそうな声音で克哉は小さく呟いていく。
諦めるから…必ず、貴方に求めている方の自分を帰すから。
たった今、この時だけでも…『オレ』がここにいる事を許して下さい。
そう想いながら…そっと、顔を寄せて眠っている御堂の唇に、小さくキスを
落としていく。
彼の唇は少し乾いていて、暖かくて柔らかかった。
「御堂、さん…」
心からの愛しさと、切なさを込めながら小さく告げていく。
御堂が眠ったままでいてくれた事が救いだった。
小さな波紋が、克哉の中に生まれ始めていく。
それはいつしか…積み重なることによって大きな波動へと徐々に
変化していくだろう想い。
―誰かを好きになるという事はどれだけの痛みが伴うのだろう。
想う事は喜びを生むと同時に、叶わぬ時は人に果てしない痛みを
齎していく。
それでも…気づかない間に人は誰かに惹かれ、恋をしていく。
そして愚かしいまでに、その想いに翻弄され突き動かされていく。
3、不安定な数字。
4、安定はしているが…纏まりがない数字。
応対しているのは二人。
だけどこの身には三つの感情がせめぎ合い、衝突し合っている。
この中で最終的に残り…御堂の元に残るのは誰か。
今の時点では克哉自身にも判らない。
けれど…強く、願っていた。
―どうか最後に残るのは、この人がもっとも激しく求めている
眼鏡の心である事を…。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。