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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※これは春コミの新刊「LUNA SOLEIL」の第一話に
当たるお話です。
 どんな内容になるのか参考までにお読みになって
判断して下さいませ(ペコリ)

―この奇妙な新婚生活は大晦日に『俺』に拉致され、
強引に挙式を挙げた日から始まっていた。
 もう一人の自分との婚礼という本来有り得ない出来事から
始まった新婚生活。
 
 『俺』から指輪を受け取り…とても幸せな気持ちで身体と心を重ねた夜。
 克哉は夜半に目覚めて…ふと瞼を開いていった。
 
「…ん、うっ…」
 
 微かなうめき声を漏らしていきながら克哉はそっと意識を覚醒していく。
 最初は見知らぬ天井だった。
 だがこの三ヶ月の間にもっとも『俺』と一緒の時間を過ごしたこの
寝室を軽く見回していくと、もう一人の自分の整った顔が存在していた。
 
「…あっ…」
 
 それに一瞬、ドキリとしながらつい相手の寝顔に見入ってしまった。
 基本的には自分とまったく同じ顔の造作をしている事ぐらい判っている。
 それでも窓から差し込む淡く儚い月光に照らされたもう一人の自分は綺麗だった。
 
(…今まで、こんなに穏やかな気持ちで…『俺』の寝顔を見た事
なんて、なかったな…)
 
  この三ヶ月間はハラハラドキドキと、このままずっと一瞬にいられるか
  どうか、漠然とした不安を抱えていた。
  けれど克哉の指には、今は自分達の愛の証が輝いている。
  これからも共に歩んで行きたいという強い気持ちを、この
運命の日に『俺』に伝えた。
 だから挙式の日にたった一度はめられて以来、ずっとこちらに
渡すのを保留にされていた指輪は…今、克哉の薬指に戻って来ていた。
 そのシルバーの輝きが今の彼に確かな自信を与えてくれていた。
 
「この指輪を貰った事…夢幻ではなかったんだな…良かった」
  
 克哉は己の指先に、マリッジリングがしっかり存在しているのを見て、
安堵の表情を浮かべた。
 右手を指輪にそっと覆い被させるように重ねて、愛しげに…自分の伴侶と
なった男を見つめていく。
 
「…何だろう。これが現実だって判っているけど…まだ、夢を見ているみたいだ…」
 
 今の自分はあまりに幸せな気持ちに満たされていて、逆に怖くなった。
 一瞬だけ…『俺』に会いたくても会えなくて気が狂いそうになっていた頃の
自分が脳裏をよぎっていく。
 
(…あいつがクリスマスの日に顔出してくれるまで、あんな風に挙式を
してくれるまで…今思い返すと、ずっとオレ…不安だったよな…)
 
 気まぐれにしか現れなかったもう一人の自分の気持ちはずっと
見えないままだった。
 だから抱かれる度に想いは募っていくのに…相手の心は見えなくて、
克哉はずっと怖かった。
 今なら彼の気持ちは自分にしっかり向けられていると確信出来る。
けれど何ヵ月か前の不安定だった頃の己を思い出して、克哉は
憂いの表情を浮かべていく。
 
―あいつの気持ちが見えるまで、ずっと…不安だった。
 
 気持ちが見えなかった頃の不安定な自分を思い出して…
克哉は苦笑していく。
 彼の想いを知った今なら…自分は何て馬鹿な真似をしようと
してたか滑稽さが良く判った。
 だが自分がそこまで思い詰めてしまった最大の要因は…。
 
「何かお前の気持ちが真っ直ぐに向けられているって知った今では…
あの頃のオレって馬鹿みたいだよな、と思うけど…。お前も言葉が
足りなさすぎたんだよな…あの頃は」
 
 そう呟きながらもう一人の自分の額を軽く小突く真似をしていった。
 だが相手は一向に目覚める様子はなかった。
 今、目の前で寝息を立てている彼は…克哉が見てきた中でも一番、
安らかな顔を浮かべていた。
 そう思うと…そっとしてもう少し寝かせておいてやりたかった。
 
(確か今日はまだ平日だから…『俺』は出勤しなきゃいけない筈だしな…)
 
 そう考えながら克哉はつい、月明かりに照らし出された相手の
端正な顔立ちを凝視してしまった。
 自分と同じ顔の造作をしている筈なのについ見とれてしまう。
 そうしている間に何だか心臓がバクバク言い始めてきた。
 
(うわ~だんだん恥ずかしくなってきた!)
 
 ただ寝顔を見ているだけで耳まで赤く染まっていくのを自覚して
克哉は相手から反射的に顔を背けていった。
 そうしている間に、ザワザワザワ…と自分の中で穏やかではない
衝動が湧き上がってきて、克哉は無意識の内に口元を覆っていった。
 
 ヤバイ、ヤバすぎる。
 顔を見ているだけで気持ちが落ち着かなくなって…さっきあれだけ
抱かれたのに、もっと相手が欲しくなってしまっていた。
 けれどその衝動のままに求めてしまったらもう一人の自分の
睡眠時間は大きく削れてしまうだろう。
 
(…オレの方は基本的に家の中で殆んど過ごすから問題ないけど、
『俺』は仕事中に寝る訳にいかないからな…ちゃんと少しは寝ておかないと…)
 
 そう考えて克哉は名残惜しい気はしたがゆっくりと慎重に彼から離れていく。
 だが己の欲望を自覚したばかりなので頬は紅潮して若干呼吸も
乱れがちになってしまっていた。
 
(…とりあえずベランダに出て、一旦頭を冷やそう。このままこいつの傍に
いたら…きっとまた、求めてしまいそうだから…)
 
 高校生や大学生の、まだ学生の内だったら授業をサボってその朝に
恋人とイチャつくのも良いかも知れない。
 だが自分はすでに何年も社会に出ている良い年をした大人だ。
 相手が働いてくれて日々の糧を得ている以上、そんな身勝手な真似を
する訳には行かなかった。
 
「…一旦、ベランダに出よう。それで頭を冷やした方が良いな…」
 
 そう呟きながら克哉は溜め息を吐いて、ベットから静かに
身体を起こしていった。
 そして足音を極力立てないようにしながらベランダへと向かっていった。
 外に出ると風が冷たかったが火照った身体には気持ち良かった。
 薄い裾が長いワイシャツを一枚だけ羽織って外に出たら…丁度月が沈んで
朝日が地平線からゆっくりと昇ろうとしている頃だった。
 朝と夜の境目。相反する存在である筈の太陽と月が
同居している幻想的な光景。
 藍色の空に、瞬くような星々が散らされ、その裾は淡く白い光で照らされている。
 それは自然が生み出した、空というキャンバスに描かれた
美しいグラデーションだった。
 
「…何かとても綺麗だ…。こんな風に穏やかな気持ちで朝日を見るのって
どれくらいぶりだろう…」
 
 そんな事をしみじみと呟きながら克哉はベランダの手すりに軽く
もたれ掛かながらその光景を眺めていく。
 ベランダの柵には板のような物がはめこまれているから外の人間が
見る限りはシャツ一枚の格好でも問題はないだろう。
 昨晩はもう一人の自分も気持ちが熱くなっていたのか身体中にキスマークが
散らされていたが…まだ辺りは薄暗いし、遠目で見る限りは全然大丈夫だ。
 
―近くに立たれてしまったらその限りではないのだが
 
 このマンションの周囲は…同じような住居用に建設されたビルが並んでいた。
 自分達が住んでいるのはこの周辺でも高級な方に分類される。
 すぐ足元に公園用の広いスペースが用意されているのはここぐらいだ。
 しかし視線を地平線の彼方に向ければ、あるのはただ無機質な高層ビルばかりだ。
 それでようやく…このマンションが都内でも一等地に建てられて
いるのを自覚していった。
 
「全てが夢みたいだ…」
 
 そう呟いた瞬間、胸の中にチクリと痛み始めていった。
 思い浮かぶのはかつての迷い苦しんでいる自分。…泣いていた頃の
自分の姿が鮮明に頭の中に再生されていく。
 
―お前の気持ちは一体、どこにあるんだ…!
 
「あいつはずっと…オレを想ってくれていたよ…。ただそれをあまり
口にしてくれなかったから…見えなかっただけだ…」
 
 そっと過去の自分に語りかけるように呟いていく。それでも…
泣き止む様子はなかった。
 
(…もう、泣かなくて良いんだよ…)
 
 そう以前の自分に語りかけた瞬間、走馬灯のように…
色んな出来事が脳裏に蘇っていった。
 それは今となっては遠い出来事のように感じられるもの。
 しかしかつては克哉を苦しめていた生々しい傷へと結び付いていた感情だった。
 
―お前のことを好きでしょうがなくて…だから、苦しいんだ…!
 
 それは相手に愛されていると実感出来なかった頃の自分の
悲痛な叫びだった。
 自分だけが相手に恋していると思い込んで、もう一人の自分に
本気になってしまっている事実に絶望して悲観に暮れてしまっていた。
 当然だ、本来なら自分達にハッピーエンドなど求められる筈がないのだ。
 それは奇跡が起こってくれたからこそ辿りつけた結末。
 しかしその未来を予想してもいなかった頃には…途方もない
夢物語以外の何物でもなかった。
 
「…そういえばあの頃はあいつの気持ちを知りたくて仕方なかった…。
式を挙げる一ヶ月前…去年の暮れぐらいが一番、煮詰まってしょうがなかったな…」
 
 その時期の自分の姿を思い出した途端にズキンと軋むような心の痛みを
覚えていった。
 あの頃の自分が犯した過ちを思い出して…蒼白になっていった。
 
(…俺はなんて…酷い事をしていたんだろう…)
 
 その事実に気づいた瞬間、克哉は自分がこんな幸せになる
資格などないような気がしてきた。
 己の罪を思い出していく。あの時、自分に特別な好意を向けて
くれていた御堂、本多、太一…彼等の気持ちを察していた癖に自分は
思わせ振りな態度を取り続けて、結果的に彼等の気持ちを持て遊んでしまった。
 
「…あんな真似をしたオレに幸せになる資格なんてないんじゃないか…?」
 
そう自問自答した瞬間、脳裏に声が響いていった。
 
―そんな事はありませんよ。貴方がその事をはっきりと思い出せなく
なっていたのは…あの方が望んだ事ですから…
 
「えっ…?」
 
 唐突に脳裏にMr.Rの声が響き渡って…克哉は瞠目していった。
 慌てて周囲を見渡していったが幾ら探してもその姿は見える事はなかった。
 
―幾ら私を探されましても見つかりませんよ。私は貴方がいらっしゃる
場所から離れた所から語りかけていますから…
 
「…えっと…それで何でこんなにはっきりと貴方の声が聞こえるんですか…?」
 
―それは企業秘密という奴ですよ。そんな些細な事はどうでも
宜しいじゃないですか…。
 それよりもつい先程、やり残していた事があるのに気づきましてね…。
それで声を掛けさせて頂きました…
 
「…あの、貴方がやり残した事って一体…」
 
―貴方と結婚するに至ったあの方の本心と真実。そして年末に戦った
恋敵となる方達とどのようにケリをつけていったかです。あの方は
無器用ですし…余計な事は言わないですからね。
 だからこうでもしない限り…貴方がその事実を知る事がないと
判断しました…。興味はありますか…?
 
「…はい、あります…」
 
 少しだけ間を空けてから…克哉は躊躇いがちに答えていった。
 相手がこちらに話そうとしなかった事を暴きたてるような真似など
本来ならするべきではないとは理解している。
 だがそれでも眼鏡の気持ちなら…克哉は知りたかった。
 今はとても愛してもらっていると知っているし実感もしている。
けれどあの時…自分が本当に辛くて仕方なかった時期に彼がどんな風に
感じて想ってくれていたのか…知れるものなら克哉は本当に知りたかった。
 だから男の言葉に素直に頷いていた。
 
―なら貴方に夢を見せて差し上げましょう。この朝と夜の境目…
月と太陽が同時に存在し、現実と幻想が混じりあう事が出来るこの時に…。
本来は一つの存在であった貴方達の心だけを束の間、一つに戻す形で…
あの方の記憶に貴方が触れられるように致しましょう…。
 これから貴方が垣間見るのは…あの方にとって忘れがたい思い出の欠片と、
貴方に伝える事はなかった想いと真実です…。覚悟はありますか…?
 
「…えぇ、お願いします…」
 
克哉は息を飲みながらゆっくりと頷いて瞼を閉じていった。
そして深呼吸をして…何が起こっても良いように身構えていく。
その瞬間、脳裏に真っ白い光が走り抜けていく感覚がしていった。
次いで頭の中でまるで火花が散っている衝撃が伝わってくる。
 
「くうっ…」
 
 思わずうめき声を漏らしていった。
 そのまま意識も…肉体の感覚も全てが遠くなっていく。
それは急速に泥の中に引きずり込まれていくような…恐怖感と、
暖かいぬるま湯に浸って浮かんでいるような…相反する感覚を
同時に覚えていった。
 
「んっ…はぁ…」
 
 そのまま、克哉は奇妙な快感を感じて…悩ましい声を漏らしていった。
 急速に走り抜ける強烈な衝動を堪えていくように我が身を強く抱きしめていく。
 そうしている間に、意識がだんだんと遠のいていくのが判った。
 
―さあ、貴方を誘いましょう…一時の夢の世界へと。それは貴方の
半身の想いの欠片…。それを知ることで貴方は苦しみ、引き裂かれるような
痛みも感じるでしょう…? 本当に後悔しませんか…?
 
「はい…!」
 
 男に念を押されて、克哉は一瞬だけ竦みそうになった。
 それでも勇気を振り絞って頷いて…その先を促していく。
 全く恐怖心や不安がない、と言ったら嘘になる。
 けれどそれ以上に…好奇心の方が勝ってしまったのだ。
 克哉が頷いていくと同時に…黒衣の男が愉快そうに微笑んでいくような、
そんなビジョンが鮮明に脳裏に描かれていく。
 瞬く間に全身から身体の力が抜けて、世界が…遠くなる。
 
―お前の事を、オレは…もっと知りたい…!
 
 最後に強くそう想いながら…克哉は、黒衣の男が魅せる
一時の幻想へと堕ちていく。
 切なくも辛い…真実と、彼が胸に秘めていた想いを知る為の旅路は
そうして…始まりを告げていったのだった―
 
 

 
 
 
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HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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