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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 パァン!!

 時計の単身が朝九時を告げると同時に一発の銃声が屋敷の周辺に
響き渡った。
 それと同時に、どこかの部屋の窓がパリン! と音を立てて割れていく
音も耳に届いていく。
 さっきまで自分の内側にある言葉を懸命に打ち込んでいた克哉は
その音でハっとなって顔を上げていく。

「な、何だ…! 今の、音…?」

 銃声など、日常的にそう耳にするものではない。
 動揺を隠せない様子で、辺りに視線を張り巡らせていくと…。

「おい! 『オレ』! 大丈夫か…?」

 血相を変えたもう一人の自分が、食堂に飛び込んできた。
 その顔を見て、克哉はほっとしたような表情を浮かべていった。

「だ、大丈夫…。どうやら、銃弾が打ち込まれたのは…この部屋じゃ
ないみたい、だから…」

「そうか…」

 たどたどしく克哉が答えていくと、眼鏡の方も安堵の表情を浮かべていく。
 そして…ジっと真っ直ぐな眼差しで見つめられて、ドキンと胸が大きく
跳ねていく。

「な、何…?」

「さあ? 何だろうな…?」

 ふいに、悪戯っぽく笑いながら…眼鏡が間合いを詰めて来る。
 そして…近くに来ると同時に、克哉の手をそっと掬い取って…その手の甲に
口付けていった。

「わっ…! な、何…するんだよっ!」

 克哉は思いっきり動揺しながら、顔を一気に赤らめていく。
 だが…眼鏡は、強気の笑みを口元に刻み込んでいくと…そのまま、指先にも
恭しく口付けていく。
 今までに彼にチョッカイを掛けられてきたことは数あれど…直接的に性感を
刺激される場所ではなく、そんな処にキスを落とされたのは滅多にない事
だったので、逆にドキドキドキ…と心臓が落ち着かなくなった。

「…そうしたくなったから、そうしただけだ…克哉…」

「な、何…?」

 ふいに眼鏡が、切なげに瞳を細めていく。
 その憂いを帯びた表情に心臓がそのまま破裂するかと、思った。

「…もうじき、事態が動き始める。お前は俺が守ってやる…だから、
お前も自分で、出来る範囲…自分を守れ。俺が幾ら守ろうとも、お前
自身が…命を大事にしなければ、何の意味もないからな…。
だから、約束しろ。自分でも、自分を守ると…」

 そうして、今度はパクっと指先を食まれていく。
 くすぐったいような、じれったいような奇妙な感覚が背筋から這い上がって
来るようであった。

「…うん、約束する。お前の気持ち…無為にしたくない、から…」

 そう、頷きながら答えていくと…眼鏡は嬉しそうに笑った。
 その顔を見て…克哉もそっと微笑んでいく。

「…お前が、オレを守ってくれるんだもの。オレも…オレを、大事にするよ…」

 かつては、自分など消えてしまえば良いと思った。
 本当に大事な人を傷つけて、その在るべき姿を大きく歪めてしまった罪に
心が潰れて、本当にこの世からいなくなってしまいたかった。
 そういう心が限界に達した時、水も食物も全てを受け付けなくなった。
 生命を維持するのに必要最低限のものすらも拒む事で、緩慢に自分は
自殺を図っていたようなものだった。

 けれど、今は違う。生きなくては…と思った。
 もう一人の自分の事をここまで本気に好きになるなんて、どこまでナルシストな
人間なのだろうと思う。
 だが、記憶を失くしている最中…彼の傍にいる事で、自分は息を吹き返した。
 忘れられていたから、世界に色がある事を…食物に味がある事を、そして
生きたいという基本的な欲求を自分は思い出すことが出来たのだ。
 だから、ごく自然に克哉はそれを口に出していた。
 
(…凄く、優しい顔している…『俺』…)

 そのまま、ごく自然に唇を重ねあっていく。
 クスクスと…それだけで暖かい気持ちが湧いてくる。
 今…自分は彼の傍で、笑っている。幸福感を得ている。
 それが、眼鏡の方の傍にいる事を選んだ…全ての答えだった。

―こんにちは~。お久しぶりです。…本来なら、貴方達がお幸せそうになさって
いる時に声を掛けるなど、無粋な真似はしたくないんですがね…。
 猶予は、そんなになさそうなので…。

「わわっ…!」

「ぐおっ!」

 唇を重ねて、無意識に眼鏡の唇に吸い付いていた瞬間に…いきなり
Mr.Rの声が聞こえたのでバッ! と慌てて顔を離していった。
 その反動で、思いっきり眼鏡の歯と…自分の歯がガチン、とぶつかりあって
かなりの痛みを二人共覚えてしまっていた。

「いひゃひゃ…ど、どうして…貴方、が…」

 口元を押さえながら、必死に体制を立て直しながら克哉が問いかけてくる。

―ええ、もうここに潜伏していられるのも本日までで限界でしょうから…
貴方達お二人に、手助けをしようと馳せ参じました。
 お二人には、私の方から二つの選択肢を用意して差し上げられます。
 そのお答えを聞かせて頂こうと思いましてね…

「二つの、選択肢…?」

 ここにいられるのは、本日までが限界。
 その一言を聞いた時、ついにこの日が訪れたのかと思った。
 克哉が問い返していくと…黒衣の男はどこまでも楽しげに微笑んでいく。

―ええ、そうです。一つは…この屋敷の地下にある隠し通路を使って海岸の
方まで出るルート。こちらを選択した場合…その出口の付近に、私めの方から
すでに車を一台用意させて頂いております。
 次の潜伏先の方も用意させて頂きましたから…そちらまで車で向かって
頂いて、このまま追っ手から逃げ出す。いわば…『逃避行』ルートです。
 イタチゴッコのように、いつまでも逃げ続ける。こちらを選択なされば…
貴方達二人の命が尽きるか、追っ手に捕まってしまわれるその日まで…
私が手助けを致しましょう…。

 ニコリ、と綺麗に微笑みながら…男は歌うように言葉を綴っていく。
 それは本当に楽しそうで、逆にどこか怖いものさえ感じられるような…
そんな表情だった。

「…じゃあ、もう一つのルートは…何ですか?」

―真実と、向き合うルートです

 男は、はっきりした口調で告げていく。

―この屋敷には、隠し通路が存在しますが…もう一つ、出口が御座います。
 元々、ここは私の店にいらっしゃるお客様が…貴方達のように不穏な事態に
巻き込まれた時に匿う為に用意されたものなのですがね。
 何かあった時に脱出出来るように海側と、山側の両方に出れるように
なっています。そして…山側の出口からそう離れていない場所に、
五十嵐様達は本拠地を構えておられます。
 恐らく正式な襲撃は…本日の夕方頃になりますから、その時刻ぐらいからは
その本拠地は殆ど人がいなくなります。
 そちら側のルートを選択なされば、相手の背後を取って…有利な展開に
持っていけるでしょう。
 こちらはようするに…五十嵐様と、最後に向き合う形になります。
 貴方が、あの方に伝えたい言葉や想いを抱いておられるならば、危険を
承知の上でも…五十嵐様の下へ一度向かった方が良いでしょう…。
 さあ、佐伯克哉さん。貴方は…どちらを、選択致しますか…?

 ツラツラと述べられた、二つの選択肢に克哉は…険しい表情を
浮かべていった。
 
「逃避行か、真実か…?」

「そうだ。そして…どちらの道に行くかは、お前が選べ…」

「えっ…?」

 眼鏡が、どこか真摯な表情を浮かべながらそう告げていく。

「…これはいわば、お前の問題だからな。…太一から逃げるか、向き合うか。
お前が…行きたい方を選べ。俺は…その答えに従ってやる。
だから…選べ。本心から、進みたいと思う方をな…」

「そ、んな…」

 いきなり突きつけられた選択肢に、克哉は動揺した。
 だが…眼鏡の真っ直ぐな瞳を見ている内に…彼は、こちらに選択肢を
与えてくれたのだと、克哉の意思を尊重してくれている事に気づいていく。
 この二つの道の場合、圧倒的に安全なのは海側に行って彼らの先手を
打って次の潜伏先に向かうことだ。
 だが、それは…男が言ったように、イタチゴッコをこれからも繰り返す
事に繋がっていく。
 逃げ続ける事は、一時的に体制を立て直すのに有効でも…大抵は根本的な
解決に結びつかないことが多い。
 逆に後者のルートは、危険が伴った。
 銃を持っているヤクザの集団を相手に、太一の元へと向かっていって…
直接言葉を交わす、という手段だからだ。
 
 こんなの、本来なら考えるべき事じゃない。
 前者の道を選んだ方が良いことぐらいは判っている!
 だが、自分の胸の中で何かが叫んでいる。
 今、すぐ其処に太一がいるのならば…こちらが捕獲されて強引に連れ戻されると
いう形ではなく、それ以外の方法で対峙したかった。
 けれど、それは眼鏡の身を危険に晒す事に繋がっていく。
 克哉にとっては、眼鏡は大切な人間だ。
 だから…我侭を押し通す事は、彼の命を危うくするのに繋がる。
 
「…逃げます。本当なら、太一と向き合いたいけれど…一対一の状況なら
ともかく、銃を持っている人間がいる状態で突き進むことは…『俺』の
命を危険に晒す事につながりますから。
 だから、俺は逃げます。…伝えたい言葉は、手紙かメールという形で…
自分の中で整理がついたら、太一にちゃんと伝えます。
 ですから…海側のルートに…案内して、下さい…」

―判りました。それでは、とりあえず朝食を食べて下さい。
 腹ごしらえと、お二人の準備が済みましたらご案内致しますよ…
 本当に、後悔しないんですね…?

「はい。もう一人の自分の命を掛けてまで…自分の我侭を押し通すべき
ではない。それがオレの答えですから…」

 そう、はっきりと克哉は…決意しながら告げていく。
 だが、彼は…知らなかった。

―この屋敷にはすでに何箇所か、盗聴器が設置されていた事を。
 そして…今の彼の言葉は、部下を通して…太一に告げられてしまっていた。

 海側に、彼らが逃げるという事実は…皮肉にも、そのような形で相手側に
筒抜けになってしまったのだった―



 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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