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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―克哉と眼鏡が、地下水路で色々と話し合っているのと
同じ頃…太一は一人、海側の方へとやって来ていた。
 片頬には赤い痕がくっきりと刻まれ、明るいオレンジの髪は乱れて
酷い有様になっていた。
 自然が多い処だと聞いたので、迷彩服を身に纏った彼は…全力で
走り続けていく。
 
 はあ、はあ…はあ、はあ…!

 彼は、苦しげに呼吸を繰り返していきながら、痺れそうになっている
四肢を動かし続けた。
 何人もの人間が、彼を一斉に追いかけてくる。
 それに捕まるものかと…彼は意地でも進む足を止める事なく追跡者から
逃げ続けていく。

「くそっ…!」

 悔しげに呟きながら、彼は辛うじて舗装されている道の上を進み続けた。
 どうしてこんな事になったのか、困惑しながらも…彼は身を隠せそうな場所を
必死になって探していく。

(…まさか、親父がここまで…俺の部下に根回し済みだなんて…)

 状況がひっくり返ったのは、30分前の話だった。
 克哉達が潜伏していると思われる屋敷を、全員で囲んで…威嚇射撃を
一回してから、総勢20名ほどで襲撃をする予定だった。
 だがその直前、彼は裏切りにあった。
 自分の信頼している部下達に、唐突に太一自身が囲まれ…取り押さえられ
掛けたのだ。
 最初は、どうしてこんな事をするのか本気で彼らに対して怒りを覚えた。
 だが…その場にいた全員の意思はすでに固まっていたのだ。

―若、どうか…このまま引き返して下せぇ

 自分の面倒を長年見て来た、壮年の男は懇願するように…そう告げて来た。
 太一の父とも親しい距離にいる、その男が…必死の形相で土下座をしながら
そんな事を言って来た時…呆然とするしかなかった。

『どうしてだよっ! 克哉さんはもう間近にいるのに…何故諦めないと
いけないんだよっ!』

―ここにいる人間、全てが…あの人に帰って来て欲しくなんてないからですよ。
…ぼっちゃんが惚れ抜いている方だと思って、ずっと…あっしら我慢していました
けどね。ぼっちゃんが実家に戻られた際に…あの人を連れて来たでしょう?
 その辺りから…まるで別人のようになられて、冷たくなったじゃねえですか。
 そんなあんたを見ているだけでも…あっしらはしんどかったのに、春には…
あの人を庇って、ぼっちゃん自身すらも死に掛けてしまわれて…!
 傍にいたって、ロクな事がないじゃないですか…! それだったらあっしらは
跡継ぎになんてならなくて良いから、無邪気に音楽バカやっていた頃のぼっちゃんの
方がずっと好きだったんでさ! 
 あの人が傍にいる事で…ぼっちゃんが、音楽を忘れて…あんな荒んじまうくらいなら
戻って来て欲しくなんかないんですよ…!
 だから大人しく、諦めて下さい…! これは、大旦那様の意思でもあるんでさ…!

「何だって…じいさんまでも、克哉さんに…戻って来て、欲しくない…って?」

 叩きつけられるように言われた言葉に、太一はつい呆然となっていく。
 それと同時に…他の若衆が、口火を切っていった。

―当たり前でさ! ぼっちゃんをそんな風に冷たい人間に変えた人に…
どうして、良い感情なんて抱けるんですかい! あの人に良い感情を持って
いる奴なんざ、うちの組の中には誰もいないですよ! 
 ぼっちゃん、いい加減目を覚まして下さい…! ここで踏み止まらなければ
あんたにこれ以上、誰も従わなくなっちまう。
 まだ若いから、色に狂ったり気の迷いもするだろう…と寛容に見ていますけれど
これ以上…馬鹿な真似をするんなら、誰もついて来なくなりますぜ…!

 そうして、太一は瞬く間に羽交い絞めにされて…自由を奪われていった。
 何人もの人間が、必死の形相を浮かべていきながら青年ににじり寄っていく。
 だが、太一とて…伊達に長年、ヤクザの家で育ってきた訳ではないのだ。
 目で彼らを威圧しながら…抵抗の意思を示していく。
 その迫力に、つい周りの人間は押されていった。

「離せっ! お前らが何と言おうと…俺は克哉さんを取り戻す! 俺は…
あの人を愛しているんだからなっ…!」

 迷いない口調で、はっきりと太一は告げていく。
 それと同時に周りの人間全てが…苦々しげに溜息を突いていった。
 恋は盲目、とは良く言ったものだ。
 太一は…克哉を連れて帰って来た日から、周りの事がまったく見えなくなって
しまっているようだった。
 以前は太陽のように明るかった彼が、別人のように荒んだ瞳をするようになり。
 同性の人間を…嗜虐的に抱くようになり、それを周りの人間に見せ付けるように
抱くような真似をするようになってから、太一に向けられていた信頼や好意の
多くは失われてしまっていた。

―聞き分けのない事を言わないでくだせぇよ。ぼっちゃんが…あの克哉とか
言う人を愛しているっていうのはここにいる人間全てが嫌ってほど判って
いますよ…! けどね、あんたは…もう、うちの組の看板を背負っているんだ。
 簡単に命を捨てるような真似をされたら、その下についている何百もの
五十嵐組に関係する人間が路頭に迷う事になる…!
 あんたがこれ以上…克哉、という人を追いかけるっていうのなら、あっしらの
全てを捨てる覚悟でやって下せぇ…!
 色恋に狂って、まともな判断を下せない跡取りを認める程…あっしらの商売は
軽いもんじゃない! その覚悟がなく…五十嵐組の跡取りでいたいなら、どうか…
諦めてこのまま帰る事ですな…! 

 苦しげに、長年…祖父や父にとっても信頼出来る部下であった男が…訴えていく。
 その時になって初めて、冷や水を打たれたような気持ちになった。
 この男に…こんな決断を迫られてやっと、自分の立たされていた状況を…太一は
初めて自覚したのだ。
 周りにいた人間の殆どは、自分ではなく…目の前の男や、父親の考えに賛同していた
のだという現実を初めて自覚していく。

―誰が…諦めるかよぉっ!!

 太一は、怒りに任せて…自分を羽交い絞めにしていた人間を、全力で振り払う
ことによって抵抗していく。
 同時に胸元に忍ばせていた一丁の拳銃を引き抜いて…目の前の男に突きつけていく。
 ここに連れてきた20名は…皆、自分が信頼している人間だった。
 だが、皮肉にも…心から太一を想ってくれているからこそ、克哉を取り戻すことに
彼らは誰もが消極的だった。
 
 克哉が、かつて…真っ直ぐに音楽に打ち込んで夢中になっていた太一を好ましく
思っていたように、ここにいた全ての人間は…太一が跡取りにならなくても、自分の
好きな夢を追いかけてくれたら良いと願っていたのだ。
 だが、克哉を連れて戻って来た太一は…酷く傷ついて荒みきった瞳をしていて
別人のようになっていた。
 そして、音楽の事など忘れてしまったかのように振る舞って…克哉を監禁する為の
経済力と権力を得る為だけに、あれだけ嫌がっていた跡取りになる事を決意したのだ。
 そんな太一を、周りの人間全てが見ていられなくなった。
 最初は、唯一の男孫である彼が…跡を継ぐことに喜んでいた祖父でさえも、太一が
克哉を庇って命を落としかけた一件を報告されてからは…否定的な考えに変わって
しまった程だ。

 だが、太一は…それを知った上でも…諦め切れなかった。
 それは子供の駄々といえるレベルでのどうしようもない執着心。
 もうすでにそれは愛情ではない。妄執や…執念と言える代物だ。

―それがぼっちゃんの答え、ですか…。

「あぁ…そうだ。俺は…克哉さんを何が何でも、取り戻す…!」

―なら、あっしらはぼっちゃんを全力で取り押さえさせて貰いやしょう!

 この場を取り仕切っていた男が…号令を掛けると同時に、周りにいた人間が
一気に間合いを詰めていった。
 それと同時に太一は…斜め上に向かって、一発の銃弾を放っていった。

 パァン!!
 
 響き渡る盛大な銃声。
 この場にいた人間の全てが、一瞬立ち止まっていく。
 太一はその隙を突いて逃げ出し…そして、現在の状況に陥ったのだ。

(ちくしょう…!ちくしょう…!ちくしょう…!)

 走り続けている最中、先程言われた言葉がグルグルグルと…頭の中を
巡り続けていく。
 信じていた連中であっただけに、この展開は…彼にとって、心理的な打撃は
かなりのものであった。
 克哉を取り戻せば、安心出来ると思っていた。
 この焦がれるような感情も、貪るように彼を抱き続ければ…かつてのように
収まっていくと信じて疑っていなかった。
 だが、春の…太一が克哉を庇って命を落としかけた一件によって…周りの
人間全てが、それをもう許してくれそうにない現実をようやく彼は知ったのだ。

「克哉、さん…克哉、さん…!」

 狂った機械のように、ただ…その人の名前だけを弱々しく呟き続けながら
彼は追っ手から逃げ続けていく。
 全身から大量の汗が浮かび上がって、ベタベタだ。
 運動量に対して、入って来る酸素の量が確保出来ていないせいか…もう
苦しくて足が鉛のように重く感じられていく。
 だが、彼は…それでも、捕まったら終わりだと思って…執念で足を動かしていた。
 しかし…炎天下で、これだけ激しい運動をして…これだけ長い時間、水分補給も
なく走り続けたりなんかすれば意識だって朦朧としてくる。
 そうしている間に、彼は…ぬかるみにハマっていった。

「うわっ!」

 そしていきなり、ズボっと足が地面に沈んで…一気に彼の身体は
飲み込まれていった。
 まさにそれは一瞬の出来事。
 この周辺は、水脈が幾つも走っており…大地の至る処に、泉や
地下水脈に繋がる穴が空いている。
 太一がハマったのも、腐葉土によって覆い隠されていた人一人くらいなら
すっぽりと入り込んでしまえるくらいの枯れた泉の跡であった。 
 水がなく、空洞になった泉跡に踏み込んだ太一の身体はあっさりと
飲み込まれ…この辺りに無数に走っていく地下道の一つへと
その身を運ばれていく。

「いってぇ…!!」

 盛大に尻餅を突いて、尾骶骨に衝撃が走っていく。
 だが、かなりの高さから落下した割には…落下地点の周りには柔らかい
腐葉土が降り積もっていたせいで、被害は左程出なかった。

「…ってぇ…! 何でこんな処に、落とし穴なんてあるんだよ…! って…
暗い、なっ…!」

 周囲を見渡していくと、明かりが届かない場所なのか…殆ど視界が
効かなかった。
 どうにかして明かりを…と思ったので、携帯電話を取り出して、そのライトを
頼りに進んでいこうとすると…。

「…発信機の反応が、近い…?」

 ふいに、克哉に取り付けていた筈の発信機が反応を始めていった。
 太一が屋敷の前に辿り着いた時よりも謙虚に小型のレーダーが反応しているのを
目の当たりにして…呆然となっていく。

「…そっか、克哉さん…。この近くに、いるんだ…」

 それなら、あの屋敷に襲撃しても…きっともぬけの殻だったのだろう。
 その事実に気づいた時、邪悪な笑みが知らぬ間に浮かんでいた。

 ―そこまでして…貴方は俺から、逃げ続けるのかよ…!

 こんなに、こんなに愛しているのに…! 
 どうして貴方は俺から逃げるんだ!
 何故笑ってくれなくなったんだ…!
 そんなドロドロでグチャグチャな感情が吹き出していきながら…まるで
幽鬼のように、太一はゆっくりと発信機が反応している方角へと向かっていく。

―逃がさない。貴方は絶対に…取り戻すかんね…!

 そして、恋に狂った男が一人…洞窟の奥へと進んでいく。

 一人の人間に恋して、狂ったが故に…彼は、周りの人間の信認を知らぬ間に
失っていた。
 愛する人すらも、それで…心を閉ざして、何も飲食を受け付けなくなって
しまった。
 父や祖父からも、この恋を快く思われていなかった…その残酷な事実を
改めて突きつけられて、絶望ばかりが彼の心を満たしていく。

 だが、それらの事態を招いた全ての発端もまた、彼が生み出している。
 それに気づくのはまだ彼は若く、経験も浅かった。
 愛する人と上手く行くのに本当に必要なことは何だったのか…彼は
まだ気づいていない。
 だから、絶望に浸りながら…相手を責めることでしか、自分を保てなかった。

 ―愛する人と笑い合うのに必要なことはなんだと思いますか?

 ふいに、歌うような口調で…幻聴が聞こえた。

―貴方はまだ、それに気づかれていないご様子ですね…。ふふ、結構です。
いやでもこの先に…残酷なまでの真実が存在します。
 それによって…貴方は気づかされるでしょう。自分がかつて置き去りに
してきたものが何だったかを…。
 さあ、もう舞台は最終場面に辿り着きました。その結末をどうか…
御自分の目に焼き付けて下さい。
 この愚かしいまでに真っ直ぐな愛の結末がどのようなものか…
貴方は、見届けなければならないでしょうから…

 何故、そんな声が…聞こえるのかが、太一には判らなかった。
 けれど、それでも立ち止まることなく…彼は鈍くなった足を、ぎこちなく
進ませていく。
 水脈の果てには、海へと続く出口が存在する。
 その方向に向かって…彼は、ただ歩いていった。

―その終わりに存在する、この恋の終焉に立ち会う為に―
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プロフィール
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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