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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―太一が、克哉の携帯に一か八かで電話を掛けた日から、
すでに三日が過ぎようとしていた。
 あの日を境に、今までまったく足取りを掴めなかったあの二人の
潜伏場所を探り出すことに成功し、驚異的な速さで太一は
五十嵐組の自分達の配下を20人程、動員して…その土地へと
向かっていた。

 太一が乗っているのは全部で8人が乗れる大きめのワゴン車だった。
 マツダのボンゴフレンディ。ゆったりとした間取りが取られていて天井の
ルーフと呼ばれる部分を開ければ立って移動するのにも苦にならない
構造になっている。
 移動中に、太一が横になって寝られるように…5人前後、特に
一番後ろの三連の座席は彼に宛がわれていた。

 五十嵐組内での、自分の直属の部下がこの車には乗車している。
 深夜の高速道路を走行中、こちらの安眠を妨害しないように…同乗の
者達は一言も言葉を発していなかった。
 ただ、耳に届くのはエンジン音と…走行中に僅かに入り込んでくる音のみだ。
 車内全体が、一定の間隔で規則正しく揺れている。
 規則正しい振動は、睡眠を誘発すると良く言われるが…今の太一は、とても
眠れる心境ではなかった。
 否、ここ三日間くらい…まともに眠れなかった。

(…ちくしょう…!)

 心の中で舌打ちをしていきながら、半分だけ身体を寝返らせていく。
 やはりベッドや布団に比べて、車の座席部分は面積が狭い為…慎重に
身体の位置を変えていかないとそのまま落下してしまいそうだ。
 心も身体もクタクタに疲れ果てているのに、安らかに眠れそうにない。
 三日前までは、全てを片付ければ克哉が戻って来る。
 そう信じて事態の解決に手を尽くしていたから、傍にいなくても…どうにか
耐えることが出来ていた。
 だが、こちらを拒む克哉の言葉が…今も太一の胸に突き刺さって、
チクチクチクと…鈍痛を与え続けていた。

「克哉、さん…」
 
 切なげに、太一はその名を呟いていく。
 脳裏に浮かぶのは、かつての…優しく微笑んでいる姿だった。
 彼の事を考えれば、真っ先に浮かぶのはその表情だ。
 正式に知り合いになる前から…ずっとあの人の事を知りたいと
思っていて、父親が経営している喫茶店に初めて顔を出してくれた
日に、やっとフルネームを知る事が出来た。
 その笑顔が、好きだった。

 自分の好きなバンドを、この人も好きだと知った時…嬉しくて嬉しくて、
こうやって知り合えたのは運命なんだ! と青臭いことを考えた。
 ダンダンと仲良くなれて、一緒に過ごす時間が増えていったことが
嬉しくて仕方なくて。
 心の中に芽生えた想いは、会えば会うほど…次第に大きくなって
膨れ上がっていくようだった。
 日増しに好きになって、もっとこの人の事を知りたくなって、次第に
独占欲まで強くなっていった。
 あの一件が起こる前には、太一は自分の中の想いが『恋』にまで
昇華している事に気づいていた。
 だから、彼はショックだったのだ。
 本当に好きな人が眼鏡を掛けた瞬間…別人のように豹変して、
自分を無理矢理、犯した事が…。

(克哉さん…何でなんだよ。どうして、眼鏡を掛けたあいつと、克哉さんが
同時に存在していたんだよ…。どうして、あいつの元で過ごしている内に…
俺の事、拒むようになっちゃったんだよ…っ!)

 そう、喫茶店ロイドで起こったあの一件からすでに一年と数ヶ月程、
経過している。
 その内、太一が克哉を実家の屋敷に監禁していたのは一年程だ。
 今思い返すと…その辺りから、克哉は自分に対して従順な態度を
取るようになった。
 けれど…あの頃の自分は、償いと称して…自分に従順に接する癖に
瞳で何かを訴えかけている克哉を腹立たしく思っていた。
 啼かせて、屈服させて…何もかも、こちらの思い通りにすれば…
その苛立ちはいつか晴れるか、と思った。
 だから太一は欲望のままに克哉を弄り続けた。
 
 幾ら止めてくれ! と克哉が懇願しても、聞いてやらなかった。
 そうやって彼がまだ瞳で何かを伝えようとしている時期に一切、こちらは
耳を傾けなかった。
 何ヶ月もそうしている内に、彼の目からは光と力が消えて…気づいたら
ガラス玉のように虚ろになり、何も映さなくなった。
 そしてそれ以後の記憶は…太一自身にもうろ覚えだった。

―思い出したく、ない…!

 絶望に駆られた自分が、そうなった克哉に何をしたか…太一はすでに
具体的に思い出せなくなっていた。
 ただ、その時期…克哉の心を戻したい一心で、今まで以上に熾烈なことを
彼にし続けていった。
 その結果、克哉の四肢の黒い痣と…肌の無数の傷跡がその身体に刻まれて
消えなくなった。
 克哉の心を、言葉を無視し続けた結果…その心が見えなくなって、必死に
足掻いて、泣き叫んで…人形のように虚ろになった克哉。

 桜の花が舞い散る頃には、もしかしたら…自分も半ば狂っていたのかも知れない。
 あの人の心がただ、欲しかった。
 以前のように優しく微笑んでくれればそれで良かった。
 なのに、あの人は笑ってくれなくなった。
 好きだから、ではなく、自分を傷つけたからその償いで…という偽善じみた理由で
自分に何もかも奪われることを受け入れた克哉に…どうしようもなく、苛立ったのだ。

―克哉さん、克哉さん…!

 辺りは真っ暗で、静寂に包まれている。
 すぐ近くに配下がいたって、そっと…されていたら、同じ空間にいても…
いないのと一緒だ。
 静寂は、人の中の…奥深くに埋めていた本心を浮き彫りにさせていく。
 外界の刺激がある状態では、決して気づけない事実。
 そして…見たくないものまで、ゆっくりと自分の心の中に浮かび上がる。

―貴方の笑顔を、見たいんだ…!

 だからだから、このまま…貴方の言葉なんて受け入れたくない!
 貴方は俺のものだ! 
 他の誰かが貴方を愛するなんて、許せない。
 俺以外の誰かを貴方が好きになるくらいなら…いっそ…。

「…いっそ、この手で…」

 そこまで、呟いた時…自分の掌が赤く染まる幻を見る。
 これは、想像で描いた克哉の血。

―ヒラヒラヒラ、と桜が再び舞い散っていく。
 決して消えないあの夜の記憶が再び彼の中に蘇る。
 大きな桜の木の下…倒れている克哉は、果たして…どちらの克哉
なのだろうか?
 
 約束しておきながら、自分の元に愛する人間を返さなかった…眼鏡を
掛けた方か。
 それとも、電話口で自分を拒絶する発言をした克哉か。
 どちらの克哉の方が、自分は憎いのかももう判らない。

 ともかく、闇! 闇! ドロドロドロドロ…と暗いものが自分の中に
滲み上がると同時に、赤い血が更に鮮やかに彼の掌に広がっていく。

 ―嗚呼…もう自分は狂ってしまっているんだ…!

 素直に、納得してしまった。
 そう…彼は恋の裏側に潜む狂気に身を浸してしまっていた。
 求めるのはただ一人、克哉だけ。
 あの人が笑ってくれるならば…俺は、俺は…!

―何が出来るんだ?

 ふいに、何も浮かばなくなった。
 ただ在るのは求める心だけ。
 自分の中に空いてしまった空っぽの部分を、ともかく克哉で満たしたかった。
 この空洞を作ったのは、克哉。
 
 かつては胸に満たしていたものがあった。
 だが、もうそれは忘れてしまっていた。
 自分にとって大切だったもの。掛け替えのなかったもの。
 それが徐々に、焦燥によって埋もれて見えなくなっていく。

 誰しも、自分の心の中に宝石となる大切な想いがある。
 だがそれは…自分と向き合わなければ、見失ってしまうものだ。
 太一は、見失ってしまっていた。
 自分が笑う為に必要なもの。
 克哉を真の意味で取り戻すことに大切なもの。

 何度も何度も、太一は眠れないまま…何度も座席の上で寝返りを
打ち続けていく。
 後、3~4時間もしたら目的の場所に辿り付くと…小声で運転している
若い男に告げられていった。

(眠らないとな…)

 いつまでも、眠れないとか甘ったれたことを言ってても仕方ない。
 これからは…正念場なのだ。
 少しでも目だけでも瞑って、身体だけでも回復しておかなければ…大事な
時に身体が動かなくなってしまう。
 だから、一旦心に蓋を閉めて…ただ、休む事だけに集中していく。

―克哉さん

 無自覚の内に、天井に向かって微かに手を差し伸べていく。
 それは一瞬だけ見た、儚い幻想。
 瞬きする間だけ…克哉の顔が、脳裏に鮮明に浮かんでいった。
 その笑顔は、どこまでも優しくて、穏やかで、懐かしい―

―彼が失くしてしまった、宝物そのもののようだった

 数時間後。
 夜明け前に、彼が乗ったワゴン車は…目的地に辿り付いていく。
 そして、最後の幕は開けていく。
 彼ら三人が織り成す、この物語の決着がつくその時は…
もう、間近に迫っていたのであった―
 
 
  
 
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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