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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
            

『おや、泣いていらっしゃるのですか…?』

 太一が夢の中に…かつては存在した日常の中に救いを求めている
場面を立て続けに見せられて、男は知らず泣いていた。
 瞼を開けば、其処は妖しくエキゾチックな香りが漂う赤い天幕で
覆われた部屋。
 息子が、どれだけ気弱な方の佐伯克哉を想っていたのかを知って…
五十嵐太一の父親である、喫茶店のマスターは胸が潰れそうだった。
 同時にどれだけ太一が五十嵐組を継ぐことを嫌がっていたかも…
アーティストの道に進みたがっていたかも、息子の視点に立って事例を
追っていく度にはっきりと理解していく。

―同時に、一度サラリーマンの道を選んだことへの違和感も増していく

 その男が感じている疑問を、Mr.Rも感じ取っているのだろう。
 愉快そうに微笑みながら、問いかけてきた。

『…おやおや、随分とすっきりしない顔をなさっておられますね…。ここまでの
太一さんと克哉さんの愛の軌跡を見て…どうして最終的にご子息があのような
決断をされたのか、まだ見えて来ていないようですね…』

「ああ、そうだ。…太一が求めている方はもう会えなくなってしまった筈だ。
しかも眼鏡を掛けている方とは激しく憎みあっている。それで…どうして、
理解をしようと…あいつが会社勤めを数年と区切っているとは言え始めたのか
俺にはまったく判らねぇ…」

 男はついに、妙な意地を張るのを止めて…率直に感じているままの事を
口にするように変わっていった。
 一体どのような原理かはまでは不明だが、確かにこの男の力によって…
知りたかった真実の断片の幾つかを得る事は出来たのだから。
 黒張りの豪奢なソファに深々と腰を掛けていきながら男は溜息をつく。

『えぇ、現時点ではそうでしょうね…。だから私は貴方にそっと手を差し伸べて
知りたかったものをこうして教えて差し上げている訳です。さあ…そろそろ
次の演目が始まりますよ。今夜の貴方は当店にとってはゲスト。
私が知っていることを…そして語りたいと思っていた佐伯克哉さんと、五十嵐太一さん。
その二人の泥沼のように救いがなく、そしてキラキラと輝く結晶のように尊く
儚い愛の唯一の観客でもあります。…どうぞ、時間の許す限り私に今夜は
お付き合い下さい。演目も…そろそろ佳境に入って参ります…。
さあ、ごゆっくりと堪能あれ…!』

 Rはまるで舞台の上で大勢の観客に向かって語りかけているかのような
大仰な身振りと大声で、そう高らかに告げていく。
 その声を聞きながら太一の父は…再び脳髄が蕩けていくような猛烈な
睡魔の中に呑み込まれていく。

―俺は、お前を理解したいんだぜ…太一…

 自分にとって、大切な子供の一人だから。
 だから息子の事を知りたいし、理解したい。
 父はそうして…再び夢の中に意識を沈めていく。

―そして、ついに太一の過去を追う物語はゆっくりと佳境に
入っていったのだった―

                    *

 人の夢、と書いて儚いという字は構成されている。
 目覚めればあっという間に自分の手のひらからすり抜けてしまうもの。
 それが…夢であり、過去でもあった。

「あっ…」

 自分のアパートの部屋、ベッドの上で太一は唐突に覚醒していく。
 幸せな夢に浸っている間だけでも救われた気持ちになれていたのに…
意識が浮上して現実に戻っていくと、一気に落ち込んでいった。

「…情けないよな。夢に縋ったって…何も生み出しはしないのに…」

 かつての自分なら絶対にしなかっただろう。
 しかし…希望を持ちながら、それが決して叶えられない生活は…
太一の心を急速に蝕んでいった。
 
「克哉さん…」

 壊れたスピーカーのように、あの人の名前を呟いていく。

「克哉さん…」

 そして頭の中で何度も何度も、リフレインさせていった。
 夢で久しぶりに見たあの人の面影を、そして儚い笑顔を鮮明に思い出して
太一は知らず…涙を零していた。

―会いたい…

 心の中の正直な想い。
 今でも、愛している。
 会いたくて会いたくて、本気で気が狂いそうだ。
 
―たった一度でも良い…。もう一回だけでも、貴方に会いたい…!

 夢を見たことで、心の奥底に存在する自分の強烈な願いに嫌でも気づかされていく。
 そしてずっと疑問に想っていた…どうして眼鏡を掛けた方の、嫌悪している克哉と
半分同棲みたいな感じで一緒に暮らしているのか、その理由に嫌でも気づいて
しまっていた。

―だから俺は、あいつと暮らしているんだ…! 俺があの人を求めていれば…
あいつの奥底にいる克哉さんが、たった一度だけでも出て来てくれると
願っているから…!

 だから愛していなくても、身体を重ねている。
 自分を抱く事で、少しでもあいつの奥に存在しているかも知れない己が
求めている方の克哉を揺さぶることが出来るなら、それで良いと思ったから。
 触れ合うことで少しでも、『存在している筈の克哉』に自分の事を伝える事が
出来るならば…虚しいと判っている行為にも、多少は意味があったから。

―たった一度だけの邂逅

 それが…愛してもいない男と生活している意味でもあり、そして…
何よりの願いでもあった。
 だが、太一は気づいていなかった。
 どれだけの時間を重ねていても…身体を繋げていても、今の克哉を…
眼鏡を掛けている方の人格を拒んでいることがどのような結果を
齎すのかを…。

「克哉さん、一度だけでも良いから…俺の前に出て来てよ。…会いたい。
会いたい、会いたい…貴方に、触れたい。感じたい…そして一度だけで
良いから…貴方を、抱きたいんだ…」

 たった今、幸せな夢を見たからこそ…太一は思いつくままに己の本当の
欲望を、望みをとりとめなく口にしていく。

「…俺が求めているのは、貴方だけだから…だから、出て来てよ…克哉さん…」

 本当に壊れてしまったかのように、何度も何度も求める言葉を…呪詛のように
繰り返していく。
 それは太一の中であの人が消えてしまった日から繰り返し頭の中に
響き続けている…未練であり、本心。

「あんな奴なんて、いらないから…。俺は、貴方だけに会いたいんだ…!」

 太一は、気づいていなかった。
 眼鏡を掛けた方も、掛けていない方も表面的にはどれだけ性格に違いが
あっても…根っこの部分では、繋がっている事に。
 片方を拒絶すれば、傷つければ…もう片方をも傷つけることになる事に。
 だから、知らなかった。

―アパートの前に立っていた眼鏡を掛けた克哉。その相手に…今の呟きを
聞かせれば聞かせるだけ、心の奥底に存在している克哉をも傷つけて…
その精神を瀕死にさせていたことに…。

 太一が否定をすればするだけ、眼鏡の克哉も…奥底に存在する克哉の
両方を傷つけていく。
 かすかな太一の本心をドアの向こうで聞いていきながら…眼鏡を掛けた
克哉は…立ち尽くしている事に、ベッドの上の青年は気づかない。

―そして、今…一瞬だけ、求めている方の克哉が意識に上がったことにも
彼は知らないままだった…

 太一は繰り返す。
 片方をズタズタに傷つける言葉を。
 そして、片方だけを求め続ける。
 それが…どれだけ佐伯克哉という人間を分裂させて、追い詰めていたのか
その罪に気づくことがないまま…彼ら『三人』の物語は佳境に静かに
入っていったのだった―


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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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