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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―佐伯克哉が、就業時間後に本多憲二に呼び出しを受けたのは
今から二週間程前。
 御堂がMGNを退社したと聞かされてから二週間以上が経過した
頃の話だった。

 その日の夜も、夜空を曇天が覆っていて酷くすっきりしない
空模様であった。
 すでに12月の初旬に差しかかろうとしていた時期だったので、
扉を潜って屋上に足を踏み入れた時、外気がとても冷たく…
こちらの身を引き裂くようであった事を良く覚えていた。
 吐く息が白じむ中、克哉は…先に待ち合わせの場所を訪れていた
本多に向かって軽く微笑んで見せていく。

「…こんばんは。少し待たせちゃったかな。…今日も外回り、お疲れ様」

 正直、この時期の克哉は…まだ御堂が突然、MGNを退社した事。
 それによって今までの自分達の関係がなし崩し的になかったものに
された事に対してのショックが色濃かった。
 それでも心配させまいと気丈に笑みを見せて、挨拶を交わしていく。
 だが本多は…そんな彼の気遣いが、却って苦しいと言わんばかりの表情を
浮かべながらそっと克哉の方へ向き直っていった。

「いや、良いぜ。むしろ…俺の方が、お前を急に呼び出した訳だし。
…ほら、あったかい缶珈琲買っておいたぜ。少なくともホッカイロの
代わりぐらいにはなるだろ…」

「あ、ありがとう。寒いと思ってたから丁度…」

 良かった、と言おうとして渡された缶の銘柄を見て苦笑していく。
 其処には思いっきり「ミルクたっぷりカフェオレ。ほんのりとしたマイルドな甘さ」
と書かれていたのに気づいて苦笑したくなった。
 克哉は正直、あまり甘いのが得意ではない。
 珈琲ならノンシュガーか、もしくは微糖程度の物なら嬉しかったのが本音だが
ホッカイロ代わりに使うならそれで差し支えないだろう。
 後で片桐か、八課の別の女の子辺りにでもこっそりと譲ろう…と考えて
いきながらそれをそっと懐にしまっていった。

「それで…どうしたんだ? いきなりオレを呼び出しだなんて…。
何か話したい事とか、他の人に聞かれたくない相談事でもあったのかな?」

「いや…俺がお前に相談事があるんじゃなくて…その…」

 いつもはっきり白黒をつけたがる性分の本多にしては、歯切れの悪い物言いで
克哉は少し怪訝そうな顔を浮かべていく。
 言いよどむその姿は、言葉を選んでいるかのようだった。
 だが…いつまでもまごついていても仕方ない。
 彼は考えが纏まると、言いづらい事を直球で問いかけて来たのだった。

「…率直に聞く。なあ…克哉、お前は御堂と何があったんだ? あいつが
消えたっていうのなら…八課在籍の俺たちにしたら、本来ならあのムチャクチャ
言って来る奴が消えたことを喜ぶべきなのに…どうして、ずっとお前は
浮かない顔をし続けているんだ…?」

 ふいに、真っ直ぐに瞳を覗き込まれていきながら…図星を突かれて
克哉が瞠目していく。
 その反応を見て、本多は苦々しく溜息を突いていった。

「…そ、んな事ないよ…。御堂さんが辞めたことと、オレが落ち込んでいるのは
深く関係なんか…ないから」

「嘘だな」

 克哉の言い訳は、あっという間に本多に一刀両断されていく。
 それで余計に、何を言えば良いのか判らなくなってしまった。
 二人の間に沈黙が落ちていく。
 何とも言いがたい硬直した空気に…克哉は本気でどうすれば良いのか
判らなくなってしまった。

(本多に…オレと、御堂さんとの間に何があったか何て…口に出して
言える訳がないじゃないか…。オレだって、正直混乱しているのに…)

 けれど、そんな誤魔化しは許さないとばかりに…本多の目は
真っ直ぐにこちらを見つめ続けてくる。
 そうだ、この目だ。やましいことがあると…本多の実直で情熱的な
性分はこちらにとってはもっとも厄介なものとなる。
 
 大学時代からこちらの事を知っている同僚に、どうしてあんな
出来事を話せるというのだろうか。
 最初は嫌がらせを散々受けて、脅迫されたも同然の形で身体の
関係を持つ事になり…それを何ヶ月も続けられている内に会えない事が
切なくなってしまっているだなんて。

 あんな風に辱められて、貶められて。
 半ば犯されるように何度も身体を貫かれたことすらある。
 一歩間違えばこちらの社会人生命すら脅かされるような振る舞いを
受けたにも関わらず…そんな男に会いたくて、会いたくて気が苦しそうに
なっている事実なんて、どうして話せるというのだ!

 ふっとそこまで考えて…克哉は、つい感情が昂ぶって…瞳から
涙を潤ませていってしまった。
 そんな事で涙を流す自分が情けなくて、みっともなくて…余計に惨めに
感じられてしまった。
 逆に本多は…いきなり、危うい表情で…克哉が泣き始めたことに大きく動揺
してしまったようだ。
 鋭い眼差しが見る見る内に…動揺が滲み始めて、急に情けない表情に
なってしまっていた。

「わっ…克哉! どうして、泣くんだよ…! お前にとってそんなに…御堂との
事は辛いことばかりだったのか? 思い出したら泣いてしまうような…
そんな扱いをお前はあいつに受け続けて来たっていうのかよ!」

「ちが、う…そんな、事…ない!」

 泣きじゃくりながら、必死になって克哉は否定していく。
 御堂と過ごした全ての時間が…嫌なものじゃなかったからこそ、克哉は
混乱してしまっているのだ。
 本当なら、あんな風に扱われて悔しい筈なのに。屈辱的な筈なのに。
 それなのに…十日会えないだけで、あの人のマンションの前に大雨の中で
立ち尽くしながら待つなんて振る舞いをしてしまった。
 あの人が辞めた、と聞かされてからは心が避けそうで…同時にぽっかりと
大きな空洞が空いてしまったようで、どうすれば良いのか自分の心を
持て余し続けているのだ。

「全部が、嫌な訳じゃなかった…だから、その…ぽっかりと大きな穴が
空いてしまっているみたいで…どうすれば良いのか、判らないんだ…!」

 そう、呟いていると…御堂の事を語っていると…更に自分の意思と
関係なく…涙が零れ続けていく。
 嗚呼、まるで今の自分は御堂の事に関してだけ、涙腺とか理性が
ぶっ壊れてしまっているみたいだ。
 とめどなく…詰問されるだけでこんな風に泣くなんて。
 あまりに情けなくて、必死になって…袖でゴシゴシと涙を拭っていく。

「…克哉…」

 本多は、その様を見て大きなショックを受けているようだった。
 長年の付き合いである克哉がこんな風に…自分の前で大泣きを
している姿を見たのはこれが初めての経験だったので…本多自身も
どんな対応をすれば良いのか呆然として判りかねているようだった。

「御免…本多が、オレの事を心配して…今夜、ここに呼び出した事は
判っている。けど…お前が聞きたいことって、オレにとってもまだ…
正直整理仕切れていないもので…どう、答えれば良いのか…まだ、
判らないんだ…。だから…!」

 そう言って、泣き顔を隠すように俯いていきながら克哉が踵を返していく。

「ちょっと…待てよ! 克哉…!」

 相手が立ち去る気配を濃厚に感じて、慌てて本多が引き止めようとその肩に
指先を伸ばしていくが…寸での処で掠めるだけで、すうっとすり抜けていく。

「御免、今は聴かないで…おやすみ…」

「…っ!」

 その時、見た克哉の泣いているような…笑っているような、儚い表情を
目の当たりにして本多は言葉を失っていった。
 余りのショックに、声すらまともに出ないくらいだったのだ。
 切なくて…儚くて。見ているだけで男の庇護欲を酷く掻き立てるような
そんな顔しながら…立ち去られて、こっちに一体どうしろというのだろうか…!

「待てよ…! 克哉…!」

 だが、克哉は振り返らない。
 バタン、と大きく音を立てて屋上の扉が閉められていくと…その広々とした
空間には本多一人だけが取り残されていった。

「…あんな顔、見せておいて…俺に放っておけっていうのかよ…馬鹿、野郎…。
俺ら、仲間じゃなかったのか…。ダチが、辛そうにしているのに…放っておけって
いうのかよ…!」

 拳に爪が食い込むくらい強く、強く手を握り締めていきながら呟いていく。
 どうにかしてやりたかった。
 せめて聞き役になる事で…少しは楽にしてやりたかった。
 そういう意図で呼び出した筈なのに…今夜の邂逅は、御堂に対しての
疑念を一層深く強めるだけだった。

「御堂の野郎…克哉に一体、何を言ったんだよ…! あいつを、あんな顔を
させるような…内容を…」

 本気の怒りを込めながら、空を仰いでいく。
 その夜…本多は、せめて克哉の傍にいて少しでも…楽にするように
努力することを誓っていく。

 …その想いが、予想もつかない流れを引き起こしてしまうことなど…
まったく思いもせずに、彼はただ…大切な友人の事を想い続けていたのだった―

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香坂
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女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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