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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想   

 ―走馬灯のように、一人の少年の記憶が蘇る
  咲き乱れ、噎せ返るような花の匂いと色彩に包まれながら―

  佐伯克哉の心は、更に遠い過去に心を馳せていく。
  現実では桜を眺めながら、その瞳の向こうには過ぎ去りし場面を
必死に自分の中から探り出そうとしていた。

―俺の存在が、あいつをあんなに追い詰めてしまった…

 誰にも言えない叫び。
 
―俺のせいで、あんなに………を、傷つけて、しまっていた…

 12歳の自分は、泣いている。
 心の中で…誰にも悟られないように。
 突きつけられた現実はあまりに彼にとっては無常過ぎて。

―俺が俺でいることが、そんなに…お前を苦しめて、いたのかよ…

 自分自身を否定される痛みに、彼は苛まれていた。
 それは精神を深く傷つける猛毒のように…まだ未成熟な心を切り裂いて
急速に蝕んでいく。

―なあ、どうすれば良かったんだ…? 出来ることを出来ると言って…それを
こなす事が、大切な人間を苦しめる事なら…俺は何も望まず、力も見せない、
自己主張もしない…そんな情けない生き方をすれば、良かったのかよ…。
 そうすれば、お前を…傷つけないで、済んだのかよ!!

 そして、少年の幻影は叫ぶ。
 現実の彼は叫んでいなかった。ただその痛みと苦しみを一人で抱えて
耐え続けていた。
 克哉が見ているのは…彼の心の中。
 決して偽ることの出来ない彼の本心の声だった。

(俺…は、こんなに…泣いて、いたんだね…)

 これは、もう一人の自分の嘆きだ。
 自分が自分で在ること。
 それで大切な人間を傷つけてしまった事に対して、どうすれば良いのか
彼は判らなくなってしまった。
 その迷いが…恐らく、全ての根源。

(嗚呼…だから、オレは生まれたんだね…)

 きっと、彼は自信に充ち溢れていた。
 その輝きが多くの人間を魅了すると同時に…反発を生んで、そして
結果的に小学校時代の最後を…孤立して、そして影で裏切られて過ごすと
いうやりきれない結果を招いてしまった。
 嫉妬という感情は難しい。
 優れた能力や才能を発揮する人間に向けられるのは称賛だけではない。
 嫉妬やひがみ、そして赤裸々な悪意等を向けられることは世の常だ。
 それでも…一番近しい人間に裏切られさえしなければ、彼はここまで
迷うことはなかっただろう。 
 それでも胸を張って…自分を信じることが出来ただろう。
 だが、裏切られた相手は…彼にとってただ一人「親友」と認めて無条件で
受け入れていた人間だった。
 そんな相手から裏切られた、影で嘲笑われて…自分の孤立させていた
事実を聞かされて、どうして傷つけないでいられるのだろう。
 何故、今までの自分を疑わずにいられるのだろうか…?

(だから、お前は迷った。その迷いが…オレを、生んだんだ…)

 克哉は、桜が怖かった理由を…その幻影を見て、思い出していく。
 心の中で泣き続けていた12歳の自分。
 今までは遠くて知ることが出来なかった、胸の奥に秘められていた記憶に
触れたことで…彼は、自分の心が生まれた理由を、知った。

―誰も傷つけないで生きたい…。自分を殺して、誰の嫉妬も買わないように
追い詰めないように…無能で、何も言わないで…ただ、生きているだけの
そんな人間に、なりたい…

 其れは生きているとは決して言わない。
 誰かの顔色を伺って、本心を押し殺してただ曖昧に笑っているだけの
人生何かまったく意味がないことを…大切な人が出来た今の克哉ならば
間違っているとはっきり断言出来る。
 だが、大切な存在に裏切られたばかりの彼は…灯台の明かりという
目標もなしに当てもなく後悔することになった船のようなものだ。
 何も見いだせなかったからこそ、間違った考えに…思い込みに
取りつかれてしまった。

―誰も傷つけない為に、自分を殺し続けるのは間違っているんだよ…

 そう、12歳の頃の自分に告げる。
 だが…彼には、今の克哉の訴えは届かない。
 其れは凍った過去の情景。
 生々しく今も息づき、胸の中で痛み続けているその出来事は…
今の克哉が生まれた、根源でもある。
 この出来事がなかったら、自分はきっと存在していなかった。
 一つの心が二つに分かれて、それぞれ別の人生を歩むこととなった
キッカケは…大切な存在に裏切られるという、人生最初の挫折を
味わうことになったからだ。

―それくらい、きっと彼にとって親友は大切だったのだ…

 だが、御堂という本当に大切な人が出来たからこそ克哉は想う。
 …そんな風にお前に嫉妬して、影で裏切り続けるような…
傷つけるような行動をとる存在がお前にとって本当に大切なのか?
 表面はニコニコと笑って、人を操ったり…影で悪口を言って嘲笑う
ような真似をする人間の為に、傷つく必要があるのか?
 本当に大切なら、そんな事は人間は決してしない。
 
―お前は見誤ってしまっただけだよ。本当に信用するべき人か…
そうじゃないのか。その判断する術を、この時のお前は知らなかっただけなんだ…。
 だから、どうか自分を否定しないで…『俺』…

 小さい自分に向かって、必死に心の中で想っていく。
 手を伸ばしても届かないのは判っている。
 過去に縛られている小さな自分に、大人になった克哉の声は容易に
届くことはない。
 けれど泣いている少年を、克哉は抱き締めたかった。
 そして…訴えてやりたかった。

―君がそんなに、自分を否定する必要なんてないんだよ…

 自分を痛めつける悪意ある誰かの為に、どうかそこまで自分を追い詰めないで
欲しかった。
 そう願い…克哉は、小さな自分を…もう一人の『俺』を見て、小さく涙を
浮かべていく。
 けれど無情にも…少年には届かない。

「…泣かない、で…」

 克哉は、知らず…現実でも、そう力なく呟いていた。
 その事を歯痒く思いつつ…過去に想いを馳せていた佐伯克哉の頬には…
静かに透明な涙が伝って、地面に落ちていったのだった―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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