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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想 

 
―佐伯克哉は、いつの間にか…桜の日の回想に意識を飛ばしていた。

 目の前で少年の泣き顔が克哉の脳裏に浮かんで、いつの間にか
その状景に完全に引き込まれてしまっていた。
 直前まで手を繋いでいた筈の御堂の手の温もりすら忘れかけるぐらい
克哉は…過去の記憶に同調し…囚われてしまっている。
 青み掛かった髪をした、整った顔立ちの少年。
 年齢は、小学校高学年から中学に入ったばかりだろうか。
 ブレザーに身を包み、立っている姿には気品めいたものも感じられたが…
その顔が涙に濡れていたせいで、酷く幼い印象も受けてしまった。

『君は誰だい?』

 克哉は静かに問いかける。
 だが、相手は答えない。
 ただ…悲しそうにこちらを見つめて、涙を流している。
 凄く苦しそうに、顔を顰めながら…無理やり、歪んだ笑顔を
浮かべている。

『どうして、君はそんな顔を浮かべているんだよ…』

 少年が叫ぶように訴え掛ける。
 だが、彼の言葉は聞こえない。
 まるで口パクのように、唇だけは形作っているけれど…克哉の耳には
届かなかった。

『ねえ、何で泣いているの…?』

 克哉には、その少年が泣いている理由を思い出せない。
 けれどそう問いかけても、解答は戻って来なかった。
 満開の桜の下に立つ少年。
 これがきっと…自分が桜を恐れている原因となった出来事である事は
判っている。
 しかし…彼の顔だけを見ても答えは出ない。

『ねえ、君が誰なのか…教えてくれよ。オレはどうして…君の名前すら
思い出せないんだ…?』

 克哉は、その少年の顔をいくら見ても何も感じない。
 ただ泣き顔は酷く悲痛で…見知らぬ相手であっても胸を引き絞られるような
そんな想いを感じる。だから見ていて辛い。
 しかし克哉がその相手に抱く感情は、逆を言えば…その悲しみと疑問だけしか
存在していなかった。
 個人的な情や、感情等は思い出す事が出来ない。

 淡いピンクの桜の花。
 ただ、世界がその色だけで染め上げられているぐらいに咲き誇っていた日。
 その日は、一体…何があったのか?

(思い出すんだ…そもそも、この日は一体…何の日、何だ…? それにオレは
何を手に持って、着て…立っていたんだ…?)

 少年の顔を幾ら見ても思い出せないなら、他の事を思い出そうと思って…
その時点になってようやく自分の事を振り返った。
 手に持っているのは黒い革製の筒。
 恐らく中には卒業証書が入っているに違いなかった。
 …良く卒業式の日に校長や教頭から手渡される定番のものだ。

「卒業証書…?という事は…これは、小学校の卒業の日…なのか?」

 そういえば、自分は中学に入ってからの記憶しか殆ど思い出せなかった。
 中学は自宅のある位置からすれば随分遠くの方の学校に通っていたし
小学校時代の友人は誰一人、其処には入っていなかった。
 だから自分を知る人間が…それ以前の友人が一人もいなくても当然だと
当時は思っていたし、元々人に関わる気がなかったから…寂しいとも思わなかった。

―だが、それは何故だったんだろう…?

(よく考えたら…それは、おかしいことなんだ…。大人になった
今なら…判る、けれど…)

 けれど中学生だった当時は、一切気づかなかった。
 其れが極めて不自然な状況である事を。
 そもそも、どうして遠くの中学をわざわざ選んだのか…その理由すら知らないまま
当然のようにその学校に通い続けていた。

(そうだ、オレは…何も、知らなかったんだ…。疑問にすら、思わなかった…)

 大人になり、様々な経験を経た佐伯克哉が…過去を振り返ることにより、
当時は気づけなかった疑問と謎に、ようやく思い至っていく。

(君を知らなくて…当然、何だ…。オレは…君と、接した事がないんだから…)

 ようやく、その事実を認めていく。
 だから彼の泣き顔を見ても…自分は、懐かしさも感慨も何も覚えない。
 あの少年が大人になったであろう青年と顔を合わせた時も、この茶番の
ような出来事を実行に移すキッカケになったことが起こっても…やはり
自分の中に何も引っ掛からなかったのは、当然だったのだ。

―やっと判った。…ピースが埋まったよ…それがどうして、なのか…

 そうして、白昼夢。
 目覚めながら浸る夢の世界。過去の情景の中で…克哉は
得心したように呟いていく。

―彼は、お前に関わる存在だった。だから・・・だろう…? 『俺』…?

 そう呟いた瞬間、強風が吹いていった。
 息もつけないぐらいに勢い良く…強烈な勢いで吹き抜けていって…
桜の花が鮮やかに吹雪いていった。

―その時、克哉の目の前に…12歳の姿をした…もう一人の自分が
酷く醒めた目をして…其処に立っていたのだった―

 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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