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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想     

―頬から一粒の涙が地面に落ちた時、愛しい人の声が聞こえた。
  それは白昼夢の世界から、克哉を一時連れ戻していく

「克哉…泣いて、いるのか…?」

「えっ…ぁ…孝典、さん…?」

 心の中の情景では、昼だったので…とっさに自分でも気持の切り替えが
出来ないで、マヌケな声を挙げてしまっていた。
 妖しいまでに美しい、夜の桜の木の下で…二人で手を繋ぎながら…
桜に纏わる記憶を取り戻そうと、こうして訪れたことを思い出す。

「…何かを、思い出せたのか…?」

「はい…」

「そうか。…それは君にとって、辛い記憶…だったのか…?」

 克哉が静かに涙を流しているからだろう。
 案じるように御堂が問いかけてくる。
 
(…どう、答えれば良いんだろう…?)

 その質問に、克哉はどう答えれば良いのか正直迷ってしまった。
 …確かに小学生の時の自分にとっては辛い記憶だった。
 だが…この体験は、もう一人の自分のものだ。
 こうして思い出した今も『自分』の記憶であるという実感や手応えが薄く
映像か何かを客観的に、第三者視点で見ているような感覚が拭えない。

―そうして迷っている瞬間、克哉の脳裏に鮮明に一つの情景が蘇る

 自分の教科書を隠されて、教室で涙を堪えながら耐えている『俺』と…
そんな彼に、親切そうな顔をして気遣う言葉を掛ける…少年。

(偽善者…そんな顔をして、あいつを…騙し続けていたのかよ…!)

 見えた場面は、本当にささやかなで短いものだった。
 だが…孤立させられたり、影で嫌がらせを食らい続ける事は辛いのだ。
 自分一人が、周囲から浮き上がっているような想いをさせられる。
 周りから受け入れられていない事を実感させられる。
 彼は、そんな想いに…小学校の最後の一年、ずっと我慢して堪えていたのだ。
 それでも殆ど休まずに来ていたのは、彼にとってその場が親友に会えたり
同じ時間を共有することが出来たからだ。

―その負けずに堪えられていた理由となっていた存在が、その彼の不遇の
原因を作っていたら…迷ってしまって当然なのだ…

 思い出せば、出すだけ…克哉は悔しくなる。
 どうしてお前は、信じる相手を間違えてしまったのだろうと…。
 そんなに傷つかなくて、良いのに。
 お前は…お前のままでいて、良かったのに…! と叫んだ瞬間…
脳裏に鮮明に一人の男の声が響いた。

―本当に、そう思っているんですか…? 貴方がこの体験を否定するという事は…
自分の生まれた意義を疑うのにも等しいんですよ…?
 
 愛しい人を前にしながら、再び過去の記憶に意識が囚われた瞬間…鮮明に
Mr.Rの声が脳裏に響いていった。
 
「あっ…!」

「克、哉…?」

 克哉が弾かれたように顔を上げると、視界には桜の花びらが風に
舞い散る光景と…心配そうにこちらを見つめている御堂の顔が在った。
 現実と、幻想の狭間を心が彷徨い続けていた。

「…今、声が…?」

「…何の声が聞こえたというんだ…?」

「……いえ、何でも…無いです…」

 言うか、言うべきか迷ったが…きっと全てを説明したら凄く長くなって
しまうと判断して…克哉は口を噤んで、俯いていった。
 思い出せたのは断片的なものばかりで…正直、克哉の中でどれも整理が
ついていなかった。
 その段階で語れば、無用に相手を混乱させてしまう気がした。

(自分の中で整理されていないことは…安易に口に出さない方が良い…)

「…さっきからやはり、君の様子がおかしいな。…成程、君の桜が怖いという
事情は…私が思っているよりも、ずっと根が深いようだ…」

「…すみ、ません…」

「…いや、気にすることはない。…そんな事を言ったら、私は本城の時に…
散々、心の整理をする為に君に付き合って貰った…。だから、今度は純粋に
私が君の過去の整理に付き合う番だ…と思っている…」

「…ありがとう、ございます…」

「…それに、あの男が誰なのか…知りたいしな…。思い出せた、のか…?」

 そう問いかけた御堂の顔が、怜悧に冴え渡って…克哉は背筋がヒヤリとした。
 二週間前、桜の蕾が出来かけの頃…自分たちの前に現れた一人の男。
 その男の存在が、この二週間…ようやく関係が安定してきたと思われた
自分たちの間を、大きく揺さぶっていたのだ。
 
「は、はい…やっと、思い出せました…」

「そうか。やっと…『あんな人の事なんて、オレは知りません…』以外の言葉を
君の口から…聞けたな。それだけでも、進展したか…」

 さっきまで優しかった御堂が、その男の話題が上った瞬間…別人のように
冷たい顔を覗かせていく。
 そう、小学校の自分を追い詰めたあの少年こそ…二週間前に自分たちの前に
現われて大きな波紋を呼んだ、例の男性の正体に間違いないと克哉は今は
確信していた。
 だが、御堂の声は…感情を押し殺しているせいで、酷く冷たい。
 愛しい人の口から、そんな声が出ているのが…その原因を作っているのが
紛れもない自分であることが、改めて克哉の心を締め付けてくる。

「…あの、御免なさい…。本当に、小学校の時の…遠い記憶なんて、
思い出せなかったから…」

「…謝る必要はない。それで…もう、十分思い出せたのか…?」

「はい…」

「なら、そろそろ私たちの家に帰ろう…。花冷えという言葉もある…。
この時期の夜は、酷く冷えるからな…」

「あ、はい…」

 そうして、克哉が頷いた瞬間…御堂の顔が寄せられて…フワリ、と唇を
重ねられていく。
 瞬間、誰に見られているか判らないという気持ちがあるせいか…ただキスを
されただけなのに、頬が真っ赤に染まっていった。

「た、孝典…さん!」

 動揺したように克哉が耳まで赤くしながら…とっさに相手の身体を
押しのけていくと…御堂は愉快そうな笑みを浮かべていた。

「…何だ? 今さらキスぐらいでそんなに照れているのか…?」

「と、当然です…! 幾ら夜で人気がないと言っても…誰に、見られているか…
判らないんです、から…!」

「…私は君との関係を必要以上に、今となっては隠すつもりはない。
見られたならそれでも構わないがな…」

「た、孝典さん!」

「ふふ…君のそんな顔を見ているのも一興だが、いい加減帰るぞ。ほら…
ついて来るんだ…」

「は、はい…判り、ました…」

 そうして御堂の言葉に煽られて、羞恥を覚えていくと…そんな克哉を御堂は
心底愉快そうに見つめていき、そして…力強く克哉の腕を引いて…公園の
駐車場まで足を向けていった。
 意地悪で、厳しくて…その癖、二人でいる時は甘美な時を与えてくれる恋人。
 先程、そんな愛しい存在が与えてくれた一瞬のキスは…まるで桜の花びらが
唇に触れたかのように、淡く…そして優しいものであった―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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