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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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         11  12  13  

―克哉はそうして、桜の満開の時期を迎えるまで]
中学以前の自分を知る旅に出た

 それは帰省という言葉に言い換えることが出来る小さなものであったが…
大学に進学して一人暮らしをして以来…克哉は親にせがまれない
限りは殆ど実家に帰ろうとしていなかった。
 だが自分が知りたいものを得る為には卒業して以来、一度も足を
踏み入れることがなかった小学校に、そして実家にあるアルバムを
見る必要があると克哉は思った。
 御堂にワガママを言ってこの週末は一日、休みを貰った。
  この旅路に御堂は仕事の関係で付き合えなかった。
 桜の咲くく時期、三月末は殆どの企業では決算期だ。
 その時期に休みを一日、強引にもぎ取った関係で御堂の現在の
スケジュールは過密を極めている。
 本来なら、克哉を一日休ませる処ではない。
 それこそ睡眠を惜しんで働かなければ片づかないぐらいの量の
仕事が御堂に今、のし掛かっている。
 だが、それでも愛しい人は…自分が必要だと思うなら早く
足を向けると良い、と言ってくれた。
 最初は克哉も恐縮して断り続けたが…御堂の意志が堅い事を
悟ると、謹んで彼からの好意を受ける事にしたのだ。

(実家に…生まれ故郷に戻ったからといって確実に思い出せる保証
なんてどこにもないけどな…。それでも、オレはお前のことを少しでも
知りたいんだ…)

 久しぶりに故郷の地を、その入り口である駅を出て彼の胸を去来するのは
ある種の不安であり、懐かしさでもあった。
 克也自身にはこの周辺の記憶は中学から高校を卒業するまでの
六年間分しかない。
 それでも実家に向かう途中の光景を眺めている内に郷愁の念が
ジワジワと湧いてくる。
 それ以前の彼にとってはそんな想いも煩わしいものでしかなかったが…
今は少しだけ違って感じられた。

「ここがオレ達の故郷なんだな…」

 そう、今まで自覚していなかった。
 ここは克哉と、もう一人の自分のふるさとである事を。 実家の周辺の
町並みを、そして小学校へと続く通学路を歩いているだけで心がざわめき始める。


―そっちに行くな…

 そして脳裏に時々、もう一人の自分の声が響いていく。
 だが克哉はその声を振り切って足を進めていった。
 東京都内でも、この周辺でも住宅街に限っていえばそこまで大きく
違いがある訳ではない。
 白金みたいな高級住宅街であるなら話は別だが、そうでない限りは
関東圏内である限りは大きく変わる訳ではなかった。
 簡素で平凡な町並み。
 どこにでもありふれている光景。
 だが、今の克哉にはそれがひどく懐かしかった。
 思い出せない筈なのに、克哉は小学校までの道のりを迷わず歩くことが出来た。

「小学校はこっちにある筈だ…」

 そう、記憶を失っていても六年間、通い続けた道だ。
 無意識の状態でも身体はしっかりと覚えていた。
 そして克哉は、最初の目的地にたどり着く。
 普段着の格好のまま…一個人として、母校でもあるう彼の地を―

「ここが、オレが卒業した学校…か…」

 しみじみと実感しながら、校庭と校舎を眺めていく。
 真っ白い校舎は大きくそびえ立ち、校庭の広さもそこそこあった。
 どこにでもあるような、特に大きな特色が感じられる訳でもない学校。
 だが、体育館の周りにすでに蕾をつけ始めた桜の木が密集して
植えられている事が、目を惹いていく。
 その風景を見た瞬間、まるで堰を切ったように頭の中に幾つもの
光景が浮かび上がっていく。

「あっ…ああっ…!」

 桜の木を見た瞬間、閉ざされていた記憶の扉が急に開け放たれていった。
 
―泣いちゃダメだよ。あんな奴らの言う事…君がこれ以上気にする事
はないんだ。あんなくだらない奴の為に傷つく必要はないよ…

ーうん、気にしないよ。俺には…君がいてくれるから。君さえ俺の傍に
いてくれれば…他の奴なんて、いなくたって良いんだ…

 克哉はその時、幻を見た。
 体育館の裏側で、寄り添うように立っている二人の少年の残像を。
 傷ついた少年を、もう一人の少年が宥めていた。
 一人はきっと、あの男性で…必死に泣きたい気持ちを
抑え込んでいる方はきっと…。

―これ以上、踏み込んでくるな…。お前が、それを知ろうとするな。
こんなのは屈辱以外の何物でもない…!

 少年たちのやりとりが脳裏に浮かび上がると同時に、もう一人の
自分の声が鮮明に響き渡った。
 そう、此処こそが始まりの場所に間違いなかった。
 克哉が思い出せなかったあの男性と、もう一人の自分との苦い記憶が
つきまとう場所に違いないのだ…。

―お前は知らなくて、良いんだ…その為に、俺はお前を…

「…ゴメン。きっとこれはお前の領分を侵す行為だって自覚はある…。
けど、それでもオレは知りたいんだ…」

 まだ午前中であるせいか、広い校庭には人影はない。
 けれど目を閉じれば子供たちの喧噪が聞こえてくるようだった。
 大勢の生徒たちがはしゃぎ回る中で…一人でポツンと立っている少年がいる。
 寂しそうで、今にも泣き出しそうなのに…必死になってそれを
堪えている姿が実際に見えるようだった。

ー止めろ、見るな…! そんな情けない姿を暴くなっ…!

 もう一人の自分が頭の中でうるさいぐらいに訴えかけていく。
 けれど克哉は引かなかった。

「………」

 無言のまま、懐かしい筈の風景を眺める。
 だがもう一人の自分が叫べば叫ぶだけ、克哉の胸には懐かしいという
気持ち以上に…苦いものが広がっていく。

「嗚呼…だから思い出せなかったのか…」

 もう一人の自分の抵抗が強ければ強いだけ、それだけ彼は辛くて
屈辱的な記憶をずっと抱え続けてきた証なのだ。
 誰にも語ることなく、理解を求めることもなく…ずっと独りぼっちで
克哉の中で13年も眠り続けて、今でも心の中に潜み続けている。
 けれどいつまでも辛い記憶を一人で抱えている必要などない。
 いい加減、その恨みも憎しみも悲しみも…全てを流して良い筈なのだ。
 
―もう、憎しみを洗い流して良い頃だろう…「俺」…?

 そう問いかけて、克哉は重く閉ざされていた記憶の扉を強引に
開いていこうとした。
 克哉の足はゆっくりと体育館の裏の方へと向かい始めていく。
 きっとあの近くに立てば、何があったのか思い出すキッカケになるだろうと
一種の確信を持って進んでいく。
 だがその手前で、彼の足を阻むように背後から一人の男の声が耳に届いた。

ーやれやれ、困りましたね…貴方がしようとしている事は…あの方の心を
滅ぼす事に等しい行為だという自覚がまったくないんですね…

 不意に、聞き覚えのある声が聞こえていった。
 これは心の中ではなく、現実に聴覚で捉えているものだ。

「っ…! Mr.R…?」

ーお久しぶりですね、佐伯克哉さん…まさか、こんな場所で貴方と
再会する事になるとは…

 いつだってMr.Rが目の前に現れる時には胡散臭い微笑みが称えられていた。
 だが、今…克哉の目の前にいる彼はいつになく不機嫌そうな表情を浮かべていた。
 彼のこんな顔を、克哉は初めてみた。
 同時に確信を深めていく。

―ここには確かに、何かがあるのだと…

 そうして克哉はキュっと唇を噛みしめていきながら
黒衣の男と対峙していく。
 その瞬間、つかの間だけ…あの運命の日の百花繚乱の桜の情景が…
克哉の脳裏に鮮明に浮かんで…すぐに消えていったのだった―

  
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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