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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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死と許しがテーマの眼鏡×片桐の話。
  どこまでもお人好しな片桐さんを掘り下げて書きたいと
いうのが動機のお話です。
 ちょっと重いテーマかもですが、優しい話に仕上げる予定です。

  優しい人  
  

 ―それは二人が片桐の息子の墓参りに来る数日前の夜の話だった

 
 『克哉君。良かったら僕の懺悔を聞いてくれますか…?』
 
 片桐に墓参りに誘われる少し前…彼の方からそう切り出された。
 初夏の時期を迎えて日中はかなり気温が上がって来て暑いぐらいだが、
夜はまだ涼しくて過ごしやすかったのを覚えている。
 久しぶりに克哉の方から片桐の家に訪れて、縁側でゆったりと
二人で座ってお茶を飲んでいた。
 以前は片桐ののんびり過ぎるペースや雰囲気に苛立ちを覚えていた
時期もあったが、関係が安定してきてからは…むしろ克哉はこの人と
ゆったりとした時間を過ごすことに安らぎを覚えつつあった。
 克哉が出先で買ってきた美味しそうな生菓子と、片桐が淹れてくれた
お茶と一緒に楽しんでいた時の事だった。
 指輪を贈って以来、克哉と片桐の関係は以前よりもずっと落ち着いてきており…
こうやって無言になって会話が途切れても気まずさや居心地の悪さを
感じることはなくなった。
 むしろ、時々空気のように…傍にいるのが当たり前になりつつあった。
 だが、片桐からそう切り出された事で穏やかな時間は一転して不穏な
ものに変化してしまった。
 克哉が怪訝そうに片桐を見つめていくと、苦笑しているような表情を浮かべていた。 
 
「稔さん。別に話しても良いですよ…けど、貴方が懺悔したい事って何ですか…?」
 
「…えっと、そうですね。あの…僕が今から話したい事は君と僕との間の事ではありません。
…本当なら君には一切関係ない事なんですけどね。けど、君に指輪を贈ってもらって
一区切りがついたからこそ…ずっと胸につかえていた事を整理したい気分なんですよ…」
 
 そう答えた片桐の笑顔が一瞬だけ、歪なものに見えて克哉は訝しげに瞳を眇めていった。
 
「稔さんが、ずっと胸に引っかかっていた事って…一体、何ですか…?」
 
「聞いてくれるんですね…。ありがとう、克哉君。君は本当に優しいですね…」
 
「…そんな事はありません。貴方の買いかぶりですよ…。で、本題をそろそろ
言って貰えますか…?」
 
「はい、でもどこから語って良いものやら…そうですね、克哉君には僕には息子が
いたっていう話を、した事がありましたよね…?」
 
「ああ、残念ながら…三歳で亡くなってしまった息子さんですよね…」

 克哉は切なげな顔を浮かべながら以前に聞いた話を必死になって
思い出していく。
 だが、今…片桐が大切な人間になったからこそ頭の隅でチラっと考えていく。
 片桐はかつて、結婚していて妻や子供がいたことがあった。
 克哉がチョッカイを出して無理やり抱いていた事をキッカケに今の自分達の
関係へと発展していったのだが…もし子供が存命していて、片桐が妻と別れて
いなかったら…こうやって結ばれることに大きな障害があった事だろう。

(…あんたには口が裂けても言えない事だがな…。俺は、あんたの息子の死を
悼んでいるような顔を浮かべていながら…心のどこかで、この人に妻子が
いなくて良かったと思っている…)

 自分の浅ましい考えに内心、苦笑していきながら…克哉は片桐の
様子をさりげなく観察していった。
 片桐の表情は凄く複雑そうなものだった。
 そう言われて見れば片桐との関係もそれなりに長いものになって来ていたが…
冷静に考えてみると、彼の口から…妻子の話が出るのは滅多になかったように思う。
 確かに十年以上前に別れた存在など、今の自分達には関係ない。
 なのにどうして…今更、片桐が掘り下げて話そうとしているのか…克哉は
耳を済ませてキチンと聞いてから判断しようと思った。

「…えぇ、僕の息子は三歳の時に…交通事故で、突然亡くなりました。
まだあんなに小さかったのに…不憫なことです。当時はあの子の死を信じたくなくて…
心の底から生き返って欲しいと、自分が代わりになっても良いからどうか…とか
考えましたよ。…到底、叶う願いではない事は判っていましたけどね…」

「…俺は貴方の息子に会った事はないが、確かに三歳では何もしたい事も
出来なかっただろうな。本当に痛ましいことだ…」

 息子の話題を出したことで片桐の目元が早くも潤みかちになっていたので
克哉はさりげなく…片桐の肩に手を添えていった。
 手のひらの温かさに、相手の気持ちも少し解れていったらしく…儚い笑みを
浮かべて瞳を眇めていった。

「…ありがとう。けど、僕の話したいことは…懺悔したいことは、妻と
結婚する時のことです…。僕は彼女に…こう言われたことがあったんです。
『これから生まれる子はもしかしたら…貴方の子ではない可能性がある。
それでも、本当に結婚してくれますか…?』と…」

「っ…!!」

 その一言は予想もしていなかっただけに、克哉の瞳は一瞬で驚愕に
見開いていった。
 それは…まったく考えたこともない話だった。まさに青天の霹靂だ。
 三歳で亡くなった子供は、間違いなく片桐の実子であると無意識の内に
信じ込んでいただけに…珍しく克哉は動揺した。

「…稔さん、それは…どういう事ですか? あんたの妻は…他の男と浮気して
平気な顔をしてあんたと結婚したっていうのか…?」

「いいえ、違いますよ…。僕と付き合ったのが…以前に交際していた人と
別れた直後だっただけです…」

「それ、は…」

 克哉はその話を聞いた瞬間、嫌な考えが浮かんでいった。
 以前に別れた男の子供かも知れないという事は…片桐の子供かも知れない
可能性が潜んでいるという事は…もしかしたら…。

―片桐の妻はお腹の子供の父親が欲しくて彼に近づいた…交際を始めた
可能性がある事を示していた

「…もしかして稔さん。奥さんと付き合って間もない内にその話を打ち明けられて…
それで、結婚したという事ですか…?」

「…はい、そうです…」

「…っ!」

 その瞬間、克哉の胸に…かつて彼の妻だった女に対して猛烈な怒りが
湧き上がっていった。
 アイスブルーの瞳が爛々と輝き、明らかな憤りの光を宿していく。

「…ふざけるな! それじゃまるで…あんたを利用して騙して結婚した
ようなものじゃないか!」

「…違いますよ。彼女はその事実を僕に直前に打ち明けた。泣きそうな顔を
浮かべていきながら…黙らず、話した上で僕に判断を求めたのです。
…貴方の子供かも知れない可能性もある、と。けれど…私にはどちらの
子なのか生まれてみなければ判らないと…。貴方が父親になるのが嫌だと
いうのなら…この子供は堕ろします…と」

「…何故、結婚したんですか…そんな事を言われて…! あんたを馬鹿にするにも
程があるだろ!」

 克哉は本気の怒りを覚えていた。
 だが…片桐の表情は透明なままだった。
 怒りも憎しみもすでに彼の中では整理されていて遠いものになっているのだろうか?
 淡々と語る彼の口調や表情はどこまでも穏やかなままだった。

―彼女が本当に困っているようだったから。それに…どんな理由でも良いから
僕はその当時、自分が求められることが…出来ることがあるなら、それが嬉しかった
んです。…お腹の子供の父親になることで、彼女を救えるなら…僕はそうしたいと
思いましたから…。だから、結婚したんですよ…」

「…そう、ですか…」

 それはあまりに片桐らしい、言葉だった。
 そう…彼は確かに、そういう人だ。
 振り返ってみれば…克哉とて、最初の頃は褒められた形で…片桐と
関係を持った訳ではなかった。
 殆ど強姦や陵辱に近い形で、彼を辱めたし…貶めた行為を繰り返した。
 それでも片桐はこちらの行為を許して、そして…求めてきた。
 自分と別れたくないと、君の傍にいたいと…必死になって縋りついて来て、
こちらの犯した罪など何も責め立てなかった。
 無自覚に…彼は、こちらの行いを許していたからこそ…今の自分達の
関係があることを克哉は自覚していた。
 だが、それでも聞いた話は衝撃的過ぎて…彼の妻に対して、怒りが
どうしても収まらなかった。
 克哉の表情を見てその複雑な心境を察したのだろう。
 片桐は穏やかに微笑みながら…そう切り出していった。

「…ああ、長話をしている内に…お茶が冷めてしまいましたね。
暖かいものに淹れ直してきますね…」

「ええ…お願いします…」

 それが片桐なりの話の切り替えであり、会話の終わりを示していることだと
すぐに悟ったので克哉は素直に頷いていく。
 複雑な空気が二人の間に流れていた。
 だが、敢えてそれ以上はその話題に触れない事にしていた。

―そしてその翌日の朝に、克哉は一緒に墓参りをしないかと片桐に
誘われていったのだった―
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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