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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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2009年度 御堂誕生日祝い小説
(Mr.Rから渡された謎の鍵を使う空間に眼鏡と御堂の二人が
迷い込む話です。ちょっとファンタジーっぽい描写が出て来ます)

  魔法の鍵  
              7    

 かつて自分が罪を犯した場所とまったく同じ内装の部屋を改めて
見ることで忘れかけていた罪悪感が胸の中に湧き上がった。
 人は罪を犯して、初めて罪の重さを知る部分がある。
 それを体験するまで、軽い気持ちだったり欲望の赴くままに
過ちを犯してしまう。
 克哉も、そうだった。
 あの時の自分は、御堂の心を屈服させる為ならば手段を
選ばなかった。
 犯罪といえるような真似すら、何のためらいもなく行った。
 自分の欲しいものを得る為ならば、そして警察などに捕まったり
しなければ何をやっても関係ないとすら思っていた。

―だからこそ、御堂を心から愛しく思えた…欲しいものを得ることが
出来たからこそ、あの頃の自分の愚かさを心の底では吐き気が
覚えるほど嫌悪していた

 もう一人の自分に罪を突きつけられて、本当に足元が崩れてしまうような
そんな想いを感じていた。
 だが、そんな自分に…御堂はそれでも支えてくれていた。

「克哉…惑わされるな。私は君の罪を許した上で…今、君の傍にいる。
外野が何を言おうとも…揺らぐな。私はそんな弱い男の右腕になった
記憶は無い…!」

「あ、あぁ…そうだな…」

 その一言が、今の克哉にとってはどれだけ救いだっただろうか。
 自分の肩に置かれている御堂の指が痛いぐらいに食い込んでくる。
 そっと後ろを振り返って、愛しい人の顔を見つめていく。

(嗚呼、何て綺麗なんだろう…)

 御堂の美は、硬質のものだ。
 儚さや脆さを感じさせず…鉱石や金属のような美しさだ。
 芯がしっかりとして周りの人間の目を惹き付けながら…決して容易に
折れたり壊れたりしない。
 その姿が余りに凛々しくて、眩しくて…だからかつての自分はどんな
手を使ってでもこの人を陥落させようとした。
 改めてその事実を思い知らされて…克哉は唇を噛み締めた。

―あんたにこれ以上、みっともない姿を見せたくない…。俺は、あんたの
隣にいるに相応しい男で…在りたい…!

 御堂がこちらを肯定する言葉を、許すという一言があったからこそ…
克哉はギリギリの処で踏み止まっていく。
 愛しい人がこういってくれているのに、これ以上過去の罪に怯えて…
恐れて一体何になるんだと。

「…克哉、私は君の傍にいる。…何を言われても…揺らぐな!
その事実こそが、私の想いの全てだ…!」

 そして叫ぶように、御堂は訴えかけていく。
 そう、事実は何よりも雄弁に本心を語っている。
 御堂が本当にこちらを憎んでいるならば…今でもその気持ちを
燻らせているのならば、そもそもアクワイヤ・アソシエーション自体が
存在していないだろう。
 再会した日に、御堂がこちらと同じ想いを抱いていてくれて…
そして心を通わしたからこそ、克哉は心の底で抱いていて叶うことが
諦めていた…御堂と一緒に会社を興して、発展させるという夢を
実現させる為にこの九ヶ月余り…努力をし続けたのだから。
 その事をようやく思い至った時、克哉は涙が出そうだった。
 そして、己の過去の過ちを断罪しようとする…酷く凶悪な顔を
浮かべているもう一人の自分を睨み付けた。

―過去に負ける訳にはいかない

 どれだけ消え去りたくても、なかった事にしたくても…かつて
自分がやってしまったことからは人は逃げられない。
 なら、それを踏まえた上で…その教訓を胸に刻んで次に生かす
形で前を進んでいくしかないのだ…!

「…おい、『オレ』…! お前が何を言おうとも…俺は決して惑わされない。
確かに俺は愚かでどうしようもない間違いを犯した。かつて俺が御堂に
した事を忘れることは許されないだろう…!
 だが、その罪の意識に囚われてグダグダとくだらなく過ごしていく
つもりはまったくない…! だから、無駄だ! お前が何を言おうとも…
御堂が傍にいる限り、お前の糾弾で…俺は打ちのめされる訳には
いかない…!」

 今までになく強い口調で、もう一人の自分に訴えかけていく。
 視線がぶつかった瞬間、本当に火花でも散っていそうなぐらいに
強い眼差しで見つめあっていく。
 だが、克哉も一歩も引く訳にはいかなかった。
 自分の背後に、御堂の気配を感じていく。
 そう、その温もりが…何よりも克哉に勇気を与えてくれた。
 どれくらいの時間、そうして…己の鏡でもあるもう一人の自分と
睨み合っていただろうか。
 凍りついたようなその時間が、唐突に終わりを迎えていった。

―そう、それで良いんだよ…『俺』…

 そして打って変わって、とても優しく…慈愛に満ちた声で
一言だけもう一人の克哉はそう呟いた。

「えっ…」

 先程までの冷たく鋭い瞳は、まるで氷が解けて消えてしまったかの
ように…いつの間にか相手の双眸からは消えうせていた。
 背後にいた御堂も、それでアッケに取られて言葉を失いかけていた。

―お前が犯した罪は忘れてはいけないけれど…それを承知の上で
日々を送っているならば…これ以上、何も言わない。けど…どうか
忘れないで欲しい…。本当に、その人と…御堂さんと幸せになりたいならば…

「………」

 克哉は、言葉を失っていく。
 これではまるで…御堂のさっきの一言を引き出す為に…自分から
悪役を買って出たような感じではないか。

(いや、実際にそうだ…。あいつの言葉に揺らいでいたからこそ…御堂は
肯定する言葉を吐いて…俺を支えてくれようとした…)

 その労わりの言葉から、克哉はようやく…相手の隠された意図のような
ものを感じ取っていく。
 何と返して良いのか…言葉に詰まった。
 だが、ゆっくりと相手の姿が透明になっていくのを見て…克哉は
簡潔に、そして力強く言い放った。

「…嗚呼、忘れはしないさ。そしてこれからも…俺は御堂の手を取って
歩んでいく…ずっとな…」

 その短い言葉こそが克哉の本心。
 そして偽りのない想いだった。
 奇跡のような確率で、御堂の気持ちを得られた。
 その僥倖を…どうして手放すことなど出来ようか。
 もう一人の自分と、もう一度視線が重なっていった。
 泣きそうな顔で、彼は笑い…そして…幻のように儚く消えていった。
 そして克哉と御堂の二人だけが、かつての罪を示す部屋の中で
立ち尽くす格好となった。

「今のは…一体何だ…? どうして、君が二人同時に…」

 その時点になってようやく、御堂がずっと疑問に思っていたことを
呟いていった。
 それを聞いて克哉は自嘲的に笑っていく。

「…あれは俺の罪を照らしてくれた…鏡のようなものですよ…」

 そして力なく笑いながら、克哉は改めて…罪を自覚した上で
御堂と向き合い、しっかりとその顔を見据えていったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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