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以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。
残雪(改) 1 2 3 4 5 6
―ふとしたキッカケでサンストーンの事を思い出したおかげで、
再び眠りに落ちた時…太一の脳裏にはもう一つの克哉との
思い出が浮かんでいった。
ベッドの上で未だに一方的な行為で激しく軋んでいる身体を
眠ることで休めている。
夢というのは…肉体が眠り、脳が一時的に覚醒している…現実との
境目に浮かび上がるもの。
本来なら、あやふやな夢に縋っても何も生み出さない。
(けど…俺が会いたくて仕方ない克哉さんは、もう夢の中にしか…
存在してくれないから…)
だから太一は、心が折れそうになると…克哉との思い出を
出来るだけ思い出そうとしている。
自分に対して加減がなく、冷たい男との生活は太一の心を大きく
荒ませていたから。
そうすれば…自分が恐れた、『黒』の感情に呑み込まれてしまうような
気がしたから。
(…俺は忘れたくないんだ。貴方と過ごした日々を…。そして、白の…
堅気の世界の温もりや、暖かさを…)
人を殺したり貶めたり、平然と利用するような世界に浸りたくはない。
己の想いを歌に乗せて、日の当たる場所で生きたい。
その気持ちがこんなに強くなったのは果たして…いつの頃だっただろうか。
ふと思案した瞬間、太一はもう一つのキッカケを思い出していく。
「ああ、そうか…克哉さんと会ったから、だ…」
そして、何気なく部屋の片隅に置かれていたギターを見つめていく。
ミージシャンになりたいと、世界に認められるようなアーティストになりたいと
必死になってバンドで歌っていた事もあった。
だが、この一年…太一は歌えなくなっていた。
あれだけ逃れたかった祖父の事も、今ではどうでも良くなっている。
(忘れちゃ、駄目だろ…)
無意識の内に、そう自分の中で突っ込んでいく。
夢を忘れたら、何の為に東京まで出て来たのか判らなくなる。
(克哉さん…克哉さん、克哉…さん!!)
無意識の内に思い出に、縋った。
自分の夢を見失わない為に、あの人を求めた。
その心が…太一にもう一つの出来事を思い出させていく。
―そして夢の中で、もう会えなくなった人との思い出に再び浸っていく
その時…懐かしさの余りに、太一は…無意識の内に静かな
涙を浮かべていった。
夢の中だけでも…あの人に、会いたかったから…
一緒に、笑いあっていたかったから…
*
―あの人と一緒にいると、無邪気で優しい自分のままでいられた
正に、白い世界に。血、暴力、殺人、そういう事柄から無縁で
いられるような…そんな気がした。
遠くからずっと見ていたあの人は…優しくて、穏やかで。
この人の傍でなら、自分もきっと同じように振舞っていられるんじゃないかと…
そんな風に感じていた。
大学に進学してから三年目。
その秋頃に、太一は喫茶店を訪ねて来た克哉と正式に知り合った。
以前から遠目で、出勤中の克哉を見守っていた。
いかんせん、パンを口に咥えながら全力疾走という漫画の中では良く見かけるが
現実には滅多に遭遇しない事を体現しているような人だった。
最初はびっくりしたけどおかしくて、そんな自分の気持ちが優しくなっている
ことに太一は気づいた。
遠くから克哉を眺めていて、どんな人だろうって考える度に…幸せで
満ち足りた気持ちになって。
ただ、見ているだけでもあの人は太一に温かいものを齎してくれていた。
だから…知り合えた当初はとても幸せだった。
―けれど、長く一緒にいればいるだけ…次第に、克哉と一緒にいても
黒い自分の欲望は、鎌首をもたげるようになってしまった―
それは、太一が初めて克哉をバンドのライブに招待した翌週の
平日の夜の出来事だった。
曲作りに詰まってコンビニにフラリと立ち寄ったら…遅めの夕食用の
弁当を購入しようと先に来店していた克哉とばったり遭遇して、結局もう少し
一緒にいたいと我侭を言って…自分のアパートに克哉を招いたのだ。
克哉をアパートに招いたのは、ギターを教えた時以来のことだった。
コンビニで買ったスナック類と、弁当、おにぎりを摘みつつ…雑談を
していたら、仕事で疲れていた克哉は、さっきまでは頑張って睡魔と
戦いながら太一と会話を続けていたが、たった今…それに負けて
重く瞼を閉ざしてしまっていた。
その頃の克哉は、プロトファイバーの当初の目標を引き上げられて…
会う度に、どこか辛そうだった。
けれど太一は…克哉ならそれでも出来ると思っていたし、良い方向に
進んで欲しくて必死になってさっきも励ましていた。
それで安心したのだろう。目の前の克哉は…とても穏やかな顔を浮かべていた。
「…あ~あ…克哉さんってば、相当に疲れているみたいだな…せっかく俺と
会えたっていうのに…こ~んな無防備な寝顔を晒しているんだもんな~」
克哉の瞼がしっかりと下ろされてしまってから2分ぐらいした後、
どこかのメーカーの新商品の「ドロリ濃厚!カボチャシェイク」なるものを
喉に流し込みながらぼやいていった。
太一としてはまだまだ克哉と話したりないので…思いっきり肩を大きく掴んで
揺さぶって起こしたい衝動に駆られたが…疲れているのも、態度と言葉の端々から
感じ取っていたので、このまま寝かしておいてやりたい…という感情と戦っていた。
まずは気持ちを落ち着ける為に、味見に購入した品をグビグビと飲んで…
冷静な批評を下していく。
「…ん~やっぱり、このメーカーの新商品ってピントがどっかズレてしまって
いるというか…まずくないんだけど、何か微妙な感じだな。
カボチャの風味が濃厚で甘くて…何ていうかカボチャの煮物に牛乳を
混ぜて、それをシェイク状にしたってそんな感じだなぁ。一度飲めば
もう充分だな…。ほんっと、ここって伝説に残るようなイマイチ商品
ばかりをリリースする所だよな。ここのを一度は試す俺も充分な
チャレンジャーだけど…」
そういって、全てを一応飲み干すと机の上に缶を一旦置いて、太一はその場から
立ち上がっていった。
そんな事をやっている間に、余裕で五分は過ぎた。
さっき、克哉の寝顔を見た瞬間…動揺してしまったが…それもどうにか収まって
太一は冷静な判断をし始めていった。
…とりあえず克哉をベッドの側面に背を凭れさせながらの格好で一晩寝かす
訳にはいかなかった。
今日は平日で、克哉はさっき…明日も仕事と確かに言っていたからだ。
本当ならベッドの上に克哉を上げて、寝かしつけてやりたかったけれど…太一の
体格は克哉のものより若干小柄だ。
起きている状態ならともかく、すっかりと眠っている克哉をベッドまで
上げるのは相当に苦戦することは間違いなかった。
「…まったく、克哉さんってば…。こんな無防備な姿を俺の前に晒しちゃってさ…。
本当、警戒心なさすぎ…」
そうやって、一旦…太一は克哉の目の前に屈んで、身体を密着させるような
体制になって相手の脇に両腕を回していった。
「ほら…克哉さん、とりあえずベッドで寝てよ! 今の時期は夜は冷えるし…
床でなんか寝たら、身体を痛めてしまうからさ…」
「ん…ぅ…」
そう言いながら克哉がうっすらと目を開いて、とりあえず半分寝ぼけながらも
ベッドに上がる為に…太一の動作を自ら手伝ってくれた。
その寝ぼけてトロンとなった瞳に、一瞬鼓動が高鳴っていく。
抱き上げる際、密着していたので…服越しとはいえ克哉の体温と肌の
感触を意識しない訳にはいかなかった。
(克哉さんの寝息と、鼓動だ…)
それを自覚した瞬間、何故か鼓動が早まっていった。
だが今は…太一はそれを意識しないように努めていった。
それだけでも随分と楽になり、結構あっさり…克哉の身体はベッドシーツの
上に沈んでいった。
自分のベッドの上で、クークーと安らかな寝顔を晒している克哉を見て…
太一は呆れ半分に微笑んでいった。
「克哉さん…まったく、こんな無防備な姿を俺の前で晒して…克哉さんみたいな
良い人はきっと、俺がどんな風な目で…貴方を見ているか、きっと想像したり
しないんだろうな…」
そう呟きながら、瞬間…克哉のうなじが猛烈に魅惑的に見えた。
その整った唇に、己の唇を重ねたらどんな感触がするのだろうか…という
黒い欲望が湧き上がっていく。
―止めろよ。そんな目で…克哉さんを、見るなよ…!
自分の中に眠る、黒い自分が…ゆっくりと目の前で安らかに眠る
克哉を目の前にして…目覚めていくのが判った。
それを自覚した途端、心臓がバクバクと言い始めていく。
―例えば、その唇に舌を捻じ込んで、グチャグチャと音が立つぐらいに
激しいキスを交わしたら
きっと、脳髄が蕩けるぐらいに気持ちよくなるだろう…そんな夢想に、
太一は…目の前で眠る克哉を見て、浸り始めていく。
―克哉さんが俺の手で感じたら、どんな痴態を見せてくれるんだろう…。
感じさせたら、凄く可愛い筈だよね…。俺に懇願して、涙を浮かべながら
必死になって縋ってくる姿なんて見たら、きっと堪らないだろうな…
黒い自分がそんな事を言い始めた瞬間、太一の頭の中で…克哉は
衣類の一枚、一枚を剥がされて…淫らな表情を浮かべ始めていった。
相手の弱い所を攻め立てて、トロトロになるまで…感じさせたら
どれだけ艶かしい姿になるのだろうか…。
そんな妄想が、堰を切ったように溢れ始めていった。
(止めろよ…そんな事を、考えるなよ…! 克哉さんは俺の大切な友人だ…!)
―本当にかよ? お前は…こいつを好きで好きで仕方なくて、それで…
壊してしまいたいと思っているんじゃないのか…?
黒い自分が、ねっとりとした口調で…こちらに問いかけてくる。
あの人を刺してしまった日から存在していると自覚した…黒くて
冷たくて、酷いことを平気で考える自分が怖かった。
そうしている間に…自分の脳裏で、克哉は更に乱れ始める。
硬く張り詰めたペニスを弄ってあげると、淫蕩な眼差しを浮かべて
こちらに懇願するような表情を浮かべている。
自分の手の中で、克哉の性器が大量の蜜を零してヒクヒクと
震えている。そんなリアルな感覚までも一瞬、思い浮かんでしまって
太一は性的な興奮と、そんな事を考えている自分に戦慄する…
相反する想いを抱いてしまっていた。
(そんな事をだから考えるなよ…!俺と克哉さんは、そんなんじゃ…!)
心の中で叫んだ瞬間、自分の目の前で…克哉がベッドの上で艶かしく
首筋を仰け反らしていった。
伏せた睫の影は長く…元々整った顔立ちの克哉に、艶めいた印象を
与えていく。
―正直になれよ。お前は…こいつを抱きたくて、仕方ないんだろ…?
グチャグチャにして、啼かせて自分の事だけしか考えられないように
したい…支配して、屈服させてやりたいって…そんな歪んだ欲望を
感じているんだろ…?
もう一人の黒い自分が、時折悪魔のように感じられた。
そんな事を自分が考えているなんて、自覚したくなかった。
自分はこの人に優しくしたい、そう思っている筈なのに…相手が自分の
脳裏で黒い笑みを浮かべて、言葉を続ける度に…そんな思いが
まるで儚い蜃気楼のようにすら覚えてしまう。
ズクン、と下肢が熱を帯び始める。
それは雄として…目の前の存在を貪りたいという即物的な欲望。
太一は、そんな自分を…認めたくなかった。
克哉は大切な人の筈なのに、雪のように白くて純粋なこの人に対して
欲望の眼差しで見てしまっている自分を、自覚なんてしたくなかった。
「違う…違う!」
太一は必死に頭を振って、そんな思考回路を否定していく。
彼が拒めば拒むだけ、もう一人の「黒」い自分は…歪んだ笑みを
浮かべていった。
―認めろよ。自分の正直な気持ちを…
「嫌だぁ!」
自分の夢は、アーティストで、日の当たる場所で生きることの筈なのに
この自分の中に巣食う悪魔が否定すればするだけ、日増しに大きくなって
どうしようもなくなっていく。
己の中のどす黒いシミ。それに侵食なんてされたくないのに…克哉と
過ごしている間だけは、そんな想いなど今まで感じないで過ぎたのに…
その聖域のような気持ちすら、今晩…否定された気がして、太一は
とても苦しかった。
暫くその後、太一はハア、ハア…と乱れた呼吸を繰り返しながら
克哉の目の前で葛藤し続けた。
貪りたい想いと、友人としての克哉を大切にしたい感情がせめぎ合って
太一の中でぶつかっていた。
そしてその晩…悩んだ末に太一が出した結論は、自分がこの部屋から
出て行って克哉を守るというものだった。
「克哉、さん…ゴメン。きっとこんな俺が貴方の傍にいたら…きっと
貴方をどうにかしてしまう…。傍にいられなくて、ゴメン…」
眠っている友人を置いて、部屋を出るのは少し苦かったが…今、自分は
この人に対して欲望を抱いているのを自覚してしまった。
だからもう、今夜はここにいてはいけない気がしてしまった。
太一にとって、この時…克哉は聖域だったから。
彼の笑顔は優しくてあったかくて、自分の心をいつだって明るく照らして
浄化してくれていた。
そんな克哉を、自分の欲望の赴くままに手を出して…この関係が
変わってしまうことを恐れて。
だから逃げてしまったけれど…。
―今思えば、この時に触れておけば良かったな…。少しでも克哉さんの
感触を、知っておきたかった…
少しだけ後悔の念が、静かに浮かび上がる。
それに…過去は、変えられるものではない。
愛しげに太一は…夢の中でしか最早会えない人を見つめていく。
「克哉…さん…」
大切なものを扱うように、愛しげにその名前を呼んでいく。
…けれど自分を正に留めたくて、克哉の頬にそっと指を這わせて…
一瞬だけ触れる儚いキスをした。
―どうか貴方が今晩、安らかに眠ってくれますように…
そう素直に祈りながら、太一は自分の部屋から立ち去ろうとした。
だが…安らかな寝顔をもっと見ていたくて…少し離れた位置で、克哉を
見守っていく。
(…起きるまでで良い…。その間だけでも良いから…俺の傍にいてよ…)
距離を保つことで、この人を穢さないように配慮していく。
そしてその夜…克哉がうたた寝から起きる30分程度の短い時間…
太一は、確実に幸せだった。
―そしてその事を思い出し…太一は、眠りながら…静かに一筋の
涙を流して…失った過去を愛おしく感じていったのだった―
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。