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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
              

 そしてこれは物語が佳境に入る直前の出来事。
 眠っている太一の元に、彼が戻ってくる六時間ほど前に
降りかかっていた体験の断片だった。
 
―おっと、この事を貴方に語り忘れていましたね…

 Rは唐突に、そう区切って…今度は、自分と眼鏡を掛けた
克哉との間に起こった事を太一の父に見せていく

―これもまた、真実を知る上での手がかりになることでしょう…
前座程度に、見ておいてください…

 そして、最後の幕が開く直前に…男はもう一つの断片を
そっと見せていったのだった―

                     *


―彼の身体は静かに、蝕まれていた

 当てもなく街を彷徨い歩いて、夜まで適当に時間を潰していたら
あっという間に一日は終わろうとしていた。
 本日は週末であるせいで、仕事もなく…時間を経過させるのに
逆に労力を使った気がした。
 池袋の街を歩いている最中、突然に猛烈な胃の痛みを感じて
彼は裏路地へと入っていく。

(俺は一体何をやっているんだろうな…)

 痛む部位を手で押さえていきながら…唐突に、そう思った。
 何もかもが退屈で、彼にとってはどうでも良いものになりつつあった。
 気晴らしに太一の実家の家業にも興味を示して、裏の世界の仕事にも
幾つか携わったが、それも今では飽きてどうでも良くなりつつある。
 何故、あれ程険悪な関係である太一と一緒に暮らしているのか。
 自分が生きていることにうんざりしていると気づいた瞬間、ふと…
その答えを得たような気がした。

―あいつに憎しみのこもった目で睨まれる度に、本気の殺意を感じる度に
一種のスリルと…生の実感を感じられたからだ

 太一の傍に、非日常があった。
 そして…彼が怨嗟とこちらを否定する言葉を吐く度に、屈服させる事が
一種の快感に繋がっていた。
 終わった後に虚しいと感じることがあっても。
 相手を服従して蹂躙することに喜びを感じる性質の克哉にとっては…
ほんの僅かな時間でも満たされるなら、それで構わなかった。
 だが…彼の奥底に眠るもう一つの心は、それで悲鳴を静かに
挙げ続けていた。
 そしてついに…それに耐え切れず、身体にも大きな影響を与え始めていた。

「…胃が、痛い…」

 確かに、今日は数え切れないぐらいの酒と煙草を摂取し続けた。
 どちらも胃には最悪であり、今までも時々痛むことがあった。
 だが、今の痛みは半端ではない。
 考えを巡らせている内に冷や汗すら滲んで…胃が焼けるような激痛が
襲ってくる。

「くっ…はっ…!」

 耐え切れず、裏路地の壁に手をついてどうにか己の身体を支えていきながら
彼は猛烈な痛みの波に耐えていった。

『身体が…限界を迎えつつありますね…』

 すると、突然…声が聞こえた。
 聞き覚えのある、人物のものだった。

「…貴様、か…」

『お久しぶりですね…佐伯克哉さん…』

 Mr.Rはこの日…一年ぶりくらいに、眼鏡を掛けた佐伯克哉の前に
静かに姿を現した。
 夜の闇に紛れて…その黒い衣装を溶け込ませていきながら…。

「何の、用だ…。今は貴様に構っている、暇は…ない…」

『おやおや…ご挨拶ですね。せっかくこちらが親切に貴方へ忠告を
与えに来たというのに…』

「忠告、だと…? お前が俺に…?」

『ええ、そうですよ…貴方の身体を案じたので…』

 そして男はどこまでも愉快そうに微笑んでいく。
 その笑みを見ていると、こちらがこうして痛みを堪えている姿すらこの男は
愉しんで観察しているようにしか感じられなかった。

「ほう…お前が、俺の身体を、心配するとはな…。それで、何を言いたいんだ…?」

 途切れ途切れでか細くなりつつあっても…相手に弱りきった姿を見せることに
抵抗を感じる眼鏡は…精一杯気丈に振る舞ってみせた。
 しかし相手は…そんな彼の虚勢すら打ち砕く言葉を唐突に告げていった。

『…このまま、もう一人の貴方に過剰にストレスを与える生活を与えていたら…
貴方の身体はガンに蝕まれますよ…』

「っ…!」

 その言葉を聞いて、眼鏡は言葉を失っていく。
 ガン、という言葉に強烈な死の匂いを感じたからだ。

「な、にを…世迷いごとを…」

『世迷い言ではありませんよ…。事実、その胃の痛みがその兆候です…。
知っていますか…? 人間の身体には毎日一定数のガン細胞が生まれて
いる事を。それを規則正しい生活や身体に良いものを摂取することである程度
打ち消すことが出来ます…。ですが、貴方が娯楽程度に感じている太一さんの
憎しみの言葉を…もう一人の克哉さんは耐えられなくなっている。
それが貴方の身体を静かに蝕み…ついに、胃に穴を開ける直前まで症状が
出てしまった。…このままの環境を続けていれば、積み重ねていけば…
貴方の身体に、大きなガンの芽が出来ることでしょう…。私は貴方に死んで
もらいたくないから…その忠告に来ました…』

「…成る程、警告に来た訳か…貴様は…」

『ええ、そうですよ…。貴方に死なれてはつまらないですからね…』

「…チッ、あいつという存在は…トコトン、邪魔だな…」

 忌々しそうに、眼鏡は舌打ちしていった。
 心底…己の中に未練がましく存在しているもう一人の自分について
苦く思っていた。
 もうこちらを押しのけて存在する力すら残っていないのに、完全に消える
事も出来ないで…己の中であがき続けている。
 それすらも一種の娯楽として彼は受け止めていたが…こうして己の身体に
影響まで与えたとなると、その存在を疎ましく思うだけだった。

―チッ…いつまでも消えないクセに…俺の身体に影響まで与えるとはな…。
うっとおしい奴だ…

 心の底から、微かな芽のように残っているかつての自分の心に苛立ちを
覚えた瞬間…黒衣の悪魔は、それを見逃さなかった。

『…どうやら、もう一人のご自分を…貴方の身体に大きな影響を与えて
蝕もうとしている事に腹を立てていらっしゃるようですね…』

「…当たり前だ…」

『…なら、貴方の身体がガンに蝕まれる前に…その原因を取り除いたら
どうでしょうか…?』

「…?」

 その言葉に疑問を持って黒衣の男を見つめた瞬間、Rはどこまでも愉しそうに
笑みをたたえていた。
 眼鏡はその表情に、一瞬戦慄すら覚えていった。

「…ほう、なら…どうすると…言うんだ…?」

『単純な話ですよ。…貴方の奥底に眠っているもう一人のご自分の心を
貴方の精神から切り離してしまえば良い。そうして貴方の身体を蝕んで
いる以上…その存在は最早、ガンのようなもの。そのまま残していることで
貴方の肉体をも滅ぼすならば…私が、貴方の中からその心だけを
そっと取り除いて延命させて差し上げますよ…どうなさいますか…?』

「…本当に、そんな事が出来るというのか…?」

 疑わしそうに眼鏡が見つめると…男はにこやかに笑いながら、当然の
事のように言ってのけた。

『ええ、私の力を持ってすれば…それくらいの事は簡単ですよ…。
さあ、どうなさいますか…佐伯克哉さん…』

 男が唄うようにそう告げていくと…眼鏡は、深く溜息を突いていった。
 そして…少し考えた後に、男の言葉に対しての答えを静かにその口に
上らせていったのだった―


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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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