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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『第四十九話 太一の計画』 「佐伯克哉」

  アメリカでそれなりの成功を収めてから、ふとした事で…本多にMGNの新製品の
タイアップ曲の話を持ちかけて貰ったのを契機に太一と克哉は…日本に戻って来て
こちらで当分は積極的に活動する方針を固めていた。
 克哉がアメリカに渡ってから、意外なことに…本多と御堂は交流を持つようになったらしい。
 海外に渡ってからも…克哉と太一は、例の事件が起こってから何かと手助けをしてくれた
本多と片桐に対して、頻繁に連絡を取っていたし。

 克哉のその後が気になった御堂は…本多と連絡を取って、時々…その経過を聞くように
なったのをキッカケに二人は時々ケンカをしながらも酒を飲み交わす間柄になったらしい。
 今回の帰国は、そういう繋がりから発生したものだった。
 帰国して、ゴールデンタイムに太一達のバンドが作った音楽が流れるようになってから
およそ一ヶ月。

 流れてから、反響は徐々に広がっていき…今ではその曲が近々CD化する事も決定して
毎日がその打ち合わせや準備で忙しくなって来た時期だった。
 CMではサビの部分が15秒程流れているが…全部は太一が作った曲は世間に流れて
いない。
 それを御堂や、MGN側の営業は上手く利用して…話題や、注目を集めてくれていた。
 おかげで…本日、生放送の番組にこの曲を二番フルで流せる機会が訪れていた。
 控え室に入って…太一と椅子に座ってお互いに向き合う体制で打ち合わせをしている最中、
克哉は素っ頓狂な声を思わず上げてしまっていた。

「…えぇ! それ…太一、本気でやるつもりなのっ?」

 太一からたった今聞いたとんでもない計画を聞いて…克哉はつい驚いて椅子から
立ち上がってドン、と机を叩いていってしまう。
 それに対して…太一は腕を組みながら自信満々そうな態度で言葉を続けていた。

「うん。大マジだよ。だって…考え方によっては千載一遇のチャンスでしょ? 今夜って…
生で俺達の声が世間に流れるんだしさ…。やっぱりあれは、録画じゃなくて…生で
リアルタイムでやってみたいし…」

「き、気持ちは判るけど…それ、一歩間違えたら大変な事になるよ? ようするに…
クライアントの意向を裏切る形になる訳だし…」

「だから…言っているでしょ? ちゃんとCMに使われている曲も二番には
流すって。実はこの生放送の話が決まってから…バンドの仲間にはちゃんと話して
とっくの昔に打ち合わせも準備も済んでいるんだ。後はとちらずに実行に移すのみの
段階な訳。という訳で…俺は自分の意思を曲げるつもりはないかんね?」

「そ、それは…自殺行為と紙一重だと思うよ。せっかく…日本でも認知度が広まって
結構名前とか知られてきたばかりの頃なのに…そんな無茶な真似をしたら…」

「…克哉さん。俺はまだ…若いし、こっちじゃ特にビックなアーティストって訳じゃない。
その時期に守りに入るのは…早いんじゃないのかな? もし失敗したとしても…
またやり直せば良いだけだし。…成功したら、絶対に観客のインパクトに残るよ。
 それは確信持って言える。自信がなかったら…実際にやってみようとは思わないしね」

 言い切った太一の表情は…強い意志が感じられた。
 それを見て…克哉は深い溜息を突いていく。
 この三年…太一のバンドのマネージャー兼、社長に近い立場で…彼をずっと見守って
来たのだ。
 こういう顔をしている時の太一が絶対に意思を曲げる事がない事は…何度も体験して
身にしみている。
 どれだけ大人としての意見や、考えを述べたとしても…自分が決心した事は頑として
変える事のない芯の強さを秘めている。
 それが見知らぬ土地で…太一を成功に導かせた最大の理由でもあるのだから―

「…その顔じゃあ、俺が何を言ったって…意思を変えないだろうね。うん…判った。
太一の好きなようにやっても構わないよ。…もし失敗した場合は…オレがちゃんと
責任を負って謝るから。…その代わりに、ヘマしないように頑張れよ?」

「やった! 克哉さんありがとう! 愛しているっ!」

 そういっていきなり椅子から立ち上がって…思いっきり抱きしめられながら唇にキスを
された時は流石に焦った。
 今はバンドのメンバーも準備に入って…自分たち二人だけの状態とは言え…今は
生放送番組に出演寸前の、スタンバイしている時である。
 いつスタッフに出番を呼ばれて…扉を開けられるか判らない状況下でこんな事を
されたので…克哉は思いっきり動揺していた。

「こ、こら…太一! 誰が来るのか判らない状況の時にこういう事は止めろってば!
もし…関係ない人に見られたらどうするんだ…よっ!わっ…!」

「良いでしょ? だって…あの曲ですでに克哉さんは俺のだって…みんなに公言
しているようなものだし。俺はいつだって…克哉さんとの事を世間に発表しても構わないって
考えているんだけどね。…俺にとって、この世で一番大切な人です…ってね?」

「~~~~っ! 馬鹿っ!」

 ポコン、と勢い良く頭を叩きながら太一を全力で引き剥がしていくと同時に
扉が思い切り開かれていく。
 そこに立っていたのは…パリっとした背広に身を包んだ長身の男…御堂
孝典、その人だった。

「あぁ…君達、ここにいたのか。向こうに待機しているスタッフ達が…君達を
探していたぞ。そろそろ番組が始まる時間帯だからな…。
後、君達の出番は…中頃だそうだ。まあ…初めてのTV露出になる訳だし…
妥当な扱いだろう。もう出れるだろうか?」

「あ、御堂さん…! TV局のこんな所まで…入って来れるなんて思っても
みなかったから…ちょっと驚きました…。はい、オレ達はいつでも出れます。
ね…太一?」

「あぁ…一応、君達の今回のスポンサーになるのは…我が社だからな。それに
この番組のCM枠にも、ちゃんと君達の曲を使用したものを流して貰っている。
…入って来れない筈がないだろう?」

(うっわ~相変わらず…この人、偉そうでムカつくなぁ…)

 本多と御堂はそれなりに今は和解して、仲良くやれるけれども…日本に戻って
から初めて彼と面識を持った太一はあまり馬が合わないらしく…こうして顔を合わせる
度にどうしても反発を持ってしまっていた。
 だが、日本にこうして戻って活動出来ているのも…それなりの話題性を持って曲を
世間に流す事が出来たのもMGNという強力なスポンサーがついてくれているからである。
 だから露骨に嫌がるような態度は顔には出さないように気をつけている。
 …が、どうしても額にうっすらと青筋が浮かんでいるのまでは隠し切れて
いないのだが…。

「そうですね…愚問でした。それじゃあ…太一、そろそろ行こう! 初めての生放送番組
出演で…オレ達のせいで番組の進行に影響出してしまったら…これからのうちのバンドの
活動にも支障出すかも知れないしね…」

「は~い、判りました~。もう俺の方は…準備出来ているから、このままでも出れるよ」

 そう言い切った太一の格好はいつもと変わらないラフな服装で。
 普段着ならともかく…これから、TVに出演するとは思えないくらいに地味な代物だ。
 
「えぇっ? それってどう見ても…いつも太一が着ている格好とそんなに変わりがない
じゃないか…! どうしたんだよっ! いつもだったら…曲に合わせてちゃんと衣装を
用意したり…そういうのを怠ったりしない筈なのに…!」

「…曲のイメージが、ちゃんと決まっているならね。けれど…俺が今日…これから
やろうとしている事は、克哉さんにちゃんとさっき話したばかりでしょ?
 その計画の為には…服装でイメージが決まってしまう事はむしろマイナスだからね。
 だからね…今日は敢えてこれで行く訳。その方が服装によって聞き手に先入観を
与えないで済むからね…」

「…君達は一体、何の話をしているんだ? …傍から聴いている限りでは…何となく
不穏な気配を感じるんだが…? 一応、今回の君達の曲のタイアップは我が社が
担当しているという自覚だけは忘れないでいて貰いたいんだがな…」

「は、はい! それはオレ達も自覚しています。MGNさんの顔に泥を塗るような真似
だけは絶対にしませんから…! それじゃそろそろ時間がヤバそうですから…失礼
しますね! ほら、行こ! 太一…!」

 自分でも声が上ずってしまっている自覚はあったが…ここは逃げるしかないと
克哉は判断していた。
 もし…さっき太一から聞かされた事を御堂に話してしまったら…絶対にその計画は
阻まれてしまうだろう。それくらいの想像はついていたからだ。
 不振がられるのは端から承知だ。だが…太一の意思がすでに決まっている以上…
御堂が何を言っても彼は実行に移すまで気持ちを変える事はない。
 それなら…これ以外の最良の選択はない。そう克哉は確信していた。

「わわっ! 克哉さん…そんなに急がなくてもっ…!」

「五分前には持ち場についているのは日本社会では常識の一つだよ! 幾らまともな
社会経験がないからってそういうのは疎かにしちゃダメだ! ほら…!」
 
 そして思いっきり手を引っ張っていきながら…ふと御堂の方を振り返り、小さく
会釈をしていく。
 そんな克哉を前に…御堂はニコリ、と柔らかく微笑んでいく。

「…それじゃあ御堂さん、失礼致します!」

「あぁ…君達が良い結果を出してくれるのを…楽しみに見守らせて貰おう…」
 
 満足げに微笑む御堂を尻目に、克哉もまた…嬉しそうに微笑んで…そして太一の
手を引いてその場を去っていく。
 その姿を見送って…御堂は切なげに目を細めた。

(すでに…私や本多が入り込む余地などなさそうだな…あの二人には…)

 それを感慨深げに想いながら、御堂は二人の背中を見送っていく。
 かつて…自分は、佐伯克哉を想っていた。
 その事を自覚したのは…彼が退社をして、アメリカに渡ったと…片桐と久しぶりに
顔を合わせた時にその話を聞かされた辺りでの事だった。
 それをキッカケに…気まぐれに本多と会ってみようという心境になり…そして、
一度飲んでみたら、本多もまた…無自覚な恋心を眼鏡を掛けていない方の佐伯克哉に
抱いていた事実を何となく感じ取り。
 口に出した事がないが…その連帯感のようなものが心地よくて、気づいたら年に
数度程だが…本多と酒を飲み交わすような間柄になっていた。

(あの日…眠っている彼にキスをしてしまった時点で自覚していれば…もしかしたら
何かが変わっていたのかも知れないな…)

 三年前、克哉が刺されて病院に運ばれた時。
 見舞いに伺った時に自分は…何故か吸い寄せられるようにキスをしてしまった事が
あった。あの当時は何故…あんな事をしてしまったのか、自分でも信じられなかったが…
今なら判る。
 自分は…あの時、佐伯克哉を好きだったのだと…。

 けれどそれを自覚した時には、彼はアメリカに渡っていて。
 …あのCMに登用した曲を聴いた時に確信した。
 五十嵐という男と…佐伯は、恋人同士になっているのだと。
 そして…もう、自分が入り込む余地などこの三年間で無くなってしまった事を…
この一ヶ月、何度も打ち合わせで顔を合わせる度に思い知らされていた。

「…まあ、過去を嘆いても仕方がないな…。それに上手く行っていない場合なら
ともかく…順調な時に壊すような真似をして…彼に嫌われたくはないからな…」

 そう、御堂自身とて過去に幾度かの恋愛経験がある。
 だからこそ…すでに上手く行っている二人を無理矢理引き裂くようなみっともない
真似をしたくないし…私情に走って彼らの音楽活動の妨害もしたくはなかった。
 知らぬ間に通り過ぎて、終わりを迎えるしかなかった恋心。
 その想いが…彼にこうやって佐伯克哉に再び縁を持たせる理由にはなっていた。
 だが…これはひっそりと胸の中に秘めて、終わらせようと御堂は心に決めていた。
 過去にそういう事もあったのだと…時々、感慨に耽って懐かしむ。
 そういう恋の形や、終焉だってあるのだから―

(せめて…有終の美を飾るか…。この恋に対しては…な…)

 彼らの姿が消えていく。
 暫く廊下に佇みながら、男はそっと瞼を閉じて…太一に対しての嫉妬心を
押さえ込んで…スポンサーとしての自分を思い出していく。
 何となく…あの男がとんでもない事をやらかしそうな気配を感じて…大きな
不安が渦巻いているが、彼らの曲をMGNが本腰入れて取り組んでいる…
プロトファイバーに続く期待の新製品のタイアップに起用したのは自分の判断だ。
 この一ヶ月で注目度が高まり、すでに多くの発注を見込めているのも…彼らの紡いだ
音楽が大きく貢献している事実を御堂自身も認めていた。
 だから見守ろう。これから彼らが起こす出来事を…。

 そして生放送の現場に御堂が辿り着いたその時、太一の誇らしげな声が…
場内中に響き渡っていった。

『これから…想いを込めて、俺達はこれから演奏します…! この瞬間を観客の皆さん…
どうぞ…最後まで焼き付けて下さい!』

 その瞳を力いっぱい輝かせて、マイクを握り締めて太一が訴えていく。
 そして彼が歌うべき場面が巡り、最初のイントロが流れていくと…最初は大歓声。
 …間もなく、大きなざわめきがその場を満たしていった。
 それは予想していたものと違うものが展開されている困惑そのものだった。
 傍らに待機している克哉も…険しい顔をして彼らを見守っている。
 想定もしていなかった事態に咄嗟に御堂は…叫びそうになってしまっていた。

(五十嵐…君は一体、何をするつもりだ…!)

 御堂が動揺を押し殺し、どうにか見守る立場を貫いた次の瞬間…太一は力の
限り…声を振り絞っていった。

 そして…その場の空気の全てを…彼と、その演奏を担当しているバンドの
メンバーが支配したのだった―
 
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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