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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 雷鳴が鳴り響く中、結局…克哉が意識を失うまで、眼鏡はずっと
犯し続けていた。
 殆ど明かりが存在しない漆黒の闇の中…うっすらとだけもう一人の
自分の姿が浮かび上がっている。
 真っ白いベッドシーツの上でぐったりと目を瞑りながら横たわっている姿を
見て…苛立ちめいたものが湧いてくる。
…その処理をどうすれば良いのか。彼自身も正直、判らなかった。

―イライラする。

 Mr.Rにこいつの保護を頼まれた日から、そして克哉を連れ出した
その日から…彼の心はずっと荒れたままだった。
 ふとした瞬間に蘇る、あの桜が鮮やかだった夜の記憶。
 桜にはもともと、良い思い出などなかったのに…あの一件のおかげで
新たなトラウマが出来たようなものだ。

―あんたに一時、預けておく…だが、絶対に片付いたら克哉さんを
返して貰うからなっ! 絶対に忘れるなよっ…!

 血を流しながら鬼気迫る表情でこちらにそう叫んだ太一の姿が
ふとした瞬間に鮮明に喚起される。
 そう、今…克哉が手元にいるのは一時避難の為だけだ。
 克哉と出会った事により、そして傷つけられた事をキッカケに
太一はマイナスの方に大きく傾いてしまった。
 だから、彼の家族は考えたのだ。

 ―太一を大きく歪める引き金となった克哉がいなくなれば元に戻ると

 そしてあの五十嵐の本家、その庭園内にてごく内輪で宴会が開かれた夜。
 運命の扉は開かれてしまった。
 そこまで思い出した時、声が聞こえた。

『迷っておられるようですね…』

「お前、か…」
 
 一瞬、閃光が走り抜けていくと同時に…部屋の片隅に黒衣の男は立っていた。
 闇の中でもはっきりと判るくらいに艶やかな笑みを浮かべ、こちらを悠然とした
眼差しで見つめてくる。
 それが眼鏡にとっては神経をひどくささくれさせていく。

『あの日より一ヵ月半…手塩を掛けて面倒を看られている内に、情が湧いて
しまわれたんですか…? ですが、五十嵐様がどれだけ…この方に執着して
愛しておられるか…貴方は良く判っておられるでしょう?
 それでも、この方を欲されるんですか…?』

「…そんな事は、お前には関係ないだろう…」

『いいえ、関係ありますよ。こうして貴方達に別荘を貸して…生活する為に
資金援助をしているんですからね。…まあ、貴方の気持ちのままに行動されても
構いませんが…全てを思い出したその時、克哉さんは貴方を果たして選んで
下さるでしょうかね…? あのお二人は、本当に幸せそうな恋人同士でしたから…」

「…あんな扱いをされてて、幸せな恋人同士だと言えるお前の価値観は歪みまくって
いると思うがな…」

『…少々嗜虐的な方向に傾いていたとしても、とっさに我が身を犠牲にしてでも…
五十嵐様はこの人を庇われたことは、事実ですからね…。
 あの人は本気で克哉さんを愛されていますよ…。それを、貴方はお忘れになって
しまわれたんですか…?』

「…あれを、忘れられる訳がないだろう…」

『いいえ、記憶が薄らいで来ているから…そんな迷いが生じておられるんですよ。
だからもう一度、良く思い出して御覧なさい…。あの夜の記憶を。
 貴方がそうして身体を再び持ち、もう一人のご自分を五十嵐様の元から連れ去った
あの…桜の夜の記憶をね…』

 そうして、男はゾっとするくらい妖艶な笑みを刻んで間合いを詰めてくる。
 その間、眼鏡は強い眼差しで相手を睨み付けていたが…Mr.Rは意に介する
様子すら見せなかった。

―貴方に夢を見せましょう

 あの鮮やかに桜と紅が舞い散った、あの狂乱の一夜の出来事を。
 そして貴方が、一時の感情であの二人を引き裂くような愚を犯さないように…
そんな事を考えながら男は、眼鏡の頭にそっと手を触れさせていくと…妖しく
笑いながら囁きかけていく。

―大事な事を思い出せるように。私が手助けをして差し上げますよ…

 そう慈愛に満ちた声で語りかけながら、彼を無慈悲な夢の中に突き落としていく。

「やめ、ろ…っ!」

 抵抗しようにも、何故か身体の自由が利かなくなっていた。
 だからせめて視線だけでも、言葉だけでも思い通りになるものかと必死に
抗ってみせたが…全ては徒労に終わっていく。

―おやすみなさい

 最後にそう、男が甘く告げていくと同時に…眼鏡の意識もまた暗転していく。
 そして彼は堕ちていく。

 ―あの月がとても綺麗だった、満開の桜が咲き誇っていた夜の記憶の中へと―


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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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