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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―銃弾が打ち込まれてから、すでに1時間半ほど経過していた。
  二人は手分けして、ここを出て行く前の準備を始めていく。
  あれから、特に大きな動きがないのは在り難かった。
  だが、あの銃声は…こちらに対しての威嚇や、合図を意味していたのは
明らかであった。
 モタモタすれば、脱出するタイミングを逸してしまうかも知れない。
 その焦りを感じつつも…克哉は台所でリュックに数日分の食料と水を
詰め終えた後、…もう一人の自分に指示された通りの作業を克哉はこなしていた。

「…準備は、出来たか?」

「うん…言われた通りの作業は全部やっておいた。お前のフリーメールの
アカウントの方に…この携帯電話に登録されている人間の、番号とメルアドを
コピーペーストして、メール本文に打ち込んで…送っておいたよ」

「ああ、それで良い。…万が一という事があるからな。その携帯を失くしたり、
壊したりしてしまった時用の保険だ。それで少しは安心だろう…」

「うん…。けど、やっぱりお前って凄いと思う。オレはそんな処まで全然、
気が回っていなかったから。後…食料と水は、オレが背中に持って運んで
いくよ。拳銃を持って戦うお前は、少しでも身軽な方が良いだろうし」

「当然だ。一応…防弾チョッキの方は着込んでいるから、余程至近距離で
打たれない限りは大丈夫だろうと思うがな。いざという事に…両手の自由が
効く方が在り難い。こちらは…予備の弾薬も持ち歩かないといけないからな…」

「ん、そうだね。オレの方の準備は終わったよ。水も500ミリリットルの奴を6本、
非常食のカロリーメイトも…8箱、それとアルファ米や…缶詰も何個か詰めて
あるから、節約して食べれば3~4日分くらいは大丈夫だと思うよ」

 そういって、克哉はニコリと笑っていく。

―準備は出来ましたか?

 そして二人が準備完了、と報告しあっている時に…まるでタイミングを
見計らっていたようにMr.Rが台所に入っていく。

「ええ、オレ達の準備の方は完了しました。そちらは…?」

―私の方も、通路の扉を開けて参りましたよ。安易に外部からの侵入者が
入って来ないように…少々、ややこしい手順で錠を掛けてありますから…。

「じゃあ、早く隠し通路の方に案内して貰おうか。あまり長い時間…ここで
モタついていたら…確実に、ここを襲撃されるだろうからな…」

―はい、仰せのままに…。我が主よ。それでは私に…ついてきて下さいね~。

 そうして、愉しそうに笑いながら男は…地下室の方へと向かっていった。
 階段をゆっくりと下りていき、そのまま…通路の奥の方へと進んでいく。
 そして…大きな古めかしい大時計の前に辿り着いていくと…その時計の
前面部にある鍵穴に、一つの鍵を差し込んでいって…そのガラスケースと
時計の内部に続く扉の部分を開いていった。

 そして、時計の短針と長針の位置を9時15分の位置に合わせていくと…
いきなりカチッ! と音を立てて壁の向こうでゴゴゴゴ、という轟音が響き
始めていった。

「なっ…何っ?」

―こういうのは、隠し通路に付きものでしょう? 一応…ある時間帯を
合わせると山側にも繋がるんですけどね…。
 なかなかの趣向でしょう?

「…地下室のこの物々しい時計が、こんな役割を持っていたとはな…。
まあ、お前が用意した別荘なんだから、確かにこれくらいの胡散臭い仕掛けの
一つ二つはありそうなのは納得出来るが…」

―ふふ、貴方らしい物言いですね。ですが、退屈はしないでしょう?
では…二人の佐伯克哉さん、こちらへ。ああ、大丈夫ですよ…この鍵を
抜けば3分後にはこの入り口は自動的に閉ざされて侵入してきた人間は
後を追えなくなりますから。中に入れば、すぐに手動でも閉められるようにも
なっていますしね…。

「…何か、用意周到ですね。予め…用意してあったんですか?」

―ええ、当店クラブRは…お客様に万一の事が起こらないように細心の
注意を払っておりますから。ささ…どうぞ、奥へ。いつ…この別荘の中に
侵入者が入って来てもおかしくない状況ですからね…。

「そう、ですね…」

 そうして、二人は奥へと進んでいくが…何故か、Mr.Rは大時計の前から
動こうとしなかった。

「…お前はどうして、来ない?」

―私はここに残りますよ。脱出はお二人だけでなさって下さい…。

「どうしてっ!? 拳銃を持っているような奴らを相手にするんですよ…!
危険です!」

―いえいえ、大丈夫ですよ。私が、そこら辺のチンピラに…簡単に負けると
思いですか?
 それに…まだ、この屋敷に人が残っているように装えば、外にいる人達を
足止め出来るでしょう?
 心配なさらなくても…向こう側の命令系統はお世辞にも整っているとは
言い難いですし、五十嵐様が連れてきた信頼出来る部下達の何名かは…
克哉さんを連れ出すことに積極的では、ないですからね…。

「えっ…?」

―貴方が思っている以上に、五十嵐様を取り巻いている状況は大変だと
いう事です。あの方の部下の半数は、以前…克哉さんの暗殺を決意した方に
賛同している状況ですしね。特に『怪我をされてからの五十嵐様』は…
少しだけ、以前のお姿を取り戻しつつありますから…。
 何もかも目を閉ざし、闇にお心を閉ざしていた頃のあの方ではなくなっている
だけに…周りの人間は、むしろ…克哉さんに戻って来て欲しくない。
 そう考えていらっしゃる方が多いですからね…。

 その一言を言われた時、ズキン! と胸が痛む思いがした。
 …克哉は、何も言い返せなかった。
 それは…克哉が心を閉ざした、大きな要因の一つであったからだ。
 …おかしくなって、心が壊れたのは太一に言葉が届かなかったのもある。
 だが…それと同じくらい辛かったのは、周囲の人間が…自分を空気のように、
いないもののように扱うか、言葉に出さないが…明らかに嫌悪や、憎悪の感情を
向けられ続けていたことが多かった。
 太一の父親だけじゃない。かつての太陽のような太一を知っている人間から
見たら…克哉を実家に連れて来た前後から、彼は歪になってしまったのだ。

 愛する人間に、意思も言葉も封じられて…責められ続けて。
 周りにいる人間に、無視か…憎悪を向けられる。
 そんな状況が続いたから、克哉は追い詰められた。
 相談したくても…外部と連絡手段の一切を封じられて、監禁された
状況では…ただ、胸の内に抱えるしかなく。
 …最終的に食を断つことで緩慢な自殺を選んだのは…もう、それ以外に
逃げ道を作り出せなかったからだ。

「はは、そんな事は…判って、いました…よ…」

 自嘲的に笑いながら、克哉は呟いていく。
 知らない内に…泣いて、いた。
 太一の事は、好きだ。今でも愛している。
 けれど…もう、克哉はあの屋敷に二度と戻りたくなかった。
 あんな風に…周りの人間に、空気みたいに扱われるのは…辛かったからだ。
 太一が嗜虐的に克哉を抱く時、部下の誰かに無理矢理見せるような真似をする
事が何度かあった。
 けれど、最初は驚いていた彼らも…次第に、克哉に対しては嫌悪と侮蔑の眼差しを
見せるようになった。
 それが、一番…克哉には、辛かったのだ。

―それによって、太一の評判も次第に下がっていってしまったから。

 そんな真似をするようになった次期党首候補に、誰が心からついていく
だろうか?
 太一がいない日、これ見よがしに…周りの、太一の部下やこちらの世話を焼く
人間は悪口を言い続けていた。
 それで、自分の悪口を言われるだけなら幾らでも我慢出来た。
 けれど…太一まで、それで悪く言われるのだけは…本当に辛かったのだ。
 最初の頃は、太一の事まで悪く言わないで下さい! と言い返していた。
 だが、太一の部下達は…本気で、泣きながら訴えたのだ!

―ぼっちゃんを歪めたお前が何を言う!

 悪口は、関心がある相手に対しての不満や裏切られたという思いで
発する場合も多い。
 それが、克哉の棘。だから…克哉は、死にたかった。
 自分という存在が消えれば、もう太一があんな風に悪し様に陰口を
叩かれることはなくなると…そう、思い詰めてしまったから。

「だから、オレは…逃げるしか、ないんです。オレが傍にいる限り…
太一の部下達は、太一を認めないで反発するだけでしょうから…。
オレが傍にいる事で、太一を追い詰めるくらいなら…いっそ、一生…
オレは姿を現さない方が、ずっと良い…」

 そう言って、克哉は眼鏡の手をそっと掴んでいく。

「行こう! モタモタしていたら…お前の身まで危険に晒してしまうから。
それと…Mr.Rさん、ありがとう。この別荘を提供して下さらなかったら
オレは体制を立て直すことは出来なかったと思いますから。
感謝して、います! じゃあ…!」

「…判った」

 ただ涙を静かに伝らせている克哉に思う処があったが、ここで延々と
話し込んでいては、隠し通路を使って逃げる意味を失くしてしまう。
 だから眼鏡は、今だけは…余計な言葉を言わずに頷いていった。

―少々、言い過ぎてしまいましたね。貴方達二人の未来に…幸が
あらんことを、ここから祈らせて頂きますよ…

 そうして、二人の姿が隠し通路の奥に消えていくのと同時に…
Mr.Rは仕掛けを解除して、その道を閉ざしていく。

―さて、これからこのドラマに…どのような結末が待っているんでしょうかね…。
 一観客として、楽しみながら拝見させて頂きますよ…

 そうして、男は心底愉快そうに笑っていく。
 そして二人の姿は、海へと繋がる洞窟の奥へと消えていったのだった―
 
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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