鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―結局その後、片桐に強引に医務室のベッドに連れていかれた後、
暫く本多は起き上がれなくなっていた。
片桐に強引にベッドに寝かされた時は「大丈夫ですから!」と強く反発
していたのだが…やはり、一晩まともに寝ていない状態では、清潔な
シーツの誘惑には勝てなかった。
(眠れないのは変わらないけどな…)
ただ横になっているだけでも、確かに身体は少しだけ楽になっていた。
しかし心の混乱は一層、広まっていくだけだった。
「どっちが本当なんだよ…」
プロトファイバーの営業やっていた期間中の今にも倒れそうで
顔色が悪かった克哉。
昨日の画面に映っていた、御堂に嬲られていた場面。
屋上で詰問した時に、自分の前でポロポロ泣いていた姿。
御堂からの便りを見て、ウキウキした様子をしていた彼。
そして…今朝の、晴れやかで朗らかな笑顔。
これらの場面には全て御堂が絡んでいる筈なのに、何かが
噛み合わない。
あんな事をされたら、自分だったらその相手を大嫌いになる。
そんな相手がいなくなったら二度と会いたくないだろう。
けれど、それでは…説明がつかない。
もし、今朝…克哉が泣いていたのならば、本多は会社を飛び出して
御堂の元に殴り込みにいかんばかりの勢いだった。
―だが、克哉本人にそれを否定されたようなものだった。
「…お前が、判らねぇよ。克哉…」
半分、泣き言に近い感じで…本多は仰向けの状態のまま両手で
顔を覆い…苦しげに呟いていく。
それでもベッドに横になっている内に何度かウツラウツラ、と浅い
眠りを繰り返している内にあっという間に昼休みを迎えてしまった。
キーンコーンカーンコーン
昼休みを告げるチャイムが、医務室内にも響き渡っていく。
キクチ・マーケーティングに入社してから早三年以上。
本多がこんなに長い時間、この部屋のお世話になった事は
初めての事だった。
(…何か、こんな風にぶっ倒れるのなんて学生時代ぶりかもな…)
そういえば学生時代、バレーボールに打ち込んでいた時は
猛練習のおかげで負傷したり、体調を崩してお世話になった事は
あったかも知れない。
だが基本的に人並外れた体力の持ち主である本多は…風邪とか
悩みまくって倒れた経験は今までの人生では皆無だったのだ。
「ザマ、ねえな…。八課の仲間達に迷惑掛けちまうなんて…」
心底悔しそうに呟いたその時。
医務室の扉がガラっと開いていった。
「本多君…体調は如何ですか?」
其処に立っていたのは片桐だった。
いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべて…そのままベッドの方へと
向かって来た。
「あ、はい…大丈夫っす…」
「嘘はいけませんよ。顔色はまだ…そんなに悪いじゃないですか」
あっさりと看破されて、本多は気まずそうな表情を浮かべた。
やはり、パンダ状態になっているクマが今もくっきりと刻まれた
ままでは…大丈夫だと言っても説得力に欠けていた。
「…眠れなかったんですか?」
「…そうっす。ちょっとグルグルと考えちまうことがあって…」
「悩み事ですか?」
「…まあ、そんなようなものっすね…」
それから、片桐はベッドサイドに置いてあった丸椅子の上に腰を掛けて
いくと…心配そうに本多の顔を覗き込んでいった。
「…何、見ているんスか…?」
「…僕で良ければ聞く事ぐらいは出来ますけど…どうしますか? 眠るのに
邪魔だというのなら大人しく退散しますけどね…」
…そんな事をいきなり言われるとは予想していなかっただけに…本多は
一瞬、面食らっていった。
(いきなりそんな事を言われても…あんなの、簡単に話せるような
内容じゃないからな…)
少なくとも、昨日謎の男に見せ付けられた内容を…同じ課の人間で
ある片桐には絶対に話すことなど出来なかった。
だが…かいつまんで、詳細を話さないで一部だけだったら?
ふと、そんな考えが浮かんでいった。
正直、ここ数日に起こった事だけでも混乱している部分があって
本多の中では整理を仕切れてなくて。
パンパンに膨れ上がっているのは、自分でも良く判った。
(…少しだけ、意見を聞いてみるのも良いかもな…)
普段の本多だったら、恐らく片桐や他の人間にそう申し出されても
自分で処理することを良しとして相談しようとなど思わなかっただろう。
それが彼の長所でもあり、短所でもある。
他者の意見を求めないから自分の価値観や感覚に判断が偏りがち
になり…時に他者の痛みや考えを理解出来ないと言った弊害を
生んでしまう。
良くも悪くも、彼は一人で抱え込む性質なのだ。
誰かに頼ったり、迷惑を掛けることを良しとしない性分。
それが皮肉にも大学最後の歳に…かつての仲間達と大きな
確執を生んだ原因にも繋がっていた。
「…片桐さん。ちょっとした例え話なんですけど…好きな相手がいて、
その相手が…今、付き合っている相手に過去に酷いことをされていた。
それを知ってこっちが怒っているのに、その相手は…今は、そいつと
一緒にいて幸せそうに笑っているんですよ。
その仕打ちが…到底、許せるような代物じゃないにも関わらず…
それでも、その相手といて幸せだっていうのなら、それは何でしょうかね…?」
「…それは、本多君が気になる子の話ですか…?」
「そうっす。今まで、自分はその相手を好きだって自覚なくて…恋を
しているって気づいたのはつい最近なんすけどね。けど、ふとした事で
そいつが酷いことをされていたって事実を知っちまって…今も泣いて
いるんなら、俺の処に来いよ! って…そいつなんて忘ちまえ…とか
そんな風に言えるんですよ。けど、俺が好きだって気づいた時には…
その男と上手くいったみたいで…本当に幸せそうに笑っていて…
どっちが本当なのか、判断つかないスよ…」
話している内に、段々と涙目になっていった。
昨日の映像のショックを、思い出してしまったからだ。
悩んで、悩んで…あんな事が裏であったのに気づいてやれなくて
心底悔やんでいた。
過去は、変えられない。
その事は本多も判っている。けれど…その気持ちを、今朝の
克哉の笑顔が裏切っていくのだ。
―御堂と逢うな! という事が本当に克哉の為なのか…?
あの笑顔を見て、初めて本多の中にその想いが生まれた。
それがまた…眠れなくなる要因の一つになっていて…彼は
たった一晩の間に随分と気持ちが弱ってしまっていた。
「…それは、難しい話ですね…」
と言いながら、片桐は暫く唸っていった。
それから暫くの間、沈黙が落ちていく。
チクタクチクタク…と秒針を刻む音が妙に大きく聞こえるくらいに
静かな室内。
けれど、片桐の表情は真剣そのもので…とても、聴かなかったことに
して下さいと言い出せる気配ではなかった。
(片桐さんに相談するべきじゃなかったのか…?)
自分の上司をこんなに悩ませてしまうぐらいなら、抱えておく
べきだったと…本多は後悔し始めていた。
だが、次の瞬間…片桐は穏やかに微笑みながら口を開いていった。
「…これは僕の考えですけどね。もし、それでも答えを出したいの
ならば…相手にとって、一番良いと思われる行動を取ってあげたら
どうですか…?」
「相手に、とって…一番良い行動…?」
「はい、それが人を愛するって事じゃないでしょうか…?」
だが、その意味を本多は良く理解出来ない。
それは今まで彼が考えたことがない視点であったから。
訳が判らないという、困惑した表情を本多が浮かべていくと…。
「…まだ、判らなくてもしょうがないですよ。…本多君はまだ、
若いんですからね…」
そういって片桐は儚く笑っていく。
―この瞬間、いつもは気弱で頼りないと思い込んでいた上司が…
その歳の差の分だけ、それなりに痛みを伴った人生を送って来た事を
初めて本多は自覚したのだった…。
暫く本多は起き上がれなくなっていた。
片桐に強引にベッドに寝かされた時は「大丈夫ですから!」と強く反発
していたのだが…やはり、一晩まともに寝ていない状態では、清潔な
シーツの誘惑には勝てなかった。
(眠れないのは変わらないけどな…)
ただ横になっているだけでも、確かに身体は少しだけ楽になっていた。
しかし心の混乱は一層、広まっていくだけだった。
「どっちが本当なんだよ…」
プロトファイバーの営業やっていた期間中の今にも倒れそうで
顔色が悪かった克哉。
昨日の画面に映っていた、御堂に嬲られていた場面。
屋上で詰問した時に、自分の前でポロポロ泣いていた姿。
御堂からの便りを見て、ウキウキした様子をしていた彼。
そして…今朝の、晴れやかで朗らかな笑顔。
これらの場面には全て御堂が絡んでいる筈なのに、何かが
噛み合わない。
あんな事をされたら、自分だったらその相手を大嫌いになる。
そんな相手がいなくなったら二度と会いたくないだろう。
けれど、それでは…説明がつかない。
もし、今朝…克哉が泣いていたのならば、本多は会社を飛び出して
御堂の元に殴り込みにいかんばかりの勢いだった。
―だが、克哉本人にそれを否定されたようなものだった。
「…お前が、判らねぇよ。克哉…」
半分、泣き言に近い感じで…本多は仰向けの状態のまま両手で
顔を覆い…苦しげに呟いていく。
それでもベッドに横になっている内に何度かウツラウツラ、と浅い
眠りを繰り返している内にあっという間に昼休みを迎えてしまった。
キーンコーンカーンコーン
昼休みを告げるチャイムが、医務室内にも響き渡っていく。
キクチ・マーケーティングに入社してから早三年以上。
本多がこんなに長い時間、この部屋のお世話になった事は
初めての事だった。
(…何か、こんな風にぶっ倒れるのなんて学生時代ぶりかもな…)
そういえば学生時代、バレーボールに打ち込んでいた時は
猛練習のおかげで負傷したり、体調を崩してお世話になった事は
あったかも知れない。
だが基本的に人並外れた体力の持ち主である本多は…風邪とか
悩みまくって倒れた経験は今までの人生では皆無だったのだ。
「ザマ、ねえな…。八課の仲間達に迷惑掛けちまうなんて…」
心底悔しそうに呟いたその時。
医務室の扉がガラっと開いていった。
「本多君…体調は如何ですか?」
其処に立っていたのは片桐だった。
いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべて…そのままベッドの方へと
向かって来た。
「あ、はい…大丈夫っす…」
「嘘はいけませんよ。顔色はまだ…そんなに悪いじゃないですか」
あっさりと看破されて、本多は気まずそうな表情を浮かべた。
やはり、パンダ状態になっているクマが今もくっきりと刻まれた
ままでは…大丈夫だと言っても説得力に欠けていた。
「…眠れなかったんですか?」
「…そうっす。ちょっとグルグルと考えちまうことがあって…」
「悩み事ですか?」
「…まあ、そんなようなものっすね…」
それから、片桐はベッドサイドに置いてあった丸椅子の上に腰を掛けて
いくと…心配そうに本多の顔を覗き込んでいった。
「…何、見ているんスか…?」
「…僕で良ければ聞く事ぐらいは出来ますけど…どうしますか? 眠るのに
邪魔だというのなら大人しく退散しますけどね…」
…そんな事をいきなり言われるとは予想していなかっただけに…本多は
一瞬、面食らっていった。
(いきなりそんな事を言われても…あんなの、簡単に話せるような
内容じゃないからな…)
少なくとも、昨日謎の男に見せ付けられた内容を…同じ課の人間で
ある片桐には絶対に話すことなど出来なかった。
だが…かいつまんで、詳細を話さないで一部だけだったら?
ふと、そんな考えが浮かんでいった。
正直、ここ数日に起こった事だけでも混乱している部分があって
本多の中では整理を仕切れてなくて。
パンパンに膨れ上がっているのは、自分でも良く判った。
(…少しだけ、意見を聞いてみるのも良いかもな…)
普段の本多だったら、恐らく片桐や他の人間にそう申し出されても
自分で処理することを良しとして相談しようとなど思わなかっただろう。
それが彼の長所でもあり、短所でもある。
他者の意見を求めないから自分の価値観や感覚に判断が偏りがち
になり…時に他者の痛みや考えを理解出来ないと言った弊害を
生んでしまう。
良くも悪くも、彼は一人で抱え込む性質なのだ。
誰かに頼ったり、迷惑を掛けることを良しとしない性分。
それが皮肉にも大学最後の歳に…かつての仲間達と大きな
確執を生んだ原因にも繋がっていた。
「…片桐さん。ちょっとした例え話なんですけど…好きな相手がいて、
その相手が…今、付き合っている相手に過去に酷いことをされていた。
それを知ってこっちが怒っているのに、その相手は…今は、そいつと
一緒にいて幸せそうに笑っているんですよ。
その仕打ちが…到底、許せるような代物じゃないにも関わらず…
それでも、その相手といて幸せだっていうのなら、それは何でしょうかね…?」
「…それは、本多君が気になる子の話ですか…?」
「そうっす。今まで、自分はその相手を好きだって自覚なくて…恋を
しているって気づいたのはつい最近なんすけどね。けど、ふとした事で
そいつが酷いことをされていたって事実を知っちまって…今も泣いて
いるんなら、俺の処に来いよ! って…そいつなんて忘ちまえ…とか
そんな風に言えるんですよ。けど、俺が好きだって気づいた時には…
その男と上手くいったみたいで…本当に幸せそうに笑っていて…
どっちが本当なのか、判断つかないスよ…」
話している内に、段々と涙目になっていった。
昨日の映像のショックを、思い出してしまったからだ。
悩んで、悩んで…あんな事が裏であったのに気づいてやれなくて
心底悔やんでいた。
過去は、変えられない。
その事は本多も判っている。けれど…その気持ちを、今朝の
克哉の笑顔が裏切っていくのだ。
―御堂と逢うな! という事が本当に克哉の為なのか…?
あの笑顔を見て、初めて本多の中にその想いが生まれた。
それがまた…眠れなくなる要因の一つになっていて…彼は
たった一晩の間に随分と気持ちが弱ってしまっていた。
「…それは、難しい話ですね…」
と言いながら、片桐は暫く唸っていった。
それから暫くの間、沈黙が落ちていく。
チクタクチクタク…と秒針を刻む音が妙に大きく聞こえるくらいに
静かな室内。
けれど、片桐の表情は真剣そのもので…とても、聴かなかったことに
して下さいと言い出せる気配ではなかった。
(片桐さんに相談するべきじゃなかったのか…?)
自分の上司をこんなに悩ませてしまうぐらいなら、抱えておく
べきだったと…本多は後悔し始めていた。
だが、次の瞬間…片桐は穏やかに微笑みながら口を開いていった。
「…これは僕の考えですけどね。もし、それでも答えを出したいの
ならば…相手にとって、一番良いと思われる行動を取ってあげたら
どうですか…?」
「相手に、とって…一番良い行動…?」
「はい、それが人を愛するって事じゃないでしょうか…?」
だが、その意味を本多は良く理解出来ない。
それは今まで彼が考えたことがない視点であったから。
訳が判らないという、困惑した表情を本多が浮かべていくと…。
「…まだ、判らなくてもしょうがないですよ。…本多君はまだ、
若いんですからね…」
そういって片桐は儚く笑っていく。
―この瞬間、いつもは気弱で頼りないと思い込んでいた上司が…
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
鬼畜眼鏡にハマり込みました。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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