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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―克哉にとって、災難だったのは…御堂と再会したのが週末ではなく
週の半ばであった事だった。

 楽しい時間と、嬉しい一時というのは得てしてあっという間に
過ぎ去るものだ。
 会いたくて会いたくて堪らないとこの一ヶ月、願い続けていた人とようやく
顔を合わせて、触れ合う事が出来て…克哉は幸せだった。
 だが、御堂の方は強引に作り上げた時間だったらしく…奇しくも、
朝七時にはホテルをチェックアウトして、解散する流れとなってしまっていた。
 新しい会社でも、御堂の仕事量はきっと多いのだろうなとすぐに
推測がついてしまった。

―もう少しだけ一緒にいたかったな…。

 本音を言うとそんな想いはあったが、我侭を言って困らせるのは嫌だった
から克哉は素直に御堂を見送った。
 そして早朝に、誰よりも早く八課のオフィスに足を向けてしまっていた。
 昨晩は本多を撒く為に色々と画策していたせいで…中途半端になって
しまった作業が幾つかあったからだ。
 それをこなす為に…不本意ながら七時台には自分の机の前に辿り
ついていくと…何故か、自分と本多の机の上に不審な代物があった。

「っ…! 何でこんな物が?」

 本多の机の上には何故か、昨日彼が纏っていた例の銭形刑事の
コートと帽子がセットで、綺麗に折りたたまれた状態で並んでいた。
 それだけならまだ良い。
 問題なら自分の机の上だ。
 克哉のディスクの上には、未開封状態のルパンの変装セットが
置かれていた。
 銭形とルパン…やたら執拗に泥棒を追いかける刑事と、逃げまくる
泥棒…。もしくは追う者と追われる者。
  何となく今の自分達の関係を暗示している品が置かれている事に
怪訝そうな顔を浮かべていく。

「…というか、これ…昨晩、本多が身に着けていた物だよな。どうして
本多の姿が見えないのに…置いてあるんだ?」

 それが心底不思議で、う~んと考え込んでいくと…本多のディスクの
片隅に四つ折りで織り込まれた手紙が添えられているのに気づいた。

「…手紙?」

 本来なら、人の手紙を勝手に見るのは失礼な行為に当たるのは
判っている。
 だが、この不可解な現象の答えを知りたくて…克哉はつい、その手紙を
開いて見てしまった。
 其処には簡潔に、こう記されていた。

―昨晩、本多様が当店にてお忘れになった物をお届けさせて
頂きました。ご利用、ありがとうございます  Mr.Rより愛を込めて

 …一瞬、その内容を見て克哉はその場に凍りついた。

「って…! 何でMr.Rの署名があるんだっ!?」

 まさかこんな所でRの名前を見るなんて思ってもみなかったので
軽くパニクっていると…背後からいきなり、大声で名前を呼ばれていった。

「克哉っ!?」

 その妙に男らしい声で名を呼ばれてドキっと心臓が跳ねた。
 一瞬、振り向くのに躊躇いがあった。
 昨晩に本多が自分をつけて来ていたのは記憶に新しい。
 しかもたった今、彼の机の上に置いてあった手紙を勝手に盗み見るような
真似をした直後である。
 気分は急速冷凍である。
 克哉がその場にカチンコチンになって凍り付いていくと。

「…おい、こっちを見ろよ?」

 妙にドスの効いた凄みのある声で呼びかけられて、観念して相手の
方へと向き直っていくと…。

―次の瞬間、不覚にも爆笑してしまった。

「…わっ…はははははっ!」

 本当なら、ここは笑ってしまってはいけない場面だっていうのは
重々判っていた。
 だがあまりのインパクトに、つい吹き出してしまった。
 本多の目の周りには恐ろしいまでにくっきりと大クマが刻み込まれて
しまっていた。
 それが…縁取られて、アライグマとかパンダの目元のような有様に
なっていて、妙に愛嬌ある感じになってしまっていた。
 しかも目元が軽く充血しているからそれだけなら、怖い感じになっている
だろうが…やはりパンダ模様のインパクトは物凄かった。
 一言で形容すれば相当におかしい顔になっていたのだ。

「って…! 克哉、笑うなっ!」

 本多自身も、自分の顔が一晩過ぎて凄い事になっていたことには
すでに気づいていたが…やはりこうやって顔を合わせた瞬間に
笑われると相当に傷つくものだ。
 しかし克哉の笑いは、まだ留まる気配がなかった。
 そう叫んだ瞬間、自分の机の上に変装セットが置かれているのに
気づいて…ぎょっとなっていく。

(…って、何でこれがここにいるんだ~!)

「ご、御免…。その顔、正直…フイを突かれたものだったから。…笑っちゃ
いけないって判っているんだけど…」

「お、おう…それは良いんだが…何で俺の机の上にこんなんのが置いて
あるんだか…。わざわざこんな物、戻さなくて良いのによ…」

 本多が苦々しげに呟いていくが、目元がパンダみたく縁取られて
いる状態で呟いても笑うを誘うだけであった。
 それで克哉は、必死に笑いを噛み殺す羽目になっていた。
 …それは昨晩、衝撃内容を見せ付けられて一晩中徹夜で葛藤を
し続けた故の副産物だったのだが、克哉はそこまでの事情を知らない。
 ついでに言うと、この変装セットがお互いの机の上に置かれているだけで
雰囲気が妙な事になってしまっていたのも事実だった。

 今朝、本多と顔を合わせたらもっと怖い雰囲気になっているような
予感がして出社する前は身構えていたが…このセットと、本多の変な顔の
おかげで何だか解れてしまっていた。
 恐らく、こちらが吹き出しているのは本多にとっては不本意なものであるに
違いないのは判っているが…それでも、その顔のせいでシリアスな雰囲気とは
程遠い空気になってしまっていた。
 同時に、本多の方もどうすれば良いのか戸惑ってしまていた。
 昨日、見せ付けられた画像が画像だっただけに、御堂とあの後一緒に過ごして
いた克哉はもう少し悲壮な雰囲気を漂わせていると踏んでいたのだ。

(何か…今朝の克哉、少し空気が違わないか…?)

 そう、この一ヶ月引きずり続けていた重いものが、払拭されているような
明るい笑顔を克哉は浮かべていた。
 それで余計に訳が判らなくなった。
 昨晩の画像は確かにショックだった。
 けれど同時に…あれが本当に克哉であったのかと疑う気持ちもまた…彼の
心の中には生じていたのだ。
 克哉を信じるなら、あれは嘘と思った方が良い。
 怒りで荒れ狂う心と裏腹に、そんな考えも…彼の中に芽生えていた。

「…克哉ぁ、いつまで人のツラ見て笑っているんだよ…」

 さっきから友人に、チラチラと顔を伺われては…笑いを噛み殺され続けて
本多の心は微妙に傷つきまくっていく。
 同時に、昨晩のあれは…あの怪しい男に担がれただけではないのかと
言う思いも生まれていった。

(本当にあんな事をされた相手と…再会して、翌日こんな風に笑えるもん
なのかよ…?)

 幸せそうに笑う克哉の姿に、何が本当で…何が嘘か、本多の中で
余計に判らなくなっていく。
 目の前の克哉が、あまりに朗らかに笑うから。
 こちらのくっきりした大クマが浮かんでいる顔を見て…盛大に吹き出し
たりなんてするから。
 ついでに言うと、昨晩勢いで購入した変装セットなんて机の上に置かれて
しまっているから…空気が妙な事になって、シリアスには程遠い感じに
なってしまっていた。
 そんな頃、ようやく出社してきた片桐がオフィスに足を踏み入れていくと…
本多の形相を見て、心底心配そうに駆け寄って来た。

「お、おはよう…ほ、本多君…その顔、どうしたんですかっ…!」

「あ、いや…ちょっと寝れなくて…すみません。仕事はちゃんとやりますから…」

「いけません! そんな凄い顔をしているのに無理なんかしたら本当に倒れて
しまいますよ…! 仮眠室で少しで良いから休んできて下さい。
幸い、今日はそんなに忙しくないですし…代わりに仕事をしておきますから!」

 そういってグイグイと片桐は本多の身体を押して、仮眠室の方へと
押しやろうとしていく。

「って、本気で大丈夫っすから! 片桐さん…落ち着いて下さい!」
 
 と、本多が訴えていくが…片桐は聞く耳持たないようであった。
 そのまま片桐が強引に本多を凄い心配そうな剣幕で押し出して、克哉は
一人…オフィスに取り残されていく。
 あまりに予想外の展開が続いてしまって、呆然としながら…ポツリと
呟いてしまった。

「…何なんだろう…この、展開…」

 しかし皮肉にも、この今朝の何とも締まりが悪い一時が…本多の昨晩
上がりまくった頭の血を下げる結果となり…。
 少なくとも、二人の間に冷静に考える時間を齎してくれたのは疑いようの
ない事実であった―
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プロフィール
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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