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―どうしてもう一人の自分はあんなに意地悪なんだろう
自分の部屋に立てこもりながら、克哉はそんな事を
考え始めていた。
そのくせ、心臓は凄くバクバク言っていて忙しなくなって
しまっている。
「バカ…」
明かりが落とされた、シンプルな内装の室内で…克哉は
胸元をギュっと握り締めながら、呟いていった。
片手には、相手に渡しそびれた四角い箱。
(せっかく…結婚してからの初めてのバレンタインなのに
何をやっているんだろ…オレ…)
去年は、バレンタインなんて祝いようがなかった。
今は夫となったもう一人の自分は、挙式をする以前は…
石榴が目の前に現れた時以外は会うことが叶わない存在だった。
本来なら実らない恋、結婚して一緒に暮らすことなんて…
ありえない恋だったのに…。
「去年は、渡したくったって…会うことすら出来なかったんだよな…」
昼間に、居たたまれない想いをしながら買って来たチョコレート。
それをそっと見つめながら…克哉は逡巡していく。
克哉とて、恥ずかしさやら意地悪されて悔しいやら…で一瞬
感情的になってしまったが、渡さないままでこの日を
終わらせたくなんてないのだ。
―けれど、小さな意地が邪魔をして…この扉を自分から開けるのは
躊躇われてしまった
何となく素直になるキッカケがないままだったから…克哉はキュっと
唇を噛み締めながら、生チョコレートの入った箱を見つめていく。
(…一言ぐらい、謝ってくれたら出ていっても良いけど…)
そんな事を考えた瞬間、いきなり…とんでもなく大きな音が
耳に飛び込んで来た。
ビービービービー!!
唐突に派手なサイレンというか…危険信号のようなものが
部屋の外から聞こえ始めて、一瞬何事かと思った。
「うわっ! この音は何なんだよ!」
何というか、映画とかドラマとかで鳴っている火災報知機とか、
これからここは崩壊しますよ~という時に鳴り始める音というか…
そんな音が突然聞こえ始めて、克哉はパニックになりかける。
人間、そういう時は生存本能の方が優勢になるらしい。
瞬間、もう一人の自分に腹を立てて閉じこもってしまったことなど
頭から吹っ飛んでとっさに、開錠してドアノブを回していくと…。
「やっと開けたな…まったく、手間が掛かる奴だな…!」
その瞬間、隙間からもう一人の自分の手が伸びてきて、手首をガシっと
掴まれていった。
あっ…と思った時にはすでに遅かった。
瞬く間にもう一人の身体がその隙間から割り込んできて…強引に
唇を塞がれていった。
「むぐっ…!」
克哉がジタバタと暴れて、とっさに相手の胸を押しのけようともがいたが…
そんな抵抗など物ともせずに、眼鏡は荒々しい口付けを施していく。
「んっ…ぅ…あぁ…」
頭の中に、淫靡な水音が反響する程の熱烈な口付けを落とされて…
克哉の思考は一瞬、甘く蕩け始める。
本当に、こういう手段は卑怯だ…とぼんやりと考えていくと…ようやく
唇を解放されていく。
「…お前って、本当にズルイ…」
「…そんなの、判りきっている事だろう…?」
扉のすぐ目の前で、顎の周辺をやんわりと擽られていきながら…
こちらの瞳を覗き込まれていく。
(本当に…ズルイ、よ…。いつも意地悪な癖に…こういう時だけ、凄く
蕩けそうなぐらいに優しい目をしているなんて…)
相手の目の奥が、今はとても柔らかくて穏やかだ。
愛されていると…口にはあまりしてくれなくても、そう実感出来てしまう。
そう思うと…意地を張っているのもダンダンとバカらしくなってきて…
克哉は溜息を吐いていく。
「…こっちを炙り出す為に火災報知機を使うなんて、どんな発想を
しているんだよ…。マンション中が大騒ぎになっても…知らないからな…」
「放っておけば良い。火災報知機の誤作動ぐらい…良くある話だ…」
「…お前って本当に良い神経しているよな。…オレと同一人物だなんて
やっぱり…信じられない…」
と、呟いた瞬間…唇に指先を宛がわれていった。
「今は…同じ人間じゃなくて、二人だろう…俺達は…」
はっきりと、強い口調で…そう宣言していった。
そうだ…今は、同一存在ではなく…それぞれが別個の意思と身体を
持った人間として存在している。
「…そうだね」
だからそれ以上は反論せずに、克哉も小さく頷いていった。
そのまま…静かに相手の胸元に引き寄せられていく。
さりげなく、部屋の奥に置かれているベッドの方までその体制で
誘導されていくと、トサっと小さな音を立ててその上に座らされていく。
気づけば、もう一人の自分の顔が間近にあった。
「…そろそろ、お前の手に持っている物を俺にくれないか…?」
ごく自然な動作で、ベッドの上に組み敷かれていきながら…
静かに囁かれていく。
言われて、無意識の内に四角い箱を落とさないように強く握り締めて
しまっていた事を思い出す。
そのせいで、綺麗にラッピングをされていた筈だったのに少しヘコんで
包装紙にシワなどが出来てしまっていた。
「…ちょっと、力込めてしまったから見た目悪くなっているよ…?
それでも…良いのかよ…?」
「問題ない。外装よりも…中身が問題だろう? …お前の服装のセンスに難点が
あっても…お前という中身の方が美味しければ問題ないのと一緒だ…」
そんな意地が悪いことを耳元で囁かれながら、ねっとりと…耳から
首筋に掛けてのラインを舐め上げられていく。
「どんな例えだよ! もう…!」
と、相手の胸の下で再び暴れようとした瞬間…ふいに手を取られて
指先に口付けられていった。
それで一気に毒気を抜かれていくと…。
「…お前の想いをちゃんと、俺にくれ…確認をする為にもな…」
と、真摯な眼差しを浮かべながらそう言われてしまったら…こっちは
耳まで赤くしながら黙る他…なくなってしまう。
何でこの男は、こうやって…こちらの羞恥を煽るような反則に近い行動
ばかりしてくるのだろう…としみじみ思ってしまった瞬間だった。
「…判った。仕方ないな…」
と、呟きながら…克哉は自分の手の中に収められたチョコの包装を…
ゆっくりと剥がし始めていった―
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。