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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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2009年度 御堂誕生日祝い小説
(Mr.Rから渡された謎の鍵を使う空間に眼鏡と御堂の二人が
迷い込む話です。ちょっとファンタジーっぽい描写が出て来ます)

  魔法の鍵  
    


 無数に鍵穴が並ぶ奇妙な回廊にて、二人はまずは鍵を使って扉を開けて
いこうという結論に落ち着き…部屋を探り始めていった。
 まず、克哉の方の最初の扉を開いていくと…其処は宇宙空間だった。
 漆黒の空間にキラキラと星が瞬くのは見方を変えれば素晴らしいプラネタリウムと
取ることが出来るが…色んなものがフヨフヨ浮かんで漂っているのだけは
どうも頂けない。
 
「…よし、見なかった事にしよう」
 
 どうも部屋の中は無重力まで再現されているらしく家具の類がプカプカと
浮かんでいる。 
 花瓶がひっくり返っていて中にあった花が宙に散乱し、水が球状になって漂って
いる処からしてもほぼ確実だった。
 
(…趣向としては面白いかも知れない。だが…無重力の部屋で過ごしても絶対に
寛ぐことは出来ないと断言しよう…)
 
 無重力というのは特殊で効果な機材を用いて、やっと地球上で再現することが
出来るものなのに…平然とそれをやってしまうMr.Rという存在はやはり人外の
存在であるという結論に落ち着くが、どうせ部屋を選ぶなら普通に重力のある場所が良い。
 克哉はそう思い、さっさとこの部屋は対象から外していった。
 二つ目の部屋は御堂の鍵を使って、彼が選択した方を克哉も立会い
ながら覗いていく。
 其処には、天空の城の庭園が広がっていて…二人とも開いた口が
塞がらなくなりかけた。
 何て言えば良いのだろうか。
 不朽の名作に数えられる不思議な少女が天から落ちてくるあの話の世界観を
再現したような感じだった。
 しかし部屋の中に何故、広大な庭園が広がっているのか。
 そして遠くの置物には何故、映画の中に出てくる巨人兵まで存在しているのか…
これもまた突っ込みどころ満載で、とても寛げそうになかった。
 
「…佐伯、どう考えてもこの部屋は…廊下の扉と扉の感覚と無視した広さになって
いる気がするのだが…」
 
「御堂、これは最初から夢と言っているだろう。不条理なことは全てそれで片付けるんだ…」
 
 軽い眩暈と頭痛を覚えていきながら、克哉は恋人に何度もそう言い聞かせて…
この異常な状況をそれで割り切るように薦めていく。
「…うむ、確かに夢以外では説明は付かないな…。しかしどうして天空の城ラ〇ュタを
思わせる部屋などが用意されているんだ…?」
 
「その辺は俺も非常に聞きたい…。あいつの趣味というのはどうなっているんだ…」
 
 こんな異常な部屋ばかり続いていたら、とても眠れそうにない。
 克哉はこの時点ですでにMr.Rの提案になど興味を持って乗っかるべきではなかったと
後悔し始めていく。
 しかし…中にはまともな部屋の一つや二つぐらいはあるかも知れない。
 そう気を取り直して、克哉は次なる部屋を開けていくと…。
 
―目の前には樹海と、濃い霧が広がっている部屋に辿り着いて…克哉は本気でその場に
崩れ落ちそうになった
 
「…一体、どうやったらここまでリアルな樹海を部屋の中で再現出来るんだ…?」
 
「ふっ…ふふふっ…」
 
「佐伯、その笑い方は怖いから頼むから止めてくれ! 傍から見ているだけで
何となく寒気がしてくるんだが…」
 
「…はっ、悪いな。何かすでにまともに考える事すら馬鹿馬鹿しくなってきてな…。
此処にはこんな異常な部屋ばかりしかないのか…と思うと、笑いがこみ上げてくる」
 
「…佐伯、此処にはこれだけ沢山の部屋が存在しているんだ。中には…まともな
部屋の一つや二つぐらいは存在しているかも知れない。まだ…鍵の使用限度は
残っているんだ。その範囲内で一つでも普通の部屋を引き当てれば…恐らく
私達の勝ちだ。良し、次の部屋に行くぞ…」
 
 御堂とて、この状況に精神的にはかなり疲れていたが…だからと言って、
この夢がいつ覚めるか判らない以上、まずは落ち着く場所が欲しかった。
 そうして次の扉を開いていくと…今度は穏やかな森の中に、木漏れ日が
差し込んでいて…森林浴をするには大変良さそうだが、またしてもどうやって
こんな物を部屋の中に再現したんだと突っ込みたくなるような光景が
広がっていて…御堂も少し、めげそうになってしまった。
 
「…佐伯、悪い。私も今…少し精神的にめげそうになった…」
 
「…俺もだ。だが…後、俺は三つ、あんたは二つは鍵を開けられる筈だ。
その範囲内で一つで良い…どうにかまともな部屋を探していこう…」
 
 それでも暫くして立ち直っていくと、再びどの鍵穴に鍵を差し込むか
二人は真剣に選び始めていく。
 そして克哉側の三つ目になって、どうにかまともな部屋が出た。
 豪華客船を思わせる部屋と、薔薇が敷き詰められている部屋に遭遇した時…
二人は心から安堵した表情を浮かべていった。
 しかし豪華客船のスィートルームを再現している部屋の中には丁寧に
波の音まで聞こえて、室内が緩やかにゆれ続けているし、薔薇の部屋に
感じては花の芳しい匂いが充満していて噎せ返るようで…どちらも、
寛ぐことは出来そうにないと結論付けて、残念ながらこの部屋も選ばなかった。
 しかし光明のようなものは見えたのも確かであった。
 
「…いまの二つは揺れと、濃厚な匂いさえなければ今までのに比べて随分と
マシだったな。だが…もう一つぐらいは試しておこう。…割り切れば予想も
していない部屋ばかり出てくるというのも、アトラクションの一つと思えば
楽しめるかも知れないな…」
 
「まあな、そうかも知れないな。…どんなものが出てくるか判らない
魔法の鍵か…。言いえて妙だな…」
 
 そういえばあの男も、自分にここを薦める時にそういっていた事を
思い出した。
 日常では体験出来ないことがここでは出来る…みたいなことをそういえば
口にしていた気がする。
 ようやくまともそうな部屋に当たったせいか…御堂の方にも余裕が感じられた。
 その顔を見て、克哉もまた…この状況を少しは楽しむか、という気持ちになっていった。
 そして克哉の四つ目、御堂にとっては最後になる部屋をそれぞれ選んだ時…
これはどちらも今までのものに比べれば大当たりの部屋に行き当たっていく。
 克哉側は全てが白の色調で統一された…貴族の寝室を思わせる部屋。
 そして御堂の方は…深海を思わせる色合いで統一された、中心に巨大な
ウォーターベットが設置されている部屋を引き当てていく。
 これならどちらを選んでも、リラックスして過ごすことが可能そうだった。
 
「…俺の方は後一つ開けられますが…今回のはどちらを選んでも良さそうな
感じだな。孝典はどちらの部屋が良い…?」
 
「ふむ、どちらも今回に限っては良さそうな感じだが…どうせなら、ウォーター
ベッドを体験してみるのも悪くないかも知れないな。寝たことがないから…興味はある」
 
「へえ、寝たことがないから興味はあるって言い回しは…何か妙に卑猥だな。
だが…あんたがそう言うならこの部屋にしよう…」
 
「あ…」
 
 そうして克哉は御堂の手を引いて、深海を思わせる部屋を選んでいき…
静かにその室内へと足を踏み入れていったのだった―
 
 
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 ※本日2009年10月28日を持ちまして、
当サイトも無事二周年を迎えました。
 サイト開いた当初は身辺もゴタゴタしていましたが
その状態でも萌えのままに突っ走り、勢いで始めたサイトが
まさか二年も続くとは本人もびっくりです。
 これも拍手をして下さったり、こちらの更新を楽しみにして
下さっている方々がいてくれたおかげです。
 本当にありがとうございました!!

 本日掲載のSSは持ち帰り自由です。
 CPは御克にしようか、眼鏡×御堂にしようか迷いましたが
サイト開いた当初、最初に始めた連載がメガミドの「夜の帝王」
だったことにちなんで、眼鏡×御堂にしました。
 …一人ぐらい、持ち帰ってくれると良いなぁ…という実に弱気な
企画ですが、良ければ目を通してやって下さい。
 なお、このSSは年内はいつでも持ち帰り自由です。
 その際には一言報告して頂ければ喜びますv

『贖罪』 

                         香坂 幸緒

 ―君とは本当に色々あったな

 彼と出会ってから気づいたら二年以上経過していたことに
ふと気づいたある夜、御堂は相手の腕の中に包み込まれて
しみじみと実感していった。
 ここは運営している会社が同じビル内に存在している、現在の
佐伯克哉の自宅の寝室だった。
 多忙を極める日々の中、僅かな隙間を縫うようにこの部屋で
肌を重ねたことが果たして何度あっただろうか。
 もし、会社のすぐ上に住所がなければ…会社を設立して以来、
自分たちがこうして触れ合う時間は取れなかっただろう…そう思うと、
相手の気持ちが見えてしまって、御堂は小さく笑っていく。

(…あの当時は君の行動が酷く突飛に見えたけれど…こうして会社が
軌道に乗ってからは、何故ここに君が住居を構えたのか…嫌って程
理解は出来るな…)

 貪るような行為の後、まだ夜半だというのに御堂だけふと…
先に目覚めてしまった。
 室内の電灯は完全に落とされていて、窓からは銀色の月明かりが
仄かに差し込んでくるだけだった。
 真円に限りなく近い月の形は、まるで夜空に浮かぶ鏡のようだ。
 傍らには克哉が安らかな寝息を立てて眠っている。
 こうして目を閉じていると…自分の恋人は、七歳も年下の青年である
事を実感していく。

「…まったく、寝顔だけは年相応なんだな…君は…」

 御堂は相手の無防備な姿を見て、小さく微笑んでいく。
 きっと今なら、殺意か何かを抱いているならば…相手を容易に手を掛ける
事が出来るだろう。
 ふと、そんな想いがジワリと滲んで…首を振って否定していった。

(…そんなのは、今更だな…。彼を殺して恨みを果たそうとするなら…
彼と再会してからなら幾らでも機会はあった…)

 そう考えた瞬間、御堂の心は二年前の彼との出会った当初の頃に
馳せられていった。
 二年前、傲岸不遜な態度と言動を持って自分の前に現れた七歳も
年下の男は…出会ったばかりの頃の関係は最悪も良い所で、どうにか
失敗させてやろうと、相手を屈服させてやろうと当時はこちらも躍起に
なっていた。
 こちらから接待を要求して、相手より優位に立ってやろうと思ったのは
丁度今くらいの時期の話だった。
 
「っ…!」

 その日の事が過ぎった瞬間、御堂の心に黒いものが浮かんでいく。
 …今でも、許しているとは言い難い。
 胸の奥に秘めたドロドロしたものを垣間見て、御堂は声を漏らしていく。
 たったそれだけの事で心臓の鼓動は乱れ始めて、こちらの息も少し荒く
なっていくのが判った。

―私は君と出会って、初めて愛憎という言葉の意味を理解出来るようになった…

 自分たちは憎しみから、関係が始まった。
 無理やり犯されている処を録画されて、それを盾に脅されて強引に犯され続けた。
 そして最終的には監禁までされ、10年間勤務して部長職にまで登り詰めたのに
MGNも退職せざる得ない状況にまで追い込まれた。
 一時は廃人寸前になり、社会生活を送れるように回復するまでかなりの
時間を要した。
 これだけ上げれば、相手を憎む要素しか存在しない。
 なのにどうして…そんな男を愛するようになってしまったのか、御堂は
今更ながらに振り返っていく。

「克哉…」

 自分の傍らで、泥のように眠っている男の頬を優しく撫ぜながら…
何故、こんな心境の変化が起こったのかを分析していく。
 きっと…彼があのまま自分を追い詰め、何もかも奪い続けていたなら
こんな愛情は決して生まれることはなかった。
 なのに…最後に彼が言った言葉が、全てをひっくり返してしまったのだ。

―そうだな。あんたの事が好きだって事にもっと早く気づけば良かった…

 その一言、きっと…こちらが現状を認識していないと思っていたからこそ
零れたその一言が、きっと今の自分たちの関係を作り上げたキッカケの
ような気がした。
 去り際に残された、想いのこもった一言が…月日が流れていくことで
憎しみも薄れていく中…彼への想いを変質させていった。
 幾ら思っていたからといって、自分が欲しかったからと言って…
彼のした事の全てが許せる訳ではない。
 だが、最後に彼は潔く自分の前から立ち去って…解放していった。
 御堂は部長という役柄上、多くの人間と知り合って来た。
 人間というのは土壇場と去り際に、その人間性が現れる。

―最後の土壇場で、相手を思い遣って立ち去れる人間は本当に稀なのだ

 大抵は決裂するまで抉れた場合、相手の口から漏れるのは恨み言ばかり
だったり…嫌がらせめいた行動を取る人間は非常に多い。
 だからこそ、最後の彼の振る舞いは酷く鮮やかに思えてしまったのだ。
 御堂はそんな当時の心境を思い出して…寂しいような、切ないような
そんな想いを抱いていく。

―私たちには、空白の一年がある。その期間もまた…君と私の今の
関係を作り上げるには不可欠だったんだな…

 もしその間に、佐伯克哉が自分の方から一度でも現れていたら…
彼の最後の行動とその想いを疑ってしまったかも知れない。

―あんたを解放するよ

 そう告げたように、彼はその後…決して御堂を縛らなかったし、
目の前に現れることもなかった。
 最後に想いを告げられたこと、そして本当にこちらを解放してみせた事。
 これが…きっと、憎しみが愛情に転じた大きな要因になっているのだろう。

「…私はどうして、君を愛してしまったんだろうな…?」

 眠る恋人に、問いかける。
 相手と触れ合っている箇所から心地よい温もりが感じられた。
 克哉の息遣いが、体温が…そして鼓動が愛おしい。
 お互いを曝け出し、こうして無防備な姿を晒すのは…相手を信頼
しているからだ。
 憎しみが自然に淘汰され、代わりに愛情と信頼の芽が芽吹いて…
それがゆっくりと育まれたのはどうしてだろうと。
 ふと…不思議に思いつつ、御堂の方から…相手の身体をそっと
抱きしめていく。
 
(まるで…ぬるま湯に浸かっているような気分だな…)

 相手の体温がじんわりとこちらの身も心も温めてくれている。
 つい、キスをしたくなって…相手の唇にキスを落としていった。
 その瞬間に相手の睫が小さく揺れていくのを見て…また、御堂は
微笑を浮かべていった。

―この瞬間、自分は確かに幸福を感じているのを実感した

 そうして…御堂は窓の向こうに浮かぶ月を眺めていく。
 真摯に見つめて、ただ…相手と自分との間に起こった様々な
出来事を振り返っていった。
 どんな人間関係であろうと、長く身近な処で付き合い続けていけば
相手の嫌な処を見て、揉めたりすれ違ったりする事は必ず起こる。
 良い面だけでも、悪い面だけでも人という存在は成り立たない。
 誰でも長所と短所、そして弱点や欠点はあるものだからだ。
 あんなに酷い男なのに、あそこまでの事をされたのに…最終的に
許したその理由。
 自らそれを問いかけて…御堂はふと、気づいていった。

―彼ほど、今まで出会った人間の中でこちらに執着して求めて来た
人間はいなかったからだ

 確かにその行動と手段は間違っていた。
 その為に一歩間違えれば自分という人間は壊れていた…その寸前まで
確かに追い詰められてしまった。
 だが、その酷い行為の奥に…自分が欲しかったからという想いが込められて
いたと知ったからこそ、離れている時間の間にどうにか相手を許して…
その関係を新しい形で再生させたいと思うようになった気がした。
 淡い月光に照らされて、恋人の整った容姿が静かに闇の中に
浮かび上がっていく。
 その時、克哉の唇が小さく動いて…こう呟いていった。

―孝典、すまない…

 まるで、贖罪を求めているようなそんな響きを持って…
相手の目元から、一筋の涙が零れていく。

「嗚呼…そう、か…」

 その涙を見て、御堂は悟っていく。
 この男が犯した重罪を、結局は自分が許したことを。
 告白して去っていく時の彼の背中が、本気で後悔していることが
判ったからだ。
 己の罪を居直る訳でもなく、素直に認めて謝罪した事。
 そしてその事を悔いているのが真実であると伝わった事。
 それが…空白の一年を経て、自分が彼を許せた理由に
繋がっているのだと、そう思った。

「…泣かなくて、良い…。私は、君を赦しているから…」

 いつもは気丈で傲慢でどうしようもない男の癖に…時折、
こうやって自分の前に弱い面を晒す。
 …結局はそのアンバランスさに惹かれてしまったのかも知れない。
 そのことに気づいて、御堂はそっと相手の目元の涙を静かに
唇で拭い取っていく。
 意地の悪い発言や、傲慢な心の奥底に…いつだって彼の中には
御堂に対しての侘びや、贖罪の気持ちが存在している。
 あのような振る舞いは二度としないと、こちらを大切にするという
意思を端々に感じられるからこそ…だから、赦そうと思った。
 後悔し、悔い改めようとしている者を責めるのは…残酷な
行為だからだ。
 逆にこの男が居直り、こちらにした行為を正当化するようなことを
もししていたのなら…御堂が今、彼の傍らにいることは決してなかっただろう。
 そうして労わりの心を持って相手の頬に触れ、目元に口付けていくと…
瞼が開かれ、克哉の澄んだアイスブルーの瞳が覗いていく。
 危うい、表情だった。

「孝典…? 其処に、いるのか…?」

「嗚呼…私は、君の傍にいる。だから…不安がらなくて良い…」

 そうして彼の唇に優しく口付けていくと、暖かい時間が流れていく。
 そして克哉に強く抱きしめられていった。

「…あんたが、俺の傍にいてくれて…本当に、良かった…」

 切なさすら帯びた声で、男は呟いていく。
 安堵したような、ずっと堪えていた何かから解放されたような
そんな声音だった。

「…俺を赦してくれて…ありがとう、孝典…」

「っ…!」

 寝ぼけているからだろうか。
 珍しく素直な一言が克哉の唇から漏れて、御堂は瞠目していく。
 しかしその発言の後…暫くこちらを強く抱きすくめていたかと思うと、
唐突に力が抜けていき…克哉は再び夢の世界に落ちていく。
 それに御堂は呆れたように呟いていった。

「…本当に、君はどうしようもない…男だな…」

 そう呟いた御堂の表情は優しく、慈愛に満ちたものだった。
 そうして…愛しくてどうしようもない自分の恋人の胸に、そっと
顔を埋めてその生命の音を聞いていった。

 自分たちの間にある過去はどうしたって消し去ることなど出来ない。
 犯された過ちは、きっと真摯に克哉が贖うことでしか拭えないだろう。
 だが…彼の中に、その罪を悔いる気持ちがある限りは…御堂は
この男をきっと赦していくのだろうと思った。
 人の弱さを、過ちを責めて切り捨てていくのは簡単だ。
 辛抱強く相手を見守り、赦して…正しい道に導くのはそれの何十倍もの
労力と忍耐力を必要とする。
 …けれど、そうして自分がこの男の傍にいるのは…あの日からきっと
御堂の中で克哉がそれだけの価値のある存在に変わってしまったからだろう。

「…まったく、君は本当に罪深い男だ。私をこんな風に変えて…。私の本来
歩むべきだった道筋を君は捻じ曲げて引き寄せてしまった。…その責任は
一生掛けて、償ってもらうからな…」

 そう呟き、彼がこれ以上…後悔に苦しむ夢を見ないように額にそっと
口付けていく。
 自分は、この愚かしくて一途にこちらを求める…彼を赦そう。
 贖罪を続けている限り、自分もまたそれを流していこう。
 いつまでも過去に縛られていても何を生み出さない。
 何よりも…今は二人で、同じ目標に向かって…前に進んでいる
途中なのだから。
 その喜びとやりがいを与えてくれたのもまた…紛れもなくこの男
なのだから…。

「…おやすみ、克哉…」

 そう告げて…御堂は恋人の腕に包まれて眠りに落ちていく。
 そうして寄り添いながら、彼らはこれからも長い時間を紡いで
いくことだろう…。
 克哉がかつての罪を悔い、御堂がその罪を赦して傍にいる限り…
ずっと―
※この話は以前に高速シャングリラ様が発行した
「克克アンソロジー1」に寄贈した作品です。
一定期間をすでに経ているのでサイトで再掲載を
させて頂きました。
 この点をご了承の上でお読み下さいませ。 

 慰撫(いぶ)      

 克哉が再び目を覚ました時には、自分の身体は相手の腕の中に
すっぽりと納まっていた。
 すぐ間近に彼の寝顔があったので起きた直後は少し驚いてしまったが…
久しぶりに感じる人の体温に、ホウっと溜息をついていく。
 
(あったかくて…気持ち良い…)
 
 初夏とはいえ、まだ夜は冷える時期だ。だからこそ…触れ合う
肌の暖かさが快い。
 腕枕をされた状態で、モゾモゾと軽く身動きしていきながら…そっと
相手の頬を愛しげに撫ぜていった。
 
「今夜は、ありがとうな…」
 
 小さく、今は眠っている相手に向かって告げて…その頬にキスを
落としていった。
 強引な所も多かったけれど、暖かい食事と優しく相手に撫ぜ擦られながら
夢中になって抱かれている内に、自分の胸の中にあったモヤモヤは
霧散してしまっていた。
 こちらの愚痴や、起こった事の顛末なんて詳しく聞こうともしなかった。
 それなのに…こんなにも胸が晴れやかになるなんて、不思議な気がした。
 
(そういえば…どこかの本に書いてあったな…。手って、凄い癒し効果があるって…)
 
 そう、手当てという言葉の語源になっている通り…人の手には、他者を
癒す力が込められている。落ち込んでいる相手を抱き締めたり、頭を撫ぜ
擦ったり、背中をポンポンと叩いたり…そういった他愛無い動作によって
手を触れさせることによって人の心は大いに癒されるものなのだ。
 今夜の愛撫は、いつもと若干違っていて…こいつの手は、とても優しかった。
 それが心地よくて、胸がポワっと暖かくなって…多分、単純な快楽と違う
領域で自分は感じてしまったし…確かに安らぎを覚えたのだ。
 
(いつもは…一方的に感じさせられて、意識を失くしているっていう方が
正しいけど…今夜は本当に気持ちよくて、安心出来て…つい、寝ちゃったんだもんな…)
 
 行為の最中に、フっと意識が消えてしまった事を少しだけ申し訳なく
思いながら…克哉は相手の唇にそっと小さくキスを落としていった。
 ほんの少し触れ合わせるだけで、ジィンと痺れるような心地良さが走っていく。
 それをもっと味わいたくて…つい、唇をこちらから押し付けていくと…。
 
「わっ…!」
 
 ふいに、相手の腕が動いて…いきなり捕獲されてしまった。 
 吐息が掠めるくらいの至近距離に眼鏡の顔がある。室内の明かりは
豆電球くらいしか灯っていなかったけれど…ボッと再び克哉の顔が
真紅に染まっていった。
 
「…こっちが寝ている間のオイタはそれくらいにしておけ…。じゃなければ
ゆっくりと眠る所じゃなくなるぞ…?」
 
「うっ…それは、ちょっと困るかも…。一応明日も仕事だし…」
 
「なら、大人しくしておけ…今夜は俺が傍にいてやるから…」
 
「いて、くれるの…?」
 
 相手の言葉に驚きながら、つい聞き返してしまう。もう一人の自分は
いつだって…ヤルべき事をヤったらさっさと克哉の前からすぐいなくなって
しまうのが基本で…自分が寝て起きてからも姿があった試しがなかった。
 
「あぁ、特別サービスだ。夜明け頃までいてやるさ…だから、安心して眠れ…」
 
 そう言いながら男の方からもこちらの唇を啄ばむように口付けていった。
 そのまま…その薄い唇が滑って…額の方にも口付けを落とされていく。
 それは外国映画とかで良く見る、安眠を願うおまじないだ。それを自覚した途端
…妙に気恥ずかしくなって憮然となりながら克哉は答えた。
 
「ん、そうだね…。少なくとも朝まではいてくれる…と思うと、ちょっと嬉しいかも。
…あの、今夜は…本当に、ありがとうな…凄い、癒されたから…」
 
 再び意識をまどろみの中に落としていきながら、克哉はそっと呟いていく。
 こちらが瞼を閉じていくと…相手の空いている手が、こちらの背中全体を
撫ぜていくように幾度も滑り続けていった。
 それはこちらの荒んだ心を慰めてくれる、暖かさに満ちた手だった。
 まるで大切なものを慈しむかのように、どこまでも優しく撫ぜられて…
胸いっぱいに幸福感が広がっていくようだった。
 
―おやすみ。またな…『俺』
 
 またいつか、こうして会える日を心のどこかで強く願いながら…克哉は
そっと目を閉じて眠りの波に身を委ねていく。
 こちらの意識が途切れる寸前まで、眼鏡は優しく背中を擦り続けてくれていた。
 その心地良さに身を委ねていきながら…克哉は静かに、落ちていく。
 どこまでも深く、そして甘い眠りの中へと―
  
 

 24~27日分の四日間はストックで失礼します。
 ん~と先週、ちょっと自分的に驚くようなことが幾つか
重なって起こってパニくっていたのと、別ジャンルの方の原稿が
重なってヒーヒー言っている状況なので(汗)

 ただボチボチ、体制は立て直したのでまた書き上がったら
桜の回想も魔法の鍵も掲載していきます。
 ま、軽い状況報告っす。
 ちょっと色々と考えなきゃあかんのと状況整理をしなきゃ
いけなかったからどうも頭の中で話の練成が一週間ばかり
捗らんかっただけなので。
 ではでは~。
※この話は以前に高速シャングリラ様が発行した
「克克アンソロジー1」に寄贈した作品です。
一定期間をすでに経ているのでサイトで再掲載を
させて頂きました。
 この点をご了承の上でお読み下さいませ。 

 慰撫(いぶ)   


洗い物を終えて、部屋の方に戻ると…もう一人の自分は、ベッドの上で
悠然と座りながらこちらを待っていたようだった。
上着を脱いで、Yシャツだけのラフな格好になりながら…グラスを片手に
腰を掛けている姿は悔しい事に非常に様になっていた。
 
「終わったか…?」
 
「うん、洗い物は無事に終わったよ…」
 
 そう答えた次の瞬間、実に艶かしい双眸をこちらに向けられていく。
 その瞬間、背筋がゾクっとした。瞬く間に室内に濃密な空気が漂い始めて…
息が詰まるような緊張感が生まれ始めていく。
 
(やっぱり…こういう流れに、なるんだな…)
 
 キュッと唇を噛み締めながら、克哉は確信していった。
 …コイツがこうして、自分の前に現れた以上…こういう流れにならないのは
むしろ不自然である事を頭の端で理解していく。
 だが…それと緊張する、しないは別の次元だ。自分の方は、身体が強張って
しまって…身動き取れなくなってしまっている。
 そんな呪縛を解くかのように…『俺』の唇から、一言…言葉が漏れた。
 
「来いよ…『オレ』…傷心のお前を、俺が慰めてやろう…」
 
 傲慢に、悠然とそう言い放ちながら…ハーフグラスを右手に持ちながら、男は
甘くそうこちらを誘惑していく。
 黒褐色液体で満たされたその硝子の容器から何故か目を離せなくなっていく。
 
「あ…」
 
 たったそれだけの事で、身体の奥が疼いていくのが判った。そして…自覚していく。
 この男が目の前に現れた事で自分も浅ましくもこういう展開を期待していた事実に…。
 
「どうした…? 早く来い…。夜は短いんだ…躊躇っているだけ、時間の無駄だぞ…?」
 
「う、ん…」
 
 まるで何かに操られているかのように…フラフラした足取りで克哉はゆっくりと…
相手が立っているベッドサイドの方へと向かい始めていく。
 顔が火照って…どうしようもなくなる。自分の身体なのに、もう制御不可能に
なってしまっているような気がした。
 自分がすぐに引き寄せられる距離まで近づいていくと…男は、作為的な動作で
自分が持っていたグラスを煽っていく。芳醇な香りがフイに鼻腔を突いていった。
 興味を惹かれながら、グイと腕を引かれて…唇を重ねられていく。
 焼け付くような熱さが、喉の奥に広がっていった。
 
(これは…っ)
 
 驚きながらも、流し込まれた液体をゴク、と嚥下していく。
 その間…唇をたっぷりと舌先で弄られたせいで早くも身体が反応してしまっている。
 暫くして、ようやく解放されていくと…克哉は少しだけ恨みがましい目を
相手に向けていった。
 
「…お前、オレが大事に取っておいた…秘蔵のウィスキーの栓を開けたな…?」
 
「…ケチケチするな。酒とは基本的に飲んで楽しむ為に存在するものだ。
…旨い酒は、落ち込んだ気分を慰めてくれる何よりの薬だろ…?」
 
 そう、もう一人の自分が持っているグラスを満たしていた液体の正体は…
克哉が以前に懇意にしている取引先から貰った貴重なウィスキーだった。
 最初は何度もこんなに高価な物は貰えないと断ったのだが…相手は
下戸らしく、どうせならウィスキーを好きな人間に飲んでもらいたいから…
と強く言われてしまって、半ば押し切られるような形で貰い受けた一品だった。
 後でインターネットを調べて優に一本、三万以上はする一品だったと知って
ぎょっとしたが、とっておきの時にどうせなら楽しませて貰おう…そうして、
長年大事に秘蔵していた物だったのだ。
 
「そう、だけど…。一言くらい、オレに断ってくれたって…」
 
「…断ったら、絶対に貧乏性のお前の事だ。『ダメ』と言って聞かない
だろうからな…好きにさせて貰った…」
 
「…お前なぁ…んんっ…」
 
 文句がつい零れてしまう唇を、また強引に塞がれてしまう。
 もう一人の自分が仕掛けてくるキスは濃厚なのに甘くて…気を抜くと
気持ちが良くてついうっとりしてしまいそうだった。
 口付けは強引の癖に、こちらを抱き締めながら…背中を撫ぜ擦り上げる
掌はとても優しいもので…その落差につい、ゾクゾクしていってしまう。
 
(気持ち良い…)
 
 勝手に大事にしていたウィスキーを開けられてしまって腹立たしい筈なのに、
そんな事がどうでも良くなってしまうくらい…もう一人の自分が与えて
くれる感覚は心地よくて。
 こちらからも…相手の身体に縋りつくように、その首元に腕を回して
抱きついていった。
 唇が離れる度に、男は持っていたグラスを煽って…こちらの口腔に流し込んでくる。
 酔いしれてしまうくらいに、極上の味わいの酒をこんな風に酌をされながら
飲まされてしまうと…次第に何もかもがどうでも良くなってしまった。
 
「はっ…ん…ほんっと、信じられない奴…」
 
 完全に、相手のペースに流されてしまっている。
 その事実が少し癪だったので…そんな憎まれ口を叩いてみせるが、相手は
まったく意に介した気配はなかった。
 
「そんなの…判りきった事だろう?」
 
 男は傲然と微笑みながら、グイと自分の方にこちらの腰を引き寄せていく。
 瞬く間に、淫らな指先がこちらの身体を辿り始めていった。
 自然とベッドの端に座っている相手の上に乗り上げるような体制になっていった。
背中から臀部の掛けてのラインを更に丹念に擦り上げていく。
 いつもの彼ならば、こちらの弱い場所…性感帯ばかりを責めてくるのに、今夜に
限っては背中から腰に掛けてを念入りに擦られているので少々、勝手が違っていた。
 
「んっ…はぁ…」
 
 相手から啄ばむようなキスを幾度となく受けていくと…克哉の唇から、
悩ましげな声が漏れていく。キスをされて、撫ぜられているだけなのに早くも
身体のあちこちの部位が眼鏡を求めて反応し始めていくのを…否でも自覚していった。
 尻肉をスーツのズボン生地の上から揉みしだかれて、妖しく蕾が蠢いていく。
 
―そんな刺激じゃ、足りない。
 
 無意識の内にそんな衝動に突き動かされて、ギュっと克哉の方から相手の
身体にしがみついていった。すでに上質の酒で酔いしれたおかげなのか…先程まで
少しはあった抵抗感がいつの間にか霧散していく。
 相手が欲しい、とその事実を認めて…克哉は自分の方から積極的に
相手の唇を求めていった。
 
 クチュ…ピチュ…チュク…チュル…
 
 こちらが舌を蠢かす度に、淫靡な水音が頭の中で響き続けていった。
 そんな音すらも今は感じてしまって…堪らなくなっていった。
 
「…どうした? 今夜は積極的じゃないか…?」
 
「…そうだね。お前の気持ちが…嬉しかったから、ね…」
 
 多少強引ではあったけれど、落ち込んで帰って来た日に家に明かりが
灯っていて…暖かくて美味しい夕食が用意されている。
 それはもしかしたら、家庭を持っている人間には当たり前の光景なのかも
知れない。けれど…大学時代から長年、一人暮らしを続けていた克哉にとっては
半ば忘れかけていた喜びで、だからこそ嬉しく感じたのだ。
 
「ご飯、美味しかったし…凄く、嬉しかったから…」
 
「だから俺に、こういう形で対価を払おう…と思っているのか…?」
 
「っ…どうだって、良いだろ…! そんな事…!」
 
 瞬く間に顔を真っ赤に染め上げていく所から察するに、今の眼鏡の言葉は
図星だったらしかった。だがそんなもう一人の自分の様子を見て、男はククっと
喉の奥で笑いを噛み殺していった。
 
 
「そうだな…とりあえず理由や動機など、確かにどうでも良いな…。この時間を
たっぷりと堪能出来るかの方が…重要だ…」
 
「あっ…」
 
 相手の手が、こちらの下肢をゆっくりと弄り始める。フロントの部分を探られて、
あっという間にジッパーを引き下げられていくと…早くも熱を帯びて硬くなっている
性器が引きずり出されていった。
 
「お前のコレは…本当に正直だな。俺にもっと気持ち良くして欲しいって…強請って
いるみたいに小刻みに震えているぞ…」
 
「だ、から…口に出して、説明するなよ…! 本気で、恥ずかしいんだから…!」
 
「…断る。どうせ俺に食われるなら、腕の中でトコトン恥ずかしさに悶えて感じていろ。
その方が俺も存分に愉しめるからな…」
 
「うっ…わっ…! お前、本当に意地が、悪い…んはっ…!」
 
 そうしている間に、相手の手はドンドンとこちらの衣類を剥き始めた。このままだ
と自分だけが裸にされてしまうかも知れない…と焦った克哉は、慌てて相手の
衣類も脱がしに掛かっていった。
 
「こらっ…お前も、ちゃんと服…脱げよ! オレばかり毎回脱がされるのは…
本当にフェアじゃないし…!」
 
 文句を言いながら、やや性急な動作で眼鏡のスーツの上着とYシャツを
脱がしに掛かる。均整の取れた薄い筋肉に覆われた胸板が露になる。
自分と同じ造りをしていると判っていても、見惚れてしまうのは少し不思議だった。
 
(うっ…わっ…! こうやって正面で向かい合って、電気が点いている中で…
抱かれるのってかなり恥ずかしいかも…!)
 
 顔を真っ赤にしながら、男が自分のスーツズボンを下着ごと引き下ろして
いくのを自ら手伝いながら…現状に気づいていく。
 相手の腹部周辺に、勃起した自分のペニスが突きつけられる形になっていた。
眼鏡の太股の部分に乗り上げて、ヌルっと滑った液体を其処に塗りつけられて
いくと…一層、身体全体の体温が上がっていく気がした。
 
「んっ…ふっ…」
 
 眼鏡の指先が、粘ったジェルのような液を纏いながらこちらの内部に侵入
し始めていく。其れに的確に内部をくじられていけば…甘い疼きが全身に
走り抜けていった。
 前立腺の部位を指の腹で丹念に弄られればもうダメだ。こちらの意思とは
関係なく、そこは淫らに蠢いてもっと確かな刺激を求め始めていく。
 
「イイ声だな…お前の啼き声は、聞いていてこちらも存分に…愉しめる…」
 
 そうして、男の目が真正面からこちらの双眸を覗き込んでいく。
 蒼く澄んだ双眸がこちらを射抜くように見据えてくる。
 欲情に濡れてギラギラとした、獣の瞳。それが視線でも克哉を犯すように
鮮烈に見つめ続けていく。
 
「あっ…ぁ…」
 
 その眼差しにすらも感じてしまって、甘い声が知らずに漏れてしまう。
 そうしている間に…腰をいつの間にか両手で掴まれて相手に誘導されるままに…
眼鏡の剛直の上に腰を落とす形となった。
 
「はぁ…んんっ…!」
 
 ビリビリビリ、と強烈な電流に晒されたみたいだ。もう…その快楽に
抗えなくなる。
 挿れただけでこれだ。…更に腰を突き動かされて、厭らしく腰を使われて
いったらどんな結果になるのか…半ば恐怖を覚えながら、その身体を
ゆすり上げられていった。
 
「んんっ…やっ…あんまり、激しく…する、なよ…」
 
 自分の固く張り詰めたペニスを片手で弄られながら、克哉があえかな
息を漏らしていく。
 だが男は容赦などしない。一層こちらを追い詰めていくように…腰を乱暴に
使ってこちらの内部を抉り続けていった。
 
「…嘘を言うな。お前の本心は…もっと、じゃないのか…?」
 
「そんな、事…な、い…んんっ…!」
 
 理性では、確かに恐怖を覚えて否と言っているかも知れないが…身体は
本能的にもっと強い感覚を求めていた。だから嘘つきな唇を強引に
塞がれていく。
 忙しない呼吸を繰り返して、涙をうっすらと浮かべていく。
 だが…男は一切の手加減などしてくれない。克哉がもっとおかしくなるように…
一層深くペニスを根元まで突き入れて、快感を引きずり出していくだけだ。
 
「ふっ…やっ…! やだ…そんなに、其処を突かれたら…オレっ…!」
 
 ベッドシーツをきつく掴みながら懇願するが、決して聞き遂げられる事はない。
 円を描くように腰を使われて、荒々しく内部を掻き回されていく。その度に理性に
ひびが入り…終いには、快楽を追い求めること以外考えられなくなった。
 
「…セックスは最大のリフレッシュ効果があるって…良く言われるしな…。
お前の中の憂いが全て晴れるくらいに…ただ、俺だけを今は、感じろ…!」
 
「あぁ…!」
 
 ギュウ、と相手の背中に強くしがみ付いていきながら…強烈な快楽の波が
押し寄せてきているのを感じた。克哉のペニスの先端が、相手の指を
グチョグチョに濡らしながら大量の先走りを滲ませてヒクヒクと震えている。
 
「ん、あっ…もっと、『俺』…」
 
 夢中で、こちらからも唇を求めていく。
 すでに相手を貪ることしか考えられなくなって、自分の中が彼の熱さ
だけで満たされる。
 裸の胸板同士がぶつかりあい、荒く激しい鼓動を伝え合っていた。
 もっと近くに、相手が欲しくて仕方がなくなっている。
 だから珍しく素直に求めていくと、相手も満足そうな笑みを刻んでいった。
 
「あぁ…俺で、お前の中を…満たして、やるよ…」
 
 熱っぽく掠れた声音で眼鏡がそう告げると同時に、最奥を壊すかのような
勢いで熱いペニスが穿たれていった。
 
「ひぁぁぁっ…!」
 
 克哉が耐え切れずに高く啼くのと同時に…堰を切ったように熱い精液が
その内部で解放されて勢い良く注ぎ込まれていく。
 ビクンビクン…と自分と相手の身体が、快楽の余韻で大きく震えているのを
感じながら…克哉は、相手の方からもしっかりとこちらを抱き締めてくれて
いるのを感じた。
 
(あったかい…)
 
 その温もりを心地よく思いながら…克哉は、スウっと安らかに意識を遠ざけていった―
  

※この話は以前に高速シャングリラ様が発行した
「克克アンソロジー1」に寄贈した作品です。
一定期間をすでに経ているのでサイトで再掲載を
させて頂きました。
 この点をご了承の上でお読み下さいませ。 

 慰撫(いぶ) 


もう一人の自分があれだけ自信たっぷりに言い切っていただけあって…
用意された夕食は大変に美味であった。
 炊き立てのホカホカと湯気を立てているご飯、ワカメと大根の味噌汁。
湯豆腐をメインにして…ほうれん草の胡麻和えに、鰹の刺身。そして豚肉と
タマネギの炒め物と…オーソドックスな和食ながら栄養バランスが
考えられた品々だった。
 
「…すっごく、美味しかった。ご馳走様…」
 
 殆ど会話もなく向き合って食事を取っていたが…満足げにそう呟きながら
克哉は箸を置いていった。
 
「…気に入ったようだな」
 
「うん、とても…。正直、お前がこんなにご飯作るの上手いだなんて…
想像もしていなかったよ」
 
「…お前、俺を誰だと思っている? これくらいなら…朝飯前の事だ。ま…
少しは気分が浮上したみたいだな。さっきよりも顔が穏やかになっている…」
 
「ん、そうだね。やはりお腹がいっぱいになったからかな…? 本当に
ご馳走様、『俺』…後片付けはせめてオレがやるな…」
 
「そうだな、片付けくらいはお前の方でやって貰おうか…」
 
 事実、空腹な状態だと人間はネガティブな方向に傾きやすいものである。
満腹感に浸るだけでも随分と緩和されるものであった。
 一旦食卓から立ち上がっていくと…克哉は食器の類を片付け始める。
 もう一人の自分も床から立っていくと…棚の方を探り始めていった。
バタン、と冷蔵庫を何度か開閉したような音と…カラン、と何か硬いもの
同士がぶつかりあう澄んだ金属音みたいなのが微かに耳に聞こえていった。
一瞬…何をしているんだろうと不思議に思ったが、それ以上は
追求しないようにした。
 
 カチャカチャカチャ…。
 
 食器同士が擦れ合う音と、水音だけが室内に響き渡っていく。
 他愛無い一時。こんな風に互いに背中を向けながら…台所に立って
何かをやるなんて…本当に奇妙な感じだ。
 
(これじゃ…まるで、新婚みたい…って、何を考えているんだ…オレはっ…!)
 
 自分の考えについ真っ赤になってしまって、うっかりと皿をすべり
落としそうになってしまう。
 
「わわっ…わわわわっ…!
 
慌てて受け止めて寸での処で落下は回避出来たが、相手には思いっきり
不審そうな眼差しで見つめられていく。
 
「…お前、一体何をやっているんだ…?」
 
「いや、皿を落としそうになって…」
 
「…お前は本当にドン臭いな。それしきの作業で何で手元を狂わせるんだ…?」
 
(つい、変な事を考えてしまったからだよ…)
 
 と心の中で呟いたが、賢明にも彼はその言葉を飲み込むことにした。
 本日はたまたま親切な態度を取っているが…基本的にもう一人の自分は
意地悪で、人の揚げ足を取るのが大好きそうな男なのである。
 迂闊な事を口にしたら絶対にそれをネタにからかってくるに違いない。
 そんな確信があったからこそ…克哉は余計な事を言わないことにした。
 
「…お前がいるから、妙に緊張してしまったからだよ…。何か、一人暮らしが
長かったから…こんな風に誰かと後片付けをするなんて、ずっと無かったし…」
 
 代わりに別の理由を打ち立てながら、洗ったばかりの食器を…流水に晒して、
泡を丁寧に落とし始めていく。
 妙に…もう一人の自分を意識してしまっている自分がいた。
 
 ドキン、ドキン…ドキン、ドキン…。
 
 心臓の音が微かに、早くなり始める。そんな自分が信じられなくて…
キュッと唇を噛み締めていくと…。
 
「えっ…?」
 
 フイに、背中全体が暖かく包み込まれていく。最初は何が起こったのか
把握が出来なかった。だが…自分の胸元に相手の腕を回されて、ギュっと
強めに抱き締められていくと…ガラに無く身体が強張っていく想いがした。
 
「えっ…な、何…? 『俺』…?」
 
 声が上ずって、つい狼狽してしまう。何が起こったのかまったく把握出来ないで
いると…突然、首筋に鋭い痛みが走っていった。
 
「痛っ…一体、何を…?」
 
 相手にどうやら、首筋に吸い付かれたらしい。その現実を把握していくと…
克哉はぎょっとなって背後の相手の方へと向き直っていった。
 
「別に…? 少し気まぐれを起こしただけだが…?」
 
 だが男は平然と言い返しながら、こちらの首筋をペロリと舐め上げていった。
 
「っ…!」
 
 克哉は咄嗟に声を抑えていく。だが…身体が大きく震えてしまうのだけは
どうしても止められなかった。一瞬だけ男の指が怪しくこちらの胸元を探って、
突起を服越しに刺激していくと…ピクン、と克哉の肩は大きく震えていった。
 
(もしかして…また、今夜も…?)
 
 以前にもう一人の自分と邂逅した時は、彼に良いように犯されまくった。
 もしかしたら今夜も同じ結果になるかも知れない…そんな考えが過ぎって、
身体を硬くしていくと…ふいに抱擁は解かれて、克哉は解放されていった。
 
「…えっ…?」
 
 またもや信じられない想いで、つい驚きの声を漏らしてしまう。振り返ると…
男はこちらに背を向けたまま、寝室の方へと向かい始めていった。
 
「終わったら来い…お前に一杯、振る舞ってやるよ…」
 
 傲然とそう言い放ちながら、彼はあっさりと…部屋の奥に消えていく。
 あっさりと腕の中から解放された事に克哉は呆然となりながら…ボっと火が
点きそうな勢いで顔を真っ赤に染めていった。
 
「…まったく、あいつ…何だって言うんだよ…! こちらをからかって…
遊んでいるのか…?」
 
 悔しそうに呟きながら、克哉は一先ず洗い物を終えようと手を動かし続けていた。
 その間…彼は、耳まで深い朱に染め続けていた―
  
 ※現在、体調だの別ジャンルの原稿等でぶっちゃけ
新しいの書き下ろす余裕ありません。
 という訳でとりあえず以前にアンソロジーに寄贈して
すでに一定期間を経てサイトに掲載許可を得ている
作品を掲載させて頂きます。
高速シャングリラ様が主催した 『克克アンソロジー1』に
寄贈させてもらった作品です。
 すでに手に入れて読んだことがある方は
本当に申し訳ございません。
 

『慰撫 -イブ-』
 
                         
―はあ
 
 深い溜息を突きながら、佐伯克哉は今夜も帰路についていた。
 トボトボトボ…と実に覇気のない重い足取りで、自分のアパートへ続く
道のりを歩いて向かっていく。
 今夜の克哉の気分は最悪だった。
 本多と協力して、バイアーズとの契約も正式に結んで…プロトファイバーの
売り上げ目標も無事に達成してから早半年。
 季節はいつの間にか初夏を迎え、木々も青々しく繁るようになっていた。
 だがどれだけ生命力に満ち溢れた光景も、今の克哉には何の感慨も与えない。
 彼の胸の中には本日、自分がやってしまった失態の事だけで大部分を
占められてしまっていた。
 
(いつまでも落ち込んでいても仕方がないって判っているんだけどな…)
 
 以前なら、本日やったレベルの失敗など日常茶飯事の事だった。
だが現在は社内での八課の評判も上がり、克哉自身も以前と違って自信が
かなりついてきた頃だ。自信がついてからの失敗、というのは時に大きな影響を
与えるものだ。
 
(本多か…片桐さん辺りにでも、話を聞いて貰えれば良かったんだろうけどな…)
 
しかしこういう日ほど間が悪いもので、克哉一人だけキクチ本社から遠い会社に
営業で向かい、そのまま直帰するというスケジュールだったので到底二人と
会えそうになかった。
それに現在、八課全体の評価が上がってきたおかげで…彼らも自分の仕事で
多忙を極めている事が多くなっているのだ。
たかが自分が落ち込んでいるせいで…そんな彼らを終業後に呼び出してまで、
こちらの愚痴を聞いて貰うなどと言った図々しい事を出来る訳がなかった。
 
「こんな日は…自宅で一人酒でもするかな…」
 
 週末の夜に、そんな真似をするなんて侘しすぎると自分でも思うが…克哉は
元来、人見知りが激しい性分だった。
 知らない人間に囲まれた空間で、一人きりで飲んで楽しむ事など到底出来ない。
 それなら自分が安心できる場所でゆったりと酒を嗜んだ方が気持ちは
静まりそうであった。だが…それも少しだけ寂しいと思う気持ちもあるのも本当で…。
 
「…何か、今夜はおかしいな。何でこんなに、人恋しくなってしまっているんだろ…」
 
 そんな自分に苦笑していきながら、アパートの前へと辿り着いていった。
 だがその瞬間、違和感を覚えた。
 最初は見間違いだと思ったが…少し冷静になってから、ゆっくりと部屋の
窓の数を数えて確認していくと…間違いないようだった。
 
「…どうして、オレの部屋の明かりが点いているんだ…?」
 
 家族と同居していたり…誰かと同棲している身分なら、帰宅時に部屋に
明かりが灯っていても何も不思議ではない。
 だが自分は正真正銘、一人暮らしである。
 そして彼は光熱費の節約の為、朝出る時は余程遅刻スレスレの時以外は…
家を出る前に電気を消したか必ず確認するように心がけている。
 自分は今朝、間違いなく電灯の類は消して行った筈だ。それなのに…
煌々と部屋の電気が点けられているのは不可解な事、この上なかった。
 
(合鍵を持っているのなんて…管理人さんくらいしかいない筈だし。確かに
二階のベランダから出入りは出来なくはないけど…どうして、だろう…?)
 
 それに自分にはあまり親しい友人、知人の類はいない。
 栃木に住んでいる両親たちも、連絡もなしに勝手に自分の家に上がりこむ
ような真似をする人達ではなかった。
 
―じゃあ、今…自分の部屋にいるのは一体誰だろう…?
 
 幾ら考えても、そんな行為をしでかしそうな人物に心当たりはなかった。
 その分だけ…明かりが灯されている事実が余計に不気味に思えて仕方がなくて。
 もしかしたら空き巣の類だろうか…? そんな不穏な考えもチラリと頭を
過ぎっていったが…一先ず、様子を見てみる事にした。
 
(本当は警察に通報か何かをした方が良いかも知れないけれど…現時点では、
単なるオレの電気の付け忘れかどうか判別つかないしな…)
 
 深く溜息を突きながら、一旦様子を伺おうという結論に達し…ゆっくりと
アパートの階段を昇っていく。そうして部屋の前に辿り付くと…自室の前に
立っているというのに、いつになく緊張してしまった。
 ドアノブに手を掛けると、やはり鍵は掛かっていない。尚更不可解だった。
 電灯の消し忘れだけならともかく…同じ日に、鍵の掛け忘れまでやるなど…
朝が余程遅刻寸前の時以外にやる事とは思えない。
 どうしようか…と迷いながら部屋の中に入っていくと。
 
「…やっと帰ったか。飯の準備は出来ているぞ…」
 
 と、鍋掴みを両手に装備しながら…大きな土鍋を持っている自分と
同じ顔をした人物にいきなり遭遇していった。
 
「はあ?」
 
 予想外の光景に、一瞬克哉は呆けて硬直していく。
 一体これは何だというのだろうか?
 何故、前触れもなくもう一人の自分が其処にいて…キッチンに立って
食事の支度などしているのだろうか?あまりに異常な場面に突然
出くわした為に…克哉はリアクションすらまともに出来なくなってしまっていた。
 
「…何をボーと突っ立っている。わざわざ俺が…お前の為に夕飯の支度を
している事がそんなに驚く事か?」
 
「お、驚くに決まっているだろ! 何でいきなり…人の部屋に上がり込んでいるんだよっ!」
 
 しかももう一人の自分はキチンと緑のエプロンを着用していた。
 たまに自炊をする時に克哉自身が愛用している品だ。それを身に纏いながら…
『俺』がこちらを出迎えてくれるなど考えた事もなかったので克哉はびびりまくっていた。
 
「…お前が落ち込んでいる気配を感じてな。それで元気付けてやろうと…一時間
ほど前からこうしてやって来て夕飯の準備までしてやったというのに…大した
言い草だな『オレ』」
 
「えっ…? そ、そうなの…?」
 
 思ってもいなかった返答をされて、克哉は驚きを隠せなかった。
 
「あぁ…俺はそれなりに親切な性分だからな。とりあえず…今夜は湯豆腐を
メインに、簡単にだが飯を作っておいた。そこにボーっと突っ立っていないで
そろそろ上がったらどうだ? せっかくの夕飯が冷めるぞ」
 
「あ、ああ…判った。今…上がるよ」
 
 この部屋の本来の住居人は克哉である筈なのだが、もう一人の自分が
あまりに堂々としているので知らぬ間に仕切られてしまっていた。
 夕食を用意してあった…という言葉に嘘はないようで、部屋に上がった瞬間…
プーンと良い香りが鼻腔を擽っていった。
 匂いを嗅いだ途端、現金なもので…さっきまでは落ち込んでいて空腹など
感じる余裕もなかったのが嘘のように腹の虫が鳴り始める。
 
グゥゥゥ…。
 
 はっきりと相手に聞こえるぐらいに大きな音で、腹が鳴っていくと…
恥ずかしさの余りに死にたくなった。
 
「わわっ…」
 
「…本当にお前の身体は正直だな。しっかりとその音…聞こえたぞ?」
 
 ククッと喉の奥で笑いを噛み殺しながら、眼鏡が呟いていく。
 それだけで克哉は居たたまれない気分になってしまった。
 
「まあ、俺が作った夕食を堪能するんだな。…それなりにお前の舌を
満足させる出来栄えだろうからな…」
 
「う、ん…楽しみにしている…」
 
 不安半分、期待半分と言った感じで克哉は頷いて見せた。もう一人の
自分の手料理を食べるなど初めての経験だから…少々、怖い部分が
あるけれど…同時にどれくらいの腕前であるのか興味が湧くのも事実だったからだ。
 
「あぁ、期待していろ。きっとお前も気に入るぞ…」
 
 そうして…自信満々に男は微笑んで見せる。何故か克哉は…一瞬だけ、
その表情に見惚れてしまったのだった―
 
 本日は一回休みです!!!

 …と、開き直り気味に言ってみる。
 本日はおなごの日、初日で半分死んでいました(汗)
 久しぶりにこれで会社早退しましたよ…(トホホン)

 会社、早く切り上げた状態で無理をする訳には
イカンので本日は早めに寝ます。
 とりあえず明日の朝早く起きるか、出勤中に一本を
書き上げることが出来たら明日…朝か夜に更新を
させて頂きますね。

 ちなみに最近の近況。
 香坂の職場…水産加工物を扱っている工場なんですが
最近ボチボチ、包丁を握る機会が多くなって来ました。
 職場でメロやサバを規定の重量内にカットしたり、イカの身を
7~9グラムの範囲の重要になるように薄く綺麗にカットしたり
そういう職人芸みたいなことを練習させられております。
 ジ~と見つめられながら、緊張して手が震えそうになりながら
魚を切っておりますよ…(汗)

 後、気風の良いオバサマばかりの職場なので、大変きつい口調で
最近ポンポンと怒られ、説教されています。
 覚えなきゃいけない事ばかりで大変ですが、とりあえずそちらも
頑張って覚えて、少しでも先輩のオバサマ方に追いつけるように
頑張ります!(ムン)
 
 それではおやすみなさいませ~。

 
 2009年度 御堂誕生日祝い小説
(Mr.Rから渡された謎の鍵を使う空間に眼鏡と御堂の二人が
迷い込む話です。ちょっとファンタジーっぽい描写が出て来ます)

  魔法の鍵  
  

-あんな男の事などやはり信用するんじゃなかった
 
 佐伯克哉は目覚めた瞬間、謎の空間にいつの間にか移動させられている
現実を把握すると同時に心底そう感じていった。
 どうやらどこかの城の回廊か何かのようだ。
 異様に長く広い廊下には無数の扉と、鍵穴がズラリと並べられている。
 扉の数は優に50は超えていて、こうしてみているだけで圧巻ものだった。
 
「ちっ…一体、ここは何処なんだ…! …っ! 孝典、しっかりしろ…!」
 
 霞掛かった頭で、ぼんやりと周囲を見回していくと…自分のすぐ傍らには
御堂が倒れて意識を失っているようだった。
 慌てて駆け寄り、抱き起こしていくと…克哉の腕の中で小さく呻き声を
漏らしていく。
 
「…良かった、外傷等はないようだな…」
 
 その事実に心からの安堵を覚えていく。
 周囲は薄暗く、壁の高い所には蜀台が取り付けられていて…蝋燭の炎が
怪しく揺れている。
 本当に古い時代の貴族か…王族達が住む城、そういった雰囲気が漂う場所だった。
 
(あいつは一体…俺達をどこに連れて来たんだ…? まったく見覚えが
ない場所だぞ…?)
 
 あの男が絡むと超常現象や、有り得ないことが起こるのが最早当然になる
訳だが…意識を失う前までは自分たちは間違いなくオフィスにいた筈だ。
 果たしてどのような手段を用いて自分たちをここまで運んだのか疑問は
残るところだが、あの男に関することは深く考えないようにすることが精神衛生上
宜しい…とすぐに気持ちを切り替えて、克哉は現状の把握の方に重点を置いていった。
 無数の鍵穴と、扉…これはあの男から先日渡された鍵で恐らく開くものだろう。
 何が現れるか、出てくるか判らないという点では…確かにサプライズ感や
ドキドキは存在している。
 
(さて…鍵を使って開けてみたら…魑魅魍魎(ちみもうりょう)か…鬼か蛇が
出るかといった所だな…。さて、これからどうするか…)
 
 御堂の身体を軽く抱き上げていきながら周囲に目を凝らしていくと…
腕の中の恋人は小さく呻き声を漏らしていく。
 
「ん…ここは、一体…どこだ? 私はどうして…?」
 
 御堂もまた、現状の把握がイマイチ出来ていないようだった。
 しかし…本当の事を言って良いものか克哉は悩んでいく。
 Mr.Rに関係する事や、現状を説明したとしても相手に信用してもらうのは
かなり難しいことだろう。
 しかもここでこの後、どれだけ非常識なことが起こるのか予想もつかない。
 だから克哉は先手必勝とばかり…先にこう言っておいた。
 
「…御堂、どうやらここは夢の中らしい。そして俺達は…今夜に限っては偶然、
同じ夢を見て共有している。だから…どんな事が起こっても、夢の中だから
不思議はないとでも思っていてくれ…」
 
 そう、夢の中…これほど都合の良い、言い訳は存在しないだろう。
 漫画や小説、ドラマや映画の世界でもオチでこれが使われた作品は
無数に存在している。
 都合の悪いことや辻褄の合わないことだってこの一言が前置きにあれば
必要以上に突っ込まれないで済む一言を真っ先に克哉は言い放っていった。
 
「夢…? そうか、そうだよな…。さっきまで私は君と確かにオフィスで
一緒に働いていた筈だからな。どのような手段を用いろうとも…簡単に
大の男二人をこんな場所まで運ぶのは難しい。…納得いかない部分もあるが、
君のいう通り…知らない間に眠りに落ちて…夢を見ているというのが
確かにしっくりは来るな…」
 
 御堂の方も全てを鵜呑みにするのは納得がいかなそうだったが…とりあえず
半信半疑で克哉の言葉を受け入れていく。
 そうして腕の中から抜け出て、御堂がヨロヨロと身体を起こしていくと…
周囲を確認するように見回していく。
 
「…何でこんなに、無数の鍵穴が存在しているんだ…?」
 
「…どうやら沢山の部屋が用意されているらしい。一応…この鍵で5個まで、
扉を開くことが出来るらしいがな…」
 
 そういって克哉は先日、黒衣の男から渡された鍵を見せていく。
 御堂はそれを興味深そうに見つめていった。
 
「…五個まで、とそう制限があるのか…? なら、どちらかが二個、もう一方が
三個…選んで鍵を開けていくのが妥当なのか…? おや…?」
 
 相手から鍵を見せられた直後、突然…御堂の上着のポケットに何かが
入って来た感触がした。
 違和感を覚えて手を差し入れて確認していくと…其処には小さく折りたたまれた
手紙と、克哉が今持っているのと同じ鍵が入っていた。
 
『お誕生日おめでとうございます。貴方にとって今宵が楽しい一夜と
なりますように…心から祈らせて頂きます。   
                             当館の主 Mr.Rより』
 
 そう記されていた一文を読むと…御堂は怪訝そうに眉をひそめていった。
 
「何だこの手紙は…いつの間に入れられていたんだ…?」
 
「…御堂、だから言っただろう。これは夢の中だと…多少不可解なことでも
そう割り切ってしまえば大丈夫だ…」
 
 克哉は基本的に極めて現実主義者で、日頃ならば夢だ何だ言うようなことは
決してないが…Mr.Rが関わっている時のみ、非現実な事は当然と割り切るように
いつのまにか思考回路が出来上がっていた。
 もう招かれてしまったのならば仕方ない。
 開き直って現状をそれなりに楽しんでいくしかないと想い…もう一度、
そう説明していく。
 
「…うむ、納得はいかないがな。まあ…とりあえず試しにこの扉でも
開いてみるか…?」
 
 無数に並んでいる扉はどれも同じデザインをしていて外見上では
区別がつかない。
 だが、御堂は…一本だけ頭上の蝋燭が消えかけている、それが目印に
なるであろう部屋を選んで鍵穴に鍵を差し込んでいった。
 
「…開いたな、さて…中を確認してみるか…」
 
 その部屋は薄暗く、軽く覗き込んだだけでは様子が判らなかった。
 闇に目が慣れる頃までジっと見つめていくと…すぐに顔色が変わり、
扉を勢い良く閉めていく。
 
 バタン!!
 
 御堂に習って、自分もどの扉を試しに空けてみようか迷っていた克哉は
慌てて音がした方を振り返って声を掛けていった。
 
「御堂、どうした…? 大丈夫か…!」
 
 血相を変えて克哉が問いかけていくと、御堂は蒼白になりながら…
それでも気丈そうな様子を取り繕って返答していった。
 
「だ、大丈夫だ…予想外のものを突然目の当たりにしてびっくりしただけだ…。
とりあえずお互いに鍵の使用限度まで扉を開けて、どんな部屋があるのか
確認していこう…」
 
 そうして御堂が無理に微笑みながら答えるのを見て、胸騒ぎを覚えたが…
彼がこういう表情を浮かべている時はこちらにそれ以上、問いただされたくない
事だというぐらいはすでに判っている。
 
(これは…今は無理に聞かない方が良さそうだな…)
 
 そう判断し、克哉もまた何でもないような顔をして返答していった。
 
「判った…それなら、お互いに鍵を使って部屋の中身を確認していこう…」
 
 そう頷き、克哉は五つの扉を物色しながら…開いていくことにした。
 御堂が最初に辿り着いた部屋が一体何を暗示していたのか…まだ、この時点では
知る由もなく…この奇妙な回廊をゆっくりと探り始めていったのだった―
 
 
 

 10月20日は普段お世話になっている某Hさんの
誕生日な為に贈呈品をアップさせて頂きます。
 といっても長くなったので間に合わず、前編だけの
掲載になりますけど…(汗)

 この間会った時にこういう話を読みたいってリクエスト
されたのでそれを実際に書きました。
 完成させきれなくてすみません(あうあう)


 寄せ鍋☆パニック
 
 ―本多君、良かったら僕の家で鍋大会をしませんか?
 
 ある秋の夕暮れ、本多憲二は上司の片桐にそう誘いかけられて自宅に
お邪魔をする事になった。
 仕事帰りにスーパーに一緒に立ち寄って鍋用の具材をお互いに意見を言い合い
ながら色々と購入した。
 人の好みというのは本当に様々である。
 片桐は魚介類や野菜、白滝やダシ用の昆布などあっさりめの物や、鍋の基本と
なる品を買い物カゴに入れていくのに対して…本多は鶏肉や牛肉、豚肉など…
焼き肉やすき焼きをやるのではないか、と疑うぐらいにどっさりと買い込もうとしていた。
 その辺までは温厚な片桐も黙って見守っていたがスパイスコーナーでカレー粉や
ガラムマサラ、ターメリックの類まで入れようとした際には流石に片桐も止めに入った。
 放っておいたら寄せ鍋が、カレー鍋に変えられる危険性がある辺り…流石は
カレーバカの本多であった。
 荷物の大半は本多が持つ事にして、片桐の歩調に合わせて電車を乗り継いで
目的地まで二人で歩いて向かっていく。
 簡素で静かな住宅街の中に片桐の自宅はひっそりと建っていた。
 
「へえ、ここが片桐さん家っすか…結構広いですね」
 
「はい…そうですよ。けど、僕一人で住むには広すぎる家ですけどね…。
だから今夜、本田君や佐伯君が来てくれる事になって…本当に嬉しいですよ」
 
「いえいえ、こちらこそ…今夜は誘い掛けてくれて嬉しかったっすよ。俺も
一人暮らししているから…何となく寂しさとかそういうのは判るつもりですし。
だからその分、今夜はパーといきましょう!」
 
「はい、そうですね…。腕に寄りを掛けて美味しい鍋を作らせて頂きますよ」
 
 片桐はにっこりと微笑みながらそう言うと、二人で連れ立って家の扉を
潜っていった。
 こじんまりした一軒家の中は綺麗に整理整頓されて片づけられていて、
上司の性格が良く滲み出ていた。
 台所の方に買い物袋を置いていくと和室の方に通され、本多は其処で…
片桐に飼われている二匹のオカメインコと対面する事になった。
 部屋の隅の方に二匹の鳥かごは置かれていて、かご越しに向き合っていく。
 ご主人様以外の人間を久しぶりに見かけて、二匹はちょっと興奮しているらしく…
盛大に鳴いていた。
 
「お~こいつらがたまに片桐さんの言っていた天文丸と静ちゃんか…
なかなか可愛い奴らだな」 
 
「ピチュチュ…チュ…」
 
「チュチュチュ…!」
 
「ん、こいつの方は何か怒っているっぽいけど…おい、お前…何
不機嫌そうになっているんだ?」
 
 片桐は今、お茶とお茶菓子を用意してキッチンに残っている。その間…
本多は不機嫌そうなオカメインコ達に声を掛けていく。
 その様子は本多に鳥達が抗議して、こちらが必死にそれを宥めているような感じだ。
 そうしている間に用意が整えた片桐が、穏やかに微笑みながらお茶と
お茶菓子をお盆に乗せて、この部屋の方まで運んで来ていた。
 
「…あぁ、多分今…本多君が二匹の名前を間違えて呼んだからですよ。
この子達、自分の名前は違うって恐らく本多君に訴え掛けているんですよ。
えっとこっちのカゴの子がもんてん丸、こちらが静御前になります。
可愛がってやって下さいね」
 
「あ、そうなんすか。おう! お前等…悪かったな。悶々丸と静ゴレン…」
 
「本多君…もんてん丸と静御前です。ナシゴレンじゃなくて、静御前…源義経と
親しい仲だった白拍子の女性から名前を貰ったんですよ」
 
 自分の部下に、可愛いペット達の名前を立て続けに間違えられていても
片桐はニコニコと微笑みを絶やさなかった。 
 部屋の中には美味しそうな匂いが充満して、腹が盛大に鳴りそうだった。
 MGNに移籍した克哉にも声を掛けてあると聞かされて、本多は心を
湧き立たせていた。 
 
(久しぶりに克哉に会える…あいつ、MGNで元気にやっているかな…)
 
 本多の心は、かつて密かに片思いをしていた佐伯克哉に馳せられていった。
 といっても実際に行動に移したり、告白していた訳じゃない。
 ある時期から酷く蒼ざめた顔をしていたり…不安そうにしている克哉を
放っておく事が出来ず心配している内に、この気持ちはもしかしたら恋
なのではないか…と気づいてしまった。
 けど克哉は一環してこちらの事を「親友」としか見なしていなかった節があるし…
あまり空気が読める性分ではないが、本多もそれが判ってしまったから口に
出さずに秘めていたら…その内、御堂に見込まれて、MGNに移籍を決めて…
八課のオフィスから彼の姿は完全に見えなくなってしまっていた。
 
(本当に…克哉の奴がいなくなった頃は胸の中にぽっかりと大きな穴が
開いたような心境で…マジで毎日が辛かった。…それがいつの間にか
そんなに苦しくなくなったのって…やっぱり片桐さんの存在が大きいよなぁ…)
 
 克哉がいなくなって以来、片桐はこちらにさりげなく気遣いや…何気ない、
労わりの一言を掛け続けてくれた。
 八課の他の仲間たちも本多を励ましてくれていた。
 密かに想っていた克哉がオフィスからいなくなってしまった事…それは
本多にとって大きな痛手だったけれど、仲間がこちらを大切にしてくれている
事に気づいて…その痛みをいつまでも引きずっているのは失礼だと思った。
 だから本多は…今は振り切っている。
 克哉のことは言えずにウジウジしていた、行動に移せなかった自分が
悪かったのだし…親会社に抜擢されて出世コースを歩み始めている友人を、
自分の我侭で引き止める訳にはいかない。
 現在の本多にはそれくらいの割り切りは出来るようになっていた。
 
「本多君…良かったらお茶菓子でもどうぞ。鍋の準備が仕上がるまでもう
少し掛かりますから…」
 
「あ、わざわざありがとうございます! それじゃあ…頂きます!」
 
 どれだけ親しくなってきていると言っても、やはり上司と部下の一線だけは
崩せず…どうしても敬語になってしまう。
 そうして本多は片桐と一緒にお茶とお茶菓子を摘まんで一服し始めた。
 
「ん~やっぱり片桐さんの入れるお茶は絶品っすね。同じお茶っ葉を使って
いる筈なのに…どうして他の人の奴と味が違うんですかね?」
 
「…本多君、大げさですよ。僕はそんなにたいした事をしている訳じゃない
ですから…。前の日に汲み置きしてカルキを飛ばした水を使って、ちょっとだけ
温度に気を配っている。たったそれだけの事ですよ…」
 
 そうサラリと言うが、片桐が毎朝淹れてくれるお茶は味が落ちたりする事は
一度もなかった。
 毎日、美味しいお茶になるように気を配ってくれている…それを何でもない事の
ように言うがその気配りを毎日続けるのはかなり根気がいる事だった。
 その一言を聞いた本多は、内心で上司を尊敬していく。
 
(片桐さんのこういう処は本当に凄いよな…俺には真似出来ないもんな…)
 
 しみじみとそう呟きながら、暖かくて美味しいお茶を飲み進めていく。
 呼び鈴がその瞬間に鳴り響いて、来客の到着を伝えていった。
 
「あ、恐らく佐伯君ですね。本多君、ちょっと待ってて下さいね…」
 
「あ、イイっすよ。ここで待ってますから…」
 
 笑顔でそう上司を送っていくと、本多はお茶とお茶菓子に舌鼓を打って
幸せな一時を過ごしていく。
 こういう寛ぎの時間は、本当に気持ちがリラックス出来る。
 そう思った瞬間、全てが覆されていった。
 
「っ…!」
 
 廊下から複数の足跡が聞こえて、こちらの方に近づいてくる。
 それが二人ではなく三人の足跡であり、そして…もう一人、本多にとっては
歓迎したくない人物が混ざっていた事に気づくと、本多は目を剥いていった。
 だが、片桐と克哉の手前、どうにか声を押し殺していく。
 
(つか…何で御堂の奴がここに一緒に来ているんだよ! というかどうして
克哉はそんなに幸せそうな顔をしているんだよ~!)
 
 心の中でそんな叫びを挙げつつ、大波乱の寄せ鍋の会は…ゆっくりと
幕を開いていったのだった―
 
                      *
 
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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