忍者ブログ
鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 ※一日遅れですが、七夕の季節ネタSSです。
 2009年の7月7日は、月齢が満月だった事で
思いついたネタです。
 珍しく太一×克哉ですが(鬼畜眼鏡R本編経過後設定)
、この二人が一番マッチすると思ったのでチョイスしました。
 良ければ見てやって下さい。

 この作品を書く為に、以下のリンクページの内容を参考、一部引用
させて頂きました。
 予め、ここで伝えさせて頂きます。
 
「FLY ME TO THE MOON 歌詞訳」

 和訳の部分しか極力使わないようにして、構成してみました。
 結構、頑張りましたです。がお…。


―駆け落ちしてからこの三年間、がむしゃらに二人で働き続けていた

 そして七夕の夜、珍しく二人のオフ日は重なっていた。
 日本の東京を拠点にするようになってから早半年以上が気づけば
経過していた。
 
―克哉さん、一緒に月を見ようよ。満月の七夕なんて珍しいしね

 無邪気な声で、太一がそう克哉に提案した。
 だから克哉はそれに付き合って、ベランダに出て…二人で
満月を眺めていく。
  さっき、自宅に帰る途中…こっそりとミニチュアの七夕飾りセットを買って
二人で短冊に願いを書いていった。
 こんな風に穏やかな時間を過ごすのも随分と久しぶりの気がした。

 七月七日、夏の夜。
 今夜は風も随分と穏やかで過ごしやすい。
 目を瞑っているとさりげなく吹き抜ける夜風がとても心地よかった。
 ベランダに出て暫く…太一はさりげなく克哉の肩に腕を回して
引き寄せていた。
 お互いの肌が触れ合う場所から、温もりと鼓動が伝わってくる。
 …言葉を交わさなくても、こうして二人で寄り添っているだけで
幸せな気持ちが満ちていく。

(…何かここ暫くずっと忙しかったから、こんな風に太一と二人きりで
過ごすのは…随分と久しぶりだな…)

 太一の祖父、五十嵐寅一との一件があってから…太一は一皮剥けていた。
 それから日本で認められるように、ともかく二人で頑張り続けた。
 一緒のオフなの夜など、それこそ三か月ぶりぐらいかも知れない。
 仕事の合間に抱きあったり、気持ちを確認しあった夜は幾度もあったけど…
こういう穏やかな時間は、相当に久しぶりだった。
 黙ってこうして身を寄せ合っているだけで、幸せな気持ちがジィンと
滲んでいくようだった。
 そうしている間に、太一は…一つの曲を口ずさんでいた。

「あっ…」

 そのメロディは、克哉も良く知っていた。
「Fly Me To The moon」日本では某アニメの主題歌として知れ渡っている
一曲だが、元々はジャズの名曲だ。
 太一はしっとりとした声で、優しく歌っていく。
 それはまるで…とても優しい子守唄のように。
 思いがけず聞こえた太一の歌声に、克哉はうっとりとして聞き入っていく。
 あぁ、英語曲で歌う太一を見ると…アメリカで過ごしていた時代の事を
静かに思い出す。

(…太一が英語で歌うのを聞くの、随分と久しぶりだな…)

 自分はバーでバーテンダーを、そして太一はショットバーでもライブハウスでも
望まれれば何でも歌った。
 主宰しているバンドの曲だけでなく、客の心を掴む為に洋楽のリクエスト曲も
頻繁にギターで弾き語りしながら英語で歌っていた。
 ジャズでもソウルミュージックでもJーPOPでも、多岐に渡って太一は
懸命に歌い続けていた。
 その下積みの時代が、今の太一の確実に糧になっている。
 日本に戻って来てから多くの人間を惹きつけてファンを作ったのは…
長らく認められない時代でも、彼がずっと歌い続けていた…その基盤が
あったからだ。
  そうして、優しい目をしながら…太一は最後の「アイラブユー」の
フレーズを歌っていく。
 瞬間、胸がドキリと弾んだ。何となく相手が、この最後の部分を特に強調して
こちらに歌い聴かせているような…そんな気がしたからだ。

「…太一が自分のバンドの曲以外の英語曲を歌うの、久しぶりに聞いた…」

「…ん、これ何て馴染みのジャズバーで良く歌ったスタンダードナンバーだからね。
俺も久しぶりに歌った気がする…」

「うん、聞いてて凄くうっとりした。けど…どうして、この曲を歌ったの? 太一…」

「ん? あぁ…今夜って七夕だけど満月じゃん? だから…この曲しかないな~と
つくづく思った訳。俺から克哉さんに捧げるラブソングって事で…」

「えっ…えええっ?」

 いきなり、そんな事を言われて克哉は耳まで真っ赤に染まっていた。
 この三年間、行きつく処まで行っている上…散々セックスもしている。
 けれど突然、耳元でこんな事を囁かれたらやっぱり胸がときめいてしまう。

「…もう、克哉さんってば…イチイチ反応が可愛すぎ。けど…元々この曲って
和訳すると、結構可愛い歌詞になるの…克哉さん知っていた?」

「えっ…そうなの? 普通に…メロディが綺麗な曲だなって思って…歌詞の意味とか
深く考えないで聞いていたけど…」

「ん~俺ってやっぱり歌う奴じゃん。歌詞を覚えるとやっぱり意味とか知りたくなるんだよ。
それで向こうのジャズバーとかで歌っていた時、こっそりと歌詞の意味とか調べたんだけど
これって「私を月につれてって」って意味の曲なんだよ。私を月につれてって。
星々の間で歌わせて。火星や木星の春がどんな感じか、私に見せて。つまり…ねぇ、
手を繋いで、そして貴方、ねぇキスをして…」

「あっ…」

 そう、甘ったるい和訳の歌詞を口ずさんでいきながら、太一がそっと手を繋いで…
こちらの頬に口づけて来る。
 その優しいキスに、思わず肩を竦めてしまう。

「…ね? これって…優しく可愛いラブソングな訳。あまり難しい言い回しとかされていない
シンプルだけど、綺麗な歌詞っていうか。ロマンチックじゃない?」

「うん、そうだね…今まで歌詞の意味とか考えないで聴いていたけど…太一に
説明されたら、胸が甘酸っぱくなるようなラブソングだって理解出来たよ」

「でしょ? ならもう一回歌おうか?」

「えっ…?」

 そうして、克哉は強引に相手の腕の中に引き込まれていくと…今度は
低く掠れた、しっとりした声音で「FLY ME TO THE MOON」を囁かれた。
 先程が子守唄のような優しさならば、今度は本来の意味であるラブソングとして。
 酷く官能的な声音が、鼓膜を直接揺さぶって体温が、鼓動が上昇していく。

(う、わっ…耳元で歌われると、相当にキそう…!)

 克哉が耳まで真っ赤にしながら、その甘い攻撃に耐えていくと…太一は
「darling kiss me」の部分を、特に強調するように歌っていく。
 その瞬間、眩暈を感じた。太一の歌うラブソングに心を奪われていく。
 相手に視線を捕えられて、抗うことが出来なくなる。

「あっ…太一…」

「克哉、さん…」

 そして、満月の仄かな月明かりがそっと降り注ぐ夜。
 二人のシルエットは確かに重なっていった。
 啄むように、優しいキスを何度も繰り返し落とされる。
 まんまるの月の下、クスクスと笑いながら二人は何度も戯れのような
口づけを交わし続ける。

「…太一の、確信犯。絶対今、これを狙って…歌っただろ?」

「うん、たまにはこういうのも悪くないでしょ? 俺はいつだって…胸の中では
克哉さんに向かってラブソングを歌い続けているから…」

 そう呟いた太一の笑顔は凄く大人びていて…思わず鼓動が跳ねていった。

「…もう、本当に…太一って何をするのか予想がつかないよな。…おかげで
今でも振り回されているし、胸はドキドキするし…」

「けど、俺といると…絶対に飽きないでしょ? 克哉さん?」

 ニッコリと楽しげに微笑みながら、太一は問いかける。
 そんな風に言われると少しだけ反発したくなるが、嘘は言えない。
 少しためらった後、克哉は小さく頷いていく。

「…うん」

 顔を俯かせながら答えていくと、嬉しそうに太一は克哉の身体を
引き寄せていく。
 この温もりに、今だ慣れない。未だにドキドキする。
 腕の中に強く抱きしめられて、閉じ込められる。
 柔らかくて優しい目。
 それが月下で、静かにこちらに注がれていって…また小さく胸が跳ねる。

「…克哉さんと一緒なら、俺は月でも火星でも木星でも…どこまでも
行ける気がする。…本当、一緒に幽体離脱でも出来るっていうのなら…
二人で月までデートするのも悪くないんだけどな~」

「太一、それは幾らなんでも非現実過ぎるよ…」

「ん~良いじゃん。空想の世界なら、幾らでも非現実な事を考えたって。
これだって現実では有り得ないことを願っている歌詞だけど…だからこそ
優しくて、聞く人間の心をそっと和ませる訳だし。人間にとって…いつも現実の
枠に縛られ続けるよりも、空想の翼を羽ばたかせて綺麗な夢を見ることだって
必要だろ? 歌とか芸術とかって、その最たるものだし…」

「…うん、そうだね」

 その一言を太一が言うと説得力があった。
 彼の今の立場だって、彼本来の境遇を考えれば有り得ないものだった。
 なのに…太一はそれでも負けなかった。
 自分の夢を叶える為の努力は惜しまなかったし、他の人間だったら見果てぬ夢と
一笑するような大きな夢さえ、心の中に抱き続けて…それを徐々に実現させている。
 太一のそんな部分が、常識とか現実に雁字搦めになっていた克哉の人生を
解き放っていった。

「けど、俺…克哉さんとだったら、いつか月さえも一緒に行ける日が来れそうな…
そんな気がする。貴方とだったら…どんな夢も、必ず叶えられると思うから…」

 そう告げてきた太一の目は驚くぐらいに情熱的で、甘くて。
 克哉は嬉しそうに微笑みながら頷いていく。

「…うん、オレも…太一と一緒なら、不可能なんてないとさえ…思えるよ」

 そして、優しい月明かりの下。
 二人は静かに寄り添い…もう一度、唇を重ね合っていく。
 その幸福に身を委ねていきながら、克哉はさっき…短冊に書いたたった一つの
自分の願いをもう一度、胸の中に思い浮かべていった。

―これから先も、ずっと…太一と一緒にいられますように

 それが唯一の、克哉が強く望む夢。
 いつか死が二人を分つ日が来るのは仕方ないと判っているけれど…
その瞬間が訪れる日まで、こうして寄り添いながら彼と生きて行きたい。

 いつまでも、自分の傍らで歌を歌い続けて。
 想いを歌という形にして、紡ぎだして欲しい。
 そう心から願っていった。
 だが克哉は太一に説明されていなくて知らなかったけれど…「FLY ME TO
 THE MOON」の冒頭部分の歌詞にこんな歌詞が存在していたのだ。

―簡単な事を伝える為、詩人は色々な言葉を用いる
 その歌を囁く為に思案して、時間を使い、音に乗せる

 それはまるで、愛しい恋人である太一の事を歌っているような歌詞の内容。
 きっと克哉がこの部分を後日、改めて見たのならば…太一の事を歌って
いるようだ、と微笑んで頷くに違いなかった。
 だからきっとこのラブソングは、二人にとても相応しい一曲だ。
 太一は、そう思ったからこそ…この夜、静かに克哉に歌い聴かせたのだった。
 そしてもう一つ、ラスト部分で二人の心を歌っているかのような部分がある。

―貴方だけが私にとって何者にも代えられない
 あなただけが大切で尊い者です
 貴方に真実(ほんとう)にしてほしい事を言い換えると
 「愛しています」…となります 
 
 長く愛される、普遍的なラブソング。
 けれど…されど、恋人たちの心情を的確に、優しく綴られている曲。

 太一が、ラスト部分を愛情を込めて耳元で囁いていく。
 愛されていると心から実感していく。
 そして…彼がもう一度「I love you」の部分を口ずさんで伝えてくれた時。

―俺も、愛しているよ…

 と、克哉は静かな声でしっかりと相手に告げていったのだった―
PR
 ―太一の腕の中は、暖かかった

 窓からキラキラと…あったかい色合いに染まった夕暮れの光が
差し込んでくる。
 太陽と、太一と…どちらからも今、自分は包み込まれているような
そんな気になって、ホっとしてしまった。
 それでつい、また涙腺が緩みそうになってしまって…克哉は
軽く嗚咽を漏らしていった。

「えっ…? 克哉さんどうしたの? …もしかして泣いてる? …何か
嫌な事でもあったの…?」

 克哉の微かな嗚咽すら、太一はすぐに気づいて案じて問いかけて来た。
 それだけでも嬉しかった。
 けれど心配させたくなかったから、素直に答えていった。

「ううん、違うよ。嫌な事とかがあったんじゃなくて…今のメロディを聴いて、
この夕陽を見ていたらさ…前にアメリカで家を飛び出してしまった
時の事を、何故か思い出しちゃって…つい…」

「…えっ…?」

 克哉の言葉を聞いて、太一は驚きの声を漏らしていく。
 それからすぐに…克哉を抱きしめたまま、軽く肩を竦めていった。

(本当に…俺、克哉さんには敵わないよな…。この人、曲を聴いただけで
俺がどんな場面を思い描きながら…この一曲を作ったのか、即座に
読み取っちゃうんだもんな…)

 太一がびっくりして、つい口を噤んでしまうと…克哉は少し不安を
感じたらしい。
 恋人の肩から、そっと顔を離して相手の目を覗き込んでいくと…
苦笑しながら、太一は答えていった。

「太一…どうしたの? もしかして…オレ、相当見当違いな事でも
言っちゃったかな…?」

「違うよ、まったく逆。…俺、どんな事をイメージしながらこの曲を作ったのか
まだ克哉さんに一言も話していないっていうのにさ…思いっきりドンピシャで
当てちゃうんだもん。この曲が…青空と夕暮れを眺めてさ…克哉さんの
事ばかり考えていたことを。以前に…克哉さんが家出をして、夕暮れの中で
お互いに…素直になってみっともない姿や言葉を晒した、あの日の事を
思い出しながら…作った事を…」

「…そ、うなの…? 何となく、そう感じただけだったんだけど…」

「けど、当てちゃうんだから本当に凄いよ。だから俺って本当に…克哉さんには
敵わないんだと思うよ。克哉さん程、俺の曲を判ってくれる人はいないし…
インスピレーションを掻き立ててくれる存在もないからね…」

 そういいながら、米神と生え際にキスを落とされて…克哉は一気に
真っ赤に染まっていく。

「そ、そんな事ない…よ。いつも、たまたま当たっているだけで…」

「それが90%以上の確率で、俺の意図しているものを読み取っていれば
たまたまなんては言わないよ…愛してる、克哉さん」

「っ…!」

 ふいに耳朶を軽く食まれて、鼓膜に直撃するような感じで耳元で囁かれた
ものだから…ゾワっとした感覚と一緒に強烈な羞恥も覚えて…耳まで赤く
染まっていった。

「…オレ、だって…愛している。けど…本当に、太一はいつだってストレート
過ぎて…今朝、だって…」

 だんだん、感じて来てしまって…声も途切れ途切れになる。
 付き合って三年にもなるのに…未だに太一に触れられると気持ちよくて
同時に恥ずかしくて。
 ボソボソと呟くような小声になってしまっても…密着しているのなら充分に
通用する。それが…恋人同士の特権でもある訳だが。

「…あぁ、あの言葉?『克哉さんが俺の事を欲しがってしょうがなくて…
感じまくっている姿は…こっちも見ているだけでイキそうになるぐらいに…
メチャクチャ可愛いよ』って奴…でしょ?」

「……っ!!!!!!」

 ただでさえ赤くなっていた上に、今朝の死にそうになる程恥ずかしくなった
例の一言を復唱されたものだから…もう、全身から火を吹き出しそうになるぐらい
赤くなりながら、克哉は声にならない叫び声を上げていった。
 そんな発言を、もう一回耳元で囁かれたものだから…こちらとしても
堪ったものではない。

「た、太一のバカー!! 何だって、いつもいつも…こっちが死にそうに
恥ずかしくなるような言葉ばっかり…耳元で囁くんだよっ!」

「ぐはっ!」

 もう恥ずかしさが頂点に達してしまったので…反射的に相手のみぞおちに
目掛けて鋭いパンチを浴びせてしまっていた。
 この場合、幾ら恋人の恥ずかしがる反応が可愛いからもっと見たかったと
言っても…流石に限度がある。
 太一にも非があるので、あまり同情は出来なかった。

「…うっ…克哉さん、良いパンチだったよ。一応…ボイストレーニングで
腹筋は鍛えてあるけど…今のは鳩尾に見事に決まったから…さすがに、
ちょっと、キた…かな…」

「もう、自業自得だろ…。こっちをあんまり…恥ずかしがらせるような
言葉ばっかり吐いて…意地悪、するなよ…」

 ちょっとだけ克哉が拗ねたような表情を浮かべると…太一は笑いながら
頷いていった。

「…ん、そうだね。昨日から今朝に掛けては…久しぶりに克哉さんに
触れられたものだから…ちょっと、意地悪しすぎたかもね…」

「ん…そうだね…」

 太一が、その事を認めると…ちょっとだけ克哉も溜飲を下げて…
綻んだ表情を見せていく。
 …克哉だって、太一に意地悪されるのが嫌いな訳じゃない。
 むしろ適度なら、恋愛のスパイスになると思っている所もある。
 けれど…その、克哉にとっては昨晩のエッチは…相当久しぶりであったのと
日々の業務に追われて心身ともに疲れていたからこそ…。

―意地悪されるよりも、甘く優しく接して欲しかったのだ…

 恥ずかしさが邪魔をして、それをなかなか言えなかったけれど…
太一が、それを判ってくれたなら良いかなって思った。

 もうじき、窓の向こうで太陽が沈んでいく。
 世界を見事な金色に染め上げる一時は…終焉を迎えようとしていた。
 二人は暫く…抱き合いながら、その完全に夕陽が落ちる様を
眺め続けていた。
 それは太陽と空が…ゆっくりと混ざり合い、作り上げていく…
とても見事な儚い芸術の時間でもあった。
 
 その瞬間、太一は…恋人を空のようだと思い。
 克哉は…彼の存在はやはり、自分にとって太陽そのものである事を
思い知っていった。

 空と太陽は…この地上においては、ワンセットの存在だ。
 決して単体になる事はない。
 そして…それらは時に様々な顔を見せていく。

 時に吹きすさぶ嵐となって見失ってしまう時もあれば。
 曇り空のようになってはっきりしない事もある。
 ポカポカと暖かくこちらを優しく照らし出してくれるかと思えば
 その熱さのあまりに、時にこちらの正気さえ奪っていく。

 人との関係も…常に変わり続けていく気象と良く似ているのかも
知れなかった。
 時に嵐や雷が訪れて、危機を感じたとしても…その相手を決して
離すまい! とお互いが決意すれば…必ず晴天の時は訪れる。
 きっとこれからも…沢山の出来事が訪れるだろう。
 かつてのように大きなすれ違いを経験することだって、この先に
あるかも知れない。それでも…。

―太陽と空が対となって存在するように…自分達も、そうやって
続いていけば良いと…克哉は密かに願った

 そう心の中で願った瞬間、完全に太陽が地に沈むとする間際…
太一が優しい顔をして、こちらを見つめている事に気づいていった。
 顔を上げて、二人の視線がゆっくりと交差していく。
 言葉はなかった。けど…それだけで酷く穏やかな気持ちになれて…
そうしたら、さっきまで感じていた意地とかちょっとした憤りなどは
とっくにどうでも良くなってしまっていた。
 だから少しだけ素直な気持ちになって…呟いていく。

「太一、大好きだよ…」

「ん、俺も…克哉さんが一番…大好きだよ」

 そう告げて、二人は顔を寄せていく。
 唇が静かに重なり合い…陶酔したくなるような幸福感が満ちていった。
 そのまま強く抱き合い、二人はただ…純粋に相手を求め合った。

 双方の胸を満たす想いはただ一つ。

―貴方を愛している―

 ただ、その純粋な気持ちだけだった―

 
 
 
 それは三年近く前の記憶。

 ―克哉さん、戻って来てくれて…本当に良かった…!

 いつか、随分前に家出をした時…やっとの思いで当時一緒に
自分達が暮らしていたアパートに戻ると、憔悴しきった太一が
駆けつけて、全力で抱きしめながら…そう言ってくれた。

 その時点で、克哉の中でグチャグチャした想いが…溢れて
涙となって止まらなくなった。
 家を飛び出した当初、克哉の心の中は慣れない外国暮らしと
環境が頻繁に変わりすぎる事で、ストレスでパンパンになっていた。
 好きな人間と覚悟して日本を飛び出しても、破天荒な事ばかり
やらかす太一と…目立たないように堅実に生きてきた克哉とでは
考え方の違いや、そういったもので衝突が耐えなくて。
 それで頭を冷やして落ち着かせる為に衝動的に二日間、ホテルに篭って
過ごしていたのだけど…それがこんなに、太一を心配させていたのかと
思って…克哉は心底、後悔していた。

―太一、御免…勝手な、事をして…

 二日間、満足に眠れなかったのだろう。
 目の下にくっきりとクマを浮かべている恋人に向かって…泣きながら
克哉はそう告げていった。

―良いよ。克哉さんが…無事に帰って来てくれた事だけで…俺、すっげー
嬉しいからさ…

 そういって、骨が軋むぐらいに強く力を込めて来られて…それだけ自分は
太一に必要とされていた事を、再認識出来たのだ。
 今、思えば…衝突がなくなったのは、それだけ太一が自分を想ってくれているか
実感できたこの日がキッカケだったのだと思う。
 それで思い出したのだ。
 実家がヤクザだとか、そんな太一のバックグラウンドも関係なく…一緒にいる為に
今までの環境全てをついてきたのは、太一が今まで出会った誰よりも克哉を
求めてくれていて…どんな自分でも受け入れると言ってくれたからじゃないかって。

 だから…その日、お互いに泣きまくった。
 そして…大切な人が傍にいる事が、こんなに切なくて嬉しいことなのだと…初めて
強く実感した日でもあった。
 あの日、克哉が帰ったのは夕暮れの頃で。
 雑多なアメリカのダウンタウンで…窓の外の風景はお世辞にも綺麗と言えなかった
けれど空の向こうに広がる…太陽が空の上に描き出す、鮮やかで美しい日暮れだけは…
今でもはっきりと克哉は覚えていた―

                                *

 克哉がじっくりと吟味して、デパートでプレゼントを購入して戻った頃には…
すでに夕暮れ時を迎えていた。
 帰路の途中、徐々に太陽が…地に沈んでいく様子を眺めていって…何故か
無性に克哉は懐かしい気持ちになっていった。
 良く考えれば、バンドが軌道に乗り始めた辺りから…自分達は忙しすぎて、
こうやって夕日を見ることすら…忘れてしまっていたのかも知れない。
 
 夕暮れ時というのは…稀に、空の上に実に幻想的な光景を紡ぎだして
見る者の魂までも魅了していく。
 赤、青、橙、紫、桃、黄などの様々な色合いの光が乱反射して…太陽を中心に
空と雲を染め上げて…どんな一流の画家ですらも表現しきれない、美しい
光景を生み出していく。
 気象条件とか、雲の具合とか…そういったもので微妙に変わっていく
一日として同じ模様が描かれることはない自然の気まぐれが生み出した
芸術そのものだ。
 …こういった、綺麗な夕暮れの光景をじっくりと眺めるなど…どれくらい
ぶりなのだろうか。

 目を向ければすぐ其処に心を癒してくれる美しいものは…頻繁にこうやって
空に描かれているのに…短い時間で儚く消えてしまうその『美』を…
一体どれぐらいの人が注目してみているのだろうか…。
 その夕暮れが、アメリカ時代にやった…自分が感情のあまりに太一の
元を飛び出してしまった、今となっては甘く苦い記憶を呼び覚ましていく。

(…あの時は、本当に自分の気持ちしか見えていなかったよな…)

 夕暮れを眺めながら、ゆっくりと同じ造りのマンスリーマンションが並ぶ中…
自分達が暮らしている棟を探していった。
 どれも似たような外見をしているから、ちゃんと確認をしないと…時々
間違えそうになる事があるのだ。
 だが、自分達が暮らしている部屋に辿り着くと同時に…微かなメロディが
風に乗って耳に届いていく。

(…これは、もしかして太一のギターの音…?)

 今までに耳にした事がないフレーズであっただけに…一瞬、迷ったが
他の家の人間が音楽をやっている音は今まで聞いた事がなかったから…
この音がする家が、自分達の部屋だろうと判断して…克哉はそちらの
方へ足を向けていった。
 この近隣は一応、都内とされているものの…思いっきり外れに位置して
いるせいか…全然、東京というイメージとは異なっている地帯だった。
 沢山の…豪邸とは言えない普通の大きさの家々が立ち並んでいる。
 少し進んだ所には…小さな商店街も、大きな量販店の店舗のどちらも
あったりするから…車があるなら、充分に住みやすい場所だった。
 ここを選んだのは、太一の判断だ。
 
 東京に拠点を構える際、もう少し都心部に近い方がスタジオとか
仕事場に向かう際に…便利だと言ったのだが、太一は多少不便でも…
静かで、休みの日は克哉さんとゆったり過ごせそうな場所が良いと
言い張って…いくつかの候補地を吟味した上で、ちょっと辺鄙な
ここに決めたのだ。

 いつも夜遅くに帰宅することが多いので気づかなかったが…夕暮れの
交通量が多い時間帯であっても…この近隣には殆ど自動車の騒音が
耳に届くことはない。
 だから太一が奏でる、本当に微かなメロディすらも…風に乗って
結構遠く離れた所からでも聞き取ることが出来たのだ。
 そんな、自分の今住んでいる家の美点にふと気づいていきながら…
扉をそっと開けていく。
 その瞬間、克哉は…一瞬だけ、心臓が止まりそうになった。

 部屋に入った瞬間…目にも鮮やかな夕日の光が…部屋中を茜色と
金色に染めて…光り輝いているようだった。
 その中で、明るい髪の色を…まるで、金髪か、燃え上がるような真紅に
染めて…太一が、ギターを掻き鳴らしながら歌っている。
 まるで…太陽の化身のようにさえ見える場面に遭遇して…克哉はつい
言葉を失ってしまった。

(凄く…太一が輝いて見える…)

 太一はどうやら、今…この瞬間…歌の世界に没頭してしまっている
みたいだった。
 だから、克哉が静かに扉を開けたぐらいではその集中力が途切れることは
なかった。
 だから、真剣に歌に向き合って真摯な顔を浮かべている太一を本当に
久しぶりに見たような気がした。

 ドキドキドキドキ…

 久しぶりに、いちゃついたり…エッチの時以外で、太一に対してときめいて
しまって…心臓が早鐘を打っていく。
 音楽に向き合っている時の太一の表情は、時に怖いぐらいで…同時に
目が離せなくなるぐらい魅力的でもある。

 そして、太一が歌う。
 即興で紡ぎ挙げた切なく甘い歌詞を…それを聴いて、克哉は胸が
引き絞られるような感じがした。
 それは…自分に向けられた曲だと、すぐに判った。
 だから切なくて…嬉しくて、知らず心が揺さぶられて…かつて、夕暮れの中で
強く太一に抱きしめられた…あの日を思い出していく。

ツウ…

 そう、聞いていて涙を思わず零してしまった瞬間…音楽が終わり…
ようやく、太一はこちらに気づいたようだった。

「か、克哉さんっ…!?」

 最初に驚愕の表情浮かべながら、そして…瞬く間に本当に嬉しそうな顔を
浮かべながら、ギターを放り投げて…太一はこちらに駆け寄っていく。
 その様子に、かつての記憶が重なった瞬間…。

―おかえり! 

 と、明るい声を挙げながら全力で太一はこちらを抱きしめて、笑顔で
迎え入れてくれたのだった―


 
  ―克哉が太一にプレゼントを買おうと、じっくりデパート内を回って
見ているのと同じ頃…太一は窓際で、ギターを片手に作曲を始めていた。

 窓を全開にして開け放つと、心地よい風が時折…勢い良く吹き抜けていく。
 父の喫茶店を手伝っていた頃から、愛用していた長袖の緑のシャツと
オレンジの半袖のシャツ、そしてジーンズという格好に着替えて、太一は
一心不乱で縁側で作曲を続けていた。

 一時間程、楽譜にペンを走らせて…一定の長さを書き終えると、もう
片方の手で持っているギターを掻き鳴らして実際に音を合わせていくと
いう作業を繰り返している内に、大体1~2分程度の長さのメロディは
仕上がっていた。
 順調なペースで、満足行く仕上がりのものが組み上がっている。
 それに満足そうな笑みを浮かべていきながら…太一はそっと
空を仰いでいった。

「…少し、一休みするかな…」

 時計を見ると、すでに一時間以上が経過していた事に少し驚いていく。
 太一自身としてはもっと短く感じられていたからだ。
 何かに没頭している最中は得てして、体感時間というのは短く
感じられるものだ。
 太一は今やっている小節を完成させていくと…それを一区切りにして
大きく伸びをしていった。

「ん~順調、順調。例のタイアップ曲に並ぶぐらい…良いメロディがこんなに
サラサラと浮かび上がってくるのは久しぶりだから…やっぱり気持ち良いよな~」

 太一は音楽の道を志している事実が示す通り、根っからのアーティストである。
 だから、納得行く出来のものが自分の中に生まれて…それを紡ぎ出せた時、
大変な幸福感と快楽を感じる事が出来る性分だ。
 帰国して以来、連日…分刻みのスケジュールをこなしていて…正直、
気持ちが荒み気味になっていたので…久しぶりに解放されきった気持ちを
感じていた。

 コロン、と縁側に両足を掛ける感じで後ろに倒れて…床に寝っ転がるような
体制で…流れ行く雲と、晴れ渡る青空を眺めていく。
 そんな済んだ空の大きなキャンバスの上に、一瞬だけ…柔らかく微笑んでいる
克哉の残像が見えた気がした。
 この空の下のどこかに…克哉がいる。
 そう確信出来ると、今…この瞬間に離れていたって繋がっているような
気がした。
 その安心感を感じる反面、フッと…2年半ぐらい前の出来事が
脳裏を過ぎっていった。

(…そういえば、アメリカにいた頃…克哉さんが本格的に姿を消して
しまった時期があったよな…。まだ、俺の向こうでのバンドが軌道に乗る
前のことで…お互いに、環境の違う所で生活している事に煮詰まっていた頃で…)

 それは振り返れば、たった二日間という短い克哉の家出だった。
 けれど…あの時ほど、太一にとって血の気が引いた二日間は…
この三年間では存在しなかった。
 渡米してから、三ヶ月目から半年に掛けての三ヶ月間は…まだ太一も
バンドのメンバー全員と出会っておらず、克哉の方も…言葉の壁を感じて
日常やマネージャー作業をやるにおいて…英語の発音の微妙なニュアンスや
発声の違いで、誤解や行き違いを多発してしまっていた頃だったからだ。
 それで、当時…一件の大きなチャンスを逃してしまった。
 
(…あんまり思い出したくない、苦い思い出だよな…。今でも、俺は克哉
さんに比べたらガキだし…みっともない所もまだまだ沢山あるけれど…
あの時の俺ほど、自分の事しか見えていない時もなかったよな…)

 それは、太一にとって…心底後悔している過去でもあった。
 最初の時期は、拠点となる場所も定まっておらず…1~2ヶ月過ぎても
手応えがないと太一はさっさと新しい場所に引っ越す事をやって
しまっていた。
 それが今思うと…克哉にとっては大きなストレスになっていたのだ。
 沢山の自分と違う人種が蠢く世界で、言葉の壁がある外国で暮らすだけでも
相当なものがあったのに…それで、慣れた頃に新しい街に越されたりしたもの
だから…大変に辛かったのだろう。
 あの時期の克哉ほど、見ていて危なっかしくなるような…そんな気持ちに
なったことはなかった。

―克哉さん、克哉さん! 帰って来てくれよっ!

 克哉が飛び出して、その後姿を見失って。
 その時ほど、治安があまり良くない街に安易に越してしまった自分を
呪った瞬間はなかった。
 大人しくて、優しい克哉が…荒れ果てた街中のどこにいて、どんな奴と
一緒に過ごしているのか…嫌な想像ばかりが溢れかえった時はなかった。
 結局、克哉は…ソコソコの値段のビジネスホテルで二泊ほどして…頭が
冷えて落ち着いた頃に帰って来たのだが、その時まで…胸が掻き毟られる
ような二日間を、太一は過ごしたのだ。

―克哉さんが、帰って来てくれて…本当に、良かった…!

 その当時の記憶を思い出して、思わず…涙ぐみそうになった。
 大切な人を、自分のちっちゃなプライドとか、意地とかで追い詰めて…
何か事件に巻き込まれてしまっているんじゃないか、危ない目に遭って
いるんじゃないかと…思い詰めた二日間は、とても辛かったけれど。
 同時に、太一にとっては自分を深く見つめる時間になった。
 あの時ほど、ただ…元気な姿で克哉が傍にいてくれることだけで
自分はとても幸せだったのだという事実に気づかされた瞬間はなかった。 
 好きな人が自分の傍らで笑ってくれている。
 そんなささいな事でも、とても幸福なのだ。

 それに気づいてからは…太一は小さいプライドや、意地を捨てていった。
 …そして、どうやったらこの異国の地で、克哉が楽に生きられるかと
必死に考えた結果、少しぐらい上手く行かなくても安易に引っ越したり
しないで…それからは、暫く一箇所に落ち着いて粘り強く其処で頑張る
ようになった。
 引っ越す度にメンバーを簡単に入れ替えるような真似はせず、
其処で知り合った人間とじっくりと音楽を作り上げていった。
 それから、ようやく…バンドは軌道に乗っていったのだ。

(…それに比べれば、今は幸せだよな…)

 しみじみと、太一は…今の幸福を噛み締めていった。
 ただ…胸の中を、克哉のことだけで満たしていく。
 同性だとか、年上だとか…もう、関係ない。
 自分にとっては克哉は大切で、あの人も同じように感じてくれている。
 好きな人に、同じように想って貰えること。
 こちらの気持ちを真っ直ぐに、全身で受け止めてもらっている事。
 その喜びの方が…遥かに勝っているから、障害など太一にとっては
何の関係もなかった。

 ―晴天の青空

 この空のおかげで、離れていても…今はあの人としっかり繋がっているような
そんな気持ちになれていた。
 青い空には、必ずワンセットのように太陽がついているから。
 それは…克哉がこの一言を、自分に良く言ってくれているからかも知れなかった。

―太一は、オレにとって…太陽のような存在だから

 そう、はにかみながら…何度も、何度も伝えてくれていた事が太一にとっては
大きな自信に繋がっていた。
 だから、自分にとっても…克哉は青空のような存在だと微笑みながら
伝えていった。
 そうやって三年間、言葉によって信頼を静かに積み上げていった。
 だから…少しぐらい離れていたって、繋がっているのだと実感出来る。
 全然、心細くなど感じなかった。

「…だって、もう…克哉さんは俺の心の中にしっかりと織り込まれて…
存在して、息づいているからね…」

 そう、瞳を細めて微かに笑っていくと…胸を押さえて、そう呟いていく。
 一人だからこそ…愛しい人の面影が、鮮明に脳裏に浮かべられる。
 その気持ちが、新たなる旋律を生み出し…彼の中で奏でられていった。

「…良し、休憩終わり…! 絶対に克哉さんが帰って来るまでには…完成させて
びっくりさせるぞ…!」

 そう呟いた太一の表情は悪戯を企んだ子供のように生き生きとしていた。
 そのまま…ギターを再び、片手に持って…心の赴くままに綺麗な
メロディを紡ぎ上げていく。

―太一のその姿は、心底…楽しそうであった―

 ―本日は本当にポカポカとした陽気で気持ちが良かった。

 小さな公園を何週もグルグルと回っていたが…同じ場所を歩き続けて
いるのに飽きてきたので、そのまま克哉は東京の街中を歩き始めていった。
 勢いで電車に乗り込んで、東京駅の周辺で降りた。
 そこから十~十五分ぐらい歩いた位置にある公園で休んでいたけれど…
銀座・新橋方面へとゆっくりと歩き始めていく。

(この辺りを歩き回るのも久しぶりだよな…)

 キクチに在籍していた頃は、銀座方面はたまに接待関係で
立ち寄ることがあった。
 今となってはそんな事も、懐かしい思い出の一つだった。
 東京から銀座に続く道を歩いていくと…公園で時間を潰している内に
午前十時をいつの間にか迎えていたらしい。 
 シャッターが下りていた数多くの店舗が開いて、街全体が起き始めていく。
 東京は一晩中、ネオンが輝いている所が多く…深夜まで営業している
店も多い。
 だが、昼間をメインに営業している店舗も多いので…夜の銀座とは
また違った顔が覗き始めていく。

(懐かしいな…東京駅付近にあったブックセンターとかで…専門書とか
仕事で使うような関係資料も求めた事もあったっけ…)

 取引先の本社が、この付近に結構あったので…八課にいた頃は
たまに駅付近にある八階建ての大きなブックセンターで購入する
事も多かった。
 こんな風に、東京の街を一人で歩き回るなんて…太一と駆け落ちして
以降はずっとなかったから…懐かしい気持ちでいっぱいだった。

(営業していた頃の俺は…こうして太一と駆け落ちして…音楽の
マネージャー業をやっている自分なんて、想像した事もなかったな…)

 街を歩いている内に、一瞬だけ…サラリーマンをやっていた頃の自分の
姿が思い浮かんでいく。
 自信がなくて、オドオドしてて…いつも弱腰だった頃の自分。
 真面目さだけが唯一の取り得だった。
 逆を言えばそれしか自分にとって誇れるものはなかった。
 そんな自分の昔の姿が一瞬だけ、幻として見えて…あまりに懐かしくて
克哉はフっと自然と笑みを浮かべてしまっていた。

(あの頃は…今、思えば…息をしている事も辛かったよな。周りの目ばかり
気にして…強気に出る事もなくて。人と衝突したり意見がぶつかったりすると、争ったり
自己主張するのが怖くて自分が折れてばかりで…その癖、それをいつまでも
吹っ切れないで胸に抱えていたりとかな…)

 そんな自分を懐かしく思えるのは、太一と過ごしたアメリカでの三年間が
あるからだろうか。
 太一と過ごして、初めて…ケンカしながらでも、いやむしろ本心を言って
人とぶつかりあう事の本当の意味を知ることが出来た。
 人と争うのが怖くて意見を殺してばかりいた頃の自分には、それは本当に
一種のカルチャーショックに近かった。

 太一だけではない。アメリカという国で生きている人達は…第一線で
活躍している人は人と争うこと、ぶつかる事になっても…真摯に、真っ直ぐに
己の気持ちを他者にぶつけて、「自分を理解してもらう」努力を怠らなかった。
 そんな世界で生きて…適度に自分の願いや意思を伝える事が出来るように
なった克哉にとっては…そんな過去の自分すらも、何故か愛おしく感じた。

「はは、何だろう。かつての自分を思い出す場所を歩いていると…
この三年間でどれだけオレは太一に変えられたんだろうって…
そんな事ばかり、気づかされるよな…」

 駆け落ちしてからずっと、克哉の傍にはいつだって太一がいた。
 当然、別々の意思を持つ良い大人同士なのだから…時には離れて
行動する時間だって沢山あった。
 けれど、フっと気づいた時…まるで空気か何かのようにごく自然に
当たり前のように存在していたのは太一だけだった。
 アメリカの方で太一のバンドが売れ始めた頃辺りは…たまに出来る
オフの時間は、殆ど恋人として過ごすことに費やしていた。

―克哉さん

 そう、彼に呼ばれた気がして…フっと克哉は空を見上げた。
 本当に自分は、重症だなと思った。
 今朝、家を飛び出してから…こうやって一人で過ごしている間も…
自分の頭の中を占めているのは太一の事ばかりで。
 
「…はは、参ったな。こうやって恥ずかしくなって家を飛び出して…
久しぶりにゆっくりと一人の時間を過ごしているのに…考えているのは
太一の事ばっか何だよな…オレは…」

 日が高くなった事でどこか肌寒かった空気がゆっくりと
暖められていく。
 フワフワ、ポカポカとしている外気は…まるで、太一に背後から
そっと抱きしめられているような錯覚を覚えていく。

―克哉さん、寒い? それなら俺が暖めてあげるよ

 そういって、背後から抱きしめてくれた事。
 寒い日に、そっとこちらの手を優しく擦り上げてくれた事。
 さりげなく上着を掛けてくれたり、暖かい飲み物をくれたり…
そんな他愛無い、温もりをくれた行為ばかりを思い出していく。

「気持ち良い…」

 自然と、そんな言葉が出た。
 セックスの時の快楽とはまた違う、心地よさ。
 慌しい日常で疲れている心と身体に、ゆっくりと暖かなものが充電されて
いくような…そんな心持ちだった。

 空に浮かぶのは眩い太陽。
 十月だというのに目を焼くぐらいに鮮烈に輝く様子を…そっと手をかざして
いきながら、仰ぎ見ていく。
 太陽がこんな風に輝く日は、離れていても…太一の事ばかり思い出す。
 その事実が、普段傍にいる時には実感出来ない「何か」を克哉に
気づかせてくれた。

「あぁ…判った。これ…だったんだ。オレが見つけたかったものって…」

 それは、言葉にするととても陳腐になってしまう。
 けれど、離れて時を過ごしていても…常に相手と繋がっているという
確信を持てる。
 目には見えないもの、触れる事で確かめることが出来ないもの。
 …言葉に直すなら信頼とか、絆とか…そう呼ばれるものが、気づかない
間に…いつの間にか自分達の間に生まれて、紡がれていた事を…
そっと実感していく。
 やっと気づくことが出来て…克哉は晴れやかな顔を浮かべていった。

「ふふ、太一には本当に敵わないよな…。いつの間にか、傍にいる事が
当たり前になっていて…。知らない内に、価値観とか色んなものが
変えられてしまって…革命を起こされたようなものだよな…」

 五十嵐太一は、それまでの佐伯克哉を大きく変えた存在だった。
 自信がなくて、うだつが上がらなかった頃の自分を認めてくれていた。
 肯定して励まして、いつだってあの明るい笑顔で照らしていた。
 これも…言葉にするとクサくなるが…「太一はオレの太陽だ」と
言うのが一番相応しかった。
 多分、そんな事を口にしたら…きっと太一も照れるだろうけど。
 そんな事を逡巡しながら…街道を歩き続けている内に大きなデパートに
辿り着いていく。
 その店頭のディスプレイに、MGNの新商品…タイアップに使われて
大ヒットを治めた例の一曲が…流れていく。

 ドキン

 それについ目を釘付けにされて…足を止めていく。
 画面の中の太一は、普段の気さくで明るい雰囲気とは打って
変わって…切なく真摯な表情を浮かべていった。
 太一の唇から、甘くて優しいあのメロディが紡がれていく。
 
 ドキン、ドキン…

 少しずつ、脈拍が上がっていくのが判る。
 いつも…間近で見すぎていたから気づかなかった。
 太一が観客や視聴者にこんな顔を向けながら…歌っている事を。
 それにチリリと嫉妬に似た気持ちを抱いたが、逆に自分は他のファンや
関係者が見れない…「恋人として」の太一の顔を独占している。

―離れていても、太一はラブソングに乗せて…克哉への愛を
しっかりと伝えてくれている

 男同士という事も、最早これだけ好きあっているのなら関係ないじゃない?
 そうはっきりと言うように…太一は、克哉への想いを隠さない。
 それがあまりに堂々としすぎてあっけらかんと言い放つので…周囲の人間は
冗談程度に受け止めて、深く突っ込まれることはなかったけれど。
 けれどその態度が、克哉を安心させていてくれたのもまた事実だった。

(何か…こうやって街中で、太一の歌が流れていると…嫌でも、太一の事ばかり
考えちゃうよな…。そうだ、このデパートで…太一が喜びそうなものを何か
探して…買っていこうかな…)

 普段、一緒に行動する事が多いので…なかなか、太一に黙って何かを買って
びっくりさせる…という事が出来なかった。
 スーパーで食材の買出しに行く時は一人のことが多いのだが…さすがに
其処では「プレゼント」出来るようなものを探すのは不向きだった。
 目の前には随分と大きなデパートが立ち並んでいる。
 本館8階、別館6階…どちらも地下はB2階まである、見ているだけで
圧巻されそうな立派なデパートを前にして…少しウキウキした気持ちに
なっていく。

「せっかくだから…この機会を生かそうかな。アメリカにいた頃も
今も…バンドが軌道に乗ってからは忙しくて、ゆっくりとプレゼントを
買いに行く暇すらなかったしな…」

 離れて過ごすなら、その時間を生かそうと思った。
 そう考えた克哉の心の中にはいつの間にか…あんなに意地悪い一言を
耳元で囁いてこちらを恥ずかしがらせてくれた太一への怒りやモヤモヤした
ものは…すっかりと抜け落ちていたのだった―
 

 

 ―現在、拠点にしているマンスリーマンションで五十嵐太一が
二度寝の後に身体を起こした時にはすでに佐伯克哉の姿はなかった。
 
 家全体を探して確認してもやはり発見出来なかった事で、太一は
大きく溜め息をついていった。
 
「…はぁ、やっぱり克哉さんの姿はない、か…」
 
 久しぶりに身体を重ねて、やっぱり自分の恋人は可愛いと…
心底思ったからこそ、ついいじめたい心境になってあんな過激な
発言を囁いてしまった訳だが、少々やりすぎてしまったようだ。
 すでに時刻は正午近くを指そうとしている。
 自分が二度寝から目覚めた頃には克哉も冷静になって戻って
来てくれているのではないか…と、そんな淡い期待もあったが
現実はそんなに甘くはなかったようだ。
 
「あ~あ…せっかく久しぶりの…克哉さんと一緒の連休だった
のにな…。初日からこれじゃ、台無しだよな…」
 
 特にMGNの新商品のタイアップに使用された曲は爆発的な
大ヒットしたおかげで…帰国してからは太一が率いるバンドは
多忙を極めていた。
 まさに移動中すらも睡眠に当てなければならない日々で。
 最愛の克哉とまともに愛し合う時間すら取れない状態が
延々と続いていたのだ。
 それで日本国内での太一達のバンドの仕事を仲介している
人物に直訴してやっとこの連休をもぎ取る事に成功したのに…。
 
(なのに…その初日に克哉さんと軽いケンカして、出て行かれ
ちゃうなんて凄い俺…不幸だよな…)
 
 ガックリとうなだれながらふと…窓の向こうの景色を眺めて
いくと、外は晴天だった。
 十月の半ばだというのに太陽がポカポカと地上を照らして
くれていて、散歩や外出をすれば気持ち良いこと
間違いなしの天候だった。
 
「…うわー、克哉さんがいれば一緒に外に行こうよ!
…って誘うのにな…。まったく…もう三年以上、俺と付き合っている
割には未だに反応がウブなんだよな…」
 
 気付けば陽光に引き寄せられるかのように、リビングの窓際に立ち…
ガラガラと軽く音を立てながらガラス戸を開けていく。
 その瞬間、秋風がそっと太一の方に向かって吹き抜けていく。
 彼はそれを心地よさそうに受けていきながら…恋人のことばかり
考えてどこか幸せそうに微笑みを浮かべていった。
 
「ははっ…俺、克哉さんにはマジで敵わないかも…。こんな時でも、
こんな良い天気の日に…一緒に出掛けたら楽しいだろうなって
想像するだけで幸せな気持ちになってる自分がいるし…」
 
 まあ、そんな気持ちになるのも…今回のケンカの内容がそんなに
深刻なものではないからだろう。
 こちらに腹を立てて出ていった訳ではなく…恥ずかしくて
いたたまれないから飛び出していった事ぐらい分かっている。
 …駆け落ち同然でアメリカに渡って同棲を始めたばかりの頃は
それぞれの生い立ちから来ている考え方の違いなどで何度も
衝突を繰り返していた。

 正直、その度にもう自分達は終わりかも…と不安がよぎった事は
何度もあった。
 けれど何回、言い争いをしても擦れ違おうとも太一は見込みが
ある限りは克哉の手を絶対に離すものかと食い付いていた。
 その結果―自分達は三年経過した後でもこうして一緒にいるのだ。
 
(…今更、こんな事ぐらいで俺達が駄目になる訳ないしね…)
 
今は克哉に対して、それだけ自信が持てるからこそ…あまり
太一は動じていなかった。
 けれど、心の中にぽっかりと空洞が出来てしまったような部分が
あるのも確かで。
 心の中は克哉のことでいっぱいなのに、当の本人がいない。
 両思いで、三年も一緒に自分達はいるというのに…今の心境は
まるであの人に片思いしていた頃のような気持ちだった。

(何か懐かしいな…。パン咥えて走っている克哉さんのことが
気になった日から…毎日、毎日考えたっけ。
 あの人、いつかロイドに来てくれないのかな~。どんな人
なのかな、話したらきっと楽しいだろうな…とか、毎日…知り合う前は
考えていたっけ…)

 ふと、出会う前に喫茶店ロイドの前の道路を掃除している自分を
思い出した。
 朝早くに外に出る度、無意識に克哉の姿を探していた日々。
 あの頃はその気持ちが恋の始まりだったと自覚する事はなかった。

―空を見ると、どうしてかあの人に纏わる思い出ばかりが喚起される

 その気持ちはどこか甘酸っぱくて、くすぐったい感じがした。
 まるで青少年のような、そんな無垢な気持ちを…未だにあの人に
対してだけは抱いている自分に、つい笑いたくなった。

「はは…傍にいるのがいつの間にか、当たり前になっていたから…
忘れていたな。例えその人が常に傍にいなくったって…ただ、考えて
想うだけでも…充分、満たされた気持ちになれるって事を…」

 心が、克哉のことだけで満ちる。
 それは心地よくて…思わずトランスしたくなるぐらいの気持ちよさだった。
 そうしている内に、その気持ちをどこかに残しておきたい。
 太一はそんな心境になった。
 自分の心の中から、それが一つのメロディと歌詞になって吹き出してくる。
 
 ―空と爽やかな風に包まれながら生まれ出でる想い

 それを自覚した瞬間、太一の中に…子供のような発想が生じていく。
 考えている内に、次第に楽しくなって…悪戯っ子のような表情を
浮かべ始めていく。

「…この空を見ながら、作曲っていうのも悪くないかもな…」

 それはまるで、何かを企んでいるような意味深な微笑み。
 けど、その発想を思いついた太一は心から愉快そうだった。
 せっかくの連休を、あの人と一緒に過ごせないのは寂しいし勿体ないけれど
それをどうせなら生かそう、と前向きな気持ちになっていく。

 ―晴れ渡る空が見れる日なら、こんなに鮮明に貴方を思い出せる。

 なら、それに浸りながら一日を過ごすのも悪くないと。
 そう考えて…太一は、窓を開いた状態で机の上から、楽譜とペンを持ってきて
縁側でそのメロディを書き残し始めたのだった―

 

※本日は時間ないのでストックで失礼します。
 以前にC様に捧げさせて頂いた誕生日祝いの話の
第一話です。
 ここ暫くは家の関係でバタバタして止まっていましたが幾分
回復してきたのでこちらも近日中に完結させます。
 C様、もう少しだけお待ち下さいませ(私信)

―ほんっと、信じられない! 太一のバカァ!

 …数時間前の、自分の叫びを思い出していきながら…
佐伯克哉は、都内の小さな噴水のある公園の敷地内に
立ち寄って、ベンチに座りながら空を眺めていた。
 10月の中旬に入って、空気はひんやりとし始めていたが
太陽が出ている間はやはりポカポカと暖かく…ただ、目を瞑って
日向ぼっこをしているだけでも気持ちが良かった。

(良い天気だなぁ…)
 
 しみじみと思いながら、佐伯克哉は…そっと、手を上に組み上げて
座った状態で大きく伸びをしていった。
 克哉は着慣れたシンプルなデザインのパーカーにジーンズという
簡素な服装をしていた。
 太一と一緒に駆け落ち同然にアメリカに渡ってから三年。
 向こうで成功して、それなりに名が知られるようになった頃…連絡を
続けていた本多の紹介で、MGNの新商品のタイアップ曲に太一の
新曲が登用される事になった。
 克哉と太一はそれをキッカケに帰国して現在は日本を拠点にして
活動をしていた。
 
 CMに使われたタイアップ曲は、太一が全力を注いで作った力作で
あった為に大変な評判を呼び、あっという間に日本国内においても太一の
バンドは名が知られるようになった。
 それから実に多忙な日々を送って…何ヶ月ぶりかに二人でゆっくりと
何日か過ごせる休暇をようやく設定出来たのだ。
 そして本日は…久しぶりに恋人同士として甘い一時を過ごせる幸福な三日間の
始まりであった筈なのに…。

「あ~あ…勢いで飛び出してしまったけれど…これから先、本当に
どうしようかな…」

 しょんぼりと肩を落としていきながら…少し切なそうな表情を浮かべて
克哉は空を眺めていった。
 空には眩いばかりの太陽が燦然と輝いている。
 お日様を見ていると、どうしても太一の事ばかり考えてしまう自分は
本当に重症だと思った。

「太一の、バカ…あんな事を、エッチした翌朝に耳元で囁かれたら恥ずかしくて
顔を見ていられなくなって当たり前じゃないか…」

 つい、無意識の内に右耳を押さえながら克哉は顔を真っ赤にしていく。
 
―…克哉さん、あのね………

 一瞬、さっき囁かれた言葉が鮮明に脳裏に蘇って、火が点きそうな勢いで
瞬く間に耳まで朱に染まっていった。
 そう、その言葉が余りに恥ずかしくて…照れくさくて、こそばゆくて仕方なくて
それで、それを隠す為に太一に向かってバカバカ言って、軽い喧嘩をしてしまって
飛び出してしまったのだ。

(せっかく…二人で一緒に休める連休が取れた初日に…何をやっている
んだろうな…オレって…)

 現在、東京都内を拠点に活動しているので東京郊外のマンスリーマンションを
借りて二人は暮らしていた。
 それで先に飛び出して来たのは自分の方の癖に、太一はちゃんとした
朝食を食べただろうかとか気にしてしまっていた。

「…太一、ちゃんと今朝作っておいたワカメとネギの味噌汁に気づいて
飲んでくれたかな…。放っておくと、太一ってコンビニ食とかカップラーメンで
過ごしちゃうからな…」

 恋人としても、太一のバンドをマネージメントしている人間として…
どうしても相手の体調や健康が気になってしまうので、ついそんな心配を
してしまっていた。
 太一のコンビニ好きは海外で三年過ごした上でも相変わらず…いや、むしろ
日本を離れていた分だけちょっとグレードアップしてしまっている部分があった。
 だから暇を見て移動中にコンビニに行きたがるし、目を盗んで抜け出して
知らない内に新しいレトルト食品やカップラーメン、お弁当類の類が
増えている事は数え切れないくらいあった。
 
(…って、喧嘩して出て来たばかりなのに、どうして太一の体調の心配とか
しちゃっているんだよ…オレは…)

 そんな事を真剣に考えている自分に気づいて、つい突っ込みたくなりながら…
ホウっと息を吐いて空を眺めていく。
 克哉の中で、太一のイメージはいつだって太陽だ。
 ポカポカと暖かく、こちらの身も心も暖めてくれる。
 彼にとって、今…自分の大切な恋人となった年下の青年は、そんな存在だった。

「本当に、太一は…オレの事を全身で好きだって言ってくれる…想いをちゃんと
口に出して伝えてくれるのは凄く嬉しいけど、ね。あんまりにもストレートすぎて、
真っ直ぐすぎて…やっぱりたまに、困惑しちゃうな…」

 苦笑を浮かべながら、三年間一緒にいて…今まで太一がこちらに与えて
くれた沢山の宝石のような言葉を思い出していく。
 それを思い出した後、鮮明に相手の笑顔を思い出して…幻の中の太一が
しっかりと告げていく。

―克哉さん、大好き!

 あまりに屈託なく、そう告げてくる太一の顔を思い出して…知らず微笑んで
しまっている自分がいる。
 せっかくのオフの日に、こうして離れて過ごしているのは不毛なもかも
知れない。
 けれど…まだ、太一の下に帰る気になれなかった。

(…まだ気持ちがモヤモヤして、すっきりしていないな…)

 太陽を眺めて、つい恋人の事ばかり考えてしまっている癖に…同時に
形容しがたい感情がジワリ…と広がっていった。
 そう、それは言葉に出せない違和感に近かった。
 こんなささいな事で、太一のことを嫌いになんてなる訳がない。
 今までの人生の中で彼ほど、自分を好きだと言ってくれた人間はいなかった。
 必要としてくれた存在はなかった。

 けれど…帰国して日本国内で正式に音楽活動を始めてからは余りに
多忙な日々が続いていてて…こんな風に一人で物思いに耽る暇すら
なかった事に気づいた。
 そのことに気づいて、克哉は己の胸に手を当ててそっと考え始めていく。

―何か忙しい日々の合間に、取りこぼしてしまった想いがある…

 太陽を見てて、その事におぼろげながら気づいていく。
 その答えを知りたくて、もう少しだけここにいたい気持ちになった。

(もうちょっとだけ…こうして、日向ぼっこをしていようかな…)

 恐らく、あんな書き置き一枚残して黙ってアパートを出て来た自分を
太一は必死になって探しているかも知れない。
 けれど、もう少しだけ…一人になって、しっかりと見つめてみたかった。
 こんなモヤモヤした気持ちを抱えたままでいるよりも、すっきりとした気持ちと
笑顔で戻りたいと思ったから。
 そう考えて、空を眺め続けている克哉に向かって爽やかな風が静かに
吹いていった。

―忙しい日々に埋もれた、自分の想いをカケラを見つけ出したかった

 そう思ったから、克哉はそっと吹き抜けていく秋風を素直に受けていきながら
目を伏せていく。
 顔を上げていくと見事な秋晴れの空が広がっていたのだった―

 

 

ほんっと、信じられない! 太一のバカァ!

 数時間前の、自分の叫びを思い出していきながら
佐伯克哉は、都内の小さな噴水のある公園の敷地内に
立ち寄って、ベンチに座りながら空を眺めていた。
 10月の中旬に入って、空気はひんやりとし始めていたが
太陽が出ている間はやはりポカポカと暖かくただ、目を瞑って
日向ぼっこをしているだけでも気持ちが良かった。

(良い天気だなぁ
 
 しみじみと思いながら、佐伯克哉はそっと、手を上に組み上げて
座った状態で大きく伸びをしていった。
 克哉は着慣れたシンプルなデザインのパーカーにジーンズという
簡素な服装をしていた。
 太一と一緒に駆け落ち同然にアメリカに渡ってから三年。
 向こうで成功して、それなりに名が知られるようになった頃連絡を
続けていた本多の紹介で、MGNの新商品のタイアップ曲に太一の
新曲が登用される事になった。
 克哉と太一はそれをキッカケに帰国して現在は日本を拠点にして
活動をしていた。
 
 CMに使われたタイアップ曲は、太一が全力を注いで作った力作で
あった為に大変な評判を呼び、あっという間に日本国内においても太一の
バンドは名が知られるようになった。
 それから実に多忙な日々を送って何ヶ月ぶりかに二人でゆっくりと
何日か過ごせる休暇をようやく設定出来たのだ。
 そして本日は久しぶりに恋人同士として甘い一時を過ごせる幸福な三日間の
始まりであった筈なのに

「あ~あ勢いで飛び出してしまったけれどこれから先、本当に
どうしようかな

 しょんぼりと肩を落としていきながら少し切なそうな表情を浮かべて
克哉は空を眺めていった。
 空には眩いばかりの太陽が燦然と輝いている。
 お日様を見ていると、どうしても太一の事ばかり考えてしまう自分は
本当に重症だと思った。

「太一の、バカあんな事を、エッチした翌朝に耳元で囁かれたら恥ずかしくて
顔を見ていられなくなって当たり前じゃないか

 つい、無意識の内に右耳を押さえながら克哉は顔を真っ赤にしていく。
 
―…
克哉さん、あのね………

 一瞬、さっき囁かれた言葉が鮮明に脳裏に蘇って、火が点きそうな勢いで
瞬く間に耳まで朱に染まっていった。
 そう、その言葉が余りに恥ずかしくて照れくさくて、こそばゆくて仕方なくて
それで、それを隠す為に太一に向かってバカバカ言って、軽い喧嘩をしてしまって
飛び出してしまったのだ。

(せっかく二人で一緒に休める連休が取れた初日に何をやっている
んだろうなオレって

 現在、東京都内を拠点に活動しているので東京郊外のマンスリーマンションを
借りて二人は暮らしていた。
 それで先に飛び出して来たのは自分の方の癖に、太一はちゃんとした
朝食を食べただろうかとか気にしてしまっていた。

太一、ちゃんと今朝作っておいたワカメとネギの味噌汁に気づいて
飲んでくれたかな。放っておくと、太一ってコンビニ食とかカップラーメンで
過ごしちゃうからな

 恋人としても、太一のバンドをマネージメントしている人間としても
どうしても相手の体調や健康が気になってしまうので、ついそんな心配を
してしまっていた。
 太一のコンビニ好きは海外で三年過ごした上でも相変わらずいや、むしろ
日本を離れていた分だけちょっとグレードアップしてしまっている部分があった。
 だから暇を見て移動中にコンビニに行きたがるし、目を盗んで抜け出して
知らない内に新しいレトルト食品やカップラーメン、お弁当類の類が
増えている事は数え切れないくらいあった。
 
(…って、喧嘩して出て来たばかりなのに、どうして太一の体調の心配とか
しちゃっているんだよ…オレは…)

 そんな事を真剣に考えている自分に気づいて、つい突っ込みたくなりながら…
ホウっと息を吐いて空を眺めていく。
 克哉の中で、太一のイメージはいつだって太陽だ。
 ポカポカと暖かく、こちらの身も心も暖めてくれる。
 彼にとって、今…自分の大切な恋人となった年下の青年は、そんな存在だった。

「本当に、太一は…オレの事を全身で好きだって言ってくれる…想いをちゃんと
口に出して伝えてくれるのは凄く嬉しいけど、ね。あんまりにもストレートすぎて、
真っ直ぐすぎて…やっぱりたまに、困惑しちゃうな…」

 苦笑を浮かべながら、三年間一緒にいて…今まで太一がこちらに与えて
くれた沢山の宝石のような言葉を思い出していく。
 それを思い出した後、鮮明に相手の笑顔を思い出して…幻の中の太一が
しっかりと告げていく。

―克哉さん、大好き!

 あまりに屈託なく、そう告げてくる太一の顔を思い出して…知らず微笑んで
しまっている自分がいる。
 せっかくのオフの日に、こうして離れて過ごしているのは不毛なもかも
知れない。
 けれど…まだ、太一の下に帰る気になれなかった。

(…まだ気持ちがモヤモヤして、すっきりしていないな…)

 太陽を眺めて、つい恋人の事ばかり考えてしまっている癖に…同時に
形容しがたい感情がジワリ…と広がっていった。
 そう、それは言葉に出せない違和感に近かった。
 こんなささいな事で、太一のことを嫌いになんてなる訳がない。
 今までの人生の中で彼ほど、自分を好きだと言ってくれた人間はいなかった。
 必要としてくれた存在はなかった。

 けれど…帰国して日本国内で正式に音楽活動を始めてからは余りに
多忙な日々が続いていてて…こんな風に一人で物思いに耽る暇すら
なかった事に気づいた。
 そのことに気づいて、克哉は己の胸に手を当ててそっと考え始めていく。

―何か忙しい日々の合間に、取りこぼしてしまった想いがある…

 太陽を見てて、その事におぼろげながら気づいていく。
 その答えを知りたくて、もう少しだけここにいたい気持ちになった。

(もうちょっとだけ…こうして、日向ぼっこをしていようかな…)

 恐らく、あんな書き置き一枚残して黙ってアパートを出て来た自分を
太一は必死になって探しているだろう…それは判っていた。
 けれど、もう少しだけ…一人になって、しっかりと見つめてみたかった。
 こんなモヤモヤした気持ちを抱えたままでいるよりも、すっきりとした気持ちと
笑顔で戻りたいと思ったから。
 そう考えて、空を眺め続けている克哉に向かって爽やかな風が静かに
吹いていった。

―忙しい日々に埋もれた、自分の想いをカケラを見つけ出したかった

 そう思ったから、克哉はそっと吹き抜けていく秋風を素直に受けていきながら
目を伏せていく。
 顔を上げていくと見事な秋晴れの空が広がっていたのだった―



 本日は皆様、インテ参加お疲れ様でした~v
  とりあえず狙っていた本は無事にゲット出来てホンマに良かったですv
  うちの本もとりあえず完売しました。マジで勢い凄いよ…キチメガ(汗)

 …昨日、両面印刷しようとしたら…疲れ溜まっていたせいでコンビニのコピー機を
二件連続で停止させてしまい。
 今の自分に両面印刷作業は無理だ! 頭がパーすぎる! と諦めた結果…
中綴じ諦めて普通の閉じ方の本になってしまいました。
 製本、荒い作りに仕上がって申し訳ない…(T○T)
 それでも買ってくださった方、どうもありがとうございました…。
 値段分くらいの価値がある作品になっているか、凄いびくびくものです。

 これから御堂と太一が活躍するのに! という場面で12、13日と連続で
セーラーロイドをお休みして申し訳ないです。
 14日から残りの話を書き始めますので…もうちょいお付き合い下さいv
  委託先様、オフ会に参加した方々、こちらを構って下さってありがとうございました。
 本日は疲れの為、連載の方はお休みします(連作は家帰って腰据えてやりたい)
 …が、一人を覗いて皆、遠方からはるばる~という感じだったのでお開き早かったのと
太一に対しての熱い思いと語りに触れまくったので、一本ここにSS書いておきます。
 短めですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いv

『ずっと貴方を見ていた…』   BY 香坂 幸緒


 
 殆ど着の身着のままでアメリカに渡り、外国での暮らしに慣れてきたある晴れた日の午後。
 ようやくしばらく定住するアパートが決まり、久しぶりに部屋の片付けをしていた。
 こちらに渡ってから、当面の生活を維持する為のバイトと…音楽活動に明け暮れ。、
ゆっくりと部屋を掃除する暇すら取れなかった。
 久しぶりの休日、溜まりに溜まった洗濯物を全て片してしまおう! と克哉は朝から
気合を入れて…洗濯に精を出して、一段落がついた頃の話…だった。

「よしっ! これであらかた片付いたなっ!」

 アパートのベランダには壮観な程、沢山の洗濯物が干されていた。
 それが微風によって靡く度に…克哉は、気がかりになっていた事が片付いたような
満足げな笑顔を浮かべていた。
 時計の針を見れば、朝の十時半を指している。
 この時間になっても、太一が起きて来ないので…少しだけ不満げな顔になった。

「…ったく、幾ら今日がオフの日だって…こんな時間まで寝ていたら、生活ペースが
崩れてしまうのに…。まあ、昨日は久しぶりだったから仕方ないんだけど…ね…」

 忙殺される日々が続く中の、本当に久しぶりの二人一緒の休みだ。
 昨日は…かなり夜遅くまでお互いの愛情を確かめ合ったから、寝たのは遅かったけれど…
自分は9時には起きてこうやって…家事をやっているのに、と。
 そういう小さな不満が、チリリと克哉の中に芽生えていく。

(ま、太一が…オレ以上に大変だっていうのは判っているけどね。もう少しゆっくりと
寝かせておいてあげたい…けど…)

 けれどせっかくの、二人一緒の休日だ。
 どうせならば、少しでも長く…一緒に過ごしたいと思う。
 太一のマネージャーみたいな感じで、音楽活動をしている時はいつも自分は
彼に傍らに立っている。
 だが、そういう公の場と…プライベートで一緒に過ごすのはまた違うのだ。

(寝顔くらい、見に行こうかな…。それなら起こさないで済むし…)

 ふっとそんな思いが脳裏をよぎって、克哉は自分たちの寝室に足を向けていく。
 寝室に立ち入ると、自分たち用のダブルベッドの上に…太一が本当に心から
気持ちよさそうに眠りこけていた。
 すでに窓から朝日が差し込んでいるような時間帯になっても、部屋が明るくなっているにも
関わらず、太一は子供のように眠りこけていた。

(太一…本当に、子供みたい…だよな…)

 どんな克哉さんでも、丸ごと受け止めたい、という包容力に溢れる発言をするかと
思えば…子供のようないたずらっ子の表情を浮かべて。
 太一は本当に感情表現が豊かで、見ているだけで飽きなかった。
 ベッドの傍らに座って、微笑ましい気持ちになりながら…大事な恋人の寝顔を
見つめていった。
 起こさないようにそっと、慎重に髪を優しく梳いていく。
 …こういう他愛ない時間さえも、ジィンと胸が温かくなっていくような気がした。

(ふふ…太一、本当に可愛いな…)

 幸せそうに笑いながら、飽く事なく太一の顔を見つめ続けていた。
 その瞬間、窓の隙間から風が吹き込み…窓際の木机の上に置いてあるノートが
パラパラパラと…ページが捲くれていった。

「あれ…? ノートが…?」

 ふと、紙が捲くれる音のおかげで…そのノートの存在に気づいていく。
 気になって近づいていくと…そこには何やら字がびっしりと書き記されていた。
 
(太一の新しい創作ノートかな…?)

 彼は新しいメロディや、フレーズ。曲のイメージに合う風景や演出、そして旋律やら…何か
思いついたものがあると片っ端から書き残していく。
 以前にもそれを見せて貰った事があるので、興味を覚えて…そのノートをパラパラと
巻くって、内容を眺めていった。

「…こ、れ…何だよ…」

 読んでいる内に、恥ずかしくなって…克哉は顔を真っ赤に染めていった。
 あまりの予想外の内容に、みるみるうちに照れくさくなって…つい、相手に一言言いたい
心境になっていった。

「…こんな前から、あいつがオレの事を見ていたなんて…まったく、知らなかったぞ…」

 ノートの一番古い日付は、一年前だった。
 自分と太一が出会って、駆け落ちまでした期間が三ヶ月。
 アメリカで生活を始めてから、更に三ヶ月が経過していた。
 だから自分達の思い出というものは、半年前から始まっていると…克哉の中では
そう考えれていた。
 だが、違った。太一の中では…少なくとも、自分の存在はそれよりもずっと前に
心の中にあったんだ、と。
 その事実を…まざまざと突きつけられた。

 ×月  ×日

  この間、パンを咥えて全力疾走をしていた人があまりに面白かったので、今日から
観察日記を始めてみる。
 今日は普段より遅い時間帯に出勤しているみたいだった。
 額から汗を浮かべて、息を切らせながらウチの店の前を横切っていった。
 …話しかける隙もないよな。本当に残念…。

 ×月 ×日

 ここ最近は見かけてないので、ちょっと不満に思っていたらひょっこりと夜、
バンドの帰り道に遭遇した。何か身体が大きい人に肩を貸してもらってどうにか
家に向かっている感じだった。ストレスでも溜まっているのかもね?

 ×月 ××日

 今日は何かうれしい事でもあったのかな? 夕方頃にちょこっとだけ
顔を見れたんんだけど、ウキウキした様子で店の前を通り過ぎていった。
一体、どんな事があったんだろう? 凄く気になる…。

 ×月 ××日  初めてあの人がこの店に来てくれた! 念願の日がやっと
来てくれて本当に嬉しかった! しかも話していて結構楽しかった上に、予想通り凄く
良い人だったみたいで…知り合えて本当に良かった! 克哉さんって名前も
改めて聞けたし…今度からは少しずつ仲良くなっていけると良いな…。

 ざっとページを捲って、内容を目を追っていくだけでも…自分とこうなる前から
どれだけ太一がこちらに関心を払ってくれていたか。
 短く纏められた日記の一文に、その気持ちが込められているような気がして…
恥ずかしかったけれど、本当に嬉しかった。

「…太一、ずっと前から…本当にオレの事を気にかけてくれていたんだな…」

 この日記は、その証みたいな物だった。
 関心も、愛情もない人間のことをこれだけ観察したりしないだろう。
 それが判ったからこそ…嬉しくて、つい…涙腺すら緩みそうになってしまう。

「あれ? 克哉…さん? 其処に…いてくれたんだ?」

 こちらが日記の前で立ち尽くしている内に、太一の意識も覚醒していったらしい。
 まだ夢の中にまどろんでいるような、そんなトロンとした眼差しで…優しくこちらを
見つめてくれていた。

「あ…うん。おはよう…太一…」

 こちらが顔を赤らめながら答えていくと、最初は嬉しそうな顔をしていたが…すぐに
今、克哉が立っている机の上に何があったかを思い出したらしい。
 瞬く間に太一の表情も真っ赤に染まり、あわてて叫んでいく。

「…っ! って克哉さん! もしかして…そのノートの内容…見た?」

「えっ…それは、その…! 御免! 太一の創作ノートだと思ったから、気軽な気持ちで
覗いちゃったんだ…」

「…う~~! マジ? それ、ずっとこっそりとつけていたのに! 本人に見られちゃうと
すっごく恥ずかしいんだけど…」

「オ、オレだって恥ずかしいよっ! だって…その、こんな前から…太一がオレの事を
見ていてくれたなんて…知らなかったし…」

「…ん、まあね。俺も改めて克哉さんに言うつもりなかったけどね。けど…初めて
意識した時から、何か克哉さんって気になったっていうか…忘れられなかったんだよね。
 だからつい観察して、記録に残してしまったというか…」

「そう、だったんだ…けど、何か文面にこっちへの気持ちが溢れている気が
したから…オレは、嬉しかったよ。太一…」

 照れくさそうな顔を浮かべながら、克哉はゆっくりと太一の方へと間合いを
詰めていく。
 朝日が差し込む狭いアパートの一室で…二人は暫し、見詰め合う。
 そのまま克哉がダブルベッドの上に体重を掛けて、四つんばいになりながら
太一の方へと、顔を寄せていった。
 その後は恋人特有の甘く優しい雰囲気。
 何を言わなくても、合図しなくても…お互いに目を伏せて、ゆっくりと唇を
近づけていった。

「ん、だって俺は…ずっと貴方を見ていたから、克哉さん…」

 こちらを幸福で満たしてくれる、魔法の言葉を寸前で聞きながら…
二人の唇はそっと重なっていく。

 その瞬間、克哉は心から感謝していた。
 こうして今、この時…二人で寄り添っていられる事を―
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリー
フリーエリア
最新コメント
[03/16 ほのぼな]
[02/25 みかん]
[11/11 らんか]
[08/09 mgn]
[08/09 mgn]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

 当ブログサイトへのリンク方法


URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/

リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
忍者ブログ * [PR]