[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
昼と夜の狭間である逢魔ヶ時。
黄金と橙に彩られた日暮れと、藍色の夜の帳が混ざり合い…空の中で複雑な
グラデーションが作られていた。
克哉がその場に座り込んでから、どれくらいの時間が経過した事だろうか。
ふいに自分の目の前に大きな人影が立ちはだかっていた。
「立て…」
その人物の声は極めて不機嫌そうで、思わずハッとなって顔を上げていく。
相手の顔を見て愕然となる。
唇を震わせながら、克哉は信じられないという表情になった。
其処に立っていたのは…紛れもなく、自分の恋人の御堂だったからだ。
恋人関係になってから、ここまで不機嫌そうな彼は見かけなくなっていただけに
一瞬、克哉はその場で竦んでしまっていた。
「…どう、して…」
「…良いから、立て。ここでこれ以上の話はマズイだろう」
「っ…!」
強引に二の腕の部分を掴まれて、その場から立ち上がっていくと…御堂は部屋の
前まで克哉を連れていく。
「鍵を貸せ」
「は、はい…」
有無を言わせる隙すらない御堂に、克哉は逆らう事なく…自分のスーツのポケットから
自宅の鍵を取り出して渡していく。
それを使ってやや乱暴に部屋の鍵を開けていくと…痛い位の力を込めて、克哉の腕を掴んで
室内に駆け込んで、鍵を内側から掛けていく。
カチャリ、という音に淫靡なものを感じて…つい、克哉は息を呑んでいった。
ドカドカドカっ!
平素の御堂からは考えられないくらいに乱暴な足取りでベッドまでの道のりを
進んでいく。
そのまま手荒な動作で寝具の上に引き倒されていくと…御堂は容赦なく克哉の上に
乗り上げて…きつい顔をしながら、やっと本題を口にしていく。
「…あの少年は何だ…?」
怒りを押し殺した声で、御堂が問いかけてくる。
その言葉を聞いて、克哉の顔は蒼白になっていった。
(御堂さんに…もしかして、見られて…いた…?)
あの自分が秋紀に対してけじめをつけていた時を、この人に見られていたのだろうか?
そうでなければ…後から来た御堂が、秋紀の事を話題に上らせる訳がない。
その事実に気づいて、克哉は…顔を強張らせるしかなかった。
「…聞こえなかったのか? 君が…部屋の前で抱き合って、顔をクシャクシャにしながら
全力で謝って…キスしていたあの少年は一体、何だ? 信じられない事ばかりを
君たちは話していたが…」
今度はかなり具体的に、御堂が問いかけてくる。
それを口に出されて、最早…観念するしかなかった。
克哉は後で必ずこの人の処に行って、事情を話すつもりでいた。
だが…秋紀との話が終わった直後にこの人が現れて、こんな事を尋ねられるのは
正直想定外の事で…克哉はその場に黙り込むしかなかった。
しかしそこまで見られていたのなら、誤魔化す事など出来ないだろう。
覚悟を決めて…御堂に真実を話していく。
「…九ヶ月前に、眼鏡を掛けた<俺>と…一夜を過ごした子です。それであの子は…
ずっと<俺>の事を忘れられずに…先週の週末に、この家まで押しかけて…
<俺>に会いに来たんです…」
「…先週の週末、に? …という事は、まさか…君は…」
「…はい。御堂さんの処に行かず…眼鏡を掛けた<俺>は…週末をあの子と
二人きりで過ごしていました…」
その言葉を発した瞬間、御堂の瞳の奥に…憤りの光が宿っていた。
しかし…怒鳴り散らしたい衝動を押さえ込んで、もう一つ…御堂の中で燻り続けていた
大きな疑問を克哉に投げかけていった。
「…そうか。じゃあ…もう一つ聞かせて貰う。…今朝の眼鏡を掛けた君は…何だったんだ?」
「…オレのもう一つの姿。…以前、貴方に相談した時は信じて貰えませんでしたけど…
あの銀縁眼鏡を掛ける事で現れる、もう一人の<俺>です…。物凄い有能だけど傲慢で、
意地悪で…人を支配したり、踏みつけたりする事を躊躇わない…そんな存在です…」
「君が言っていた…『もう一人の自分』という奴か…? 本当に…そんな物が君の中に
いたというのか…。いや、正直聞かされた時は半信半疑だったし、一度見ていたが…
あの今朝の変貌振りは…信じざるを、得ないな…」
そうして…間近で、お互いの瞳を覗き合う。
自分の上に圧し掛かっている御堂との間に流れる空気は…こんな状況でも決して
甘いものではなく…むしろ、ほんの僅かにバランスを崩しただけで釣り合いが取れなくなる
天秤のような危うさがあった。
「…では、もう一つ…。あの少年と君は…どんな関係だ?」
「…もう一人の<俺>にとっては…一夜を過ごした相手。そしてオレにとっては…
その件で罪悪感を感じざるを得なかった存在です…」
それでも、真摯な相手の問いかけに…一切目を逸らすことなく克哉は正直に
答えていく。
本当は、出来る事なら決して知られたくなかった自分の罪。
この人を好きだからこそ…それを知られるのが恐かった。
付き合い始めてからの半年、密かに暴かれてしまうのを怖れていた。
だが…もう、こうなった以上は隠し通す事など出来やしない。
覚悟を決めて、克哉は…御堂と向き合っていた。
その後…二人の間には張り詰めた空気が訪れる。
ただ…夕暮れの光が強烈に差し込む室内で、二人は…お互いの肌が触れ合う
距離で…相手の瞳を凝視していく。
先に、動いたのは…御堂の方だった。
「くそっ…!」
御堂の顔が、苦痛そうに歪んでいく。
これが現実だという事は、判っていた。
自分の下に彼が来なかった理由も…突然、彼が別人のように豹変して…このような事態が
起こった事ぐらいは判っていた。
だが頭がグルグルして…思考が纏まらない。
自分の胃の奥から、不快な感情が迫り出して来て…胸までムカムカしていった。
ここまで克哉相手に憤りを、強い怒りを覚えたのは…交際してからは初めての経験で、
その強い感情に御堂自身も戸惑うしかなかった。
「…君を、責めたってどうしようもない事ぐらい…判っているっ! だが…どうして、も…
許せないっ! 君に私以外の人間が触れた事を…!」
「…っ!」
そのまま御堂は噛み付くように克哉の唇を塞いでいく。
行為の荒々しさに、一瞬…身が縮みそうになった。
克哉が怯んでいる事は、御堂自身も感じ取っていたが…それで止めてやる気配など
一切見せてやらず…相手の中に舌を乱暴に差し入れて…問答無用で口腔を犯していく。
グチャグチュ…と濡れた水音が脳裏に響き渡る。
一息突く暇すらなく、呼吸できなくて肺が悲鳴を上げそうだった。
それくらいにいつになく激しいキスを施されて、克哉は必死にもがいて…僅かな隙間が
生じた時に、苦しげに訴えていく。
「…っ! はぁ…御堂、さん…苦しいっ…!」
「黙っていろ…。この責任は…君に取ってもらう…。今は、到底…これ以上の言葉は
冷静に聞けそうなど、ない…! だから…!」
足を開かされて、その間に…御堂の身体が割り込んでくる。
下肢の狭間に…あからさまな欲望を感じて、克哉は一瞬竦んだが…すぐに気を取り直して
自分の方から、御堂の身体を抱きしめ返していく。
「…判りました。貴方の怒りの原因は…全てオレにあります…! だから…貴方の好きな
ようになさって下さい…孝典、さん…」
そうして、克哉の方からも御堂に口付けて…荒々しい口付けに応えていく。
二人分の体重のせいで、克哉のベッドはギシリと重い軋み音を立てていた。
両者の空気が極めて濃密になるのと同じ頃…窓の外では完全に日が暮れて、空に
真円を描いた月が静かに浮かび始めていた―
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。