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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  とりあえず…見比べて貰う為に恥を承知で、18日の昼ぐらいに
3時間前後だけ一旦アップしたバージョンをこっちに掲載しておきます。
 暇だったら正式版と見比べて下され。
 大変お待たせしてしまってすみませんでした…(汗)

(書いてみて、こちらの方だと眼鏡と克哉のやり取りが全然
活きていない事が身に沁みました…)
 興味ある方だけ、「つづきはこちら」をクリックして
読んでやって下さいませ(ペコリ)

眼鏡は今、激しい憤りを感じていた。

  たった今、目の前で起こった出来事に対して何も出来なかった自分が。
  全てを犠牲にして、こちらと御堂の幸せの為に我が身すら差し出した
克哉に対して、強い怒りを抱いていた。
 その感情が、理不尽なものである事は判っている。
 だが、どうしても止まらなかった。
 抑える事など出来なかった。

お前は、俺を侮辱しているのか?」

 もう一人の自分は、こちらの腕の中で忙しい呼吸を繰り返していきながら、
苦しそうな顔を浮かべている。
 それなのに、その瞳は澄んでいて真っ直ぐにこちらを見据えていた。

『子供の自分すら受け入れられない。そんな奴が本当の意味で他人を
他人を受け入れられるの、かな?』

 そう、克哉はこちらに告げた。
 その一言は、正鵠を射ていただけに余計に、悔しかった。

違うよ、本当の事を告げただけ。オレ、は自分で自分を否定している
内は相手の弱さも、みっともない部分も受け入れる事は、出来ないと
思っている、から

くっ! だからそれが侮辱していると言っているんだ!」

 こんな事で声を荒げている自分が、情けなくてみっともなかった!
 けれど悔しくて、腹立たしくて感情がコントロール出来ない。
 いや、言われる言葉にじゃない。
 もう一人の自分を、こんな有様にした事があれだけ、あいつが『あの子を
受け入れてあげて』と言っていたのに、判ったと言ったのにいざという時は
身動きが取れないで、立ち尽くしているだけだった自分に一番腹を立てて
いたのだ。

嫌でも、判る!こいつは、もうすぐこの世界で形を留めて
いられなくなる!)

 少しずつ、腕の中の克哉の身体がうっすらと透け始めている。
 だからこそ、眼鏡は荒れ狂う程の激しい感情を覚えていた。
 こいつの事など、どうでも良いと思っていた。
 克哉を構成している部分は、かつては自分にとっては忌避すべき物だと思っていた。
 いらないものだと、そう判断して冷酷に切り捨てようとしていた。

 暖かい心も、優しさも優柔不断と取られる要素の一切など、いらないと思った。
 そんな感情があったから、自分はかつて親友に裏切られたその時、
こんなに胸が痛むのだと思った。
 あの苦痛に満ちた苦い記憶を、抱き続けたくなんかなかった。
 少年の自分も、克哉の部分もいらない、と拒否していた。
 それが間違いだったと身体を張って自分に気づかせたのは、克哉だった。
 だからこそ嫉妬めいたものが、胸の中からジワジワっと競り上がって彼の
心を妬いていった。
 
「本当に、俺の方が生きてて良いのか! こんなに、不甲斐なくてイザって時に
動けなかったような男にお前は、御堂を託して本気で後悔しないのかっ!?」

 悔しかった。弱い奴と見下していた奴に完敗したなど、そんな現実を認めたくなど
決してなかった。
 だが、結果は事実上惨敗で、自分に良い所など何もなかった。
 あの子供を受け入れ、浄化したのは間違いなくこいつで何も出来ずに
立ち尽くしていただけだったのは、自分。
 その事実が、自尊心が人一倍強く我が強い筈の男にこんな気弱な発言を
零させていく。
 だがそんなもう一人の自分に、慈しむような眼差しを克哉は向けていった。
 血まみれの手をそっと伸ばしこちらの輪郭を辿るように、優しくも穏やかな
手つきで撫ぜていく。

「後悔なんて、絶対にしない。だって、オレにとってはお前も大切な
存在だから

「何だと?」
 
 予想もしていなかった答えを言われて、眼鏡は信じられないとばかりに
目を見開いていく。
 そんな彼を、慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、静かに克哉は見つめていく。
 その瞳はまるでサファイアのように深い蒼を讃えている。

お前の事、いつの間にか自分と同じ容姿をした、兄弟のように感じ始めて
いたから。自分の兄弟から大切な人を奪って自分だけが、幸せに
なるなんてそんな真似、したくなかったから。だから良いんだよ

 克哉は御堂を想うようになっていた。
 だけど同じ人を想い、苦しみもがく眼鏡の姿を見続けている内に共感し、
いつしか親近感のような、暖かい感情を抱くようになった。
 それは御堂を想う気持ちとは異なるものであったけど、克哉は眼鏡の事も
「好き」だったのだ。
 だから好きな人間同士の間に、割り込みたくなかった。
 二人が両思いであるなら、その二人を引き裂いて自分の想いを成就など
させなくても良いと思った。
 
 それでも、自分はその二人に対して精一杯のことが出来た

 ずっと胸が苦しくなかったと言ったら嘘になる。
 けれどこの手で憂いを立てた事で克哉は満たされていた。
 何も出来なくて二人が別れて悲しい結末が終わるよりも例えこの世界で
自分がもう形を保てなくなってしまっても、その後で二人が幸せに寄り添える
未来の方が良いと想った。
 だから、克哉は満足そうに笑う。
 その身体は、もう消えかける寸前だった。

「大好き、だよ

 お前の事も、御堂孝典という人の事も愛していた。
 だから、これで良い。
 そう納得して、克哉は運命を受け入れていく。
 そんな自分の半身を眼鏡は、頬に伝らせながら抱きしめていく。

「バカが!」

 眼鏡は、繋ぎ止めるかのように強く、腕の中の克哉を抱きしめていく。
 だが彼の身体は瞬く間に、無数の光の粒子へと変化していく。
 それは余りに幻想的な光景。
 まるで蛍のように淡く儚い光が、黒い森全体へ緩やかに広がり
始めていく。

御堂さんと、幸せになってな

 最後まで、こちらの事ばかり気遣うこいつを心底バカだと感じた。
 もう、これが終わりだと悟った瞬間眼鏡は、覚悟を決めた。
 自分達の為に愚かなぐらいここまでやってのけたもう一人の自分に対して
手向けの言葉を、必死になって告げていく。

あぁ、絶対に幸せになってやるさ。何が何でもあいつの手をもう気弱に
なって離したりなんてしない。だから

 それ以上の言葉を言うことは出来なかった。
 先に、克哉がこの世界で形を保っていられるリミットが来てしまったから。
 けれど彼が強く想った事は、克哉に確かに伝わっている。
 暖かいものがお互いの心の中に満ちていく。

 優しく暖かい、優柔不断な部分などいらないとかつては思った。
 痛みを感じたくない一心で、己の心を凍らせることを選んだ。
 だがその暖かい心こそが、誰かと寄り添い幸せになるには
一番大切だったのだと、この世界でこいつと接する事で、眼鏡は
ようやく理解したのだ。
 そんなもう一人の自分の姿を見て、克哉は嬉しそうに笑った。
 そして最後のお願いを、口にしていく。

それを聞いて、安心したよ。後、オレの最後の我侭を聞いて
貰って、良いかな

 そして克哉は、相手の耳元に懸命に唇をよせてあまりにささやかな
お願いを口にしていく。
 彼が自分達にしてくれた事を思えば、それは本当にそんな事で良いのか、と
問い返したくなるぐらいの小さな願い。
 それを聞いて、眼鏡は神妙な顔を浮かべながら頷いていく。

そんな事で良いなら、好きにしろ。お前にはその資格がある

 言い方はぶっきらぼうだったが、その口調には暖かいものがあった。
 その答えを聞いて、心底嬉しそうに克哉は笑って答えていった。

ありがとう

 こちらの想いが、感情が克哉に流れていく。
 その時、二人を隔てていた境界性が完全に破壊された。
 克哉の姿は幻のように消え去り手の中には、何も残されて
いなかった。
 代わりに森全体が光を放ち、黒くおどろおどろしかった森が
鮮やかに息を吹き返していった。
 その幻惑的な光景に、眼鏡はただ息を呑むしかなかった。

「森が生き返って、いく

 そして、目の前にそびえ立っている大樹もまた本来あるべき姿を
取り戻していった。
 この大きな森全体が、佐伯克哉という人間の精神の象徴。
 それを侵していた猛毒を、切り離した一部に背負わせていたから
逆にその毒は浄化されることなく、緩やかに増幅してこの世界を
壊しかねない程の脅威になりつつあったのだ。
 だが、克哉はそれを受け入れた。
 そしてその毒を身に受けた克哉を眼鏡もまた、受容する事によって
その毒は薄められ、この世界に流れる風に、水に流れて巡ることによって
ゆっくりと浄化され始めていったのだ。

 黒く歪になっていた樹木が、枝が草が、大地が光に照らし出されて
本来の美しい姿に戻っていく。
 その様を見て、眼鏡は清々しい気持ちを感じていた。
 そして、克哉の方が抱いていた記憶が想いが流れてくる。
 自分が眠った日から、銀縁眼鏡を受け取って自分が主導権を得た日までの
間、彼がどんな風に生きてきて、考えていたのかを知っていく。
 
(そうか、これがお前が生きてきた人生、だったんだな

 小学校の卒業式の日から、隔てられていた彼らの人生。
 眼鏡は生まれた日よりその卒業式の日まで。
 克哉は運命の日から、もう一人の自分を解放する鍵を得てから罪を
犯して逃げる事を選択した日まで。
 その二つの佐伯克哉の記憶が、一つに重なり合っていく。
 あんな弱い奴など、いらないとかつては思った。
 だからどんな人生を歩んできたのか、何を思っていたのか何てまったく
興味がなかった。
 だが、今は心から知りたいと思った。
 その思いが彼らを本来あるべき姿へと戻していく。

 一瞬、幻影が見えた。
 この森の奥で、小さな子供の自分を抱きかかえている克哉の
姿が脳裏に浮かんでいく。
 この深い森の奥の色とりどりの花が咲き誇る場所で、小さな
自分は安らかに眠っている。
 きっと、辛い記憶を背負わされている間はあの子供はこんな風に
眠る事など出来なかったのだろう。
 そんな子供の自分を守るように、克哉はそっと寄り添っている。
 二人とも、消え入りそうに儚い姿で消えては浮かびを繰り返している。
 それは、この世界を巡るようになった克哉が見せる一時の幻想。

この世界で、オレは小さなお前を見守り生きていく。だからお前は
現実をしっかりと生きて欲しい

 もう克哉には、現実に出る力はない。
 だからこの世界で生きるしかない。
 夢のように儚く、瞬きするほどの間だけ小さな自分と克哉は浮かび、
存在することもある。

 たった今起こった事件によって、境界線がもろくなった彼らは主人格で
ある眼鏡を核に、そういう存在へと移り変わったのだ。
 けれど自分はこの世界のどこかにいる時折、こうやって儚く浮かび
存在している時もあるのだと最後のメッセージを受け取っていく。
 受け入れたからと言って、完全に消える訳ではない。
 繋がっているのだと、同じ心の中に息づいている。
 だが、無数の自分がここに存在していたとしても現実を生きるのは
お前なのだと、しっかりと克哉はその背中を押していったのだ。

 人の心の中には無数の人格の破片が存在している。
 人間の心の複雑さは無数の哲学書、精神分析の本に記させている。
 それは掴みどころのない数多の可能性。
 一人の人間の精神の中に、どんなものが眠り潜んでいるかなど
どれだけの学者や医者が探ろうとしても理解しかねる最大の神秘だ。
 かつて、彼は自分の中から好ましくない部分を切り離そうとした。
 そうした事で、もう一人の自分やあの子供の自分も生み出されていった。
 けれど、それは間違いだったのだとようやく彼は理解したのだ。

悔しいが、認めてやるよ。自分の中にある嫌なものや好ましくない
ものを否定して、心を凍らして生きる事は間違いだったという事をな

 この目の前に輝く、美しい森林こそがその証だ。
 自分で自分を受け入れない限り、人の心は歪に歪んでいつしか
どす黒く染まっていく。
 他者を受け入れるには、己の全てを受け入れなければ出来ないと
いうのは真実だった。
 己の中の嫌なものを受容しない限り、他者の中に否定している要素を
見て忌避し、嫌悪してそして悲しい反発を生むのだから。
 光が、満ちていく。
 晴れやかな気持ちだった。清々しかった。
 自分の嫌な部分をひっくるめて受け入れる事には勇気が必要だった。
 けれどそのおかげで彼は自分を確かなものに感じられた。

ありがとうな、オレ

 初めて、柔らかく眼鏡は笑いながらもう一人の自分に対して
静かに礼を告げていく。
 その想いを、気持ちを確かに受け取った。
 だからもう自分は、しっかりとこれから先生きていく事が
義務だと実感した。
 そして心の中で、ただ愛しい人間の面影だけを描いていく。

「御堂俺は絶対に、あんたを離しはしない

 傷つけたくなくて、もう一度罪を犯すのが怖くて自分は散々
あの人から逃げ続けていた。
 けれど今は、どれだけその行動が御堂を傷つけていたのかを
理解していく。
 
あいつにあそこまで言われて、格好悪い真似なんかもうしたくは
ないからな
 
 苦笑を浮かべながら、そっと目を閉じていくと森全体が白く
輝いていった。
 それはまるで、朝日に照らし出されて世界全体が眩く感じられる
時の情景に似ていた。
 スウっと深呼吸をしながら、深く息を吐いていく。
 そして一度だけ素直になって、なかなか口に出せなかった想いを
紡いでいく。
 それは彼の胸の中にずっと息づいて、渦巻いていた言葉。
 言いたくても、罪悪感が邪魔をして言う事が憚られていた言葉。
 あの人に伝える前に、一度練習しておこうとばかりに静かに
笑みながら、吐露していった。

あんたを、心から愛している

 そう呟いた瞬間、愛しい人間の声が聞こえてくる。

佐伯

 それは聞き間違えようのない、御堂の呼びかけ。
 優しく穏やかな声で、こちらに語りかけてくれていた。
 
今、あんたの元に戻る

 その声を聞いた瞬間、世界は瞬く間に真っ白な光に満ちてその
輪郭すらおぼろげなものへと変わっていく。
 あまりにも長く感じた、一夜の夢はそうして終焉を迎えていく。
 全ては、終わった。
 御堂との未来を妨げる憂いは、もう一人の自分の必死な行動により
断ち切られた。
 だから、帰ろう。お前の元へと

 そして、眼鏡はその光へと身を委ねていく

 次の瞬間、目を焼くぐらいの強烈な光を受けながら彼は現実の世界へと
戻っていったのだった

 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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