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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  -もう一人の自分が店内に入ってきた瞬間
店の中が大きくざわめいていった。
 多くの人間の視線が、注目が入り口の方に注がれている
のがすぐに判る。
 克哉の意識も、隣にいる黒髪の男性から一気に彼の方へと
注がれていた。

(…まさかこんなに早くあいつに会えるなんて…)

 正直、Rが言っていたのはこの街でほぼ間違いないだろうと
いう予感はあったが、実際に会えるかどうかはまだ未知数だった。
 何日か通って情報収集とか聞き込みとか、そういうのを
しなければならないか…と覚悟していただけに、彼をこうして
見つける事が出来たのは有り難かった。

「良かった…あいつに、会えて…」

 無意識の内にそう呟いた瞬間、克哉をこの店まで案内してくれた
ユキと名乗る男性は怪訝そうな表情を浮かべていく。
 その瞬間、何か気づいたようだ。ハッとなっていきながら
交互に…眼鏡と克哉の顔を眺めて考え込んでいったようだ。

「…あの男、お前さんと知り合いかい? 何となく顔の造作とかが…
印象は違うけど、似ている気がするし。兄弟か何かかい?」

「えっ…? いや、あいつと兄弟って訳じゃないんですけど…」

「…本当にかい? それにしては似すぎている気がするけれど…」

「そ、そんな事は…うわっ!」

 いきなり確認するように、ユキは克哉の頬に両手を添えて
至近距離で見つめ始めていく。
 宝石のような虹彩のブルーの瞳が吐息が掛かるぐらいに近くに
迫ってきていて、大声を挙げていく。
 瞬間、幾つかの瞳と…もう一人の自分の視線がこちらに注がれて
克哉はカアッと頬を熱くしていった。

「へえ、随分と初心な反応するなぁ。克哉って本当に
からかいがいがあるな…」

 しかしユキという男性は慣れたもので、あまり動揺した様子を
見せずにおかしそうにクスクスと笑っている。
 だが克哉の方はその間、気が気ではなかった。
 チラリと横目でもう一人の自分の反応を伺って行ったが…彼の顔には
何の感情も浮かんでいるように見えなかった。
 こちらに気づいてはいるが、他の男と一緒にいても心配している
風でも嫉妬している様子もない。

(…結局、あいつにとってオレなんてその程度の存在でしかないのかな…)

 あいつの表情に、何の色も浮かんでいない。
 その事実が少し切なくて、寂しかった。
 そうしてもう一人の自分に脇見している間に、ユキの顔はすぐ
間近に迫って来ていた。

 チュッ…

 あっ、と思った瞬間にはすでに遅かった。
 不意を突かれて克哉は頬に小さくキスを落とされていく。
 瞬間、慣れないことをされて大きく動揺して…克哉は顔を真っ赤に
しながら相手から飛びのいていった。

「うっ…わわわわっ! えっ、今…一体何を…!」

 克哉はスツールから慌てて腰を上げて相手から身を離していくと
こちらの過剰な反応に、男性の方もびっくりしたらしい。
 驚いたような表情を浮かべていくと…それからすぐに愉快そうに
微笑んでいった。

「…うっわ~…まさかここまで派手な反応されるとはね…。克哉って
本当に遊び慣れていないんだな~」

「あ、当たり前です こ…こんな事、され慣れている訳ないでしょう!」

「…オレにとってはこれぐらい挨拶の範囲内なんだけどなぁ…。いや、
まさかここまで可愛い反応されるとは…」

「…可愛いとかそういうの言わないでください。不本意ですから…」

 それから警戒するように克哉はジリジリと相手から後ずさって離れて
いこうとしていた。
 その気配を察したらしい。
 ユキは軽く手招きするような仕草をすると、朗らかな笑顔を浮かべながら
際どいことをサラリと言った。

「あ~大丈夫、いきなり襲ってホテルに連れ込んだりはしないから。
一応俺は…強姦とか、無理やりっていうの嫌いな性分だしね。
不意打ちでほっぺにキスぐらいはするけれど、乗り気じゃない子を
強引に口説いてベッドに連れて行ったりはしないから安心しなさい」

「…それって一体、どんな台詞なんですか! 余計警戒しますよ!」

 ユキにからかわれている内に、気づけば店内の人間の注目は
克哉に集まりつつあった。
 本人にはあまり自覚はないが…克哉はこれでも相当に整った
容姿の持ち主である。
 しかもこの街に馴染んだ様子がなく、からかわれて振り回されていろんな
顔を見せている様は他の男の関心も知らない内に引いていた。
 二人のやり取りを、鋭い瞳で目がねは眺めていたが…克哉は
気づかなかったがその顔には面白くなさそうな色が濃く現れていた。
 克哉が顔を真っ赤にしながらぎゃあぎゃあと言っている間に…眼鏡は
そう遠くない位置のスツールに腰を掛けていったのだが、今の
頭に血が上っている彼は気づくことはなかった。

「ようするに合意じゃなきゃ、俺は押し倒しはしないよって言って
いるんだよ。まあお前さんはからかいがいがあって非常に面白くて
結構だが…他に目的があるんだろ?」

「そ、そうですけど…」

「ちなみに件の男前さんは、お前さんの近くに座っているぞ」

「ええっ…! まさか…そんな…! うわっ!」

 克哉が心底狼狽しきった様子で慌ててユキが指を指した方角に
顔を向けていくと…物凄い目を鋭く光らせたもう一人の自分と
ばっちり目が合ってしまった。

(うわぁ~! 今、驚きまくって『俺』の方から意識を逸らしてしまって
いたからなぁ。何かさっきまでと違って、目が凄く怖い気がする~!)

 眼鏡は克哉より二つ隣のスツールに腰を掛けていて、その間には
誰も存在していない。
  少々、距離を取った形での隣同士に気づけばなってしまっていた。
 さっきまで赤かった克哉の表情が、今度は一気に蒼ざめていく。
 そして目の前のユキなる男性は、明らかにこちらの反応を大いに
楽しんでいるようだった。
 目元が大変に微笑んでいる事実から見ても、間違えがない。

(…この人、絶対にオレのことをからかって遊んでいる! この顔から
見ても間違いない! どうしてオレってこういう風にいつも振り回される
側なんだよ!)

 心の中でそう叫んでいきながら、克哉は本気でどう対応したら
良いのか悩んでしまっていた。
 ユキと名乗る男性に一言告げて、さりげなく席移動をした方が
良いのだろうか。
 自分がこの街に足を向けたのは、もう一人の自分に会いたい一心だ。
 だから目的を果たすなら、行動を起こすのは今しかないと思った。

「あの…すみません…!」

 意を決して、克哉がユキに向き直って一言断ってもう一人の
自分の方へと行こうとした矢先に…。

「お兄さん、久しぶり。昨日の夜は最高だったよ…また会える何てね…」

 と、右隣の眼鏡の方に声を掛けてくる若い男性が近づいて来た。

(…えっ? 今、何て…?)

 その若い茶髪の男性の雰囲気は年齢こそ若干こちらの方が上だが
もう一人の自分が以前、気まぐれに抱いたことがある秋紀という少年に
何となく似ている気がした。
 猫のような印象の、少し中性的な容姿の若い男だった。

「あんなのが最高、か。お前も物好きだな…。あの程度で満足か?」

「うん、とっても良かった…ねえ、良かったら今夜も…」

「気が向いたらな…」

 二人のやり取りを聴いている内に、克哉は次第に穏やかではない
気分になっていく。

(…まさか、あいつ…あの人と…?)

 二人が交わしている会話を深読みすれば、どう考えても昨日
二人は夜を共にしているような…そんな感じだった。
 その一言にハンマーで頭を叩かれたような衝撃を覚えていく。
 信じたくなんて、なかった。
 けれどそれ以外の答えが見出せない。

「ウソ、だろ…?」

 克哉はショックを受けたような、呆けた表情で視線を
彷徨わせていく。
 だから彼は気づかなかった。

―その若い男性を目の前にした瞬間、さっきまで余裕ありげで
愉快そうだったユキの顔までも強張っていた事に

 夜の街は様々な人の想いが交差する
 虚言、嘘、駆け引き、誤魔化し。
 真実の想いを隠し、一夜の愛を求めるもの。
 その言葉のゲームを楽しみ、空気だけを満喫するもの。
 人の心をもてあそび、掻き回すことに興じるもの。
 傍観者に撤して、人の思惑がぶつかりあう様を愉快そうに眺める者

 決して画一ではない、多くの人間の思惑が小さな界隈で
幾つも交じり合い、複雑な模様を生み出していく。
 そして今、二人の克哉の思惑は…それぞれに声を掛けて
関わるものが現れたことで、少しだけ複雑に変わっていったのだった―


 
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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