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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―結局、克哉がMr.Rがヒントを出した場所の目星がつくまで
三日間を費やしてしまった。
 そして接待とかそういう口実もなく、夜にこの場所へと初めて
足を踏み入れる事で克哉は非常に緊張していた。
 目の前には眩いばかりの鮮やかなネオンが光輝いている夜街。
沢山の人間の想いや欲望、陰謀が渦巻いている場所。
 
―そして男が男を求めて賑わう歓楽街
 
(…新宿二丁目か。今までに仕事の接待でゲイバーぐらいなら
行った事があるけど…夜にプライベートで足を向けるのは初めてだな…)
 
 ふう、と深く溜め息を吐きながら克哉は周囲を見渡していく。
 新宿周辺はいわゆる歓楽街として有名な地だ。
 残された言葉が指す場所を克哉なりに必死に考えて「歓楽街」と
いう処まではすぐに行き当たった。
 しかしそれではどこの歓楽街なのかまでは特定出来なかったので
最初の二日間はエラい目にあったのだ。
 
(…何か良いカモにでもみられたんだろうな…。やたらとソープの
呼び込みのおじさんがしつこかったり…ケバいキャバ嬢に興味持たれて
異様に色目を使われたり…迫られたり…)

 特に昨日言い寄られたキャバ嬢はよほどこちらが好みのタイプだったらしく
本気で押し切られそうで身の危険すら感じた。
 流されて他の人間に既成事実を作られてしまったら、どんなややこしい
ことになるか判ったものではないからどうにか言いくるめて隙を作り、
それこそ全力疾走で走り続ける羽目になったのだ。
 …キャバ嬢とサラリーマンの追走劇など、そうそう見られる光景ではない。
 周りの人間に痛いぐらいに見られ続けて、本気でシクシクと泣きたい心境に
陥った。あの周辺にはしばらく行きたくないとトラウマになりかけているぐらいだ。
 恐らくもう一人の自分がこちらのそんな様子を見たら嘲笑う事、間違いないだろう。
 それくらいトホホな有様だった。
 
(…けど、今度こそここで間違いない筈だ。あいつはオレに手を出したって
いう事は…男に興味があるって事だし。都内に数多くある歓楽街の中で
多くの男がそういう意味で集うのはきっとここしかないと思う…)
 
 克哉は随分と長い間、街の入り口に気負った表情を
浮かべながら一人で立っていた。
 それが異常に多くの人間の目を惹いてしまっていた事に
彼自身はまったく気付いていなかった。
 本人に自覚は殆んどないが克哉は元来、非常に整った容姿の
持ち主である。特に眼鏡に何度か抱かれてから…妙に色香が
漂うようになっていたのだ。
 同じ嗜好の男をかぎ分けてゲットする事に達けた男たちが
こんな美味しそうな獲物を見逃す筈がなかった。
 周りの人間は暫く遠巻きに克哉を見ていたが、その中の若い男の
一人がスウっと間合いを詰めていった。
 
「ねえ、お兄さん一人なの? それなら今夜…俺と遊ばない?」
 
「えっ…?」
 
 いきなりまったく面識がない人物に背面から慣れ慣れしく
肩を叩かれてギョッとした表情を浮かべながら振り返っていく。
 そこには克哉とそう年が変わらないくらいの、二十代半ば
程の男が立っていた。
 やや全体的に長めな黒髪にカラーコンタクトが入った蒼い瞳。
 顔立ちは鼻筋が通っていて整った方だが笑うと妙に愛嬌があった。
 それにつられて反射的に克哉は営業スマイルを浮かべてしまっていた。
 営業マンの悲しい条件反射だった。
 すると黒髪の青年はすかさず克哉の顔を無躾なくらいマジマジと見つめてきた。
 
「な、何ですか…?」
 
「うん、やっぱり綺麗な顔をしているな。思わず見惚れてしまうくらいだ」
 
「はっ?」
 
 今までの人生で克哉は同性の相手にこのような口説き言葉を
吐かれた経験はまったくなかった。
 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていくと相手はすぐに克哉が
この街のような場に慣れていない事を感じとったらしい。
 
「ふーん、あんたはこういう場所で遊び慣れていないタイプ何だな。
良いな…何だか新鮮な感じがする」
 
「あ、当たり前でしょう。今までのオレは…夜に一人でこういう
場所に来た事はありませんから!」
 
「…何だか危なっかしいな。あんたみたいに真面目そうなタイプが
案内人もなしに一人でこんな処を歩いていたらどんな目に遭うか分からないぜ?
 
「…それは何となく分かっていますけど、オレが探している人間が
この街にいる可能性が一番、高いんです。だから探しもしないで
尻尾巻いて帰る事だけはしたくないんです…」
 
克哉が真剣な表情を浮かべながらそういうと黒髪の青年は少し
悩むような仕草をしていった。
 
「…何か訳ありみたいだな…。仕方ないな。俺で良いなら付き合って
やろうか? 慣れてない奴が一人でうろつくより、二人で行動する方が
変な奴に捕まりにくくなるし。
 俺の馴染みの店くらいは案内してやれるけど…どうする?」
 
 男は人懐っこい笑みを浮かべながら軽口を叩くような口調で
問いかけてくる。
 
(…どうしようか)
 
 困ったように克哉は青年から目を逸らしていくと…その時になって
ようやく自分に注がれていた無数の視線に気付いていく。
 多数の人間からの無遠慮な視線や眼差しというのは時に
暴力や、無言の圧迫にもなりうる。
 
―まるで値踏みされているみたいだ…
 
 克哉は何となく、見知らぬ人間たちの視線が怖くなった。
 それはまるで子羊が狼の群れの中に無防備に迷い込んでしまったようなものだ。
 克哉は本能的に身の危険を感じていった。
 
(…今はこの人の提案に乗った方が良いのかな?)

 自分はこの街の内部をまるで知らない。
 人に連れてってもらう形でしか、店に入ったことはない。
 人間…他者に連れて行ってもらう場合はそこまで店の位置や周囲の風景を
細かくチェックしないものだ。だから全然、この辺りの地理についてはさっぱりだ。
 どんな人間がいるのか、店があるのかその予備知識すら全くない状態なのだ。
…それに少なくともこの青年についていけばこれ以上ナンパされる事はないだろう。
 暫く思案して、ようやく克哉の腹は決まっていった。
 
「…あの、案内宜しくお願いします。本当にオレはこの辺りに
間しては不慣れですから…」
 
「ん、了解。それじゃ行こうか」
 
「…わっ!」
 
いきなり青年に手を握られて克哉は声を挙げていく。
だが当人はまったく気にした風はなく…悪びれた様子もなく
強引に手を引いて歩き始めていった。
 
「あ、あの…手が…」
 
「あぁ、この方がはぐれないで済むだろ? 」
 
動揺している克哉と対照的に、青年の方は悪びれもせずにあっさりと答えていく。
 
(…本当にここに足を踏み入れてオレは大丈夫なんだろうか?)
 
少し怯む気持ちも生じていったが…ここまで来たら引き返す方が格好悪いだろう。
 
―あいつに会いたい。
 
自分の中にあるその想いは確かなのだから。
そうして一抹の不安を覚えながらも克哉は二丁目に足を踏み入れていく。
 
―その先に待ち受けている展開がその予想を遥かに越えたもので
あった事を未だに知らずに…
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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