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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―青い鳥の話を知っていますか?
 二人の兄妹が幸せを求めてあちこちを旅をしていたら、探していたものは
自分の家にあったというお話です。
 人というのはすでに欲しいものを手に入れていても、解釈や物の見方によって
幾らでも不幸や盲目になれるものなのですよね。
 本当に欲しいものはすでに貴方達は手に収めている事実に…
 いつ、気づかれるのでしょうかね…?


 屋上から死ぬ思いで眼鏡の部屋に侵入した克哉は、ベランダに着地した際に…
腰が砕けそうになっていた。
 心臓がバクバクと鳴り、どっと冷たい汗が背筋から競り上がって来る。
 同時に…そのまま全身に力が入らなくなって、コンクリートの地面の上にへたり
込んでいった。

「はあ…は、はっ…はぁ…」

 呼吸が全然、一定になってくれない。
 激しい動悸と眩暈の発作に襲われて1~2分、そのままの体制になっていた。

(こ、怖かった…もし着地に失敗していたら、本気でどうしようかと…)

 そう感じながらも、どうにか目標の地点にたどり着けた事に心から感謝しながら…
克哉は室内の探索を始めていった。
 窓ガラスを開けて、室内に入り込んでいくと…ブワっと何か濃密な香りが襲い掛かった。

「うわっ…これ、は…?」

 一日だけこの部屋で一緒に暮らしていた時はあまり意識していなかったが…この部屋の
中には甘酸っぱい何かの果実のような、蟲惑的が匂いが充満していた。
 外界から、その空間に入った事によって強く意識をさせられていく。

(二日前に初めてこの部屋に来た時には…オレも少しだけつけていたからな…)

 あの時はMr.Rの言葉に素直に従い、逆らう事もせずに素直につけたが…今思うと
軽率な行動だった。
 昨日の眼鏡の、強い拒絶の態度を思い出してズキン…と胸が痛む想いがした。

「…早く、探さないと…!」

 キッと強い眼差しを浮かべながら室内に目を凝らすと…とんでもない物に遭遇した。
 リビングのソファの上に、もう一人の自分が…乱れた服装のまま、横たわっていた。
 胸元は大きく肌蹴ていて、Yシャツとスーツズボンだけを纏っているだけだった。
 相手の顔は真っ赤に染まり、苦しげに胸を上下させている。
 傍から見ても一目で、高熱か何かを出しているのだと判る状態だった。

「だ、大丈夫か…? 『俺』…!」

 慌てて駆け寄りそうになるが、ふっと…冷静な考えが頭を過ぎっていく。
 今の彼は締め切った室内に長い時間にいて…例の欲望を解き放つ効能を持つ
フレグランスに晒され続けていた。
 この状況で…彼の元に駆け寄れば、問答無用で押し倒される可能性が高い。
 昨日の一件がなければ、喜んで身を差し出した事だろう。
 だが…今はダメだ。

 あれだけ御堂に対して拘って態度を示していた彼の、そんな隙を突いて抱かれようと
するのは卑怯以外の何物でもない。
 だから、どうにか傍に行きたい衝動を堪えて…室内探索を始めていった。
 リビングに置いてある調度品から、棚…大きなTVの上から、豪奢なソファの裏まで
くまなく探していったが…まったくそれらしい瓶が見つかる気配はない。
 
(この部屋にはないのか…?)

 少しずつ、もう一人の自分を早く楽にしてやりたいという気持ちから…焦りが生まれてくる。
 だが、どうにか深呼吸をして心を宥めていきながら…探索を続ける。
 一人で暮らすには十分過ぎる程に広い部屋の数々。
 キッチンも…風呂場も、彼の書斎に当たる部屋も、全てを見ていったが…どこにもない。
 Mr.Rは果たしてどこに例のフレグランスを設置したのだろうか…?
 どこにもそれらしい小瓶が見えなかった。

(どこにあるんだ…?)

 寝室に入り込むと、大きなキングサイズのベッドが視界に飛び込んできた。
 一昨日の晩に、初めて部屋に泊まった時に自分自身がベッドメイキングをして…横たわった
場所を見ると、また胸がチリチリと痛んでいく。

(何で、さっきからこんなに胸が痛み続けるんだろう…? あいつが、御堂さんを愛していると
いうのを…一番身近で見守り続けていたのは、オレだっていうのに…)

 どこか切ない表情を浮かべながら、部屋の中を再び探り続ける。
 眼鏡の部屋は、どの部屋も最低限の家具とか置かれておらず…シンプルで機能的な
内装になっていた。
 ゴチャゴチャとしていないから…探すのはそんなに難しくない筈なのに、それらしい物は
まったく姿を見せない。

 フレグランスというからには、きっと瓶に入っている筈なのだが…克哉自身はその形状が
どういった物なのか一度も見ていない。
 大きさもどれくらいなのかを知らない。

 少しずつ焦りで焦れていく。
 その心を鎮めたくて天井を仰いだその時、天井の照明…白い半透明のカバー内に何か小さな
小瓶らしき物が入っていた事に気づいていく。

「なっ…?」

 それに気づくと同時に、近くにあった椅子を持って来て…すぐにその照明のカバーを
外していくと…そこには克哉の指一本ぐらいの大きさの赤い液体で満たされた小瓶が、
蛍光灯と蛍光灯の隙間に、透明テープで貼り付けられていた。

(これだ…!)

 克哉は確信していくと、それを手に取って…大急ぎで洗面所に向かっていった。
 その流しで赤い液体を一気に流し捨てていくと…その小瓶を床に叩きつけて破壊していく。
 そしてそのガラスの後始末をしてから…やっともう一人の自分の元へと向かっていった。

 リビングの窓を全開にして、換気扇を回していく。
 一刻も早く駆けつけたい気持ちを抑えていきながら…部屋全体の空気が入れ替わるのを
待ち続けた。
 そして濃密な空気から、冷たく澄んだ大気に切り替わった頃を見計らって…克哉は
眼鏡の元へとようやく駆け寄っていった。

「大丈夫か…?」

 必死の顔を浮かべながら、もう一人の自分の傍らに立っていった。
 相手の肩を掴んで揺さぶり上げていくが、眼鏡は重い瞼を開く気配はなかった。
 だが…克哉はなおも、相手に呼びかけ続けていった。

「おい…起きろよっ! 『俺』…! いつまで、意識を失ったままなんだよ…!」

 懸命な様子で相手の身体を揺さぶり続けると、ようやく変化が現れた。
 あれだけしっかりと閉じられていた瞼がうっすらと開き始めて、淡い色彩の双眸がゆっくりと
其処から覗き始めていく。
 その澄んだ眼差しを目の当たりにした瞬間…つい、目を奪われていった。

「…あっ…」

 小さく声を漏らして、見惚れていくのと同時に…相手に強く引き寄せられて、心臓が
止まるかと思った。
 強い腕に閉じ込められていく。
 相手の心臓の鼓動を間近に感じて、バクバクバクと…忙しなく胸が高鳴り続けていた。
 そして重ねられる唇。
 初めて触れたその唇は、うっとりと陶酔したくなる程甘く…克哉の意識を瞬く間に
浚っていってしまった。

「ん、はっ…」

 深く唇を吸われ続けて、つい甘い声音が零れていった。
 そうしている間に相手の舌先が入り込んで、たっぷりと淫らに…その口内を丹念に
舐め上げられていった。
 自分の頬の内側から、上下の歯列。上顎の部分から舌の付け根まで…容赦なく
熱い舌先を押し当てられ、擦り上げられていった。

「あっ…んんっ…」

 初めて交わされる情熱的な口付けに…克哉は、あっという間に夢中になっていく。
 今までの人生で、何人かの女性とも付き合って来た。
 しかしどの相手とも…こんなに熱烈な口付けを交わした経験がない。
 全てを奪われそうになるくらいに執拗で熱いキス。
 それに全ての意識を奪われながら、全身から力が抜けていってしまいそうな甘い
感覚に堪えていく。
 息が苦しくて、そのまま窒息してしまいそうだ。
 だが…眼鏡の方は、相変わらず容赦をする気配を見せない。
 そうしている間に、こちらの股間が妖しく疼いていくのに気づかされて余計に
顔を真っ赤にして…我が身を持て余していった。

(もう、ダメだ…これ以上…されたら…)

 お前を欲しいという、この誘惑に勝てなくなってしまうかも知れない。
 そんな恐怖感を覚えながらようやく唇が解放されていくと…。

「み、どう…」

 と…小さく相手が呟く、甘く優しい声音が耳に届いた。

「えっ…?」

 瞬間、胸が焼け焦げそうになるくらいに苦しくなった。
 同時に…無自覚の内に涙が溢れ始めていく。
 それは瞬く間に克哉の両頬を濡らして、床にポタリ…と零れていった。

「あ、れ…? 何で…」

 自分の意思と関係なく、涙が止まってくれない。
 その事実に呆然としながらも…無意識の内に口元を押さえてしまっていた。
 判っていた筈なのに、自分に今のキスが施されたのではないのだと…少し冷静に
なれば自覚出来た筈なのに…そんな考えと裏腹に、目から雫が流れ続ける。
 少しすると自嘲的な笑みが浮かび始めていった。
 力ない笑い声が、克哉の口から漏れていく。
 
 最初から判っていた事なのに…その事実を突きつけられたら、こんなに涙が溢れて
くるなんて予想もしていなかった。
 そうしている間に…きつく、きつく抱き締められていく。
 そして…もう一度、告げられた。

―御堂

 今度は、少しだけさっきよりもしっかりとした声音で。
 現実を突きつけられていく。
 胸が軋んで、悲鳴を上げそうだった。 
 それで初めて…自分はこんなにも、コイツの事が好きだったのだと自覚した。
 強く抱き締められる。
 だが呟かれるのは、『御堂』という単語だけで、自分の事など決して呼びはしない。

(良いよ…今だけでも、代わりになってやるよ…)

 夢の中では、そうやって自分は抱かれ続けたのだから。
 身代わりくらい、お前の為ならば幾らでもやってやる。
 そう決意して…克哉は、もう一人の自分の傍に居続けた。
 彼が目覚めるまで、傍にいよう、と。

 決して、自分自身を必要とされなくても…。
 それでも、克哉は何かをしてやりたかったから。
 だから自分の想いを全て、グっと呑み込んで…彼はその暖かく残酷な
腕の中へと収まり続けたのだった―

 
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 ―奇妙なバランスで成り立っている貴方たちの…苦しみ、もがき、悩み続けている
姿を傍観者として眺めさせて頂きますね。
 さて、その中で…皆様はどのような答えを導き出すのでしょうか…?

 もう一人の自分を追い出してから、一夜が明けた。
 すでに時刻は正午近くを迎えているのにも関わらず、眼鏡は…自宅のソファの
上で指先一本動かせない状態に陥っていた。

(くそ…頭が、朦朧と…する…)

 あれから正体不明の疼きと熱が、彼を苛み続けて…その衝動をどうにか抑え込む為に
冷たい水を30分以上浴びながら自らを宥め続けた。
 この熱を逃す為にそんな行為を続けた結果…どうにか服を変えて、ベッドに転がって
眠りについた頃にはすでに熱っぽくなっていた。
 冬の初めとは言え、この時期に冷水を30分も浴び続けたりすれば身体が悲鳴を
上げるに決まっている。
 
(それなのに、これは一体、何なんだ…?」

 部屋の中の空気が、凄く濃密になり…噎せ返るような匂いが充満していた。
 頭の芯が、ボウっとしてまともに働いてくれなかった。
 何故、こんな事になっているのか…判らない。
 まるで、二日前から大きく歯車が狂ってしまったみたいに…。

「み、どう…」

 小さく、自分の恋人の名前を呟いていた。
 今も愛して止まない人。
 かつては無自覚のまま強く想い、一度は酷く追い詰めるような真似をしてしまった存在。
 頭の中に浮かぶのは、その人の事ばかりで。
 今は高熱に侵されて、身体が参っているせいか…普段だったら寄り付きもしない
弱気な考えばかりが脳裏を支配していく。

(俺の存在は、あんたを傷つけてばかり…だな…)

 二ヶ月前。
 二日前のあの一件が起こる以前に、最後に肌を重ねた日の翌日。
 つい…興じ過ぎてしまって、夢中で御堂を犯し続けた。
 彼が感じて、泣き叫ぶ姿に歯止めが利かなくなり。
 久しぶりに…嗜虐的な部分が覗き始めた日でもあった。

―克哉、もう…嫌だ! 止めて、くれ…!

 途中で何度も、どこか強張ったような顔を浮かべながら御堂は懇願していた。
 だが…今思えば、あの日から自分は思い出してしまったのかも知れない。
 執着している人間を追い詰め、懇願させて自分に縋りつかせる暗い欲望を―
 そして、その翌週から…御堂は、週末に克哉の部屋で待っている事は無くなり
気づけばお互い、仕事で気を紛らわすようになって…自分の我慢の限界に
達して、それで…。

 相手を苛め抜きたい。
 愛すれば愛しているだけ。
 執着すれば執着しているだけ、暗い衝動が自分の中に満ちていく。
 あの人を二度と追い詰めたくなどないのに…本能の部分では、その理性と
真っ向から反発していて。
 その事実に引け目を持っている自分が、いた。

「み、どう…」

 ただ、その人の名を呼び続ける。
 届かない事を承知の上で、うわごとのように。
 身体は鉛のように重くて、自由が効かない状態でも…ただ、求めるように
小さく唇は愛しい人の名を呟き続けた。
 意識が混濁している中、何か微かに物音が響き続けていたが…今はそれを
確認する気力と余裕すらない。
 ガラリ、と窓ガラスが開いたような音がしたかと思えば…何かを探るように
ゴソゴソと小さな音が聞こえ続けて、そして…カシャン、とガラスが割れるような
高い音が聞こえていった。

(なん、だ…?)

 ようやく…誰かの気配が室内にあると。
 その事実に気づいた瞬間、誰かに声を掛けられた。
 もうすでにその段階では、高熱のせいでそれが誰だかを判断する能力すら…眼鏡には
失われている状態だった。
 視界が霞み、すでにはっきりと物の輪郭を据える事すら出来なくなっていた。

「大丈夫か…?」

 ぼんやりとした頭と意識は、それが誰だかをはっきりと認識出来なかった。
 ただ…頭の中に御堂の面影を、言動の数々を再生していたせいか…そのはっきりと
しない視界の向こうに、一瞬だけその人の顔が浮かび上がっていく。
 それは、儚い幻に過ぎなかったもの。
 だが…眼鏡は、その幻を逃したくなくて…軋むような重い身体を必死に動かして
相手を引き寄せ、そして…静かに口付けたのだった―

―自分の意識が出なくなったその時から、世界はガラス越しにしか
感じられないものになった。
 もう一人の自分を通して見る事だけは出来るのに、決して介入する事が
出来ない光景。
 眼鏡の方が、自分を必要としていないから…一切、自分は表に出る事が
叶わず、其処に心だけはあるのに…どんな叫びも届く事はない。
 どれだけもどかしい夜を過ごしただろう。
 だから、愚かにも…Mr.Rの提案に飛びついてしまった。
 『今にも破裂せんばかりのあの方を救いませんか?』と…。
 こんな結果になるなどと、考えもせずに―

 自己嫌悪に駆られながらも、必死になって克哉は走り続ける。
 追いかける御堂の足の速度にも容赦がなかった。

「克哉、待てっ!」

 彼の方もかなり真剣だった。
 だが、克哉も捕まる訳にいかなかった。
 どうしても…自分の方と長く話せば、御堂は違和感を覚えるだろう。
 とても同一人物とは信じられないくらいに、自分達は言葉遣いや立ち振る舞い…
ほんの僅かな仕草や声のトーンまで異なっているのだから。

(本当に御免なさい…! 御堂さん! 今、貴方に捕まる訳にいかないんです…!)

 御堂は、佐伯克哉が同時に二人存在しているという異常事態などまったく知らない。
 克哉も話すつもりはなかった。
 同時に…例のフレグランスをどうにかしなければ、と言う使命感にも似た気持ちが
満たしていたからだ。
 あんな物は、もういらない。
 だからこの手で探し出して、処分をしなければ…御堂が訪ねられる環境が整えられない。
 遮二無二、夢中で足を動かし続けて逃げ続けていくと…目の前に点等して、バーが
ゆっくりと折り始めている線路が立ち塞がった。
 危険なのを承知の上で、克哉は其処に向かって一直線に走り抜けていく。

「なっ…!」

 背後で御堂が信じられないという想いで声を挙げていく。
 だが克哉は迷わなかった。
 そのまま全力で反対側の車線に躍り出ると同時に、目の前に『空車』と表示された
タクシーが通りかかった。

「すみませんっ! 止まって下さい!」

 手を挙げながら大声で呼びかかっていくと…すぐに自分の前に一台の黄色いタクシーが
停車していく。
 その中に素早く乗り込んでいくと…克哉は行き先を告げていった。

「アクワイヤ・アソシエーション前にお願いします」

「了解しました」

 流石、近所を走っているだけあって運良く…運転手の方も眼鏡が興した会社名を
知っててくれたようだった。
 チラリと踏み切りの方を見ると、勢い良く電車が走り抜けていく処だ。

「すぐに向かって下さい」

「はい、では向かいますよ」

 運転手が返事すると同時に車が動き始めていく。
 恐らくこの先の道で方向転換して、来た道を戻って行く事だろう。
 線路の付近で、御堂が必死の形相で克哉の姿を追いかけている姿が目に留まっていった。

(本当にすみません…御堂さんっ!)

 心の底で、彼に詫びていきながら…克哉はそのまま、タクシーで今…逃げたばかりの
道を真っ直ぐに戻っていったのだった。

                                  *

 タクシーが停車すると同時に、大急ぎで眼鏡の住居があるビルの中へと入っていくと
エレベーターに乗り込んで真っ直ぐに向かっていった。
 だが…インターフォンを何度鳴らしても、反応がないままだった。
 ドアノブに手を掛けると、鍵がしっかりと掛かっていて…まったく開く気配はない。

「もしかして…出掛けたのか…?」

 何度も、何度も飽きる事なく呼び鈴を鳴らし続けていたが…反応はないままだった。
 居留守を使われている可能性もあったが…克哉はどうしても諦め切れなかった。

(むしろ…あいつがいない方が好都合かも知れない。オレの目的は…例のフレグランスを
探し出して、処分をする事なのだから…)

 そう考え直していった。
 だが、都内でも一等地に建設されて…セキュリティ関係も万全(克哉の場合は、眼鏡と
顔は一緒だったのでフリーパスだったが)のビルには、通路側から入れそうなサイズの
窓の類は一切ない。 
 小さな窓は通気口に使うのがやっとだった。

 非常口の類も、室内にいる人間ならば使えるが…外部からの人間が入って来れないような
造りになっているだろうし…アイツが、こちらの通路側にこっそりと鍵を置いておいてくれるような
マヌケな真似は幾ら何でもしないだろう。
 …そうなると、侵入経路は屋上からしかない。
 最上階に位置するこの部屋ならば、屋上から一階分だけ降りればどうにか入れるだろうが…。

(本当に…そんな真似が出来る、のか…?)

 今までの人生の中で、そんな命知らずな真似をした事がない為…想像するだけで
眩暈がしそうだった。
 だが、それ以外に方法がないのならば…やるしか、ないのだ。
 そう決意した克哉は屋上に続く階段をゆっくりと昇り始めていく。
 幸いにも、マンションの屋上に続く扉は開かれたままだった。

 広々と取られた空間は、しっかりと四方を柵で覆われて…簡単には飛び降りたり、身を
乗り出して落下したりしない造りになっている。
 頭の中で、必死になって眼鏡の部屋の構造を思い出して…見当をつけていった。
 ふと、下を覗き見てしまっただけで…背筋がゾっとしていく。
 ここから落ちたら、一溜まりもないだろう。
 そんな怖い想像が頭の中を過ぎっていったが…今はどうにか、呑み込んでいった。

(…ここで怯む訳にはいかないんだ。もうこれ以上、アイツと御堂さんが不和になる
要因など部屋の中に残しておく訳にはいかない…! そもそも、オレが安易にあんな
提案になど乗らなければ…こんな事態は、招かなかったんだから…)

 だから、せめてこの手で正さなければ…何の為にこうして、ここにいるのかが
判らなくなってしまう。
 そう考え、恐怖を押さえ込んで…彼は覚悟を決めていく。

「…行こう」

 そう短く呟いて、彼は屋上の柵を越えて…ゆっくりと、身を躍らせて下のフロアへと
下り始めていった―

  翌日、眼鏡のマンションからそう離れていないビジネスホテルに一泊すると
そのまま真っ直ぐにアクワイヤ・アソシエーションが入居しているビルの前へと
克哉は足を向けていた。
 一晩明けて、こちらの方は少しは冷静さが戻って来ている。
 だが、あの興奮状態で冷水を被って…無理矢理理性を取り戻していた眼鏡の方が
どんな事になっているのか。 
 それを想像すると、身体が竦む想いがした。

(アイツ…怒っているかな。オレの顔なんて、もう見たくないって考えているのかも…)

 都内でも一等地に建てられているこのビルは、目の前に立っているだけでも
圧巻ものであった。
 その手前で逡巡しながら、暫く其処から身動き取れなくなっていた。
 自分は、アイツの傍にいたい。
 けれど眼鏡は自分を拒むかも知れない。
 その迷いが、克哉の行動の妨げになっていた。

(…けど、このまま迷い続けていても仕方が無い。オレがこうして…身体を持って
行動出来る期間は一週間しかないんだ。今日ですでに三日目。
残された時間はそんなに多くないんだ…ジッと立ち止まっていても何にもならない…)

 そう覚悟を決めて、一歩を踏み出そうとしたその時…!

「佐伯…」

 聞き覚えのある声の主に、呼びかけられた。

(この声は…?)

 ぎょっとしながら振り返ると、其処には御堂の姿があった。
 いつもと同じように糊がパリっと効いていそうなスーツに身を包み、一筋の乱れもなく
髪型もセットされている。
 堂々とした体格と風格。それを目の当たりにして…ゴクンと克哉は息を呑んでいった。

「…おはよう、だな。しかしこんな処で何をやっているんだ? 自分のマンションの前に
ぼんやりと一人で立っているなど…。確かに今日は休日だが、君はそんなに…
暇、なのか?」

「あ…そ、その…え~と…」

 何で御堂がここにいるのだ? と心底不思議に思いながらも…克哉はしどろもどろに
なるしかなかった。
 確かに、眼鏡の方はこのマンションに会社と住居を構えている。
 そんな彼が、自宅前で意味もなく立ち止まっていたら奇異以外の何物でもないだろう。
 言いよどむ彼の態度に、不審に思ったのだろう。
 眉を大きく顰めながら、溜息を突いていった。

「…ん? 何か今朝の君は雰囲気が違う気がするな。その髪型と…トレードマークの
眼鏡はどうしたんだ?」

「あ、あの…ちょっと気分を変えてみたくなったので。あまり気にしないで下さい…御堂さん」

「何…?」

 克哉が、呼びかけの言葉を口にすると同時に…御堂の表情が一層険しいものへと
変わっていく。
 その顔を見て、心底…しまった、と舌打ちしたくなった。

(…そうだ! あいつはいつも御堂さんの事を『御堂』か、二人きりの時は『孝典』と呼び捨てで
呼んでいるんだった…)

 特に二人は恋人同士だ。
 今更、相手を「さんづけ」にするなど、他人行事過ぎて不自然だ。

「…本当におかしすぎるな。本当に君は佐伯…か? 私が良く知っている彼ならば…絶対に
こちらを『さんづけ』でなど呼ばない筈だ。アレは年下の癖に大変に傲慢で強気で、不遜な
男だからな。再会してから私を御堂さん、となどと呼ぶのは…意地悪する時か、からかう
時しかないと相場が決まっている…! 新手のからかいのネタか…?」

(うっわ…! 本当にアイツって何をやっているんだよ…!)

 ここ二年ほどは、眼鏡の方を内側から見守り続けていたが…克哉の方は彼の全てを
知っている訳ではない。
 意識は浮かんだり、沈んだりの繰り返しで…彼の行動や言動を知っている時もあれば
まったく知らない事もある。
…特に御堂と恋人同士として、二人きりで過ごしている時のやりとりは何となく胸が苦しい
上に、覗き見をしているような気分になるので殆ど知らないが…そんな振る舞いをしていた
などと知らなかった為に、心底ツッコミたかった。

「克哉…答えないのか?」

 そうしている間に、片方の腕をガシっと掴まえられた。
 真っ直ぐに向けられる真剣な眼差し。
 克哉が硬直している間に…耳元に唇を寄せられて―

『それとも、君がそんなオドオドした態度になっているのは…一昨日の夜の事に
関して、強い引け目を持っているからか…?』

 そう、囁かれた瞬間…ハっとなった。
 昨日の晩に、中途半端にもう一人の自分を煽ってそのままにしておいた事を。

(そうだ…あの香りは、まだ…アイツの部屋の中に設置したままだ…!)

 本当は一昨日の夜、自分が現れた夜に…彼の部屋に直接向かう算段の筈だった。
 恐らく御堂がその数時間前に訪ねて、待ったりなどしなければ…その日、襲われるのは
自分の筈だったのだ。
 それ以前に二ヶ月、御堂と肌を重ねていない眼鏡の欲求不満度は恐ろしい事に
なっていて、ほんの僅かな刺激だけで溢れ出してしまいかねないくらいだった。

 その解放の為に、元々自分が現れる算段だった。だが…何の運命の悪戯か、
ほんの僅かだけ歯車が狂って、あのような結果が招かれてしまったのだ。
 あの香りはMr.Rの特製のもので、人の欲望を解き放ちやすくする効能があるという。
 そのフレグランスを設置したまま…御堂が彼の部屋になど向かえば…同じ事が
起こるのは明白、だった。

「そうだ、と言ったら…どうするんです、か…?」

 険しい顔になりながら、克哉は答えていく。
 このまま…彼を眼鏡の部屋に行かせる訳には、いかなかった。
 せめてもう一人の自分がどういう状況になっているか、把握してからでないと…
余計に二人に亀裂を作る結果になってしまう。
 そう結論が出た時、克哉は決意した。

「だから、今は…貴方の顔を見たくないんです…! だから…!」

 そう切ない声音を出して、その手を振り払っていく。
 そして…勢い良く駆け出していった。

「克哉っ…! 待てっ…!」

 御堂が、ぎょっと目を見開きながら慌てて克哉を追いかけ始める。
 だが彼は一切、足の速度を緩めない。
 全力を持って走り始めていった。

―これで良い。こうすれば…恐らく、この人を今だけでもオレの方に引き付けられる筈だ。

 それは彼の一世一代の演技であり、賭けだ。
 とりあえずあのフレグランスをどうにかする前に、御堂をあの部屋に上げさせる訳には
いかないから。
 そうして、彼は全力を持って逃げ続ける。
 これ以上、彼らにヒビを作らない為に―

 ―これ以上、もう一人の自分に同じ過ちを犯させない為に、克哉は全力疾走していった。
 ―マンションを後にすると、冷たい空気で身が切られそうなくらいだった。

(あぁ…こんなに、外は寒かったんだな…)

 昨晩は少しの時間しか屋上にいなかったせいか、先程の出来事で心が
冷え切っているせいか…とても寒さを感じてしまっていた。
 暖めてくれるものがあれば良いと、無意識の内にそんな事を考えながら
克哉は深い溜息を突いた。

(あんな風に拒絶されると、やっぱり…ヘコむよな)

 さっきの眼鏡の態度をふと思い出し、つい涙ぐんでしまいそうだった。
 抱かれても良いと、メチャクチャにされても構わないと…最初からその覚悟で
目の前に現れた筈だったのに、それを果たす事が出来なかった。
 まるで夢遊病者のようにフラフラと彷徨い歩き、歩道橋の上に上っていき…
その縁へと身を凭れさせていく。
 昼間は渋滞ばかりしている道路も、22時半を越える頃には…車の通りも
まばらになっていく。
 代わりに視界の向こうに広がるネオンは、鮮やかなくらいだった。

 都会の空の下では、星の瞬きを見る事は出来ないという。
 いや…地上で輝く光があまりに強すぎて、三等星くらいまでの強い光を
持っている星じゃないと負けてしまって…肉眼で捉える事が出来なくなって
しまうのだそうだ。
 強い光は、弱い光を覆い隠して見えなくさせてしまう。
 自分の人生を放棄して、もう一人の自分に生を譲っても構わないと…抗う
事すら止めた人間など、眼鏡や御堂のように強い鮮烈な生の輝きを放つ
人間には霞んで、取るにも足らない存在に過ぎないのだろうか…。

(あれだけ余裕無くて、切羽詰った感じだったのに…御堂さんからの着信音を
聞くだけで理性を取り戻していたしな…)

 その事実に、何故か胸がズキン…と痛んだ。
 どうしてこんなに切ない想いをしなければいけないのか。
 そんな自分を不思議に感じながら、克哉は…かつての事を思い出していった。

 ―お前がどれだけあの人を想っていたのか。再会するまでの一年間…それを
一番間近で見続けたのは、オレだけだから…

 そう、眼鏡自身も御堂と訣別してからその想いを自覚した。
 脅迫、監禁、陵辱…訴えられても仕方ない振る舞いをしてまで御堂を追い詰めて
『自分の元に堕ちてこい』と言ったその動機。
 何が何でも御堂孝典という存在を手に入れようとしたしたその理由は…眼鏡が
あの人に憧れて、自分のいる位置まで引き摺り下ろそうとしたからだった。
 ボロボロになって廃人寸前にまで追い詰めた時にやっとその想いを自覚した
眼鏡は…あの人を解放し、その前から姿を消した。

 再会するまでの一年、どれだけあいつは…あの人を追い求めていたのだろう。
 探し出して、もう一度逢いたいと…強く望む気持ちと、彼の為に二度と自分は姿を
現してはいけないと葛藤し続けていた。
 …その頃には、克哉を弄りながら愉しげに犯した男の面影はなく。
 ただ、叶う事を望んではいけない恋に苦しむ存在に過ぎなくなっていった。

(お前は、本当に御堂さんを想って…その将来の為に自分の想いを押し殺し続けて
いたのを…誰よりも良く、知っている。だからオレは…)

 夢の中で、何度も…お前に抱かれた。
 御堂さんの代わりに…あの人の姿で―

 見ていられなかったから。
 諦めようとしている人間に、そんな振る舞いをするのがむしろ残酷である事は
判っていた筈なのに、どうしても…誰にも見せない心の深遠で、叫び続けているあいつに
何かしてやりたいと想った。
 同時にそれくらいしか、気づかれないで出来る事など…何もなかった。
 あいつは自分の存在など、すでに意識しなくなっていたし…呼びかける事もなかったから。
 心の世界では、形など幾らでも変えられる。
 だから…御堂として、自分は何度も何度も…あいつの心が、あの人を求めているのを感じると
その飢えをそういう形で、満たしていた。

(オレ…バカだよな。それで…深みにハマってしまって…)

 その夢で彼が心から愛しげに抱いていた御堂が、自分であった事など…恐らく言わなければ、
眼鏡は決して気づく事はないだろう。
 自分だけが抱いている、秘密。
 けれどその日々の中で…自分はあいつに、情を持ってしまっていた。
 内側から何も出来ない。
 特に最近のあいつは多忙すぎて、夢を見る暇もないくらいに…毎夜、深い眠りに就いていたから
余計に何も出来なくて。
 だからもどかしくて、苛立っている内に…Mr.Rの声を聞き、彼の提案を受け入れて…自分は
あいつの前に現れる決意をしたのだ。

「…今夜は、どこかのホテルにでも泊まろう…。あいつの怒りが解けるまで…後、何日
くらい掛かるかな…」

 暫く橋の上で逡巡していたが、身体が冷え切ってしまっていたので…そろそろ、今夜の
寝床となる場所を探さないといけないようだった。
 自らの身体をぎゅっと抱き締めながら、克哉は夜の街を当てもなく彷徨い歩いていく。

「…っ!」

 ふと蘇る、夢の中での…優しいあいつの眼差し。
 心から愛しいと、こちらに触れて抱いていたその記憶を思い出して一筋だけ
頬に涙が伝っていった。
 決して、自分自身にあの目が向けられる事がないと最初から判っていたのに…。
 あの人を一途に想うようになってからのアイツを想うようになったなど…最初から、
不毛極まりないのに…。
 どうしても克哉は、その気持ちを…自分の中から切り捨てる事は、出来なかった―

 
―オレを壊しても良いよ

 相手の耳元で、そう小さく呟いていく。
 それはある種の、殺し文句にも近い言葉。
 眼鏡が瞠目したまま、その場に硬直していくと…更にあの濃厚で妖しい香りの
密度が増していった気がした。

―はあ、はあ…はあ、はあ…!

 もう頭の芯が痺れて、どうしようもなくなる。
 御堂と再会してから一年、いや…それ以前からも燻り続けていた嗜虐的な本能。
 それが出口を求めて、荒れ狂い、眼鏡を翻弄させていった。

(ダメ、だ…もう…!)

 先程の口淫が効いたのか、もう理性は限界寸前だった。
 目の前の強烈な誘惑に抗えなくなっていく。
 我慢を押し殺して、克哉を貪りつくしたい。この衝動を吐き出して楽になりたいという
想いが頂点に達していくと…ふいに身体が動くようになった。

 ―かなり荒々しく、乱暴な形で!

「くそっ…!」

 苦々しげに呟くと同時に、腕の中の相手を豪奢なソファの上へと組み敷いて首筋に
顔を埋めていく。
 その身体をしなる程に強く掻き抱き、かなり強い力で首筋から鎖骨に掛けて
吸い上げていった。

「いっ…っ…!」

 あまりの鋭い痛みに、克哉は軽く呻きながらビクン…と身体を撥ねさせていく。
 だが乱暴にYシャツのボタンを外されて、滑らかな胸板が晒されると胸の突起にも
性急な愛撫を施されていった。

「あっ…んっ…!」

 硬くなっている胸の尖りを、指で摘まれて痛いぐらいに刺激されて…痛覚の入り混じった
甘い快感が全身に走り抜けていく。
 そうしている間に、首筋に歯を思いっきり突き立てられていった。

「うあっ…!」

 其処から、うっすらと血が滲んでいくのが判った。
 灼けるような感覚と、そしてズキズキと脈動する度に僅かながらに血が流れ出ていく
感覚を自覚していった。
 眼鏡は、その血を舐め取っていきながら…首筋から、鎖骨に掛けても強く吸い付いたり
噛み付いていったりを繰り返していく。

(痛い…けど、オレ自身が言った事、何だ…。御堂さんを、壊すぐらいなら…いっそ、オレを
壊せば、良い…!)

 御堂は、公私ともに眼鏡にとって欠かすことが出来ない大切なパートナーで。
 逆に自分は…この男から人生を奪わなければ、自分の生を得る事も出来ない―今と
なっては亡霊に過ぎない存在だ。
 この衝動を解き放たなければ、眼鏡はいつかはまた同じ過ちを犯してしまう。
 それなら…自分を避雷針代わりにすれば良い。
 最初からそれを覚悟して、彼の前に現れて昨日から傍にいたのだ。
 だからどれだけ痛めつけられようとも、克哉の方から…その腕を放すつもりなどなかった。

(もう…あんなお前を、見続けるのは御免、だ…)

 御堂と再会するまでの一年。
 自分は恐らく一番傍で、かつての傲慢で自分勝手だった男が…徐々にその想いによって
変わっていく様を誰よりも近い位置で見守り続けた。
 あの頃に生まれた、コイツの為に何かをしてやりたいという気持ち。
 その感情に殉じたい。今の克哉には…愛されたいとか、優しくされたいとか見返りを求める
心は一切ない。ただ、そんな想いしかなかった。

「熱い、な…」

 そんな考えが過ぎっている間に、眼鏡の手が…ジッパーを引き下げて克哉の性器を
握り込んでいく。
 痛み交じりの愛撫でも、身体の方はすっかりと反応しきっていて…熱い雫を先端から
零し続けて、ヒクヒクと震えている。
 それを目の当たりにして…克哉は一気に頬を染めていった。

「…やだ、見るなよ…。恥ずかしいから…!」

 眼鏡の視線が、欲情に滾って…ギラギラと輝いているのが判る。
 その眼差しで、自分の痴態を眺められてどうしようもなく身体が熱くなっていく。
 覆い被さる相手の下肢に、硬く張り詰めたペニスが息づいているのが目に入って…
ゴクン、とつい息を呑んでしまう。
 身体が熱くて、そのまま気が狂ってしまいそうなくらいだ。
 けれど慌しくペニスを扱かれている内に…もうどうでも良くなってしまう。

「んっ…あぁ…!」

 蜜を滴らせている先端に濃密に指を這わされていると思えば、ふいに鋭く爪を突きたてられて
切羽詰った声で啼いていく。
 一気に鈴口から、トロリとした先走りが滲み出て来て…それだけで恥ずかしくなって耳まで
赤く染めていった。

「はっ…ぁ…」

 二年ほど前に余裕たっぷりに自分を抱いて弄り続けた男の表情は、今はまったく余裕
なさげに荒い息を漏らし続けていた。
 その手が乱暴に克哉の下肢の衣類をも取り去っていく。
 足を大きく開かされて、いきなり…その滾りを押し当てられていった。

「…っ!」

 まったく慣らされる気配もなく、蕾にガチガチに硬くなった性器を押し当てられて克哉は
息を呑んでいく。
 流石にこの瞬間は緊張してしまう。
 一瞬だけ怯えた表情を浮かべると…ふいに相手の眼差しと、視線がぶつかりあった。

(怖い…けど、構わない。オレは…覚悟の上で、来たんだから…)

 竦みながらも、どうにか微かな笑みを浮かべて…相手の首筋に抱きついていく。
 密着する上半身。相手と自分の荒い鼓動が重なり合う。
 口付けは、しない。これは心を通わせる為にする行為ではないのだから。
 最初から何も求めない。ただ…自分の中で、その荒れ狂う凶暴な衝動を発散してくれれば
それで良い。
 だから…オレを壊してでも、どうか…!

 其処まで想った瞬間、克哉の瞳から涙が零れていく。
 それを見て…一瞬だけ眼鏡の動きが、止まった。
 暫しの沈黙、互いに身動きとれずにその体制のまま硬直し。

 ―そして、着信音が部屋中に響き渡っていく。

「御堂っ…?」

 ハっとなったように眼鏡が身体を撥ね起こし…自分が脱ぎ捨てたスーツの方へと
駆け寄っていった。
 そう…恋人である御堂だけは、専用の着信音が設定されているのだ。
 それは眼鏡も、克哉もかつて好きだったバンドの古い曲だった。
 だが、コールの回数はたったの三回。上着から取り出して彼が受話器を取った
時にはもう通話は切れていた。

 次の瞬間、彼の意識は…現実に引き戻されて、理性が戻っていたようだった。
 互いの乱れた着衣、無残な姿の克哉。そしてたった今…貫こうとしていた事実に…
猛烈な後悔を抱き、そして…。

「ちょっと…! どこへ行くんだっ!」

 無言のまま、眼鏡はシャワー室の方へと駆けて向かっていった。
 克哉が後を追ってその部屋に飛び込んでいくと…其処には冷たいシャワーの水を
浴びてタイルに手をついている眼鏡の姿が在った。
 真冬のこの時期に冷たい水を浴びるなど、かなりの自殺行為だ。
 それでも男は敢えて、それを被っていく。
 上り詰めた衝動を押さえ込む為に。そして、理性を取り戻す為に…!

「だ、大丈夫…? 『俺』…?」

「…お前は、もう出て行け…」

 静かな声。だが…同時に強い怒りが篭った声でそう告げられる。

「…俺の財布から、必要な分の金やカードは自由に持っていって構わない。だから…もう
俺の前から姿を消してくれ。俺はかつて…御堂を好き放題に犯して監禁までして、あいつを
廃人寸前にまで追い詰めた。
それでもあいつは、俺を許して…今もこうして傍にいてくれているんだ。そんな相手を…
俺は、裏切りたくない。だから消えて、くれ。お前が傍にいたらきっと…同じ事をして
しまうかも…知れない、から…」

 そう答えた眼鏡は、怒っていながらもどこか切なげだった。
 多分…たった一本の電話だけでも、彼がこの一年…ずっと持ち続けていた理性を
取り戻すには十分で。
 …その言葉に、克哉は小さく頷いて了承していった。

「…判った。お前がオレを必要としないのなら…潔く消えるよ…」

 そう、短く告げて踵を返していく。
 眼鏡からの言葉は何も無い。ただシャワーの水音だけが辺りに響き渡っていた。
 それは、相手からの決定的な拒絶の言葉でもあった。
 だが…克哉は、一言も詰りもせずに受け入れる。
 興奮しきった身体をどうにか宥めて、身支度を整えて最小限の金額だけ彼の財布から
抜いていくと…克哉はそのまま、玄関へと向かっていく。

「…バイバイ、俺…」

 相手の耳にはきっと届かない事を承知の上で最後にそう呟き。
 克哉は―眼鏡の部屋を静かに後にしたのだった―
 
 ―初めて口に含んだそれは、燃えるように熱くて指を弾き返さんばかりに
硬く張り詰めていた。

 ピチャリ…。

 まるで猫がミルクを舐め取るような仕草で、克哉が性器の先端へと
熱い舌先を這わせていく。
 ゆっくりと自分自身が纏っているシャツのボタンも寛げさせて、引き締まった
胸板を相手の眼前へと晒していった。
 その瞬間、部屋の空気が一気に濃密なものへと変わっていった。
 噎せ返るような雄の匂いと、甘ったるい淫靡な香りが周囲を満たし…克哉の
頭の芯をもぼうっと痺れさせていった。
 
「はっ…あっ…」

 熱っぽい眼差しを浮かべながら、悩ましい声が唇から漏れていく。
 同性の、しかも自分自身の性器を咥えて興奮するなど…己でも信じられなかったが
異常な状況に、克哉も興奮を覚えていた。

(単なるガス抜きに過ぎない行為だ…)

 そう割り切って、指先を幹に這わせて…執拗に鈴口へと舌先を這わせて、蠢かしていく。
 最初に感じるのは、軽い塩味と青臭い性臭。
 だが、行為を続けていく内に…徐々に自分の唾液と混じり、少しエグみや苦味も
和らいでいくような気がしていった。

(結構…口でスルのって、大変なんだな…)

 良く女性は、こんなモノを咥えて奉仕してくれたものだ…と感心した。
 そんな事を考えている内に、眼鏡の指先が克哉の髪へと絡んでくる。
 まるで引き剥がすような動作を繰り返していたが、今は彼の方も頭が痺れて…
満足に動かないらしい。
 力がまったく込められておらず、弱々しいものでしかなかった。

「…うっ…ぁ…」

 チュク、と溢れてきた先走りを軽く嚥下していくと同時に…眼鏡もまた余裕なさそうに
呻き声を漏らしていった。

「…感じている、みたいだね…。凄く、熱い…」

 口淫を続けながら、克哉が艶っぽい微笑みを浮かべていく。
 相手のペニスを口に含むという行為そのものに抵抗がないと言ったら嘘になる。
 この辺りまでが…ギリギリ、自分が出来る限界だろう。
 そう考えて、実行に移した行動であったが…相手が自分の手の中で感じて、
ピクピクと余裕なく震えて感じている様を見るのは、何故か酷く興奮した。

「止め、ろ…『オレ』…! どうして、こんな…真似を…っ!」

「…人命救助。それ以外の何物でも、ないよ…。このままお前が無理をして
自分を抑え続けたら、きっと同じ事が起こる。そしてその時…犠牲になるのは、
きっと御堂さんだ。だから…ガス抜きをしているだけ。
オレはただ、お前があれだけ想っている人をもう一度自分の手で壊してしまう。
そんな悲劇的な結果を回避したい…それだけ、だよ」

 瞬間、酷く脆く…儚い笑みを克哉が浮かべていく。
 眼鏡は、その顔を見てハっとなっていく。
 今にも壊れてしまいそうな、そんな危うさを孕みながらも瞳の奥には慈愛の色が
微かに浮かんでいた。
 ペロリ、と性器の先端を舐め上げながらもう一度口に含んで…口腔全体で締め上げる
ようにしながらソレを愛していく。
 
「ふっ…くっ…」

 短く呻きながら、口の中で熱くなっているペニスを夢中で咥えていった。
 指先で相手の裏筋と、袋の部分を揉み込むようにしながら愛撫を施し…チロチロと
舌先で余った皮の部分を舐め上げていく。
 含んでいる部分から、飲み干しきれない唾液と眼鏡の先走りが入り混じったものが
竿の部分を伝って克哉の指と、相手の下肢全体を濡らしていった。
 息苦しさはあったが、嫌悪感はすでにあまり感じなかった。

 自分で最初から覚悟していたから、というのもあっただろう。
 御堂という存在がいるのに、身体を繋げる処までは抵抗があった。
 だが、このまま彼の中の欲望を燻らせ続けて…同じ結果を招かせる訳にはいかない。
 それで克哉が精一杯考えた末にギリギリで妥協出来る範囲が、この行為だったのだ。

「ん、凄く…硬くて、熱くなっているな…。こんなに、興奮して…」

 ついそんな言葉を漏らしながら、半ば涙目になりながら相手の性器を口の中いっぱいに
含んで喉の奥で先端を締め付け始めていく。
 グイグイ、と喉奥に性器が当たっているのが自分でも良く判った。
 正直…かなり息苦しかった。

「くっ…ぅ…!」

 だが、眼鏡の唇から余裕のない声が零れていくと…不思議と大胆な気持ちになった。

(感じているんだ…『俺』…)

 そう思うと、何故か嬉しいと思えてしまった。
 もっと感じて欲しいと、夢中になって舌先でソレを弄りあげると…まるで別の生き物の
ように性器が手の中で暴れ始めていった。

 ピクピクピク…。

 小さな穴を何度も忙しなく痙攣させながら、手の中でそれがドクンドクンと脈動して
小刻みに動き続けていく。
 口の中に広がる味も、苦味と塩味が再び濃くなっていった。
 その瞬間、克哉の方も自分自身がズボンの生地の下でパツンパツンに張り詰めて
いくのが判った。
 
(どうしよう…オレ、ムチャクチャ…興奮、してる)

 そんな自分に信じられない想いを感じながら、相手を頂点に導こうと一層熱を込めて
舌先を動かし続けていった。
 ギュウっと根元まで握り締めていきながら、チュウ…と強くその先端を吸い上げて
解放を促していく。

(ほんの、少しで良い…コレで、お前の中に燻り続けているあの凶暴な熱が…
少しでも宥まるのならば、それで…)

 その想いと、胸に宿る奇妙な衝動に突き動かされながら…克哉は男根に、強い
刺激を加えて最後の一押しをしていった。

「うっ…はぁ…!」

 身体全体を大きく震わせていきながら、眼鏡の方が達していった。
 喉奥に勢い良く精が噴き掛けられて、一瞬咽そうになったが…どうにかそれを堪えて
口の中で全てを受け止めて嚥下していく。
 独特のいがらっぽい味に、瞬間吐き出したい衝動に駆られたが…どうにかそれを
最後の一滴まで飲み干していった。

「…こういう事をするの、初めてだったけど…少しは気持ち良かった? 俺…?」

 口元を拭いながら、軽く首を傾げてそっと問いかけていく。
 眼鏡の方は、荒い呼吸を繰り返していきながら…ただ俯き続けていった。
 
 はあ、はあ…。

 達してから三分以上が経過したにも関わらず、相手の呼吸が整う気配はない。
 むしろ直後に比べて、ドンドン忙しくなって感覚も短くなっている気がした。

「…どうしたの、『俺』…?」

 その相手の反応に、何か強烈な違和感を覚えて克哉が声を掛け、そっと相手に
触れていくと…いきなり眼鏡が腕をガムシャラに振り回して、すぐ近くのテーブルに
置かれていたグラスと、酒瓶を一気に床へと転がしていった。

「うわっ! 何をするんだ…!」

「うる、さい…! 黙れ…!」

 瞬間、本気で憤り…凶暴なまでの欲情に瞳を輝かせている眼鏡の双眸と目が合う。
 今の行為をキッカケに強烈な衝動が呼び起こされて、必死になって彼はそれを
押さえつけていた。

「だ、大丈夫…か?」

「寄るなっ…! 今、お前が近づいたら…どうなるか、俺にも判らなくなる…!」

 必死になって克哉が延ばした腕を、容赦ない力で叩き落として拒絶していく。
 いっそ、その欲望のままに行動したい誘惑を懸命に押さえ込みながら最後の理性を
振り絞って眼鏡は言い放った。

「出て行け…! 俺が収まる、まで…! その顔を金輪際、俺の前に見せるな…!」

 それは彼の、愛しい人をこれ以上裏切りたくないという最後の境界線。理性。
 だから険しい表情と口調で相手に訴えかけていく。
 だが、克哉は…。

「…そんなに苦しいならオレを、好きにして良いよ。その為に…オレは、お前の前へと
現れたんだから…」

 凶暴な衝動、彼の中の獣の本性。
 それを叩きつけて、少しでも楽にしてやりたい。
 ただそれだけの為に、自分は現れたのだから。
 
 だから彼は出ていかなかった。
 そして…自分の方から、眼鏡の腕の中へと勢い良く飛び込んでいった―
 
  先程の夕あ食のおかずとは一変して、酒の肴に用意されたレシピは全て
洋風の物ばかりだった。
 フランスパンにバターと、ガーリックパウダーを振り掛けて香ばしく焼いた
ガーリックトーストや、鳥のササミ肉をオーブンでカリカリに焼いて一口大に切り
ブリーチーズと共に合えて細かく切ったネギを乗せたクラッカー。
 それとカマンベールチーズを韓国海苔で挟んだ物と、どれも簡単に作れて
美味しい肴ばかりが並んでいた。

「…とりあえずネットを調べて、俺たちが好みそうな酒に合って簡単に
作れそうなレシピを用意しておいたんだけど…どうかな?」

「あぁ…一時間前後で用意した物としては上等だ。酒に合うのなら…特に
俺の方も文句を言うつもりはない」

「ん、良かった。じゃあ…一杯楽しもう。良く考えたら…お前とこうやって
飲み交わす事なんて初めての経験だしな」

 リビングの机の上に、ブランデーの瓶はすでに並んでいる。
 だが…台所を見る限りでは見慣れた寸胴のグラスは見当たらなかった。

「なあ…台所のキッチンのグラス置き場や、食器棚にはブランデー用のグラス
らしきものはなかったんだが…どこにあるんだ?」

「あぁ…それなら、リビングの奥のシェルフの中だ。其処のガラス棚の中に
酒に関連する物は一通り揃えて置いてある」

「了解…シェルフの中、ね…」

 大きく間取りを取られたリビングの隅の方に、重厚な雰囲気を醸した木製の
シェルフが置かれていた。
 言われた通り、ガラスが嵌めこまれている段を調べてみると…其処にチューリップ
型の口元の部分が狭まっているデザインのグラスと、ブランデーを飲む時には
お馴染みになっている寸胴のグラスが納まっていた。
 克哉は寸胴のグラスだけ手に持って席に戻ろうとすると、眼鏡に静止されていく。

「…どうせなら、其処のスニフターも持って来い。チューリップの形に良く似た
グラスがあるだろう。それだ」

「…スニフター? 何それ…?」

「取引先に以前、ブランデーを飲むならこのグラスがお勧めですよ、と言われて試しに
購入しておいたものだ。実際にそのグラスで飲むとなかなか楽しめたからな。
良いからそれも持って来い。お前も一度それで飲んでみれば、良さが判るだろうからな…」

「判った。それじゃ持っていくよ…」

 そうして丸く白いお盆の上に、4つのグラスを乗せてソファの上に克哉も腰掛けていく。
 眼鏡の隣に座ったせいか、微かに相手と肌が触れ合うと少しだけ緊張するような
思いがした。
 座り心地抜群のこの応接セットも、あのアパートで生活していた頃にはなかった家具だ。
   互いに向かい合いながら、眼鏡が瓶の蓋を開封していく。
 その瞬間に、芳醇な香りが部屋中に広がっていく。
 其れは克哉が今まで飲んだ事があるどのブランデーよりも濃厚で、噎せ返るような
芳香だった。

「凄い…濃厚な香りだね。それの銘柄は?」

「スペイン産のルイス・フェリベ・ヘレスブランデー・グランゼルバ60年ものだ。一度、
馴染みの取引先から譲り受けた事があってな。…俺がかなり気に入った一品だ。
お前も試して見ると良い…」

 そういって、スニフターと呼ばれるチューリップ型のグラスに…少量のブランデーを
注ぎ入れて、克哉に手渡していった。

「…ブランデーっていうと、大抵ロックか水割りでしか飲んだ事がなかったけどな…。
こういうグラスで飲むのは初めてだ…。どうすれば良いんだ?」

「…グラスの底に少量だけある酒を、自分の掌で温めるようにしながら…ゆっくりと
液体を回せ。そうすれば…今までのブランデーに対しての固定観念が変わるぞ?」

「ん、判った…」

 小さく頷き、彼に言われた通りの手順で…濃い色合いの酒をゆっくりとグラスの中で
回し始めていく。
 瓶を開いた時から、溢れんばかりの香りが立ち込めたその液体が…克哉の手の中で
暖められて、再び強烈に綻び始めていく。

「うわっ…」

 思わず、感嘆の声が漏れる。
 銘柄からして凄く厳しいというか、高そうな印象を覚えた物であったが…これだけの
芳香が鼻へと迫り来るは初めての経験だった。
 吸い寄せられるようにグラスの淵に口をつけていくと…今まで飲んだ事があるブランデー
とは格別の違いを感じさせられる。

「凄い…何か今まで、オレが知っていたブランデーとはまったく別物みたいだ…」

「…あぁ、俺も最初は感激したもんだ。ロックよりも香りが格段に強く感じられるから
結構気に入っている。だが…氷を入れて、キンと冷えた液体が喉に流れ込んで…
その後に焼けるような喉越しを感じられるのも、悪くはないがな…」
 
 そういって、もう一人の自分はククっと喉の奥で笑って見せた。
 強気で、自信に満ち溢れた一挙一動に思わず目を奪われていく。
 自分と同じ顔の造作に体型、それなのに…与える印象はまったく違い…本当に
克哉の目から見ても別人のようにしか思えない。
 
「凄く…美味しい。初めて試したけど、気に入ったよ…」

「そうか」

 素っ気無く眼鏡がそう答えると同時に、二人の間には沈黙だけが下りていく。
 無言で二人でグラスを傾けながら、用意した肴を合間に口に運んで…ゆったりした
時間が流れ始めていく。
 だが両者とも、どこかで緊張を隠せないままだった。

 眼鏡が知りたがっている克哉の真意。
 それを口に出すキッカケを掴めないまま…二人は、ただ旨い酒を喉の奥へと
流し込み続けていった。
 その極上の風味と、ベルベットのような滑らかな舌触り。口の中いっぱいに
ほんのりとした心地よい酒の甘みが広がっていく。

 けれどどれだけ良いブランデーを飲んでいようとも、二人は酔い切れない。
 相手の前に無防備すぎる姿を晒す事など、とても出来そうになかった。
 時折見せる眼鏡の…鋭い眼光。
 それが視界に入る度に、克哉は息を呑んでいく。
 同時に魅入られたようにその瞳に目を奪われ…気づけば、凝視してしまっていた。

「…何を見ている?」

 剣呑な雰囲気で、眼鏡が問いかけてくる。

「いや…そんなに睨まれると、落ち着かないというか…。少し、怖いかなって…」

「後ろめたい事があるからじゃないのか…? いつまでお前は黙っているつもりなんだ。
あんまり焦らされるのは正直言うと好きではない。いい加減、話したらどうだ…?」

「オレの真意ね。…大体は、昨日の夜に語ったつもりなんだけど…。ねえ、毎日毎日
破裂寸前の風船がすぐ傍にある。しかもいつ爆発してもおかしくない状況なのに…
日増しに大きく膨れ上がって、更に危うい状態になっていく。
 そんなのを目の前にし続けたら…お前はどうする? その風船が破裂してどうしようも
ない状況になる前に…それをどうにかしよう、と感じないかな?」

「破裂寸前の、大きな風船…だと?」

「…自覚ないんだ? お前、御堂さんと再会してからずっと…自分を偽り続けてない?
本当は心のままにあの人を犯して、貪りたくて堪らない癖に。
同じ過ちを犯したくないから、あの人に嫌われたり怯えられたりされたくないから…
自分の本当の欲求を抑え続けて、殺し続けてパンパンに膨れ上がっているという
自覚はないんだ?」
 
 その瞬間…どこか弱々しい雰囲気を纏っていた克哉の空気が変化していく。
 ふいに瞳の輝きが増していき、浮かべていた笑みに艶が混じり始めていった。
 眼鏡の視線は、相手の表情の変化につい釘付けになった。

(こいつ…顔つきが、変わった…?)

 さっきまでの人畜無害そうな、吹けば飛びそうな態度はすでにカケラも存在しない。
 婀娜っぽい顔に、眼差し。
 気づけば、指先からささいな仕草の一つさえも色気らしきものが滲み始めていた。
 ゆっくりとその手が伸ばされて、柔らかくソフトなタッチで眼鏡の頬を辿り始めた。
 
「…この間だって、それが破裂して御堂さんと微妙な事になっただろ? お前の本性は
酷くて意地悪で…好きになればなるだけ、その相手を壊したくて仕方ない。
 そんな強くて暗い衝動が常に胸の奥に渦巻いている。それが…お前だろ?
 だから…オレは、お前に前に現れる決意をしたんだ。毎日毎日、いつ破裂するか判らない
風船の傍で生きていくのは心理的に宜しくないから、な…」

 そうして、ソウっとその艶かしい指先が眼鏡の股間をなぞり始めていった。
 吸い込まれそうな深い色合いの双眸。
 その視線に半ば、金縛りに陥りながら…ブランデーの香りに混じって、昨晩にも
立ち込めていた…眼鏡の正気を奪った例の妖しい芳香が部屋中に満ちていた。

(この香りは…?)

 背筋に冷たい汗が走り抜けていく。
 身体の芯から火照り始める感覚と、背筋から凍り付いていくような悪寒が同時に
感じ始めていった。
 競り上がって来る強烈な衝動と興奮。
 それを必死に理性で押し留めようとするが…ほんの僅かな刺激でも、自分の
下肢はすぐに反応し始めていく。
 
「止め、ろ…!」

 本気の怒りを込めて、相手の手を引き剥がそうとするが…頭の芯が痺れて
まともに身体が動かない。
 さっき、大量に流し込んだ酒が彼の身体の反応をやや鈍くしていたのだ。

「…そんなに拒絶しなくても良いだろ。一度は…オレを好きなように犯した
事だって、ある癖に…」

 そうして、克哉の手が…眼鏡のフロント部分を寛げてジッパーを引き下げていく。
 硬くなり始めたモノを下着の隙間から取り出していくと…やんわりと握り込んで、
軽く上下させていった。
 昨日の時点でも、あれだけ御堂を貪り続けても正直、足りなかった。
 欲求不満や、吐き出し切れていない欲情が…僅かな刺激でもあっという間に
反応して、克哉の指を弾き返すまでに育っていった。
 自分の下肢がそんな有様になっているのを見て、眼鏡は思いっきり歯噛みしたい
衝動に駆られていった。

「止めろ、と言っているだろうが…!」

 身体の身動きが取れないならば、せめて眼差しだけでも抵抗の意を示さんとばかりに
強い視線でこちらを睨みつけていく。
 だが、克哉は怯む気配をまったく見せず…淫蕩に微笑んで見せた。

「…オレとこんな事したら、御堂さんに顔向け出来ないって思っているのかな…?
それなら気にしなくて良いよ。お前も、オレも…互いに相手に対して、気持ちが引き寄せ
られていないのならば…浮気、と言わない。特に同じ人間同士なんだし、な。
単なるマスターベーションだと割り切れば良い。そうすれば変な罪悪感を覚えずに…
済むだろう…?」

「…っ!」

 そうして、克哉は…ゆっくりと眼鏡の下肢へと、顔を寄せていった―

 眼鏡は宣言した通り、21時に帰宅してきた。
 彼がリビングに現れる頃には…食卓の上には、克哉が予め用意してあった
和食がズラリ、と丁度並べ終わっていた。

「おかえり、『俺』。こちらも夕食の準備…今、整った処だよ。良かったら一緒に
食べよう…」

「あぁ…」

 短く、そう頷いていくと…二人で顔を突き合わせる形で席について、すぐに二人は夕食を
食べ始めていった。
 食卓の上には…ホカホカの白いご飯に、塩鮭を焼いたものと、ワカメと豆腐の味噌汁。
それと肉じゃがに…箸休めに小皿に梅干とキムチを少々乗っけて置いてあった。
 用意された夕食が和食風であった事に最初、少し眼鏡は思う処があったらしいが…
黙ってそれを口に運び始めていった。
 だが暫く箸を進めている内に…ふと気になったらしい。
 ボソリ、とした声で眼鏡が問いかけてくる。

「…酒の準備はどうした?」

「あぁ、それはリビングの方に用意してある。おつまみも簡単に出来るの…2~3品は
あっちに作っておいてあるよ。最後の一品は熱々の食べて貰いたいから…今、オーブンで
作成中だけど。オレらがご飯食べ終わる頃にはタイミング良く仕上がっていると思う」

「…そうか」

 それだけぶっきらぼうに答えながら、特に文句を言わずに…男は食べ進めていった。
 克哉にとってはその沈黙が何となく怖かった。

(…何か調子狂うよな…。普段のコイツだったら、絶対にこちらの料理とかに何か
一言言ってきたり、もう少し饒舌に色々しゃべりそうだけど…)

 まあ、無理もないだろう。
 例の事件は…本当に昨日の今日の話だし、この様子だと…御堂にも会えなかったの
だろうか。
 いつもと同じ顔に見えるが、何となく少し険しい顔つきになっているような気がする。
 気になって克哉は…控えめに小声で問いかけていった。

「なあ…御堂さんとは、今日…会えた、のか…?」

「…一度も会えなかった。声も、聞けていない」

 オズオズと克哉が問いかけていくと、ツッケンドンな口調で即座に切り返してくる。
 そこで二人の会話が止まっていく。
 完全に硬直しきった、何とも言えない空気。
 ただ向き合っているだけで…こちらの心が潰れてしまいそうなくらいに、眼鏡の方から
流れてくる気配は重苦しいものだった。

(…やっぱり、コイツ…いっぱい、いっぱい何だな。コイツにとって…本当に御堂さんは
大事な存在で…その人に嫌われたり、拒絶されたりする事は…『俺』にとっては
耐え難い事なんだろうな…)

 ―それは、ずっと内側から彼を見守ってきた自分が良く知っている事だ。
 だから、自分は…。

「なあ、ご飯…味付け、どうかな…?」

「悪くはない。少なくとも…家で食べるものとしては、上等の部類だろう。まあ…お前は
『オレ』と同一の存在なのだから、これくらい出来ないと話にもならんがな…」

「…良かった。まずい、とか言われてあっさり切り捨てられたなかっただけ…思ったよりも
マシな評価だな…」

 この男の場合、それくらいの事は平気で言ってのけそうだから…少しだけほっとしていく。

「…こんな時に、皮肉や嫌味を言うほど…俺も人でなしではないさ。とりあえず、お前が突然
押しかけて来た時はどうか…と思ったが、飯を作って貰って少しはこちらも…気が紛れて
いる。白いご飯に味噌汁など…本当に久しぶりだしな…」

 基本的に自分達はパンの方を好む為に、用意する食事や外食で食べに行く場合は…
洋食っぽいものになる事が多い。
 ただ克哉も…今日は気持ちがほっとするようなものを用意した方が良いような気分に
なったので珍しくそういう品々を作ってみたのだが、思ったよりも相手に好評だったみたい
なので…静かに胸を撫で下ろしていった。

「…良かった。思っていたよりもお前に好評で…」

 そう呟きながら、ふと…克哉が柔らかく笑っていく。
 …その表情を見て、眼鏡は落ち着かない顔を浮かべていく。

(…こいつは、どうして…俺の前に現れて、こんなにこちらに…甲斐甲斐しく世話を
焼いているんだ…?)

 コイツとこうやって接点を持ったのはもう二年近く以前の話で。
 自分が主導権を握った日から…心の奥底で眠り続けていて、気配すらもいつしか
感じなくなっていた存在の筈だった。
 なのに…御堂とあんな苦々しい出来事が起こった夜にいきなり現れて、自分の処に
半ば押しかけてくる感じで一緒に過ごして…。
 彼がその行動をするに至っている動機が、眼鏡の側からは見えない。
 だから…腑に落ちない部分が多すぎて、彼は釈然としていなかった。

 食事はすでに終わり間際に近づいている。
 食卓の上に並んだ料理の殆どは、彼ら二人が綺麗に腹に収め終えていた。
 眼鏡の方が箸を置いて、そっと深く溜息を突いていくと…再び、口を開いて
昨晩と似たような質問を投げかけていった。

「…一つ、聞く。どうして…お前は俺の前に現れたんだ…?」

 それは昨晩から常々、思っていた疑問。
 だが…克哉は変わらぬ迷いない顔と口調で、きっぱりと答えていく。

「…昨日と答えは一緒だよ。オレはお前にそうしてやりたいって思ったから
その通りにしただけ。それだけじゃ…ダメ、なのか…?」

「だから、その動機は何だ…と聞いているんだ。正直…二年近くも接点がなく、
俺の中にも気配らしきものが感じられなかったお前が…いきなり、現れて…
甲斐甲斐しくこちらの世話を焼き始められても、戸惑いしか感じない。
せめて…その理由だけでも、きっぱりと答えろ」

 そう、彼の真意は見えない。
 だから…相手から気遣いが見えても、それを素直に受け取れない。
 克哉の方が何を想い、考えているのか。
 それを語って貰わない事には…それにどっぷりと浸かる事など出来はしないのだ。

「…判った、ちゃんと答えるよ。…一杯飲んでいる間にね。そろそろ…オーブンで焼いてあった
ツマミの準備も出来ている頃だと思う。それで…良いかな?」

「…良いだろう。一杯…付き合って貰うぞ」

 相手の言葉に一応承諾していくと、一旦眼鏡は大人しく引き下がった。
 だが…心中は未だ、穏やかとは言い難いものがあった。

(…お前が何を考えてこんな真似をしたのか…絶対に答えて貰うぞ…)

 そうでなければ、信じることは出来ない。
 特に傷ついたばかりの眼鏡の心はいつもよりも鋭くなっていて、単純に他人からの
優しさを受け止められない心境になっているからだ。
 相手が食器を片付け始めているのに習って、こちらも自分の分の食器をシンクの方へと
下げていく。

―そして、二人は運命の酒席へと付いていったのだった―

 ―あの時期に、もう一人の俺を見て…つくづく思ったんだ。
 俺は今までの人生、ただの一度だって…あんなに誰かを想ったり、
 求めたりした事があっただろうか、と。
 人を傷つけたくない一心で…目立たないように無難に生きて来たオレに
 あれだけ情熱を抱いた事は…ただの一度もなかった。
 だから、オレは…。

 何となく掃除や洗濯…そして夕食の準備をしている内にあっという間に
夕方を迎えていた。
 一区切りがついて、ガラステーブルの上に腰を掛けながら…彼の寝室の
本棚にあったビジネス関連の書物に何気なく目を通しながら、克哉は時間を
潰している最中だった。
 眼鏡が興した会社のすぐ真上に構えられている住居スペースは…一人暮らしを
している人間にとっては広すぎる空間だ。
 一人でいると、つくづくそれを実感させられる。

(このリビングとキッチンだけで…オレが住んでいたアパートの一室くらいの
広さは余裕であるよな…)

 自分が大学時代から、慎ましく生活していたのに比べて…もう一人の自分は
そういう部分がまったくない。
 洋服でも住居でも、良質である事に拘り…その為の出費なら止むを得ないと
彼の方は考えているのだろう。
  その辺は自分との大きな違いだな、と思った。

(ここに寝に帰って来るだけなら…そんなに広くなくて良い、ってオレは
考えてしまうけどな…。こういう処がやっぱり…貧乏性なの、かな…)

 ゆったりと取られた空間は広く、室内にいるにも関わらずとても解放感があった。
 だが…この部屋で一日を過ごしていると、それが寂しさに何となく繋がっているような
気がした。
 
「…アイツはこの部屋に一人でいて、こんな寂しさを感じた事なんて…ないんだろうな。
あれだけ、自信満々な奴だし…」

 どこか憂いのある表情を浮かべながら、克哉は苦笑していく。
 …いや、自分がこんなに寂しさを覚えているのは…もう一つ理由があるから、だった。
 もう一人の自分と、御堂と訣別した一件から…完全に切り替わったのを境に…
克哉の意識は表に出る事はなかった。
 だから…今日一日、この部屋で過ごしていてやっと認識したのだ。
 あの安アパート時代に購入した家具や、洋服の類は…恐らくもう一人の自分も
気に入ったもの以外は全て処分をされていた事に。
 自分、という人間の痕跡が…そういった部分でも失くされていた事に…ショック、と
まではいかなかったが…少し切なかった。

(まあ、こんなの…ただの感傷だっていうのは判っているけどな…)

 もう一人の自分に主導権を譲った時点で…自分は亡霊に過ぎない存在になる。
 それを承知で…身を引いた筈なのに、それでも…何故、心は軋みを上げているの
だろうか…?

 夕食の準備はとっくに完了済みだった。
 後はもう一人の自分が帰って来るのを待つのみなのだが…先に断りなく、一人で
食べるのは気が引ける。
 …すでに時計の針は20時を過ぎている。
 住居がすぐ真上なのだから…帰って来ようと思えば、すぐに戻って来れる筈なのに…
どうして彼は戻ってこないのだろうか…?

(…もう就業時間を過ぎている筈なのに、な。少し気になるけど…オレが下のフロアに
覗きに行ったら…やっぱり問題、だよな…)

 一瞬、ちょっと立ち寄ってもう一人の自分が会社の方にいるのか…確認をしたくなったが
もし他の社員に見つかったら少しややこしい事になる。
 さっき食事の用意の為に…この近くのスーパーに素早く買い物に行ったけれど…
一応、細心の注意を払って出掛けるように心がけた。
 …何せ、眼鏡を掛けていて髪形が多少違っていたって…基本的に自分達の顔の
造作は一緒なのだ。
 同一人物である人間同士が、同時に存在しているというややこしい事情を…他の人間に
そう簡単に理解して貰えるとは限らないのだ。
 そういう配慮をしなくてはいけない処が、常々…自分は日陰者に過ぎないのだという
実感を強めてしまうのだが…。

「けど、あいつの携帯番号…オレが使っていた頃と一緒、なのかな…?」

 一番、無難なのはやはりもう一人の自分が使っている携帯電話に直接連絡を
取る事だろうか。
 だが、今朝に見た限り…自分が使っていた頃とデザインがまったく異なっていたし
機種も同じだったかどうか判らない。
 昨今は別の電話会社から移動しても、番号はそのままでOKというサービスが
登場していたが…彼がそれで、自分が使っていた頃の番号を残しておいてくれて
いるのかは…正直、判らなかった。

(良いや、モヤモヤと考え続けていても仕方がない…まず一回、掛けてみるか…)

 自宅電話の子機を手に取って、自分が使っていた頃のアドレスの番号をそのまま
入力していく。
 スタートボタンを押していくと、すぐに…ツゥルルルル、ツゥルルルルという呼び出し音が
聞こえて、そして…7~8回繰り返された頃、繋がった。

「はい…アクワイヤ・アソシエーション代表取締役の佐伯ですが…どういったご用件で
しょうか…」

 電話口から聞こえるのは、紛れもなく低く掠れたもう一人の自分の声だった。

「…あ、『オレ』だけど…もしかして今、忙しかったかな…? 一応、夕食の準備はしてあるから、
その…何時くらいに部屋に戻って来るのか聞きたくて…」

「…21時頃には一区切りついて、そちらに戻れると思う。それくらいの時間に合わせて…
食事を暖めて用意しておいてくれ。…あぁ、それと酒と、酒のツマミも用意しておいてくれ。
それくらいの準備は…出来るな?」

「あぁ、うん…了解。蒸留酒の類を用意しておけば良いんだよな?」

「…そうだ。酒の好みは不本意ながら…お前とほぼ一緒だからな。ツマミも…
俺が好みそうなのは見当が付くだろう。俺が帰る頃までにその辺の用意もしておいてくれ…。
頼んだぞ、『オレ』…」

「あ、うん…」

 克哉がそう頷くと同時に、素早く通話は切られていった。
 これが取引先相手ならば、一言断りを入れた後に…もう少し余韻を残してから切るという
礼儀をちゃんと守るのだろうが…その辺は流石、『俺』だった。
 彼にはそんな遠慮をする気はまったくないようであった。

「…まったく、本当に一方的なんだからな…。あぁ、でも…携帯の番号くらいはオレが
使っていたのを残しておいてくれていたのか…」

 何となくその事実にほっとしていく。
 アイツの事だから、面倒くさくてそのままにしていただけという可能性があったけれど…
それでも、ささやかに自分が紛れもなくそれ以前は、この世界に存在していたのだと…
小さいが、確かな痕跡みたいなものが残っていて…少し嬉しかった。

「…少しだけ、嬉しいかも。さて、あいつに頼まれた事だし…21時ジャストに合わせて
夕食と、一杯飲む準備でもしておいてやるかな…」

 そうして、食堂のテーブルの前から立ち上がって…再び、キッチンの方へと
向かっていくと…簡単に作れる酒のツマミの類を幾つか用意していく。

 ―ささやかでも、表には出さないが…恐らく深く傷ついているであろう、もう一人の
自分に対して、してやれる事があるだけでも…今の克哉は、救われる思いを
感じていたのだった―
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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