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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 克哉が指定して来た場所は、二ヶ月くらい前に閉園したばかりの
都内の外れにあるアミューズメントパークの跡地だった。
 景気が良かった頃は大変な賑わいを見せていたここも、近年では
すっかり客足が遠のいてしまって…ついに閉鎖にまで追い込まれてしまった。
 開園当初の頃は派手なパフォーマンスが人気でそれで賑わいを見せていた
からこそ…予算が厳しくなり、以前よりも地味な演出になってしまった事が
敗因となってしまったのだろう。
 名前だけは聞いた事があったその場所に車を乗り付けていって…
ますます御堂の怪訝な想いは深まっていった。

(佐伯はどうして…この日に私にここに来るように指定して来たんだ?
 ここはもう二ヶ月も前に閉鎖していて…何も稼動していない筈なのに…)

 彼の片腕として働くようになってからすでに一年近くが過ぎようとしている。
 ビジネスのパートナーとしてなら、彼の行動や思考パターンは読めるが
プライベートの事となると相変わらずさっぱりであった。
 仕事から離れて、私人となればいつだって御堂は彼に振り回されて翻弄
させられてばかりだ。
 閉園されていると言っても、駐車場や国道に繋がっている道路には街灯が
灯っているので真っ暗という訳ではない。
 ガランとしている駐車場スペースに愛車のセダンを乗り付けていくと…
御堂はとりあえず、克哉の姿を探すべく車から降り立っていった。
 
「…この園に来るのは初めてだな。確か4年くらい前にオープンして
最初の頃は良く雑誌やテレビとかで宣伝をされていた筈だが…」

 最初は都内の若い世代向けの新スポットとして紹介されていた場所も…
閉鎖された今では閑散とした雰囲気だけが残されていた。
 確か夏には盛大な花火のパフォーマンス、冬には鮮やかなイルミネーションを
売りにしていた筈だ。
 しかし、今ではそんなのは本来ならどうでも良い筈だった。

「…? 何か向こうの方が妙に明るくないか…?」

 手がかりを得ようとゆっくりと入り口の方まで歩いて向かっている最中に
御堂は違和感を覚えていく。
 …ここはすでに閉まっている筈だ。それなのに奥に進めば進むだけ
明るくなっていくのは奇怪な現象だった。
 だが、幾ら御堂が疑問に思ったとしても現実に…近づけば近づくだけ
光は強くなっていき、眩しく感じられる程であった。
 そして…目の前には予想もしていなかった光景が広げられていた。

「…これは…!」

 それは、目にも鮮やかな光の洪水だった。
 誰もいない筈の遊園地内の全ての乗り物のネオンが灯されて冷たい冬の
夜の下で輝いている。
 メリーゴーランド、海賊船…ジェットコースター、空中ブランコ…遊園地に
おなじみの乗り物達が光り輝き、奥の方にはアクリルで作られた透明な床が
淡く青や緑に輝いて…その下に流れている水が波紋状の揺らめきを生み出し
実に幻想的な雰囲気を生み出していた。

「…これは一体、何なんだ…? ここは確かに二ヶ月前に閉鎖された
アミューズメントパークの筈なのに、どうして…?」

 御堂が疑問に思いながら呟いていくと、その瞬間…今まで沈黙を守っていた
観覧車が光り輝いていった。
 それはまるで…水晶で作られた風車が回っているような、美しくも儚い
光景だった。
 水晶の柱をイメージさせたデザインの観覧車の梁の部分は…一定時間ごとに
様々な色へと移り変わって、まるで夢を見ているかのような光景だった。
 思わず御堂が目を奪われていると…その時、携帯から克哉専用に設定してある
着信音が響き渡っていった。

「…佐伯からだ!」

 暫く呆気に取られて身動き出来ないでいたが…御堂はその音楽に正気を
取り戻して、慌ててコートのポケットに収めていた携帯電話を取り出して、通話
ボタンを押していく。

『…やっと来たな、御堂さん…随分と長く待ち侘びていたぞ…』

「佐伯、これは一体どういう事だ…? ここは確かとっくの昔に閉鎖された場所の
筈だろう…! それなのにどうして…」

『あぁ、そんな事か。単純なことだ…。…俺がここのオーナーに交渉して
今夜一日だけ特別に全ての照明を灯して貰ったんだ。乗り物を全て
動かすのは無理だが、明かりを灯すだけならちょっと操作すれば外部からでも
出来るらしいからな。それで…電気代は全てこちらが持つという条件で
こちらの我侭を聞いてもらい、あんたをここに招いた。それだけの話だ…』

「…何っ? 本当かそれは…」

『…そんな事を嘘言って何になる。…だが、ここはかつて美しいネオンと
イルミネーションを冬場は売りにしていた所だからな。
 あんたを驚かせて…楽しませるにはここ以上に最適の場所はないと
判断した。だから誘わせて貰った…気に入ったか?』

 そう言いながら電話口で相手が愉快そうに笑っていたのでカチンと来た。
 …何となく良いように克哉に自分は踊らされてしまっているみたいで
非常に不愉快だった。
 確かに予想外の展開過ぎて、驚いてしまったのは確かだ。
 こんなサプライズをクリスマスに用意されているだなんて…思っても
みなかっただけに、そして口では軽く言っているが…廃園になっている
遊園地を一日だけ稼動させるというのが容易な事でない事ぐらい
御堂にだって判る。
 物凄い労力を払って、自分の為だけにこの男は黙って準備をして
くれていた。その想いは判るのだが、やはり癪に障ってしまった。

(…まあ、彼と付き合っていたらそんな事はしょっちゅうなんだがな…)

「あぁ、大変気に入った。あまりに予想外の事だったからな…。
まさかクリスマスにこんなサプライズを用意して貰っていたとは
考えた事もなかったからな…。それで今、君はこの園の中のどこに
いるんだ…?」

『あぁ、俺は観覧車の中にいる。…ここから、あんたの姿が見える。
その観覧車のゴンドラの『Blue』にいる…色で分けられているから
近くまで来れば一目瞭然の筈だ』

「判った…今から観覧車の方へと向かおう」

 そういって御堂は一旦、通話を断ち切っていくと…そのまま
観覧車の方へと駆け足で向かっていった。
 成る程、克哉が言っている通り…目的のゴンドラはすぐに判った。
 16個のゴンドラには、それぞれ色の名前がつけられているらしく…一つだけ
目にも鮮やかな青いゴンドラがあった。
 あれが彼が言っていた『Blue』に間違いないだろう…そう目星を
つけながら、御堂は乗り降りする地点へと降り立っていった。
 其処には係員が一人立っていて、彼の姿を確認すると…青いゴンドラの
方へと歩み寄り、扉を開けていく。
 だが、その係員は奇妙だった。黒尽くめの衣装に目にも鮮やかな金色の
髪をおさげにして纏めているという…異様な格好をしていた。
 顔立ちは端正で整っている方だが、纏っている空気にどこか不穏なものを
感じて…その男を見ているだけで妙に落ち着かない気分になっていく。
 そして男はこちらの方を向き直り、実に胡散臭そうな笑みを浮かべながら
こちらに声を掛けて来た。

『…御堂孝典様ですね。お連れ様の佐伯克哉様が先にこのゴンドラにて
お待ちです。さあ…あの方との聖夜の、空中での一時を今宵はどうぞ
存分に愉しんで下さいませ…』

「あ、あぁ…」

 とりあえず生返事ながら答えていったが、御堂の心は疑問でいっぱいに
満たされていった。

(何だこの男は…? 遊園地の係員にしては…口調も態度も随分と
おかしなものを感じるが…)

 だが、男ははっきりと克哉の名前を口にしていた。
 このゴンドラに彼が乗っているのは間違いないだろう。
 その割には何故、彼の姿が窓から見えないのか少し疑問を感じていったが
うかうかしていたら乗り過ごして、もう一周回ってくるのを待たなければいけなくなる。
 押し問答をしている余裕は今のところなかった。
 だから御堂は疑問を一旦頭の隅に追いやり…ゴンドラの近くまで歩み寄っていくと…。

「来たか、御堂…」

「っ…佐伯!」

 いきなり乗り付ける寸前に、克哉が目の前に現れてこちらの腕をグイと
掴んで行って、こちらを強引に引き込んでいく。
 そして中に倒れこむように二人で収まっていくと…次の瞬間に、ガチャンと
音を立てて外から閉錠されていった。

「ふっ…うぅ…!」

 いきなり不意打ちのように引き込まれて、激しいキスを交わされていく。
 グチャグチャ…と熱っぽく、頭がクラクラとするような濃厚な口づけを落とされて
御堂は意識の全てを浚われていってしまった。
 無意識の内に相手のコートの裾を握りこんでしまい、その強烈に甘い感覚に
耐えていくが…暫く解放される事なく、ザラついた舌先に口腔を犯され続けた。

―クチャ、ピチャ…ヌチュ…グチャリ…

 脳裏に厭らしい水音が響き渡り、背筋にゾクゾクした感覚が走り抜けていく。
 早くも身体のあちこちが、快楽の余りに反応し始めているのを御堂は
感じ取っていった。
 こんな歓迎の仕方、あまりに性質が悪すぎる。
 その事で文句の一つも言いたいのに、腰が砕けてしまっている上に口も
しっかりと塞がれているので抵抗することすら出来ないのが恨めしかった。

 ―チュパ…

 そうして、最後に大きな音を立てながら口接音が響き渡り、ようやく口付けが
解かれていった。
 そして目の前の男はまったく悪びれる事なく、平然と言ってのけた。

「孝典…メリークリスマス。良く来てくれたな…」

 そんな事を言われながら、優しく頬を撫ぜられて微笑まれたらこれ以上…
相手に向かって文句や悪態を言う事すら出来なくなってしまう。

「…あぁ、メリークリスマス。克哉…」

 と、頬を赤く染めてソッポを向きながら…御堂は呟いていく。

―その瞬間、本当に楽しそうに克哉は口元に笑みを刻んでいったのだった―

 

 

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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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