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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
                  10    11   12

―そして二人の決別する場面を見届けた瞬間、太一の父親の
意識は唐突に現実の…赤い天幕で覆われた部屋へと
引き戻されていく

 突然の場面展開は、この夜の間に何度も繰り返されてきたので
最初の時程の衝撃はなかったが、やはり…慣れるものでもなかった。
 フワフワと夢の中を未だに彷徨っているようなあやふやさを覚えながら
自分の傍らに立っている長い金髪と漆黒の衣装を纏う妖しい男性の
方へと向き直っていく。

『…これが眼鏡を掛けた方の佐伯克哉さんと、五十嵐太一さんの
決別した日の出来事です。この日を境に…佐伯克哉さんは
完全に姿を消しました。その事は貴方も良く知っているんでしょう…?』

「っ…!」

 その言葉に男は肩を震わせていく。
 彼は…この後に何が起こったのかを知っていた。
 最後に雪、という言葉が彼らのやりとりの中に存在していた事から…
直前に見た出来事が、『あの日』に繋がることに気づいていた。

『…ふふっ、ご自分がした事から逃げられませんよ。人というのは
深い業を背負っている。我が子の為ならば…人は鬼にも悪魔にも
なれます。この日に…貴方は決行したんですよね…?』

「な、何でお前がそれを…!」

 決行、という単語が出た瞬間に男の顔は蒼白なって大きく
肩を震わせていった。
 そして黒衣の男は…何もかもを見透かしたような顔を浮かべながら
唄うように言葉を紡いでいく。

『ええ、私は退屈という病魔に常に犯されている存在。そしてその苦痛を
和らげる何よりの妙薬が…佐伯克哉という人だったんです。ですから…
貴方にこのように太一さんとの間に起こった事の断片を伝えられるように…
あの人に起こった事ならば大概の事は知っていますよ…貴方が犯した
罪の事もね…』

「…知ってて、俺にそんな気まぐれを見せたというのか…?」

『はい、その通りですよ…。だから貴方は、佐伯克哉が失踪…いや
この世から姿を消した後にご自分の息子が立ち直った事に深い疑問を
覚えざるを得なかった。あの時の貴方は…太一さんを眼鏡を掛けた方の
克哉さんから解放する為なら、手を汚すことも辞さなかった。
だから、貴方は…」

「もう、言うな…! 嫌って程…俺がした事が間違っていることなど
思い知らされた! 太一が其処まで…あの弱々しい感じの奴を愛していたことも
それでも離れようとしなかったのも、今なら…あいつの心の中を垣間見た今なら
理解出来るから、心底後悔しているのに! それ以上こっちの心を抉るんじゃねぇ!」

 男にとって、たった一瞬でも眼鏡を掛けた方が…憎かったはずの男が
太一に情らしきものを見せた事で、大きく揺さぶられてしまっていた。
 憎いだけ存在であったなら、彼は決してこんな風に…あの日の事を
悔いることはしなかっただろう。
 だが、最後の最後に見せた相手の表情に太一が揺さぶられたように…
あの切ない顔が、男の中にとっくの昔に捨て去った筈の良心を大きく
刺激して、果てしない痛みへと変わっていく。
 太一の意識に同調する形で、軌跡を辿っていったから…だからこそ
男は耐えられなかった。
 あの日の直前に、これが起こった事だというのならば…自分がした事は
太一をどん底に叩き落すだけだったのだと思い知らされる。

―佐伯克哉の失踪

 太一は、再び克哉に会える日を夢見ている。
 それが…今の彼を立ちなおさせて、前向きにさせている事だと男は
理解している。
 けれど、そんな息子にどうして言うことが出来るだろうか。

―彼が愛して止まない存在は、太一の父であるこの男性が指示を
出したことによって、この日に命を落としているなどという事実を…!

 そして、五十嵐組の人間の手によって、佐伯克哉の遺体は完全に
闇に葬り去られている。
 闇から闇に消え、彼という存在が二度と太一の前に現れることがないように
その痕跡すら消すように手を下した。
 それをやったのは…紛れもない、この二人に起こった出来事を
夢という形で見て共有した…この太一の父親だったのだ。

「けど、どうして…何が起こったんだ? あいつは…俺が、その
数時間後には…息絶えている筈なのに。どうやって…太一に
アレが手渡されたんだ? 今もあいつを支えている物が…どうして…?」

 そう、それこそが最大の謎だった。
 太一が今も大切に持っているあの品が、この決別の日から…太一の父が
手を下すまでの十時間にも満たない間に渡されて、息子に希望を灯したのか。
 あの日の事は良く覚えている。
 眼鏡が太一の部屋を出た時から、五十嵐組の人間がずっと仔細にマークして
動向を追っていた。
 だから報告を受けて、この男性はあの日の佐伯克哉の足取りは
完全に把握している。
 そしてその報告の中には…。

―太一と接触したという報告は何一つ存在していない筈だったのだ…!

 真っ白い雪が覆い、都会の町が銀世界に変わった日。
 佐伯克哉は真っ赤な血を出して…周囲を真紅に染めながら息絶えた筈だった。
 それを見届けたのは自分。
 そして彼が完全に息絶えた事も確認した筈だった。
 だからこそ彼は…あれから一年以上も経過しているのにその謎に
心をさいなまれて、消えない罪によって悩み続けていた。
 恐らくその謎がなければ、さっさとあんな憎いだけの男の事など忘れて
いる筈だった。
 そしてそれこそが…今夜、この胡散臭い男性の誘いを受けた
最大の動機に繋がっていたのだ…!

『さあ、これから…貴方が知りたかった謎を解く為の場面へと
繋がります…。私は敢えて、今は貴方を断罪しません。
これからお見せするのは…インナースペースの出来事。
現実の人間には知りようもない…私とあの方だけが知っている
やりとりをお見せしましょう…。貴方が冷たく、息絶えようとしている
克哉さんを見ている時…彼の心の中で何が起こっていたのか、
そして彼が何をしたのか…其処に全ての答えが存在しています。
さあ、どうぞご覧下さい…!』

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 
耐え切れずに太一の父は獣の咆哮のような叫び声を挙げた。
 忘れかけていた心の痛みが、罪悪感というものが呼び覚まされて
耐え難い苦痛を男に与えていく。
 だが、それを承知の上で真実を追い求めたのも紛れもなく彼自身だった。
 だから、己の罪を見据える覚悟を持って…彼は真相へと突き進んでいく。

 そして、知りたかった真実の扉はゆっくりと彼の前に開かれていき…
男の意識は再び、闇の中へと沈んでいったのだった―

 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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