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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

   GHOST              

―御堂の元に克哉が身を寄せて三日が早くも経過していた

 朝、起きて身支度を整えていると御堂は本日も軽く苦悶していた。
 窓の外の光景は爽やかで、見ているだけで清々しい気分になるぐらいに
空は晴れ渡っているのに、彼の心は曇天で覆われているようだった。

(…この状況は一体どうしたものか…)

 三日前に佐伯克哉が自分の元に厄介になりたいと、怪しい男を通して
言ってきて、すったもんだの挙句に承諾して置いてしまった。
 だが未だに多くの謎が存在しているので御堂の頭はまともに考えると
ショートしてしまいそうだった。
 どうしてキクチに所属していた佐伯、本多、片桐の三人が失踪したのか。
 何故一人だけ戻ってきた彼は別人のように様変わりしていたのか。
 どういった理由で自分が拒絶した途端にその佐伯克哉の身体が
幽霊か何かのように透き通って消えそうになってしまうのか。
 それらの理由がさっぱり見えて来ないせいで…本気で頭痛を
覚えてしまいそうだった。
 一気に非日常の中に突き落とされた御堂の心境は極めて複雑で
一言で説明しきれない程だ。

「…佐伯に何度聞いても、まったくまともな回答が戻ってこないしな…。
自分は亡霊みたいなものだっていうのは…どういう意味なんだ…」

 特に一番、心に引っかかっているのは…三日前の夜に彼が
言ったその言葉だった。
 亡霊という事は、彼は死んでいるという事なのだろうか?
 だが揉み合った後に強く抱きつかれたが…克哉の身体はちゃんと
質感もあったし、何より暖かかった。
 生きた人間の感触と体温を確かに感じていたのだ。
 だが、確かにその身体が透き通り…消えてしまいそうになったのも
はっきりとこの目で見た。

「…幾ら考えてもまったく判らないな…」

 深く溜息を吐いていきながら御堂はベッドから起き上がって、身支度を
整え始めていく。
 早くもワイシャツに袖を通して、背広を着始めていった。
 本来なら早朝のこの時間帯は自宅ではパジャマでゆったりと過ごしているのだが
あまり親しくない人間が同居している状況なので…隙を見せたくないという思いから
この三日間は目覚めるとさっさと出勤する時の服装に着替えてしまっていた。
 そうして洗面所で髪を整えてダイニングに顔を出していくと…美味しそうな
匂いが鼻を突いていった。

「あ、おはようございます…御堂さん。朝食の用意は出来ていますよ…」

「うむ…」

 部屋に入るとすぐに克哉の満面の笑顔が飛び込んでくる。
 その表情にうっかり眩しいものを感じてしまっている自分に非常に
突っ込みを入れたくなった。

(佐伯…どうして君はそんなに妙に可愛らしい顔を浮かべるような
人間になっているんだ…?)

 散々、眼鏡を掛けてこちらを苛立たせるような発言を繰り返して人間と
同一人物とは思えないぐらいに今の克哉は爽やかだった。
 ワイシャツとスーツズボン、そして御堂から借り受けた黄緑色のシンプルな
デザインのエプロンを纏っている姿はまさに主夫のようだった。
 こちらに厄介になっているのだから…という理由でここ三日間は克哉が
食事を担当してくれていた。 
 朝と晩、そして昼用に弁当まで用意してくれている有様だ。
 これでは新婚みたいではないか…と内心は思っていたが、あまりに相手が
真剣にそれくらいはやらせて下さい! と訴えかけてしまったので無下に
突っぱねる事も出来ずに気づいたらこの状況に陥ってしまっていた。

(しかも…日々、上達しているしな…。この目玉焼きの火加減は
まさに私好みの半熟だし…)

 殆ど言葉を交わさぬまま、食卓の前に座って行くと…グウ、と胃が
鳴っていくのが判る。
 生理的な現象だと判っているのだが…何となく釈然としないものを感じていった。
 机の上にはこんがりと焼かれたトースト、イタリアンドレッシングが掛かったサラダ、
ソーセージが二本程度添えられている目玉焼き、そしてカップにはオニオンスープが
一杯と暖かいコーヒーが用意されていた。
 しかもどれもこちらの食欲をそそるような良い匂いを立てていた。

「頂くとするか…」

「はいどうぞ召し上がって下さい…」

 そうして御堂はトーストから手を伸ばして齧っていく。
 焼き加減は上々で、コーヒーとも良くマッチしている。

「旨い…」

「本当ですか! 良かった…」

 認めるのは少し悔しいが、それこそ一級のホテルに出てくる朝食に引けを
取らないぐらいの出来栄えに、つい言葉を漏らしてしまうと…それこそ眩しい
ばかりの笑顔を克哉が浮かべていく。
 その様子をうっかり可愛いなどと思ってしまう自分はきっと重症なのだろう。

(一体私はどうしてしまったんだ…? あんなに生意気で癪に障る態度ばかりを
取っていた男を可愛いと思うなんて…どうかしてしまっているな…)

 腹の底からそう思ったが、御堂が食べ進めていくと克哉は本当に嬉しそうに
ニコニコと笑っている。
 まるでこちらに対して、こうやって食事の用意をして美味しそうに食べている事が
本当に嬉しいとでも伝えるかのように。
 だから御堂は…惑いながら、克哉に出ていけとは言いづらくなってしまっている。
 縋り付いて来た時の腕の強さと、必死さに…自分はほだされてしまったのだろうか?
 そんな事をグルグルと感じながらも、御堂は食事を食べ続けていった。

「あ、コーヒーのおかわり…淹れますか?」

「ああ…お願いしよう」

「はい、じゃあ…すぐに淹れますね」

 至れり尽くせりの気遣いに、御堂はついフッと微笑んでしまっている。
 こうやって相手の善意を感じてしまうと…人間なかなか高圧的な態度を
取れないものだ。
 身を寄せてからの三日間、克哉は本当にこちらに対して精いっぱいの事を
しようと努力しているのが判る。
 それが伝わってくるからこそ…御堂もダンダンと強い態度に出れないで
ズルズルと来てしまっているのだ。

(まったく君は本当に性質が悪いな…肝心な事をまったく言おうと
しない癖に…)

 心の中でそう毒づきながらも…御堂は容易された食事を全部
綺麗に平らげていく。

「…旨かったぞ」

「…ありがとうございます。その言葉を聞けただけで…作った
甲斐があります!」

 そして、また克哉は嬉しそうな顔を浮かべる。
 そんな一言でも心から感激しているのだと一目瞭然の顔で。
 どうして彼が自分の前でそんな表情をしているのか疑問に思いながらも…
御堂は食器を下げて、出勤する準備を整えていく。

(…どうして私は、彼に強く問いただすのを躊躇っているんだ…?)

 そう疑問に思った瞬間、ふと彼は気付いた。
 きっと今、聞きたい事を聞いたら…謎が解けてしまったら彼はきっと
いなくなってしまう予感があったから。
 彼は自分を亡霊と言った。
 …うかつに聞けば、彼は消えてしまうような気がしていたのだ。
 だから御堂は今は、口を閉ざす事にした。
 きっと彼とこうやって過ごせる日々は儚く、そんなに長くないような
気がしていたから…今は目をつぶっていった

―そんな御堂の背中を、切なそうに克哉が眺めていた事を…
この時、彼は気付いていなかった…
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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