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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 イベント行けない方用の置き土産
 当日配布の無料配布本の中身でございます。

『春麗らかに』
 
                      BY 香坂 幸緒
 
 ―桜を見に行こう
 
 桜の蕾がつき始めの頃、御堂は克哉に向かって短い言葉で花見に誘い掛けていった。
 最初は克哉もびっくりしたけれど、御堂にそうやって誘って貰えた事自体はと
ても嬉しくて、二つ返事でOKした。
 だが、タイミングが悪い時というのは重なるものだ。
 心の其処では随分とこっそり、楽しみにしていた花見は結局…桜の花が見頃を
迎えた頃に大きなトラブルの対応に追われている内にあっという間に過ぎてしまっていた。
 特に恋人同士になってからは、克哉はMGNに移籍して彼の直属の部下に
なったおかげで…御堂の仕事が忙しくなれば、彼も一緒に慌しくなってしまう。
 花の命は短し、と良く言ったもので…関東圏内で花見をするのに最適だった時期は
全て忙殺されている内に終わってしまっていた。
 
―せっかく御堂さんが誘い掛けてくれたのに残念だったよな…
 
 内心ではそう感じていたが、特に不満を表には出さないように心がけて…GWまでの
期間を過ごしていた。
 4月の初旬にあれだけ忙しかったおかげか、連休に入る頃には少しは
仕事状況も落ち着いて。
3日から6日の間は丸々…二人共連休を取れる運びとなった。
 その前日、御堂は改めて…克哉に向かって声を掛けていった。
 
―もう、葉桜になってしまったが…二人で先月のあの約束を果たしに行かないか…?
 
 そう言われた時はびっくりしたけれど、とても嬉しくて。
 
―はい、オレで良ければ…喜んで。
 
 克哉は二つ返事で…了承、していった―
 
                *
 
 5月3日、MGNに移籍してから初めて迎えるGWの初日。
 御堂と克哉は…いつもと違ってスーツ姿ではなく、ポロシャツにゆったりとした作りの
ズボンというラフな服装で、都内の外れにある大きな自然公園に足を向けていた。
 この時期、都民の殆どは田舎に帰省したり…海外旅行に勤しんだりしているので
普段の休みの日なら賑わうこの公園も、すっかり人気がなかった。
 正門から随分と離れた位置まで歩いて進み、恐らく一月前だったら見事な桜の
花を讃えていただろう立派な桜並木の下でビニールシートを敷いて二人で腰を掛けていく。
 
 ―昨晩、結構遅くまで二人で愛し合ってしまっていたので…かなり最初は眠気と
疲労感を覚えていたが、日の下にいる内に結構意識が覚醒していった。
 
(正直言うと…結構、眠いかも…。でも、せっかくの御堂さんとのデートだしな…)
 
 付き合い始めて今月で四ヶ月から五ヶ月目に差し掛かるくらいだろうか。
 最初、あんなに険悪な形で関係が始まったとは思えない程、交際するようになって
からは自分と御堂の間には優しい時間が訪れるようになった。
 
(ちょっと御堂さんは…言葉が足りない部分が多すぎるけど、な…)
 
 正直、好きだとか愛しているとか…そういう甘い言葉を殆ど言ってくれない人なので
時折不安を覚える時もあるが…他愛ない表情や仕草、言葉の中にこちらを気遣ってくれる
言葉がちゃんとあるので…一先ず、そこまで不安は覚えずに済んでいた。
 
「…ふぁ…」
 
 今日の屋外デートだって、御堂が自分と一緒の自分を過ごしたいと思ってくれた
からこそ実現した事なのだ。
 その嬉しさをちゃんと噛み締めたい、という気持ちはあったが…やはり、睡眠不足には
勝てず生あくびが零れ続けていった。
 
(いつまで御堂さんに気づかれずに過ごせるかな…)
 
 せっかくこうして外にまで出たというのに…自分があくびを繰り返してばかりでは
御堂にだって申し訳ない…そう考えた瞬間。
 
「えぇ…っ?」
 
 克哉は信じられないものを見たような思いがした。
 御堂もまた、眠そうに…必死になってあくびを噛み殺していたのだ。
 すぐにこちらから顔を背けられて、隠されていったが…見間違えようがなかった。
 
(も、もしかして御堂さんも…オレと同じく、凄く眠いのかな…?)
 
 いつも完璧主義者で、乱れた処やだらしない処を殆ど見せようとしない…御堂に
対してはそういうイメージを抱いていたせいで、今のあくびをした瞬間は克哉にとっては
ちょっとしたカルチャーショックだった。
 しかし良く考えていれば、御堂と自分は同じように働いている訳だし…昨晩だって、
行為が終わって就寝に就いたのはほぼ同じくらいの時間である。
 よって、克哉が睡眠不足であるという事は…御堂だって同じ条件である事は頭で
理解していたが…やっぱり、ちょっと驚いてしまう。
 
(御堂さんでも、ちょっと呆けたような顔で…アクビをするような事あるんだな…)
 
 何となく、今の顔を見て…いつも格好良い自分の恋人に対して凄い親近感が
湧いていくが…恐らく本人に面と向かって言ったら絶対に不機嫌になる事だろう。
 
「…あのう、もしかして…御堂さんも、凄く…眠いんですか…?」
 
「…む、あぁ…そうだ。昨晩は…少々、寝るのが遅かった…から、な…」
 
 いつも語尾まではっきりした物言いをする彼にしては、珍しく歯切れが
悪い返答だった。
 けれどこちらを向いた瞬間に、キっとした眼差しに戻った処を見ると…
やはり克哉の前ではみっともない姿を晒したくないという彼なりの美学が
存在しているからだろう。
 その瞬間、春風が柔らかく辺り一面を吹きぬけていく。
 春の暖かさと、爽やかさをそっと周辺に伝えていくその微かな風を…克哉は
心地良さそうに受けていった。
 
「…オレも、同じです。本当なら…今日、貴方とこうして外にデートに行くって
判っていたのに…結局歯止めが利かなくて、昨晩は夢中に…なってしまいました…から…」
 
「う、む…そうだな…」
 
 お互いに昨晩の情事の記憶を思い出して、顔が赤らむような思いがした。
 だが…この沈黙は気恥ずかしいが、同時に悪くない気分だった。
 御堂が照れ隠しにそっぽ向いていく仕草が可愛らしく思えて…ついクスクスと
笑い声が漏れていってしまう。
 そんな自分を御堂はちょっとだけ不服そうに見つめていたが…忍び笑いを
噛み殺す事が出来なかった。
 
「あの…御堂さん。お互いに眠いというのなら、葉桜の下でお弁当を食べる
んじゃなくて…一緒にお昼寝しませんか。きっと…気持ちいいですよ…」
 
「誰が来るのか判らない場所で…その振る舞いは、少々無用心では
ないのか…?」
 
「えぇ、人の気配を感じたらどっちかがちゃんと起きれば良いだけですから。
それに…本当に眠らなくても、目を閉じて日光浴をしながら身体を休めるだけでも…
少しは身体の疲れが取れると思いますから…。
あの、ダメ、ですか?」
 
「む、ぐ…!」
 
 克哉が柔らかく微笑みながら、強請るようにそっと相手の顔を見つめていくと…
御堂は暫く押し黙っていった。
 そのまま腕を組んで暫く考え込んでいって…結局、観念したように深い溜息を
突いていく。
 
「…判った、君の提案を呑もう。私も確かに…睡眠不足だしな。君と一緒ならば…
それも悪くなさそうだ…」
 
「…はい、御堂さん…オレの提案、聞いて下さってありがとうございます…」
 
「…礼を言われる程の事ではない。私だって…その、君と一緒に過ごしたいという
想いは…一緒、だからな…」
 
 本当に心底照れ臭そうに咳払いしながら、そんな事を言うこの人を…愛しく
感じながら、克哉はそっと相手の腕に凭れ掛かって頬を擦り付けていった。
 多分、御堂と一緒ならば…より添って昼寝をするだけでも自分はきっと
幸せな気持ちになれる事だろう。
 そして…二人は暖かな日差しが降り注ぐ中、若葉を力強く繁らせた桜の木の幹に…
そっと背中を凭れさせながら、一時のまどろみに落ちていく。
 
(ん…凄く、良い気持ちだ…)
 
 心地よい春の一日。
 どこまでも澄んだ陽光と春風、そして自然の恵みに包み込まれていきながら…
相手が今、自分の傍らにいてくれる喜びを、互いに噛み締めていく。
 ジンワリと胸の中に満ちていく幸福感。
 他愛無く、同時にとても得難く…貴重な一時。
 克哉は瞼を閉じながら、傍らの愛しい人の体温を脳裏にしっかりと刻み込んで…
ただ、その僥倖を享受していった。
 
 ―この春麗らかな光の中で―
 
 
                         
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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