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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―現在、拠点にしているマンスリーマンションで五十嵐太一が
二度寝の後に身体を起こした時にはすでに佐伯克哉の姿はなかった。
 
 家全体を探して確認してもやはり発見出来なかった事で、太一は
大きく溜め息をついていった。
 
「…はぁ、やっぱり克哉さんの姿はない、か…」
 
 久しぶりに身体を重ねて、やっぱり自分の恋人は可愛いと…
心底思ったからこそ、ついいじめたい心境になってあんな過激な
発言を囁いてしまった訳だが、少々やりすぎてしまったようだ。
 すでに時刻は正午近くを指そうとしている。
 自分が二度寝から目覚めた頃には克哉も冷静になって戻って
来てくれているのではないか…と、そんな淡い期待もあったが
現実はそんなに甘くはなかったようだ。
 
「あ~あ…せっかく久しぶりの…克哉さんと一緒の連休だった
のにな…。初日からこれじゃ、台無しだよな…」
 
 特にMGNの新商品のタイアップに使用された曲は爆発的な
大ヒットしたおかげで…帰国してからは太一が率いるバンドは
多忙を極めていた。
 まさに移動中すらも睡眠に当てなければならない日々で。
 最愛の克哉とまともに愛し合う時間すら取れない状態が
延々と続いていたのだ。
 それで日本国内での太一達のバンドの仕事を仲介している
人物に直訴してやっとこの連休をもぎ取る事に成功したのに…。
 
(なのに…その初日に克哉さんと軽いケンカして、出て行かれ
ちゃうなんて凄い俺…不幸だよな…)
 
 ガックリとうなだれながらふと…窓の向こうの景色を眺めて
いくと、外は晴天だった。
 十月の半ばだというのに太陽がポカポカと地上を照らして
くれていて、散歩や外出をすれば気持ち良いこと
間違いなしの天候だった。
 
「…うわー、克哉さんがいれば一緒に外に行こうよ!
…って誘うのにな…。まったく…もう三年以上、俺と付き合っている
割には未だに反応がウブなんだよな…」
 
 気付けば陽光に引き寄せられるかのように、リビングの窓際に立ち…
ガラガラと軽く音を立てながらガラス戸を開けていく。
 その瞬間、秋風がそっと太一の方に向かって吹き抜けていく。
 彼はそれを心地よさそうに受けていきながら…恋人のことばかり
考えてどこか幸せそうに微笑みを浮かべていった。
 
「ははっ…俺、克哉さんにはマジで敵わないかも…。こんな時でも、
こんな良い天気の日に…一緒に出掛けたら楽しいだろうなって
想像するだけで幸せな気持ちになってる自分がいるし…」
 
 まあ、そんな気持ちになるのも…今回のケンカの内容がそんなに
深刻なものではないからだろう。
 こちらに腹を立てて出ていった訳ではなく…恥ずかしくて
いたたまれないから飛び出していった事ぐらい分かっている。
 …駆け落ち同然でアメリカに渡って同棲を始めたばかりの頃は
それぞれの生い立ちから来ている考え方の違いなどで何度も
衝突を繰り返していた。

 正直、その度にもう自分達は終わりかも…と不安がよぎった事は
何度もあった。
 けれど何回、言い争いをしても擦れ違おうとも太一は見込みが
ある限りは克哉の手を絶対に離すものかと食い付いていた。
 その結果―自分達は三年経過した後でもこうして一緒にいるのだ。
 
(…今更、こんな事ぐらいで俺達が駄目になる訳ないしね…)
 
今は克哉に対して、それだけ自信が持てるからこそ…あまり
太一は動じていなかった。
 けれど、心の中にぽっかりと空洞が出来てしまったような部分が
あるのも確かで。
 心の中は克哉のことでいっぱいなのに、当の本人がいない。
 両思いで、三年も一緒に自分達はいるというのに…今の心境は
まるであの人に片思いしていた頃のような気持ちだった。

(何か懐かしいな…。パン咥えて走っている克哉さんのことが
気になった日から…毎日、毎日考えたっけ。
 あの人、いつかロイドに来てくれないのかな~。どんな人
なのかな、話したらきっと楽しいだろうな…とか、毎日…知り合う前は
考えていたっけ…)

 ふと、出会う前に喫茶店ロイドの前の道路を掃除している自分を
思い出した。
 朝早くに外に出る度、無意識に克哉の姿を探していた日々。
 あの頃はその気持ちが恋の始まりだったと自覚する事はなかった。

―空を見ると、どうしてかあの人に纏わる思い出ばかりが喚起される

 その気持ちはどこか甘酸っぱくて、くすぐったい感じがした。
 まるで青少年のような、そんな無垢な気持ちを…未だにあの人に
対してだけは抱いている自分に、つい笑いたくなった。

「はは…傍にいるのがいつの間にか、当たり前になっていたから…
忘れていたな。例えその人が常に傍にいなくったって…ただ、考えて
想うだけでも…充分、満たされた気持ちになれるって事を…」

 心が、克哉のことだけで満ちる。
 それは心地よくて…思わずトランスしたくなるぐらいの気持ちよさだった。
 そうしている内に、その気持ちをどこかに残しておきたい。
 太一はそんな心境になった。
 自分の心の中から、それが一つのメロディと歌詞になって吹き出してくる。
 
 ―空と爽やかな風に包まれながら生まれ出でる想い

 それを自覚した瞬間、太一の中に…子供のような発想が生じていく。
 考えている内に、次第に楽しくなって…悪戯っ子のような表情を
浮かべ始めていく。

「…この空を見ながら、作曲っていうのも悪くないかもな…」

 それはまるで、何かを企んでいるような意味深な微笑み。
 けど、その発想を思いついた太一は心から愉快そうだった。
 せっかくの連休を、あの人と一緒に過ごせないのは寂しいし勿体ないけれど
それをどうせなら生かそう、と前向きな気持ちになっていく。

 ―晴れ渡る空が見れる日なら、こんなに鮮明に貴方を思い出せる。

 なら、それに浸りながら一日を過ごすのも悪くないと。
 そう考えて…太一は、窓を開いた状態で机の上から、楽譜とペンを持ってきて
縁側でそのメロディを書き残し始めたのだった―

 

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HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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