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※太一×克哉の悲恋前提の物語です。
ED№29「望まれない結末」を前提に書いているので
眼鏡×太一要素も含まれております。暗くてシリアスなお話なので
苦手な方はご注意下さいませ(ペコリ)
―あんたの事なんて、大っ嫌いだ!
この関係が始まってから一年余り。
どれくらい、その言葉を太一の方から突きつけられて来たのだろうか。
最初は彼からの拒絶にどこかで傷ついたり、苛立ったりしていた。
その度にお仕置きめいた仕打ちを与えて、その言質の責任を取らせて
いったりもしたけれど…今となっては、何の感情も湧いて来ない。
太一が自分の方を求めていない、それはもう…一緒にいる間に
嫌という程、思い知らされたから。
だから彼が何をしようと、言おうと今更…心が揺れたりなど
しない筈なのに、どうして自分は…その声が頭の中を過ぎる度に
胸がどこか、苦しくなるのだろうか。
―その理由は、彼自身にも判らないままだった
*
この一年で、太一の実家の権力を利用して…キクチ・マーケティングに
勤める傍ら、裏の世界の方でも商売を始めていた。
そちらの方も軌道に乗り始めていて、気づけば単純にサラリーマンだけを
やっていた頃に比べて、膨大な財産を彼は築き上げていた。
昼間の吐血が収まってから暫く安静にしていたら、幾分か体調は回復
したので…彼は気晴らしに夜の街を歩いていた。
時折、発作で苦しい時もあるが…それ以外の時はまだ、普通に身体を
動かしたり…ちょっとした用事をこなすぐらいのことは出来るからだ。
自宅にいると、また…憂さ晴らしに必要以上に強い酒を煽ってしまいそう
だったので…それを防止する為だった。
散策中にふと気まぐれに…たまたま通りかかった銀行で久しぶりに記帳してから、通
帳を改めて見直していくとそこには八桁に及ぶ金額が記されている。
あの弱々しい性格の佐伯克哉だった頃には、決してなかった預金額。
全ては彼が商売を始めて、それを掌握したからこそ出来た財産だ。
―しかしどれだけ数字が羅列した通帳を見ても、心は満たされなかった
…その通帳を改めてカバンに仕舞い、彼は銀行から後にしていく。
二月の初旬、空気がもっとも冴え渡るように冷たい頃…彼は一人で夜の
繁華街を歩いていた。
太一の家に、真っ直ぐに帰る気になれなかった。
だからと言って、自分の部屋にも戻る気になれない。
ふと、どっかのホテルにでも泊まろうかという想いが生まれていく。
(ここから…アパートはそんなに遠くないんだがな…)
かつての自分が住んでいたマンションと、太一のアパートの部屋は
この液から三つほどの距離だ。
21時という時間からしても、外泊する程の距離ではない。
しかし…どちらにも帰る気になれなかった。
(…あの部屋に、最後に泊まったのは随分前になるな…)
ふと、そんな事を考えつつ…遠い目になっていく。
不経済である事は承知の上だが…彼はどうしても「オレ」が住んでいた
部屋になかなか戻る気になれなかった。
それでも太一の部屋に全ての荷物を置き切れる訳ではない。
だから何度か荷物整理の為に家に戻ることもあったが…最近はそんな
事でさえも戻ることが億劫になりがちだった。
「手荒に扱った日の夜に戻ると面倒だからな…」
そんな事を呟きながら、胸ポケットからタバコとライターを取り出して
紫煙を燻らせていく。
あの部屋では、タバコの一本吸うのでさえ…太一は色々とうるさい。
『克哉さんはタバコなんで吸わないだろう…』
そんな事を言いながら、愛用の銘柄の物を感情任せに奪い取られたことは
何度かあった。
タバコ一本ですら、面倒に思わなければ吸えないあの部屋に…どうして
自分は頻繁に帰るのか、その理由すら判らなかった。
すでに自分の余命はそんなに長くないと医者から宣告されている。
だから今更止めた処で手遅れだ。
それにこんな…心がモヤモヤしてすっきりしない日は、酒とタバコは
どうしても手放せなかった。
「あまり、長くはないか…」
一人で街中になど立っていると、その重い現実が圧し掛かってくるようだった。
若年性の進行性のガン、余命はそんなに残されていない。
この一年余り、身体を痛めつけるように浴びるように沢山の酒とタバコを
摂取し続けた。
その結果がこれだというのなら…眼鏡としても受け入れるしかない。
それなのにショックを受けるよりも…イライラ、モヤモヤしている事の方が遥かに
多かった。
どれぐらいまで身体の自由が利くのか見通しも立たない。
すでに長くないと判っている以上、身辺整理は早いに越したことはないだろう。
それが判っている筈なのに、全てが億劫だった。
何もかもが…どうでも良かった。
「…俺は一体、何を望んでいるんだろうな…」
かつては欲望に忠実に生きず、心を偽ってばかりのもう一人の自分を
馬鹿にしていた。
己が何が欲しくて、何を求めているか正直でないあいつを…見下して
あざけっていた。
しかし…今の彼には自分が何が本当に欲しかったのかすでに判らなく
なってしまっている。
そんな自分に苦笑したくなると…また、次のタバコを手に取っていった。
医者には止めるように薦められたが、どうせ長くないのならば自分の
好きなように過ごすことに決めたからだ。
だがどれだけ愛用の銘柄を吸っても、心は満たされることはない。
空虚な心が日々、大きく増していくような気がする。
何もしたくない。
何もかもがどうでも良い。
そんな捨て鉢の、ヤケクソの思いだけがジワリジワリと広がって
自分を侵食していくようだった。
身体だけではなく、精神までもが病魔に侵されていくようで気分が
悪かった。
「一杯…どこかで飲むか…」
そんな事を呟きながら踵を返した瞬間、歌うような声が聞こえた。
―いけませんね。そんな身体で…強い酒など煽っては、ただでさえ短い
命を更に縮めるようなものですよ…佐伯克哉さん
ふいに、一年以上ぶりに…聞き覚えのある声が耳に届いていく。
弾かれたように振り向いていくと…其処には、自分を解放する
キッカケでもあった、あの眼鏡を与えた黒衣の男―Mr.Rが其処に
立っていた。
「…お前は…!」
「お久しぶりです、佐伯克哉さん。お元気でしたか…?」
そう言いながら、コツコツ…と靴音を立てて、こちらの方に
歩み寄って来た。
「何の用だ…?」
不機嫌そうに眼鏡が問いかけると、男は愉快そうに微笑んだ。
「…いえ、貴方の意思をお聞きしたくて参上しました…」
そう、何でもない事のように嗤いながら告げてくる。
しかし…どこか不穏なものを感じて、眼鏡は緊張していった。
そうして…夜の街で、彼は対峙していく。
―得体の知れない、謎多き男を前にして、固唾を呑みながら相手の動向を
伺っていったのだった―
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。