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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この作品は現在、不定期連載中です。(週1~2回程度のペースで掲載)
 その為以前のを読み返しやすいようにトップにリンクを繋げておきます。

  バーニングクリスマス!(不定期連載)                    10 
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  ホテルに着いてから、御堂の心は浮き足立っていた。
 ここに辿り着いてから、克哉が乗り気ではなく迷っている風な態度を
取り続けていた事は少し苛立ちを覚えていたが…それでも、早く決定打と
なるものが欲しかった。
 彼のはっきりしない態度から、もしかしたら…自分以外の人間が心にいるかも
知れないと、その事実を薄々とは察していた。
 しかしそれでも…今は構わなかった。
 まだ、自分たちは口付けを交わした程度の間柄でしかない。
 正式な「恋人」でも、既成事実がある訳でもないのだから…。

(だから…早く、君を手に入れてしまいたい…)

 柄にもなく、確かに焦っている自分が確かにいた。
 そうして…チェックインの手続きを済ませて、最上階の予約していた
スウィートルームの前まで辿り着いた。
 しかし一瞬だけ何かとんでもないものがシュル、と音を立てて視界を
横切っていったので…御堂はつい、我が目を疑った。

―それを目の当たりにした瞬間、御堂は思考停止状態になった

 現実を正しく認識するのを、意識が拒否していた。
 それでも…部屋の前でいつまでも硬直して、身動きしないままでは
どうしようもない。

(今のは幻影か…見間違いの筈だ。そうに違いない…!)

 無駄に心臓の鼓動がバクバクバクと乱れ始めていたが、小刻みに肩を
震わせながら深呼吸をして…荒れ狂う気持ちを宥めていく。
 そうして…精神統一をしながらカードキーを差してキーロックを解いていき
部屋のドアノブに手を掛けて、とりあえず室内を確認してみようと思った。

「御堂さん! 駄目です!」

 しかしドアが開く瞬間、克哉は必死の形相を浮かべながらドアを
開くのを阻もうとしていたが、遅かった。
 部屋の扉が開かれた瞬間、勢い良く中から何かが飛び出して来た!!

―それは長い何かの植物の蔓だった

 しかも奇妙なことに、表面はヌラヌラと粘液か何かを纏って光沢が
あるとても長い蔓だった。
 何というかその奇妙な動きは、低俗なAVとかポルノとかに出てくる
触手ものというか…そんな卑猥なものを連想してしまう。
 自分で意思があるように、蠢いている。
 シュル、シュル、と何本か勢い良く飛び出した瞬間、思考が完全に
停止しそうだった。
 これが現実だと…とても心が認めてくれなかったようだ。
 御堂は生まれて初めて、異常事態に遭遇して茫然自失状態に陥り
掛けていたが…。

「御堂さん! 危ない!」
 
 シュッッ!! と鋭い音を立てながらその生き物のような不気味な
蔓の一本がこちらに向かって振り下ろされていく。
 克哉が必死になって、御堂を突き飛ばして…その魔の手から
守っていく。
 代わりに克哉がその魔の手に掛かり、手首の辺りを捕らえられてしまう。
 その瞬間、物陰に隠れていた本多が耐え切れずに躍り出た。

「克哉っ!」

「本多君!? 何故…君がここに!?」

「本多っ? どうしてここに…!」

「俺がここにどうしているかを聞くより、早く逃げろ! …こんな変なものに
捕まったら、どうなるか判らないだろうが!」

 突然、ホテルの廊下の角から…克哉の同僚であり、御堂にとっては恋敵の
一人である本多憲二が姿を現したので、両者とも驚きの声を挙げていく。
 絶対に、そんな反応をされるのは覚悟の上だった。
 しかし…目の前で、例え惚れた相手が他の男とホテルの部屋に入ろうとしていた
直前であったとは言え…謎の蔓に襲われているとなっては、出て来ないで
いられる訳がなかった。
 ハラワタは煮えくり返って、歯軋りをしたぐらいだ。
 それでも、克哉をあんな得体の知れない生き物の餌食になるのを黙って
見過ごせる訳がなかった。
 そんな男気を発揮して、非難を受ける覚悟で本多は飛び出していって…
全力で克哉の腕を捉えている蔓を引き千切り、ドアをバタンと勢い良く
閉めていく。

―ドン、ドン、ドン!!

 中から、蔓がドアを全力で叩いているらしい轟音が響き渡っていく。
 瞬間、静寂を称えていたホテル内にざわめきが生まれていった。
 このフロアはVIPルームや、スウィートルームなど、通常よりも大きな
間取りの部屋が用意されている為、他の階に比べて部屋数は少ない。
 しかし…これだけの騒ぎになれば、他の人間とて黙っている訳が
ないだろう。
 奥の部屋の扉が僅かに開かれたのを見て、御堂は蒼白になっている。
 こんな所で、男三人で騒いでいる所を誰かに見られてしまったら…
変な誤解や邪推を持たれる原因になってしまう。
 そのせいですぐに動けずにいた御堂に代わって、本多は全力を込めて、
その扉を押さえていった。

「克哉、早く逃げろ! ここは俺が押さえておくから!」

「本多っ? そんな事したら…お前が…!」

「俺のことはどうでも良い! とりあえずこのフロアから逃げ出せ!
多分他の階に逃げればこの変な蔓だか触手も追っかけては来ない
だろうから…! それを見届けら俺も逃げるから気にするな!」

「本多君…判った、君の犠牲は無駄にしない…」

「こら、待て…! 勝手に人を犠牲者扱いするな! つか御堂…お前も
男なら一緒に押さえるぐらいしたらどうだ!!」

「断る。私にはそんな役割は似合わないからな」

 きっぱりと言い切った御堂に、本多は憤りを感じたらしい。
 怒りで額に欠陥を浮き立たせながら引きつった笑いを浮かべていく。
 反射的に、本多は御堂に掴みかかりそうになった。
 その瞬間、ドアを押さえる手が一瞬緩んで隙が生まれていく。
 
―獲物を見つけて浮き足立っている謎の植物はその隙を見逃さなかった

 力が緩んだ瞬間に、中から勢い良く扉が開け放たれていく。

「うわっ!」

「わわわっ!」

「うぐっ!」

 三者とも、それぞれ異なった悲鳴を上げていきながら咄嗟に扉の前で
転がって、触手から逃れようと身を翻していった。
 それで皮肉にも、御堂と本多は扉の向こう…克哉は扉の外へと分断されて
いってしまう。
 扉で遮られて、死角が生まれてしまい…二人の様子が見えない。

「本多っ! 御堂さん!」

 慌てて、二人が餌食になっていないか不安になって克哉はそちらの
方を覗き見ようと歩み寄ろうとした瞬間…。

『お前は馬鹿か…? みすみす…自ら捕まりにでも行くつもりか?』

 背後から、聞き覚えのある低く掠れた声が聞こえた。
 我が耳を疑いかけた。
 何故、彼がここにいるのか…戦慄に似た思いすら抱きながらも
慌ててその方向を振り返っていくと…其処には幻でも何でもなく、
確かにもう一人の自分が立っていた。

「嘘、だろ…?」
 
 これが現実のことなのか、疑いかけてしまう。
 しかし何度瞬きを繰り返しても、彼の姿が消えることはなかった。
 次の瞬間…強烈なぐらいに、甘ったるく蟲惑的な香りがフロア中に満たされて
意識が遠のきかける。

「な、んだ…これ…?」

 それはまるで…こちらの意識を深い眠りへと誘う、奇妙な香りだった。
 
『…あの男が作った、強烈な眠りの香だ…。中和剤を飲んでいなければ人間
だろうが植物だろうが…その香りの中では立っていられなくなる。
 これで…あの男のペットである蔓も無効化出来る筈だから…あの二人の
事も心配しなくて良い。皆、今は眠りに引き込まれているからな…』

「えっ…それ、は…一体…?」

 しかし克哉が問いかけると同時に、もう一人の自分の
 何故、ここに…こいつがいるのか、克哉は驚きで頭が真っ白になって
しまいそうだった。
 しかし…強烈な睡魔に襲われてしまって、言葉がまともに紡げない。

『後始末は…あの男の配下が全てやってくれる筈だ…。だから騒ぎに
なる事はない。お前は何も心配しなくて…良いんだ…』

「あっ…」

 朦朧とした意識の中、霞んだ視界に…確かにもう一人の自分の整った
顔立ちが浮かんでいた。
 それを見て、克哉は強烈な安堵を覚えていく。

「『俺』…」

 静かに、彼を呼んでいく。
 顔を見ているだけで胸が締め付けられて…泣いてしまいそうだった。
 他の男と、ホテルの部屋に入ろうとしていた。
 その事実が、克哉の心に罪悪となって広がっていく。
 けれど…同時に、久しぶりに彼の顔を見れたという…嬉しさの方が
束の間勝って、克哉は無意識の内に微笑んでいた。

『馬鹿が…気が気じゃ、なかったぞ…』

 そうして、軽く背中を支えられて身体を半分だけ起こされていくと…
噛み付くような口付けを落とされた。
 乱暴なキスだった。けれど…久しぶりに触れる彼の唇に、色んな
想いが溢れて来た。

「ふっ…ぅ…」

 複雑な想いがグチャグチャになって、知らぬ間に涙を零していた。
 強く、もう一人の自分に抱きしめられているのが判った。
 痛いぐらいの抱擁…それが、言葉にしてくれなくても…彼の気持ちを
示してくれているような、そんな気がした。

(そういえばどこかのドラマとか…映画とかであったな。人の気持ちというのは
言葉ではなく…仕草とか、行動とか動作とか…そういうのに、どれだけ隠して
いても現れるものだって…)

 彼は本当に、言葉が足りない。
 だからいつだって克哉は不安で仕方なかった。
 けれど…ギリギリだったが、今…これから他の男に抱かれようとした
寸前とは言え、今…ここに彼が存在している。
 それが…何よりの答えのように感じられた。

(お前は…オレが、御堂さんに抱かれるのを黙って見過ごしたりなんて…
しなかったんだな…)

 そう感じた瞬間、あの蔓が御堂が予約した部屋に存在していたのも
単なる偶然ではない気がした。
 だから意識が途切れそうになった瞬間、無意識の内に呟いていた。

「もしか、して…あの、蔓も…お前、が…?」

『当然だ。お前が…他の男に抱かれるのを黙って俺が
見過ごすとでも思っていたのか…? お前は俺のものだ。
自分のものを、指を咥えて他の男に抱かれるのを見逃して
やる程、俺は甘い奴じゃない…』
 
 それはぶっきらぼうな物言いだった。
 けれど…今の克哉にとって、それだけで充分だった。

―お前は俺のものだ

 たった一言、好きだとか愛しているとかそんなに甘い響きを持った
言葉ではない。
 けれど…それで良かった。
 黙って他の男に抱かれるのを見過ごされて、何のリアクションも
示してくれないでいるよりも…ずっと。

「…そう、だね…。良かった…」

 お前が、来てくれて。
 迷った心のままで、御堂に抱かれなくて。
 確かに自分の中にはすでに…御堂に惹かれている部分はあった。
 恐らくもう一人の自分の存在が胸に巣食う以前であったなら…克哉はきっと
御堂を本気で好きになって一途に想っていただろう。
 けれど、駄目なのだ。不毛な恋だと判っていても…克哉の心の中には
もう一人の自分が根付いてしまっている。
 彼との関係がもう完全に修復不能な限り、終焉を迎えない限りは…
他の男に抱かれることに抵抗があった。
 それが…今、やっと思い知った。

(きっと…こんな迷った状態で御堂さんに抱かれていたら…自分だけじゃなくて、
この人まで深く傷つけていた…。それくらいだったら、これで良かったんだ…)

 克哉は泣きながら、縋り付くように眼鏡のスーツの袖口を強く握り締めていった。
 確かに、存在している。
 目の前に、もう一人の自分がいてくれる。
 胸の中に…自分が中途半端に誘って期待を持たせてしまった人間たちの
顔が次々に浮かんで、苦しくなった。
 安堵と、後悔。その二つの感情が綯い交ぜになって…克哉の頬を濡らしていく。
 そんな克哉の目元に口付けながら、小さく彼が呟く。

『もう眠れ…。お前がした事の後処理に関しては俺も協力して片を
つけてやる…。だから今ぐらいは、安心して眠れ。傍にいてやるから…』

「んっ…」

 その言葉は、今の克哉の心に深く染み入っていった。
 そうして…ついに抗い切れずに、克哉は意識を手放していった。

―深い所に意識が堕ちていく

 そんな彼を、眼鏡は複雑な想いで見下ろして…このフロアに確保してあった
もう一つのスウィートルームへと、眠る克哉を運んでいったのだった―
 
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プロフィール
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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