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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO2…「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
 【過去ログ】

  咎人の夢      


 御堂は午前中、ずっと精力的に仕事をこなし続けた。
 集中して仕事に当たり続けたおかげで、ここ暫く貯め込んでしまっていた
大半の業務がそのおかげで片付いた。
 ふっと気づいた頃には、すでに午後12時半を指そうとしていた。

(そろそろ…昼食を食べに出た方が良いかも知れないな…)

 御堂の一日は非常に多忙だ。
 昼食の時間はいつも不規則で、午後二時や三時近くになるのも珍しい
事ではなかった。
 ディスクの上を一通り片付けて、御堂は私室を簡単に戸締りしていくと
駐車場へと向かっていった。
 廊下を歩いている最中、何か社内の空気がいつもと違っているように
感じられた。

(…何か、変だな…。いつもと何かが違う気がする…)

 周囲の人間の視線の種類が、気のせいかいつもと違っているように
感じられてしまった。
 いつもの御堂を見る目は、羨望と嫉妬の入り混じったものである事が多い。
 だが…今日のは…。

(…気のせいだな。あんな夢を見たから…神経過敏になっているんだ…)

 とすぐ思い直し、いつもと変わらぬ態度で歩き続ける。
 エレベーターが混んでいたので、階段の方を使おうとそちら側に回る
道の途中…ばったり、部下の藤田に遭遇した。
 向こうもこちらに気づいたらしい。パッと明るい笑顔を向けてくれた。
 屈託ない笑顔を向けながら、こちらに近づいてくる彼を見ると…
普段は厳しく冷たいと称されることが多い御堂も、知らずに軽い笑みを
浮かべて挨拶を返していた。

「あ、御堂部長こんにちは。部長もこれから昼食ですか?」

「ああ藤田君か。うむ…馴染みの店にこれから行こうと思っていてな。
これから車で出る処だ」

「あっ…それなら良ければご一緒させて頂いて宜しいですか?」

「…それは構わないが、時間は大丈夫か? 私はこれから昼食時間に
入る訳だが…君は12時丁度から入ったのであれば車で移動しても
少々…遅くなってしまうと思うのだが」

 その事を指摘した途端、藤田の顔色が若干曇っていった。
 御堂の言う通りだったからだ。
 部長職に就いている御堂は毎日の昼食の時間はやや不規則気味だ。
 社内にいる一般社員は12時から12時50分までは昼食時間に充てられている
訳だが…現在の時刻は12時30分程度。
 車で移動しても、12時から休憩に入った藤田が社内に時間内に戻ってくるのは
厳しいと言えた。

「そ、そうですね。たまには部長と昼食をご一緒させて貰えたら嬉しいかな、と
思ってつい口にしてしまいましたけど…僕の方の休憩は、確かにもうじき
終わってしまいますね。非常に残念ですけど」

「…またの機会にしておこう。君は本日はずっと社内での勤務になるのだろうか?」

「はい、本日は外回りの予定とかありませんので…。あ、それなら駐車場までご一緒
させて下さい。ちょっとお話したい事があるので…」

 お話したい事があるので…と、藤田が口にした瞬間…彼の顔が一瞬、引きつった
ような…そんな気がした。

「嗚呼、構わない。其処まで一緒に行くとしよう」

 御堂自身も、少しその反応を怪訝に思いながらも深く考えないようにした。
 そうして藤田と一緒にエレベーターに乗り込んで、一階のロビーの周辺を
通り抜けていく。
 藤田とは、その間…他愛無い世間話をしながら、足を進めていた。
 その時…御堂は奇妙な違和感を覚えていった。

(…やはりここでも、違和感を感じるな…)

 御堂は若くして部長職に就いたエリートですし、本人も大変な美丈夫だ。
 威風堂々とした態度で社内を歩けば…嫌でも人目を引く存在だった。
 だから人気の多い処を歩けば、多くの人間の視線に晒されるのは慣れた事だった。
 しかし…今、自分に向けられている視線は…好奇と、疑心に満ちた何か嫌な
ものを感じる視線だった。
 若い女性社員達が集まって、何かをヒソヒソと噂しあっている。
 其処に目を向けた瞬間の、彼女たちの反応は明らかにおかしかった。
 特に一人の女性社員は、ヒッ! と怯えたような声を上げて後ずさりを
始めていった。

「なっ…?」

 その反応に、御堂自身も驚きを隠せなかった。
 確かにここ最近、仕事は不調気味であったが…殆ど接点のない女性社員に
こんな態度を取られる謂われはない。

「部長! 早く行きましょう!」

「藤田、君…?」

 御堂がその反応に、戸惑いを感じていると…不意に強く、藤田に腕を
引かれていった。
 彼は生真面目で明るく、常識ある青年である。
 しかし…その時の藤田には有無を言わさぬ迫力があった。
 彼がこのような顔を見せるとは思っていなかっただけに御堂は驚きを
隠せなかった。
 そのまま…玄関を早足で抜けて、本社ビルの付近にある駐車場の
スペースまで歩いていく。
 大会社とは言えど、駐車場の敷地はあまり広くはない。 
 要職に就いている人間の分ぐらいしか確保出来ていないのが現状だ。
 そのおかげでこの時間帯、駐車場に足を踏み入れている人間はいない。
 周囲に誰もいないことを確認すると…ロビーから押し黙ったままの藤田は
ようやく口を開いていった。

「…御堂部長、あの一つ…確認させて貰って宜しいですか」

「あぁ…何だろうか」

 そう問いかけた藤田の顔は、今まで見た事がないくらいに険しいものだった。
 何となく、不穏なものを感じて身構えていくと…相手の口から、予想外の
質問が漏れていった。 

「…部長、昨晩…この近所の大きな公園になんて、行っていません…よね…?」

「な、に…?」

 唐突に聞かれた質問の内容に、御堂は眼を見開いていく。 
 昨夜見た悪夢のせいか、心臓が張り裂けそうになる。

―ドクン、ドクン、ドックン…

 まるで胸の周辺が、別の生き物になってしまったかのように大きな
脈動を繰り返して、コントロールが効かなくなる。
 どうして、藤田がこんな事を聞いてきたのか判らなかった。
 しかし…そう尋ねて来る年下の青年は、縋るような眼差しを向けながら…
こちらを見つめてくる。

「…すみません、唐突な質問でしたよね。けど…どうしても今朝から女子社員の間に
流れる噂が…本当に気になってしまって。厚かましく昼食を一緒したかったのも…
ここまで部長をお供したのも、その噂の真偽を確かめたかったからなんです…。
大変…言いづらい話なんですが昨晩…大きな公園で、うちの女性社員の一人が…
部長が、誰かを刺した現場を見たって…そんな話が流れているんです…」

「な、んだと…?」

「けど、それだとおかしいんですよ! だって…それで俺は気になって午前中に
公園に足を向けてみたんですけど…確かにそういう通報があったから警察は
来たらしいんですけど…それらしき死体とか、怪我人とかは出ていないらしくて。
 御堂部長に似た誰かと見間違えたのか、単なるその女性社員の狂言なのか
どっちかは判りませんし…事件も、実際に起こっていないみたいですし…。
僕には、何が何だか…判らなくて。けど、僕にとって部長はとても尊敬出来る
存在です。だから…どうしても、部長の口からそんなくだらない噂を否定して
欲しくなってしまって…」

「ちょっと待て…。そんな話が…社内に、流れているのか…?」

「えぇ、くだらない話だと思いますけどね。けど…理性的な部長が、人目につく
場所で…しかも会社からそんなに離れていない場所で、人殺しなんてする
筈がないじゃないですか! それに昨日…部長は、夜遅くまで私室に籠って
仕事をこなしていた筈です。僕にはそう言っていたでしょう…?」

 藤田の目には、御堂を信じたいという想いが溢れていた。
 だが…あまりの内容に、御堂は蒼白になってしまっていた。
 公園で起こった事件と、自分が夢と信じていた内容が…あまりに被り
過ぎていたからだ。

(これは、どういう事なんだ…?)

 あれは悪夢に過ぎない、と…御堂自身は思っていた。
 実際にさっき、その被害者である佐伯克哉からメールが一通…送信されていた。
 それで安心していたのに、それが…全て覆されてしまった。
 女性社員に、目撃されていたという事実が御堂に衝撃を与えていく。
 しかし…今の御堂には、藤田を安心させるような事は嘘でしか言えない。
 御堂自身にも昨晩の記憶が抜け落ちてしまっているからだ。
 何も言えないで、言葉を噤んでしまっている御堂を…藤田は強張った顔を
浮かべていく。

「…部長、どうして…何も、言って下さらないんですか…? 普段の部長なら…
すぐにそんな話は馬鹿げていると言って、すぐに否定して下さるでしょう…?」

「嗚呼、そうだな…あまりに馬鹿げた話だったので、唖然として言葉を失って
しまっていただけだ…。反応が遅くなってすまない」

 だが御堂は内心の不安の一切を隠して、どうにか取り繕いながらそう答えていく。
 
「そ、そうですよね。僕だってこの話を耳にした時は…驚きの余りに、言葉を
失いかけましたから! やっぱり…事件なんて起こっていないし、部長は
そんな馬鹿な真似をする筈がありませんから! けど…本当に性質の悪い
噂ですよね!」

「あ、ああ…そうだな…」

 しかし、そう相槌を打ちながらも…御堂は先程の、怯えきった眼差しを向けた
女性社員の事が脳裏から消えなかった。
 彼女の人となりまでは良く知らない。けれど…あまり派手な印象はない真面目そうな
20代中頃ぐらいの女性だった。
 軽薄な印象はなく、適当な噂をでっちあげそうなタイプにはとても見えない。
 反応から見て、その話の発端人は…彼女で間違いなさそうだった。
 だが…何かが釈然としない。
 一体、自分の周りで昨夜、何が起こったのか本気で御堂は判りかねていると…。

「っ…!」

 御堂は、その場に固まった。
 本社の玄関付近に信じられないものを見たからだ。
 
「さ、えき…?」

 そう、藤田とそんなやりとりをしている最中…御堂は偶然にも、これから
玄関に向かおうとしている…佐伯克哉の姿を、視界に捉えて…目撃して
しまった。
 その瞬間、御堂はその場に立ちつくしていく。

―そう、あれは悪夢に過ぎない筈だ。本当に自分が殺人を犯していたのならば…
佐伯克哉が翌日に、こんな風に目の前に現れることも…朝にメールを
こちらに送信してくる筈がないのだから…

 そう思い直し、どうにか体制を整えていく。

「…話は以上だ。君の想いは有難いが…そろそろ昼食を取りに行かないと
この後のスケジュールが押してしまうからな…。君もそろそろ、休憩時間が
終わる頃だろう。…くだらない噂が流れても、あまり動揺しないようにな…」

「はい、部長。貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました!」

 そうして藤田はどこか憂い気な笑みを浮かべていきながら、それでも元気良く
挨拶してその場から立ち去っていく。
 残された御堂は、軽く自分の愛車に身体を凭れさせながら…。

「一体どこまでが夢で…どこまでが現実だったんだ…あの、夢の光景は…」

 奇妙に現実と符号が一致することが多い夢に、漠然とした恐怖と不安を覚えながらも
気を取り直して…御堂は裏道を使い、馴染みのレストランへと車を走らせて
いったのだった―
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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