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何も感じず、望まない方がずっと良い。
目の前にいても、決して相手の心に自分の声が届く事がないのならば
何も見ず、何も感じずに…ただ深い闇の中に己を閉ざそう
だってそれは、一人であるよりも遥かに孤独で…生きている事を
虚しくさせてしまう状況だから…
行為は一方的なものだった。
全てが終わって、ようやく解放された頃には…克哉はぐったりとなっていたが
身体の状態はかなりマシになっていた。
無理矢理抱かれて、強烈な快感を与えられ続けて…それが刺激になったのか、
ノロノロ…とだけ指先が動くようになっていた。
だが、未だに自分の身体のような気がしない。
肉体がまるで…他人のものになってしまったようだ。
思い通りに動かないもどかしさ。
こうしたい、と願ってから実際に動くまでの大きなタイムラグ。
消えない虚脱感。
そして…深いモヤが掛かってしまったかのような思考回路。
ベッドシーツの上に…着衣を激しく乱された状態のまま放り出されて、薄い胸板を
何度も何度も激しく上下させていく。
(…一体何が、どうなっているんだ…?)
周囲を見渡してみる。
まったく見覚えがない内装だった。
自分のアパートでも、適当なビジネスホテルでもない。
普通の一軒屋の中…というには、余分な物があまりに置かれていないように思える。
これはまるで…そう、モデルルームか別荘のようだった。
ようやく視力が復活して仰向けの状態で周囲を見渡してみると…窓の向こうには
深い樹林の影が覗いていた。
(ここは山奥…なのかな…?)
窓の外の光景にも見覚えがない。
まったくどこだか見当もつけられない状況は…克哉を著しく不安にさせていった。
ここがどこで、自分がどんな事態に巻き込まれているのか。
まったく判断する材料がない状態は悪戯にこちらの不安感を煽っていった。
(…後…何で、『俺』がここにいるんだろう…)
そう、それも不可解な事だった。
彼は基本的に自分自身であり…確かに以前にも対峙をした事が何回もあったが
当たり前のように存在出来る訳がないのである。
だが、彼は自分を抱いた後も…今回は消えなかった。
それが余計に、訳が判らなくなってしまう。
答えの見えない迷路に迷い込んでしまったかのような錯覚すら覚えながら…
ふと、自分の腕をチラリと見遣って…ぎょっとなっていった。
「な、んだよ…これ…!」
驚きの声が漏れていく。
慌てて反対の方の手首を見ていくと…更に目を見開いていった。
―両手首に、黒い痣のようなものがくっきりと刻まれていた。
これは、何度も繰り返し繰り返し…過去にキツく縛られた事があるという
証拠のようなものだ。
もうそれは消える事のない刻印のようになっていて…克哉の肌に深く刻み
込まれている。
身体を起こして、全身を確認したかったが…今の彼は多少の身じろぎと、
首や指先を若干動かす程度までしか出来ない。
視界の端に足先が入ると…足首にも同じような黒い痣があった。
(何でこんなものが…身体に…?)
一層、混乱が深まっていった。
必死になって自分の記憶を探り始めていくが…ここ暫くの記憶というものが
一切なかった。
そもそも、今日の日付すらもロクに判らない状況なのだ。
今日が何年の、何月何日になるのかの情報すら知らない。
その焦りが…更に彼の不安を増大させていった。
(何で…何も思い出せないんだよ…!)
本気で苛立ちながら、ギュっと目を瞑っていく。
だが…そうやって事態から目を逸らしても何にもならない。
そう思い直して、辺りをもう一回見遣っていくと…ベッドの脇に置かれた
サイドテーブルの上に、見慣れぬデザインの携帯電話が投げ出されている
事に気づいた。
(そうだ…携帯電話を見れば、今日が何日か判るかも…)
表示されている情報に関しては持ち主の好みにもよるが、大抵の携帯電話には
その日の日付と、現在時刻くらいは出ている筈である。
懸命に携帯電話の方に手を伸ばしそうとして…3分くらい時間を掛けてようやく
身体が動いていく。
それからゆっくりと慎重な手つきで引き寄せて、その画面を眺めていくと…。
「嘘、だろ…?」
信じられない想いで一杯になっていった。
画面の中心に表示された日時、それは…自分が最後に日時を認識した日より
優に一年以上は経過していたからだ。
「な、んで…一年以上も…?」
最後の記憶を必死に拾い集めるが、形にならない。
どうにか思い出せるのは、自分のアパートに帰宅してから…そう、誰と
話していたのだろうか?
全てを捨てるように命じられて、それで…。
(ダメだ…これ以上、何も思い出せない…)
その辛うじて思い出せる記憶まで、断片的で…はっきりとしないものだ。
その日より前の事は、覚えている。
自分はキクチ・マーケーティングの八課に所属していて…同僚に本多、上司に
片桐がいて…サラリーマンをやっていた。
大学時代の途中に辞めてしまったが、バレーボールもやっていて…と過去に
遡れば遡るだけ思い出せるのに、ここ最近の記憶だけはすっぽりと抜け落ちていた。
「オレは…一体、何をしていたんだ…?」
こんな黒い痣が刻み込まれていて。
ここ近年の記憶がまったく思い出せなくなっていて…。
こんな異常な事態に見舞われてしまって、佐伯克哉はどうすれば良いのか
判らなくなってしまっていた。
途端に、一人でいる事が怖くなる。
ギュっと…目を瞑って、縋るように自分の腕を掴んでいくと…ガチャリ、と部屋の
扉が開閉する音が耳に届いた。
「起きているか…?」
もう一人の自分が声を掛けてくるが、一瞬返事をする事にためらってしまう。
「ちっ…だんまりか。ならこちらの勝手にやらせて貰うぞ…」
克哉が混乱して、何も返事が出来ないでいると…彼は大きく舌打ちしながら、
湯気を立てている洗面器を持ってゆっくりと克哉の方へと再び歩み寄って来たのだった―
ピチャ…。
何か暖かい液体が、喉の奥に流し込まれていく。
その瞬間だけ…泥のように眠っている意識が、暫し覚醒していく。
ピチュ…。
暖かい液体と共に、舌先が入り込んでくる。
柔らかくてねっとりとした舌先が…こちらの舌の表面を優しくなぞりあげて
そっと絡み付いてくる。
その奇妙な感覚にゾクゾクしていきながら…ゴク、と唾液と甘酸っぱい液体を
嚥下していった。
これを果たして何度、繰り返された事だろう。
どれくらい自分は思考を放棄していたのだろうか。
もうそれすらも判らなくなってしまってから…どれ程の時間が経過したのかも
すでに彼には、判らなかった。
クチュ…ピチャ…チュル…グチュ…
いやらしく口腔を探られて、背筋がゾクっと大きく震えていく。
その間…首筋から鎖骨に掛けて、淫らな指先が這いずり回る。
チュッ…。
強く吸い付かれていくと、鋭い痛みが幾度も走っていった。
この強さからしたら…絶対に痕は刻まれてしまっている。
(どうしよう…)
そんな事を考えている間に、足を開かされるのが自分でも判った。
(えっ…?)
大股開きに、下肢を割られて…其処に誰かの身体が割り込んでくるのが
判って動揺していく。
だが…身体と頭は相変わらず、鉛のように重くてまともに働かない。
「…まるで、人形だな。まるっきり…反応がない…」
聞き覚えのある声が、耳に届く。
誰なのか…最初は判らなかったが、これは知っている人間のものである
事だけはどうにか理解していく。
「…身体の反応だけはキチンとあってもな…どうせなら、良い声でたっぷりと
啼いて欲しいものだがな…」
その瞬間、いきなり…下肢に熱い塊を押し付けられていく。
ビクン、と身体全体が震えた。
「…ほう? 今夜はまだ…反応が良いみたいだな。少しは愉しめそうだ…」
瞼が、満足に開いてくれない。
身体の神経の一つ一つがバラバラになってしまったかのようだ。
動かしたいのに、彼の意思に反して…指先一本まともに動いてくれない。
執拗に胸の突起を両手で弄られながら…藍色の浴衣の裾を捲り上げられて、
相手の昂ぶりを押し付けられていく。
(こ、この状況って…もしかして…)
「ひゃあ…!」
状況を認識する前に…いきなり根元まで性器を突き入れられていく。
反射的に漏れてしまう声。
強引に引き出される、快楽。
受け入れた場所から、みっしりとした熱い感覚が伝わってくる。
問答無用に…胸を弄られながら、腰を激しく突き入れられた。
「あっ…はぁ…あ、あっ…!」
甘い声を漏らしながら…今の彼にとっては、その強烈な感覚を
享受する以外になかった。
自分の意思と関係なく、己の内部は…男のモノをズブズブと淫猥に飲み込んで
搾取するように蠢き続けている。
「イイ声だ…。今夜は、随分と良く啼くな…楽しみ甲斐がある…」
「ひっ…んぁ…!」
白い簡素なベッドシーツの上に、自分の腕はダラリと置かれたまま満足に
動かない。
男の背中に回して縋りつく事も、シーツを握り込んでその感覚に耐える事も
出来ないまま…灼けつくような感覚が彼を襲い、ただ…快楽だけが伝えられていく。
(そ、うか…身体の感覚がないんじゃない…)
頭と、身体の連結が上手く出来ないだけだ。
ようするに…『自分の意思』で身体を満足に動かせないだけで…身体の機能
そのものが死んでいる訳では、ない。
その現実を理解していくと同時に、再び深く唇を塞がれていく。
「あっ…はっ…んんっ…はっ…」
両足を大きく割り開かれていく。
抵抗すら出来ない状況で、ただ淫らに犯されて…彼は、翻弄されるしか
なかった。
目隠しをされている訳ではない。だが…瞼は相変わらず重くて、瞳を開いて
自分を今…抱いているのが誰なのかを確認する事すら出来なかった。
(ここは、どこで…どうして、オレは…こう、されている…んだ…?)
疑問に覚えながら、必死に覚えている事を掻き集めようと思考を巡らせていくが
すぐに…ペニスを強く握りこまれる事によって、霧散していく。
こんな異常な状況では…じっくり考える事も出来ない。
ヌチャネチャ…ヌチュ…グチャリ…
先端から、蜜が溢れて伝わってくるのが判った。
男の手は握り込んだまま…指の腹で執拗にこちらの鈴口を抉ってくる。
中に熱い楔を埋め込まれた状況で…こんな愛撫をされたら、こちらとて
溜まったものではない。
「んっ…あっ…や、だ…やめ…」
そう、彼が呟いた時…ピタリと強引な抽送が止まっていく。
「…お前、もしかして…今夜は、意識があるのか…?」
ふいに、そんな事を呟かれた。
二人の間に…暫しの沈黙が落ちていく。
だが…彼の方からは、何も言えないままだった。動けないままだった。
身体の自由が効かない。
満足に単語を口にする事すら出来ない。
瞼一つ…開くのも大変なくらいなのだ。
それでも、現状を知らなければ…これから先どうすれば良いのかも
判断材料がないまま、だった。
(せめて、目を開けなければ…)
そう決意して、何度も試みて…やっと、瞳だけは開く事に成功した。
最初は満足に霞んで、見えなかった。
だが…自分は今、どこかのベッドの上で仰向けに寝かされていて犯されていた
事を理解していく。
そして自分を抱いていたのは…。
―『俺』だ…
それだけ、どうにか口に上らせていくと…自分と同じ容姿をして、紺色のスーツを
身に纏った男は…再び乱暴な抽送を開始していった。
[『鬼哭の夜』
―暗い部屋の中で、男は一人…跪いていた。
目の前に横たわるのは、壊れた人形のようになっている一人の男。
端正な顔立ち、均整の取れた肢体。
かつては…傲慢に、輝くように多くの人間の上に立っていた一人の男は…虚ろな表情のまま、今日も…ベッドの上に横たわっている。
御堂孝典。
かつて彼が憧れ、手に入れたいと心から焦がれた存在。けれど…今は、長く続いた責め苦と陵辱の日々の果てに…心を壊してしまっていた。
時刻は深夜。
部屋の明かりは消されて、室内には静かな月明かりだけが差し込んでいる。
煌々とした透明な光だけが一筋、静かに差し込んでくる中…うっすらとシーツの上に横たわっている男の姿が浮かび上がっていく。
「…御堂」
静かに、佐伯克哉は…その相手の名を呟いていく。
だが、彼は答えない。
「…御堂」
もう一度、静かに呼びかけていく。
だが…御堂は、それでも反応しなかった。
いや…彼が壊れてしまってからすでに十日以上が過ぎている。
けれど、どれだけ克哉が呼びかけようとも…どんな仕打ちをしようとも、彼は決して答える事はなかった。
(あんたは…本当に壊れてしまったのか?)
激しい焦燥に駆られながら…無意識の内に胸を掻き毟るような仕草をしていく。
…その顔には、深い苦悩が刻まれていた。
横たわり、微動だにしないその人の肌は…透き通っているかのように白くなっていた。
その頬を、慈しむように克哉は撫ぜていく。
「…もう、あんたがこうして…何も言わなくなって十日余り、か…」
切ない表情を浮かべながら、克哉はしみじみと呟いていく。そっと…ベッドサイドに腰をかけていって、その頬や髪に静かに触れていく。
相手が壊れたと、追い詰めたと…あの時、どこかで判っていた。
なのに…自分はその事実を認めなかった。
御堂が、怯えて…「助けてくれ!」とうわ言のように繰り返していた日。
あの傲慢で気高かった男が、ここまで墜ちたしまったその姿を見て…薄々と己の過ちに気づいていた筈なのに、それでも目を逸らして…一層、彼を追い詰める行為を行ってしまった。
―その日から、御堂の瞳はガラス玉のように無機質になり、何も映さなくなってしまった。
今の御堂を形容するなら「壊れた人形」
そうとしか言いようのない状態だった。
自らの意思で身体を動かすことも、言葉を紡ぐことも止めた御堂は…本当に人形のようで。
元々、風貌が整った男だから…特にそう感じられる。
「なあ…御堂。一言で良い…憎しみでも、俺を詰る言葉でも良い…。どうか、前みたく…何か言ってくれないか…?」
御堂の唇を、そっと指先で慈しむように辿りながら問いかけていく。
だが…その瞳には何の感情もなく、鏡のように窓の向こうに浮かぶ月を映していた。
「…なあ、答えてくれないか…?」
その声には、哀切なものが混じり始めている。
後どれぐらい…こうして、何も言わないこの人の傍で…独り言に近い言葉を投げかけていくのだろうか?
ゆっくりと、相手の顎や頬のラインを辿っていく。
けれど…それでも、何の反応はなかった。
「…なあ、本当に…俺を罵る言葉で構わない…。あんたの声を、聞かせて…くれ…!」
気づけば、耐え切れないとばかりに…声を荒げて…相手の唇に噛み付くように口付けを落としていた。
激しく、相手の口腔を犯すように貪っていく。
熱い舌先を侵入させ、荒々しく犯して…深く舌先を捉えていった。
だが…相手は、何の反応も示さない。
どれだけ強い刺激でも、快感でも…すでに感じる心が今の御堂にはないのだと…その事実を、今夜も…思い知らされていく。
「ふっ…」
唇を離した瞬間、二人の唇の間から銀糸の糸が伝って月明かりに照らし出されていく。
だが…それでも、腕の中のこの人は何も言ってくれない。反応すら…すでにしてくれない。
それで、やっと思い知る。
…自分がしてしまった過ちの重さを。
そして…本当の気持ちに、嫌でも気づかされていく。
「はっ…ははははっ…」
乾いた笑いが、唇から零れていく。
こんな現実を突きつけられて、やっと判るなんて…何て自分は愚かな道化だったのだろうか。
胸があまりに切なくて…苦しくて、息をする事すら辛いような…そんな心境に陥っていく。
悲しくて、辛くて…知らぬ間に、ツウっと一筋の涙が零れていった。
かつて、鬼畜の限りを尽くした…まさに鬼のような男が、本心に気づいて…真実の涙を零していく。
一粒、二粒と…まるで真珠のように、キラキラと月明かりに照らされて…御堂の頬に落ちていく。
「あぁ…そうか、俺は…あんたを、好き…だったんだ…」
その事実に、ようやく気づいて…そっと目を伏せていく。
そして…その身体を強く強く抱きしめて、その首筋に顔を埋めていく。
慟哭と呼べるほどの悲しみを覚えながら…声を必死に殺して泣いていく。
…それは鬼が心から哭いた夜。
その中で己の想いにようやく気づいた男は…ただ、強く強く…御堂孝典という存在を、強く抱きしめて…己の罪を悔いていく。
―どうか願わくば、この人が以前のように輝いて欲しいと
強くそう願いながら…克哉は静かに、涙を零し続けていったのだった―
朝焼けが部屋の中に静かに差し込んでくる中で…佐伯克哉は目覚めると
自分の傍らで安らかな寝息を零している御堂孝典の顔を見つめていった。
日曜日の朝、誰も邪魔など出来ない二人きりの一時。
余分な家具など殆ど置かれていない機能的な室内において…恋人の
存在だけが、とても暖かな温もりを放っていた。
(ふっ…本当に良く眠っているな…)
自分が目覚めて、軽く身じろぎをしても…御堂はまったく目覚める気配が
なかった。
その無防備な姿に、克哉は満足げな微笑を浮かべていく。
まったく…自分達にこんな日が訪れようとは以前からは想像出来なかった。
かつての有り様をふと思い出して…苦笑していくと、その紫紺の髪を優しく
梳き上げていった。
(以前のあんたの寝顔は…どこか強張っていて、こちらを警戒しているのが
良く判ったけどな…。今はこんな顔を俺の前で浮かべてくれるようになったんだな…)
かつて、相手を自分と同じ位置まで引き摺り下ろしたい一心で監禁していた頃。
何十日もの間…拘束具をつけて彼のマンションにこの人を閉じ込めていた。
その頃の御堂の眉間の間には…いつも深い皺が刻まれていて、その寝顔すらも
苦しげなものであった。
だが…今、目の前にいる彼は子供のようにあどけない表情を浮かべながら
寝顔を晒していた。
それが…克哉の心中に、何ともいえない甘い疼きを与えていった。
(何かこの寝顔一つだけでも…あんたと、今は良好な関係を築けているんだなって
実感出来る。奪い奪われるような…そんな殺伐とした間柄じゃなくて…もっと…)
それをどう形容詞すれば良いのか、一瞬迷ってしまっていた。
こんなに胸が温かくなるような、そんな関係を他者と築いたのは彼自身にも
初めての経験で。
この穏やかな寝顔を守りたくて…そっと、頬を這わせていった。
自分にとっては、この姿は…脳裏に刻んでおきたいくらいに、愛おしく感じられた。
その瞬間…昨晩、行為の最中にベッドサイドに放り出した携帯の存在を思い出す。
(そういえば…三枚だけ、と許可を受けたのに…撮影したのは結局、二枚だけだったな…)
昨日は一枚目は、局部をこちらに晒した状態で相手が淫らな顔を浮かべている姿。
二枚目は己を含みながら、自らを慰めている状態を撮影した。
三枚目は…一応考えていたのだが、その最中に…御堂が「私を見ろ!」と挑発して
しがみ付いてきたので…結局撮影する余裕などなくなって、撮れないままであった。
「せっかく…あんたから三枚、と言われたのに…二枚だけで終わらせるのは
心底勿体無いな…」
目の前にあるのは、とびっきりの可愛らしい寝顔。
それをチラリと見て…克哉はカメラの設定を色々と弄っていく。
朝焼けが眩しい室内なので、フラッシュの設定と効果音を消していき。
慎重に相手の前に携帯電話を構えていきながら…ボタンを一回押していく。
「あぁ、レアなものを撮影出来たな…」
そう言いながら、ディスプレイに視線を向けて確認していった。
これは…おかずにしたいとか、そういう画像ではない。
自分にとって大切な愛しい人を確かめる為の一枚だ。
現在のこの人との関係は…これだけ良好であり、警戒されずに…この腕の中で
眠ってくれるようになったのだと、その事実を教えてくれる貴重な画像。
「これだけは…他の人間に、見せたくはないな…」
御堂のあれだけ淫らな姿を、他者に見せることなど当然論外なのだが…この
姿はまた別次元で、決して誰にも見せたくない。
孤高、と呼ぶに相応しいくらいに気高いこの人が…こんなあどけない顔を
しながら眠っている。
それは信頼関係が結ばれたから、愛情をお互いに確かめ合っている今だから
撮影出来たものなのだ。
―俺だけしか知らない、あんたの秘蔵写真だな…。
誰にも見せない。
離れて、見せる隙すらも今後作る予定はない。
見ているだけで暖かな気持ちを齎してくれる、とっておきの画像だ。
一瞬…待ち受け画面にでも設定してやろうという考えが過ぎったら、そんな事を
したら何かの拍子に誰かに見られてしまう恐れがあると思い直した。
「んっ…」
そうして、堪能するように撮影終了後も相手の寝顔をジっと見つめ続けて早五分。
こちらの視線を感じ取って目覚めてしまったのか…相手の睫が大きく揺れながら
重い瞼が徐々に開かれていった。
「…起きたか、孝典…」
「ん…克哉、か…おはよう…。今、何時だ…」
「朝の五時をやっと回った頃くらいだな…休日だから、もう少しゆっくりと寝ていられるぞ…」
「う…ん、そうだな…まだ、正直…眠い…」
少し寝ぼけながら目をトロンとさせながら、こちらを見つめてくる様は…普段のピシっと
した彼の姿と酷いギャップがあって…本人に言ったら憤死するくらい怒るだろうが、
本当に可愛くて仕方なかった。
「あぁ…ゆっくりと眠っていると良い。俺も…もう少ししたら一寝入りをする予定だしな…」
そうして、相手の髪を掻き上げながら…額と目元にそっと口付けていく。
「ん…克哉、くすぐったいぞ…」
「だが、悪い気持ちではないだろう…?」
「そうだな、良い気分だ…」
そうして、お互いに瞳を見つめあいながら満足に微笑んでいく。
御堂の優美な指先が、こちらの頬にそっと触れていった。
他愛無く、同時に限りなく幸せな恋人同士としての戯れの時間。
静かにお互いの顔が寄せられて、徐々に瞼が伏せられていった。
「だが…少し、物足りなくはあるな…」
挑発的な事を呟きながら…ごく自然に唇が重なり合った。
柔らかく暖かい感触を感じながら、ジィンと広がる幸福感に身を委ねていく。
甘ったるくて、幸せな気分だ。
昨晩の焼き焦がれそうな強烈な想いとはまた別の…酩酊しそうなくらいに、
ほんわかとした…くすぐったい気持ち。
「じゃあ、これなら…どうだ…?」
「ん、そうだな…悪くない…」
そうして、戯れるように唇をお互い啄ばんでいきながら…相手を愛撫するように
二人はそっと、髪や項、首筋から肩に掛けて指先を這わせ続ける。
今…目の前に存在する相手を確認するように。
このじんわりと広がる幸せを、強く噛み締めていく為に…。
―愛しているぞ
再び深く瞼を閉じていく相手を見遣りながら、耳元に唇を這わせて…甘い睦言を
そっと囁いていってやる。
―私、もだ…。
そして、相手からそう返答されると…本当に幸福で、そのまま死ねそうだった。
また…御堂がまどろみの中に落ちていく。
その顔は…克哉にとって宝物のような、愛しい姿であった―
強い感情を讃えた双眸をこちらに向けながら、きっぱりと御堂は
言い切っていく。
そして噛み付くように、深く唇を重ねていった。
「むっ…ぅ…」
その挑発的な行動に、今度は克哉の方が虚を突かれる形となった。
荒々しく御堂の方から熱い舌先が絡められて、こちらの舌先を強烈に
刺激されていく。
クチュ…ピチュ…ジュル…グチャ…
こちらの口腔を掻き回していくように、積極的に御堂の方から舌を
蠢かしていくと…こちらも余裕などかましていられなくなる。
「はっ…ぁ…」
息苦しくなって、一瞬だけ唇を離していくと…相手の魅惑的な光を放つ
その双眸に目を奪われていく。
こんな時でも強気な態度を決して失わない愛しい相手の…そんな姿を
見て、ズクンと再び欲望が疼いていった。
「克哉…撮影よりも、私を…見ろ…! 君のその瞳が…携帯越しで
私を見るなど、もう…我慢、出来そうに…ない…!」
宝石のように綺麗な、克哉の蒼い双眸。
その透き通る二つの宝が…こちらの痴態を眺めて、深く濡れるように輝きを
放つ様は…とても美しく、同時に御堂の心を煽っていた。
当然、見られれば激しい羞恥が生まれるのは否めない。
だが同時にとてつもない喜びもまた…彼の心に齎しているのだ。
「私を、見ろ…君のその瞳で、私…だけ、を…!」
ギュっと強く縋りつきながら、こちらを煽るように…耳元を強めに噛んで
熱っぽい声で囁いていく。
愛しい相手に、こんなに精神的にクる言葉を言われてしまえば…克哉の
方とてただでは済まない。
彼の内部に深く埋め込まれた熱い欲望が、一層滾っていくのを感じる。
もう、撮影など…どうでも良かった。
この人を全てで感じ取って、ムチャクチャに貪りつくしたくて仕方が無い。
「あんたは…本当に、俺を挑発することに掛けては一流だな…」
感心と、呆れを半々に混ぜながら呟いていくと…克哉は片手に構えていた
携帯をベッドサイドに荒々しく放り出して、自分の両手を自由にしていく。
本来ならもう一枚、恐らく御堂が知ったら憤死もののシチュエーションを
指定して撮影する予定だったが、気が変わった。
これだけ夢中になって御堂がこちらを求めてくれているのならば、自分も
その気持ちに応えたかった。
ズックン…!
相手の中で、荒々しく克哉のペニスが脈動していく。
「あぁ…!」
それに反応して、御堂もまた…歓喜の声を上げながら、相手のモノを強く
締め付けてしまっていた。
それと同時に御堂の胸の突起に両方の指を這わせていくと…その肉体が
ビクン、と大きく震えていった。
「あっ…か、つや…其処…!」
「全身、すでに過敏になっているから…ここを弄るだけでも凄くイイ顔を浮かべて
いるじゃないか…。もっとおかしくしてやろう…」
一見、酷薄とも見える嗜虐的な笑みを刻みながら…克哉の執拗な胸への
責めが始まっていった。
「あっ…ふっ…! だ…ヤメ、本気で…!」
その動きに連動させるように、本格的に抽送を開始されたものだから堪った
ものではなかった。
克哉の丸みを帯びた先端の部分が的確に、御堂の弱い場所を探りながら
抉って来て、その度に嫌悪感と紙一重の凄まじい快楽がその部位から溢れ
出して翻弄させていった。
「止めてなんて、欲しくない癖に…相変わらず、嘘つきだな…孝典は…」
「嘘つき、なんか…じゃ…! あぁ…やだ、本気で狂い、そうだ…から…
うっ…はぁ…克哉…!」
克哉の背中に爪を立てる勢いで、その背中にしがみ付いていくと…ともかく
相手が与える凶悪すぎる快感を必死にやり過ごしていった。
だが、もう完全に抗えない段階にまで来てしまっている。
相手の腹部に擦られて挑発された彼のペニスは、再び限界が近いと
訴えるようにしとどに先走りを零し続けている。
この快楽から逃れたいのか、更に深いものを求めているのか…もう自分でも
判らなくなりそうだ。
恐怖すら覚えそうな、あまりに強すぎる感覚に…ただ翻弄される以外に何が
出来るのだろう。
パン、パン、パン、パン…!
グチャグチュ…ヌチャネチュ…!
肉を打つ音と、淫靡な水音がお互いの接合部から同時に響き渡っていく。
その淫らな演奏に…聴覚さえも犯されてしまいそうで、更に深い愉悦が…
身体の奥から湧き上がっていった。
しこった胸の突起に爪を立てられた瞬間、ビリリ…と鋭い電流が全身を
駆け巡っていった。
「い、や…だ…こんなの、は…! もう…訳が、判らなくなり…そ、うで…
あぁ…はぁぁ…!」
一足先に、また先に御堂の方が達していく。
それと同時に相手のモノもまた限界寸前まで、自分の中で膨張しているのを
感じ取っていった。
「…あっ…!」
ジュッ…と相手の先走りが自分の内部に滲み出ているのを感じて、彼の
腕の下でピクン…と御堂は震えていった。
「孝典…も、う…イクぞ…!」
先程からイキたくても…愛しい相手が乱れる様を一秒でも長く見ていたい一心で
堪え続けていたが…そろそろ彼も真の限界が訪れようとしていた。
克哉の余裕のない表情が、こちらの視界に飛び込んでくる。
それが…自分だけが感じている訳ではない、その事実を如実に伝えてくれているから
酷く…御堂にとっては嬉しかった。
「ん、来い…」
強気に微笑みながら、再び唇を重ねていく。
上も下も…相手で満たされながら…また、達していくのを感じる。
射精の快感ではない、もっと性質が悪く…疼くような感覚だ。
相手を根元までキツく締め付けていきながら…その強烈過ぎる感覚に
御堂は身を委ねていった。
「た、かのり…」
「はっ…んっ…! かつ、やぁ…!」
珍しく鼻に掛かった甘えるような声で、御堂は彼の名を呼んでいった。
それだけで…克哉は酷く満たされるような感じがした。
今度はほぼ同時に絶頂を迎えて…熱い精を相手の最奥に向かって
飛沫かせていく。
自分の深い場所で…相手の熱を受け止めていくと…ホウ、と御堂は
甘い吐息を零していった。
「…本当に、君という男は…」
半分呆れ混じりに、同時にどこか優しい眼差しで…御堂はたった今、
自分を激しく抱いた男の事を見つめていく。
強引で傲慢で、自分勝手で…ついでに意地悪で仕方が無い男なのに…
どうして、こんなに愛しく思えてしまうのか。
自分でも本当に不思議でしょうがなかった。
「…俺が、何だって言うんだ…? 孝典…?」
荒く呼吸を繰り返すこちらの頬を、優しく撫ぜながら男は問いかけてくる。
嗚呼、本当に性質が悪い。
抱く時はいつも意地悪な癖に…再会してからの彼は、ふとした拍子に…
こんなに優しい表情や仕草をするようになったから、余計にこちらは困るのだ。
あのロクでなしの彼のままだったら…きっと自分は、こんな熱病のような
厄介な感情を今も抱き続けないで済んだ筈なのだから…。
「…本当に性質が悪い男だ…。こんなに私を翻弄させるんだからな…」
そういって、強気に微笑みながら…チュっと相手の唇にキスを落としていく。
強い快楽の余韻のせいか…殆ど力が入らない状態では、それが精一杯の
意趣返しだった。
しかし克哉は大層、今の台詞と口付けが気に入ったらしく…心から愉しそうな
笑みを浮かべながら、言い返してくる。
「それを言ったら…あんたも充分、性質が悪い。こんなに…こちらの心を
熱くして、翻弄してくれるんだからな…」
そう呟きながら、克哉の方からも触れるだけのキスを落としてくれる。
たったそれだけのやり取りなのに…最高の気分だった。
今日なんて、さっきまでは羞恥で死にそうなくらいだったのに…こうやって
事が終わってしまえば、それも強烈な快楽に導く為の導火線に過ぎなかった
ことを思い知らされる。
「ふっ…お互い、さま…だ、な…」
嬉しげに呟きながら、フっと意識が遠くなっていくのを感じた。
強烈な快感は、同時に激しい疲弊をも齎すものだ。
フっと気が緩んだ瞬間に、猛烈な睡魔が彼に襲い掛かっていく。
もう…御堂は、それに抗えそうになかった。
―好きだぞ
夢現に、ついそんな事を呟いてしまっていた。
滅多にそんな事を言わない御堂が、そんな発言をかました事によって…
克哉は驚愕で目を見開いていった。
(君でも…そんな顔をするんだな。悪くない…気分、だ…)
御堂は、自分がたった今…口にした言葉を良く把握していなかった。
それぐらい自然に、無意識に出た発言だったからだ。
ただ相手のその驚いた顔が心地よくて。
嬉しげに瞳を細めながら…そのまま瞼を閉じていった。
『最後の最後に…あんたに、やられたみたいだな…俺は…』
眠りに落ちる直前、克哉のそんな呟きが耳に届く。
それが妙に小気味良くて、嬉しそうに御堂が唇に笑みを刻んでいくと…
柔らかく暖かい克哉の唇が、そっと其処に落ちていくのを…眠りに堕ちる寸前
確かに、感じられたのだった―
相手の昂ぶりが自分の中に入って来た瞬間、その熱さに思わず酔いしれそうだった。
あっという間に奥深くまで挿入されて…自分の眼前に、相手の情熱的な眼差しがあった。
「あっ…そんなに、見る、な…!」
煌々と明かりが灯された室内で、深々と相手のモノを飲み込んでいる姿など…
見られたくない、そう思う反面…身体はそんな心とまったく異なった反応を見せている。
「…何を今更。それに…こんなに興奮する場面を…見ないで済ませるなど、
勿体無いことは出来ないさ…」
そして眼鏡は淫蕩に微笑んで見せる。
奥深くまで入り込んでいる癖に、腰を動かす気配はまったく見せない。
相手と自分の身体の間には、御堂のペニスが元気良く勃ち上がっていた。
その先端からはしたなく蜜が溢れて、しとどと…下になっている自分の袋から
下肢の茂みを濡らし始めていった。
「あんたのここ…こんなに熱く、濡れているな。俺に挿れられただけで…そんなに
興奮してピクピクといやらしく震えて…本当に孝典は、淫乱だな…」
「だれ、が…淫乱だっ! 人の身体を…こんな風に仕込んだのは、君じゃ…
ないかっ…!」
キっと眦を上げて相手を睨んでいくが…やはり克哉は涼しい顔をしたままであった。
本当に今夜は、腹立たしくて仕方ない。
自分ばかりがこの男に乱されて喘がされてばかりで…この男は平静な態度を
まったく崩そうとしない。
「あぁ…そうだな。あんたの身体をこんな風にして良いのも…俺だけだ。そうだろう…
孝典…?」
そういって、こちらの手をいきなり掬い取ると…指先をゆっくりと口に含んでいく。
熱くて柔らかい舌先が、こちらの人差し指と中指を辿り始めていった。
「んっ…ぁ…」
内部に克哉自身が入ってきた事でこちらも感覚が鋭敏になっているのだろう。
指と指の境目や、付け根の周辺を舐め取られるだけで…何とも形容しがたい奇妙な
快感が背筋を走り抜けていった。
ピチャ…クチャ…。
わざと音が立つように、こちらの指先を舐め上げて…実に淫猥な眼差しで
熱っぽくこちらの瞳を覗き込んでくる。
何とも挑戦的で、同時に…危険な眼差しだった。
(そんな目で…見る、なぁ…)
背筋がゾクゾクして、頭が霞み掛かっていく。
あぁ…そうだ。自分はこの男に見つめられるだけでこんなに身体を熱くして…
その言葉に逆らえなくなっていく。
屈服したくないのに、この甘い責め苦から逃れたいという気持ちが…あっという間に
押し潰されていく。
「孝典…俺を、愉しませてくれ…」
男が、危なげな笑みを浮かべながら…甘く囁く。
まるで催眠術にでも掛けられてしまったかのようだ。
「あっ…あぁ…」
決して、男は動いてくれない。
内部で…はっきりと自己主張をして、圧倒的な熱量と質感を持って…こちらを内部から
圧迫している癖に…それ以上の刺激を与えてくれなかった。
(ダメ、だ…。もう…おかしく、なりそうだ…)
ビクン、と震えると同時に…こちらの先端からドロリとした体液が溢れてくる。
男のモノも…こちらの内部で、先走りを微かに滲ませているにも掛からず…それでも
抽送を開始する気配はなかった。
「克哉…早く、動いて…くれっ…」
もう焦れったくて溜まらなくて…堪えきれないようにしきりに御堂が腰を捩っていく。
キュっと相手のモノを強く締め付けて、煽っても…微かに眉を顰めるだけで…
克哉は望んでいる強烈な感覚を与えてくれなかった。
「まだ、だ…あんたの痴態を…まだ納めていないからな…」
そう告げると、再び…片手にカメラを構えて、撮影の準備に入っていく。
「俺の目を愉しませろ…それなら、お前が与えて止まない強烈な快楽を…
此処に与えてやるぞ…?」
そう言って、一回だけ腰を突き入れていく。
「はっ…うっ…!」
耐え切れずに御堂は甘い声で啼いていった。
ビリビリビリ…と背筋から電流が走り抜けていったかのようだった。
だが…もっとと強請るように腰を突き動かしても、それ以上は克哉は与えてくれる
気配はなかった。
「克哉…欲しい、のに…どうし、て…」
「それなら…早く、俺の前で…この状態で自分で慰めてみせろ…。それで俺の目を
存分に愉しませてくれたら…お前が望むものをご褒美にたっぷりと与えてやるぞ…?」
「はっ…あ、判った…」
普段の御堂なら、決して受け入れないであろう提案も…ここまで欲望を焚き付けられて
しまった後でなら受け入れざるを得なかった。
オズオズと自分のペニスに指を絡ませていく。
もう痛いぐらいに硬く張り詰めている先端に自ら指の腹を這わせて…もう一方の手で
竿と袋の境目に当たる部分を握り込んでいった。
「あぁ…良い、眺めだぞ…孝典…」
「バ、カ…本当に、お前は…意地悪で、酷い…男、だ…」
恥ずかしくて血液が沸騰して、そのまま死んでしまいそうなくらいだった。
だが…男の目が、さっきまでと違って余裕のないものに変化していっている事に…
御堂は気づいていく。
―はっ…はぁ…はっ…。
表情はあまり変わっていなかったが、呼吸が荒くなって紅潮が始まっているようだ。
(克哉が…私の姿を見て、興奮…している…)
その事実に直面した途端、受け入れている箇所が更に淫らに…相手のモノに
絡み付いて、ジンワリと締め付け始めていく。
もうこちらも…堪らなかった。
もっと相手を感じさせたくて、煽りたくて…夢中になって自らの性器を弄り上げていく。
「んっ…んぁ…こ、んな…!」
羞恥の余り、頭がどうにかなってしまいそうなのに…同時に、自分の性器に触れる度に…
強烈過ぎる悦楽が尾骶骨の辺りから競り上がって来ていた。
瞬く間に、自分の手が蜜によってビショビショになっていく。
その度にドクンドクン、と相手の性器も内部で蠢いて…もう何も考えられなくなっていった。
「あぁ…凄く良い画(え)だ…孝典…」
克哉はこっそりと動画撮影モードに切り替えて、夢中で自慰を続けていく御堂の
艶っぽい表情と…手元を交互に撮り始めていった。
カメラ越しに見ているだけでも、そのままオカズにしてイケそうなくらいの御堂の
淫乱な姿に…こちらも腰を一切動かさなくても達せそうなくらいだった。
「んんっ…言う、な…言うな…! も、ダメだ…克哉…!」
半分、快楽によって涙目になりながら御堂が訴えていく。
異常なシチュエーションのせいか…普段より遥かに早く絶頂が訪れようとしていた。
もうじき、最大のシャッターチャンスが来る。
そう判断して、辛うじて…理性を総動員しながら、動画撮影モードから…通常の
写真撮影モードの方へとボタン操作して切り替え…。
「克哉ぁ…!」
相手が、一際高い声音でこちらの名を呼びながら…自分の身体の下でついに
絶頂に達していった。
それに導かれるように、こちらも達する後一歩の処まで追い詰められていく。
だが…ここでイったら、撮影などする余裕がなくなるだろう。
ギリギリの処で耐えていくと…徐に撮影ボタンに指を這わせて、プッシュしていった。
パシャッ!
その瞬間を狙うように…克哉は御堂の顔をドアップにして撮影していった。
達した瞬間の御堂の苦しげで…最大にセクシーな顔の確認画面が…携帯の
ディスプレイに表示されていく。
(本当に昨今は…優秀な手ブレ修正機能がついていて助かったな…)
綺麗に撮影された二枚目の画像を見ながら、克哉は満足げに微笑んでいく。
それを御堂にでも見せてやろうかと思った次の瞬間…。
「はっ…ぁ…かつ、や…」
苦しげな呼吸を繰り返しながら、御堂が上半身を起こして来て…。
「もう、私を…カメラ越しで何て、見るな…!」
怒ったような悲しんでいるような、切なげな表情を浮かべながら…ギュっとこちらの
首元に強く抱きついてきたのだった―
本日、初頂き物を頂戴致しました。
KYMのへそまるさんの処のフリーイラストでございます。
早速、乗っけてみたりして。
御堂さんだ、御堂さんだ~! わ~いわ~い…と無駄にはしゃいでみたり。
つか背景とかめっさ綺麗なんですけど。
…とりあえず拍手に、このイラストについてのメッセージあったから…
私が貰い受けても構わないんだよね…? とドキドキしながらの掲載です(マテ)
ちなみに今月の十日に書いた突発SSはこの方宛に書いたものです。
(本人様がちゃんと見てくれていて本当に良かった…ほっ)
6月8日の克克会に参加した時に出会ったのですが…たまたま帰宅
方向が途中まで一緒だったので、同じ電車で帰った時にキチメガの
同人誌とか、こっちがサークル活動とかサイト運営しているとかそんな
話の流れになった際に…私はこんな絵描くだよ~と電車の中でスケブを
一枚、即興で描いたんですよ。
「こんなので良かったらどうぞ~」
とこちらが言ったら向こう様が…。
「ありがとうございます! 是非今度…私の絵も受け取ってやって下さい!」
…と本当に嬉しそうな顔で言われてしまったんですよ。
つか、そのスケブ絵…5~10分くらいで描いた簡単なものだったんですよ。
それで人様からキチンとした絵を貰うのはフェアじゃない気が…と思っていたら
フラリと教えてもらった相手様のサイト尋ねたら、その二日後がその人の誕生日。
人様から何か貰う以上は、キチンとお返しせねばならない!
…と情熱を燃やした結果の突発SSでございました。
つか、お礼の先払いに近かったんですが…喜んで貰えたみたいでマジで良かったです。
うん…こういうの嬉しいです。
人に何かを贈るのは、相手が喜んでくれるならそれで良いってスタンスで特に
今までも見返りは特に期待しないで進呈していたんですが、こうして返して貰えると
マジで嬉しい。
へそまるさん、どうもありがとう~。私も好きよ~。
同年代で、同じ県の人とキチメガジャンルでご縁持てたの貴方が初めてですし(マジで)
これからもどうぞ宜しくですv
まるでこちらの全てを見透かすように…暴き立てるかのように、強烈で…
力が篭った視線だった。
その目だけで、身体の奥が疼いて…次第におかしくなっていく。
もう、二人を隔てるものなど何も無い。
裸で向き合い、そして…命じられていった。
「御堂…ベッドの上にうつ伏せで寝そべるんだ…」
艶っぽい声で、克哉が囁いていった。
「判った…」
張り詰めた空気が流れていたせいで…てっきり彼に抱き締められて、ベッドに
なだれ込む事になると予想していただけに、少しだけ驚いていく。
言われた通りに…先にベッドに横たわると、とんでもない指示が相手の口から
飛び出していった。
「そう…それで良い。そうしたら…腰を高く上げて、あんたの恥ずかしい場所を
こちらに晒しながら…俺の方を向いてみろ」
「なっ…!」
いきなり下された突拍子もない注文に、カっとなって振り向いていくと…いつの間にか
克哉は携帯電話を片手に構えて、カメラのレンズ越しに御堂を凝視していた。
「そう、そんな感じだ。あぁ…でも、腰はちゃんとこちらに突き出せ。あんたのいやらしい
場所がはっきりと見えないからな…」
「そんな格好…出来る訳が…!」
「俺はあんたの…いやらしい場所と、とびっきり淫らな顔を同時に収めておきたい。
だからこの構図を選ばせて貰う。…さっき、三枚までなら良い…と確かに言った筈だ。
男に二言はないよな…孝典?」
「ぐっ…ぅ、判った…」
確かに、三枚までなら許す…と言ったのは自分の方だ。
それを指摘されると確かに、言い返せなくなってしまう。
相手の目が、見えない指先になって自分の肌にまとわりつくような感覚がした。
そんな状態で、排泄機関を恋人の前に自ら晒すなど…屈辱以外の何物
でもなかった。
「はぁ…」
けれど、自尊心が傷つくのと裏腹に…見られることで身体は勝手に反応してしまう。
何か操り人形のように、彼に見られる中…指示された通りの体制をベッドの上で
取っていく。
「これで…良い、のか…?」
「あぁ、最高にいやらしい姿だ…だが、まだ足りないな…?」
頬を赤く上気させながら相手の方を仰ぎ見ると…満足げに男が、獰猛に微笑むのが
見て取れた。
すると…ベッドに身を乗り出して…蕾にいきなり指を挿入していった。
「あぁ…!」
突然の行動に、御堂は鋭い声を漏らしてしまう。
だが男は容赦しない。
どうやら…最初からそのつもりだったらしく、男の手は潤滑剤がすでに指先に塗りたく
られていた。
軟膏のようなものが自分の中にたっぷりと塗りつけられて…いきなり弱い場所を
攻め立てられていく。
「やっ…な、何を…撮影、するんじゃないのか…!」
「…どうせ撮影するなら、綻んでいない状態の硬いものよりも、俺が欲しくなって
ヒクヒクと蠢いているようなやらしいものの方が良い…」
「お、お前は悪趣味…過ぎる…! はっ…あっ…!」
そうしている間に、すでにこちらの肉体を知り尽くしている男は一切の遠慮を見せず
自分の弱い場所を探り当てて、其処ばかりを執拗に責めていった。
「やっ…やめ、ろ…本気で、おかしく…なるっ…!」
そういって、相手の方を仰ぎ見ると…こちらを食い入るように見つめながら…下肢を
熱く滾らせている克哉の姿が目に飛び込んで来た。
「あっ…ふっ…」
その瞬間、悔しい事にこちらも感じてしまった。
自分の恋人が、こちらが乱れる姿を見て…欲情で瞳を濡らし、硬く性器を起立させている。
それを目の当たりにした事で…御堂の身体も、更に興奮を高めていった。
触れられてもいない性器が、すでに先走りを滲ませてシーツにシミを作っていく。
(こ、んな…のって。お前が興奮している姿を見るだけで、こちらも…こんなに、感じて
しまうなんて…)
自分の知りたくもない領域と嗜好を見つけ出されたような気になって…更に御堂は
居たたまれなくなる。
そうしている間に、克哉に前立腺を的確に弄られているだけで…それだけで
達してしまいそうになってしまう。
(も、う…ダメ、だ…イク…!)
頭が真っ白になる程の絶頂感が押し寄せてくるのを感じる。
ギュっとシーツを握り締めてその感覚を堪えようとした瞬間…いきなり指が
引き抜かれていった。
「えっ…?」
いきなり放り出されたので、咄嗟に相手の方を物欲しそうな目で見つめてしまった。
その瞬間…フラッシュが焚かれて、撮影されてしまう。
パシャ!
どうやら…克哉はキチンと撮影出来るように、室内の照明状態に合わせた撮影モードと
フラッシュをキチンと設定しておいたようだった。
目を焼くような眩い光が、彼を瞬間的に照らし出していく。
「…予想通り、最高のシャッターチャンスだったな…」
そうして男が悠然と笑う。
御堂は…身体に灯る熱を持て余したまま…呆然とするしかなかった。
されど、肉体はこちらの意思とは関係なく反応し…未だに淫らに収縮を繰り返していく。
「き、君という男は…!」
こちらが怒りを込めて、相手を睨み付けた途端…いきなり男は、こちらの方に一気に
間合いを詰めて…身体を反転させて、正面から向き合う体制へと変えていった。
流れるような、見事な体位変換だった。
「なっ…何、を…」
いきなり相手に組み敷かれて…足を大きく開かされたまま、相手の下になる体制に
されてしまうと…困惑のあまり、唇を震わせていく。
「何って…次の画像の撮影に決まっているでしょう…? そうですね…次の画像は、
俺のものを飲み込んだ状態で…貴方に自分のモノを慰めてもらう処なんて…
どうでしょうか…?」
「なっ…!」
今のでも充分恥ずかしかったのに、更に酷いシチュエーションを指定されて…
御堂は耳まで真っ赤に染めていった。
「ショータイムの本番は…これからだぞ、孝典…」
「待て…や、あぁぁっ…!」
だがこちらが相手の身体を押しのける間もなく…ヒクヒクと絶え間なく蠢く其処に
克哉の熱い塊が押し当てられて…一気に深い処まで串刺しにされたのだった―
心の準備をしたいから、と言ってシャワーを浴び終えると…改めて気恥ずかしく
なってしまった。
少しでも時間を引き延ばして、丁寧に身体を洗ってしまったが、もしかしたらアイツに
期待しているから…と見られたかも知れなかった。
(あぁ…もう、何たって私がこんな想いをしなきゃいけないんだ…。本当に
アイツの意地の悪さは半端じゃないな…!)
あんな提案を受け入れてしまった自分に対して、少し腹を立てながら…バスローブを
身に纏い…寝室の方へとゆっくりと向かっていく。
静寂を讃えた廊下を歩いていると、自分の心臓の鼓動のやかましさを余計に
意識する形になった。
ドキ、ドキ、ドキ、ドキ…。
早鐘を打っているのが自分でも判る。
時々…これから起こるであろう時間を想像して、無意識の内に息を詰めてしまっていた。
だが、一度承諾した以上…やはり止める、と言うのは絶対に許して貰えないだろう。
(ええい、ままよ…!)
寝室の前に辿り付くと…勢い良く部屋の扉を開けていった。
バァン!
…勢い余って、思いっきり壁にドアが衝突して…盛大な音が周囲に響き渡る。
「おやおや…ずいぶんとやかましいな」
煌々と照らされた明かりの下、ベッドに腰掛けながら…克哉は待っていた。
部屋の入り口の方へ向き合うように…腰を深く下ろして、両手を組みながら…
強い眼差しでこちらを見つめてくる。
彼の銀縁眼鏡が、ギラ…と輝く。
「…覚悟は出来たか? 御堂…?」
「あぁ…」
軽く頬を染めながら頷くと、知らず頬が赤く染まっていった。
そんな恋人の様子を眺めながら…悠然と、傲慢に男は微笑んだ。
「そうか…なら、来いよ。早く…あんたをじっくりと確認したい…」
「う、む…」
そういいながら、克哉の下へと向かっていく。
一歩、一歩…慎重に相手の処へ歩み寄る度に、反比例するように鼓動は
大きく、けたたましいものへと変わっていった。
バックン…バックン、バックン、バックン…。
胸がそのまま張り裂けるのではないか…と疑いたくなるくらいに大きな音を
立てながら、心臓が激しい脈動を繰り返していく。
「…顔が、赤いな…。あんたのそういう殊勝な顔…そそるぜ?」
「あんまり、そういう事を言うな…」
すぐ目の前までたどり着いた時に…からかうような口調で声掛けてくる相手に対して
プイ、と顔を背けていくと…強い腕の力で、克哉の方へと引き寄せられる。
「さあ…ショータイムの始まりだ。あんたと俺だけの…秘密の撮影会、がな…?」
「ん、あっ…」
そのまま深いキスを交わされていくと…口腔を暖かい舌先で、性急にくすぐられていく。
歯列をやわやわと辿り、舌の表面同士を擦り合わせながら…そのまま深く絡め取られて
強めに吸い上げられていった。
相手はベッドに座したまま…こちらはその上に圧し掛かるような体制で、深い口付け
だけをまず与えられていく。
克哉の両手が、こちらのバスローブをずり上げて…臀部を剥き出しにしていった。
外気に晒されて、若干の肌寒さを覚えている間もなく…相手の両手が其処に伸ばされて、
早くも揉みしだかれていった。
「はっ…くっ…」
口の中全体を、相手の舌で犯されているみたいだ。
グチャ…ピチャ…と淫らな水音が脳裏に響き渡っていく中、尻肉を執拗に弄られていくと
それだけで早くも奥まった蕾が反応し始めていった。
「ひっ…」
ふいに克哉の指先が、菊門の入り口を掠めていくと…たったそれだけの刺激で
御堂は高い声を漏らしていった。
相手に揉まれる度に、御堂のしっかりとした体躯が揺らめき…ベッドがギシギシと
軋み始めていく。
180を越える長身の二人が寝具の上で絡み合えば…必然的にそうなるのだが、
その音すらも…御堂を煽る因子の一つとなっていった。
奇妙な疼きが、早くも身体の芯に灯り始める。
それがもどかしくて仕方なくて…懸命に御堂も相手の方へと手を伸ばして、未だに
着込まれたままの相手のYシャツのボタンへと、指を掛けていく。
「…君も、早く…脱げ。私ばかりが…こんな格好にさせられる、のは…フェアじゃ…
ないだろう…!」
顔を真っ赤にしながら唇を離して、御堂がそう呟いていくと…克哉はククっと喉の奥で
笑い始める。
「あぁ…そうだな。お互い…生まれたままの格好にそろそろなろうか…。孝典、脱げよ…。
あんたが自分の手で…その布を取り払う姿が、見たい…」
そう言いながら、少し身体を離して…眼鏡は自分のYシャツのボタンを一つ一つ…
作為的な動きで外し始めていく。
それに目を奪われながら…御堂は、深呼吸をしていく。
明るい光の下で自分の意思で、このバスローブを取り去るのは…かなりの
羞恥が伴った。
「…トコトン、君は悪趣味で意地悪な男だな…。そんなに強く見つめられる中で…
私に自分で脱げというのは…嫌がらせ以外の何物でもないぞ…」
そう呟きながら、御堂はバスローブの紐を緩ませ始めていく。
視線だけで…こちらを犯す尽くされそうな勢いだ。
息を詰めながら、ゆっくりと脱ぎ始めていくと…。
「…俺が意地悪な男だっていうのは、あんたは…よ~く知っているだろう…?
今更、だろ…?」
「…ああ、そうだな。本当に今更な話だったな…」
そう言いながら男も、こちらに見せ付けるように…服を一枚、一枚…
脱ぎ去っていく。
ここまで言い切られてしまうと、こちらもこれ以上反論出来なくなる。
結局、それ以上の言葉は深い溜息を突くことで押し殺す羽目になった。
お互いに、相手の裸身が暴かれていく光景に目を離せない。
そして一分後…彼らは、何も隔てるものがない状態で…相手に向き合っていった。
赤くなって居たたまれない表情を浮かべる御堂に対し、眼鏡は決して…
平静な表情を崩すことはなかったのだった―
経過していた。
二人が設立したアクワイヤ・アソシエーションは…驚異的なスピードで
急成長し、その頃には大きな仕事を多数扱うようにまでなっていた。
仕事が忙しくなれば、二人きりで過ごす時間が減ってしまったり…暫く
会えない期間も当然出てくる。
来週の頭から、十日ほどの出張に眼鏡が発つことが決まった週末の夜。
佐伯克哉のマンションのゆったりとした造りのリビング内にて、御堂孝典の
叫び声が響き渡っていった。
「き、君は一体…何を考えているんだっ! そんな事が出来る訳が
ないだろう…!」
ワナワナと震えながら、御堂は勢い良くさっきまで腰掛けていたソファの上
に置かれていたクッションを、隣に座っていた克哉に投げつけていく。
最初の一撃を相手があっさりとかわしていくと…御堂はすかさず次の
クッションを投下していった。
「おっと…危ないなぁ。こんなに近い距離でそんなに強く投げつけたら、クッションと
言えども、それなりにダメージはあるぞ?」
「…君がロクでもない提案を持ちかけるからだっ…! これくらいは当然の結果と
して受けろっ!」
御堂はどうやら、先程…克哉が提案した内容に対してかなり憤っているようだった。
顔を真っ赤にしながら、ジトリとねめつけるようにこちらを睨みつけてくる。
相手の感情を剥き出しにした態度に、極めて意地悪い表情を浮かべながら眼鏡は
言葉を続けていった。
「…やれやれ、お前がそこまで怒るとはな…。俺は単純に、これから十日間も孝典に
会えなくなるのを寂しく思ったからこそ、おねだりしただけに過ぎないぞ?」
「…どうせおねだりするっていうのなら、もう少し可愛らしい内容を持ちかけたら
どうなんだっ! どうして、そんな発想が思い浮かぶのか君の正気を疑うぞっ!」
「…御堂。俺たちは恋人同士なのだろう? それなら…愛しい恋人の写真や
動画を携帯の中に収めたいと願うのはそんなに正気を疑うような行為か?」
平静な態度で、克哉があっさりと言い返すと次の瞬間…御堂の拳がぎゅっと
握りこまれて、ワナワナと震えていった。
その目線には強い殺気まで込められていた。
「お前はー! 私だって普通の写真や動画を求めたというのならこんなに怒ったりは
しない! だが…私が自慰している処や、お前に抱かれている時の画像を欲しいと
言うから怒っているんだろうがー!」
「しょうがないだろう。今回の場合…俺が出先に赴かなければ此度のプロジェクトは
動き出しそうにないし…あんたにはその間、会社に残って俺の代わりに仕事を
こなして貰わないと通常業務にさえ支障を来たしそうだからな。
これから先、仕事が軌道に乗ればこういった機会は増えてくるだろう。そういう時に
心を慰めてくれる画像を欲することがそんなに可笑しいか?」
だんだん怒り始めて冷静さを失っている御堂に対して、克哉の方は…平然と
した態度をまったく崩さなかった。
それが余計に、御堂は気に食わなかった。
自分ばかりが興奮して立ち上がって、相手が座ったままでいるのも癪だった。
「…そんな物を撮影されて万が一誰かに見られたり…携帯を紛失したら一体
どうするつもりなんだっ…!」
「俺がそんなヘマをすると思うか? それに…そんなお宝画像が収まっている携帯を
絶対に俺は失くしたくはないからな。…御堂」
ふいに克哉が立ち上がっていくと…グイ、と腕を引かれて彼の方に強引に引き寄せ
られていく。
一瞬の隙を突かれて、相手の腕の中に抱き締められていくと…耳元に唇を
寄せられていった。
『離れている間も、あんたの事をはっきりと思い出したいんだ…。俺の愛しい
恋人である御堂孝典の事をな…?』
「…っ!」
熱い吐息を耳奥に吹き込まれながら、甘い声音で囁かれたのだから…それだけで
腰がジィンと痺れそうになってしまった。
反射的に相手からバっと離れていく。
だが…相手の唇と吐息が触れた耳朶には、痺れるような余韻が残されていた。
「…ダメか?」
「当然、だ…。そんな事を、言われたって…」
先程と違い、今の攻撃に少しグラリと来たらしい。
顔を真紅に染めながら…少し艶っぽい瞳でこちらを見つめてくる。
嗚呼、この男から与えられる快楽にすっかりと馴染んでしまったこの身体が
恨めしい。
「あんたの痴態を…この網膜に焼き付けたい。そして…あんたを想って疼く夜を…
鮮明に思い出して、あんたの事だけをただ考えて…イキたい。俺は…そう考えて
こんな提案を持ちかけた。それでも…ダメ、か…?」
ふいに意地悪な表情から、切なげな表情に一転して変わっていく。
その顔つきの変化に、目を奪われていった。
「だから、そんな風に…熱く見られて、も…」
「御堂。これは…恋人からのお願いだ。それでも…聞き遂げてくれないだろうか…?」
こちらが惑っている隙に、克哉に強引に抱き締められて…耳元で甘く囁かれていく。
そうしている間に…耳朶をやんわりと食まれていった。
―御堂、ダメか…?
そう呟かれながら、優しく背中を擦られていくと…何かこれ以上突っぱねるのも
難しくなってしまった。
ああ、何故こんな酷くて厄介な男に自分は惚れてしまったのだろう。
そんな己を歯噛みしたくなりながら、御堂は口を開いていった。
―三枚だけだ。ちゃんと…しっかりと他人に画像を見られないようにしっかりと
対策を立てた上でな。それでなら…応じてやっても良い…。
そう応えると男は愉しげに微笑んで見せた。
―判った。その三枚はトコトン厳選させて貰おう。実に楽しみだな…。
そうして、男は獰猛に微笑んでいく。
その顔を見て…御堂はゴクリ、と大きく息を呑んで身構えていったのだった―
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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