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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―どれだけ強く願っても、叶うことのないのならば
 何も感じず、望まない方がずっと良い。
 目の前にいても、決して相手の心に自分の声が届く事がないのならば
 何も見ず、何も感じずに…ただ深い闇の中に己を閉ざそう
 だってそれは、一人であるよりも遥かに孤独で…生きている事を
 虚しくさせてしまう状況だから…

 行為は一方的なものだった。

 全てが終わって、ようやく解放された頃には…克哉はぐったりとなっていたが
身体の状態はかなりマシになっていた。
 無理矢理抱かれて、強烈な快感を与えられ続けて…それが刺激になったのか、
ノロノロ…とだけ指先が動くようになっていた。
 だが、未だに自分の身体のような気がしない。
 肉体がまるで…他人のものになってしまったようだ。

 思い通りに動かないもどかしさ。
 こうしたい、と願ってから実際に動くまでの大きなタイムラグ。
 消えない虚脱感。
 そして…深いモヤが掛かってしまったかのような思考回路。
 ベッドシーツの上に…着衣を激しく乱された状態のまま放り出されて、薄い胸板を
何度も何度も激しく上下させていく。
 
(…一体何が、どうなっているんだ…?)

 周囲を見渡してみる。
 まったく見覚えがない内装だった。
 自分のアパートでも、適当なビジネスホテルでもない。
 普通の一軒屋の中…というには、余分な物があまりに置かれていないように思える。
 これはまるで…そう、モデルルームか別荘のようだった。
 ようやく視力が復活して仰向けの状態で周囲を見渡してみると…窓の向こうには
深い樹林の影が覗いていた。

(ここは山奥…なのかな…?)

 窓の外の光景にも見覚えがない。
 まったくどこだか見当もつけられない状況は…克哉を著しく不安にさせていった。
 ここがどこで、自分がどんな事態に巻き込まれているのか。
 まったく判断する材料がない状態は悪戯にこちらの不安感を煽っていった。

(…後…何で、『俺』がここにいるんだろう…)

 そう、それも不可解な事だった。
 彼は基本的に自分自身であり…確かに以前にも対峙をした事が何回もあったが
当たり前のように存在出来る訳がないのである。
 だが、彼は自分を抱いた後も…今回は消えなかった。
 それが余計に、訳が判らなくなってしまう。
 答えの見えない迷路に迷い込んでしまったかのような錯覚すら覚えながら…
ふと、自分の腕をチラリと見遣って…ぎょっとなっていった。

「な、んだよ…これ…!」

 驚きの声が漏れていく。
 慌てて反対の方の手首を見ていくと…更に目を見開いていった。
 
 ―両手首に、黒い痣のようなものがくっきりと刻まれていた。

 これは、何度も繰り返し繰り返し…過去にキツく縛られた事があるという
証拠のようなものだ。
 もうそれは消える事のない刻印のようになっていて…克哉の肌に深く刻み
込まれている。
 身体を起こして、全身を確認したかったが…今の彼は多少の身じろぎと、
首や指先を若干動かす程度までしか出来ない。
 視界の端に足先が入ると…足首にも同じような黒い痣があった。
 
(何でこんなものが…身体に…?)

 一層、混乱が深まっていった。
 必死になって自分の記憶を探り始めていくが…ここ暫くの記憶というものが
一切なかった。
 そもそも、今日の日付すらもロクに判らない状況なのだ。
 今日が何年の、何月何日になるのかの情報すら知らない。
 その焦りが…更に彼の不安を増大させていった。

(何で…何も思い出せないんだよ…!)

 本気で苛立ちながら、ギュっと目を瞑っていく。
 だが…そうやって事態から目を逸らしても何にもならない。
 そう思い直して、辺りをもう一回見遣っていくと…ベッドの脇に置かれた
サイドテーブルの上に、見慣れぬデザインの携帯電話が投げ出されている
事に気づいた。

(そうだ…携帯電話を見れば、今日が何日か判るかも…)

 表示されている情報に関しては持ち主の好みにもよるが、大抵の携帯電話には
その日の日付と、現在時刻くらいは出ている筈である。
 懸命に携帯電話の方に手を伸ばしそうとして…3分くらい時間を掛けてようやく
身体が動いていく。
 それからゆっくりと慎重な手つきで引き寄せて、その画面を眺めていくと…。

「嘘、だろ…?」

 信じられない想いで一杯になっていった。 
 画面の中心に表示された日時、それは…自分が最後に日時を認識した日より
優に一年以上は経過していたからだ。

「な、んで…一年以上も…?」

 最後の記憶を必死に拾い集めるが、形にならない。
 どうにか思い出せるのは、自分のアパートに帰宅してから…そう、誰と
話していたのだろうか?
 全てを捨てるように命じられて、それで…。

(ダメだ…これ以上、何も思い出せない…)

 その辛うじて思い出せる記憶まで、断片的で…はっきりとしないものだ。
 その日より前の事は、覚えている。
 自分はキクチ・マーケーティングの八課に所属していて…同僚に本多、上司に
片桐がいて…サラリーマンをやっていた。
 大学時代の途中に辞めてしまったが、バレーボールもやっていて…と過去に
遡れば遡るだけ思い出せるのに、ここ最近の記憶だけはすっぽりと抜け落ちていた。

「オレは…一体、何をしていたんだ…?」

 こんな黒い痣が刻み込まれていて。
 ここ近年の記憶がまったく思い出せなくなっていて…。
 こんな異常な事態に見舞われてしまって、佐伯克哉はどうすれば良いのか
判らなくなってしまっていた。
 途端に、一人でいる事が怖くなる。
 ギュっと…目を瞑って、縋るように自分の腕を掴んでいくと…ガチャリ、と部屋の
扉が開閉する音が耳に届いた。

「起きているか…?」

 もう一人の自分が声を掛けてくるが、一瞬返事をする事にためらってしまう。

「ちっ…だんまりか。ならこちらの勝手にやらせて貰うぞ…」

 克哉が混乱して、何も返事が出来ないでいると…彼は大きく舌打ちしながら、
湯気を立てている洗面器を持ってゆっくりと克哉の方へと再び歩み寄って来たのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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