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本日、無事に誕生日を迎えた事と、これだけ短期間に35000HIT達成したという
三つの自分的にめでたい事と、日ごろの感謝を兼ねて、突発企画です。
眼鏡×克哉、眼鏡×御堂、御堂×克哉、太一×克哉、黒太一×克哉の中で…
読みたいと思うCPとシチュを記述して下さった方の中で抽選で一名の方に
SSをプレゼントさせて頂こうと思います。
抽選方法は…!
公平なるアミダクジで決めます!!
クジに当選した方に、一本…リクエスト小説をプレゼントさせて貰います。
リミットは…2月1日いっぱいまで。翌日の日付以降のものは受け付けませんので
あしからずです。
一人しか来なかったら、まあ自動的にその方が当選します。
…本当は30000hit迎えた頃くらいに一回くらいはやろうかな~と予定していたんですが
その時期、本当にヘロヘロになっておったんで…本日にやる事にしました。
HNを名乗るのに抵抗ある方は、イニシャルでもOKですが…一応区別化を計りたいんで
リクする場合はHNかイニシャルのどちらかを名乗って投稿して下さる様に
お願いしますです。
それでは…今回はこの辺で~(脱走!)
克哉は覚えていなかった。
窓から朝日が差し込んで、それによって克哉の意識が覚醒していく。
時計の針は七時近く…いつもの起床時間になろうとしていた。
(…起きなきゃ、今日は…仕事があるんだし…)
確か本日は、まだ火曜日…週末には程遠い筈だった。
数時間前まで、絶え間なく抱かれ続けていたおかげで…体中に鈍い痛みと
筋肉痛が走っている。
体中がお互いの体液と汗でベタベタした感じがするし、自分の中には…御堂の
精がまだしっかりと残されているのを自覚して…克哉の顔がカァ~と赤くなった。
隣に横たわっている御堂の眠りは深いらしく、彼がゴソゴソと身動きしたくらいでは
起きる気配がなかった。
「…本当、昨日は…そのまま、死んじゃうかな…って少し、不安になったかな…」
相手の安らかな寝顔を見て、そんな事を呟きながらその唇に小さくキスを落として…
それから、ベッドから降りていった。
「…このままじゃ幾らなんでも、会社に行けないしな…。シャワーくらいは…浴びておこう…」
そうして、克哉は裸のままバスルームへと足を向けていく。
程なくして、浴室の方から…シャワーの水音と湯気がゆっくりと立ち昇り始めていった―
*
御堂が目を覚ました時…自分の傍らに克哉の姿がなかったので一瞬、ぎょっとなった。
慌てて相手の姿を探していくが…ベッドの上には温もりすら残されていなかったので…
すぐに身を起こして、シャツだけを羽織った格好で克哉を探し始めていく。
洗面所の方を見たが、すでに上がっているらしく…ガラス戸には水蒸気が残っているが
その向こうに人影は見られない。
キッチンの方へと向かうと…そこにはYシャツ一枚だけを羽織った、何とも目のやり場に
困る格好で克哉は朝食の支度を整えていた。
「…あ、おはようございます…。御堂さん。今…オレもシャワーを浴び終わったばかり
なんですが…貴方も良かったら、さっぱりして来て下さい。食事はオレの方で…
用意しておきますから…」
「…あぁ、なら…その言葉に甘えさせて貰おう…」
一瞬、そんな際どい格好でキッチンに立つ克哉の姿を背後から抱きすくめたいという
衝動に駆られたが、今の自分は…昨夜の行為の名残で、肌は汗でベタベタした感触が
残っている状態である。
風呂に入り終わったばかりの人間に、現状では抱きつくのは嫌がらせに近いだろうと…
辛うじて理性を働かせて、彼もシャワーを浴びに向かった。
…昨晩、胸の中に燻っていた憤りやモヤモヤも、散々…貪るように克哉を何度も抱いた事と
暖かいシャワーの湯を浴びた事でかなり晴れていた。
さっぱりした状態でキッチンに戻ってくると…テーブルの上には二人分の朝食が並べられて
ほんわりと湯気を立てていた。
「美味しそうだな…昨晩は夕食を食べる暇すらなかったから、流石に空腹だしな…」
「…っ! えっ…まあ、そうですね。だから…朝ですけど、結構ボリューム多めに作って
おきました。…オレも、ちょっとお腹空いていますし…」
「…そうだな。あれだけ激しい運動をしておきながら、夕食ナシだったのはキツかったな。
昨日はその辺を考慮しなくて…すまなかったな、克哉」
激しい運動、という言葉に…耳まで克哉の顔は赤く染まっていく。
それはとても可愛くて…キスの一つでもしたい心境になったが…ここで彼にキスしたら
また妙に滾ってしまいそうなので寸での処で押さえ込んでいく。
テーブルの上にはバターを塗った物と、ハムと蕩けるチーズを乗せてカリっと焼き上げられた
トーストが各一枚ずつ皿に並べられている。
もう一つの皿には半熟の目玉焼きとベーコン二枚、それと切れ目を綺麗に入れられた
ソーセージが二本ずつ。
もう一つの皿の上には大根とワカメ、ちりめんじゃこを散らして青じそドレッシングが
掛けられている和風テイストのサラダ。
それに玉ねぎとニンジンのみじん切りをさっと煮込んで作られたコンソメスープがついていた。
朝食にしては結構なボリュームがあって…良い感じだった。
「…孝典さん、味はどうですか…?」
「あぁ…美味しい。特に今は空腹だから…有難い。作ってくれてありがとう…克哉…」
「いえ、その…オレにはこれくらい、しか…出来ないですから…」
そうやって頬を染めて、照れくさそうに言う様は…自分が良く知るいつもの克哉だ。
昨日の朝に見た、冷徹な表情を浮かべて強引に抱こうとした眼鏡を掛けた彼や…ベッドの
上で淫乱と言えるぐらいに乱れて喘いでいる姿は、其処からは想像出来ない。
「うっ…」
「…どうしました?」
「いや…何でもない…」
とっさに、昨日の克哉の艶っぽい姿を思い出して鼻血が出そうになった…とは
いい年した男が口が裂けても言える訳がないので、適当に流す事にした。
サラダを食べる度にシャキシャキ、と大根を噛み砕く小気味の良い音が聞こえる。
こういう時、彼が自炊にそれなりに慣れていて…そこそこ美味しい料理を作ってくれる
事に御堂は感謝を覚えていた。
そのまま二人で無言のまま…朝食を食べ進めていく。
いつもの自分たちに戻れたような…そんな錯覚すら覚えていく。
だが…目が合った瞬間に見せる克哉の表情は、やはりどこか儚いままで…
見ている御堂の気持ちを落ち着かなくさせていった。
そして…食事を食べ終わり、お互いに食器を皿の上に置いていく。
其処で改まった態度で、克哉がこちらに語りかけて来た。
「…孝典さん。そのままで良いですから…オレの話、聞いて貰えますか…?」
「…あぁ、構わない」
短くそう答えて、御堂は克哉の話を聞く体制を整えていく。
スッと…その表情が変化して、引き締まったものに代わり…こちらを真っ直ぐに
見つめて来た。
「…ありがとうございます。…どうしても、貴方に言いたい事があったから…。
貴方は今、オレの事をどう思っているか…判らないけれど。もし…もう一つの
人格がある事を受け入れられない、と思うのなら…どうぞ、オレと別れて下さい。
それをお願いしたかったから…」
「何っ…!」
食卓の椅子から、血相を変えて御堂が立ち上がっていく。
だが…克哉の表情は、どこか達観しきったような静かなものだった。
「…君には、あれだけ抱いても…私の気持ちが伝わっていないのかっ! 別れたいなどと
思っている相手をあんな風に抱ける訳がないだろっ!」
「…えぇ、判っています。シャワーを浴びた後に鏡を見て…昨夜はどれだけ、貴方が
オレを愛してくれたか…驚いたくらいですから。けど…貴方が愛しているのは、あくまで
<オレ>の方だけであって…あちらは、そうじゃないんでしょう?
けど…オレはもう知ってしまったから。もう一人の<俺>がどれだけ…貴方がオレだけを
愛している事で、苦しんでいたか…を…。だから…せめて…貴方に、あいつの存在を容認
して貰わない限りは…あいつはこれからも苦しみ続ける。
けれど…あんな事をしたあいつを、貴方が受け入れられないというのなら…その時は、
別れる事も仕方ないと…オレは考えました…」
「そ、んな…」
その言葉に、御堂は肩を震わせる事しか出来なかった。
だが克哉の瞳は…強い意思を宿して、輝いている。
「…孝典さん。オレは…貴方を愛している。だからこそ…貴方を自分のエゴで縛りたく
ないんです。…あいつをひっくるめて、受け入れて欲しいと望む気持ちを押し付けるような
そんな真似をしたくないんです…。貴方にも、選択の自由はあると思うから…」
泣きそうな顔をしながら、それでも瞳を逸らさずに…克哉は御堂に気持ちを伝え
続ける。今にも涙が溢れそうな…切ない表情を浮かべながら…こちらに選択を
する余地を与えようとする恋人の姿に…御堂は胸が引き攣れるような思いになった。
「…君はどこまで…残酷な問いを私に投げかけるんだな…」
私にとって、残酷な問いかけと…選択を迫るのだろう。
君だけならば、私の答えは決まっている。
決して…君を自分から手放したりなどしない。それは誓って言える。
だが…昨日、自分にあんな振る舞いをした…まったく別の意識の方までを容認出来るか?
二重人格である事実までを全て受け入れてこれからも変わらず…付き合っていけるのか、
確かに自分でも迷う部分があった。
その惑う部分を感じ取っているのだろう。
克哉は…柔らかく微笑みながら、愛しい人に告げていく。
「…すみません。けど…この件をもうこれ以上、曖昧になど…したくなかったですから…。
…オレも週末までにはどうにかもう一人の自分の件をケリつけておきます。
ですから…もし、あいつの存在込みでこれからもオレと付き合って下さると…そう思えたの
なら、今週の週末にこの部屋にもう一度…来て下さい。
貴方が来ないままでしたら…オレはそれで、この恋を潔く諦めます、から…」
瞳を閉じて、何もかも観念したような…そんな顔を克哉が浮かべていく。
全てをこちらの選択に委ねて、克哉はその運命を受け入れると言い張った。
その言葉の奥にある真意の重さに…御堂は、呻くしかなかった。
「克哉…」
だが、御堂もまた…それ以上の言葉を続けられなかった。
眼鏡の方の意識も込みで、君を受け入れる。
そう即答出来ない自分に腹が立ってしょうがなかった。
だが…昨日の朝の、あまりに豹変した克哉に無理やり組み敷かれた時の恐怖や
惑いの感情が…彼の思考を鈍くさせていく。
…悔しいが、確かに…落ち着いて考える時間が今の自分達には必要なのは
事実、だった。
(…あいつを受け入れなければ、私は…君まで失う、というのか…?)
御堂はその事実に愕然となりながら…克哉を見つめていく。
あれだけ昨晩は腕の中に抱きしめ続けたのに、愛しいと思いながら情熱を
注ぎ込み続けたのに…今は、互いの心がどこまでも遠く感じられていく。
「…ごめんなさい。それは貴方にとって…酷な事だとは承知しています。
けれど…あいつもまた、紛れも無いオレの心の一部なんです。それを恐れたり
蔑ろにしたから…あいつは暴走して、こんな事態を招いてしまった。
だからオレは…心の中にあいつが存在している。その事実から逃げる事は
もう止めたいんです…。其処にいるのに、存在を否定され続ける。
それはどんな人間だって…辛くて、仕方ない事でしょうから…」
一筋の涙を頬に伝らせながら、克哉は…穏やかな声で告げていく。
その一言に、御堂ははっとなる。
だが…今はまだ、グルグルと迷いが生じて…はっきりした答えを出せずにいた。
(愛している、のに…! 私は…こんなに、君を…!)
歯噛みしながら、自分達の間に今広がっている…溝の大きさに御堂は憤るしか
なかった。
朝の光が注ぐ中…二人の間に、沈黙が落ち続ける。
『君もあいつも、全て受け入れる!』
今、この瞬間にその覚悟を決めて…彼にそう言ってやれない自分の器の狭さと
弱さに、本気で御堂は怒りを覚えていた。
そんな彼を…克哉は、席を立ってフワリと抱きついて口づけていく。
心を通わすキスじゃなく、それは惑い苦しむ御堂の心を少しでも慰める為の口付け。
その口付けを受けて…とりあえず身体の力を抜いて、その優しい感触に御堂は
身を委ねていく。
こうして触れ合っていても…今はまだ、どこかお互いの心が遠い現実が…
少し、悲しかった―
なってて普通に驚いていた香坂でございます。こんにちは!
レンタル先から、拍手アイコンで使用させて貰いますね~と自己申告したら、
拍手用の文字入れして貰えたので、こっそりとそっちに変更しましたv
わ~いわ~い、秋乃さんありがとう~!
んで、とりあえず拍手返信っす。
メッセージ下さっている方、どうも感謝です(ペコリ)
mikaさん
こちらの小説を毎日の楽しみ、と言って下さってありがとうございますv
W克哉好きですか…! はい、多分登場人物の中で一番愛情注ぎまくって
書いているのがW克哉なので、そう言って貰えると凄く嬉しいです。
克哉はどちらでも、書いてて楽しいのですよ!(無駄に力説)
080128 1:27様
…え~と、恐らくその結末の為に延々とこんな長い話を書いて至りします。
攻め御堂さんが、どこまで眼鏡込みで佐伯克哉という存在を受け入れるか…
これから度量が問われますな(ニヤリ)
080128 4:54様
秋紀と克哉のシーンは…この話の中で一番書きたいと思った場面だったりします。
敢えて眼鏡×秋紀ではなく、お互いに立場的に受けじゃないですか? だから…
相手の気持ちを慮れるのは克哉の方だろう、という思いありましたしね。
御堂さんが撒かれるシーンは、ちょっとした息抜きみたいな感じです。私も
あそこは書いてて凄く楽しかったりします(テヘ)
080129 10:55様
えぇ、思いっきり御堂さんに秋紀との事がバレましたねぇ(笑) けれどこれも
二人の試練みたいなものです。これくらい乗り越えられなくて二重人格の人間と
付き合えはしないだろ~と鬼のような事思って至り(笑)
多分これからお仕置きタイムです。満足行く出来のシーンになっておりますか…?
080130 10:06様
わわっ! 毎回萌え過ぎて読んでいると…マジで感謝ですv えぇ…このシーンは御堂
さんの克哉への執着心が出捲くっているシーンなんで個人的に私も好きな場面です。
ちなみに彼は、その他の場所にも沢山キスマークつけまくっていたりします…(描写は
そこまでしていないけど)…愛されていますよねぇ。マジでここまで御堂が克哉の為に
熱い行動しまくるとは、当初では予想もしておりませんでしたよ…(待てぃ)
…という訳で拍手完了!
最近、何日か分纏めて返信が基本になっていますが…まあ、私の生活サイクルだと
拍手までやれる気力が残っている日は週に2~3日なので大目に見て貰えると
嬉しいです。
それでもポチポチが押されていたり、メッセージがある事を励みにして…日々頑張って
おります。いつもありがとうございますねv
あ~後、私が参加したインテ発行のアンソロジー。ちょっとした手違いというか…トラブルで
私の作品が載っていなかったり、もしくはもう一人の方のが掲載されてなかったり…もしくは
ノンブルが変な事になっているの三パターンの乱丁が発生していたそうです。
…そういう事情なんで、私の作品が載っていないバージョンをお持ちの方用に今週の週末
辺りに掲載作品をアップする、という形を取らせて頂きます。(そう依頼されたもので)
…ん~何ていうか、怒るっていうよりも…自分もちょっとした表記ミスでコピー本を一度分解して
そのページだけ差し替える羽目になったり、挿絵を人に描いて貰って…どちらが上とも取れる
構図の絵だったんですけど、天地逆に指定してしまって…挿絵様に確認して欲しかったと
痛烈に言われた経験とかあるんで…。(前のジャンルでですが)
怒るよりも、これからその件での対応で大変だろうな~と言う気持ちの方が
先立ってしまいました…。
まあ、人によるでしょうが…自分も結構、色々と失敗してきた人間なので…オフ本の製本
作業とかに慣れていない人のこういうミスは、一度目なら仕方ないかなって思う。
コピーとオフ本の作り方って、根本的に違うしね。
人間、大きな失敗をして後悔する事で身に沁みて…次からは絶対にしない! と気をつける
ようになるもんだし。次の企画にこの失敗を活かしてくれるならと考えて…今回は
私はこれ以上は責めない方針。
自分自身が、失敗をする度に感情的に叱責されたり、集団に一斉に責められた経験して…
身の置き所がない辛い思いを何回もしてきたからね。人に同じ事をするつもりはない。
反省していたり、悪いと思っている人をこれ以上責めても仕方ないっしょ?
オイラは基本的にこういう考えです。
後…もう一つ。始まりの扉、当初は今月末までに終わらせる予定でしたが…まだ続きそう
なので…開き直って、期限とか気にしないで書きたい場面を書き切る事に決めました。
…恵方巻きを食べる頃くらいには終わるかしら~(ヲイ)
秋紀の方のけじめは片付いたので、後は眼鏡の方に向き合って貰う予定。
…辛いからって物事から目を逸らして生きている内は、儚い幸せや絆しか作れないと
思いますしね。N克哉にもうちょい頑張って貰いますv
んじゃ今宵はこの辺で…(脱走!)
青年に翻弄され続けているのだろうか…と自嘲したくなった。
週末に彼が連絡なく、自分の下に来なかった時は…まさか事件に巻き込まれたんじゃ
ないかと気が気じゃなくて、警察に秘密裏にまで捜索を依頼していた程だし。
今日、定刻が終わるとすぐに飛び出した彼を追いかけて…地下鉄で撒かれた時は
自分なりに必死になって…彼が一番、立ち寄る可能性が高い場所はやはり自宅だろうと
踏まえて…何時間かここで粘って克哉を待ち構えるつもりでいた。
(まさか着いた早々…あんな場面に遭遇するとは思ってもみなかったがな…)
御堂が立ち会ったのは、会話の途中からだった。
階段を登って…克哉の部屋へ向かおうとした矢先に…恋人が見知らぬ美少年を
必死に抱きしめて…怪しい人物から眼鏡を…という会話が始まった辺りから
御堂は一部始終、二人のやり取りを眺めていた。
話している内容は、信じがたいものばかりだった。
今朝の一件がなければ…御堂は一笑に付して、二人の正気を疑っていた事だろう。
だが…別人のような態度と口調になっていた時の彼に、無理やり抱かれそうになったが
為に…御堂は、克哉の打ち明け話を信じる気になっていた。
「克哉…」
憤りと愛しさを込めた口調で、相手に呟いていく。
シャツの上から、乱暴に胸の突起を弄りながら…噛み付くようなキスを暫く続けていった。
「ん…ぁ…たか、のり…さ、んっ…」
唇の周辺を、充血するくらいに歯で食んでいって…濃厚に熱い舌先を這わせ続ける。
相手を煽るようなキスを続けていく度に、己の中に…凶暴な衝動が育って、抑えが段々と
効かなくなって来る。
乱暴な手つきで相手のシャツの襟元に手を掛けて、ボタンが弾け飛ぶぐらいの力を
込めて…Yシャツを破いていった。
其処から露になる…首筋と胸元。その周辺に…まだ生々しい色合いの、自分がつけた
記憶がない赤い痕を見つけて…一瞬、御堂は本気で怒りを覚えた。
「…それ、は…。その赤い痕は…何だ…?」
「…っ!」
思わず呟いてしまった瞬間、瞬く間に克哉の顔が蒼白に変わっていく。
その反応で…大体判ってしまった。
これは…もう一人の克哉が出ている時に、あの少年が必死になって…この身体に刻み
込んだ痕だ。
傍から見ていていじらしい態度を取っていた子だ。
彼なりに必死になって…自分の痕跡を、この身体に残そうとしたのだろう。
そこら辺の事情は読めるし、汲み取れる。だが…。
(これは…私のだ…)
そう、今は…克哉の恋人は、紛れもなく自分だ。
他の誰かが刻んだものなど、決して許してやるつもりはない。
御堂にとって、今は…克哉は絶対に手放したくないぐらいに愛しく、大事な存在だ。
だから…彼の首筋に思いっきり吸い付いて、上書きしていってやる。
…他の誰かが残したモノなど、一片もこの身体に残しておきたくはないから―
「っ…痛っ…あ、はっ…」
何度も何度も吸い付かれながら、やや乱暴な手つきで充血しきった胸の突起を
こねくり回されていく。
その度に…克哉の顔は赤く染まり…苦しげな呼吸を繰り返していきながら…
腰を何度もくねらせていった。
「…我慢するんだ。他の誰かがつけた痕を…君に残しておきたくなど、ないから…」
「…ぁ…。は、はい…。貴方の、好きなように…して、下さい…」
低い声音で囁いた御堂に、克哉は大人しく自分の身体を投げ出していった。
今夜、男も可愛い恋人も互いに行為に対して積極的だった。
相手の足の間に…何度も何度も、己の欲望を擦り付けて煽っていくと…克哉の方も
身体が期待して疼いているのだろう。
その度に自分からも擦りつけ返して、こちらを挑発するような動きを取っていく。
だから…相手の足から下着ごと、一気にズボンを引きおろして…M字開脚するような体制に
なると同時に…相手の両手首を身体の前でタオルで縛って固定してしていく。
「た、かのり…さん! 何を…!」
「…お前が今夜は、好きにして良いと言った。大人しくしていろ…」
その一言を出されたら、今の克哉には逆らう術がない。
…結局、御堂の成すがままになって…今夜も手首を縛られる形になっていた。
こうされると…彼に抱きつく事も、疼く部分を自分でさりげなく弄ることすら出来なく
なってしまうので…克哉としてはもどかしくて仕方ない。
だが…御堂の瞳の奥に、ゾクリとするくらいに獰猛なものを発見して…その眼差しに
晒されているだけで…克哉はゾクゾクして堪らなくなる。
「…良い格好だ。君はいつも…私にここを触られると、堪らないって顔をするな…」
「あっ…はっ!」
御堂が、克哉の顔と下肢を交互に見つめながら…枕元にこっそりと置いてあった
ローションをたっぷりと肌の上に落としていく。
ジェル上の冷たい液が…自分の肌に落とされて、一瞬その冷たさに皮膚が粟立つ。
だが…すぐに御堂にペニスと蕾を同時に弄られて、身体の奥に熱が灯ってそれ
処ではなくなっていった。
「もう…ヒクついているぞ…。ここは本当に淫乱で、貪欲だな…」
「ひっ…ぃ…!」
反り返るぐらいに張り詰めたペニスの先端と、アヌスの奥の…すでに知り尽くされた
前立腺の部位を指の腹で同時に責められて、克哉の身体がビクリと震える。
だがそんな反応くらいで御堂は容赦してやるつもりなどない。
そのまま…性急に指の数を増やして、相手の蕾の中を擦り上げていってやる。
相手が感じる場所を念入りに擦り上げていってやれば…その度に克哉の身体は
活きの良い海老か何かのように跳ね上がって、御堂の腕の下で悶え続ける。
「やぁ…そこ、ばかり…し、ないで…っ! おかしく、なります…から…!」
あまりにも強烈な感覚が全身を走り抜けていくのに、それだけじゃ物足りなくて
克哉は腰を揺らしながら…相手の顔を真っ直ぐに見つめて懇願していく。
その瞬間にギュっと性器を握り込まれて…痛みと快感が入り混じった強烈過ぎる
感覚が背筋を走り抜けていく。
「いっ…っ…!」
「…いっそ、おかしくなれば良い。他の事など、一切考えずに…君はただ、私が
与える感覚だけに悶えて…善がり続けていろ…」
低く、凶暴ささえ孕んだ声で…耳元に囁いて、耳朶に思いっきり歯を立てていく。
そのまま耳の奥まで舌先で犯されながら…性器とアヌスを同時に弄られる。
ピチャ…クチュ、チュクチュク…と脳裏に厭らしい水音がダイレクトに響き渡る中で
部屋中に響くぐらいに激しく先走りを性器に塗り込められて、蕾の奥にたっぷりと
ローションを送り込まれて…執拗に掻き回され続ける。
こんな状況で正気でいろ、という方が無理だ。
瞬く間に御堂の与える感覚だけに支配されて…克哉は顔を真っ赤に染めていく。
大事な人の顔は…この段階になっても、いつものように優しく微笑む事などまったくなく…
瞳と表情に張り詰めたものを感じさせていた。
(やっぱり…孝典さん、本気で怒っているんだな…)
相手の強張った表情を見て、それだけでズキリと胸が痛んで…瞳に涙が浮かんでくる。
それでも…自分に泣く資格など、ない。そう言い聞かせて…御堂が与えてくる感覚に
だけ集中していった。
自分の性器は、先端から黒ずんだ穴が見えるぐらいにギチギチに張り詰めていて。
御堂の指で責められ続けたアヌスは…貪婪に相手の指を締め付け始めている。
前立腺ばかりを執拗に擦られ続けたら、もう駄目だ。
痛いぐらいに相手の指を食んで、自分の意思とは関係なく…御堂の骨ばった綺麗な
指先を決して離そうとしなくなっていた。
「んんっ…やっ…! ダメ、です…! いっ…ぁ…!」
「もう良いな。抱くぞ…」
克哉の身体の震えが大きなものに変わっていくのと同時に…御堂は指を一気に
引き抜いて…問答無用でその身体に熱く猛った性器を捩じ込んでいく。
すでに何度も身体を繋げてきた間柄だ。
あっさりと御堂の怒張したモノを、克哉の内部は受け入れていってしまう。
「ひぁっ…!!」
最奥まで突き入れられると同時に、早くも激しく腰を打ち付けられていく。
パンパン! とお互いの肉がぶつかりあう音が…藍色の闇に染め上げられた部屋中に
響き渡っていく。
御堂の熱い性器が、克哉の弱い処を容赦なく攻め立てていく。
その度に克哉は…息すらも苦しくなって、必死になって口を喘がせていった。
「ん、くっ…! 待って、下さい…! いきなり、そんな…の、は…!」
「黙るんだ…今は、君を食い尽くしてやりたい…ぐらいの、気持ちだからな…!」
そのまま根元まで埋め込まれて、ズンと体重を掛けられていく。
余りの衝撃に、克哉は…全身を身悶えさせる。
拘束された不自由な手で…どうにか自分の肌に爪を立てて、甘美な責めに
どうにか耐えていくしかない。
耳元を犯していた御堂の舌が、今度は克哉の唇を再び強引に塞いで…上も下も
彼だけで満たされていく。
「んんっ…ふっ…ぅ…!」
時々、舌の根まできつく吸い上げられて…口元に血が滲むぐらいに…激しい
キスが続けられていく。
ここまで荒々しく抱かれるのは…自分が想いを告げた時以来の事で。
だからこそ…克哉は御堂の与える熱に、夢中になって追いすがっていく。
自分の内部に、御堂の脈動をしっかりと感じ取り。
重なり合った肌からはドクンドクンと、荒く強い血潮の音が伝わってくる。
埋め込まれた楔は…どこまでも克哉を甘く、激しく奔走させて。
接合部からは…お互いの体液とローションが入り混じって…物凄く
淫靡な音を其処から響かせ続けていく。
ヌプ…グプっ…グチャリ…ネチャ…!
粘性のものが絡まりあう濃厚な水音に、それだけで耳を塞いでしまいたくなる。
それでも…今の自分にはそれすらも叶わない。
イヤイヤするように頭だけを振り続けて…克哉は御堂が与えてくる感覚に必死に
なって耐えていくしかなかった。
「克哉…克哉っ!」
御堂が切羽詰った声音で自分の名を呼び続ける。
自分もまた、彼の名を呼び返したいのに…漏れるのは荒い呼吸と、喘ぎ声ばかりで…
まともな言葉になってくれなかった。
「た、…ハア・・・! か…んぁ…! のり…ぅ…さ、…あぁ!!」
自分の身体の奥で、もう限界寸前まで相手が膨張しているのが伝わってくる。
先走りがジュワっと、内部で滲んでいるのを感じるだけでもう駄目だ…。
こちらの身体も歓喜に震え、期待しているように震え続ける。
「いっ…あっ…!」
全身に、いつもと同じ…いや、遥かに強い快楽の波が走り抜けていく。
あまりの強烈な感覚に、頭が真っ白になって…もう何も考えられなくなる。
お互いの肉がぶつかりあい、絡み…激しい律動となって…一体になっていく感覚に
克哉は飲み込まれ、もうそれ以外の事など一時…頭の中からぶっ飛んでいく。
「ダメ…たか、のり…さっ…! オレ、もぅ…ダメ、ですっ…!」
もう最後の方は快楽の涙を溢れさせながらの懇願だった。
それでも御堂は決して容赦などしてくれない。
こちらの意識が途絶えるくらいに、激しい責めを最後まで続けて…そして、
最奥に熱い精を注ぎ込んでいく!
「いやぁ…あぁ!!」
首を大きく仰け反らせながら、克哉はその強烈な感覚を享受していった。
あまりに感じすぎて、喉もカラカラで…全身のアチコチが痛いぐらい、だった。
(もう…ダメ、だ…意識…が…)
あまりの疲労感と、快感に…克哉の意識は今夜もまた、一時途絶えていく。
…意識が落ちる瞬間に、それでも御堂の唇を…一瞬だけ感じ取れた事が
少しだけ、嬉しかった。
(まだ…貴方はオレに、執着して…くれているんですね…)
自分の罪の意識で苦しいぐらいだったけれど。
激しく責められるように抱かれて。
最後の小さな優しいキスで少しだけ…克哉は救われていく。
そのまま…大きな波に浚われていくかのように…。
一時、克哉の意識は闇の中に飲み込まれていった―
昼と夜の狭間である逢魔ヶ時。
黄金と橙に彩られた日暮れと、藍色の夜の帳が混ざり合い…空の中で複雑な
グラデーションが作られていた。
克哉がその場に座り込んでから、どれくらいの時間が経過した事だろうか。
ふいに自分の目の前に大きな人影が立ちはだかっていた。
「立て…」
その人物の声は極めて不機嫌そうで、思わずハッとなって顔を上げていく。
相手の顔を見て愕然となる。
唇を震わせながら、克哉は信じられないという表情になった。
其処に立っていたのは…紛れもなく、自分の恋人の御堂だったからだ。
恋人関係になってから、ここまで不機嫌そうな彼は見かけなくなっていただけに
一瞬、克哉はその場で竦んでしまっていた。
「…どう、して…」
「…良いから、立て。ここでこれ以上の話はマズイだろう」
「っ…!」
強引に二の腕の部分を掴まれて、その場から立ち上がっていくと…御堂は部屋の
前まで克哉を連れていく。
「鍵を貸せ」
「は、はい…」
有無を言わせる隙すらない御堂に、克哉は逆らう事なく…自分のスーツのポケットから
自宅の鍵を取り出して渡していく。
それを使ってやや乱暴に部屋の鍵を開けていくと…痛い位の力を込めて、克哉の腕を掴んで
室内に駆け込んで、鍵を内側から掛けていく。
カチャリ、という音に淫靡なものを感じて…つい、克哉は息を呑んでいった。
ドカドカドカっ!
平素の御堂からは考えられないくらいに乱暴な足取りでベッドまでの道のりを
進んでいく。
そのまま手荒な動作で寝具の上に引き倒されていくと…御堂は容赦なく克哉の上に
乗り上げて…きつい顔をしながら、やっと本題を口にしていく。
「…あの少年は何だ…?」
怒りを押し殺した声で、御堂が問いかけてくる。
その言葉を聞いて、克哉の顔は蒼白になっていった。
(御堂さんに…もしかして、見られて…いた…?)
あの自分が秋紀に対してけじめをつけていた時を、この人に見られていたのだろうか?
そうでなければ…後から来た御堂が、秋紀の事を話題に上らせる訳がない。
その事実に気づいて、克哉は…顔を強張らせるしかなかった。
「…聞こえなかったのか? 君が…部屋の前で抱き合って、顔をクシャクシャにしながら
全力で謝って…キスしていたあの少年は一体、何だ? 信じられない事ばかりを
君たちは話していたが…」
今度はかなり具体的に、御堂が問いかけてくる。
それを口に出されて、最早…観念するしかなかった。
克哉は後で必ずこの人の処に行って、事情を話すつもりでいた。
だが…秋紀との話が終わった直後にこの人が現れて、こんな事を尋ねられるのは
正直想定外の事で…克哉はその場に黙り込むしかなかった。
しかしそこまで見られていたのなら、誤魔化す事など出来ないだろう。
覚悟を決めて…御堂に真実を話していく。
「…九ヶ月前に、眼鏡を掛けた<俺>と…一夜を過ごした子です。それであの子は…
ずっと<俺>の事を忘れられずに…先週の週末に、この家まで押しかけて…
<俺>に会いに来たんです…」
「…先週の週末、に? …という事は、まさか…君は…」
「…はい。御堂さんの処に行かず…眼鏡を掛けた<俺>は…週末をあの子と
二人きりで過ごしていました…」
その言葉を発した瞬間、御堂の瞳の奥に…憤りの光が宿っていた。
しかし…怒鳴り散らしたい衝動を押さえ込んで、もう一つ…御堂の中で燻り続けていた
大きな疑問を克哉に投げかけていった。
「…そうか。じゃあ…もう一つ聞かせて貰う。…今朝の眼鏡を掛けた君は…何だったんだ?」
「…オレのもう一つの姿。…以前、貴方に相談した時は信じて貰えませんでしたけど…
あの銀縁眼鏡を掛ける事で現れる、もう一人の<俺>です…。物凄い有能だけど傲慢で、
意地悪で…人を支配したり、踏みつけたりする事を躊躇わない…そんな存在です…」
「君が言っていた…『もう一人の自分』という奴か…? 本当に…そんな物が君の中に
いたというのか…。いや、正直聞かされた時は半信半疑だったし、一度見ていたが…
あの今朝の変貌振りは…信じざるを、得ないな…」
そうして…間近で、お互いの瞳を覗き合う。
自分の上に圧し掛かっている御堂との間に流れる空気は…こんな状況でも決して
甘いものではなく…むしろ、ほんの僅かにバランスを崩しただけで釣り合いが取れなくなる
天秤のような危うさがあった。
「…では、もう一つ…。あの少年と君は…どんな関係だ?」
「…もう一人の<俺>にとっては…一夜を過ごした相手。そしてオレにとっては…
その件で罪悪感を感じざるを得なかった存在です…」
それでも、真摯な相手の問いかけに…一切目を逸らすことなく克哉は正直に
答えていく。
本当は、出来る事なら決して知られたくなかった自分の罪。
この人を好きだからこそ…それを知られるのが恐かった。
付き合い始めてからの半年、密かに暴かれてしまうのを怖れていた。
だが…もう、こうなった以上は隠し通す事など出来やしない。
覚悟を決めて、克哉は…御堂と向き合っていた。
その後…二人の間には張り詰めた空気が訪れる。
ただ…夕暮れの光が強烈に差し込む室内で、二人は…お互いの肌が触れ合う
距離で…相手の瞳を凝視していく。
先に、動いたのは…御堂の方だった。
「くそっ…!」
御堂の顔が、苦痛そうに歪んでいく。
これが現実だという事は、判っていた。
自分の下に彼が来なかった理由も…突然、彼が別人のように豹変して…このような事態が
起こった事ぐらいは判っていた。
だが頭がグルグルして…思考が纏まらない。
自分の胃の奥から、不快な感情が迫り出して来て…胸までムカムカしていった。
ここまで克哉相手に憤りを、強い怒りを覚えたのは…交際してからは初めての経験で、
その強い感情に御堂自身も戸惑うしかなかった。
「…君を、責めたってどうしようもない事ぐらい…判っているっ! だが…どうして、も…
許せないっ! 君に私以外の人間が触れた事を…!」
「…っ!」
そのまま御堂は噛み付くように克哉の唇を塞いでいく。
行為の荒々しさに、一瞬…身が縮みそうになった。
克哉が怯んでいる事は、御堂自身も感じ取っていたが…それで止めてやる気配など
一切見せてやらず…相手の中に舌を乱暴に差し入れて…問答無用で口腔を犯していく。
グチャグチュ…と濡れた水音が脳裏に響き渡る。
一息突く暇すらなく、呼吸できなくて肺が悲鳴を上げそうだった。
それくらいにいつになく激しいキスを施されて、克哉は必死にもがいて…僅かな隙間が
生じた時に、苦しげに訴えていく。
「…っ! はぁ…御堂、さん…苦しいっ…!」
「黙っていろ…。この責任は…君に取ってもらう…。今は、到底…これ以上の言葉は
冷静に聞けそうなど、ない…! だから…!」
足を開かされて、その間に…御堂の身体が割り込んでくる。
下肢の狭間に…あからさまな欲望を感じて、克哉は一瞬竦んだが…すぐに気を取り直して
自分の方から、御堂の身体を抱きしめ返していく。
「…判りました。貴方の怒りの原因は…全てオレにあります…! だから…貴方の好きな
ようになさって下さい…孝典、さん…」
そうして、克哉の方からも御堂に口付けて…荒々しい口付けに応えていく。
二人分の体重のせいで、克哉のベッドはギシリと重い軋み音を立てていた。
両者の空気が極めて濃密になるのと同じ頃…窓の外では完全に日が暮れて、空に
真円を描いた月が静かに浮かび始めていた―
判りますよ。だって…僕、この二日間…沢山、あの人に大好きって言ったんですよ。
けど…その度に、あの人は曖昧に微笑むだけで…同じ言葉は、一度も返して
くれなかったから…嫌でも、判っちゃいました…」
「そう、なんだ…」
「…僕の事を好きなら、絶対に同じ言葉を返してくれる筈だし…それ以前に
九ヶ月も僕は待つ事なかったと思う。曖昧に微笑むあの人を見て…僕、やっと
その現実を受け入れられたんです…」
ショックを隠しきれない克哉を前に、出来るだけ明るい口調で秋紀は言葉を
続けていった。
それは想い続けていた秋紀にとっては、耐え難いぐらいに切ない現実だった。
ただそれも…最初に告げた、このまま会えないままだったら…という視点で考えれば
まだマシな事だった。
自分を抱いていた眼鏡はどこか悲しげで、苦しそうな顔をしていたから。
胸の中にある憤りや、やり場のない感情を…自分の身体の奥に注ぎ込んで、その
苦痛に耐えている。そんな気がしたから…。
―ほんの少しでもこの人の痛みを癒せるならそれで良い…
少年はそんな極地に至って、相手の曖昧さを結局…赦したのだ。
その事を思い出しながらも。顔を苦しげに歪ませることなく…瞳から透明な涙を
溢れさせながら自分自身の感情を整理していく為に、秋紀は言葉を紡ぎ続ける。
「…良く考えれば、最初からあの人は僕に対してそっけなかったし。
あの後に二回…クラブに顔出してくれた時もどちらも冷たくて、突き放すような
態度と言葉しかしてくれなかったし…!」
その時の事を思い出して、悔しくて一瞬だけ眉根を寄せていく。
一度は抱いた癖に、あんなに冷たい態度ばかりを取る克哉が信じられなかった。
自分の容姿は男女構わずに、沢山の人間がチヤホヤしてくれていた。
それに慣れていた秋紀に取って、自分が最後まで許したにも関わらずにあんな酷い
物言いと態度を取る眼鏡は理解出来なかったし、信じられなかった。
『勘違いするな。俺とお前は、ただ行きずりで…セックスを楽しんだだけの関係だ。
それ以上でも、それ以下でもない。俺が何をしようとお前には関係ない筈だ』
そんな冷たい事を言う男だった。
一度抱かれた夜から、自分の胸の中はこの人のことでいっぱいだったのに…その
相手に突き放されるような事を言われて、秋紀は絶望に追いやられていた。
直後に、蕩けるようなあんなに甘いキスを道端でされて…腰が抜けそうになって
二度と忘れる事が出来なかった。
もう一度…会えた時には、あの人の言うそれ相応の態度という奴をしよう。
あんな当てつけみたいな態度や、拗ねたりしないで…もうちょっとだけ可愛い態度を
取るようにしよう。
そんな殊勝な事を考えながら…秋紀はあのクラブで二ヶ月以上も、一人で飲んで
克哉を待ち続けていた。
だがその日以来、ぷっつりとあの人は来なくなった。影も見かけなくなった。
会えない日々が気づけば…秋紀の中で幻想を育んでいたのだ。
―克哉と両思いになる幻想を
本気で自分はあの人の事を好きなのだから、見つけ出せばきっとあの人はこの
気持ちに応えてくれる筈だと。
眼鏡を探して追い求めている間、その気持ちは膨れ続けていった。
どうしてあの人が自分の下に来なくなったのか。その理由を考えたり想像したりせずに
自分にとって都合の良い幻想だけを抱いて酔っていた。
秋紀は…この二日間で、その事実に薄々と…気づき始めていたのだ。
「けど、だから…僕はあの人に優しくされたかった。僕だけを見て…僕だけを
愛してくれて、ずっと一緒にいる日を…夢見て、いました…」
秋紀の言葉に、ズキンと克哉は胸が痛くなった。
それは自分が、御堂に抱いていた感情と極めて酷似していたからだ。
自分と御堂の関係も、随分と酷い処からスタートしていた。
こんな冷たい男だったと、どれくらい絶望して最初は傷つけられた事だろう。
だからこそ…ほんの少し見せてくれた優しさが嬉しくて、どんな人間よりも
自分の心の中に入っていった。
気づけば…自分の中で存在が大きくなって、たった十日会えないだけで苦しくて
気が狂いそうになっていた。
秋紀は、自分よりもうんと長い時間…あの苦しい気持ちを抱き続けていたのだ。
そこまで思いを馳せた瞬間…克哉はただ、泣くだけの事しか…出来なくなっていた。
(本当に、御免…秋紀、君…!)
もう、何も言えなかった。
御免なさいと言う資格すら…自分にはないような気がして、克哉はただ…涙で
頬を濡らし続けた。
それを肩口に感じて…秋紀は切なそうに瞼を閉じる。
どれくらいお互い言葉もなく…相手を抱きしめ続けていたのだろうか。
先に口を開いたのは、少年の方からだった。
「…僕の為に、貴方はこんなに…泣いてくれるんですね。参ったな…これじゃあ
貴方を恨みたいのに、僕…恨めなくなっちゃいます、ね…」
どこまでも力なく、秋紀が呟いていく。
やっとお互い…相手の肩口から顔を離して、向き合っていった。
両者とも泣きはらして…目も赤くて、グチャグチャの顔だった。
克哉のその顔を見て…秋紀は思いがけず、フワリと笑った。
「克哉さん…一つだけ、僕の最後のお願い…聞いてくれますか?」
「…オレに出来る事だったら、何でもするよ。オレにはそれくらいしか君に
報いる事が出来ないから…」
「…ありがとう、ございます。…本当は貴方にこんな事を頼むのは凄く残酷だって
いう事くらい判っているんですけどね。…最後にもう一度だけで良いんです。
眼鏡を掛けた克哉さんの方に…会わせて、お別れを言わせて下さい。
それで…僕は、この恋を…諦め、ます…」
その一言は、秋紀にとって断腸の思いで告げた言葉だった。
これだけ愛しく、強く想っている男を諦める一言を諦めることは秋紀にとっても
身が引き裂かれるような思いだった。
本音を言えば、何を犠牲にしたって一緒にいたかった。
離れたくなど、なかった。
けれど…目の前の克哉は確かに言ったのだ。
自分の方には、大切な人間がいると。だから自分の気持ちには応えられないと
はっきり最初に言い切っていた。
本心を言えばその言葉に反発しなかった…と言ったら嘘になるだろう。
責めたい気持ちも、文句をぶつけたい気持ちも溢れんばかりにあった。
だが…秋紀はそれをぐっと飲み込んで、妥協案を口にしていった。
…自分をこんな風に抱きしめて、ボロボロと泣く克哉の顔を見ていたら…妙に毒気が
抜かれて、自然と許せる心境になってしまっていたから。
「…本当に、それで良いの? オレにもっと文句を言ったり…責めたりしても
良いんだよ? 君には…その資格があるし…」
「…僕にだって意地がありますから。最後にあの人に会うのなら…せめて終わりくらい
笑顔で終わらせたい。自分の想いが叶わなかったからって相手を恨んだり
責めたりする姿って…凄くみっともないと思うし…そんな無様な姿を…あの人の前で
これ以上晒したくないから…」
そう、秋紀は容姿に恵まれてきた分だけ…沢山言い寄られてきたし、告白も受けてきた。
興味のない相手に言い寄られても困るだけなので全てそれは断ってきたのだが…中には
それで秋紀を逆恨みをしたり、嫌がらせをするような輩もいた。
表面は良い顔していても、裏で秋紀の悪口を広めるような真似をした人間もいた。
…好きだと言われた事自体は悪い気はしなかったが、こちらが振った後でそういう態度を
取る相手を秋紀は何度も冷めた目で眺めていた。
だから自分も最後に最悪の態度を取って…本当に好きになった人にそんな冷たい目で
見られることになるのは嫌だった。
だから少年は胸を張る。文句を全て飲み込んで…笑顔でいる為に。
「僕…今までに何度も、振ってきた相手にそういう事をされ続けてきました。その度に
ばっかみたいとか…勝手な奴としかその相手に印象を抱けなかったから。
そんな奴らと同列になる事も、あの人にそんな姿を最後に晒すのは御免なんです。
最後ぐらい…僕にその意地を、通させてよ…!」
「判った。オレが君に出来る事といえば…きっとそれくらいだろうから。
今から君に、もう一人の<俺>に会わせてあげるよ…」
正直、もう一度眼鏡を掛けて自分を見失ってしまう事は最初は恐かった。
だが自分にはそんな事を言う資格はないと思い直し…克哉は胸ポケットから銀縁眼鏡を
取り出して再び自分の顔に掛けていく。
その瞬間、馴染みの感覚が全身に走っていった。
だが克哉はしっかりと足を踏み締めてその感覚に負けるまいと踏ん張っていく。
すると…奇跡は初めて起こった。
頭が冴え渡るような感覚はするのに、克哉は自我を保ったままで秋紀に応対していった。
(…前回はフイを突かれた形だったけど、今回まで飲み込まれたり…乗っ取られる訳には
いかないから…!)
この後に、必ず御堂の元に行くと自分は約束した。
これ以上、もう一人の自分にあの人を傷つけさせる訳にはいかない。
その強い気持ちが初めて、克哉に勝利を齎していく。
だから克哉は全身全霊で演技をする。
今…彼が応対しているのは「愛しい方の克哉」であるように振舞う為に…。
これ以上、あいつを野放しにして…秋紀を弄んで必要以上に傷つけたりしない為に
けじめをつける為に…真っ直ぐ克哉は対峙、した。
「秋紀…」
出来るだけ、低い声を出して…伏し目がちの表情を作っていく。
鏡の中で何度か見た事があるもう一人の自分の表情と仕草をそのままトレースして
そうであるかのように克哉は振舞った。
「…克哉、さん…」
ぎゅう! と秋紀は克哉の首元に両腕を回して抱きついていく。
少しでも愛しい男の事を自分の心に刻み込むように強く、強く。
それに応えるように…克哉もまた、無言で抱きしめ続けていた。
「僕…貴方が、本当に好きでした…」
「知っている…」
「けど…僕、あちらの克哉さんも嫌いじゃないんです。だから…さよなら。克哉さん…。
どうか、お元気…で…」
身体を目一杯震わせながら、そんないじらしい事を言う秋紀を…克哉は初めて、愛しい
と思った。
それは恋愛感情を伴うものではなかったけれど…もう一人の自分がどうして、この
二日間…秋紀を傍に置き続けたのか、その理由を少し理解出来た気がした。
孤独に凍えていた彼にとっては、心から想ってくれる秋紀の存在は手放しがたい
ものだったのだろう…。
「…この二日間、俺の傍にいてくれた事を…感謝する。どうかお前も…幸せ、にな…」
その一言が秋紀にとって、どれだけ残酷なのか判っていたにも関わらず…
心の底から願って、克哉はそう告げていく。
顔がお互い、自然に寄せられていく。
相手が瞼を閉じると同時に…克哉もまた躊躇う事無く瞳を伏せて…そっと
唇を寄せていった。
これは気持ちを確かめ合ってする口付けでなく、秋紀の気持ちに踏ん切りを
つけさせる為に必要な儀式だと、克哉は受け入れていた。
一瞬だけ、脳裏に御堂の顔が浮かんでいく。
それにどうしようもない胸の痛みを覚えながら…それでも、その痛みと罪を
受け入れて…少年と唇を重ねていく。
―すまなかった。
その瞬間、一瞬だけ自分の唇からそんな言葉が零れていく。
克哉は自分が紡いだ自覚はなかった。
まるでその瞬間だけもう一人の自分に操られるようにその言葉を
呟いていた。
―僕の方こそ…この二日間、幸せだったから…良いよ。克哉さん…
秋紀もまた、綺麗な笑みを浮かべて…愛しい男の残酷な罪を赦していく。
気づけば日はすっかりと傾いて…どこまでも鮮やかに世界を染め上げていく。
黄昏の光に照らし出されながら二つの影は静かに重なり…コンクリートの
床の上に二人の影が浮かび上がっていく。
触れるだけの口付けは、秋紀から求められて…息が詰まるぐらいの激しいキス
へと変わっていく。
克哉はその瞬間、もう一人の自分の…やり場のない悲しみと痛みを感じていく。
触れるだけの優しいキスは克哉の意思。
この情熱的な抱擁と…深いキスはもう一人の彼が望んだものであった。
苦しくて、眩暈がした。
胸が引き連れて、出血しているような錯覚さえ覚える。
それでも克哉は手綱をしっかりと握り締めて…自分のコントロール権を決して
失うまいと抗い続けていた。
そして、気が遠くなるくらいに長い口付けが終わりを告げていく。
夕焼けに秋紀の金髪が…黄昏時の様々な色合いを帯びている光に映し出されて…
凄く綺麗に映っていた。
泣き腫らした目に、クシャクシャの顔。
それでも秋紀の心には相手を憎む気持ちはこれっぽちもなかったせいで…精一杯、
少年が浮かべていた顔を、克哉は本当に美しいと感じていた―
―克哉さん、大好きでした…バイバイ
そういって、自分の想いを過去形にして・・・クルリと踵を返して…克哉の身体から
踊るような軽やかで優雅なステップを刻み、たった今まで自分の腕の中にいた少年は
瞬く間にこの腕の中をすり抜けて遠ざかっていった。
一瞬、それを名残惜しく思って追いかけたい衝動に駆られた。
同時に慌ててそんな感傷を克哉は押し止めて…その場に立ち尽くしていく。
この頬に伝う涙は、自分か…それとももう一人の自分が流しているものなのか。
今の克哉にはそれすら、判らなかった。
『ありがとう』
それでも消えていく少年の背中に向かって、克哉は叫ぶようにその言葉を
投げかけていく。
そしてその姿が完全に消えた後…克哉はその場にヘタリ込んで、眼鏡がカラリと
床に転がっていた。
(…あれだけ長い時間、眼鏡を掛けたままでも…オレのままで…いられた…)
それに安堵しながら、大きく肩で息を突いていく。
一仕事を終えた…彼の顔には、とめどなく流れ続けた涙の痕と…微かな笑みだけが
静かに讃えられていたのだった―
目的地は自宅だが、いつもの電車を使うと…後を追ってくる御堂にすぐに目的地を
悟られてしまうからだ。
一応、御堂に送迎される事が多くなったとは言え、普段は電車通勤が克哉の
基本である。
克哉が乗り込んだ地下鉄は、人身事故とか天候の関係でいつも使っている路線が
まともに運行しない時だけ使用している線だった。
これを使えば…これから自分が行こうとしている場所を悟られにくくなるだろう。
克哉は胸ポケットから通勤用のSuicaの入った定期入れを取り出すと…
実にスムーズに改札口を潜り抜けていく。
御堂もその後に続いたが、普段自家用車で動くのが当たり前になっている人間は
電車を使う必要性もない。
だから御堂は定期も、Suicaも持っていなかった。
ついでにGPSを搭載した携帯は持っているが、かなり上限額の高いクレジットカード
を所有していた為に、その機能はついていないのしか持っていなかった。
ここでSuicaを持っていない事が、決定的な時間ロスとなった。
克哉の後を追って改札口を通ろうとして、思いっきり赤いランプが点灯してブザーが
ピコンピコンと鳴り響き、機械に遮断されてしまった。
窓口にいる駅員から渋い顔をされて、注意されていく。
「お客さん、ダメですよ…。ちゃんと券売機で切符を買って中に入って
貰いませんと…」
「くっ…すみません。慌てていたもので…。今、切符を購入して来ます。
お騒がせ、しました…」
駅員に窘められると、御堂は一瞬だけ心底屈辱そうな顔を浮かべていた。
しかしそこら辺は大人だった。
すぐにいつもの営業スマイルを浮かべて、切符売り場の方に全力で走っていく。
それを後ろ目に見送って、克哉は心底…御堂に申し訳ないと思いつつも、丁度…
やってきた電車の車両に飛び乗っていく。
克哉が車両の奥の方に移動していくのと同時に駅のアナウンスが流れて…メロディが
辺りに響き渡っていく。
切符を購入した御堂が全力で階段を降りてくると…目の端に克哉の後姿が入って
その車両に乗り込もうと走り続けたが…タッチの差で扉が閉まり…締め出される形と
なってしまった。
「くっ…!」
運が悪かった。もう少しだけタイミングが早ければ…腕でも何でも挟ませて、扉を
開けさせて…中に入る事が出来たものを!
しかし締め切られてしまえば、どうしようもない。御堂は敢え無く…克哉が乗り込んだ
車両を見送る形となってしまった。
「…克哉。君はどこまで私を…翻弄すれば気が済むんだ…」
心底、愛しい恋人を恨みながら…ボソリ、と呟く様は…普段のエリート然した御堂から
かけ離れた姿であった。
…その後、どうにか体制を整えた御堂は…必死に自分なりに考えて、克哉が一番
向かいそうな場所を、知っている情報を元に…割り出そうと試みていった。
*
駅で上手く御堂を撒く事に成功した克哉は、そのまま目的の駅で下車して…脇目も
振らずに自分のアパートへと向かっていった。
固唾を呑んで、自分の部屋へと続く階段を登っていくと…其処にはやはり秋紀の
姿が待っていた。
この部屋の合鍵は、一つしか作られてない上に…それはアパートの管理人さんが
持っている。
一つしかない鍵を流石にもう一人の自分もこの少年に渡せなかったのだろう。
朝に見た時のまま…赤いパーカーに淡い水色のジーンズという身軽そうな格好を
して秋紀は其処に佇んでいた。
階段を登り切った直後に、向こうもこちらに気づいたらしい。
克哉の姿を見つけると、一瞬だけ…パッと顔を輝かせたが…すぐに落胆の表情を
浮かべていく。
―目の前の克哉は、眼鏡を掛けていなかったからだ。
「克哉、さん…眼鏡は…?」
「…外して来た。御免ね…」
唇を震わせて問いかけてくる秋紀の前に、克哉は心底申し訳なさそうに頭を
下げていった。
恐らく待っている間、秋紀は不安と期待を半々に…眼鏡の方を待ち続けていたの
だろう。ここに帰ってくる『佐伯克哉』が、自分にとって愛しい方か、そうでないか…
彼は待っている間、ずっと落ち着かなかったに違いない。
「…やっぱり、そうなんですね…。僕の大好きなあの人は…どこまでも、幻みたいに
儚い人…だったんですね…」
秋紀は泣きそうな表情を浮かべながら、克哉を見つめて…そう呟いていた。
その瞳には…大きな雫が湛えられている。
克哉は絶対に…彼はどうして! とか…何で貴方の方がいるんだ! とか責められる
覚悟でここに来ていたので…正直、秋紀のこの反応は予想外だった。
「…………」
秋紀はまだまだ、言葉を続けたい様子だったので克哉は沈黙を守っていく。
自分とこの少年はほんの数回、しかもどれもごく僅かな時間しか言葉をやり取り
した事がない。ようするにどんな事を考えて、何を思うのかまったく情報がないのだ。
だから相手の言葉を聞き逃さないように構えて、少しでも…この少年の事を
知ろうと、理解しようと試みていた。
「…何となく、朝に…あの人とキスした時…もう二度と、僕は…大好きな克哉さんの
方に会えないような…そんな予感、していたから…」
秋紀は、どこか諦めているような…達観しているような…切ない表情を浮かべて
いた。それを見て…克哉の胸は、引き絞られるような思いになっていた。
(こんな切ない表情をするぐらい…この子は、あいつの事を…好きだったんだな…)
それを目の当たりにして…克哉は胸が凄く痛んだ。
いっそ目を逸らしてしまいたかった。
しかし…その弱気な気持ちを押さえ込んで…彼の方からこの少年の元へと
足を踏み込んでいく。
瞬く間に間合いを詰めて…ここが、自分が住んでいるアパートの廊下であると
承知の上で…その身体をぎゅっと抱きしめて…告げていった。
「…本当に、御免。けれど…オレにも、譲れない事があるから…!」
相手の肩口に顔を埋めながら、喉から声を搾り出すようにして…告げていく。
「…オレには、とても大事な人がいます。…半年前から付き合っていて…その人の
為ならどんな辛い目に遭っても構わない。それぐらい…大好きで、大切な存在が
すでにいます。…だから、君がもう一人の<俺>の事を本当に好きで、求めて
くれている事は知っている…! だけど、オレには…その為にこの人生を君に
与える訳には…いかないんだ…!」
殆ど、懺悔に近い告白だった。
一昨日と昨日、もう一人の自分は散々この少年を抱いていた。
その上で…こんな残酷な事を、相手に告げているのだ。
非難は元より…覚悟の上で、それでも…相手を抱きしめる腕に一切力を緩ませずに
克哉は伝えていく。
この少年を抱きしめたのは…相手から自分が逃げ出さないようにする為だ。
真正面から、憎しみや恨みの言葉を受け止める覚悟を表していた。
しかし秋紀は…そうしなかった。
逆に…自分の方からも、克哉をぎゅっと抱きしめて…瞳からポロポロと涙を溢れさせ
ながら…溜息を突いていく。
「…やっぱり、そうだったんだ…。貴方にはすでに…僕以外に、大切な
人がいたんですね…。だから僕の処に…あの人は、来なくなってしまった…。
それが…現実、だったんですね…」
少年は…その瞬間、酷く大人びた表情をしていた。
どうして、何故と訴える事もせず…静かに克哉の言葉を聞き入れていく。
あっさりと…自分の言い分を相手が受け入れている事に、逆に…克哉の方が
驚いてしまうくらいだった。
「…どうして…」
逆に克哉の方が、呟いてしまった。
自分はこんなにも残酷な事実を突きつけているのに…どうして、この少年は
こちらを責めもせずにあっさりとその現実を受け入れてくれているのかと。
暫く二人の間に沈黙が落ちていく。
先に破ったのは…秋紀の方だった。
「…あの銀縁眼鏡をくれた、怪しい人に…克哉さんが二重人格で、僕が好きな方の
貴方は…今、閉じ込められてしまっている。だからこの眼鏡を掛けて…どうぞあの人を
解き放って上げて下さい、と…そう言われた時は正直、半信半疑だった…」
「えっ…それって、まさか…」
あの銀縁眼鏡を与えた怪しい人…たったそれだけの情報だが、それに該当する
人物はこの世でたった一人しか存在しない。Mr.Rに間違いなかった。
「…けれど実際に、貴方に眼鏡を掛けたら…本当に別人のようになって…ずっと探して
いたあの人と再会出来ました。だから…その時から、ずっと思っていたんです。
僕は…本当に何て儚い人に恋していたんだろうなって…。探しても、会える筈が
なかったんです。貴方がずっと生きていたのなら…どれだけ夜のオフィス街で
あちらの克哉さんを探したって…存在、していなかったんだから…」
殆どそれは、独白に近い言葉ばかりだった。
秋紀の涙で、克哉のスーツはしとどに濡れていく。
恐らく胸の内にある想いを…全て吐き出させない事には、自分もこの少年も
一歩を踏み出せないから。それを悟っていたから一言も問う言葉すら発せずに
克哉はただ…彼を抱きしめながら、その言葉に耳を傾けた。
「…あの人と一緒にいられた二日間は、本当に幸せで…けど、ずっと僕…こうも
思ったんです。あのまま…一生、眼鏡を掛けた方の克哉さんに会えないままだったら
どうだったのかなって。そう考えたら…たった二日だけでも、あの人の傍にいて…
しっかり抱きしめて貰えただけ…良かったんだな、と。
一度も成就しないまま…会えないままでいるよりも、ずっとそっちの方が幸せ
だな…ふと、そんな事を…考えていたんです…」
秋紀は本当に、眼鏡を掛けた方の克哉を好きだったし慕っていた。
この人の傍にいられるのなら…友達も、家族も学校も今いる環境の全てすら引き換え
にしても構わないと思う程…それは強い、想いだった。
あの人に抱いて貰っている間、秋紀は沢山…『好き』と溢れんばかりの想いを伝えていた。
ぎゅっと強く抱きつき続けて…どれだけ激しい行為でも、焦らされても追い上げられても
拒む事なく受け入れ続けていた。
けれど…だから、同時に判ってしまったのだ。
本当に真摯な思いを抱いてからこそ、判ってしまった真実。
眼鏡は秋紀を貪るように何回も抱いていた。
だが…その激しい行為の裏にある感情を―秋紀は気づいてしまっていた。
その一言が少年の唇から放たれた時、克哉は自分の心臓が刃物で貫かれたかのような
衝撃を覚えざるを得なかった。
―例えあの人が僕の事を愛していなくても―
その一言を言われた瞬間、克哉はハッと息を呑むしかなかった。
対照的に秋紀の表情は穏やかで静かだった。
夕暮れの中、二人は静かに立ち尽くしていく。
呆然とした克哉を…意外な程、優しく秋紀は見つめ返していった―
克哉が壊れた機械のように謝罪を繰り返し続けて、少し経って冷静になってから…
大急ぎで午前11時の会議に向けての準備をしなければ間に合わない現実に
二人とも気づいたからだ。
それからは、二人とも…一旦、思考を切り替えて仕事の方に没頭した。
そうしなければ到底、間に合わなかった。
だから御堂は頭の中に渦巻く、『何故』という問いを…仕事の間だけは
頭の隅に追いやり、自分の部長としての責務を全うした。
克哉は密かに…この人が真の意味での大人であり、エリートであった事に
心から感謝していた。
あの人にあんな目に遭わせた上に…大事な会議にまで支障を出させては
申し訳なかったからだ。
だから克哉も、仕事モードに切り替わってからは…一日、「ごめんなさい」と
いう言葉を言い訳をグっと飲み込んでいった。
そして…ギリギリの処で間に合い、会議が終わってからは…各部署への
連絡作業や、取引先への必要事項の伝達など…山積みになっていた事を
全力で片付けていったら、あっという間に就業時間を迎えていた。
(今日が…心底、忙しい日で本当に良かった…)
多分、これだけ多忙でなければ…御堂ともっと二人きりになる時間が増えて
気まずい思いをする羽目になっていた筈だ。
普段ならこんなに忙しければ、愚痴の一つの零したくなっていただろうが…今日に
関しては心底、克哉は感謝したい気持ちになっていた。
改めて必要な書類を整理して纏めたファイルケースを…御堂のディスクの付近にある
棚に収めていきながら…ほう、と克哉は溜息を突いていた。
「そろそろ…御堂さんも戻ってくる頃だな…」
時計の針を見れば、時刻はすでに十六時五十分を指していた。
MGNの就業時間は…朝の九時から夕方の五時までだった。
今日はグルグルした思考回路を抑え込んで作業に没頭したおかげで…克哉が
担当するべき仕事は殆ど片付いて、定刻を迎えたのならすぐに帰宅しても
問題はなかった。
家に帰る…という事に思い至った時、克哉は苦い気持ちに浸っていった。
(あの子にはどう言えば良いんだろう…)
家に帰れば、恐らく…秋紀がもう一人の自分の事を待っているだろう。
しかし…すでに克哉は眼鏡を放り出し、もう二度とこれを掛けるつもりはない。
自分の背広の胸ポケットの処にこっそりと納めてあるが…もし、家の前で自分の
顔に眼鏡がないのを秋紀が見たのなら…あの少年を落胆させる事になるだろう。
それを考えると…克哉は家に帰るのが憂鬱な気持ちになっていた。
(御堂さんにだって…言わないといけない事が一杯あるし…オレは一体、
これからどうすれば…良いんだ…?)
心底、こんな事態を巻き起こしてくれた眼鏡の方を恨みたい気分になった。
けれど同時に…酷く心がモヤモヤしていた。
恨みたいのに、彼を恨みきれない。
そんなすっきりしない感情が克哉の心を満たして、余計に気持ちが重くなっていた。
(…ダメだ、恨みたいけれど…あいつの気持ちを知ってしまった今じゃ…もう…)
眼鏡を掛けてから、今朝に主導権を取り戻すまでの3日間…克哉は閉じ込められながら
もう一人の自分の感情を…僅かながらに覗き見る事が出来ていた。
自分が御堂との時間を心から幸福に思いながら紡いでいる傍らで、眼鏡はどれだけの
孤独を噛み締めながらこの半年を過ごしていたのか。
それでどれだけ…あいつの心が冷え切っていたか、今は知ってしまっている。
…自分がもし、あちらの方の意識が御堂と結ばれて…同じ立場に追いやられていたら
どんな気持ちになっていたか。
そこまで想像を張り巡らせた時…克哉の中にはもう一人の自分を恨めないし、
憎めなかった。
(待てよ…もしかして、オレが…秋紀っていう子の件も…あいつの気持ちを汲み取る事も
ずっとしないで…逃げ続けていた。だから…こんな事態になったんじゃないのか…?)
考え続けている内に、ふと…そんな事を気づいた。
秋紀は自分が眼鏡を掛けなくなった日から…ずっともう一人の自分を探していた。
しかしそれは…自分が秋紀の事を清算しようとして、彼がいるクラブにでも足を向けて
今付き合っている人がいる事や気持ちに応えられない事を伝えていれば…こんな事には
ならなかった筈なのだ。
もう一人の自分だって、そうだ。
自分は正直、彼の存在に怯え続けていた。
御堂と付き合う傍らで…もし、彼がやっていた事を知られてしまったら…嫌われて
しまうんじゃないか。
そればかり怯えていて…もう一人の自分の事を思い遣る事など考えられなかった。
一緒の身体を共有していながら…克哉は眼鏡を恐れるばかりで、あそこまで彼の心が
冷え冷えとして…トゲトゲしくなっていた事に気づこうともしなかった。
(あいつは…秋紀って子に対しては、凄く優しかった。それは…あの子が強い気持ちで
あいつだけを求めていたからだ…)
けれど、自分と御堂はあいつの存在を必要としなかった。
御堂は無い者として…克哉だけを必要として、克哉は銀縁眼鏡を放棄する事で彼を
決して表に出さないように封印し続けた。
だから彼は…あんな真似をしたのだと。克哉は…それに気づいた時、呆然となった。
「…全ての原因は、オレにあるんじゃないか…」
認めたくなかった。
最初はあいつが悪いのだと…いっそ責任転嫁したい気分だった。
しかし克哉は…他人の気持ちを汲み取ったり、共感する能力に長けていた。
だから全ての発端に…気づいてしまった。
秋紀や眼鏡の行動の動機がどこから発生していたのか…その根源を発見した時、
克哉は一つの決意をした。
「オレがしなければならないのは…全力で御堂さんに謝る事じゃない。まず…
あの二人と向き合う事の方が…先じゃないか…!」
痛いぐらいに拳を握り締めながら、克哉は呟いていく。
あの二人の事を片付けてからじゃなければ…今の自分は御堂に向き合う資格すら
ないだろう。
もうじき、17時を告げるチャイムが社内に鳴り響くであろう直前に…御堂が仕事を
終えて執務室へと戻ってくる。
室内に入って来た御堂の顔は険しかった。
すぐにでも事情を聞きたい。その表情と眼差しは紛れも無く…そう訴えていたので
チクリ、と胸が痛くなった。
「克哉…」
チャイムが鳴る直前、仕事中は「佐伯」と呼ぶことを崩さない御堂が…下の名前の
方で克哉を呼んでいく。
それは御堂が、今は私人となって克哉と向き合っている何よりの証でもあった。
「…御堂さん。すみません…貴方に事情を話したいのは山々ですけれど…オレは
貴方に謝るよりも先に、行かないと行けない処があります。…本日の八時か九時まで
にはその用事を終えて…必ず、貴方のマンションの方に向かいます。
ですから今は…オレを行かせて下さい。それからじゃなければ…貴方に謝ったり、
言い訳する資格も…ないですから…」
「何、だと…?」
一瞬、何を言われたのだが…判らないといった怪訝そうな顔を御堂が浮かべていく。
しかし克哉は…そんな彼からまったく瞳を逸らさずに、彼に想いを告げた時のように
まったく怯む事なく、真正面から御堂を見据えていく。
その瞳のあまりの真摯さに、御堂は虚を突かれた形になった。
「ですから…今は失礼します! 必ず、後で貴方の処に向かいますからっ…!」
必死の想いで気持ちを伝えて、克哉は素早い動作で…御堂の脇をすり抜けていく。
それと同時に、社内中に…17時のチャイムの音が盛大に響き渡っていった。
その音に一瞬、足を止めている隙に…瞬く間に克哉の姿は扉の奥に
消えていく。
バタンという音がすると同時に金縛りが解けて、御堂はワナワナとその場で
震え続けていた。
「…後で必ず、だと…? これだけ私を振り回して…事情を説明する事も、言い訳する
事もせずに…これ以上、私が待てる筈がないだろ…! どうして…君は私の元から
すり抜けていこうとばかりするんだ…!」
本気の怒りの言葉を、その場で呟いてから…御堂もまた、彼の姿を必死に
追いかけていく。
もう克哉の姿を見失いたくなかった。
この手を離したくなかった。
その一念で、御堂は全力疾走をして…遠ざかっていく克哉の姿を…追い求めていった―
とりあえずこれからもメディア展開続くみたいなので、萌えの補給源が沢山あって
嬉しい限りですv
さ~て、眼鏡がどれだけ鬼畜っぷりを発揮してくれるのか…そしてノマがどれだけ
色っぽいシーンを見せてくれるのかっ!(基本的に私はW佐伯克哉至上主義)
他のキャラもどんな一面を見せてくれるのか…今からすっげ~ドキドキワクワク
しております!
後、今週…まだ出勤スタイルとかの変更に身体がついていかなくて、返信等は
遅れがちです。
力尽きてて…ブログに一話書くのがマジ精一杯…(私こんなんばっかやな…)
夕食食べてから、ガクっと意識失うように眠りこけるを今週は二回うっかりやって…
体重また増えたし!
ヤバイヤバイ! と心の中で悲鳴上げてます。生活リズムを早い処、戻して
体重の増減を食い止めないと本気でシャレにならない事態になりそうっす…(シクシク)
遅れましたが拍手返信。本日は15日から24日まで返信です。
これで溜めていたコメントは消化し終えます。
…こんな好き勝手に書いているサイトを閲覧してくださってありがとうございます。
コメ無くても、拍手があるおかげで…めげずに日々書いていこうと気力が続いて
おりますです。感謝感謝v
080115 23:42
セーラーロイド、読んで下さっていてくれてありがとうです! 私も日々、色々と疲れて
いるので克哉の癒し…っていうかムーン・ヒーリングエスカレーションを一発かまして
貰いたいとか思いながら書いておりましたv
さくらさん
御堂×克哉小説拝読ありがとうございました。甘いお仕置きの次はシリアスで~と書いて
あるのは、純粋に連載の順番が…甘い~の次が、克克の真夜中の訪問者~という作品が
来ていたからです。(このサイトは次に何のCPの連載が来るかランダムなんで)
後書きに書いてあるシリアス~っていうのはそれ指していたりします。
…真紅の情熱は自分が酒飲めない分だけ、その分チーズの描写を! と力みすぎて
確かに饒舌になりすぎました(苦笑) それでも楽しんで貰えたなら良かったです。
おまけSSの感想もどうもです。またチョコチョコ更新しますのでお気軽に立ち寄って
やって下さい。ではでは~!
080118 11:11
はい、秋紀が好きなのは間違いなく眼鏡の方でございます。始まりの扉を連載
する際、表記どうしようかな~と結構迷ったんですが…御堂×克哉前提の上で
眼鏡を忘れられない秋紀が介入してくるので御堂×克哉←秋紀っていう形に
した訳でございます。結構、シリアスっていうか…切なかったり重かったり
する場面が多い話でございますが、お付き合いして頂けると有難いです。では…。
080120 23:59
…ん~まあ、往復三時間掛けて日々出勤しているのでそれでヘタばっている
事が多いだけです。後は物事を溜め込みすぎて身動き取れなくなっている事も
しょっちゅうというか…(汗) それでも心配して下さってありがとうございます。
一言嬉しかったですよ~(><)
中川さん
長いコメントありがとうございます。向こうに折り返し返信しますね~。
みついさん
メールの返信遅れててすみません! 週末には返しますのでもうちょいだけお待ち下され!
そしていつもコメントどうもです! 励みになります(><)
秋紀にゃんはこの話では…もう一人のヒロイン扱いです。結構スポットライトが当たっている
事が多いです。意外にこの子…書いてて私、愛着湧いちゃったのはナイショっす(笑)
構成力…というより、私の場合筋だけ(最初と終わりだけ)キチっと決めて、後は毎日色んな
展開のパターンを考えながら、調整して書いているという…かなりアドリブ要素が強い
書き方しているんですがね(汗) 一応、少しでも読んでいる人を驚かしたり…楽しませたり
する事を念頭に書いております。みついさんもタメガとか、色々頑張ってね~!
つ~訳で返信完了っす! メール等の返信や、贈るって約束していたSSの執筆や
セーラロイドの設定資料作成とかはまた時間取れた時にボチボチやっていきますので
少しお待ち下され。
もうじき目標の三ヶ月は間近です。
それまで気を緩ませずに続けていきたいと思います。
んじゃ本日はこの辺で…(スッタカタ~)
あいつは…俺の存在を、この男に知られる事を恐れ続けていた。
それが…どうしようもない苛立ちと憤りを、彼に齎していたのだ。
お前達はずっと…『俺』の事など、無い者のように振る舞いながら…幸せな日々を
送っていた。
御堂はあいつだけを見続けて、あいつは俺を封じ続けて表に出さないようにしてて。
―それなら、俺の心は何故…以前のように完全に眠り切らずにあいつの心の奥底で
生き続けなければならなかったんだ…?
もう一人の自分にとって、今…もっとも大事な存在を押し倒していく。
やっと深い口付けを解いて顔を離していってやると…目の前の男は、信じられないものを
見ているような…そんな表情をしていた。
(あぁ…そういえば、これが俺にとって…あんたとの、ファーストキスって奴に
なるのかな…?)
自嘲的に笑いながら、そんな事を考えていく。
もう一人の自分とは、恋人関係になる前からも…付き合ってからも数え切れないくらいに
交わしているだろうに、自分とはこれが初めてになるというのも滑稽だった。
もう一人の自分は、この男とのキスを好んでいた。
それだけで幸せそうな心に満たされて…それが遠巻きに伝わってくるぐらいだったのに…
自分の方は、頭の芯で酷く冷めた気持ちになっていく。
この二人の幸せなど、この手で壊してやりたかった。
―お前達は、ずっと…俺を無い者として…無視し続けていたのだから。
誰にも必要とされず。
認識もされず。
親しい者もおらず。
自分が成すべきことも何もなく。
ただ…他人の幸福と充実した日々をガラス越しに、ただ見せ付けられる日々。
克哉が眼鏡を掛けなくなってから八ヶ月。
眼鏡が送り続けていた日常は…そんな、気が狂いそうなものだった。
いっそ以前のように眠り続けられればまだ楽だった。
なのにあいつの恐れの感情が、眠ろうとする俺を妙に刺激して…それすらも
叶わなかった。
だから眼鏡は、もう一人の自分を何よりも憎んでいた。
―せめてお前ぐらい、俺が在る事を認めてくれれば…俺はこんな不快な感情を
胸に抱かないでいられたのに…と。そうすれば自分は眠って、必要以上の
苦痛を味あわずにいられたのだから―
「佐伯…! 何を、考えているっ…! ここは朝のオフィスだぞっ…!」
自分が逡巡している間に、御堂は少し思考出来る程度には回復したらしい。
唇をワナワナ震わせながら、必死の形相で訴えかけていく。
今の眼鏡には、この男のそんな表情は妙に愉快だった。
だから…からかうような口調で、返答していってやる。
「…御堂さん、あんまりデカイ声を出すと…こんな場面を他の誰かに
見られてしまいますよ…?」
「君こそ正気かっ…! 特に今朝は11時から重要な会議が組まれている事は
把握している筈だっ! そんな時に…!」
「…後、三時間もあるじゃないですか。それだけあれば…俺の気が済んだ後でも
書類の確認作業ぐらいは出来ますよ。あんたは有能なんですからね…?」
張り付いたような笑顔を浮かべながら、ゾッとする冷たい声を眼鏡は出していた。
其処に剣呑なものを感じたのだろう…。
御堂の瞳の奥に、一瞬怯えのような光が宿っていった。
「…克哉、君は一体…何を…! うあっ!」
いきなり足を大きく広げられたかと思うと、足の狭間に…克哉のすでに怒りで
昂ぶっていた性器を布地越しに押し当てられる。
その行為に、薄々と感じていた恐怖が…現実に成されようとしている事を御堂は
理解していく。
「…この体制になって、まだ理解出来ませんか…? 俺はあんたを抱く気なんだよ…
御堂、孝典…」
御堂の耳元で、怒りを押し殺した声で囁いていく。
「ど、うして…!」
「…それをあんたが聞くのか? 御堂…。…最初の頃にあんたが<オレ>に散々した事だろう…?
自分の立場を利用してな…?」
「…っ!」
その一言は、御堂にとっては泣き所のようなものだった。
今の眼鏡の言葉は、恋人関係になってからの事ではなく…最初の頃の、まだ嫌がらせの
意味で克哉を抱いて、辱めていた頃を指していた。
御堂の中では、今では克哉の存在はどんな者よりも大きくなっている。
そんな彼に…憎しみの篭った口調で、そんな言葉を言われたら…言い返せる訳がない。
硬直している彼を見下ろしながら…眼鏡は、御堂のスーツズボンのポケットに…
手を忍ばせていく。
…其処には、いつも彼が愛用している小さな潤滑剤のチューブが入っていた。
「…大丈夫ですよ。これを使ってすぐに済ましてあげますよ…? お互い、職務を
放棄する訳にはいきませんからね…?」
「止めろっ…克哉っ! むぐっ…!」
再び腕の下で暴れていく御堂の唇を深く塞いで…器用にそのベストとYシャツを肌蹴させて
直接胸の突起を弄っていってやる。
その間に腰を何度も押し付けて…自分の興奮度合いを突きつけてやると、御堂は何度も
恐怖で身を竦ませているようだった。
克哉と関係を結んでから八ヶ月。
自分が抱かれる側に回る事など想像もしていなかったのだろう。
相手の肉体が強張る度に、眼鏡は…暗い悦びを感じていった。
グチュ…グチャ…ピチャ…ネチャ…。
いつもこの男が、克哉にしているように…ねっとりと舌先を口腔中に張り巡らせて
深すぎるキスを施していってやる。
強い快楽は、愛しているから与えてやるのではない。
秋紀は自分を必要として、求めてくれていた。だからもう少し優しく扱ってやったが…
この男に対しては、自分に屈服させて支配してやるだけの為に…そうしていた。
懸命に御堂は、いつもとあまりに態度が違い過ぎる恋人に向かって…目を覚まして
くれと! そう訴えるように唇を喘がせて、抵抗し続けていく。
「御堂…いい加減、観念したらどうだ…? お前が<オレ>にした事を思えば
これくらいの報復は当然とくらい…考えないのか…?」
「そ、れは…!」
心からの憤りを込めて、その瞳を覗き込みながら…告げていけば、相手も良心の
呵責でも感じたのだろう。
抵抗が弱まり、今度こそ眼鏡の方のペースになっていく。
その隙に相手の上等そうなスーツズボンを下着ごと引きずり下ろして…たっぷりと蕾の
周辺に潤滑剤を塗りつけていってやる。
スーツのジッパーから引きずり出した己の剛直の先端にも…同じように塗りつけて
いってやると、グイっと其処に押し当てていった。
「あんたを…犯してやるよ…」
それで俺に、屈服すれば良い。
眼鏡はそう考えて…腰を一気に進めようとした。
瞬間、とんでもない衝撃が…全身に走り抜けていった。
―止めろぉぉぉぉぉ!!
この数日間、大人しく自分の中で眠り続けていた筈のもう一人の自分の雄叫びが
脳裏に響き渡った。
―その人に、それ以上…こんな真似をしたら、許さないっ!
それは…本気の憎しみの篭った言葉と叫びだった。
―誰にも、渡さないっ! この人は…オレにとって本当に大事な人だからっ!
お前にも、他の誰にも…これ以上は指一本も触らせたくないっ!
それは…あまりに強い感情と、決意だった。
今まで克哉は誰かを憎んだり、本気で衝突したりする事を好まなかった。
否…それを否定したからこそ、彼の意識は形成されたようなものだった。
だが…今の彼は本気で…御堂にこのような仕打ちをした眼鏡を憎み、憤っていた。
それが…銀縁眼鏡の力によって齎されていた…眼鏡の意識の優位を奪い…
再び肉体の所有権を取り戻していく。
『お前はっ…!』
眼鏡の意識が…克哉の手によって、再び暗い場所へと引きずりこまれていく。
そして…克哉は、身体の自由を取り戻して…自分の目元に掛けられた眼鏡を
勢い良く床に放り出していった。
「御堂…さ、ん…」
その瞬間、御堂は見た。
一瞬で…彼らの意識が切り替わり、変貌する様を。
先程まで別人のように冷たく…憎しみを込めて自分を組み敷いていた男が
瞬く間に…自分の良く知る、穏やかで…腰の引けた『いつもの克哉』に戻っていく様を―
「…本当に、ごめんなさい…」
瞳から、涙を零しながら…悲痛そうな表情を浮かべて…克哉は御堂に抱きついていく。
さっきまで御堂を貫こうとしていた性器はすでに力を失い…思いっきり萎えていた。
突然の事に、御堂の方も頭が回っていかない。
力なく胸を上下させ…混乱のままに…相手に抱きしめられる以上の事が出来なく
なっていた。
ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…!
克哉は壊れた機械のように、ただ御堂に対して謝罪の言葉を紡ぐ事しか出来ない。
御堂のスーツの肩口に、彼の涙が染み渡っていく。
ただ…今の御堂に出来た事は、戸惑いながら…呆然としながらも、必死に自分に
懇願して謝り続ける…自分の良く知っている『克哉』を…抱きしめ返してやる事
ぐらいだった―
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。