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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
                  10   
                    
11   12   13

―さて、これから物語は最終局面に入っていきます。
 ですがその前に、ちょっと私の雑談に付き合って頂きましょうか。
 これは私の独白のようなものです。
 どうして…こんな気まぐれを、太一さんの父に見せたのかその理由の
ようなものです。

 太一さんの父は、表では喫茶店のマスターをやっていましたが…
裏の世界ではそれなりに名の知られた殺し屋でもありました。
 ご自分の義父や、妻の敵になる存在を人知れず排除してきた
そういう経歴を持つ方です。
 だから…彼には自分の身内の敵や、害になる存在を殺して消すという
思考パターンが知らず染み付いてしまったんです。

 どうして人殺しがタブーなのか、ご存じですか?
 どうして殺人を犯した者がどの国でも厳しく裁かれるようになったのか
その理由は意外と知られていません。
 それは…一度障害を取り除く為の手段に「殺人」を用いてしまった人間は
壁にぶち当たる度に、その解決法に殺人を選んでしまう可能性が極めて
高くなるからです。
 おかしなものですよね。
 戦争という状況下では、むしろその殺人を犯してはならないという制御を
外した人間こそ英雄と言われる訳ですが…日常を、平和な暮らしを望む時には
同族や、周りの人間を殺してしまう可能性のある人間は忌避される。
 太一さんの父親は裏の世界に浸りきっている間に、知らず…自分の家族の
為なら殺人を辞さない存在になっていたんです。

―だから当初は佐伯克哉さんを手に掛けても、この方は何の心の痛みも
罪の意識も覚えなかった

 この世界において、私のもっともお気に入りの存在を殺しても何も感じずに
その他大勢と一緒に扱われる。
 何となくそれが私には気に入らなかったから。
 だから…この人の抱えている謎を解いて差し上げる代償に、せめて心の痛みを
覚えて頂くことにしたんですよ。

 どうして人は人を殺せるかご存じですか?
 殺すにはいくつかの理由がありますが、一つはその対象に異常な執着を
覚えて独占したがること。
 一つは憎悪や憤怒を覚えて、殺人を犯してはならないという制御を振り切って
しまうこと。
 そして三つめは…その対象から完全に関心を失くして、家畜や何かを殺すように
無感情に殺すことです。
 その場合、殺される対象に一切感情移入をせずに無機質に処分します。

 三つ目の場合…殺す相手がどんな風に考えているのか、何を思っていたのか
そんなことを知るのは却って邪魔になります。
 相手を理解すれば、心の痛みが増すだけですから。
 心底憎いだけの存在である事、相手が悪人で救いようのない人間だったと
確信を深めるならともかく…相手の優しさや、善なる部分を見出してしまったら…
罪悪感が湧くだけですからね。
 だから私は…せめて、心の痛みだけでも覚えて頂くことにしました。
 それがささやかな意趣返しであると共に…私なりの、気遣いでもあります。

 だって真実を知らないままでいたら…太一さんの父親は、その謎に少しずつ
押しつぶされて心が病むかも知れないでしょう?
 そうなったら息子である太一さんは苦しんだり悲しんだりします。
 克哉さんは最後に、太一さんの幸福だけを祈りました。
 私はそれを知っている。

―だから一度だけ気まぐれですが、こうして手を差し伸べた訳です。
 この世界においての…両方の佐伯克哉さんが望んだたった一つの最後の
願を叶える為にね…
  これは私の他愛無い独白のようなものです。
 さて、最後の幕をそろそろ開くと致しましょう。
 佐伯克哉さんと、五十嵐太一さんの二人の物語の終焉を…ね。 

                          *

 そして、太一の父親はゆっくりとあの日の佐伯克哉の意識へと同調していった。
 シンクロした瞬間に真っ先に飛び込んできたのは…目の前に立っている
あの日の自分の酷薄な眼差しだった。
 何の感情もなく、冷たい目でこちらを見ているのに気づいて…改めて
思い知らされていく。

―今までこうやって自分が手に掛けた人間が、それ以前にどんな人生を
辿っていたのか、何を思い考えているのかなど興味を持とうとしなかった

 だが、太一と彼のやりとりを追っている内に…どんな形であれ太一が
この男に執着をしている事を知れば知るだけ、この時に犯した己の所業を
心底後悔するようになった。
 だが、すでに殺してしまった事実は変えられない。
 こうしてあの日の光景を改めて見れたとしても過去に干渉して起こった
出来事まで変えられる訳ではない。

(…俺は、俺のした出来事を受け入れるしかないんだな…。本当の事を
太一に知られたら憎まれても仕方ない事をしたのだと、な…)

 そうして、男は観念していく。
 ゆっくりと意識は溶けていき…佐伯克哉の深層意識へと堕ちていく。
 深い海の底に潜っていくような、そんな奇妙な感覚だった。
 そもそも他者の意識の中に入り込んで、其処で起こった出来事を見るなど
普通なら到底不可能な行為である。
 だが、男は憎い筈の存在に…同調し、克哉の視点でその光景を見ることになる。
 太一の父は、傍観者としてただその光景を静かに眺める形になっていた。

―気分はどうですか? 佐伯克哉さん…

―最悪だな。身体は痛いし、全身が物凄くだるい…。今度ばかりは流石に
助からないのか…?

―えぇ、貴方は先程…車に跳ねられて、重傷を負いました。雪で路面も
滑っていましたし…かなりのスピードが出た状態での衝突でしたから。
今から救急車を手配しても、助かる見込みは薄いですし…生き延びたとしても
身体に大きな後遺症が残るでしょう…

―ちっ、やはりな…。さっき、衝突した時にそんな気はしていた…。
なら、これで俺は助からないという訳か…。その割には今はさっきほど
痛みは感じられないのだが…

 克哉は不思議そうに透明になった己の身体を見つめていく。
 この状態はあれか、映画や漫画で良くある意識体だけで存在
している感じなのだろうか。
 さっきまで感じていた激痛は存在せず、フワフワと自分の身体が頼りない
もののようになった気分だった。
 それこそ風でも吹いたら吹き飛ばされてしまいそうなぐらいにあやふやな
ものに成り果てたようだった。

―えぇ、今の貴方は魂が肉体から切り離されようとしていますからね…。
だから身体が感じている痛みも遠いものになっています…。
このまま何もしなければ…ただ、息絶えるのみでしょう…?

―それで最後にこうやって会う奴が、お前になる訳か…。お前は黒い
衣装を常に纏っているし…さながら、俺にとっての死神になる訳か…?

―心外ですね。私は貴方に救いの手を差し伸べに来たというのに…。
貴方はこのままでは確実に死にます…。ですが、貴方が生きる事を望むと
いうのなら…私の力で持って生存させる事は可能です。
 ですが貴方の身体には重篤な後遺症が残ることは避けられませんし…
貴方がそれに同意しなければ無理ですから…。
 一つだけ、私は貴方の願いを叶えて差し上げます。貴方のその願いが
生き延びる事ならば…助けることも可能ですが、どうなさいますか…?

―ほう、一つだけ…お前が望みを叶えてくれるというのか…?

 Rからの申し出を聞いて、眼鏡を掛けた佐伯克哉は心底意外そうに
呟いていった。
 まさかこの男がそんな温情をこちらに与えてくれるなど予想もして
いなかったからだ…。

―えぇ、ここでの貴方は私が望む者には進化してくださいませんでしたが…
それでもそれなりに私の退屈を紛らわせてくれましたからね。だから一つだけ…
餞別として、そちらの最後の願いを叶えるとしましょう…。さあ、貴方は何を
願いますか…?

―本当に、一つだけ願いを叶えてくれるのか…?

―はい、そうです。その代わり叶えられる願いは…一つだけです。
そしてそれは貴方が強く望んでいるものでなければなりません…。
貴方が強くそれを求める気持ちがなければ、実現することは不可能ですから…。
さあ、もう貴方に残された時間は多くはありません。…そろそろ、決断を
なさって下さい…

 こうして心の世界でやりとりしていると実感しづらいが、眼鏡の身体は
少しずつ輪郭を失くしていた。
 魂が肉体から切り離されて、命の灯が消えようとしている…その事実が
如実に現れ始めていた。
 ゆっくりと、命に翳りが見え始めていくのが自分でも良く判った。
 本当に…自分は助からないのだと、死が間近に訪れているのだと…
嫌でも実感させられていく。

(もう…俺は、死ぬのか…)

 そう実感した瞬間、一つの願いが浮かんでいく。
 現実を生きている間は目を逸らしていた事実。
 見ないようにしていた…己の、本心が浮かんでくるのを実感した。

(俺が、このまま死んだら…お前は、どうするんだ…?)

 脳裏に浮かぶのは、太一の顔ばかりだった。
 一緒にいた間…彼はいつだって苦しそうな顔ばかりしていた。
 悲しげな、泣きそうなそんな顔しか見れないでいた。
 けれど…太一の事を考えた瞬間、もう一人の自分の意識と同調
していくのが判った。
 その瞬間に浮かび上がったのは太陽のように明るい、眩しいまでの
太一の笑顔だけが浮かんでいく。

(嗚呼、そうか…俺は…いや、俺も…お前を、好き…だったんだな…)

 滑稽、だった。
 最後になってようやくその事に気づくなんて。
 けれど相手が、弱い方の自分ばかりを求めて自分を否定ばかりする事で
頑なになってしまっていた。
 意地を張り、相手を傷つけるような行為しか出来なかった。
 本心から目を逸らして…太一を痛めつけるような言動しか口を突いて
出てこなかったのだ。

(…あいつばかりを求めているお前が、腹立たしかった。『俺』を見ようとしない
お前に苛立ってばかりいた…。なのに…もう、終わりだという段階になって
今更気づくなど…道化以外の何物でもないな…)

 もう自分という存在が消えるという段階になって、やっと本心に気づいた。
 けれど…命は助かったとしても、自分の身体には後遺症が残ると
Rははっきりと告げていた。
 助けることまでは出来ても、其処までは回避出来ないのだと。
 なら…自分が生き延びたとしても、もしそれが誰かの助けなしに生きられない
状況であるのなら…下手をすれば、太一に大きな負担を強いてしまうことになる。
 もしくは自分の家族に、経済的なものや介護の負担を掛けてしまう
形になるかも知れない。
 後遺症が残る、と告げられた時点で…男は、自分が生き延びる事に対して
激しい抵抗を覚えていた。
 太一に伝えたい気持ちがあった。
 あいつの本当の願いを、叶えてやりたかった。
 生き延びたとしても…誰かに負担や負担を掛けなければならないとするならば、
自分が最後に願うことは…。

(俺がこれから死ぬというのなら…せめて、お前の願いを叶えてやるよ…)

 眼鏡は、そうして…己が生き延びるよりも…最後の最後で、相手の事だけを
思い遣っていく。
 意地も何もかもを捨てて、その心の奥底に存在していたもの。
 相手がこちらを愛していなくても構わなかった。
 それでも、たった一つだけ願うことはただ一つだけ…。

―俺の、最後の願いは…

 そうして彼は、意識が途切れそうになる間際に…黒衣の男にその
願いを告げていく。
 それは無償の愛に近い想いと、行動に近かった。
 自己を捨て去り…ただ、相手を思い遣る域に達していなければ出来ない
事でもあった。

―それが、最後に貴方が望まれることなのですね…。非常に残念ですが、
判りました。その最後の願いを叶えましょう…

 そう、Rの了承する声を遠くに聞いていきながら…眼鏡を掛けた
佐伯克哉の意識は、闇の中に静かに溶けていったのだった―
  
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 とりあえず二日ぐらい掛けて、ようやくパソコンの引っ越しが
完了しました。
 半年ぐらい前に、原稿やっている時にXPの子が調子がおかしく
なったので七万ぐらいで新しい子を購入していたんですが。
 自力で色々弄ったら復活したので結局半年近く新しいのが
お蔵入りする結果となっておりました。

 そうしたら11月にニンテンドウDSi LLを送られてネットを少し
やるようになった母が…パソコンでネットやりたいと言い出しまして。
 それで一台パソコン余っているんだから私が新しい子を使うことにして
古い方を譲ろう、と。
 そういう流れになり…パソコンを譲ることになったんですが。

 イベントの前にやる事になったのには少々後悔しております(T△T)

 まあ言い出したのが二月の終わりで、フっと思いついた時にそう
切り出してしまったので自業自得とも言えるんですが。
 それでこの二日間、データーの移行だのソフトのインストールだのに
時間取られまくっていました。
 現時点で半分ぐらい終了です。日曜日までには原稿が滞りなく
出来る段階まで持っていきたい。がお…。

 そして今回、数か月前にちょっとポカをやっていた事が判明して
昨日の朝は泣いておりました。
 ん~とね、新しいパソコンに…古いパソコンについていたOffice Personalの
プロダクトキーを入れてしまい…そっちの方はライセンスの上限を超してしまって
いたので、インターネット経由じゃライセンス登録出来ないっつー事態に
陥りまして。
 
 文章メインでやっている奴がワード使えないって致命傷だろ!!

 
と慌てて昨日の朝七時台にサポートに電話させて頂きました。
 こんな朝早くに果たしてやっているのか? と思い半信半疑で電話を掛けたら
どうにか通じたのでそれで係りの方に連絡してどうにかライセンス認証が出来た
んですが…ボケやるにも程があるだろ、とツッコミ入れたいです。
 朝早くからサポートやっていてくれてありがとうマイクロソフト。
 働き者のあなたたちのおかげでこの日、私は非常に助かったよ。
 …けど二つとも同じパッケージしていたらどっちが新しいか、古いか何て
判らなくなりますよ・・・。よよよ…。

 とりあえずこれで一応、新しいパソコンも作業出来る環境が整いつつあるので
ボチボチ、サイト運営と一緒に並行して原稿やっていきます。
 そして個人的に一番面倒くさいのは、ブックマークしていたお気に入りの
再登録作業。
 100以上あるので、しかも単調な作業なのでめんどい…ですが、今回は
いつもみたくパソコンが壊れてからのお引越しじゃないので、こういった物が
ちゃんと残っている段階でやれているのはある意味、幸運かもしれないと
考えを切り替えてやっていますがね。。
 40個ぐらいやった段階でかなりうんざりしています。
 残り70前後も、暇見てやります。エイエイオ~!

 以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
                  10    11   12

―そして二人の決別する場面を見届けた瞬間、太一の父親の
意識は唐突に現実の…赤い天幕で覆われた部屋へと
引き戻されていく

 突然の場面展開は、この夜の間に何度も繰り返されてきたので
最初の時程の衝撃はなかったが、やはり…慣れるものでもなかった。
 フワフワと夢の中を未だに彷徨っているようなあやふやさを覚えながら
自分の傍らに立っている長い金髪と漆黒の衣装を纏う妖しい男性の
方へと向き直っていく。

『…これが眼鏡を掛けた方の佐伯克哉さんと、五十嵐太一さんの
決別した日の出来事です。この日を境に…佐伯克哉さんは
完全に姿を消しました。その事は貴方も良く知っているんでしょう…?』

「っ…!」

 その言葉に男は肩を震わせていく。
 彼は…この後に何が起こったのかを知っていた。
 最後に雪、という言葉が彼らのやりとりの中に存在していた事から…
直前に見た出来事が、『あの日』に繋がることに気づいていた。

『…ふふっ、ご自分がした事から逃げられませんよ。人というのは
深い業を背負っている。我が子の為ならば…人は鬼にも悪魔にも
なれます。この日に…貴方は決行したんですよね…?』

「な、何でお前がそれを…!」

 決行、という単語が出た瞬間に男の顔は蒼白なって大きく
肩を震わせていった。
 そして黒衣の男は…何もかもを見透かしたような顔を浮かべながら
唄うように言葉を紡いでいく。

『ええ、私は退屈という病魔に常に犯されている存在。そしてその苦痛を
和らげる何よりの妙薬が…佐伯克哉という人だったんです。ですから…
貴方にこのように太一さんとの間に起こった事の断片を伝えられるように…
あの人に起こった事ならば大概の事は知っていますよ…貴方が犯した
罪の事もね…』

「…知ってて、俺にそんな気まぐれを見せたというのか…?」

『はい、その通りですよ…。だから貴方は、佐伯克哉が失踪…いや
この世から姿を消した後にご自分の息子が立ち直った事に深い疑問を
覚えざるを得なかった。あの時の貴方は…太一さんを眼鏡を掛けた方の
克哉さんから解放する為なら、手を汚すことも辞さなかった。
だから、貴方は…」

「もう、言うな…! 嫌って程…俺がした事が間違っていることなど
思い知らされた! 太一が其処まで…あの弱々しい感じの奴を愛していたことも
それでも離れようとしなかったのも、今なら…あいつの心の中を垣間見た今なら
理解出来るから、心底後悔しているのに! それ以上こっちの心を抉るんじゃねぇ!」

 男にとって、たった一瞬でも眼鏡を掛けた方が…憎かったはずの男が
太一に情らしきものを見せた事で、大きく揺さぶられてしまっていた。
 憎いだけ存在であったなら、彼は決してこんな風に…あの日の事を
悔いることはしなかっただろう。
 だが、最後の最後に見せた相手の表情に太一が揺さぶられたように…
あの切ない顔が、男の中にとっくの昔に捨て去った筈の良心を大きく
刺激して、果てしない痛みへと変わっていく。
 太一の意識に同調する形で、軌跡を辿っていったから…だからこそ
男は耐えられなかった。
 あの日の直前に、これが起こった事だというのならば…自分がした事は
太一をどん底に叩き落すだけだったのだと思い知らされる。

―佐伯克哉の失踪

 太一は、再び克哉に会える日を夢見ている。
 それが…今の彼を立ちなおさせて、前向きにさせている事だと男は
理解している。
 けれど、そんな息子にどうして言うことが出来るだろうか。

―彼が愛して止まない存在は、太一の父であるこの男性が指示を
出したことによって、この日に命を落としているなどという事実を…!

 そして、五十嵐組の人間の手によって、佐伯克哉の遺体は完全に
闇に葬り去られている。
 闇から闇に消え、彼という存在が二度と太一の前に現れることがないように
その痕跡すら消すように手を下した。
 それをやったのは…紛れもない、この二人に起こった出来事を
夢という形で見て共有した…この太一の父親だったのだ。

「けど、どうして…何が起こったんだ? あいつは…俺が、その
数時間後には…息絶えている筈なのに。どうやって…太一に
アレが手渡されたんだ? 今もあいつを支えている物が…どうして…?」

 そう、それこそが最大の謎だった。
 太一が今も大切に持っているあの品が、この決別の日から…太一の父が
手を下すまでの十時間にも満たない間に渡されて、息子に希望を灯したのか。
 あの日の事は良く覚えている。
 眼鏡が太一の部屋を出た時から、五十嵐組の人間がずっと仔細にマークして
動向を追っていた。
 だから報告を受けて、この男性はあの日の佐伯克哉の足取りは
完全に把握している。
 そしてその報告の中には…。

―太一と接触したという報告は何一つ存在していない筈だったのだ…!

 真っ白い雪が覆い、都会の町が銀世界に変わった日。
 佐伯克哉は真っ赤な血を出して…周囲を真紅に染めながら息絶えた筈だった。
 それを見届けたのは自分。
 そして彼が完全に息絶えた事も確認した筈だった。
 だからこそ彼は…あれから一年以上も経過しているのにその謎に
心をさいなまれて、消えない罪によって悩み続けていた。
 恐らくその謎がなければ、さっさとあんな憎いだけの男の事など忘れて
いる筈だった。
 そしてそれこそが…今夜、この胡散臭い男性の誘いを受けた
最大の動機に繋がっていたのだ…!

『さあ、これから…貴方が知りたかった謎を解く為の場面へと
繋がります…。私は敢えて、今は貴方を断罪しません。
これからお見せするのは…インナースペースの出来事。
現実の人間には知りようもない…私とあの方だけが知っている
やりとりをお見せしましょう…。貴方が冷たく、息絶えようとしている
克哉さんを見ている時…彼の心の中で何が起こっていたのか、
そして彼が何をしたのか…其処に全ての答えが存在しています。
さあ、どうぞご覧下さい…!』

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 
耐え切れずに太一の父は獣の咆哮のような叫び声を挙げた。
 忘れかけていた心の痛みが、罪悪感というものが呼び覚まされて
耐え難い苦痛を男に与えていく。
 だが、それを承知の上で真実を追い求めたのも紛れもなく彼自身だった。
 だから、己の罪を見据える覚悟を持って…彼は真相へと突き進んでいく。

 そして、知りたかった真実の扉はゆっくりと彼の前に開かれていき…
男の意識は再び、闇の中へと沈んでいったのだった―

 
以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
                  10    11



 ―太一の目の前に一瞬だけ儚い笑顔が浮かび、消えていく

 言葉を失いながら…青年は憎いはずの男の顔を見つめていく。
 愛情のカケラもない蹂躙するだけのセックスが終わり、決別の時が
訪れた時に…そんな顔を見るなんて反則以外の何物でもなかった。

(今の、顔…克哉さん、だよな…どうして、今…何だよ! こいつが
俺の目の前から消える直前に…何で!)

 それでも一瞬だけでも、あの人の声を聞けた。
 その顔を垣間見ることが出来たことで…太一の目に涙が
浮かんでいく。

(克哉さん…克哉さん…克哉さん…!)

 今のキスは、きっと自分が求めている方の克哉からのものだと
確信した瞬間…滂沱のように涙が溢れていく。
 涙腺が壊れてしまったかのように、太一は泣き続けた。
 そして確かに…それは、もう一人の克哉からのメッセージであり、
想いでもあった。
 たった一瞬だけでも、会えたならば…。
 あの人からこうして口付けを与えられたならば…この長い年月、
この男に蹂躙され続けても、何でも傍にいた甲斐があった。
 そう思おうとした。だが…次に相手の顔を見たその時には…
いつもの眼鏡を掛けた方の克哉が存在していた。

―たったそれだけの事に、太一は再び打ちのめされていく

 何も、言えなかった。
 あの人から言葉を貰えたなら、自分も届けたかったのに…その暇すら
与えられず、束の間の逢瀬は終わりを迎えた。
 お互いの間に重苦しい、沈黙の時間が流れていく。
 一瞬だけ見えた優しい瞳は、今は見る影もない。
 たった一言で良い。この気持ちを…想いをあの人に伝えたかった。
 その一瞬の為に、憎い男の傍に居続けた。
 けれど相手からボールは渡されたけれど、こちらから返すことが
出来ないようなものだった。
 一方通行のキャッチボール。それでは、太一の心を満たすには
充分ではなかったのだ。

「ど、う…し、て…」

 太一が呟いた言葉は精彩もなく、掠れたものだった。

「一言で、良いのに…あの人に、俺…伝えたかったのに…」

「………」

 冷たい目で眼鏡が睨みつけてくる。
 それでも壊れたスピーカーのように、途切れ途切れに言葉を続けていく。

「…一言で、良いから…あの、人に…好き、だって…ちゃんと…言いたかった。
そうしなきゃ…俺は、この…気持ちに決着を、つけられない…。いつまでも
燻って…克哉さんに、囚われ続ける。そうしなきゃ…諦めることすら、
出来ないんだよ…!」

 涙が、ポロポロと溢れていく。
 それはこの男の傍にいる間…ずっと心の奥底に秘められていた
克哉への強く熱い想い。
 決してこの男に知られたくなかった。意地を張って隠していた本音。
 けれど…あの人の面影を一瞬でも見てしまったら、押し殺すことすら
出来なくなって…零れ続けていく。

「…それで、お前は俺を引きとめたつもりか…?」

「…別にお前になんて言ってない…! ただの独り言みたいなもんだって!」

「…なら、お前は俺が目の前にいても…最後まで素通りして、俺自身を
見ないまま…終わりにするというんだな…?」

「へっ…?」

 その瞬間、太一は言葉を失った。
 相手の顔に浮かんでいる切なげな…今にも泣きそうな顔に、完全に
面食らってしまったからだ。
 一年以上一緒にいたが、こんな顔を見たのは初めてでアッケに取られていく。
 だが…すぐにいつもの冷徹な表情に戻って、己の銀縁眼鏡を押し上げる
仕草をしていった。

「…俺も独り言を言っただけだ。さっさと忘れろ…。今日は、雪が降ると言う。
せいぜい…身体を冷やさないように気をつけろ…」

「えっ…?」

 それは、今まで太一が聞いたことがない類の発言だった。
 こちらを気遣う言葉などこの男から一度だって聞いたことはなかった。
 なのに…もう、これで最後だというのに…その間際にこんな情を見せるなど
卑怯ではないだろうか。
 太一だって、心のどこかで愛している人間と同じ顔をしている存在から
少しぐらい優しくされたいという想いを抱いていた。
 なのに、どうしてそれを見せるのが今なのか…本気で文句を言って
やりたかった。

「じゃあな…」

「…待て、よ…!」

 男が身支度を整えて、この部屋を出て行こうとする間際…太一は
ベッドから起き上がり、相手にそう呼びかけていく。
 だが…相手は振り返ることも、足を止めることもなかった。

「…これ以上、お前に振り回されるのは御免だ…。俺は俺の好きなように
生きる。だからお前も…もう一人の『オレ』に縛られずに生きろ…」

「待てよ! 待てったら!! 克哉! 待てよ!」

 初めて、相手を「克哉」と認めて呼びかけていく。
 だがそれでも男は振り返らず…部屋を出ていった。
 追いかけたかった。だが身体が軋んで、思うように動かなかったので
それは叶わなかった。
 部屋のカーペットに這いずり回る格好になって相手を追いかけたが、
結局、間に合わず…太一はその場に崩れていく。

「ちく、しょう…! 何で、最後に…あんな…!」

 そう呟きながら、太一はむせび泣いていく。
 そしてそれと同じ頃…外には、白い雪がゆっくりと降り始めようと
していたのだった―

 
  以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
                  10

―自分の息子が愛情のカケラもなく一方的に陵辱されている光景に
父親は耐えられなかった

 夢、という形で息子に起こった事を疑似体験している最中…二人が
決別する場面を見て、男は耐えられなさそうに何度も歯軋りと
爪が手のひらに食い込むぐらいに激しく拳を握っている。
 そのせいで夢は一旦途切れて、男の目は虚ろに開いていく。

『…やはり、ご子息が犯されている場面の全てを見るのは精神的に
辛そうですね。やはり…此処はある程度、端折った方が良さそうですね…』

「あ、たり前だ…息子のこんな場面を見たいと思う親がいる訳、が…
ねえだろうが…!」

 弱々しい口調ながらも、激しい憤怒を顔に浮かべて男は
訴えていく。
 それを聞いて…Mr.Rは考え込んでいた。

『…ですが、この場面は佳境なのです。此処を見なければ救いの道に繋がる
もっとも重要な場面を見落とすことになります。…真実というのは知るのは
得てして辛いものです。…汚かったり辛い現実を直視する勇気がなければ…
痛みを必ず伴うものです…。貴方のその苦しみは、真相を知る為には
欠かせないもの…。別のカケラに差し替えることは可能ですが…それで
本当に宜しいですか…?』

 口調こそ相手を叱咤激励して励ましているように見えるが…ぼんやりした
視界の中で、太一の父ははっきりと見た。
 黒衣の男の口元に、こちらを嘲るような笑みが浮かんでいたことを。
 その表情を見た瞬間…男は腸が煮えくり返るような怒りが湧き上がって
くるのを感じていった。

「…チクショウ、見届けてやろうじゃねえか…! 太一が、俺の息子が
この後に救われるのを知っている…! なら、こんなクソみたいな場面でも
しっかりと見てやるさ…!」

『…判りました。なら、続きをお見せしましょう…。けれど、貴方の負担を少し
和らげる為に必要な場所だけにしておきますね…』

 男がにっこりと微笑んでいるのを見て、今の表情が挑発であった事に
ハっと気づいた。
 だが…その事で反論しようとしても、すでに脳裏に白いモヤが掛かった
ようになって…まともに舌も回らなくなっていく。

―男のいう通り、真実を知る事は時に激しい痛みを伴うことになる

 全てのものから背を背けて逃げれば確かに楽だろう。
 だが、そうやって逃げている限り、知りたいことは決して得られない。
 単純だがそれは真理でもあった。

(…太一、お前に起こった事を…俺は、見届けてやる…。お前がドブネズミのような
目をして腐っていた時に…何にもしてやれなかった分、せめてお前がどんな道を
辿ったのか…理解したいんだ…)

 それは親のエゴとも、愛情とも言い換えられる想い。
 その熱い気持ちを胸に抱いていきながら…太一の父親である喫茶店のマスターは
再び男の紡ぐ夢の中に堕ちていったのだった―

                      * 

 もうじき夜が明けようとする深夜の時間帯。
 苦痛なだけの行為を続けられている内に…窓の外は白く染まり始めていた。
 突き刺すような寒さと、行為によって望んでもいない熱が身体の奥に
生まれていくのを感じていた。
 太一は余裕なく何度目の絶頂になるか判らなくなりながら…一方的に
上り詰められていく。
 服を着ながら、ただ顔を見ることも甘い口付けを交わすこともなく…
好き放題に犯されるだけのセックス。
 ただ、相手の欲望と鬱憤を発散するだけの行為に嫌悪しながら…
今夜もいつものように一方的に蹂躙されていく。
 
「はっ…あっ…! くっ…!」

 激しく喘ぎながら、太一は上り詰めていった。
 それとほぼ同時に…相手の熱い精を身体の奥に感じて、嫌悪を
覚えていった。
 
(克哉さんと、同じ顔をしているのに…どうして、こんなに違うんだ…)

 そう感じていきながら、相手の精を受け止めて…ガクリ、と膝をついて
その場に崩れていった。
 これが最後の行為になるのだと…すでに判っていた。
 自分達の間にやはり何もなく、愛情のカケラも存在しないのだと改めて
思い知らされて…虚しいものが心の中に広がっていく。

「克哉、さん…」

 それでも太一が呼び続けるのは…もう一人の克哉の方だった。
 決して今、自分を背後から抱いている男の方を彼が求めることはない。

「…お前はそれでも、あいつの方ばかり…求めるんだな…」

「っ…?」

 だが、その瞬間…眼鏡の口から漏れたのは…いつもと響きが
異なる一言だった。
 この男から、こんなに悲しそうな声を聞いた事なんてなかった。
 その事に違和感を覚えた瞬間…顎を強い力で掴まれて、強引に
後ろを向かされていく。
 アッと思った時にはすでに遅かった。
 相手から深く舌を差し入れられて…今度は口腔が犯されていく。
 
(てめえと、キスなんてしたくねぇよ…!)

 心の中で強い反発を覚えていきながら、身体に力がまったく入らない
状態なので…早く終われと念じていきながらそれを受け止めていく。
 だが、何かがいつもと違った。
 男はたまにこちらにキスしてくることがあったがそれはいつもこちらを
屈服させるだけのものだった。
 だが…初めて、何かそれ以外のものを感じさせる口付けをされて
太一は…軽く混乱していく。

(いつもと、何か…違う…?)

 優しさのようなものを感じて、混乱しかけていくと…。

「さよなら…太一…」

「っ…!」

 一瞬だけ、憎い筈の男の表情に…愛しい人と同じ儚い微笑を見て、
太一は言葉を失っていったのだった―

                        
 こんにちは香坂です。
 えっと…うん、6日は帰宅早々力尽きてそのままソファで
21時前には力尽きて、そのまま12時間程眠りこけていたので
アップできませんでした。

 …んで、7日も表紙絵の下書きとか新刊の原稿をボチボチ
やっていたらあっという間に終わりましたね。
 何せ現在、体力的にきつい作業を仕事でやっているのでちょっと
執筆時間とかギリギリチョップ状態になっているので…余裕が
マジでありません。
 それでも幸い、休みが今月は比較的多いから休みの日に頑張れば
新刊は完成出来ると思います。
 ちょっと更新等が遅れがちになっててすみません。
 7日分として新刊の冒頭部分を掲載させて頂きます。
 今回の御克本はまあ…こんな感じです。
 生暖かい目で見守ってやって下さい。
 興味ある方だけ「つづきはこちら」でどうぞ~。
 タイトルは仮です。もっと良いタイトルが浮かび上がったら変更する
可能性あるので宜しくです(ペコリ)

 ※この記事は香坂の他愛無い呟きです。
 興味ない方はスルーしてやって下さい。
 目を通してやっても良い方だけ、「つづきはこちら」を
クリックしてやって下さい。
 以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの再編成になります。
(一部、必要と思われる部分を掲載している箇所があります)
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
                



―さあ、ここからは佳境に入りますよ…

 佐伯克哉と五十嵐太一との間に起こった出来事を、奇妙な男に
夢という形で見せられながら…太一の父はぼんやりと頷いていく。
 恐らくまだ夢は続いていく予感があったが、様々な場面を
見せられている内に…少しずつ彼の中で組み上がっていくものがあった。
 だがそれは半分程度、完成したジグソーパズルのようなもの。
 残り半分、肝心の部分を示した絵柄はまだ彼の前に現れていなかった。

―さあ、憎しみあっている二人が…これから火花を散らして決別する様を
ご覧になって下さい…。対岸の火事ならば、それもまた一種の見物でしょう…?

 黒衣の男の声は弾んでいて愉しそうだった。
 だが、それに不快感を示すことも反論することも特になく…身体の
力を抜いて、再び夢の世界に意識を集中していく。

(…この後、どうやって…お前は救われたんだ…太一…?)

 まだ、現時点では男の目にはどうやって救いが存在したのか
その道筋は見えて来ない。
 けれど少しずつ…その答えに近づいていると信じて…愉快そうに
笑うRの声を聞いていきながら…彼の意識は再び闇に落ちていく。

 浮かんでは沈み、沈んではまた浮かび上がって…現と夢の中を
繰り返し彷徨いながら…再び、二人の佐伯克哉と五十嵐太一の
物語は進行していく。

―次は彼らの、決別の場面だった―

                         *

 先程まで儚げに笑う方の…白の克哉の夢を続けて見たことで
幸せな気持ちで満たされていた。
 だが、目覚めて間もない頃に…玄関先に眼鏡を掛けた克哉が
立っている気配を感じて、太一はベッドの上で不快感を露にしていった。

(…せっかくさっきまで克哉さんの夢を見て幸せな気持ちになって
いたのにさ…何もかもがぶち壊しだ…何か嫌な感じ…)

 時計の針をチラっと眺めれば、午前四時を指していた。
 冬の寒い時期であるせいか…この時間帯はまだ真っ暗で、起きるに
しても寝るにしても中途半端だった。
 眼鏡を掛けた克哉が、部屋の中にズカズカと上がりこんでくる気配を
感じて…太一は起きるかどうか迷った。

(いいや…あいつを起きて出迎えてやる義理なんてないし…このまま
寝たふりをしていようっと…)

 太一は、この不毛な生活がまだ続くとどこかで信じていた。
 きっと眼鏡を掛けた克哉は…こちらが寝ているのなどお構いなしに
自分の隣に滑り込んで来て、何でもない顔で眠るのだろう。
 そうなった場合、下手に起きていたら変なチョッカイを掛けられかねない。
 だから寝た振りを決め込んだ訳だが…眼鏡は、太一の隣に横たわることはなく、
何やらゴソゴソと派手にやっているようだった。

(…? 何だ、あいつ…何をやっているんだ…?)


 疑問に思って太一が寝返りを打ちながら…相手の方を振り返っていくと
彼はぎょっとなった。
 大きなボストンバックに、眼鏡が色んな物を詰め込んでいる光景が
飛び込んで来たからだ。
 それは荷造りをしているように見えて、思わず太一は跳ね起きていった。

「ちょ…! あんた、何をしているんだよ…!」

「…起きたのか。チッ…そのまま寝ていれば良いものを…。見て判らないのか…?
荷造りをしているんだ…?」

「…どっか、出張にでも行くつもりなのかよ…」

「いいや、ここを出ていくんだ。もう帰るつもりはない」

「なっ…!」

 唐突に突きつけられた三行半に、太一は言葉を失っていく。
 無理やり抱かれた時も嫌悪感や苛立ちでいっぱいだったが、それでも普段と
大きく変わる処など見られなかった。
 なのに帰って来る早々に『出て行く』と突然言われて…太一は半ば
パニックになりかけた。

(…こんな奴、好きでも何でもないけど…こいつが出て行ったら、克哉さんとの
接点が何にもなくなっちまう…!)

 決して目の前の相手を必要とする事も、愛することもなく…ただ、求めている
方の克哉と出会うことだけを望んでこの男と暮らしていた。
 傍にさえいれば、必ず彼が求めている方の克哉に会えることを願って。
 なのに…この男が出ていったら、これまでの我慢は完全に無駄になってしまう。
 だから気づいたら太一は叫んでいた。

「ちょっと待てよ…! 何でいきなり、出て行くんだよ! 俺の事を好きにしまくって
一言も相談なしに突然出て行くなんて…訳判らないだろ!」

「…お前を嬲ったり蹂躙したり、屈服させるのも最初はそれなりに刺激的で
面白かったが…今は飽きた。それに…俺はもう、弱い方のオレに主導権を渡す
つもりはない。お前の望みを叶えてやる義理もない。…俺を見ようともしないお前の
傍にいる事にこれ以上意味などないだろう…? もう飽きたから出て行く。
それだけの話だ…」

「ふざけるんじゃねえよ! 俺はまだ諦めるつもりはない! 絶対に克哉さんに…
俺が求めている克哉さんにもう一度だけでも会いたいんだ! だからお前が出て行く
事なんて許さない! 人を舐めるのもいい加減にしろ…!」

 相手の言葉に激昂して、太一は相手の襟首を強く掴んでいく。
 お互いの吐息が掛かりそうなぐらいに近距離で見詰め合っても、両者との
間に甘い感情は一切ない。
 太一が本気の怒りの感情を宿して相手を食い入るように見つめていく。
 だが…眼鏡の表情は酷く冷めたものだった。

「………………」

 何の感情も宿していない冷たいアイスブルーの双眸は、ゾッとするぐらいに
澄み切っていた。
 太一はその目に怯みそうになるが…全力で睨みつけて己の怒りを伝えていく。

「俺はあんたが出て行くことなんて許さない! 俺はまだ諦めない!
克哉さんにもう一度会う…その日まで…絶対に…!」

「…お前のエゴに、いつまで俺を巻き込むつもりだ…?」

「…っ!」

 それは、静かな声だった。
 だからこそ逆に、一瞬…太一の心に冷や水を掛けるような効果があった。

「…いつまで俺は、『俺』を見ようとしないお前の傍で…虚しい日々を
送らないといけないんだ…?」

「…それ、は…」

 どうしてか、言葉が出なかった。
 きっといつものように…相手から憎まれ口か、意地悪な発言が飛び出してくれれば
太一は幾らでも反論することが出来ただろう。
 だが…その日に眼鏡は少しだけ違っているように見えた。
 表情に、何か脆いものが感じられた。

「…あいつばかりを求めるお前の傍に居続けて…俺に何のメリットがあるんだ…?
もう馬鹿馬鹿しいから…お前の傍になど、いたくない。いい加減…無駄な望みを
捨てて…俺を解放しろ。俺はもう、お前に飽きた。だからお前もさっさと…あいつを
諦めることだ…」

 それは眼鏡なりの最終通牒のようなものだった。
 だが太一は力いっぱい否定していく。

「絶対に嫌だ! 俺はあの人を…諦めたくない! もう一度だけでも良い…!
どうしても…会いたいんだ…!!」

 太一は泣きながら、眼鏡を掛けた太一に向かってただ一人への強烈な
想いを告げていく。
 彼の中で決して揺らがない想いを。
 たった一度だけでも奇跡が起こることを信じて。

―だが、その言葉が眼鏡を掛けた克哉の心に大きな亀裂を与えていく

 目の前にいながら…それなりに長い期間を共に過ごしていながら、
決して太一は、彼の方を求めなかった。見ようともしなかった。

「…いい加減に、しろ…!」

 その瞬間、冷め切っていた克哉の表情に激しい怒りの感情が垣間見えた。
 こんな茶番に付き合っていられるか、と心底思った瞬間…般若のような
恐ろしい顔を、男は浮かべていく。

「っ…!」

 その恐怖に、太一は言葉を失って後ずさっていく。
 だが…それを男は許さなかった。
 強引で容赦ない力で青年の身体を引き寄せていくと…そのまま荒々しく
ベッドの上に組み敷いていった。

「…気が変わった。最後に俺を本気で起こらせた責任を…お前自身に
取って貰う…。せいぜい悔やむことだな…」

「何を…悔やむっていうんだよ! うわっ! 止めろ!」

 太一は男の身体の下でジタバタともがいたが、体格の上では相手の方が
勝っている為に無駄な抵抗となった。
 そして衣類を引き剥がすような勢いで再び脱がされ始めていく。
 キスも愛撫もなく、ただ怒りを吐き出す為の排泄行為のようなセックスを
またされるのかと思って太一は嫌悪感を露にしたが、眼鏡はそんな青年を
冷ややかな目で見下ろして…強引に下肢の衣類を完全に剥いていく。

―あいつばかりを求めた罪を…

 そして、そう告げながら…眼鏡は慣らすことも一切せずに、強引に
太一を犯し始めていった―

 とりあえず今回の春コミの新刊の大まかな内容と
CPは決定しましたので軽く報告しておきます。
 今回の新刊のカップリングは…。

 御堂×克哉です!!!

 カットは克克で毎回描いているんだから、今回も
克克にしようかな~と直前まで迷ったんですが…
そういえばメインを克克、メガミド、御克、太克と謳っている癖に
御克だけいつも無料配布で…キチンと本を作っていなかったな~と
気づきましたので、今回は御克です。

 それと…今回のテーマは「メモ」です。
 筆談、と言ったら良いのかな。声を出させないで…メモを介して
焦らしプレイだの、恥ずかしい要求を伝えさせるというのが萌えと
思ったのが一つ。

 もう一個は、先月新刊用と意識してハンズのシール売り場に赴いた時に
星のキラキラしたシールを気に入って買ったので…そのシールを
新刊に使うなら、内容は明るいか…ラブラブにしたいと、その時点で
考えていたもので。
 
 サイトで暗かったりシリアスだったりする話は沢山書いている訳で。
 逆にそういう話は筋をしっかりさせて…P数を費やして書かないとアカンけど、
20~30P程度で本を作る場合は一話完結を意識して作らないと
いけないな~と最近、自分の本を読み直して感じておったので。
 今回はバカップルな内容でいきます。
 幸せな日々を送っているけど、ちょっと新婚時代の緊張感と興奮を求めて
新たな道を開拓する変態、もとい御堂さんと意地悪な旦那に翻弄されつつも
従順に従う年下のハニーこと克哉を主役にしますので宜しく!!!

 また表紙のラフとか仕上がったらこちらに掲載しますね。
 本日はこれにて失礼します。

  以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
              

 そしてこれは物語が佳境に入る直前の出来事。
 眠っている太一の元に、彼が戻ってくる六時間ほど前に
降りかかっていた体験の断片だった。
 
―おっと、この事を貴方に語り忘れていましたね…

 Rは唐突に、そう区切って…今度は、自分と眼鏡を掛けた
克哉との間に起こった事を太一の父に見せていく

―これもまた、真実を知る上での手がかりになることでしょう…
前座程度に、見ておいてください…

 そして、最後の幕が開く直前に…男はもう一つの断片を
そっと見せていったのだった―

                     *


―彼の身体は静かに、蝕まれていた

 当てもなく街を彷徨い歩いて、夜まで適当に時間を潰していたら
あっという間に一日は終わろうとしていた。
 本日は週末であるせいで、仕事もなく…時間を経過させるのに
逆に労力を使った気がした。
 池袋の街を歩いている最中、突然に猛烈な胃の痛みを感じて
彼は裏路地へと入っていく。

(俺は一体何をやっているんだろうな…)

 痛む部位を手で押さえていきながら…唐突に、そう思った。
 何もかもが退屈で、彼にとってはどうでも良いものになりつつあった。
 気晴らしに太一の実家の家業にも興味を示して、裏の世界の仕事にも
幾つか携わったが、それも今では飽きてどうでも良くなりつつある。
 何故、あれ程険悪な関係である太一と一緒に暮らしているのか。
 自分が生きていることにうんざりしていると気づいた瞬間、ふと…
その答えを得たような気がした。

―あいつに憎しみのこもった目で睨まれる度に、本気の殺意を感じる度に
一種のスリルと…生の実感を感じられたからだ

 太一の傍に、非日常があった。
 そして…彼が怨嗟とこちらを否定する言葉を吐く度に、屈服させる事が
一種の快感に繋がっていた。
 終わった後に虚しいと感じることがあっても。
 相手を服従して蹂躙することに喜びを感じる性質の克哉にとっては…
ほんの僅かな時間でも満たされるなら、それで構わなかった。
 だが…彼の奥底に眠るもう一つの心は、それで悲鳴を静かに
挙げ続けていた。
 そしてついに…それに耐え切れず、身体にも大きな影響を与え始めていた。

「…胃が、痛い…」

 確かに、今日は数え切れないぐらいの酒と煙草を摂取し続けた。
 どちらも胃には最悪であり、今までも時々痛むことがあった。
 だが、今の痛みは半端ではない。
 考えを巡らせている内に冷や汗すら滲んで…胃が焼けるような激痛が
襲ってくる。

「くっ…はっ…!」

 耐え切れず、裏路地の壁に手をついてどうにか己の身体を支えていきながら
彼は猛烈な痛みの波に耐えていった。

『身体が…限界を迎えつつありますね…』

 すると、突然…声が聞こえた。
 聞き覚えのある、人物のものだった。

「…貴様、か…」

『お久しぶりですね…佐伯克哉さん…』

 Mr.Rはこの日…一年ぶりくらいに、眼鏡を掛けた佐伯克哉の前に
静かに姿を現した。
 夜の闇に紛れて…その黒い衣装を溶け込ませていきながら…。

「何の、用だ…。今は貴様に構っている、暇は…ない…」

『おやおや…ご挨拶ですね。せっかくこちらが親切に貴方へ忠告を
与えに来たというのに…』

「忠告、だと…? お前が俺に…?」

『ええ、そうですよ…貴方の身体を案じたので…』

 そして男はどこまでも愉快そうに微笑んでいく。
 その笑みを見ていると、こちらがこうして痛みを堪えている姿すらこの男は
愉しんで観察しているようにしか感じられなかった。

「ほう…お前が、俺の身体を、心配するとはな…。それで、何を言いたいんだ…?」

 途切れ途切れでか細くなりつつあっても…相手に弱りきった姿を見せることに
抵抗を感じる眼鏡は…精一杯気丈に振る舞ってみせた。
 しかし相手は…そんな彼の虚勢すら打ち砕く言葉を唐突に告げていった。

『…このまま、もう一人の貴方に過剰にストレスを与える生活を与えていたら…
貴方の身体はガンに蝕まれますよ…』

「っ…!」

 その言葉を聞いて、眼鏡は言葉を失っていく。
 ガン、という言葉に強烈な死の匂いを感じたからだ。

「な、にを…世迷いごとを…」

『世迷い言ではありませんよ…。事実、その胃の痛みがその兆候です…。
知っていますか…? 人間の身体には毎日一定数のガン細胞が生まれて
いる事を。それを規則正しい生活や身体に良いものを摂取することである程度
打ち消すことが出来ます…。ですが、貴方が娯楽程度に感じている太一さんの
憎しみの言葉を…もう一人の克哉さんは耐えられなくなっている。
それが貴方の身体を静かに蝕み…ついに、胃に穴を開ける直前まで症状が
出てしまった。…このままの環境を続けていれば、積み重ねていけば…
貴方の身体に、大きなガンの芽が出来ることでしょう…。私は貴方に死んで
もらいたくないから…その忠告に来ました…』

「…成る程、警告に来た訳か…貴様は…」

『ええ、そうですよ…。貴方に死なれてはつまらないですからね…』

「…チッ、あいつという存在は…トコトン、邪魔だな…」

 忌々しそうに、眼鏡は舌打ちしていった。
 心底…己の中に未練がましく存在しているもう一人の自分について
苦く思っていた。
 もうこちらを押しのけて存在する力すら残っていないのに、完全に消える
事も出来ないで…己の中であがき続けている。
 それすらも一種の娯楽として彼は受け止めていたが…こうして己の身体に
影響まで与えたとなると、その存在を疎ましく思うだけだった。

―チッ…いつまでも消えないクセに…俺の身体に影響まで与えるとはな…。
うっとおしい奴だ…

 心の底から、微かな芽のように残っているかつての自分の心に苛立ちを
覚えた瞬間…黒衣の悪魔は、それを見逃さなかった。

『…どうやら、もう一人のご自分を…貴方の身体に大きな影響を与えて
蝕もうとしている事に腹を立てていらっしゃるようですね…』

「…当たり前だ…」

『…なら、貴方の身体がガンに蝕まれる前に…その原因を取り除いたら
どうでしょうか…?』

「…?」

 その言葉に疑問を持って黒衣の男を見つめた瞬間、Rはどこまでも愉しそうに
笑みをたたえていた。
 眼鏡はその表情に、一瞬戦慄すら覚えていった。

「…ほう、なら…どうすると…言うんだ…?」

『単純な話ですよ。…貴方の奥底に眠っているもう一人のご自分の心を
貴方の精神から切り離してしまえば良い。そうして貴方の身体を蝕んで
いる以上…その存在は最早、ガンのようなもの。そのまま残していることで
貴方の肉体をも滅ぼすならば…私が、貴方の中からその心だけを
そっと取り除いて延命させて差し上げますよ…どうなさいますか…?』

「…本当に、そんな事が出来るというのか…?」

 疑わしそうに眼鏡が見つめると…男はにこやかに笑いながら、当然の
事のように言ってのけた。

『ええ、私の力を持ってすれば…それくらいの事は簡単ですよ…。
さあ、どうなさいますか…佐伯克哉さん…』

 男が唄うようにそう告げていくと…眼鏡は、深く溜息を突いていった。
 そして…少し考えた後に、男の言葉に対しての答えを静かにその口に
上らせていったのだった―


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プロフィール
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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